「それで、ホームズはさ!」

新一と蘭はもうすでに、蘭の家である、毛利探偵事務所の前まで到着していたが、
新一のホームズ話はとどまる事を知らず、立ち話状態であるにも関わらず2時間が経過していた。

普通はうんざりするものだが、蘭は、新一の話しに耳を傾け、さほど興味のある分野でもないにも関わらず
たまに相槌や、質問を加えつつ、話に聞き入っていた。

「で、さ!ホームズは・・・」

クシュン!!

蘭が日が落ちたために冷えた外で、話を聞いていたために、寒さでくしゃみをひとつ落とした。

「あ、大丈夫??」
「ごめんなさい。平気です。」
「あ・・・あれ!?何でこんなに暗く・・・?」

話すのに夢中で、時間経過など気にも止めていなかった新一は、周りの暗さにちょっと驚き、時計を見、

「え!?もうこんな時間!?あっちゃー・・・。ゴメン。話に夢中になりすぎて気づかなかった。」

驚き、バツの悪そうな顔をする。

「いえ、面白かったですよ?」

そう蘭が素直に笑顔を新一に向けた。その瞬間、新一の心臓が跳ね上がり、又、不可思議な状態に持っていかれた。

「事件・・・難しいんですか・・・?」
「え!?」
「スピード解決が多いって新聞とかでお聞きするのに、今回そうじゃなかったから・・・。」
「あー・・・。」

的確な蘭の質問に新一は言葉を濁すしかなかった。事件そのものはそんなに難しいものではないと思われる。
そのはずなのに、新一の頭がどうしても散漫になりがちなのだ。
冷静でいなければならないはずが、蘭のふとしたしぐさや、笑顔でその冷静さが保てない。そのために、推理だけに
純粋に向かえないのだ。

(あー!!何だってんだよ!一体!!どうしちまったんだ俺!!!)

その答えが出てこない為に、翻弄されていた新一に

「あ・・・の・・?」

と、蘭が不安そうに声をかけた。

「あ!!いや!なんでもないんだ。」
「私でよければ、お手伝いしますから、頑張って事件解決させてくださいね。」
「ありがとう・・・。」

純粋に新一を心配する蘭に心底ほっとし、感謝の言葉を素直に述べていた。

「じゃあ私はこれで。送ってくれてありがとう。おやすみなさい。」
「うん・・・。おやすみ・・・。」

丁寧に感謝を述べ、階段を掛け上がっていく蘭を新一はずっと見ていた。
もてあました感情とともに・・・。



翌日より、新一は江古田女学院に入り浸り、事件を解決させようと蘭と共に奔走したが、
未だ事件の糸口が見つけられぬまま数日が過ぎていった。


「新一!!今日も江古田女学院に行くのか!?」

快斗が早々に帰り支度を始めている新一に声を掛ける。

「ああ、まだ解決してねーからなー。」
「随分と時間たってるじゃん。こんなに時間掛かるなんておめーらしくもない・・・。」
「んー・・・。まあ・・、そうなんだけどさ・・・。ま!しゃーねーよ!じゃな!」
「あ!おい!!新一!!」

呼び止めようとする快斗の声も聞こえないまま、新一は教室を飛び出していった。
残された快斗はかなり複雑そうな面持ちでじっとその場に立ち尽くしていた。


「毛利さん!」
「あ、工藤君。」

江古田女学院に到着した新一は蘭と共に、常に行動した。
今日は、事件現場となった音楽室を検証しなおしてみようということになったのだ。

「毛利さん、これは・・・。」
「え?」

少し気になった床の貼り紙についてたずねようと新一が急に立ち上がった為、椅子の上で作業中だった蘭は
バランスを失い・・・。

「きゃあ!!」
「危ない!!」

ガッターン!!

けたたましい音を立てて、椅子から落ち、あわや床に衝突というところで、新一が、とっさに蘭の下敷きになった。
ちょうど抱きあうような格好になっていた新一と蘭は、その場から、しばらく動けなかった。

「だ、大丈夫か!?」
「あ、ありがと・・・う。あ!!!」

呆然としていた蘭だったが、自分が抱きしめられている格好になっている事に気づき、慌てて新一から体を離し、
頬を染めて、うつむいてしまった。
一方新一も、とっさの事とはいえ、抱きしめ、一瞬、離せなかった自分に随分戸惑っていた。

(や、やだ。私ってば!!恥ずかしい〜!!みっともないところ見せて・・・工藤君呆れちゃったかな・・・?)
(俺・・・。何ですぐに離せなかったんだ・・・?・・・毛利さん・・どう思っただろう??)

