「蘭!!一生のお願い!」

園子が頭をカウンター席に擦り付けて、蘭に頼みごとをしていた。

「なあに?いきなり・・・・。」

蘭はカウンターの中でお皿を拭きながら、呑気そうにたずねた。


「私に料理を教えてほしいの!!!」

園子の言葉に新一が驚いた。

「オメーが料理〜!?何血迷ったんだよ、園子?」
「うるさいわね!新一君は黙ってて!!」

園子は新一に噛みつき、そんな園子の迫力に新一は押された。

「お願い!蘭!!」

園子はもう一度頭をカウンターに擦り付けた。


「そんな頭下げなくたって・・・。私でいいなら喜んでv」
「ホント!?蘭!!ありがとう、大好き!!」

蘭の了承の応えに、園子は満面の笑みで、カウンターの中にいた蘭に抱きついた。


「あああ〜!!!」

たとえ女といえども、蘭に抱きついた現場を目撃した新一は自分でも信じられないくらい大きな声を出してしまった。


「新一君、うるっさい!」
「園子、オメー・・・・!!」


オメーが男だったらたたき殺してたぜ・・・全く。


「でも、どうしたの?いきなり料理教えてほしいだなんて・・・・。」
「う・・うん・・・。」

普段、はっきりきっぱりものを言う園子の口が珍しく重い。
それが新一には信じがたく、思わず聞いてしまったのだ。

「料理教えてくれなんて何そんなに切羽詰まってんだよ、オメー・・。」
「う・・・・。」


新一が一いうと、十は返してくる園子が今日はなにも言い返してこない。
新一はますます驚いた。

「オメーなんかあったのか!?らしくねーぞ!」
「・・・・ま、真さんが帰ってくるって・・・連絡くれたから・・・。」
「真さん?」
「だ、だから料理してあげたいな・・・って思って・・・・。」

もじもじと恥ずかしそうに園子は指をくるくる回していた。

「へー・・・。京極帰ってくんのか?」
「・・・一時的にだけど・・ね。」
「あいつも・・・がんばってるようだな・・・・。」


新一は懐かしい名前を聞いて、感慨深げにカウンター席にもたれかかった。

「うん・・・・。パパの無理難題にもきっちりと応えてくれてる。」
「そういうことなら・・・頑張らないと・・・な!」
「もちろんよ・・・っていけない!今日、企画会議に出席しなきゃいけないんだった!」

自分の腕にはまっていた時計に目を落としながら園子は慌てて立ち上がった。

「それじゃあ、蘭!!」
「はい!?」

いきなり振り向きざま、大きな声で名前を呼ばれて蘭は思わずびっくりしたような声を出してしまった。

「料理、ホントにお願いね!」
「あ・・・うん。」
「じゃあね〜!」


園子は最後にもう一度頼み込んで、店を後にした。


「けたたましい奴だなあ・・・。」

ふうっ・・とようやく落ち着いた店内にほっとして新一がため息をひとつ落とした。

「園子ちゃんも凄いんやなあ・・・・。」
「え?どうして、和葉ちゃん。」

ポツリ・・と誰に聞かせるでもなくつぶやいた和葉の言葉に蘭は目ざとく反応した。

「鈴木財閥のお嬢様で跡継ぎ・・・やろ?」
「うん・・・そうね。園子見てるとそんな風にあまり見えないのにね・・・。」

言われてみれば・・といった風に、蘭も和葉の言葉に同意した。


「・・・まあ。あいつんちが女の二人姉妹だったってのも関係してるんだろうけどな。」
「そっか。工藤君、園子ちゃんと付き合い長いんやもんな、知ってるんや。」
「まあな。世界でも5本の指に入るほどの一大グループ企業だからな・・・鈴木財閥ってのは。」
「そんな凄い企業の跡取り・・・なん?」
ほーっと感心している和葉。

