ツーリングレポート

 

 

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              2002年8月9日〜16日

              題名:Inoさんの北海道ツーリングレポート

 

 

少し遅くなりましたけど、Inoさんのツーリングレポートです。今回は夏の連休を利用して北海道ツーリング!!
気合を入れて書いてますので、読む方も気合を入れて読んだって下さい!!
んでは!

 

 

北の国から 2002 夏 〜旅立ち〜

 

2002年8月9日〜16日

総走行距離 : 約 2,200q

バイク : 俺 Kawasaki ZX−9R

             (平均燃費 22.6q/Liter)

      竜治 BMW F650GS

             (平均燃費 30q/Liter以上)

 

 

1. 逃亡                  8月9日

2. 船中無策               8月10日

3. 上陸 〜魔王降臨〜        8月11日

4. 夢想花                 8月11日

5. マイペース               8月11日

6. 利尻礼文サロベツ国立公園    8月11日

7. 最北端                 8月11日

8. 狂奔                  8月11日

9. 道東                  8月12日

10. 未開                   8月12日

11. 最果て                 8月13日

12. WHITE OUT            8月13日

13. イチバン                 8月14日

14. 青天の霹靂              8月14日

15. 目的                  8月14日

16. 宴                    8月14日

17. 麓郷                  8月15日

18. サラブレッド               8月15日

19. 神様の贈り物              8月15日

20. 惜別                   8月15日

21. 旅立ち                 8月16日

 

 

1.逃亡

通常、金曜日は忙しい。夏場から初冬にかけてが繁忙期に当たるの仕事の場合、お盆休み直前の金曜日と言えば尚更だ。
は過去数年間のデータを入念に分析、そこに今年の傾向を加味して、ちょいと足りない脳みそを煙が出るまで振り絞り、起こり得る事態を予測する。
それを関係各社のキャパシティーに応じて適正に割り振り、準備完了。とは言っても、箍の緩んだチンケな野郎が創った予測通りに事が進むとは限らない。
不測の事態に備えて、後の事をF田君に託す。すると、

『(責任持てんから)資料持ってってください。それと、会社の携帯もね。』

…そう来たか。しかし、もうあれこれと文句を言ってる暇は無い。

『分かった。んじゃ、後頼むわ。』

『お土産は鵡川産の本物のシシャモが良いなぁ…。』

『…分かったよ(こいつ絶対殺す)。』

午後5時30分、さっさと会社から脱出。6時過ぎには自宅に到着し、最後の逃走準備にかかる。
7時には相棒の竜治がやってくる。準備も完了という時に、さっき会社で持たされた携帯が鳴った…。F田君だ…。

『いきなりピンチです! ど、どうしましょう? もうヤバイっすよ〜!』

予定外の顧客要求にテンパってしまっている…。

『どぁ〜いじょ〜ぶだぁよ、のびた君、じゃない、F田君。(薄ら笑い)』

は瞬時に、的確な判断でF田君に内容変更を指示する。やれやれ、おっと、もう竜治が来る頃だ。さぁて、準備できた、出発しよっ。
という時に、またしてもさっき持たされた携帯が鳴る。F田君だ…。

『今度こそピンチです! ど、どうしましょう? 本当にヤバイっすよ〜! もう無理無理!』

予定外の顧客要求に完全にテンパってしまっている…。

『どぁ〜いじょ〜ぶだぁよ、のびた君、じゃない、F田君。(怒声)』

は瞬時に、適当な判断でF田君に内容変更を指示する。えぇっ?良いんだよ、もう適当で!ふぅ、まったく、この役立たずめ…。うわぁぁ、もう7時だ、はよ行かな!

慌てて飛び出すと、バイク置き場には既に竜治が待っていた。ごめんごめん、そんな怒んなって…。
てな事で午後7時過ぎ、自宅前を出発。新御堂から中環に入り、中国道池田ICへ。夜間の走行は(怖いから)あんまり好きじゃないのに、舞鶴道に入ると照明が無くなり、もっと怖い…。
必然的に、俺たち二人は亀になる。軽四輪にも抜かされる2台のビッグバイク…。良いんだよ、俺たちの逃亡は今始まったばかり。
今はまだ目立つ行動は取っちゃなんねえ、目指す大地で存分に駆け回れりゃあ、こ〜んな屈辱、屁でもねえ(やせ我慢)…。
時間はたっぷりあったので、そんなノロマな亀でも舞鶴港に余裕で着いた。
午後9時20分、舞鶴港到着。それでも小樽行きバイクは既に20数台集まっていた…。(最終的には、100台近くのバイクを飲み込んでました。)

本日の走行距離、約135q。 自宅−舞鶴 晴れ

 

2.船中無策

相棒竜治に逃亡用の軍資金を渡し、一元管理させる。別に俺たちは貧乏旅行をしたい訳でもなかったので、好きなものを好きなだけ買って、飲んで食った。
二ヶ月前のフェリーの予約も、確実に取る事が最優先で、結果、俺たちは特等室にいた。
特等室と言ってもまぁ、ビジネスホテルのツインルーム程度のもんだが、下々の民の生活と比べると、天と地ほどの差があった。快適なのは良かったが、誤算もあった。
…おネイちゃんたちとお友達になれない。普通のライダーさんは良くても2等寝台、大抵は2等の雑魚寝部屋。
俺たちも普段は2等だが、小樽までの長い船上生活(約30時間)を、あの左右を気にしなければならない状態で過ごすのはご免だった。
ただ、見知らぬ人たちとお友達になるのはそちらの方が都合が良い。快適ではあるが、TVを見るくらいしかする事の無い、まるで週末のお父さんのような退屈な生活に飽きたは、

『下々の奴らの生活でも見に行くか?』

『行きましょう!』

…やはり竜治も時間を持て余していた。

下界に下りると、そこは芋洗い状態。50pほどの幅に区分けされた2等室は、もはや囚人の寝床よりも酷い状態だと思われ、皆そこから脱出し、ロビーの所々で大小の集まりが数個、丸くなって陣取っている。
元々グループだった奴ら、船上で出来た集団、そりゃ様々。しかし時既に遅し、今となっては俺たちなんてどの集団にも属す事が出来ず、ただ遠巻きに見ているしか無い状況。
そんな中、ロビー中央辺りに陣取っている集団の中に、ライダーさんらしきカワイイ女の子がいた。
“ツーリングマップル”と“とほ宿”のガイドブックを持ち、それらと交互に睨めっこをしてる。その前を通りながら彼女を見つめていると、おもむろに彼女がその視線を上げた。
…目が合ってしまった。じっとを見つめる彼女の口元はかすかに微笑んでいたように見えた。
数秒間見つめ合った後、根性無しの彼女に話しかける事も出来ず、逃げるようにその場を去った。

『きっと話しかけて欲しかったんだろうなぁ…。』

と、後にその事を竜治に告げると、

『フッ…。そう思ってんのはアンタだけですよ。(つっかウゼェよ、死ね!)』

嘲笑われた…。その後もTV見て屁こいて寝るくらいしか出来ない俺たちは、退屈な時間を飲んで食ってで、金かけまくって潰し続け、必要以上に軍資金を浪費した。

本日の走行距離、0q。

 

3.上陸 〜魔王降臨〜

今年の北海道は天候に恵まれてないらしい。ここんとこずっと雨続きだったし。だから例年より寒い。
このフェリーで秋田から青森辺りを通過してる時なんかも、夜みたいに真っ暗で土砂降りだった。
TVのニュースを見ると、今日は北海道中部から南部にかけて雨。ただ午前中早いうちは何とか持ちそう。北部のみ晴れ間が拡がる。
そっか、さっきの土砂降りが北上してきてるんだ…。でも、俺たちの今日のルートは道北一帯。うん、なかなかラッキーじゃん。

