ここは都内有数の名門男子校である、帝丹高校。そのひとつのクラスから二人の生徒が話しているのが聞こえてきた。

「え!?また別れただと〜?・・・おめー相変わらず女のサイクル早すぎ。」

呆れた様に声を上げたのは、工藤新一。帝丹高校の2ーBの生徒だ。

「しょーがねーじゃん。いいな、って思ったのにそうじゃなかったんだし。」

その新一の声にどこかおどけた様な声で応対したのは黒羽快斗。同じく帝丹高校の2−Bの生徒。
ちなみにこの二人は幼馴染でもあった。

「で?今回は4日か?5日か?」
「しっつれいな!一週間は持ちました!」
「いばっていうこっちゃねーだろ。ほんっとにおめー、帝丹一のプレイボーイを自負するだけの事はあるよ。」
「いやあ、ホント言えば、新一の方がもててると思うけどね〜?なんせ、有名人だし!」

そう、新一は高一の時に解いたとある事件のせいで、一躍時の人となり、高校生名探偵として名を馳せている。

「近隣の女の子たちから、ラブレターもらいまくりなのにその気ゼロ!だしぃ〜。」
「ああ、欲しけりゃやるよ。ほら、今日の分!」

鞄からどっさり出された手紙の山は新一宛のラブレターだ。こんなにもてる割に、本人は女の子と付き合う気など全く無いらしく、

「事件の方がよっぽどおもしれーよ!」

といってしまうほどなのだ。

「・・・もしかして、新一って・・・ほも・・・なわけ?」

バコン!!

とんでもなく大きな音をたて、快斗の脳天がカチ割られた。

「なにを・・・いいてえんだ?なあ?快斗?」

新一のとんでもなく冷たい目と、怒気を孕んだ雰囲気に快斗が震え上がる。

「いや!それは冗談だけどさ!」
「当たり前だ!!」
「でも、勿体ねーじゃん!可愛い子だって一杯居るぜ?」
「時間の無駄!時間割いてまで付き合いたいと思う奴なんていねーな。」
「ああ、ああ!やだねえ!女の子のよさが分からないなんて!もったいねー!」
「おめーみてーに女と見りゃ見境なしよりましだろ!しっかもその子達に愛情なんて全くないくせに。」
「愛情くらい持ち合わせてるって!あーあー!これだから探偵バカはやだねえ!」
「うっせー!」

プルルルルル!

どちらが女の子に冷たいか談義(違う)を続けていた二人だったが、新一の携帯電話が教室中に鳴り響く。

「はい。工藤です。ああ、目暮警部。事件ですか?」

早速、高校生名探偵である新一の元へ、警察からの応援要請が入ったようだった。

「やれやれ、ま〜た早退かよ。」

人のことは言えない快斗が、苦笑交じりにつぶやく。

「はい。分かりました。では。」

新一が馴染みの警部との電話を終わらせた。

「また、事件か?」
「あー、まあな。」
「事件フェチめ。」
「おめーも来るか?」
「冗談でしょ。俺、新一みてーな事件フェチじゃねーし!」
「ま、つれてくってのは冗談だけど。今回はおめー向きの現場だぜ?」

椅子にかけておいた制服のジャケットを羽織ながら新一が快斗に話しかける。

「俺向き?」

言われた言葉の意味が分からず、快斗は首をかしげる。

「・・・事件現場どこなんだよ?マジックショーの会場とかか?」

とりあえず、聞いてみる。

「都下の名門、江古田女学院!」

すっぱりと言い切った新一の言葉に反応したのは快斗だけではなかった。
恐らく、そこに居た生徒たち全員が振り返る。

「え!江古田女学院だって〜!」
「工藤!つれてけ!」
「助手希望!!」

口々に勝手な事を話し出す生徒たちで新一と快斗の周りは埋め尽くされた。

「江古田女学院って・・・。新一、まじかよ?」

快斗が心中穏やかでなく、そう話す。

「江古田の教師が刺殺されたらしい。詳しくは聞いてねえけど。」
「い〜いなあ。新一!」
「殺人現場がか?」
「江古田女学院にフリーパス!だぜ!!これほど羨ましい事があるか!!」

快斗の言葉にその場に居た全員がうなずく。

「そこいらの女子高じゃねーんだぜ!江古田は!」
「ただのお嬢さん学校じゃねーかよ。」
「あまーい!甘すぎるぞ!新一!!江古田女学院は美人保有率都下ナンバーワンを連続25年ゲットしてんだぜ!」
「・・・なあ、そのデータ、誰が調べてんだよ。」

新一は呆れたような口調でそう切り捨て、さっさと教室を出て行く。

「あ!てめ!まてよ!新一!」

慌てて快斗は新一を追いかける。

「で、さ!可愛い子見繕ってこいよ!合コンしようぜ!ご・う・コ・ン!」
「俺、事件で呼ばれて行くんだよな。」
「イーじゃーん!ちょっとくらい、さ!大丈夫だって!新一が話しかけりゃ向こうも乗り気になるって!」
「バカなことばっか、言ってんじゃねーよ!」

