何なんだ・・・??一体。

蘭ちゃんと和葉ちゃんはひとっこともしゃべらないで目の前の料理を食べてるし。
服部は服部で、一人、ため息をつきながら料理を口に運んでるし・・・??


なんなんだ・・・、これは・・・??


新一は、普通とは一風変わった食事風景を不思議そうに見ていた。



蘭と和葉は、目の前の料理を、美味しそうに食べている・・・というよりは、どこか研究でもするように、吟味している。
楽しみながら・・・というよりは、どこか真剣勝負のような感覚を新一に思い起こさせる。

平次は平次で最早、目の前の料理を無理やり押し込んでいる・・というように、美味しくなさそうに口に運んでいる。
どこか悲壮感と、あきらめも伝わってくるようだ。

新一は一人、この状況を理解できず、困惑していた。
話しかけても、誰一人、返答はないのだ。

最後には新一も、一言もしゃべることなく、目の前の料理を口に運んでいた。
周りには一種異様な光景だろう・・と感づきながら、あえて無視しながら・・・・・。



一風変わった食事が終了し、4人は会計を済ませ、漸く店の外へと出てきていた。
蘭と和葉はそのまま黙ったままだし、平次はあきらめきった顔を隠すこともなかった。

新一は、そんな不思議な雰囲気を変えようとわざと大きな声を出した。


「さて!!そろそろ会場時間だし、行こうぜ!」
「せ、せやな!話題の小説の映画やしな!和葉も蘭ちゃんも楽しみにしとったやろ!!」

平次はそんな新一の声にかぶせるように、大げさな声でわざと興味をそそるような事を口に出した。
新一はますます不思議そうに平次を見た。



どちらかというと、平次は映画に興味を持っていなかった。
和葉が見たいから、ついてきただけ・・・という印象が新一の中にあったからだ。


「せやね・・・・。」

和葉がそれでも平次の言葉に反応して、一歩を踏み出した。
だが、蘭はその場から動かなかった。

「蘭・・・ちゃん・・・?」

聞こえなかったのか・・??と新一が相変わらず、態度のおかしい蘭にためらいがちに声をかけた。


「蘭ちゃん・・・・?」

それでも一向に動こうとしない蘭にじれて、新一がもう一度蘭を呼んだ。
ぴくり・・と蘭の肩が動き、蘭が新一の方へと顔を上げた。

漸く反応が返ってきた・・・と思った新一が耳にしたのは、蘭のとんでもない言葉だった。


「ごめん、私帰る・・・!」
「はあ・・・!?」

まさに晴天の霹靂のような蘭の言葉に新一は突拍子もない声をあげてしまった。

「か、帰るって・・・蘭ちゃん・・・!?」


そういった新一の声も聞こえていないのか、蘭はくるりと体をそむけて、駅へ向かって歩き始めた。

「あ、ちょ、ちょっと・・・・!!」

新一はわけも分からず、慌てていた。

「蘭ちゃん!!」

和葉の蘭を呼ぶ声が聞こえ、新一がほっとした。
蘭を呼び止めてくれる・・・と安堵したのだ。


だが、このときの和葉は新一の味方ではなかった。

くるり・・・と和葉の声に反応して、顔をこちらへ向けた蘭に向かって和葉はきっぱりと言い切った。

「あたしも帰るわ!!」
「え・・・・・??」

和葉の予想外の言葉に新一はまたも固まった。

「和葉ちゃんもやっぱり・・・?」
「蘭ちゃんとおんなじや!」

にこりと二人だけが通じる意思疎通を交し合い、今度こそ、駅へと向かって歩き出してしまった。

「え・・・・・?」

わけも分からず、呆然と二人を見送っていた新一のシャツをぐいっとつかみ上げ、平次が声を荒げた。


「ほれ、思ったとおりやないけ!どないしてくれんねん、工藤!!」
「な、何がだよ!こっちだって何がなんだか訳、わかってねーんだよ!!」

つかみあげられたシャツを勢いよくはずし、新一が逆に切れた。
自分ひとりが分かってないように感じたからだ。

「お前が評判のレストランなんぞに連れてくからあの二人、料理人魂に火がついてもーたやないか!!」
「・・・料理人・・魂・・??」

イラついたように一気にまくし立てる平次の言葉にますます新一は訳が分からない。

「あの二人は正真正銘の料理ドアホウなんや!!うまい料理に出会ったら、それを徹底的に研究せんと気がすまへんのや!」
「・・・・つまり・・・・琴線に触れて・・・料理がしたくなったから・・・帰ったってこと・・か?」
「せや!!」

新一の言葉に平次は大きくうなづいた。

「せやから、外で食うときはそこそこのファミレス使うんや!」
「だ、だったら、もっと早く言えよ!」
「言うたやろーが!!ファミレスでええやんけ!!って・・・!!」
「バカヤロー!!そういう大事なことは事前に言っとけよ!俺が知るわけねーだろ!!」
「言う暇あったか!ボケ!!」

