「あ〜・・・・ヒマだなあ・・・・。」

ここはとあるおとぎの世界。
その一角に位置する工藤王国。

穏やかな気候と、豊かな資源に恵まれた広大な国。
強固な力を持ち、他国を制圧するだけの力も持つが故に他国との争いは過去100年にわたっておきていない。


王家は、国民とのかかわりを大切にしており、国民からの信頼も高い。
国民の意見を取り入れ、それを反映しているところも大きいのかもしれない。
それが故に国民の性格もみな、穏やかだった。


王国の中心は工藤王国の国王一家の住む巨大な城があり、王国のシンボルとなっている。
その城の時計塔の最上階部分、めったに人が近寄らない時計の機械部分になっている。
ここはとある人物の秘密にして、お気に入りの場所だった。


大あくびをして、暇そうに寝転んでいるのはこの国の第一王子・新一だった。

「国が穏やかなのは良いことだけど・・・こうもヒマだとだれるね〜・・・。」

ふあああ・・・・!!っと又ひとつあくびをしてごろんと寝転がった。
すると頭の上から能天気な声が降ってきた。


「やーっぱり、ここか。工藤。」
「服部か・・・。」


新一は露骨に顔をしかめながらむくりと起き上がった。
能天気にやってきては新一に気軽に声を掛けたのは服部平次。

工藤王国と友好関係をもつ「遠山王国」の王子である。
もともとは工藤王国の近衛隊長だった男で、遠山王国で行われたセレモニーに新一と共に出席した際、
遠山王国の姫君・和葉に見初められた末、結ばれたのだ。


「なんだとは相変わらず失礼なやっちゃなー・・・。下で兵士どもが探しとったで。」
「オレをか?」
「ああ。なんでも国王陛下とお后はんが呼んでるらしいで?」
「父さんと母さんが?なんだあ?」
「オレが知るかいな。」

平次は肩をすくめて呆れたような声をだした。
呼ばれてるとあってはしょうがない。と新一は時計塔を下りていった。


「あっ!!新一王子!!国王陛下がお待ちです!!」
「すぐに、国王陛下の元へ!新一王子!!」
「あ〜・・・わーった。」

必死で自分を探していたらしい兵士の様子に苦笑いし、新一は素直に父である国王の元へ向かった。

「父さん。」
「ああ、来たね、新一。」

工藤王国の国王である新一の父・優作が座っていた椅子から優雅な動作で立ち上がった。
優作のとなりには彼の妻であり、新一の母でもある有希子が座っていた。
有希子がなんだかワクワクしたような表情をしているのに気付き、新一は嫌な予感がした。

「何だよ?急に呼びつけて・・・。」
「お前もいい年だろう。平次君も身を固めたし、落ち着く気はないかな?」
「・・・って、どういう意味だよ?」

新一は優作の言っている意味が分らず混乱していた。
するとニコニコと母・有希子が新一に話しかけてきた。


「だから!お嫁さん!新ちゃん、お嫁さん貰わないとって話なのよ!」
「はあ?」
「周りの国からもね、新一にぜひとも!っという話も結構来ていてね。どうだい?」
「めんどくせえ・・・。」

新一はまさに彼が言った言葉どおり、さもめんどくさそうに答えた。


「もう!新ちゃんってばいつもそうなんだから!いい男に産んであげたのに!!女の子、好きじゃないの?」
「どうしてそうなる。」
「んもう!絶対に見つけて見せるんだから!新ちゃんのお嫁さん!」


そう力強く宣言して、握りこぶしを作りながら有希子は燃えていた。

嫌な予感がしつつも新一はその場では黙っていた。
己の自己保身のために・・・・・。



そうして数日後、国中におふれが回っていった。



「一週間後、お城にて第一王子・新一の花嫁探しのダンスパーティを催す。国中の独身女性必須参加のこと。」








場面変わってこちら工藤王国の城下町。

「蘭ちゃん、ベーコンのいいのが入ってるよ!」
「コッチはサカナのいいのが入ってるよ〜!蘭ちゃん!」
「ありがとう!でも今日はシチューなのvvお肉のいいのを頂いたから。ごめんね。」
「おう!蘭ちゃん、又寄ってくれよ〜!」
「はい!ありがとう〜!」