さくっと切り捨て、新一は迎えに来たパトカーに乗り込み、いってしまった。
一人残された快斗。

「ったくあいつは!早く女作れってーの!」

どこか心配そうにつぶやくが、少し嬉しそうな足取りで教室に戻った。

快調な走りで町を駆け抜けるパトカー。
事件についてもう少し詳しく聞いていた新一の乗るパトカーが、江古田女学院へと到着した。



正門前で新一がパトカーから降りると、目暮警部が早速話しかけてくる。

「おー!工藤君!!待っておったぞ!」
「あ、目暮警部。大体の概要は高木刑事からお聞きしました。」
「うむ。現場はこっちだ!」
「はい。」

軽いやり取りもそこそこに、刑事たちは新一を現場へと案内する。


「きゃっ!あれ、高校生探偵の工藤新一よ!」
「ほんとー!やっぱりカッコいいわねー!」
「えー!私も見せてー!」

名門とはいえど中身は普通の女子高生。反応はさほど変わらない。
そんな生徒の黄色い声援を受けながら新一は、学校内を進んで居た。

「工藤君、現場はここだ!」
「音楽室・・・ですか。」
「ここの音楽準備室に江古田女学院に社会科教師として勤務していた矢島兼之氏(36)が刺殺され倒れていたのを
 昨日の夕方、女生徒が発見した。というわけだよ。」
「・・・・。その第一発見者の生徒に会えますか?」



しばらく応接室で待たされた新一だったが、やがてドアのノック音が聞こえてきた。

「失礼します。第一発見者の毛利蘭さん、お連れしました。」

高木刑事が第一発見者である彼女を連れて応接室に入ってきた。
歴史ある名門女子高校のせいなのか、時代にとらわれることのない、スタンダードな濃紺のセーラー服に身を包んだ少女がひとり
ピン!と背筋を伸ばして立っていた。その姿にとらわれたかのように無意識のうちに新一は立ち上がっていた。

「あ・・・の・・・?」

そんな新一に怪訝そうな不思議そうな声で蘭が話しかける。

「あ!ああ!すいません。僕は工藤新一と言います。少し事件のことについてお聞きしたくてお呼びしました。
 どうぞ、お掛け下さい。」

無意識の行動に新一自身驚き、それをごまかそうと先へと進める。

「あ・・・。はい。」

まだ刑事たちに緊張しているのか、いきなり現れた同い年位の男の子に対して戸惑っているのか、
蘭は言葉少なく、示されたソファに腰掛けた。

「では、事件の事を教えてください。」

新一が探偵として質問を始めた。
恐らく蘭にとっては2度目となる質問ばかりが降りかかっていく。

「これで・・・全部です。」

蘭が質問の通りに答えていき、自分の話せることは全て話し終えた。やっと開放されると思っていた蘭を新一の言葉が引き止める。

「じゃあ・・・。現場にいきましょうか。そちらで聞きたい話もありますし。」
「え・・・?」
「そうだな。じゃ、蘭君、すまないけどもう一度・・・。」

目暮警部の何気ない一言に新一は歩きかけた足を止めた。

「え。目暮警部、彼女とお知り合いなんですか?」
「あ?ああ!彼女のお父さんがわしの昔の部下でな。今は私立探偵をしておるようだがな。
工藤君も聞いたことはあるだろう。」
「え・・・?(彼女の父親・・・?えーとこのコの名前は確か毛利蘭・・だったよな・・・?)」

考え込んでしまいそこに立ち止まってしまう。しかし、やがてひとつの結論を導き出す事が出来た。

「毛利・・・っておっさん・・・い、いや!毛利小五郎氏の!?」
「あ・・・はい。毛利小五郎は私の父です。」
「あーそう。そうなんだ。」

あいまいな返事の仕方。それもそのはず。
新一にとって毛利小五郎といえば事件を引っかきまわすヘボ探偵という意識しかなかったのだ。

「いつも父がご迷惑をお掛けしています。」

蘭が礼儀正しく頭を下げると新一も焦って頭を下げる。

「あ!ああ〜!ど、どうもこちらこそ・・・」

どうも先ほどからいつもの通りの冷静沈着でいられないことを感じていたが、それが何なのか新一には分からなかった。


廊下を歩きながらどうすればいいか悩んでしまう。刑事たちと一緒なら事件関係の事などを話すなり出来たはずだったのに
つい先程目暮警部に報告が入り、そちら側へ行ってしまったのだ。
本来なら新一も同行するべきなのだが、さほど重要というものでもないらしく、それよりも先にこちらを・・ということになり
新一と蘭、二人だけで現場へ赴く事になってしまったのだった。
普段なら、事件の事を聞いてみたり、事実関係を聞き出してみたり・・・。などやるべきこと、聞くべきことは多くあるはずなのに
さっぱり頭に浮かんでこない。どうもいつもの感覚がつかめないのだ。

