両親の帰国報告から向こう、蘭はずっと上機嫌だった。
いつもよりも掃除を完璧にこなし、清潔な店や厨房はいつも以上にぴかぴかだ。



「う〜ん・・・。」
「どしたん、蘭ちゃん?」

ボウルを前にうなっている蘭に和葉が声をかけた。

「新作メニュー開発?」
「うん。お父さんとお母さんに食べてもらおうと思って。」
「なるほど。」
「ね、和葉ちゃんこの味どうかなぁ?」

小皿にちょこっとだけボウルの中身を盛り付け和葉に差し出す。
試食してもらい、第三者の意見を聞こうということらしい。

「ん〜・・・。エエと思うよ?」
「ホント?」
「うん、美味しい。」
「・・・でもなんか一味足らないような気がして。」
「ビネガーは?」
「第一陣で試したんだけどきつすぎたの。」
「うーん・・・、だったらなんやろうねぇ?」

蘭と和葉の会話を聞きながら新一は少し疎外感を味わっていた。
蘭の力になりたいと思っても、料理の知識のない新一ではどうしようもない。
新一に出来ることといえば、せいぜい蘭と和葉の作る料理の試食人となることくらいだ。
しかし、それも新一が美味しいと幾ら言っても自分たちが納得しない限り終わらない。
抜群の料理センスを持っている二人の作る料理だ。
自身が納得しなくてもどれも美味しく出来上がってしまう。
結果的に試食人としての役目もあるのか無いのか分からないくらい微妙な位置になってしまう。
それが新一は悔しかった。

あるとき、同じような立場に居るはずの服部に聞いてみたことがある。
だが、しかし。
返ってきた言葉は既に諦めと悟りを開いた言葉だった。
それを聞いたとき、新一は長年片思いをやって来た男の歴史を垣間見た気がした。




とうとう蘭の両親の帰国日が明日に迫ってきた。
渾身の新作レシピも完璧に仕上がっている。

「ねぇ、蘭。明日はやっぱり親子水入らず?」
「え?」

園子の言葉に蘭はきょとんとした瞳を返した。
そんな蘭に不思議そうに声を出したのは志保だった。

「え・・・ってお店お休みでしょう?」
「休まないよ?」
「休まないって・・・!だってせっかくおじさんとおばさんが帰国するのに!!」
「ほんまになぁ・・・。明日は休みにしよかって言ったのに蘭ちゃん聞かへんねんもん。」
「だって、休んだら逆に怒られちゃうわよ、私。」

蘭はくすくすと笑って手に持っていた片手なべに水を入れて火にかけた。

「普段どおりにお店を開けて頑張ってる姿見て安心してくれるほうがいいよ。」
「あ、なるほどね。」
「あら、それだったら初めから新一君ピーンチ!ってこと?」
「てめ、園子。」


くふくふと嫌な笑いを零す園子に新一は忘れていたい事実を再認識させる。

「あら、大変ね。工藤君も。」
「オメー、全然大変とか思ってねーだろ?」

しれっとこともなげに心の篭らない励ましの言葉をかける志保に新一はぴきっとくる。

「やだ、皆何心配してるのよ?」
「蘭?」
「新一君もそんなこと心配してたの?」
「え・・・・?」

さらっと言い切る蘭に不思議そうな女性陣とちょっと期待してしまう新一。
だが、次の瞬間零れた言葉に皆、脱力せざるを得なかった。

「新一君ウェイターとして完璧だもん!お父さんもお母さんも絶賛してくれるよ!」
「は・・・。」
「だからいつもどおり頑張ってね!」

にこーっと満面の笑みでそう返されて新一は頭を抱えたくなった。
流石の女性陣もあんぐりと口を開けてしまっている。


「ら、蘭・・・あなた・・・。」
「ん、何?志保。あれ?みんなもどうしたの?」
「ぶっ・・・・くっくっくっく・・・。」
「園子?」

園子が下を向いて必死に耐えているのに気づいて新一はなるようになれとヤケになった。
蘭は全く判って居ない。
和葉が園子に釘を刺そうとするが、耐えられていない。

「あ、アカンよ。園子ちゃん笑ったらアカン・・・くくく・・・。」
「和葉ちゃんだって耐えられそうに無いんじゃない?」

和葉を指摘する志保だって珍しく笑いをこらえ切れない様子だった。



「「「あははははは・・・・・!!」」」


そうして爆発したように3人の笑い声が店いっぱいに、いや店の外にまで届くくらいに響き渡った。

「え、な、何?何?みんなどうしたのよ?」ね、新一君みんなどうしたの?」
「いや・・・なんでもないよ・・・。ははは・・・。」


3人が笑い転げているわけがさっぱり分からない蘭はおろおろとして新一に答えを求める。
しかし、本当の理由を言えるはずもなく、新一は力なく笑うしかなかった。


まー・・・ココまで見事に気づかれてないってのも、すげーよな。


がっくりと肩を落とす新一だった。




それでもみな、新一を一応は不憫に思ってくれたみたいで。
早々に皆帰路につき、今店内には新一と蘭が二人残っているだけだった。

明日の両親の帰りの前にやりたいことが多すぎる蘭に付き合っているのだ。
いいと蘭は言ったのだが、新一はいいから。と聞かずにいた。

ただ、一緒に居られるだけでいいのだ。
随分と女子高生みたいなことを言う・・・と自分でも笑ってしまうのだが。



蘭が満足な声をあげたのは、もう10時を過ぎた頃だった。
蘭が簡単なものだけどと出してくれた夜食は有り合わせとは思えないほど美味だった。

「うん、うめー。」
「ふふっ、ありがとう。・・・あ、明日の天気どうかな?」

新一の言葉にふわりと綺麗に微笑んで蘭はテレビの電源を入れた。



「・・・あ、臨時ニュース・・・?」

見ていた天気予報のテレビ画面の最上段に音と共に現れた”ニュース速報”。


○△空港発成田行のスカイジャパン航空342便が離陸時のトラブルにより墜落のおそれ


何事かと画面を凝視する新一と蘭。

一瞬遅れて新一があれ?と思う。
スカイジャパン航空342便って確か・・・そう新一が思う間も与えられず、蘭が間髪いれず叫んだ。


「お父さんとお母さんが乗った飛行機・・・!!」


蘭の悲痛の叫び声と蘭の持っていたマグカップが彼女の手から滑り落ちて割れる音が同時に響いた。




一体、何ヶ月ぶりの更新・・・。
すみません。
どのパロか解かる人はきっと年齢近いでしょう(笑)