蘭を乗せたかぼちゃの馬車はお城を後にして、軽快に真夜中の道を走り続けていた。


あと、もう少し・・・・!!


思った途端、蘭は投げ出されるような感覚に襲われた。


「あっ・・・・・!!」

痛みを感じることなく、蘭は道の真ん中に座り込んでいた。


洋服は元々のみずぼらしく、古めかしたものに。

蘭のそばにはさっきまで馬車であったはずのかぼちゃが一個、ころんっと転がっていた。

馬であったはずのねずみは蘭が止める間もなく、何処かへと走り去っていた。


だけれども、足元は今の蘭の格好には浮いてみえるガラスの靴が光っていた。


「ガラスの靴だけは消えないから。」



そう魔女が教えてくれた通りに・・・・。



「ガラスの靴・・・・片方、お城に落としてきちゃったな・・・。もう割れてるかな?
・・・・残念だけどしょうが無いよね・・・・。」


ため息をついた蘭は片方だけでは歩きづらい為、ガラスの靴を脱いではだしのまま、家の中へと入っていった。



あの方・・・なんてお名前なんだろう・・・?
もう一度お会いしたいけど・・・わたしじゃ・・無理よね・・・・?


蘭はお城で踊り続けていた男性の事を思い出していた。

遅れてパーティに行ったせいと、周りを伺うように入室したこと。

後は新一本人が蘭を見つけてすぐさま、王座から下りていたことなどが重なっていたために、蘭は新一が王子であることに気付いていなかった。

国内の者が王子である新一の事を知らないのもおかしな話ではあるが、蘭はそういうところには疎かった。


それでも蘭は幸せな気持ちのまま、新一のことを心に留めながら、眠りについた。




一方、その頃、お城では大変なことになっていた。




「鑑識班!!早くしろっ!!科捜研にこのガラスの靴を廻して一刻も早く足の指紋を取り出すんだ!!]




見つけてみせる・・・・!!
彼女を絶対に・・・・・!!!


王子・新一は舞踏会で一目ぼれした女性・蘭を手中に収めようと燃えていた。



「なあ・・・工藤」


今の今まで人が変わったような新一に目を丸くしていた平次は漸く冷静さを取り戻し、新一に声をかけた。


「あン?んだよ、服部!!オレは今忙しいんだよ!!」
「せやけど・・・・工藤。」
「だから、何だよ!!」


お前の事になんてかまってられるか!!

との勢いの新一に平次はあくまで冷静に勤めて疑問を投げかけた。


「いつから工藤王国では国民全員の足の指紋なんかとるようになったんや?」
「は・・・・??」


シン・・・・・ッと静まり返り、誰もが動きを止めた。


「確かに足の指紋も手と同様に一人一人違うんは分かるんや。せやけど、それを何と照合する気なんや?」



・・・・・・・。
・・・・・・・。


「こ、こうなったら・・・警察犬を使って匂いで・・・・!!」
「はっ!!」


新一の鶴の一声で一番優秀な警察犬が連れてこられた。


「よしっ!!この匂いの主を探し出すんだ!!」


ウォン!!!



勇ましくほえた警察犬は新一の手の中にあるガラスの靴の匂いをかぐとまわりを伺うように匂いを求めてさ迷い歩いた。


そうしてしばしさまよう警察犬を固唾を呑んでみな、見守っていた。


そして・・・・。


新一の周りを数回周り、ウォン!と吼えた。

「え・・・・?」
「お、おい!オレじゃなくて・・・・!!」



慌てる新一にまたしても平次が心底あきれ果てた表情を浮かべ、ため息をついた。



「お前や、工藤。」
「は・・・・・??」


心底解からないといった表情を見せた新一に尚も平次は言葉を続けた。


「お前、さっきからそのガラスの靴、握り締めとるやろ?」


平次はピッと新一を指差し、尚も言葉を続ける。

「そんだけ、ギューッと持たれとったらいくら優秀な奴でも判断ニブるわな。
 ・・・っていうかもうお前の匂いしか残ってねーやろーしな、工藤?」


冷静に判断できる能力を持った平次の言葉はもっともで新一は考え込んだ。


「指紋もだめ・・・。匂いもだめ・・・・。こうなったら、この靴に合う人間を探しだすんだ!
 一軒、一軒、調べ上げろ・・・・!!」


こうして、一斉ローラー作戦が決行されることとなった。



平次はもはや、あきれを通り越しており、何も発言しなくなった。

ただ、驚いていたのだ。



女ひとりでこないにまで変わる奴やったんや・・・・工藤って・・・・。


しみじみつぶやいた平次の声が新一に届く事はなかった。




翌日から新一同行による、「ガラスの靴」を履いた少女探しが始まった。





靴にあう女性が新一の花嫁としてお城に迎え入れられるという噂で持ちきりになり、国中の女性は大いに沸きかえったが
不思議と靴にぴったりとあう女性はなかなか現れなかった。



「変なモンよねえ・・・・?美和子ぉ!!」
「何が?」
「だあってさ〜・・・。そんなに滅茶苦茶特殊って言う靴じゃ無いじゃない?
 確かにガラスっていう素材は特殊だけどさ〜・・・。ごく普通の靴にみえるんだけどなあ・・。」