しばらく廊下を歩いていると向こう側から、バタバタと足音とともに

「蘭!まだつかまってるの!?」

少し怒ってるような女の子の声が聞こえてきた。

「青子。」
「ちょっと!どういうつもりか知らないけどっ!蘭はあんな事するような子じゃないんだからねっ!」
「え・・・。いや、あの。」

いきなり食って掛かってくる女の子に新一は面食らう。

「ちょっと青子待ってよ!質問されてるだけだから。ね?」

蘭がその少女を宥める様に止めに入る。

「でもお!ただ第一発見者ってだけで蘭の事疑ってる子とかいるからあ!もお、青子くやしくって!!」

興奮気味にまくし立てる少女にあっけにとられながらも新一も体制を整える。

「別に彼女を容疑者として疑ってるわけじゃないですよ?僕は。」
「そうなの?あれ?そういえば・・・貴方誰?」

まくし立てるのに必死で訳のわかっていなかった青子はその人物をやっとまじまじ見た。

「工藤新一。この事件解決の為に呼ばれた探偵ですよ。」
「高校生探偵の・・・?」
「そうです。お話2,3聞かせて貰ってもよろしいですか?」
「は、はい。ごめんなさい。わたし2−Aの中森青子です。」

新一が教師に関する質問を数点投げかけ、教師の人となりを探る。

「はい。どうもありがとう。」
「ほんとに・・ごめんなさい。青子また蘭が疑われてるのかと思ったらいても立ってもいられなくて・・・。」

青子は申し訳なさそうにもう一度新一に謝罪の言葉を述べる。

「話を聞いた限りでは毛利さんは容疑者じゃないと思ってるよ。・・・多分警察もそう思ってる。 
 ただ、彼女は第一発見者だからね。それでだよ。」

しゅんとした青子に新一はそう言い聞かせるように声を掛ける。

「あ、そういえば青子。お父さんにお弁当頼まれてなかった?」

蘭が思い出したように青子に声を掛ける。すると青子がびっくりしたような声を上げる。

「え?あー!やだ!忘れてたー!ゴメン蘭!私先帰るね!」
「うん、気をつけてね。」
「じゃね!」

嵐のようにやってきた青子は、嵐のように去って言ってしまった。

「・・・元気いい子だね。」
「凄くいい子なんですよ。明るいし優しいし。」

ふわりとみせた蘭の笑顔に思わず言葉を失くし、新一はまた戸惑ってしまう。

先程からどうもおかしい。探偵たるもの冷静沈着かつ、慎重に。ホームズの様に!がモットーのはずなのに。
冷静になれてない。慌てている。探偵のはずなのに、探偵を忘れてしまいそうになる。
訳の分からない感覚が消えないまま、事件について質問していた。推理していた。そんなことで冷静に判断なんて
出来るわけも無く・・・。結局タイムアップとなり、解決できないまま、帰路に着く事になった。

「すいません。」
「いやいや、何か分かる事があったら連絡をくれたまえ。まっとるよ。」
「はい。」
「蘭君も遅くまですまなかったね。」
「いえ、早く解決するといいですね。」
「うむ。・・そういえば蘭君は米花町だったな?」
「そうですけど?」
「工藤君、米花町だろう?もう遅いし、送ってあげてはくれんか?」
「え!?」
「あ!警部大丈夫ですよ!私。」
「そうもいかんよ。近頃物騒だしこんな事もあったばかりだしな。」
「あ、あの。警部?」

結局蘭も新一も、目暮警部の提案を断りきる事が出来ず新一が蘭を送るという事になってしまった。
蘭は初対面の男の子に送ってもらうという抵抗感から。
新一は先程から抱き続けているわけの分からない感情のまま。

夕日も落ち始め、人通りの途切れた道を二人はぎこちなく歩いていた。

「あ、あの。やっぱり大変なんですね。探偵って・・・。」
「え!?・・・あ・・・。」

新一は蘭の言葉に過剰に反応してしまい、顔を赤らめる。でもそれを知られないように冷静を装う。

「どうして?」
「え、だって・・・。学校早退してまで事件現場にかけつけるなんて・・・。」
「ああ、好きだからね。学校で授業受けてるより、事件現場で推理してた方がよっぽどいいよ!」
「そんなに好きなんですか・・・。」
「ああ!ホームズの様になりたいからね!」
「ホームズ・・・って、シャーロックホームズ?」
「そう!!」
「好きなんですか?」
「ああ!ホームズは・・・・。」

その瞬間、新一は、ホームズに関する話を機関銃のように始め、それは彼が気づかないうちに、
蘭の家の前まで来ていても止まる事はなかった。
蘭は初めのうち随分戸惑っていたが、高校生探偵と呼ばれる人が、こんなにも夢中になって話すなんて
こういうところは普通の高校生なんだなあ・・。と思いながら新一の話を聞いていた。



















パラレル物です。一応・・・。
蘭に初めて出会って、そのために、全く頭が働かなくなる新一が書きたくて・・・。
でも、やりたいところまでお話が進まなかった(痛)。
トリックとか考えるの駄目なので、事件の話省いたら、わかんない事多すぎました。
ごめんなさい、見逃してやってください。