side:平和編


バタン!!と乱暴に閉じられたドアの前で平次と和葉がまだ状況を把握出来ずにボンヤリとしていた。

文句無くこれが一番良い方法であるというのは頭では理解していた。
新一と蘭はすでに恋人同士であったし、双方から「そういう関係」であることも聞いて知っていた。
無理やり聞き出したわけではないが、なんとなくそういう雰囲気は見えるものである。
二人は問題ないのだ。
ただ・・・・平次と和葉は新一と蘭のように二人が離れ離れになるような特殊な状況が身に起きず、
今の今まで「ずーっと一緒にいた幼馴染」を続けて来たのだ。


「平次・・・。」

どこか心細そうな和葉の声にはっとした平次が彼女のほうへ振り向いた。

「あ、ああ・・・。心配すんなや、俺がリビングがどっかで寝るし・・・。」
「風引いてまうやん!!」
「毛布かぶってりゃ大丈夫やろ?」

主寝室に向かいベッドの布団の中から毛布を取り出そうとして・・・・取り出せなかった。

「なんで・・・・??」
「毛布には暑い時期やしなおしてもーたとか・・・??」
「ははは・・・んなアホな。ここって海外に行ってもうとる工藤のオトンとオカンの部屋やろ?
 そのままちゃうんか・・・・?」

平次が乾いた笑いを浮かべながら正論を述べ、それに和葉も納得していた。

「せやんなあ・・・・。あ・・・・。」
「まさか・・・。」

言った言葉に納得しつつとある事に二人は気づいた。

それは先週の話だった。


この東京旅行の事を計画していたとき、和葉が蘭に日程の相談をしていたのだ。

「でな、蘭ちゃん。今週か来週か・・・やねんけどな。」
『あ、今週は駄目よ。新一のご両親、帰国されるから。』
「あ、そうなん?せやったら来週にしよっか。」

このようなやり取りが電話で行われたため、平次と和葉の東京行きが今回の日程で行われていたのだ。




二人はそのことを思い出し、顔を見合わせる。

「先週って・・・暑かった・・・よなあ・・・??」
「ま、まさか先週帰国した時、暑いからって毛布とってしもーた・・・とか?」

上ずった声で和葉は平次の顔を見ると平次は冗談では無い。といった表情を浮かべていた。

「それしか考えられへん・・・やろ?」
「じゃ、じゃあ、その毛布は・・・?」
「・・・多分、客間の布団と一緒にクリーニング中・・・。」

静かに述べられていく事実に呆然としながら和葉は言葉をつないで言った。

「・・・じゃあ・・・・残ってるのって・・・コレしかないって・・・こと・・・?」
「そう考えるのが自然やろうな・・・。」

平次はもはや、あきらめきった顔をして目の前にある大きなキングサイズのベッドを見ていた。

「どーする・・・ん?」

和葉は恐る恐る・・・という風に平次を見た。

「安心せえ、俺床で寝るわ。」
「あかんて!平次昨日まで仕事であんま寝てないやろ?疲れたまっとるやん!!」
「せやかて、オマエ床ちゅうわけにもいかんやろ。」

「平次が」「和葉が」とお互いがお互いに譲りあい、いつまでたっても平行線をたどってしまっていた。
これではいつまでも決まらず、らちが明かない。

「平次」

どこか切羽詰まったような和葉の声。それを不思議に思いつつも平次は和葉の方へ意識を向けた。

「何や?」
「平次・・・枕なしでも寝られるよ・・・な?」
「あ・・・・?」

和葉の突然の質問の意図がわからずに平次は戸惑っていたがそれに気づかないように和葉は話を進めた。

「布団に枕やクッションで境界線引いて・・・端と端で・・・寝よ?」
「なっ!なっ!!何言い出すんや!!和葉!」

和葉の言葉に平次は沸けも無く度もって答えた。

「うん。でも・・・床で寝られへんやん・・・。
 せやったら・・・ベッド大きいし真ん中で境界線を作って寝たほうが・・・エエと思うねん・・・。」

和葉は自分の言葉に真っ赤になりうつむきながら手を組み、指をもてあそんでいる。
彼女自身、相当恥ずかしいんだろう事は理解できる。

「和・・・葉・・・。」

平次はそんな彼女に対して言うべき言葉が見つからず、結局そのまま二人の間に沈黙が流れた。


しかし、そのままの状態で一晩を明かしてしまうわけにも行かず・・・
結局は和葉の出した提案をそのまま実行することとなった。

「和葉・・・。」
「なっ・・・!!何!?」

平次の少しだけ低くなった声が静かな部屋に響き渡り、和葉は身体をびくつかせた。

「・・・・。オマエ・・・ホンマにええんか・・・?」

平次の問いに答えようとしない和葉のほうへ目をむけ、平次は質問を続けていった。

「俺と同じベッドで寝て・・・。クッションや枕の仕切りだけで・・・ホンマにええんか・・・?」
「うん・・・。ええ・・・よ。せやから!!さっきからエエゆうとるやん!!」