王室付きの従女兼警察官の佐藤美和子と宮本由美は一時の休憩を取りながらコーヒータイムを楽しんでいた。


「そうなのよね〜・・・。普通の靴に見えるのに合わないし・・・・。」

美和子はコーヒーをすすりながらはあっ・・・とため息をついた。


「それに新一王子ってばその少女の顔覚えてるのか、その家の娘出てきたら途端にやる気なくすし・・・。」
「新一王子って・・わかりやすいよね、そういう意味では。」

由美はそういいながらのみ終えたコーヒーの紙コップを投げ捨てた。


「でも新一王子のおめがねにかなった人ってどんな人なんだろうね?そのときわたし警備で居なかったからなあ・・・。」


美和子は紙コップに残ったコーヒーをごくんっと飲み干しながら興味津々で目を輝かせた。

「うーん・・・。わたしも居なかったからなあ・・・・。」

こりこりと頭をかいて由美は心底残念そうな顔をした。



「新一王子と踊っていた方ってお綺麗な方ですよね?」


美和子と由美、2人の会話に通りかかった高木がわって入ってきた。


「高木君!?」
「え、何、何?高木君、その女の子しってるの!?」

2人はものすごい反応を見せて、高木に詰め寄った。


「え、ええ・・・。迷っておられたので・・・大広間までお送りしましたので・・・。」


2人に詰め寄られ、焦りながら高木は言葉を返した。


「高木君、顔、覚えてる!?」
「おあいすれば・・・分るかと思いますが・・・・?」
「高木君、捜索隊に加わってくれない?」
「は・・・はい!」




こうして、高木も捜索隊のなかに加えられることになった。





捜索隊のメンバーは地道に王国内の年頃の女性のいる家を一軒、一軒回っていた。


大事そうに抱えられている唯一の手がかりであるガラスの靴。

これを履きこなそうと今も一人の少女が挑戦中だった。


はいったか・・・・!!と、思われた瞬間に、ガラスの靴は微妙に形を変えたように少女の足には合わなかった。

落胆する捜索隊と少女とその両親・・・だったがその中に王子・新一の姿は無かった。



この家に入り、少女の顔を見た瞬間、自分の探すべき人間ではないことに気付き、さっさと馬車の中へと引き上げていたのだ。
つまらなそうに馬車の中でふんぞり返る新一に高木が声をかけた。


「新一王子、ここの娘も王子と踊られていた方ではなかったですね・・・・。」
「ああ・・・ったく!オレが違うってんのになんでわざわざ靴を履かせようとするんだよ!」

忌々しそうに時間の無駄といわんばかりの新一の態度に高木は苦笑いしか出来なかった。

「仕方ないですよ。いくら王子が「違う」とおっしゃってもそれだけでは納得しませんよ。」
「大切な靴が割れたりしたらどうするんだよ!」

納得できるか!という表情をあらわにする新一を高木はなだめようと必死だった。

「そのあたりは万全を期してますよ。それに・・・靴が人を選んでいるのか・・・合いませんよね。」
「当たり前だ!あの靴に合うのはたった一人だけだ!」

さも当然という態度をする新一に「はい」としか言えない高木だったが確かに不思議には思っていた。

見た感じは普通の靴なのだ。
なのに幾人も履こうとした瞬間に微妙に靴の形が合わないように変化しているように見えるのだ。
不思議なこともあるものだ・・・と思い、又、靴も持ち主を探しているのかもしれない・・・と高木は思った。





靴の照合作業が行われているはるか上空に魔女の園子とその肩に黒猫の哀がいた。

「ちょっと園子!いい加減にしなさいよ!そんなに魔法を頻繁に使わないようにしなさい!」
「だって、アレは蘭の靴なのよ!蘭以外の人間に合っちゃダメなのよ!」

たしなめるような哀に対して園子は断言するように言い放つ。

「・・・ねえ、どうして貴女其処まで彼女に肩入れするの・・??」
「幸せになって欲しいの!彼女にはどうしても・・・・!!」
「・・・だからどうしてよ?」

黒猫・哀は園子にそう言って詰め寄る。

「だって!彼女は私の命の恩人なんだもの!彼女が居なきゃ私は生きてなかったかもしれないもの!」
「どういうこと?」

意外な園子の言葉に声を低く保ち、哀は続きを促した。


「10年くらい前に・・・私遭難しかけたでしょ?魔法修行中に・・・。」
「ええ・・・3週間近く行方不明であのときだけは本当にだめかと思ったわよ。」

10年前の出来事を思い出し、あの時の園子の家族の会話を思い出し、哀はため息をついた。

「あの時助けてくれたのが・・・蘭だったのよ。」
「なるほど?それで彼女に肩入れしてるのね?」
「彼女が居なきゃ私、今生きてないかもしれない!彼女に恩返しをしたいのよ!!
 

 蘭だって王子に惹かれてる!だから2人の運命をつなげたいの!」


園子はそうきっぱりと言い切った。
そんな園子を見て、哀はあきらめたように体を丸めた。

「しょうがないわね・・・そういう理由なら・・・。」

確かに王子はポカをしながらも彼女を探し続けてる。
彼女も王子を思い始めてる。

・・・・幸せになるべくして出逢う2人の邪魔をするのも・・・野暮な話ね・・・・。

そういって哀はだんまりを決め込んだ。





そうしてガラスの靴の持ち主を探し続けた一週間後、漸く捜索隊は蘭の住む家へとやって来た。






ながーくお待たせしてるわりにあまり進んでません・・・。
これ覚えてる方いるのかしら・・・・??

一応、言われてた「足の指紋」「警察犬で探索」は入れてみました。
園子ちゃんが蘭ちゃんに肩入れする理由もしれっと入れてみました。

『シンデレラ」をモチーフとしたお話。
前・後編では終らなかったですね(おや?)
コレは一応中編のつもりです。

後一話でおしまいになります。
蘭ちゃんと新一王子、やっと再会できる・・はずです!