午前4時過ぎ、定刻より少し早く下船開始。テキパキと荷物を積んで、さあ、いよいよ上陸だ。

『あのかわいいおネイちゃんは何処に行くんだろうな?きっと寂しがってんだろうなぁ…。』

『フッ、呆れてモノも言えまへんわ(…誰かこいつを連れて行け〜っ)。』

まだ薄暗い中、ついに俺たちは北の大地に降り立った。

小樽港は濃霧。さすがに肌寒いねえ。よっしゃ、取り敢えず高速乗ろ、今日は時間もたっぷりあるし、何より体力十分やし。
俺たちは今日、ただひたすら北を目指す。が、しかしは少し濃霧を見くびっていたらしい。しばらく走ると、シールドが曇ってほとんど視界が利かなくなった。
その上、ジャケットの軽い撥水性は機能せず、びしょ濡れ状態に。おまけにインナージャケットを装着すんのも忘れてたもんだから、寒くってしょうがない。
札幌JCTを北に向かい、しばらくすると霧も晴れたが、凍えるような寒さだけは収まらない。やっとこさで岩見沢SAを発見、ほっとして前を走る竜治にピットインのサインを送るのだが、何故か無反応。
…案の定、無視して通過しちまいやがった。の体力、いきなりエンプティー!カチカチと鳴り止まない歯を必死に噛み締めても、力がちょっとでも抜けたらオートマチカリーに、しかも非常に速いテンポで鳴り響く警告用マイボディーパーカッション
折角綺麗な景色が眼前に飛び込んできてるのに、まったく記憶に残らない。つっか、このクサレ脳みそに届かない。

『ヘイッ、アミーゴ、もうミーは限界アルよ〜!』

ついには精神分裂症をきたして叫んでみても、それは虚しくヘルメットの中で己の頭に響くだけ…。

『フヒッ、フヒャヒャヒャヒャッ、Oh Yes, I am an ICE MAN!…ΘÅΨΦξ‡ψ∇δ!』

ぶっ壊れた暴走粗大ゴミと化してしまったは、その異常な何者かに支配され薄れて行く意識の中で、だけれども確かに、“茶志内PA”の標識を見た。その一瞬、脳内の支配率は80%ほど本来の自分に回復、は最後の力を振り絞り、竜治をぶち抜いて茶志内PAに飛び込んだ。

『…(助かった)。』

バイクを停めて近寄ってきた竜治は、の顔を見るなり驚いた様子で、

『顔色ありませんよ!唇も紫色やし!大丈夫ですか?』

は薄ら笑いを浮かべながら、

『ちょ、ちょっとここらで茶〜しない(茶志内)?』

『…(そのまま凍え死んでください)。』

 

4.夢想花

まだ少し脳みそが凍結大魔王に支配されているは、竜治の言うがままに、何も無い茶志内PAから15qほど先の砂川SAに連行された。
竜治
は元々ここで朝食を兼ねて休憩を摂るつもりだったらしい。う〜ん、壊れちゃってごめんね…。だけどまだ午前6時、レストランも何も開いてやしねえ。
しょうがないから自販機のほっかほかチャーハンとホットコーヒーで暖を摂る。
いんや〜っ、生き返りましたよ。人間てギリギリまで追い込まれるとホント、モノのありがたみが分かるのね。神様ありがとう、もう贅沢は言いません。
あぁ〜っ、生きてるだけで幸せ。

『ん?竜治、俺はもう大丈夫だよ、100%復活、だぴょ〜ん!』

『…(まぁだラリってやがる)。』

ほいたら和寒ICから40号を北上して、名寄の50万本のひまわり畑を目指しましょう。
当初は小樽からずっと海岸線を北上する予定だった。けれども、竜治の奴があっちもみたい、こっちもみたい、って駄々こねやがるもんだから、しょうがなくこのがルート設定に加えてやったんだよ、感謝しろ。

その40号沿いの市街地を走ってて、妙な事に気がついた。片側一車線ずつの対面通行なのだが、その一車線の幅が二車線分は悠にある。
で、たまにある信号の前では、車も何故か行儀良く2列に並ぶ…。これが北海道流のルールなのか?いやぁ、実に興味深い…。

がそんな地域特有と思われる交通事情に気を取られていると、見たことも無い“木のマーク”が付いたGSに竜治が入って行った。

『おやっ…?お〜っ、これがホクレンのGSかぁ〜っ!』

上陸後、初の給油ポイントはホクレン風連給油所。いやいや、お初にお目にかかりますぅ、今後ともヨロピク〜。
ほんでもって、給油に出てきた女の子を見て、マジたまがったね、ホントめっちゃかわいいの!
笑顔を絶やさず一生懸命働いてる姿に、は一瞬でフォーリンラヴ…。ゲヘヘッ、こりゃさぞかし竜治も羨ましかろうと自慢げに目をやると、そこにはなんとモー娘。石川梨華ちゃん激似の女の子!おいおい、何なんだよここは、竜宮城か?風連ってのは、美人の産地で有名なのか?…いや、聞いた事ネェ。
ほいたらはまだラリってるのか?

『…(まさか俺、ここ来るまでに事故って死んでネェだろうな?)。』

夢のようなオアシスに辿り着いたは、自分の生死すら疑った。…しかしどうやらこれは嬉しい現実らしい。
すぐ横で、竜治梨華ちゃんを見つめたまんま、以上にヘラヘラした顔で完全に固まっていた。

『…(君もさっさとADSLにしなさい)。』

ほんでもって、スピードくじを引かせてもらうと、これまた清涼飲料水x6缶大当たり!はここで幸運を使い果たしてしまうのか…?とにかく幸せすぎるぞ、ホクレン風連給油所

『旗、お持ちになりますか?』

との彼女からの問いかけに、

『勿論!』

北海道の夏の風物詩(…なのか?)、ホクレンサマーキャンペーンの“道北”の旗をゲット。しかしなぁ、何でだろうね、こんなにラッキーで楽しいひと時を過ごしてる時に限って、写真を1枚も撮ってないんだよなぁ…。あ〜っ、もう悔しい〜っ!んっ?今これ読んでるアンタ、「絶対作り話だ!」って思ったろ…。

予想外の玉手箱(350ml缶x6)を竜治と二つに分けてバイクに積み、ルンルン気分で北へと進む。
40号は、右手に菜の花の黄、左手にジャガイモの花の白と、バイクで走るだけでも幸せを感じれるほどの表情で、俺たちを迎えてくれる。
前方右手に“ひまわり畑→”
の立て看板を発見。

竜治は有無を言わさず、その脇道へ突っ込んで行く。牧草ロールの点在する北海道的風景を横目に、どんどん農道を進んで行くと、いつしかそこはダート道…。

『おいおい、ダートは嫌いだって言ったでしょ!』

とにかく50万本の壮大なひまわりが見たい竜治には、後方でダートと悪戦苦闘しているの姿は映らない…。更には竜治の愛車、F650GSが本領発揮とばかりに元気に走り去る。

『…良〜いんだぁ〜よ〜っ、一人ぼっちは慣れっこさぁ〜♪』

MTBに軽く抜かれる速度で、9Rを労わりつつ、の〜んびりと走らせる(歩かせる)。…数q先、停まっているF650GSを発見。はいはい、やっと到着ですか〜。おや、竜治の顔が何だか冴えないね〜、どしたの?