輝くような笑顔で店の店主たちをとりこにしているのは毛利蘭。

一応、貴族のお姫様だ。

一応。と付くからには当然訳がある。


幼き頃に母を亡くし、長い間父と2人暮らしを続けていた。
だが、父も蘭のためにもと思い、数年前に再婚をした。

お互い子供を連れた再婚同士だった。

そのため、蘭に一度に母と、姉と妹が出来た。

再婚同士、連れ子同士とは思えないほど仲がいい家族・・・のはずだった。
蘭も、何の不自由もなく、幸せな生活を送っていた。

そんな生活が一変したのは父親が亡くなってからだった。

優しかったはずの継母と義理の姉・妹の態度が一変したのだ。

いつの間にやら蘭は召使状態で、炊事・掃除など全てが押し付けられるようになった。

唯、蘭はもともと炊事も洗濯もこなしていたし、元来・人を疑うということもあまりしないため
自分が迫害されているという事実に気付いていなかったのだが。


商店街の主人たちはいつも口々に言い合っていた。

「蘭ちゃん、いい子だねえ・・・。」
「全く!蘭ちゃんみたいないい子が王子と結ばれてくれれば言うこと無いのに!」
「いいね!可愛いし、気立てはいいし・・・。」
「あんな家でこき使われているよりは、よっぽどいいよ!」
「そうそう!!」


みな、大きくうなずいて夢のような話を続けていた。



「只今戻りました〜!!」

蘭は大きな荷物を持って自宅に戻ってきた。
とたとたと蘭はそのまま、キッチンへと入って行った。

そんな彼女を見つけ、荷物を持とうともせずに義姉・麻美が話しかけてきた。

「ちょっと、蘭!何やってたのよ、遅いわよ!」
「ごめんなさい、最後に行った果物屋さんで美味しそうなオレンジを沢山頂いたの。
 落ちないように持って帰ってくるのに慎重になっちゃって。」
「蘭お姉さん、おなかすいたー!」

義妹・歩美が手伝おうともせずに不平だけを口にした。

「はーい!今すぐ作るからちょっと待っててねー!!」

そういうと蘭は手早く夕食の用意を始めた。

・・・・相変わらず、自分が迫害されていることには全く気付いていない様子だった。




そんな蘭の様子をこの国の周りを巡回する魔女の園子は不憫に思いながら見ていたのだった。

「そんなにあの子のことが心配なら、助けてあげればいいじゃない。」

そう呆れたような声を出しているのは、園子の肩に乗っかっている、使い魔の黒猫・哀だった。

「何事にも慎重に、よ!!いきなり飛び出していって不審がられたらどうするのよ!」
「全く・・・。」

哀は興味なさそうに園子の肩に乗っかったまま、眠りこけてしまった。
園子は、彼女のために一肌脱ぐことを心に誓って今は、彼女を見守り続けた。





そんな蘭の家にも、王家からのおふれは届いていた。

もちろん、麻美や歩美も思い切り乗り気でいそいそと新しいドレスの準備をしていた。
「国中の独身女性」なのだから、もちろん蘭にもその権利と資格がある。
だが、蘭はそのドレス選びの輪からははずれていた。

継母が蘭にドレスなどを分け与えるわけもなく。

「麻美と歩美の分のドレスを買ったら、あなたの分はなくなったから。
 そんなみすぼらしい格好でお城へなんていけないでしょう?貴女は留守番していて頂戴。」

そんな言葉ですっぱりと切られてしまったのだ。
もちろん、腐っても貴族の家なのだから、蘭の分のドレスが買えないはずなどなかった。
だが、継母は、蘭のためにドレスを買うなどということをしたくなかっただけだ。


そうして「花嫁探しのダンスパーティ」当日、継母と義姉・義妹は蘭を置いて、お城へと出かけていった。


「綺麗なドレスを着て・・・パーティー・・かあ・・・、少し、行きたかった・・・か、な?
 でもしょうがないよね?わたしじゃ行っても何が起きるって訳でも無いし。」

蘭は自分にそう言い聞かせて家に入ろうとした。

と、そのとき、不意に自分に話しかける声を聞いた。

「パーティ・・・・行かないの?国中の独身女性は必須参加のはずよ?」
「だ、誰!?」
「はあいvvわたしは魔女の園子って言うの。ちなみにこの肩の猫はわたしの使い魔。名前は哀よ。」
「はじめまして。」
「きゃあ!猫がしゃべった・・・!?」

蘭はいきなり現れた魔女の園子としゃべる猫・哀にすっかり動揺していた。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない・・・。」