「あ、でも園子お姉さんが居るって志保に聞いたことあるんだけど?」
蘭は和葉よりも多少は知っているらしく、そうたずねてきた。

蘭の疑問ももっともだと新一は思った。
確かにとかく日本では早いもの勝ちみたいに先に産まれた方に権利が与えられやすい。

「5つ・・・いや、6つだったかな?確かに姉が居るよ。もう結婚してる。」
「結婚?そうなんや。」
「ああ、鈴木財閥と並び称される富沢財閥の子息と結婚したはずだ。」
「そんな財閥のお坊ちゃまと結婚したんなら・・・ますますお姉さんが継ぎそうやのに。」
「そうよね?」

蘭と和葉は新一の言葉にますます分からない。という顔を見合わせた。

「ま、確かにね。ただ結婚した相手も財閥関連の仕事はしてないらしいんだ。」
「え?どういうこと?」

新一の言葉を不思議に思った蘭は素直にそう聞いた。

「富沢財閥の会長の弟なんだけどさ。画家らしいんだ。」
「画家・・・?」
「ああ・・・まあ、枕詞として『あまり売れない』が付くらしいけどな。」
「あらら。じゃあどうやって生活してるん?」
「富沢財閥の芸術関連の仕事を手伝っているらしい。」
「じゃあ、財閥関連の仕事してるんじゃないの?」

確かに蘭の言い分ももっともだ。

「『ビジネスにはノータッチ』という意味さ。」

新一がゆったりとそう答えた。

「???」
「???」

蘭と和葉は新一の言葉にますます分からないといった顔をした。

「美術品の善し悪しを見極める目はもってるらしくてさ。そのあたりの取引を担当してるらしい。」
「へー・・・・。」
「そうなんや・・・。」
新一の言葉に一応納得はしているらしいが、二人ともあまりよくは分かってないらしい。
まあ、こんなことを二人に理解させるために話しているわけではないので、新一はかまわず話を続けた。

「園子の姉さんもさ、一度鈴木財閥の関連パーティで会ったことあるけど・・・これがまた園子と正反対の人でさ。
 おとなしくてのんびりした人で、とても財閥を引っ張っていくような人ではないんだな、これが。」
「だから園子に跡継ぎを・・・って事?」
「そういうこと。もっとも園子もそれに関しては異論ないみたいでさ。『自分が継ぐ』ということをしっかりと認識してる。」
「凄いなあ・・・園子ちゃんて。」

はーっという風に和葉は関心したように驚いてみせていた。

「まあ。親の言いなり。っていうんじゃなくて園子自身が決めてるからな、回りは何にもいわねーけど。」
「園子が鈴木財閥関連の会社を渡り歩いてるってのは・・・・。」
「将来のためのキャリアアップさ。大学卒業したら鈴木会長の秘書をすることが決まってる。」
「あ、さっきいってた『真さん』って?」
「園子の彼氏さん・・・よね?」
「ああ、園子が唯一親にはむかった証・・・だな。」
「え・・・?」

新一の言葉の意味が分からずに蘭と和葉はお互いに顔を見合わせる。

「どういうことなん?工藤君。」

和葉がぐっと身を乗り出し、新一に詰め寄る。
よほど興味のある話なのだろう。
新一は「女の子のゴシップ好き」を身をもって体験し、苦笑いした。

「つまりさ、園子が跡を継ぐんだったら、その伴侶となる男もそれなりの地位を持っていないといけない。
 財閥系の御曹司か大企業のエリート。政治家やその2世なんかがそれにあたるな。」
「え・・・?」
「つまり、親の決めた相手でないとっていうやつさ。政略結婚に近いな。」
「そんな・・・!!」
「それに園子は反発したんだ。高校で出会った京極と恋に落ちた。」
「素敵!」
「やっぱり好きな人は必要やもんな!」

蘭と和葉、二人の乙女チックぶりに新一はははは・・と苦笑いをこぼした。

「だけど京極は一般家庭の人間なんだ。園子の父親ももちろん大反対だ。」
「なんでなん!?好きな人との仲を反対されるやなんて!」
「後世までグループを繁栄させるためにはそれなりの地位を持ったやつでないといけないってことさ。
 そんな世界もあるって事だよ。でも園子はそれに反発した。」