『50万本のひまわり、5,000本くらいしか咲いてないすよ…。』

『…ホントだ。』(余談だけど、ホクレン風連でゲットした350ml缶、ちゃんとあるでしょ…。)

 

5.マイペース

天塩川沿いに美深音威子府と北上していくと、日本海に面する天塩町に出る。しかし、天塩川は最後に大きく円弧を描いて南下しながら日本海に出るので、雄信内から峠越えのショートカットで天塩町を目指す。
峠に向かう町道を走っていると、なんと道のど真ん中で地図と睨めっこしてるオフローダーさんがいらっしゃった。
いくら交通量少ないっつっても、そりゃやりすぎだべ、跳ねられるぞ…。
暫く走ると、工事中の道を越えた死角の所にT字路、右が天塩方面…。竜治は工事中の路面がダートだったもんで、嬉しそうにかっ飛んで真っ直ぐ行っちまいやがった。
どいつもこいつも自己中だね。まぁ良いや、すぐに戻ってくるだろう。はT字路を超えた辺りで待つ事にした。すると、後ろからさっきの大胆不敵なオフローダーがやって来て、の横で停まった。オフ車に跨ってるせいか、異様にでかく見えた。

『すいません、天塩に向かうのこっちで良いんですよね?』

な、なんとおネイちゃんだった。しかもスッゲ〜美人

『いや、多分そこ曲がった方。』

『あっ、そうですか。どちらに行かれるんですか?』

『俺も天塩方面なんだけど…。』

『そうなんですか!…でもお友達、真っ直ぐ行かれちゃいましたね。』

『そうなんですよ…。一緒に先、行っちゃいましょうか?』

『(ニコッ)お願いできますか?』

竜治をほっぽって、おネイちゃんと行ってしまいたい衝動をぐっと堪え、

『残念だけど、やっぱちょいと連れ、追っかけてくるから。先、行っといて下さい。』

渋々Uターンして天塩方面に向かうおネイちゃんを見送り、は脱兎の如く竜治を追った。1qほど先で竜治は待っていた。お前さえ引き返して来りゃあ、一緒に行けたのに…。

『遅かったすね、絶対(工事中の)ダートでこけてるんやと思いましたよ。へへっ…。』

『はぁ〜っ、…(置いて行きゃぁ良かった)。』

とにかく竜治を連れ戻し、一目散でおネイちゃんを追走する。峠に向かう、なかなかのツイスティロードをハイペースで攻めまくる。これがまた面白い。
しばしおネイちゃんの存在を頭から消し去り、路面との対話に没頭する。の意思を9Rに正確に伝える事を、基本に立ち返り一つずつ確認する。
やっぱ良いねぇ、バイクは。うん、楽しい。すると思いの他早く、中腹辺りでおネイちゃんを捕捉。
ペースを落とし、後ろについて流す。そこで彼女のナンバーを見て驚いた。福岡からいらっしゃってる、たった一人で。すげぇよ。、多分真似できない。
このまま天塩まで一緒に行って、もう少しお話がしてみたい…。が、しかし遅い。遅すぎるよ、おネイちゃん
いやっ、良いんだよ、別に遅くたってそれはそれでおネイちゃんのツーリングペースなんだから…。俺たちだって、かっ飛び野郎から見ればドン亀なんだし。
だけど俺たちが楽しいペースとは違うって事で…。ごめんね、おネイちゃん。先に行かせてもらうね。
追い越しざま、振り向いて大きく手を振り、おネイちゃんの旅の安全を祈念した。

『アディオス!マイハニー!こんなオイラを許してくんな…。泣くんじゃネェッ、泣くんじゃネェよ!』

『…(死ねよ)。』


6.利尻礼文サロベツ国立公園

 

峠での楽しい反復練習を終えると、そこは天塩町。俺たちはちょいと天塩川河口で小休止。眼前に聳え立つのは利尻富士
う〜んっ、見事だぜっ!そこに地元のおばちゃんたちが数人出てきてた。ここんとこ雨ばっかりで、こんなに綺麗に見えるのは久しぶりなんだと。
いやぁ、やっぱ俺らは運がええわ。

この天塩から稚内までの海岸線を結ぶのが、道道106号、通称オロロンライン。今回の逃避行で、楽しみにしていた場所の一つ。
右手にサロベツ原野、左は海に浮かぶ利尻島という抜群のロケーションを誇る、何処までも続く直線道路。北の大地を実感できる最高の道ですな、うん。
しかし、こんなに真っ直ぐばかりだと、リアタイヤが偏磨耗して台形になっちゃうよ…。

 

しばらくすると、前方右手に、とてつもなくどデカイ風車が見えてきた。これ写真じゃ分かりづらいんだけど、滅茶苦茶でかいのよ…。

この写真、風車の根元んとこに、クレーンがあるの、分かるかな?あ〜もう良いよ、とにかくそんぐらいでかいんだよ。
こんなオバケ風車が何十本も、数qにも及んで並んでるの、壮観だよ。え〜いっ、分かんないんだったら、勝手に見に行け!

さてと、お次はサロベツ原野・北緯45度通過点。お約束の写真ですんまそん。しかしホント、ガイドブックに出てきそうに綺麗でしょ?
今日しかないっちゅう日に、そこにおる。我ながらこの強運、天晴れ。

これもお約束ね、稚内までの距離標識と愛車のバックに利尻富士。えっ、写真ばっか?別に手ぇ抜いてる訳じゃないよ。昔から百聞は一見に如かずって…。なんだよ、じゃぁもう見なきゃ良いじゃん!

己の文章能力の限界にぶち当たり、取り乱しまして申し訳ございません。しかしここはホント、文章に出来ないっすよ。
考えても考えても、写真を超える描写が浮かんでこない。写真に撮れなかったものと言えば…、あっ、あった。虫爆弾。ここは利尻礼文サロベツ国立公園の中。当然、自然の宝庫で昆虫たちがいっぱい。トンボ、カナブン、バッタ、等々…。ここいら一帯虫だらけ。
心地良く走ってると、突然全身のあちこちを襲うピンポイント爆弾。豊かな自然の中でスクスク育った健康優良児たちが、日の丸特攻隊と化して玉砕覚悟で向かって来る。やっぱ昼間のライトは消した方が良いんじゃねえのか?半端じゃなく痛いよ。虫たちだって、ホントは突っ込みたく無かろうに…。
カナブンなんかがシールドに当たった日にゃあ、一瞬脳震盪で記憶が飛ぶよ。まぁ、こっちが不法侵入してるようなもんだから、な〜んも文句は言えんけどね…。

ところでこのオロロンライン、全長68qほどの間にはレストポイントとなる人工物は何も無いんだけど、たくさん走ってますねぇ、チャリダーさんたち。
頑張れよっ、と両手でサムアップすると、ニヤッと笑って右手でサムアップを返してくれる…。いやぁ、ホント感心するよ。
多分、チャリダーさんたちは俺たちの数倍、その旅から得るものがあるだろう。なんか自分の不精と、そこからくる体力の無さを嘆くと共に、その若さを羨ましく思うよ…。えぇっ?んじゃぁ不精やめて毎日自転車通勤でもしろってか?ほっといてくれよ、やれるもんならとっととやってるっつ〜の!(やれない事も無いが…。)

 

7.最北端

楽しい時って言うのは、ホント時間が経つのが早い。虫爆弾を浴びながらも、それ以上の感動を与えてくれたオロロンラインの終焉は、鉄道もやっぱり最北端の終着駅、稚内だった。これまたお決まりのスナップを撮っている時、何故かこんな曲が頭の中を駆け巡り、つい口を吐いて出た…。

『♪せ〜んろ〜はつ〜づく〜よ〜っ、ど〜こま〜で〜も〜♪。…って、続いて無いじゃん!』

『…駅員さ〜ん、こいつ無賃乗車ですよ〜っ、捕まえてくださ〜い!』

ま、待てよ、落ち着けって。そんなに怒んなくったって…。そうか、腹減ったんだな?そらぁ〜そうだぁ〜、朝6時頃に食ったっきり、な〜んも食ってネェ…。
よし、飯にしよっ、なっ!ちゅう事で、入ったのが稚内駅の北側にあった“ラーメンたからや”。なかなか繁盛しているよ、満席だ。
で、知らんおっさんと相席、竜治醤油を頼む。程無く出てきたラーメン、ごくごくシンプルな、どこか懐かしさを覚える、普通の昔ながらのラーメンだ。
その味も奇をてらう事無く、普通に美味い。竜治の頼んだ醤油も普通に美味い。この普通に美味いってのがまた嬉しかったりする。
万人受けする普通の美味さってのは、やっぱり原点だったりするわけで…。

腹一杯になった所で、次行きましょ。おっと待った、愛車たちにも飯食わしてやんなきゃ。俺たちが行ったのは竜治の計画通り、ホクレンでは最北端の稚内給油所。ここは風連と同じ道北の旗だが、最北端のシール付き

折角だから、貰っときましょう。しかもこの給油所、洒落が効いている。レシートの宛名が、“日本最北端のライダー様”だと。なかなか粋だねぇ、気に入っちゃったよ。

国道238号で宗谷へ。この稚内−宗谷間も的にはグッドな道でした。
稚内市内を抜け、一旦高台に駆け上がり、その頂上から真正面の宗谷湾に飛び込むように下っていく。こりゃあ爽快でしたよ、うん。
しかもほんのり漂う昆布の香り…。は磯臭い(魚の腐った匂いがする)のは嫌いだが、昆布の香りは大好きだ。こんな香りの海なら、ず〜っといたって良いよ。
元々海大好きだし…。

