新幹線の車中。
新一と蘭の間に会話らしい会話は無い。

思いたったように突然やって来た大阪・和葉宅。
無事に仲直りが出来て、平次と和葉の幼少の頃の話も聞けた。
僅かな時間ではあったけれども、充実したと思える。

大阪へやってきて、少しは二人の仲も緩和されるのかと思っていた。
少なくとも新一はそう思っていた。
大阪へと到着して和葉の家に行くまでの私鉄では少しは話せていた。
少しは和らいだと思っていたのに・・・。

実際には新幹線に乗り込むと途端に会話が無くなってしまった。



和葉ちゃんとは仲直りしたけど・・・俺はどうでもいいとか・・・??


考えたくない最後の可能性が頭の中をぐるぐると駆け巡り、新一をひどく落ち着かない状態にしていた。
蘭はもう外の景色もほとんど見えないほど日も落ちたのに、窓の外を眺めたままだった


「・・・新一君。」
「え!?」

はあっとため息を吐いていた新一は、突然名前を呼ばれて驚いた。
車内だから気遣ったのかどうかそこまでは判らなかったが、蘭の声は普段よりも数倍小さかった。
小さい声ではあったけれども、新一の耳には普段よりも数倍クリアに響いた。


「・・・・。」



しかし、蘭は新一を呼んだきり、一言も話さない。
それどころか、日の落ちた見えない景色を眺めたままだった。


「・・・?」

何も話そうともしない。
こちらを向きもしない蘭をいぶかしがり、新一は首をかしげた。

「・・・蘭?」

じれてこちらから蘭の名前を呼ぶと、蘭の肩がぴくり。と震えた。


「・・・???」


ただ、呼んだだけと言うわけでもなさそうだ。
的外れな感想を持って、新一はほっと息を吐いた。


「・・・あの・・・ね。」
「ん?」


たどたどしい、蘭の一言、一言。
迷っているわけでもなさそうな声に新一はじれったさを感じながらもそのまま耐えた。
せっかく蘭から何らかのアクションを起こしつつあるのに、それを無駄に振り回し、フイにしたくは無かった。


窓に映る蘭が何かを決意したように「うん。」と大きく頷くのが新一に見えたと思ったとき。
蘭が、新一に真正面から向き合うようにまっすぐにこちらを見ていた。


「な、な、ナンなんだよ。」

新一の声が慌てすぎてどもっている。


かっこわりぃ・・・と自分で感じつつもそれを訂正させる猶予を蘭は与えなかった。

「あの、ごめんなさいっ!!!」

蘭はソレだけを一気に言い切ると90度になろうかと言うほどの角度で頭を下げた。


「・・・え。あ、いや。」
「・・・・ごめんなさい。」


しどろもどろになっている新一にも我関せずで「ごめんなさい。」を繰り返している。
新一は、そんな蘭の姿をぽかんとした顔で見ていた。
まだ、理解が出来ていない・・・そんな顔だった。


「・・・本当に、ごめんなさい。」
「・・・や、あの。」
「・・・新一君をないがしろにしたとか、そんなんじゃないの。」
「・・・。」
「でも一度休みだって告げておいてやっぱり来て欲しいとは・・・言いづらくて・・・。」
「・・・・。」

漸く頭のパニックが落ち着いた新一は、蘭の一言一句聞き漏らさないようにじっと耳を傾けている。
そんな新一の態度が蘭をひどく落ち着かない気分にさせたが、蘭は思う限りの言葉で謝罪を続けた。

「でもお昼時、お店を私一人で回すことも無理で・・・。だ、だから・・・。」
「うん。俺じゃなくて幼なじみの宮野とかの方が頼みやすいって判ってる。」

口ごもった蘭を助けるように新一が漸く口を開いた。
その言葉が耳に届いて、蘭は顔を上げた瞬間、どきり。とした。


「新・・・一君。」

蘭を見るその瞳がとても優しくて、深くて。
その瞳に、吸い込まれるような感覚に落ちた。


「うん。判ってる。・・・今日の和葉ちゃんの話聞いたりしてて。」
「新一君?」
「幼なじみって気心が知れてるんだもんな。・・・頼みやすいのも判る。」
「・・・。」
「でも・・・俺はあの店の『Phalaenopsis』の従業員だろ?”何か”が目的があるのなら、それを伝えて欲しい。」
「・・・うん。・・・ごめんなさい。」

項垂れきって、ごめんなさいを繰り返す蘭の姿をみて、新一はくすりと笑みを零す。

「もういいよ。俺そんなに怒ってるわけじゃねーよ。謝るのもうナシな?」
「・・・うん。ありがとう・・・。」

ほっとした顔を漸く見せた欄のその顔がとても可愛くて、新一は衝動的に抱きしめたくなる気持ちを必死に抑えた。

「・・・よかった。」
「え?」

心底ほっとするような声を出す蘭の意味がわからなくて、新一はそのまま聞き返した。

「・・・新一君と仲直りが出来て、本当によかったって思ったの。」
「え・・・。」
「・・・結構苦しかったんだ。・・・新一君とぎこちないのって・・・。」
「ら、蘭、それって・・・!!」


新一は望みがかないそうな錯覚を起こして、そのまま蘭の腕をつかんでしまった。

「同じ店で働く仲間だもん。・・・きまづい思いしたくないもの。」
「な、仲間・・・??」


蘭の一言で新一の動きが完全停止する。


「大好きな仲間だもん!・・・失いたくないって思うから。」
「は、はは・・・。」


蘭の言う一言一言はとても嬉しいものだ。

大好き。
失いたくない。


だけど・・・それは「男と女の間柄」じゃない。
蘭にとっては、「いい仲間」。


漸く新一と仲直りが出来てうきうきの蘭とは対照的に。
仲直りが出来た割には、魂が抜け出そうになっている新一を乗せた新幹線はもうすぐで、東京へと到着しようとしていた。



漸く新蘭仲直りです。

蘭ちゃんがすこ〜しだけ恋?を自覚し始めてます。
ですが、今は平和の回なので新一君に幸せが先に来ることはありません(鬼)

もう少し耐えてね、新一(にっこりv)