新一は淡々と説明していく。
自分だって、あの両親でなければきっと園子と同じような目にあっていたんだろうなあ?とぼんやりと思う。

「結局、どないなったん?」
「ああ・・。園子が頑として聞き入れなくて結局、両親側が折れたんだ。
 ただし、将来グループの長としてやっていくために、きちんと勉強することを大前提としてな。」
「だから園子、グループ企業周りなんてしてるの?」
「そう。束ねていく企業の内部事情くらい知っておかないとやってけねーだろ?」
「うわあ、大変そう・・・!」
「じゃあ、彼氏さんも??」

和葉が思いついたように新一に尋ねる。

「ああ。主に海外営業を回ってる。もっとも京極自身、空手やっててその腕試しも兼ねてるみてーだけどな。」
「へえ!空手!話合うかもv」
「な、なんで!?」

蘭がニコニコと他の男と話が合う。なんて事を話すので新一は過剰反応し、機嫌が一気に悪くなる。

そ、そらまあ・・・蘭が園子の恋人捕るような真似しねーだろうとはいえ・・・。
他の男と話し合うかもとか言われて気分いいやつなんていねーよ!

自分でもびっくりするくらい不機嫌になった新一は、理性を保とうと自己分析をした。
・・・・そんなことをしたところでますます気分が悪くなることくらい分かりそうなものだ。
だが、今の新一にはそんなことさえも思いつきはしなかった。

「え・・・だって、私も空手やってるし・・・。」
「へ!?」

蘭のさらりと言われた一言は、新一にとって、衝撃となってやってきた。

「ああ、そうやんな!蘭ちゃん、空手続けてるもんな〜!」
「うん。たまに体動かすと気持ちいいしね。」
「空手・・・・。蘭ちゃん、空手なんてやるんだ・・・。」

あまりの衝撃に新一はやっと言葉を搾り出すだけで精一杯だった。


か、空手〜!?ま、マジかよ・・・。


「新一君、どうかした?」
「あ、いや、なんでも・・・あはは。」
「??」

衝撃から抜けられない状態だった新一を不思議そうに声をかけた蘭だった。
だが、蘭自身は自分の一言で新一に計り知れないダメージを与えたことに気づいていなかった。

空手をやっているからといってそれが欠点と新一も考えているわけではないのだが・・・・。


だけど、空手やってるようにはみえねーよ!!
その折れそうに細い腕で瓦とか割ってんのか・・・!?

こりゃー・・・・いきなりがばーっと押し倒してって技は使えねーな・・・・。
逆にのされそうだ・・・・ははは・・・・。


いきなり襲うという物騒なやり方を今すぐ実践しようとしていたわけではもちろんない。
だが、切羽詰って押し倒してしまうという行為にでてしまうのではないか?との気持ちもなかったわけではない。


だが。
蘭が空手をやっているという事実を知ってなお、襲おうという気にはさすがにならない。


事故にあう前に事前に知ることが出来てよかったと新一は思った。



その翌日から園子は毎日訪れては蘭に料理を習っていた。

全ての料理を教わるには時間がなかった。
なので蘭と園子が相談した結果、メイン料理を園子が手がけることにしたのだ。

さて。
何の料理にするか?あーでもない、こーでもない。と話し合う。

結果。
バリエーションがつけやすいとの理由からハンバーグを作ることに決定した。


「ハンバーグだったらいろんな種を作って味が楽しめるしね。」
「よおし!がんばるぞ〜!!」

こうして料理大作戦が幕をあけ、園子と蘭の奮闘が始まった。


何日も何日も、新一が舌を巻くほど努力した園子は漸く納得の行くハンバーグを作ることに成功した。


「や・・・ったああ・・・!!」
「うん、美味しいわ、園子ちゃん!」
「ホント!?和葉ちゃん。」
「ホンマ、ホンマ!」
「確かに・・・うまいよ。」

新一が皿に乗っていた園子製作のハンバーグをほおばり、びっくりしたような声をだした。
まさか園子が此処までやるとは想像だにしていなかったから・・・・。

「うん。園子がんばったものね。これなら明日もばっちりね!」
「やったあ・・・・!!」

蘭の合格を貰え、園子は手放しで喜んだ。

後は、明日の本番を待つばかりとなった。




園子ちゃんの家庭事情。
原作でもこんな風だと楽しいかも・・・??