さ〜て着いたよ、北緯45度31分14秒の日本最北端の地、宗谷岬。サハリンまで、宗谷海峡を挟んで約43q。晴れた日なら建物まではっきりくっきり見えるんだって…。確かに海の向こうに島影は確認できたけど、建物までは見えなかったよ。…サンコンさんくらいじゃないの、そこまで見えんの。

 

 

8.狂奔

今日の宿は紋別に取ってある。ここから後200qといったところか…。現在、午後2時20分…、余裕だね。
最北端に着いちまったんだから、今度はオホーツク海に沿って南下するだけ。海岸線を気持ちよく走っていくと、道の駅もある猿払公園猿払村営牧場に辿り着く。
ここはキャンプ場になっていて、広大な芝生のサイトがある。すぐ横では牛さんたちがのんびりと草を食む、牧歌的光景。いやぁ、やっぱ和むねぇ…。
突然竜治が、『牛になりてぇ…。』とかほざきだした。…なれよ勝手に。
道の駅では搾りたて(なんだよな?)の牛乳を販売していたが、やめといた。すぐにグルグルくる性質なもんで…。

更に南下を続け、北オホーツクの景勝地・クッチャロ湖畔を通過。クッチャロ湖は、周囲27q・平均水深2.5mの海跡湖で、国内最北の湖。
ロシアと日本を渡る数多くの水鳥たちに、中継地として利用されている。特にコハクチョウについては、国内に飛来する約70%が渡りの途中に飛来し、春と秋には約2万羽のコハクチョウたちで賑わうらしい。

今は夏…。10月の始めにロシアで子育てを終えたコハクチョウが子供と一緒に飛来し、湖で休憩をとりながら本州各地へと渡って行くんだそうな。
近年、厳冬期にも約500〜1000羽のコハクチョウたちが残るようになった。本州の越冬組が帰ってくる4月になると湖は、コハクチョウの鳴声が響きわたり、5月上旬頃に全てのコハクチョウが故郷のシベリアへ渡って行く。まっ、こんな感じね。(2002.4.2.の映像拝借)

いいかげん、走るの飽きちゃったところに道の駅・マリーンアイランド岡島を発見、とりあえず休憩しましょ。
ここは枝幸町、紋別まではまだ後90qほどある。そこで、事件は起こった。竜治が自販機に向かうと、いきなり背後から知らん男に呼び止められる。
V−MAX
に跨っていたその金髪男は、革のライダージャケットにエンジニアブーツといった、いかにもイカツイ風貌で竜治の方にゆっくりと歩み寄っていく。

『…(ぼ、僕、なんか悪い事しましたっけ?)。』

あまりの恐ろしさに声も出せず、完全に凍り付いている竜治(だから早くADSLにしなさいって…)に、金髪男はこう切り出した。

『お兄ちゃん、ジュース買うんなら、このココアあげるから飲んで…。間違って買っちゃったんよ…。』

『へっ…?』

…この金髪男、見かけとは裏腹に底抜けに明るい好青年だった。しばし談笑し、俺たちは今朝小樽に着いた事、今までのルート、そしてこれから紋別まで行く事を告げると、

『今日だけでそんなに?ハハハッ、クレイジーですね!俺なんか今日、紋別の先からここまでですよ。』

…陽気にバカにされた。金髪男の自由奔放な旅に対して、どこか義務感まで生じそうな過密スケジュールの、俺たちの旅。
紋別に向かい走りながら、少し考えさせられた…。

本日の走行距離、655q。 小樽−名寄−稚内−紋別 濃霧→晴れ

 

9.道東

8月12日、月曜日。この日だけは得意先が営業している。だからこそF田君に後を頼み、反対に資料と携帯を持たされたわけなんだが…。

朝6時起床、身体を叩き起こす為に露天風呂に向かう。ここ紋別プリンスホテルには、紋別で唯一、天然温泉が湧き出ているんだと。
ここの温泉はヌルヌルで、大浴場入口にも“滑ります!注意!”と、デカデカ貼り出されている。なるほど、ツルツルしてお肌に良さそうだ。
昨日も到着するなり、この温泉に飛び込んだのだが、ホント気持ち良い。早朝の一番風呂を独り占めしてるっつうのは、最高だねぇ。
えっ、竜治?知んない…。7時にレストランで待ち合わせしてるけど…。
風呂入ってシャッキリしたは、7時までまだ間があったので、先に荷物をまとめ、バイクに積んどく事にした。
ガラス張りのレストランの前に停めたバイクに荷造りしながら、ふとガラス越しに中を見ると、既に竜治が飯食ってた…。

さて、出発しよっ。今日の天気は、道東地方だけ晴れ。まるで俺たちの行く手を察知した風神さんが、先回りをして雷神さんを吹き飛ばして、ついでに一緒に帰っちゃったみたいに、目指す地域のみが晴れ渡ってる。これも俺たちの日頃の行いの善さがなせる業か?
ライダーさん垂涎の的であろう好天を手中に、俺たちは東へ向かい、サロマ湖を通過。
アイヌ語の「サロマ・オマ・ペット(葦のあるところの川)」から“サロマ”となり、大正4年に“佐呂間”と和文に転用されたそうな。“サロマ”だけ残して良かったね、後ろの方はなんか読み違えそうでちょっとね…。

『サロマ・オ?オナ、オナペッ…。』

『…サロマ湖に叩っ込むぞ、この変態野郎!』

そうこうしてると、網走到着。映画“網走番外地”で有名ですな。
明治維新後、北海道は開拓使によって統治されたが、明治初期の道東地区の道路は、まだほとんど整備されていなかった。
そのため、道路建設や農地開拓の働き手として送り込まれたのが、網走刑務所に収監された多くの政治犯。

『いやぁ囚人さん、ありがとう。俺の為にこんな快適な道を作ってくれて…。』

『…監守さ〜ん、脱獄囚がここにいますよ〜!さぁみんなでコイツを捕まえろ〜!』

懐かしい網走刑務所の前で一休みをしながら、F田君に連絡を取る。案の定、あれやこれやでパニクってる。は瞬時に、的確な判断でF田君に指示をする。
能無しヤローに指示するのは自分でやる倍の労力がかかるねぇ…。さぁて終了、えっ、また夕方には電話してこいって?ホント役立たずだな、分かったよ、電話するよ…。んじゃ竜治、行こっか!
さらば第二の故郷。監守さんお世話になりました。『二度と来るんじゃないぞ!』って言われてたのに来ちゃってごめんね。また会う日まで、お元気で…。
あっ、二ポポ買うの忘れた…。

網走から一旦南下、女満別美幌を抜けて屈斜路湖を目指す。
美幌国道を快適に走っていると、後ろから猛スピードで迫ってくるヘッドライトが、バックミラーに写り込む。日本の誇る、名だたるバイクメーカーのフラッグシップたちが、あっという間に横を抜いて行った。
…やっぱ俺たちゃ亀なのね。そんなドン亀たちでも、走り続けりゃぁ目的地に辿り着く。で、到着したのは、屈斜路湖が一望出来る、道東では超人気の展望台、美幌峠。映画“君の名は”の舞台となって有名になった。…って、いったい、いつの話だよ?まだ若い僕チンには分かんな〜い…。

屈斜路湖は、周囲56.6q、面積79.5kuで日本一のカルデラ湖。この世界有数の大カルデラは、約3万年前に激しい爆発を繰り返していた火山のなれの果て。その後、この東側に摩周カルデラが形成された時に、中島和琴半島などが屈斜路カルデラの中心部・周辺部をせり上げて、およそ2千年前にはほぼ現在のような地形になったと推測される。
ふんふん、なるほど。んじゃあ、摩周カルデラの奴がしゃしゃり出て来なかったら、屈斜路湖って今の倍くらいデカかった訳だな。ま、デカけりゃ良いってもんじゃないけど…。

美幌峠から屈斜路湖に飛び込むように、243号・パイロット国道を下りていく。和琴半島を過ぎて湖畔沿いに左折、そこにあるのがコタン温泉
湖畔に3ヶ所ある露天風呂の内の一つ。…因みに、“コタン”ってぇのは、アイヌ語で“村”とか“集落”のこと。この辺りに、アイヌの原住民たちは集落を作ってたってことだね。

で、このコタン温泉、ご覧の通り、手を伸ばせば湖面を触れる露天風呂。10月以降にはこの周りに白鳥も寄って来るんだってさ。良いねぇ…。
えっ、右手のビデオで何撮ってんだって?プフフフッ…、教えない…。フヒャヒャヒャ!

