和葉は一人、台所のイスに座ってぽおっと今日の出来事を思い出していた。





「・・・ごめんな?私が語りすぎたみたいでもうこんな時間になってしもて。」
「ううん?とっても興味深かったよ?」

思う以上に長く語りすぎた反省から和葉が新一と蘭に頭を下げる。
しかし蘭は謝られている理由がわからないとばかりにきっぱりと言い切った。
そんな蘭の態度に和葉は少しだけほっとした。
そうして、第三者に幼い頃の自分たちの事を話すことで少しだけ心が軽くなった。


和葉の昔話が終わったとき、もう既に辺りは暗くなりかけていた。
平謝りして、泊まっていくように新一と蘭に話したが、蘭は東京へと戻るといいだした。
和葉のためにちゃんと明日はお店を開けたいといったのだ。
ここ数日間、店側の都合でお客様をないがしろにしてしまったから反省の意味もこめて
これ以上に頑張りたいという蘭の気持ちは和葉にだって理解できた。

だから無理には引き止めることはしなかった。
新一も一緒だし大丈夫だろうと和葉は最寄の駅まで見送った。
本当は新大阪駅まで一緒に行こうと思っていたのだが、二人に断られた。
二人を見送ったあと、ゆっくりとその道を引き返しがてらスーパーへと寄り道した。

店側の都合でお客様に迷惑をかけた最大の理由が自分なのだから戻り次第すぐに貢献できるように。
考えかけて放置していた新メニューの仕上げをしようと思ったのだ。
もちろん、いきなり帰ってきて迷惑かけてしまった父親に美味しい料理を食べてもらいたいとの理由もあった。



そうして完成間近の料理は今、オーブンの中で熟成されている。
その間に思考の海へと意識を飛ばす。

料理人を志した第一歩のお話。



平次の衝撃の告白からずっと、和葉は悩んでいたから。
告白されて嫌じゃなかったどころかむしろ嬉しかった。
でも自分はずっと平次をどう思っていたのかなんて判らなかった。

1週間かかってやっと「好き」に気づいたけれどもソレが正しいのかどうかが判断つかなかった。

他人が思うよりもずっと傍にあった存在。
超越しすぎてて、そんな簡単な言葉で片付けていいのかとも思った。



改めて「料理人になった理由」を考え直してみてはっきりしたのだ。


料理人になりたかった理由はただひとつだけ。
平次の喜ぶ顔が見たかったから。



気づいてみてなぁんだ。と逆に拍子抜けした。



いつから平次のことが好きだった?


そんなの悩む必要も無かった。
だって、ずっとずっと昔から大好きだったんだから。
そばに居すぎて”気持ち”がそうだとは判らなかっただけだったのだ。


「私ってホンマ、アホやなぁ。」

くすり。と笑いながら零れ落ちた一言。
卑下するような言い方でもない、本心からの言葉。
それで気持ちが全てすっきりした。

あとは、東京へ戻って平次に会いに行くだけ。
気持ちを伝えて終わり。


そう考えて和葉は瞬間湯沸かし器のように沸騰してしまった。


や、ちょお待って?
私が・・・平次に?
なんて、言うの?

「好きやねん。」


言うべき言葉を告げる自分を想像して和葉は我を忘れて右手を振り回す。


きゃああああ!
どんな顔して言ったらエエの?

いやああああ!
そんなこと恥ずかしくてよお言われへん〜〜!!



急激に自覚した和葉は、急激に訪れた恥ずかしさで一杯になった。
そんな彼女を帰宅した父が無言で見ていた。


「あ・・・お父ちゃん・・・。」
「どないしたんや、和葉?腕なんて振り回して。」
「あ・・・ううん。なんでもないんよ。・・・もう少しでご飯出来るから着替えてきたら?」
「・・・そうするかな。」

娘の奇行に疑問を持ちながらも、父は言葉に素直に従い、階段を登っていった。


父が階段を登る音を聞きながら、熟成させていたものの状態を見るためにオーブンを開ける。
いい感じになってきた料理を完成させるべく、和葉は意識を切り替えた。

流石プロの料理人といったところだろう。



「おお、美味そうやな。」
「アリガト。今、ご飯よそうな?」

父の感嘆の声ににこりと嬉しそうに笑い、和葉はご飯をよそう。

「お父ちゃんのご飯の量は平次より、ちょっと少なめ。」

もうすっかり覚えてしまった平次の量で調整すると思うとちょっと笑える。
それだけ和葉が平次に料理を作るのが当たり前になっているということだろう。


レストランのシェフになりたかったわけや無いんやもんね、私。
蘭ちゃんのところが居心地いい理由、よくわかる。


くすり。と笑みを零して、茶碗を机に置いた。


「いただきます。」
「いただきます。」

ちゃんと挨拶をしてから、箸を取る。
父親と囲む久しぶりの食卓。

・・・なんだか凄く気恥ずかしかった。
和葉が東京へ行くまでの18年間、ずっと変わらない風景だったはずなのに。
たった3年ほどでこんなにも意識が変わるだなんて。

そんな風に感じていた和葉の思考を切ったのは父親だった。


「なんや、久しぶりで勝手が狂うな。」
「え?」
「和葉と食べる食事が凄い嬉しいっちゅー事かな?」
「・・・お父ちゃん・・・。」


父親の心からの言葉に和葉は嬉しさと共に申し訳なさも滲ませた。

「ごめんな・・・。」
「なんで謝るんや?」
「せやかて、お父ちゃん一人にして東京行ってしもうて・・・。」
「・・・。最初は根負けやったんや、本当に。」
「・・・うん。」
「せやけど、ちゃんと学校行って、就職して。頑張ってる和葉見とるとよかったんやって思えるんや。
・・・せやから、気にすること無い。お父ちゃんはこうやってたま〜に和葉の料理が食べられればそれでいい。」
「うん。うん、お父ちゃん、ありがとう。・・・たまに帰ってくるからな。」
「ああ、楽しみに待っとるわ。」


父親の言葉に最大級の感謝をして、その日和葉は眠りについた。

平次への告白は・・・出たとこ勝負で行くことにした。




長くてスミマセン・・・。
やっと和葉ちゃんが東京へと戻ってくれそうです。
父子の会話・・・と申しましょうか?ま、つなぎと思っていただければ幸いです。

やっと次回で新蘭仲直り、そして平和の決着・・・!!!(希望)