少し傷ついたような園子の落ち込んだ声に蘭は反省した。

「ご、ごめんなさい・・・。あまりにも急だったから、びっくりしちゃって・・・。」

そう、素直に頭を下げた。

それを受けた園子はあっさりと「それもそうね。」と機嫌を快復させた。

「それより、さっきの話!行かないの?パーティ。」

園子の再度の質問に蘭は少し顔を曇らせた。

「だって・・・ドレスが無いもの。こんな格好でお城へなんていけないわ。」

そう言って蘭は自分の今の服装を見る。
つぎはぎのある洋服。
使い古された靴。
自分を飾り立てるものなど何も無い、格好。

蘭だって女の子である。
綺麗な格好をして、お城の大広間でダンスパーティに出てみたいと思わないわけは無い。

だけど、この格好のまま、なんてとても無理だと思い込んでいた。


「だったら!ドレスに着替えましょう!」
「え・・・?」


蘭が問い返すヒマも与えないまま、園子は片手を蘭に向けてふうっ・・・とふった。

すると蘭のみすぼらしかった服は深紅のドレスに変わっていた。

肩の大きく開いた清楚にもセクシーにも見える微妙な感じ。
蘭の豊かな胸を強調するようにカッティングされている。
そして、その服に似合う小さな小物類もセッティングされていた。
耳にはイヤリング、首元にはネックレスが光っていた。

そうして最後にはきらきら輝くガラスの靴が用意されていた。

「これで完璧!!あとは〜・・・そうね。馬車が必要ね。」
「あ、あの!!」

蘭が何かを口に仕掛けるもそんなものに気も留めず、園子はさっきまで蘭が手にしていたかぼちゃに目を留めた。

「ん〜・・・、まっ!これでいっか!」

と納得してふうっと同じように片手をかざすとさっきまで小さかったかぼちゃが豪華な乗り物に変わった。

「あとは馬車ね!馬、馬!」

きょろきょろ見ていた園子はさっきまで自分の肩に乗っていた哀がいなくなっているのに気付いた。

「あれ?哀?」

周りを見渡していると、猫の哀が、ねずみを2匹、追い回していた。

「あ!これでいいわ!ねずみを馬に!!」

ふうっと又片手をかざして、ねずみを馬車を引く馬に仕立て上げた。

ひょいっと園子の肩に戻った哀。

「ありがと、哀。」
「別に・・・。」

園子のお礼にも素直に答えず、哀は眠りについた。

「さ!これで準備は万端整ったわ!」
「あ・・・・。」

呆けている蘭の表情を見て園子はグイグイとその馬車へと乗せようとする。

「ど、どうしてここまでわたしのために・・・!?」
「ん〜・・・。理由はあまりなかったり。・・・ただ、貴女のために何かしたかっただけ。」
「・・・あ、ありがとう・・・。」
「どういたしまして。ただ・・ね。いっぱい変えすぎてあまり持たないの。夜中の12時が限度ね。」
「ううん、そこまで持ってくれれば十分過ぎるほどよ、本当に・・ありがとう。」
「・・・。ガラスの靴だけは・・・消えないから。それだけは消えないように作ったから。」
「うん・・・。」
「さ!時間がなくなっちゃう!さっさと行って!!」

園子に蘭が何かを言い掛けたのをとめた。
そのすぐ後にねずみの馬は駆け出していった。


お城へと向けて・・・・・。





新一は広い、広い、広間の一段高い場所にいた。

高みの見物、といえば聞こえはいいが、彼自身の意思でここに居るわけでは当然無い。

花嫁探しのために集められた国中の女性たちの誰もがきらびやかなドレスを身にまとい、
王子の目に止まるのを今か、今かと待ち構えているというのに。

肝心の王子様は王座のイスに座ってふんぞり返っており、そんな女性たちを見ようともしなかった。


「ちょっと、新ちゃん!!少しはお相手しようと思う人いないの!?」

有希子はじれて息子をつつく。
しかしそんな有希子の言葉も彼の左の耳から入って右の耳から抜けていた。


確かにきらびやかに着飾っている女性たち。
しかし、彼にとってはみな同じに見えてしまっているのだ。


「ふあ〜・・・あ。つまんねえ・・・。」

新一はそうつぶやきながら豪華で重厚な作りの椅子にひじをのせ、あごをその上に載せる。


早く終わってくれ・・・・。

そう心の中で思っていた瞬間、彼の目はある一点に集中した。

大広間の一番奥の扉。
そこから入ってきた一人の女性に目を奪われたのだ。


思わず立ち上がって居ることさえも字画の無いまま、彼は王座を降りて行く。

そんな彼の様子に周りも新一の動向を目で追う。


彼は真っ直ぐに深紅のドレスに身を包んだ可憐な少女へと向かって歩を進め、立ち止まった。



「・・・どう行けばいいの〜・・・・?」

かぼちゃの馬車で無事お城までやってきた蘭は初めて来た大きなお城の中で迷っていた。

実はパーティの催されている大広間へは案内が出ている上に、真っ直ぐ一直線だったのだ。
しかし、最強の方向音痴である蘭はいつのまにか大広間から正反対の場所に立っていたのだ。