 

10.未開

『…げにまっこと、今時の若いオナゴはええ脱ぎっぷりしゆうちや。のう、竜治…。』

『いやぁ〜、こげなこつ、おいは初めてでごんす。…おまんさぁは、別府に続いて二度目でごわんの?』

『ほにほに…。こいじゃきに露天風呂巡りはやめられんちや。ぐへへっ…。』

『…おまんさぁは、やはり変態でごわんの。』

『なんじゃいっ!おんしも、こじゃんと見よったがじゃいか!もう連れてっちやらんぜよ!』

 

二人してかなりハイな気分でコタン温泉を後にする。屈斜路湖畔を通り抜け、川湯温泉から391号を北上。野上峠を越え、小清水町・萱野に出る。

ここから南斜里まで、周りはジャガイモ畑とビート畑の直線道路が10q以上も続いている。大きくアップダウンを繰り返し、ただひたすら地平線まで真っ直ぐの道。陽炎が妖しくアスファルトを溶かしている。ここあまり有名じゃないけど、グッドです。お薦め。

斜里町に入り、いよいよ知床半島へ。この344号・知床国道は左手がオホーツク海の断崖絶壁。
鹿
の飛び出し事故の多発地帯であることからも分かるように、半島自体は野生動物の棲息地で、間違いなく人口より野生動物の方が多い。
だって人が住んでるのは、海沿いだけだもん。暫く行くと、国道沿いに知床八景の一つ、オシンコシンの滝発見。

日本の滝100選にも選ばれてます。写真で見るより実物の方が、繊細でいて、雄大。良い意味で裏切られましたね、ここは。

オシンコシンの滝から少し行くと、知床半島北側の唯一の集落、ウトロの港町。今日の宿泊地は、ここの“民宿オホーツク”。
女将さんへのご挨拶もそこそこに、今からカムイワッカ湯の滝に出発しま〜す。午後4時10分、ウトロ温泉バスターミナルから知床大橋行きのバスに乗り込む。

『今からじゃ、(温泉浸かるの)時間的にちょっとしんどいと思いますよ。』

どことなく話し口調、声の質が柳葉敏郎風の運転手さんは、そう口火を切った後、留まる事無く俺たちに話しかけてくる。
夏期マイカー規制、冬期閉鎖のこの道は、実質バスで行くしかないのが現状だ。そのせいか柳葉運転手さん、さながらサファリパークのガイドさんのように道行く先々の説明をし、必要とあらばバスを停車させるほどの熱の入れ様。

『ほら、あそこ…、熊が爪を研いだ跡。』

ガードレール脇のプラスティックカバーが無残に剥ぎ取られ、中のウレタンに無数の爪跡。

『昨日はここ上ったとこに、熊いたんだよね。』

冴え渡る“ギバちゃん節”に乗せられて、俺たち乗客の目は窓の外に釘付けだ。

『熊は臆病な性格ですから、人間の気配を察知すると普通は熊のほうから避けてくれます。熊よけの鈴やなんかはそういった意味で効果があります。でも近くに小熊がいたりすると、子供を守る為に向かってくる事があるんです。』

う〜ん、良いよぉっ、ギバちゃん。もっといろいろ教えてよ。

『熊に遭った時はね、けっして走って逃げちゃ駄目なんです。逃げる物を追いかける習性があるから。熊は100mを6秒で走るんです。カール・ルイスでも勝てません。慌てないで、じっと目を見て、持っているリュックやなんかを小出しに捨てて熊の気をそっちに引かせながら、後退りして距離を置いていくんです。目を逸らしちゃいけません。』

ギバちゃん、ノリノリ絶好調だぁね。そこでちょいと目先を変えて、

『鹿やキタキツネなんかだったら見れますかね…。』

『はい、こっから先、“もう良いや” ってくらい、たくさん見れます。熊と違って、鹿やキタキツネは、車は何もしないというのを学習するんですよね。ですから平気で道に出てきます。あっ。あそこ出てますね。』

『うわぁ〜いっ、ホントだぁ。こっち向いてるよ!』

その後、ギバちゃんの言う通り、これでもか、と言わんばかりの鹿たちに出会いました。他にも、かわいいキタキツネの子供が道端でぽつんと佇んでいたり(写真撮るの失敗した、スマソ)、野生動物たちを間近で眺める事が出来、最高に楽しい道程でしたよ、うん。
マイカー規制が引かれているのも頷けるが、やっぱりバイクで来てみたい…。

『カムイワッカ到着が5時頃で、最終バスが出るのが6時半ですから、かなり頑張らないと湯船についた途端、引き返す事になりますよ。でも、足元だけは十分に注意して下さいね。本当によく滑りますから。ほとんど毎日のように、怪我する方が出ますから…。』

うん、分かった。さてと、着いたよカムイワッカ湯の滝ギバちゃん、ありがとう。楽しいバス旅だったよ。

 よっしゃ、早速川を上っていこう。川の水に足を浸けると、微妙にぬるい…。アハハッ、これだけでなんか楽しくなってきちゃった。
…でも確かに岩肌はよく滑る。こりゃホント気ぃつけんといかんわ…。

うんせっ、こらせっ。おいおい、こんなとこ上ってくのか?行きは良いけど、帰りごっつぅ不安…。でも老若男女、みんな上がっていってる…。
いやまっ、何とかなるだろう。極めて急で危険な岩肌を一つ二つクリアすると、でっかい滝壷が現れた。これが第一の湯船ね。いっぱい入ってる。
更にその後ろの岩肌をよじ登ると、ありましたぜよ、第二の湯船。

うっしゃ〜っ、飛び込むぜよ〜!Tシャツに半パンを脱ぎ捨て、スッポンポンで滝壷に飛び込む。うおぉ、意外と深ぇよ。足立たねぇ!
こりゃ成分きついね、目にツンとくるぜぃ。でもその分、お肌はツルツルになってきてるみたい。
俺たちの後に、体育会系健康優良溌剌娘たちが、あの超危険な断崖絶壁を乗り越え、第二の湯船にやって来た。
みんな用意が良いねぇ、しっかり水着を着込んでる…。う〜ん、スッポンポンのオジサンたちはどうすりゃいいんだい?先あがるから、見ないでね…。

さっぱりしたところで、帰るか。いよいよ懸念してた下り。よくこんなとこ上がってきたなぁって思うくらい、下りは勾配がきつく見える。しかしホント、無茶苦茶恐ぇ〜!

が必死で岩肌にしがみついていると、竜治の野郎、

『あっ、あんなとこに猿がいる!』

『うるせぇ、…殺すぞ。』

さぁてと、民宿オホーツクに戻り、美味しい夕食をいただきましょう。今日のメニューは、おぉっ、毛蟹がまるごと一杯、うにいくら…、すんげぇ豪勢。
食いきれねぇよ。竜治はわき目も振らず、一心不乱に料理と格闘している。ホント幸せそうだねぇ…。
あぁっ!忘れてた、電話しなきゃ。午後7時、F田君は会社で待っていた。ごめんごめん、悪かったって。最後の指示を出し、お仕事終了。
F田君
、いろいろ好き放題言わしてもらってたけど、ホントは感謝しているよ、ありがとう…。さ〜て、飯に戻ろっと。…あっ、、もうネェ!