なんともいえない気まずい雰囲気が流れていたその瞬間ガラガラと扉が開かれ、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。

「蘭〜!!」
「青子!!びっくりさせないでよ!!」
「へ?青子なんかした?」
「え!?な、なんでもないのよ、何でも・・・・。」

蘭は後ろめたさにしどろもどろになり、青子はそんな蘭を不思議そうに見ていた。

「ど、どうしたの?」
「ああ、うん。工藤君迎えに来たって・・・。帝丹の人が来てる。」
「俺を迎えに・・・?」

青子の言葉に疑問を感じつつ、訪問者を待つと、そこに現れたのは他でもない、黒羽快斗その人だった。

「快斗!!」
「よっ!」
「よっ、じゃねーよ!何しに来た!!」
「まあまあ、いいじゃねーか!!」

相変わらず飄々とかわす快斗に新一が苛立った声を出す。

「あ、学校のお友達・・・ですか?」
「あ!君が毛利蘭ちゃんねー!新一から話『よく』聞いてるよ〜。」
「快斗!!」
「え・・・?」

快斗の余計な一言に激昂する新一と、いまいちよく分かっていない蘭がいた。

「俺、黒羽快斗!新一の幼馴染なんだ!!」
「へえ、仲いいのね。」
「ただの腐れ縁だ!」
「またまた新一は〜。」

めんどくさそうに話を流す新一と、茶目っ気たっぷりに振舞う快斗。そしてその言葉に反応して

「幼馴染なの?じゃ、青子たちと一緒だ!」

と、青子が返答した。

「え?幼馴染?」
「そうよ。青子の、あ、こちら中森青子ちゃんね。青子のお父さん警部さんだし、私のお父さん元刑事だからね。」
「目暮警部のところで知り合ったの。」
「え!?青子ちゃんのお父さん警部・・・ってもしかし・・て、2課の中森警部・・・?」

大変驚いた上での快斗の発言を受けて青子が答える。

「そうだよー!よく知ってるね、黒羽君。」
「あ!ちょっと・・ね。ははは・・・。」

と、快斗はなんとも乾いた笑いをかもし出した。

「?変なの。」

青子が不思議そうな顔で快斗を見ていた。

「青子のお父さん、怪盗キッド専門の敏腕警部さんだものね!テレビとかにもよく出てるから。」
「あ、そっか。そうよ!打倒怪盗キッドよ!!!」

力を込めてそう言い放つ青子に新一がたずねた。

「怪盗キッド嫌い?」
「だいっ嫌い!!!盗んだもの持ち主に返したり、捨てたり。只の愉快犯じゃない!!警察馬鹿にして
そんなの青子絶対許せないんだから!!」
「で、でも・・さ。」
「なによ、黒羽君、キッドの肩持つの??」
「え、いや、あの。」

しどろもどろになっていた快斗に新一が、

「こいつマジックするからさ。同じようにマジック使うキッドに親近感持ってんだよ。」

と、フォローを入れた。

「とりあえずさ、キッドは青子のお父さんに任せて、今は先生を殺した犯人を見つけようよ!」

蘭が、みんなを促し、方々に手がかりを見つけるべく、動き出した。


ふと、手を止めた快斗の目に、とある光景が飛び込んできた。
それは、動きが止まり、一心に蘭に視線を注いでいた新一の姿だった・・・。
それを見た快斗は、なんともいえない表情で立ち尽くしてしまったのだった。

結局、その日も何の手がかりも見つけられぬまま、タイムアップとなった。

「あー。見つからないものなんだねー・・・。」

青子がそう、ため息をついた。

「しょうがないよ。まあ・・。パッといつか出てくるよ!ねっ、工藤君。」
「あ、ああ・・・。ごめん・・・。」
「やだな。どうして工藤君が謝るのよ。大丈夫だって!ね!」

見つからない焦りからかどこか表情を固くしていた新一に、蘭が慰めるように声をかける。
そんな蘭の優しさに心が軽くなるように感じた新一は、

「ありがとう・・。」

と、素直にお礼が出来た。


蘭、青子と分かれ、新一と快斗は帰路に着いていた。そんな時、快斗が不意に新一に問いかけた。

「なあ、新一・・・・。」
「なんだよ。」
「なんで、今回に限ってこんなに時間掛かってんだよ・・・?単純な事件じゃん。」
「俺にも分からねーんだよ!!事件自体簡単なものだ。それは分かるのに、犯人もトリックも
頭に浮かんで来ねーんだよ!!」