「そこで、何をしているんですか・・・・?」

王室付きの警察官である高木はそう、蘭に声をかけた。

「きゃ・・・!!あ・・・パーティは・・・どこで開催されてるんでしょうか・・・・?」
「ああ・・・。大広間です、案内しましょう。」
「ありがとうございます。」

高木に案内され、とたとたと蘭は後をついていった。

「こちらになります。」
「あ、ありがとうございます。」

最後まで人のよさそうな高木は大広間の扉を開けて蘭を招き入れた。


蘭は周りを伺いながら、大広間へと入っていった。
自分に向かって歩いてくる男性を見かけ、蘭は目を奪われた。


「僕と踊っていただけませんか・・・・?」


目を奪われながらもそう問いかけられ、蘭は無意識のうちに「はい・・・」と手を差し出していた。



皆が大広間の中央を空けて行く中で新一と蘭はワルツを踊っていた。

2人とも周りなど既に見えておらず、お互いがお互いに見惚れていた。


か、可愛い・・・・。すげー可愛い・・・この子・・・・。

素敵な人・・・。どうしよう、ドキドキしているの・・・きづかれないかな・・・・??

終始、無言のまま、踊り続ける二人を姿を消して見ていた園子はじたばたとしていた。


「ああああ〜!もう、何なのよ、あの王子!!名前くらい聞きなさいよ!!基本でしょう!?」
「・・・もう、彼女に触れてるだけで、飽和状態みたいよ・・・あの王子。」

じたばたしている園子の肩の上で、猫の哀は冷静に観察していた。

「蘭も・・・同じような状態みたいね・・・・。似たもの同士・・・。あ、もうすぐ12時。」



園子がそうつぶやいたと同時にお城の時計塔から12時を知らせる鐘が鳴り響いた。


「あ・・・!!12時・・・!!帰らないと・・・・!!」

蘭は12時の鐘の音にはっとなり・・・新一の手を振り解いて慌てて大広間から出て行った。

しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた新一だったが、漸くはっと気付き、猛然と蘭の後を追った。




このまま帰してたまるかよ!!名前も聞けてないのに・・・・!!

さっきまで十分に時間があったにもかかわらず、名前のひとつも聞き出せなかった割に、こういうところはわがままである。


「んもー!蘭もきっかけも残さずに帰るつもり!?こうなったら・・・・!!」

園子は蘭に向かって片手をかざす。


「きゃあああ!!」

蘭は転びそうになって慌ててバランスを保った。
片方の靴が脱げて転がって行った。

「あ、靴・・・!!」

蘭は靴を取りに戻ろうとしたけれども新一があと少し、というところまで来ていたのを確認すると、
片方の靴をあきらめ、もう片方の靴を脱いで手に持ち、走りを再開させた。


新一が後一歩・・・というところで、蘭はかぼちゃの馬車に飛び乗った。

蘭が飛び乗ったのを確認したかのように、ねずみの馬は走り出し、流石に馬の足には新一は追いつけず、みすみす逃してしまった。


「王子・・・・!!」
「どうされましたか!!王子!!」


いきなり広間から飛び出た新一を追って、兵士たちがわらわらと新一に寄ってきた。


兵士たちに一言も言葉を発せず、蘭の落としていったガラスの靴を手に取り、眺めていた。
そして、何かを思いついたのか、兵士に振り向き、大声で叫んだ。


「鑑識班!!これをすぐに分析しろ!足の指紋を取るんだ!!」
「了解しました!王子!!」
「ははっ!今すぐ!!」

絶対に見つけ出してやる・・・・!!と、心に誓う新一であった。


やっぱりパラレルは長くなる傾向にあるのでしょうか・・・・??
終わらなかった・・・・(がくり)

「シンデレラ」をモチーフとしたお話。
後編へ続く(笑)