本日の走行距離、300q。 紋別−屈斜路湖−ウトロ 快晴

 

11.最果て

8月13日、午前6時起床。天気予報を見ると、残念な事に今日は雨。昨日まで雨雲前線から逃げ続け、何とか好天を手中にしてきたのだが、ここは知床。これ以上逃げ場の無い最果ての地だ。遂に捕まったか…。
と言っても、外はまだ薄曇り程度で、暫くは降りそうに無いよ。よっしゃ、出発しよっ。女将さん、美味しい料理と暖かいおもてなし、ありがとうございました。

熊や鹿、キタキツネの棲息地を横切る知床横断道路で、南東側の港町・羅臼を目指す。
今にも熊がひょっこりと現れそうなこの道の行く手には、分厚い雲が重くのしかかっていた。標高を上げていくとそれは濃霧になり、俺たちの視界を遮る。
と思ったら、いきなり暴風雨に発展しやがった。まるで今まで風神さんに押されっ放しだった雷神さんが、この土俵際の知床峠で必死に反撃してるみたいに、強烈極まりない雨と風。シールドが曇るから開ける、そったら横殴りの顔面シャワー。どっちにしても前は見えへん。
おまけに強風で進路を勝手に曲げられる。マジで死ぬかと思ったよ…。おかげで、楽しみにしていた知床峠からの眺望はパー…。

国後島はどっちなんだ?…ちくしょう、ムネオハウスはどこだぁ〜!あぁ、寒いよ、もう走りたくネェ…。誰か、今すぐここに“スネオハウス”造ってくれよ、不貞寝してやる〜っ!』

『…ただでさえ苛ついてんのに、黙らんかい!このボケ猿が!』

時速10q程度の、超ドン亀と化した俺たちは足元を確かめるように羅臼方面へ下りていく。本来なら楽しいはずのこのつづら折れも、今日ばかりは死の恐怖を感じさせる拷問でしかない。やっとの事で抜けきった所に、熊の湯があった。

おぉ〜っ、まさに砂漠のオアシス!よっしゃあ、風神さんと雷神さんの大一番のせいで冷え切ったこの身体を暖めさせてもらおっと。
チャッチャと脱いで速攻で湯船に。しかし、お湯に足首を浸けた瞬間、は叫んだ…。

『…うっ、…アッ、アチャチャチャッ、アッチィ〜!』

猛烈に熱かった。半端じゃネェ…。既に浸かっているオッサンたちの冷ややかな目…。

『…(んなこといったって、熱いもんは熱いって)。』

暫く足を浸けたり出したりして、徐々に身体を慣らす。よっしゃ、気合一発、一気にいったれぃ!

『…フンッ!…クッ、…クハッ!(…やっぱ熱いよ〜)』

『じっとしてたら大丈夫でしょ?』

竜治の言う通り、じっとしてれば何とか耐えられる。しかし、誰かが動いて波が立つと、熱湯が肌を刺す。ホント強烈っす。
しかし、おかげで生き返った。もう身体の芯までポッカポカ。この熊の湯、(無茶苦茶熱いけど)最高に気持ち良いです。の一推し。
じゃあ雨も小降りになった事だし、行きますか。

羅臼町まで下りると、雨は止んだ。折角だから、ここから更に北上して、セセキ温泉へ行こう。ここは海の中にある露天風呂。満潮時には海中に没してしまうので、干潮時にしか入れない。

かの黒板純君もトドの親父と一緒に入ってましたね…。到着したら掃除中だった。しょうがない、諦めようかとしたその時、掃除してた兄ちゃんが、『入って良いよ。』って言ってくれた。やりぃ!んじゃ入ろ。
掃除したてだったから、とりあえず外からも温泉を汲み入れていたけれど、ホントはこのセセキ温泉、湯船の中のあちこちで温泉が湧き出ている。湧き出る源泉はかなり熱く、気付かずに座ると、火傷するよ…。

ところで、この温泉で一緒になった、大阪から来た兄ちゃんに、今までのルート、そしてこれから上士幌まで行く事を告げると、

『ハハハッ、クレイジーですね!』

…陽気にバカにされた。

『…なあ、流行っているのか?…クレイジー。』

『さあ…。でも僕らって、そんなにクレイジー?』

 

12.WHITE OUT

クレイジーな俺たちは、少し煙る程度の霧の中、中標津を目指す。ここの北19号線は、言わずと知れた超人気の直線道路。
でも北19号線で無くったって、標津界隈には結構な直線道路が目白押し。名も無い農道だって、こ〜んなに一直線。

ついつい、こんな歌が口を吐いて出る。

『♪どっこっま〜でも〜 いっこぉ〜っ ♪みっちぃはぁ〜 厳しくと〜も〜 ♪くっちぃぶ〜えを〜 ふ〜きぃな〜が〜ら〜っ ♪はっしぃ〜ってゆ〜こ〜お〜っ♪ イエーイ!』

『…だから何なんですか?』

『いや、別に…。』

『…勝手に何処までも行って下さいよ。』

竜治の機嫌を損ねさせたせいか、また雷神さんがぶち切れて、辺りは急にどしゃ降りに…。そんな中、やっとの思いで、北19号線に辿り着く。

『ハァハァ…、竜治、ここが、かの有名な北19号線だよ。どうだい?素晴らしいだろ…。』

『ほう、これが北19号線っすか…。すごいっす…つっか、さっきまでの農道と何が違うんっすか?』

『バ、バカ言っちゃいかんよ、チミィ…。名前が違うじゃないか…。』

『あほらし…。』

如何に北19号線と雖も、この天候では名も無い農道にも劣るという事を認識させられた俺たちは、冷たく冷え切った身体を、(おそらくこれまた行っても無駄であろう、)開陽台で回復させる事にした。
晴れていれば、360°のパノラマを堪能できるこの丘陵も、やはり雷神さんの前では無力だったし…。それでも、せめて記念にと竜治が、

『あっ、折角だからあの【地球が白くみえる…】ってとこで1枚撮りましょうよ。』

『…【丸く】…だろ?』

『あっ…。』

人間の視覚能力ってのは、なかなか面白いね…。確かにその時、地球は白くしか見えてなかった。

雨はまったくやみそうに無いが、このままずっとこの開陽台に居続ける訳にもいかない。
半ば義務感まで生じさせる過密スケジュールは、俺たちを否応無くこの降りしきる雨の中に引きずり出す。しゃあねぇ、ここからは大幅に予定変更。
残念だが、神の子池裏摩周展望台はパス。ただでさえ霧の摩周湖、この状況で何が見えるっちゅうんじゃ…。良いよ、もう今日は…。とっとと上士幌を目指そう。
243号を弟子屈に向かい、241号・阿寒横断道路でひたすら西へ。この道、晴れてりゃ気持ち良かろうになぁ。
辿り着いた阿寒湖周辺も、やっぱり真っ白、霧の中。凍て付いた俺たちが吐く息も真っ白、何もかも真っ白…。
もう寒いわ、はっきり言ってつまらんわで、ホント最悪。この雷神さんの“土俵際の大反撃”から、やっと逃れられたのは、阿寒湖を過ぎ、松山千春の故郷・足寄町に向かう辺りの事でした。

本日の走行距離、315q。 ウトロ−羅臼(セセキ)−開陽台−上士幌 雨/曇り

 

13.イチバン

8月14日、水曜日。快晴で〜す。よっしゃ、昨日の雨でドロドロになったバイクを綺麗にしてあげて、さぁ今日も元気に参りましょうか〜!で、朝一番に向かったのがナイタイ高原牧場で〜す。

ここは日本最大の広さを誇る牧場。えっ、どれくらい広いかって?へへんっ、教えてやるよ、東京ドーム362個分だよ。
…ピーンと来ねぇだろ?そらぁ〜そうだぁ〜、だってこんな説明聞いたって実感湧かねぇよ。写真見てもなぁ…、あんま分かんねぇかも知れんけど、まぁ見ろ。

とにかく、訳分かんない位でっかくて、ホント何処までが牧場なのかが分かんない。多分、雲の向こうに頭を出している山は、牧場ではない(当たり前だ…)。
しかし、気持ち良いよ〜!約3,000頭もいる(らしい)牛さんたちが、のんびりと草を食む。う〜ん、のどかだねぇ…。マジ何も無いのが、心地良い。

おっ、レストランでソフトクリームが売ってるよ。濃厚なミルクたっぷりで、“十勝に来たら必ず食べる”と言う人もいるほどの大人気。おい、竜治、いっとけ…。は要らん。
っておい、こらっ、何やってんだ?盗っちゃ駄目だって!あっ、逃げた…。どうもすいません、おいくらですか?えっ、300円。ハイハイ…、って、財布持ってネェ〜!えっ、『…じゃあお客さん、こっち来て。』って何…?