新一自体、分かっていなかったのだ。
事件自体はごくありふれたもの。
犯人もおぼろげに分かってる。
トリックさえも簡単なものだ。

そんなの全部分かりきっている。


「なあ、ホントーにわかんねーのか?」

快斗が再度、確認するように新一に問いかける。

「・・・。分からない。」

視線を揺らしながらも・・・答えが出ていない新一はこう答えるしかなかった。

「お前、今日音楽室で蘭ちゃんのこと、何度見てた?」
「な!?な、何いきなり、んな事・・・・・!!」

いきなり切り出された快斗の言葉に新一はかなり慌て、声がどもってしまった。

「はっきり、今日のお前、探偵じゃなく、只の男だったよな。」
「・・・・え・・・?」

かなりきつい表情で快斗は、きっぱり新一に言い放った。新一は、快斗の言った言葉にすぐ反応できない・・・。

「蘭ちゃんのこと、好きになっても別にかまわねーさ。悪いとはいわねーよ。彼女、可愛いしいい子みたいだし?
でもな、お前、探偵として呼ばれたんだろ?だったら、探偵として自分の任務を全うしろよ!
・・・。お前、遊びで探偵やってるのか?」
「違う!!俺は本気で・・・!!」
「でも、今日のお前見てたら、本気でやってるようには見えなかった。どっちもおろそかになるんだったら辞めろ。
周りの人間にも迷惑だし、失礼だ!・・・本気で探偵を仕事としてるんだったら・・・解決させてみろよ。」

そう言い放った快斗は、その場に立ち尽くしたまま動かない新一をそのままにして、さっさと帰ってしまった。

きつい快斗の言葉は新一の胸に突き刺さっていた。

(俺・・・は、本気で探偵業を行ってる・・・。でも・・・そうなのか・・・?今日・・・。
手がかりを探す努力してたのか・・・?でも、毛利さんから目が・・離せなかった・・・・。)

そうして、新一はようやく一つの答えを導き出した。

(・・・。そっ・・・か・・・。なんであの時、無意識にたちあがったのか・・・。心がざわめいたのか・・・。
目が・・・離せなかったのか・・・分かった。俺・・・彼女が・・・彼女の事が・・・。)


快斗の言葉に触発されたのか、自分の気持ちに気づいたからなのか、新一はようやく事件の犯人を導きだすことが
出来た。

犯人は、同僚の教師だった。被害者に多額の借金があり、毎日口汚く罵られた上での思いあまっての犯行だった。

「犯人、見つかってよかった。」

蘭が、心底ホッとしたような声を出す。

「うん・・・。毛利さんが協力してくれたから・・・だよ。」

新一が蘭を労わる様に感謝の言葉を述べる。

「そんな、私何もしてないわよ。」

そんな新一の言葉に蘭ががテレて顔を赤く染めた。

「じゃあ・・・。」
「え?」

差し出された蘭の手に新一が戸惑う。

「解決したし、・・・もう、会えなくなるから。」

蘭が笑顔で新一に握手を求める。

「あ・・・。ありがと・・う・・・。」
「こちらこそ。じゃ・・・ね。」

蘭が、新一に背を向けて、歩き出した。

(おい、ホントに・・・これで終わらすのか!?)
「今度、いつあえるかな!?」

蘭の背に向けて問いかける。

「・・・どこかの事件現場で?」

ふりむいた蘭の言葉に一瞬、「え!?」と言う顔になった新一だったが、蘭の悪戯っぽい瞳に気づき、

「今週土曜日、米花センタービル前の時計台に午前11時!」

叫ぶような新一の決定事項に、蘭が

「それ・・・って・・・どういう意味?」

蘭が問いかける。

「デートの誘い!俺、毛利さん・・いや!蘭のこと、好きだ!」

叫ぶ新一に蘭が、

「よかった・・・。」
「何が?」
「本当にもう、あえなくなるのかと思ってた・・・。最後に精一杯の笑顔を見せてお別れしなくちゃ・・って思ってた。」

笑顔で答える蘭に、新一は最後通告を出した。

「蘭は俺のこと・・・?」
「・・・好き。工藤君のこと・・・。」
「新一。で、いい。」
「新一のこと・・・好き・・・!」

この日新一は、『事件解決』という名声ともうひとつ。
最高、最愛の恋人を手に入れた。



新一&蘭出会い編、とりあえず終了。
とりあえず、新一中心にお話をすすめてみたんですけどね。
だいたい、事件はどこへきえたんでしょ??
この話を思いついたきっかけが、新一より、快斗の方が、プロ意識は強いだろうな。
って、とこなのでした。
なので途中、新一、かなりきついこといわれてますけどね。
本編バージョンで、こういわれる新一って何か違う・・。と思って、パラレルでvv
新一ファンの方、寛大な心をもって、読んでくださいvv(って、ここで言っても遅いか)
次は、快斗&青子の恋バージョンです。少し、ここでもふれてるかな?