新一と平次はヒートアップして、道のど真ん中でぎゃあぎゃあと言い合っていた。

「っと・・!!じゃあ、蘭ちゃんたちは・・・。」
「・・・店、やろうな。」
「行くぞ・・・。」
「試写会はええんか?」

店へとまっすぐ向かうように駅へと歩き出した新一に平次が声をかけた。

「オメー・・・・男同士で恋愛ものの映画なんて見る気になんのか・・?」

くるりと振り返って、ジト目で新一はあきれたような声をだした。

「ならへんな・・・。」

ため息をついて、平次は歩きだした。




店へ着くと、新一と平次は店の扉をそうっとあけて、中をのぞき見た。
蘭と和葉は調理場で忙しそうに動き回っていた。

新一と平次は、この状態では蘭と和葉は何を言っても、反応はないだろう・・・。
と、そのまま無言で店内へと入り、二人の調理の見えるカウンター席へと腰を下ろした。



蘭と和葉は真剣そのものの表情で調理していく。
手際は相変わらず良く、瞬く間に料理が出来上がっていく。

新一はそんな蘭をじっと見ていた。
目の前で生き生きと動く蘭を見ていると新一は自然と笑みが広がっていく。
それは、和葉を見ていた平次も同じだった。

「・・・映画、すっぽかされた割に、やけにすっきりした顔しとるな、工藤。」
「・・・・オメーもな。」

にやり・・と新一はどこかおどけてからかってきた平次に向かって逆に切り返した。
平次もふ・・・っと笑い、新一に返した。

「・・・ま、調理しとる時が一番生き生きしとるからな・・・和葉。」
「蘭ちゃんもそうみたいだな・・・。」
「また悔しいことに、そん時の和葉がいっちゃん・・・きれいに思ってまうんやなあ・・・。」
「・・・・だな。」

新一はきびきびと精力的に動く蘭を見て、平次の気持ちが寸分違わず、理解できた。

無邪気に笑う姿もかわいいと思う。
照れてはにかむ姿もいいと思う。

でも一番いいな・・と思うのは蘭が楽しそうに料理している姿だったりする。

映画に一緒に行けなかったのは残念だったけど、こんなに料理している姿を見れたのなら・・・まあ、いいか。
と素直に思うことができた。



「出来た〜!!」
「こっちも完成や!!」

蘭と和葉、同時に声が上がった。

「お!出来たか。味見したるで。」

平次がカウンター席から立ち上がって、自身を指差しながら身を乗り出した。

「相変わらず、食い意地はってるなあ。平次。」
「ええやんけ。」
「ええよ!」

和葉は平次の前にたった今出来上がったばかりの和葉渾身の料理が並んでいった。

新一はそんな二人を見ながらくすくすと笑っていた。

と、新一の前に料理が並んだ。

「え?」

新一が、ぽかん・・と蘭を眺めた。
蘭はにこりと笑って新一の前に蘭渾身の料理を並べていった。

「和葉ちゃんの料理は服部君が食べちゃうから。残り物で悪いんだけど工藤君には私の料理を。食べて?」
「・・・喜んで。」

新一は蘭の言葉に応えて、蘭の作り上げた料理を食べ始めた。


「ん、うまい!」
「ホント?」
「ああ。・・・これさっきのカフェの料理のアレンジ・・・??」
「うん。オイルを変えてみたの。こっちのほうがあうかなって・・・。」
「うん、さっきのより好きだな、俺。」
「よかったあ・・・・。」