『…何で俺がこんな所で働かにゃあいかんのだ?』

30分間の肉体労働で、何とか勘弁して頂いた。まぁ、警察に突き出されなくて良かったよ、なんせ逃亡中の身、ここでドリームを終わらせてなるものか。
釈放され駐車場に戻ると、ひょっこり竜治が現れ、

『…へへっ、お疲れさんです。』

『…300円返せ。』

さてと、層雲峡にでも行きますかっ。やっぱ晴れると、名も無い直線道路でも十分に感動を与えてくれるね。
ホント、見渡す限り一直線!って道が至る所にあんのね、北海道って。いや、素晴らしい…。

ほんで、突然ぽっかりと浮かんでいる熱気球。乗ってるのはおネイちゃんで、オイラの走る姿を見つけて、きっと『キャー、あの人カッコイイ〜!あんっ、一緒に連れてって〜』とか言ってんだろうなぁ…。

『…(妄想癖も、いいかげんにしとけよ、この色ボケ猿が!)。』

ここから273号を北上して行くんだけど、目指す層雲峡大雪山国立公園にある。この道も当然、途中から国立公園の中。
ここは北海道の中央部に位置し、面積は約23万ヘクタールで、陸域では日本最大の国立公園。
北海道の最高峰・旭岳を主峰と仰ぐ大雪山連峰を中心とし、山岳の原始性が豊か。
トムラウシ山から十勝岳連峰、ニペソツ山・ウペペサンケ山、石狩連峰や、然別湖を抱く然別火山群などを含んだ地域、すなわち北海道の屋根と呼ばれる一帯が大雪山国立公園に指定されている。…ようするに山ばっかなんだよ、分かったか。

これらの山々は2,000m前後の標高しかないが、そこは北海道、本州の3,000m級の山岳に匹敵する高山環境をもち、山の広がりも実に雄大。
山頂部では、真夏でも大きな雪渓・雪田が残り、豊富な高山植物が、至る所に華麗なお花畑を作り出す。
山腹部には、エゾマツ・トドマツを主体とした北方系針葉樹林が広がり、その見事な森林景観は、この地域の原始性に欠くことのできない要素となっている。
…まぁ普通に走ってりゃ、樹海しか見えんっちゅうこっちゃ。

豊かな森林・高山植物の大群落、あるいは冬期の厳しい寒気など環境条件の多様な地域は、氷河期の生き残りといわれるナキウサギをはじめ、ウスバキチョウアサヒヒョウモンなどのこの地域特有の高山蝶、あるいはヒグマエゾシカなどの大型哺乳類、クマゲラシマフクロウなど希少な鳥類の棲息地となっている。
…けど普通に走ってても、まず見られへんっちゅうこっちゃ。

んなこたぁど〜でも良いやね、って人にはこっち、この国立公園内には、層雲峡勇駒別天人峡糠平白金然別湖畔トムラウシなど豊富な温泉が湧出してるから、勝手に行け。

んで、層雲峡に続くこの樹海の中を走る道には、道内一の標高1,136mを誇る三国峠がある。

そこへ向かう道は突然、樹海から宙に浮き、まるでジェットコースターのように空を舞う。摩訶不思議、バイクで走りながら樹海を見下ろすこの絶景。
こりゃあユニーク、絶対オンリーワンだわ。感動一入で三国峠に到着。う〜ん、こりゃ日本じゃないね、いや、厳密に言えば日本なんだけど、日本じゃないよ…。
ウガ〜ッ、訳分かんないけど、ホントにそんな感じなんだよ!分かんねぇんなら、テメエで見に行け、バーロイッ!

すまん、取り乱した。なんせ昨日の雨で、道東地区では神の子池裏摩周、道央に来ても帯広(豚丼食い損ねた…)・新得(蕎麦食い損ねた…)と、手痛い取りこぼしをしたもんだから、つい感情的になっちまった。いやっ、だから飯食えなかったから怒ってんじゃ無いって…。

良いや次行こ。ここ層雲峡が素晴らしいのは、100mもある柱状節理の断崖絶壁から流れ落ちる数々の滝の美しさ。

中でも、流星の滝銀河の滝は、雄滝・雌滝(二つ合わせて夫婦滝)とも言われ、原始の樹木に見えかくれしながら水しぶきを上げ、岩肌に虹を掛ける様には、思わず歓声をあげるほど。ここも、日本の滝100選に選ばれてる。
駐車場のオッチャンが、どうせ観るんなら双瀑台から観やがれっつうんで、エッチラオッチラ上がったんだけど、約半分でバテた。もう体力ネェ。いやぁ情けない…。
でも、それを埋め合わせて十分過ぎるくらい、満足度の高いポイントでしたよ、ホントに。そりゃそうだよな、振り返ってみると、なんでも1番ってやつばっかだよ、ここいら…。やっぱ1番がイチバン!

 

14.青天の霹靂

ほいたら、旭川ラーメン食いに行きますか。大雪山国立公園の大自然よ、ありがとう。
樹海の道を、石狩川沿いに西へ進んでいくと、その輝きがどんどん薄れ、よく見慣れたような、なんともまぁ普通の道に成り下がりやがった。
旭川は道内でも有数の大都市だから、しょうがないと言えばしょうがないんだけど、“こんな道走りに来たんじゃねぇっ!”って叫びそうになるよ。
今までが気持ち良過ぎたから、余計に滅入る…。そんなウゼェ感じで走っていると、…何だか変な音が聞こえる!バイクからの異音か?
…耳を澄ましてよ〜く聞いてみると、それはの胸ポケットから発していた。…会社の携帯電話だった。ウゼェ…。
しょうがない、竜治に指示を出して、つまらん道の路肩にバイクを停めた。

『すまん、会社からや。ちょっと待ってて…。』

リダイヤルしようとした時、また着信音が鳴った。ハイハイ、今出ますよ…。ゲゲッ、電話の主は、なんと我社の取締役、部の最高責任者・F井統轄部長であらせられた!慌てて直立不動の姿勢をとり、は脳みその中の、ここ一週間ばかり使ってない敬語の入った抽斗を開けた。

『はいっ!Inoでございますぅ…。これはこれは統轄部長、ご機嫌麗しゅう…。』

…まるでコメツキバッタだ。

『あ〜っ、そこに竜治おるか?』

『あっ、はいっ、少々お待ち下さい。…竜治、お前だってよ、はい…。』

『はいっ、竜治です!…はいっ、えっ?…えぇっ!…はいっ、分かりましたぁ!失礼します!…。』

『(元気だねぇ…。うんっ、それが竜治の良い所。おや、急に元気がなくなったぞ?)…で、なんやて?』

『…ぼ、僕、…香港(に転勤)ですって…。』

『!!!な、なんですと〜っ!!!』

♪ア〜ア〜♪アアアアア〜ア〜♪アア〜♪アアアアア〜♪ン〜ン〜…(暫くBGMに流してください)

それは、あまりにも突然だったわけで…。

都会のつまらん道に入り、気分も滅入ってきていたわけで…。

なにも、こんな時に通告しなくたっていいわけで…。

俺たちの逃避行は、まだ明日まであったわけで…。

統轄部長、旭川の空は、とっても綺麗なブルーです…。

ほんで、俺たちの心は、とっても滅入ったブルーです…。

♪ア〜ア〜♪アアアアア〜ア〜♪アア〜♪アアアアア〜♪ン〜ン〜…(ありがとうございました)

 