和葉は戸惑った声から少し怒ったように声を荒げてベッドへともぐりこんだ。

「平次やから・・・エエんや・・・で。」
そういいたかったが、こんな突発的には言いたく無かったし、自分だけがカラ回りしているようで
言葉にするのは・・・怖かった。

蘭が新一から告白された・・・というのを聞いてた・・・のも少しは関係してきているのかも知れないが、
やっぱり平次から言ってほしかった。

平次の気持ちは・・・わからないけれども。


「さっきからエエゆうとるやん!!」
そう怒鳴ってベッドにもぐりこんでしまった和葉へと視線を向けていた平次は自分のふがいなさに思わずため息を漏らした。

和葉のことが好きなのに・・・多分、和葉も自分の事を好きでいてくれているはず・・・と思ってはいる。
なのにそれを言葉にする勇気が出てこないのだ。

いつもは強気でいつもいるはずなのに・・・和葉に対しては・・・それが動いてはくれないようだった。

今が・・・そのチャンスのような気もする。だが、今ここで告白しても・・・真実味が無いような気がして言い出せ無かった。

かなりあせっていたその気持ちを抑えながら・・・ベッドへともぐりこんだ。

キシッ・・・っと小さな音がしてベッドのスプリングが揺れた。

和葉もその自分の起こしたものとは違うゆれが身体に感じられてドキドキ心臓を打つ音が平次に聞こえないか・・・心配になってしまった。


結局・・・二人ともよく眠れないまま、一晩を過ごしてしまっていた。






Side:新蘭編


「あーめんどくせえ!!俺と蘭、お前ら二人でいいだろ!!」

わけのわからない新一の一言で部屋に引っ張り込まれ、扉が「バンッ!!」と大きな音を立てて閉じられ、蘭は少し身体をびくつかせた。

しばらくの沈黙を破ったのは蘭の小さな呟きだった。

「痛い・・・よ、新一。」

新一が蘭を部屋へ引っ張り込む際、つかんだ腕を未だに話していなかったため、かなりきつくつかまれた蘭が痛みに思わず言葉を発してしまったのだ。

「あ・・・悪い・・・。」

ようやくここでつかんだままいた蘭の腕を新一が放した。

「ううん・・・。あ、新一、ベッド使っていいよ?」
「あん?」

蘭は新一にベッドをゆずろうと彼に声を掛けた。

「私、床で寝るし。」

そんな蘭の言葉に新一が声を荒げた。

「バーロ!!ンな真似、出来るかよ!!」
「で、でも、ほら!!外見は今、私が新一だし・・・。」

蘭は荒げられた新一の声に少したじろきながら・・・言葉を返した。

「でも中身は蘭だろう・・が。」

もっともな正論で返され、蘭はうつむいてしまった。

「そりゃあ・・・そうだ・・けど。」

そう答えるも声はかなり小さい。

「ンな事いってねえで!!ほら、来いよ!」

新一は「全く」といわんばかりに息を吐き出して蘭の腕を引っ張った。

「きゃ・・・!!」

急に腕を引かれ蘭は新一のベッドに納まっていた。


実質的には新一が蘭を抱いているのだが、
見た目には蘭が新一を抱いているように見える。

そんな状況に蘭がクスクスと小さな笑い声を上げる。

「あ?何だよ?急に・・・・。」

新一はそんな蘭をいぶかしげに見ると蘭は新一へと顔を上げた。

「だーって!!変な感じー!」
「何で?」
「だって、自分に抱かれてるみたいなんだもん。」
「やな事思い出させるなよ・・・・。」

新一は蘭の言葉に顔をしかめたが、蘭はクスクスとまだ笑いのツボから抜け出せないでいた。

「んー・・・でもそうだったらこうだとヘンだよね?」
「あ?ちょ、ちょい、待て!こら!!蘭!」

新一の・・・今は蘭の腕をらくらくはずし、蘭は新一を自分の腕の中へと抱きこんだ。

「ん。コレでいつもどおり・・・ね?」
「なんで・・・・。」

ニコニコ笑う蘭と、しかめっ面の新一。

「私は気分良いな!!うん!!」
「チェッ!」

面白くない新一だったが、蘭と密着しているのでとりあえずはおとなしくしていた。

「んー・・・お風呂は入れなかったから・・・ちょっと・・・ニオウ?」
「気になるなら・・・入るか・・、風呂?」
「えっ!?」

ニヤリと新一が笑い、意地悪く提案すると蘭は慌てて否定した。

「いい!いい!!・・・もう、トイレ行くのだってカナリきついのに・・・。」

モゴモゴと口ごもりながら蘭は顔を赤くして、うつむいてしまう。
でも普段と立場が逆転しているので蘭がうつむいても顔は新一とばっちりあってしまうのだ。

「初めてじゃあるまいし・・・。俺のハダカみるのなんて・・・。」

新一がニヤニヤと蘭の顔を覗き込みながら言うと

「恥ずかしいこと言わないで!!それとこれとは違うの!!」

蘭はますます顔を赤くして声を荒げた。

「そんなもんかねえ・・・。」

新一は蘭を不思議そうな顔をしながら「フーン」・・・と答えた。
そんな新一に蘭は「そんなもんよ!」と断言した。

「ま、大丈夫だよ。」
「え?」
「ちゃんと蘭のにおいがしてるだけだからさ。」

新一の言い方に蘭はすねたように

「意地悪・・・・。」

と、つぶやいた。

悔しい・・・と蘭は思う。
いつもこんな何気ない新一の言葉で翻弄されてしまう。
いつもの仕返し・・・とばかりに逆に抱きしめてみたのにそれも新一のダメージにはならないらしい。

もう一度ギュっと抱きしめ、新一は蘭のそんな意図を理解したのか、苦笑いをこぼした。

二人はいつしかそのまま夢の中へ落ちていった。

んー・・・。ちょっと妖しい雰囲気は・・・だせたかな・・・?
ちょっと目指してみました(笑)。
新蘭編はかもしだせたかな?
平和編は・・・。うん、健全だ(笑)
・・・・でも、これ、季節的にはいつなんだろう・・・・?
書いた本人も謎だ(笑)。