蘭は本当にうれしそうにほっと胸を撫で下ろした。

「どう?平次。」
「うん、うまい!めっちゃうまいで和葉!」
「せやろ〜!!」

和葉と平次もとてもうれしそうに話していた。


4人、幸せで穏やかな時間が流れていた。


「あ・・・・!!」

蘭が急に、大声をだした。

「どうしたん?蘭ちゃん。」

急に声をだした蘭にびっくりして、和葉は驚いた声を上げた。

「あ・・・うん・・・・。」

急にうろたえたように、蘭は小さくうなづいた。

「あの・・・工藤君・・・?」
「?どうかした・・・?」

新一は、不思議そうに蘭を眺めた。

「せっかく・・・映画誘ってくれたのに・・・。」
「あ・・・。」
「せやった!ごめん・・・・!!」

和葉も蘭の言葉を受けて、自分が何をしに行ったのかを思い出したようだった。

「ああ・・・いいよ、もう。」
「せやな!!うまい料理食わしてもろたし。」
「だよな!」


確かに最初は残念だった。
園子からの交換条件を受けてまで蘭とデートをしたかった。

でも。
生き生きと料理している蘭を見ているとそんなことはどうでもよくなっていた。
料理している蘭をとても好きだと思ったから。



本当にもう、いいのだ。




「そうはいかないわよ!せっかく誘ってくれたのにわたし・・・・!!」

蘭は本当にすまなそうに新一に食い下がった。

「ん〜・・・・。」

新一は本当によかったのだが・・・・。
ふと、思いついた。


「じゃあさ、ひとつ聞いてもらおうかな?」
「うん。」


蘭はぴんっと背筋を伸ばして、新一に向き直った。

「今度さ、園子と宮野に連れられてキャンプに参加することになってんだけどさ、俺。」
「うん・・・??」
「蘭ちゃんも行かないか?」
「え・・・・?」

いきなりな突拍子もない新一の言葉に蘭は呆然とした。

「で、でも私学生じゃ・・・。」
「蘭ちゃんなら園子も宮野も了解だすさ。」

確かに蘭なら園子も志保も簡単に了解するだろう。
そう思った新一は、蘭をキャンプに誘うことを思いついたのだ。


「本当に・・・それでいいの・・・?」
「ああ。」
「なんとなく・・・お詫びにならないような気がするんだけど・・・。」
「とんでもない!十分、お詫びになるさ。」

新一はにかっと蘭に笑いかけて、参加を促す。
蘭は、それでも躊躇していたが、やがて決心した。

「分かったわ。じゃあ・・・参加しますね。」


やった・・・・!!
これでつまんねーキャンプが一気に楽しみになったぜ・・・・!!



さー・・・てと。
あとは、あいつら・・・だな。




ちなみに和葉も平次の見たい映画に付き合う・・ということで決着をつけたようだ。






翌日、学校では園子と志保に詰め寄る新一の姿があった。


「オメーら、俺をはめやがったな・・・!!」
「何のことかなあ?」

新一の地の底を這うような低い声にものほほんとして、園子は余裕しゃくしゃくだった。


「とぼけんな!テメー!!チケットをわざと俺に見せて蘭を誘うように仕向けて!
 挙句、俺がカフェレストランに行くことまで誘導しただろう!」
「そんなことしてないわよお!」
「仮にしてたとしても・・・?映画に蘭を誘うかどうかなんて私たちには分からないし? 
 ちょっと見てただけの雑誌のカフェの場所なんて貴方が覚えたなんて思わないんじゃない?」
「そうそう!それにそのカフェに行ったからって蘭が必ずしも料理に燃えるなんて・・・分からないじゃない。」
「屁理屈ばっかり捏ねてんじゃね〜!!」

口の減らない二人に新一はますます切れる。

「服部が言ってたよ!あの二人は旨いレストランへつれてくと必ずそうだってな!!」
「あら、そうなの?」
「ああ!それを高校からの知り合いのオメーが知らないわけないだろ、宮野!!」
「そうだったかしら?よく覚えてないわ、私。」
「てめ・・・・!」
「ふうん。てことは蘭、映画も見ずに帰っちゃったってわけ?」
「ああ!」

新一が沸騰する頭を冷静に戻そうともせず、二人に怒鳴っていた。

「まあ・・・いいじゃない。蘭の料理、食べられたわけだし?」
「そうそう!渾身の料理、美味しかったでしょ〜・・・・?」

反省の色も見せず、新一に逆に切り返してくる二人に、新一は最早、怒鳴りかえす余力さえ、なかった。

「もう・・・いい。おれ、バイトあるし、帰る・・・。」
「ああ!蘭とのデートがうまくいかなかったからって、キャンプ参加は決定だからね!」

忘れないように新一に釘を刺しておこうと、園子が大きな声で新一に言った。

その言葉に新一は言わなければならない事を思い出した。

「ああ?」
「強制参加だからねっていったのよ!」
「そのことなんだけどさ。」
「なによ?」
「蘭ちゃん参加させてくれよ。」
「は・・・・・?」

新一の言葉に園子と志保はびっくり眼で新一を見てきた。

「映画いけなかったからって蘭ちゃん気にしててさ。お詫びに何かさせて・・っていうから。」
「それで・・・キャンプ参加?」
「そう。」
「いいわよ、もちろん。前々から蘭、誘ってたのよ。」
「じゃあ、決まりな。蘭ちゃんにもそう伝えとくから。んじゃな!」


新一は二人の了承を取ると、今度こそ講義室を出ていった。


「・・・・ふうん?やっぱり志保の予想通りになったわね。」
「馬鹿ね。予想外よ。」

園子の言葉に志保は正確に言葉を返した。
「予想外?」
「ええ。工藤君が蘭をキャンプにまで誘えるとは思ってなかったわよ。」
「まあ・・ね。でも蘭とキャンプいけるんだし!新一君を思い切りこき使って、楽しもう!」

園子はとても楽しそうに今度のキャンプへの思いを語った。

「そうね。」

と志保は穏やかに笑いながらそう返した。

・・・蘭の感情の変化に複雑な思いを抱えながら・・・・・・。


ま、キャンプでいきなり進展って事もないでしょうけど・・ね。


自分の予感を気苦労で終わることを願って、志保はキャンプの最終のつめを考え始めた。








園子と志保の悪巧み、わかりました??(って、わからないって!)

このお話を思いついたきっかけが、原作では新一と平次に蘭と和葉が振り回されてるので、
逆だったらどうだろうなあ〜??と思ったのです。

・・・・ごーいんぐまいうぇいな処は変わらずなのですが、後の対処方法はちょっと蘭ちゃんらしく?のつもり。

志保姉さんの意味深なセリフ。ふふふ〜vv