あぁ〜っ、走る竜治の後姿に、まったく覇気ってもんが感じられねぇ…。そらぁ〜そうだぁ〜、こ〜んな衝撃を受けて、元気でいれる訳がネェ…。
事故ったりしねぇだろっかぁ?…信号は見えてるかぁ?ふぅ、気が気でないうちに、何とか旭川に到着したよぉ〜。
目指すラーメン屋は、“青葉”…、あっ、あった…。いっぱい並んでるよぉ〜、人気店なんだなぁ〜。
バイクを停めようとすると、行列の最後尾にいた店員さんが、『すいません、もうスープがありません。』
…な、なぁ〜んで?まぁだお昼少し廻ったところだよ〜。次のスープが出来るのは午後6時だって?…そんなに待てないよ〜、しょうがなぁい、他探そう…。
で、見つけたのが、“蜂屋”。ここも超有名店だよ〜っ、さぁ入ろっ…。ここのラーメン、魚介系と動物系のダブルスープに、ラードが膜を張るようにして熱さを封じ込めてるよぉ〜っ。

先ずはスープをひとくち…、

『…に、苦っ!なんだぁ〜、このラードが焦げた風味は…?』

これは好みが分かれる味だよ〜っ、でも食べ続けていると、その風味がなんとも言えぬアクセントとなり、旨さを引き出しているような…。これは今の俺たちには、まさにドンピシャな、神のお告げなのかも…。

そう考えると、神様は俺たちをこの蜂屋に導くべく、青葉のスープを使い果たしたのかもしれない。
今、神様が俺たちに伝えたいのは、躓いても、転んでも、それを糧に成長するような力強さを持つ前向きさと、苦いも、辛いもしっかりと踏まえながら、それらを包括して本物の暖かさを周囲に与えられる優しさを持った、ホントの強い男になりなさい、って事なんじゃないだろうか…。

そんな、艱難辛苦を乗り越えた男の人生をぶち込んだような味がするラーメンを食ってると、竜治がポツリと話し始めた。

『これもええ機会や、と捉えて…。ここでもう一丁、花咲かしたろかっ!と思わなイカンですよね…。』

『…うん。(ほぉっ、意外と冷静じゃん…。)』

『ちゅう事で、今晩は僕の栄転祝い、思いっきり飲みましょうね!…さぁ、元気出してくださいよ。』

『…うん。(俺が慰められてどうすんだ!う〜ん、蜂屋おそるべし…。)』

解説: “蜂屋” 旭川の老舗の一つ。独特の焦がしラードが入ったスープが特徴。メニューはラーメンだけで、しょうゆ味です。 
普通と油濃いめの2種類。「3回以上食べるとやみつきになる」との声あり。新横浜ラーメン博物館にも出店している(だからど〜した…)。
旭川ラーメンといえば、ここを指す?

 

15.目的

人生の師となった蜂屋を出て、俺たちは237号を南下し、丘の町・美瑛に向かう。
旭川空港を超えると、パッチワークの畑が何処までも広がる丘陵地が、俺たちを優しく迎え入れてくれた。

今日の宿泊地はここ、美瑛にある民宿・“とんぼ村”

焼肉屋と民宿から成る施設は、全てここの村長(と、自ら名乗ってるらしい)の手作り!ほぉ、なかなかやるねぇ…。
しかも、ログハウス(写真)に付いてる風呂は、なんと昔懐かしい、薪で沸かす五右衛門風呂。こりゃあ良いや、気に入ったぜぃ!
…しかし、この私道だけはどうにかならんのかいな、未舗装(砂利道)の上に、超ヘアピンカーブ!…のバイクにはちと厳しいぜよ。

焼肉屋でチェックインの対応をしてくれたのが、ここの奥様。とっても気さくで、優しくて、すげぇ良い人。
記帳の間、お茶をよばれて談笑してると、突然、ヨレヨレのTシャツで、汗まみれのオッサンが現れた。この肉体労働者、いきなり厨房に駆け込むと、勝手にサーバーから生ビールを注ぎ、一気に飲みはじめた。

『な、何者だぁ…?』

…この小汚ぇのが村長だった。

まだ3時過ぎ、陽も高かったので、俺たちは荷物を置いて出かけることにした。美瑛駅から十勝岳に向かって、真っ直ぐ伸びる白樺街道を行く。
その名の通り美しい白樺並木から、木漏れ日のシャワーが降り注ぎ、光と影のコントラストが織り成す、なんとも言えぬ感動的な道。…うん、素晴らしい。
その幻想的風景を楽しんだ後、白金温泉からどんどんと標高を上げ、火山高原を爽やかに駆け抜けていくと、十勝岳望岳台に到着。

真ん前に見えるのが、噴煙煙る十勝岳。雲と重なってちょいと見辛いが…。まぁ、気にすんな。俺たちにはしっかりと見えたから良いんだよ。フヘヘッ…。
眺望抜群の高原帯を走り、見つけましたよ、吹上温泉露天の湯

ここは黒板五郎さんが、息子・君の恋人・小沼シュウちゃんと一緒に入って、一躍有名になった露天風呂ですねぇ。
えっ、『小沼シュウって誰?』だとぉ?テメェ、モグリだなっ!宮沢りえちゃんに決まってんだろがっ!…ったくよぉ。まぁええわ。
で、ドラマの中では乳白色のお湯になってましたけど、ホントは無色透明です。見ての通り、いっぱいいらっしゃってました。
熊の湯ほどではなかったけど、結構熱かったですよ、この湯も。人がいっぱいで結構ウザかったけど、露天自体は、自然に囲まれた良いところでした。

『じゃあ、宿に戻りましょうか…。』

『うん、でも帰る道すがら、寄るとこあるから、ついて来て。』

竜治を従え、宿の奥さんに貰った地図を見ながらとろとろと走る。

『…何処行くんすか?』

『ついてくりゃ、分かる…。あっ、ちょいとストップ!ほれっ、竜治、あそこ行ってこい…。』

『僕が、牧草ロールと撮りたいって言ってたの、覚えててくれたんすね!…でも、ここ来る為に?』

『…違うよ、へへっ。ほれっ、行くぞ。』

ラフな地図に苦労しながらもはとろとろと進み続け、多少は迷っちまったが、遂に、

『あっ、あった!竜治、ほれっ!』

広大な波状丘陵に、夕日を浴びながらぽつんと佇む、一本の木…。【哲学の木】と、呼ばれている。

『うわぁ…。』

あまりの荘厳さ、感激の極み。もう声も出ない…。孤高の哲学者が、そこにいた…。

『…辿り着いて今、分かったよ。俺はこいつと会う為に、旅してきたんだ。』

『…そうですね、凛とした、すごい存在感ですね。こいつはまさに、“聖域”だ…。』

これほど寡黙で、これほど雄弁に語りかけてくる景色には、未だかつて巡り会った事がないよ。日没までに、間に合って良かった…。
おそらく、こいつが最も“哲学者”たる表情を見せるのは、今、この時間だろう。俺たちってホントに運が良いねぇ。美瑛よ、北海道の大地よ、ありがとう!
人生の糧となる、抱えきれないほどのお土産、確かに頂きました。

 

16.宴

“とんぼ村”に戻り、今晩のお食事、開始で〜す!さぁっ、今日はお祝い、とことん飲んで食うぞ!
本日のメニューは勿論、焼肉。ここん家は、テーブル毎に七輪を置いて、炭火で焼く本格派。

『…さては村長、元シェフかぁ?』

『いいや〜っ、違うよ。脱サラして、ここ始めたんだよ。』

『へぇっ…。そう言やぁここ全部、村長の手作りって言ってたね…。土木関係?』

『まぁそんなとこかな…。』

『ふ〜ん。じゃ、何で焼肉屋なの?』

『民宿やるんだから、なんか料理作んなきゃいけないじゃない?普通だといっぱい料理覚えなきゃいけないでしょ。その点、焼肉だったら、肉切るだけで済むじゃない。』

『…(そういう事かよ!)。』

俺たちの隣で、生ビールをグイグイやりながら、悪びれた様子も無く村長は言った。
店の事一切を奥さんに任せ、まるで俺たちと一緒に来た仲間みたいになってる。良いのかな…。おいおい、ちょっと村長、まぁた生ビール注ぎに行ったぜ。
なんか村長が一番、この場を楽しんでないか?まぁ、良いかぁ〜っ!今日はとことん飲むんだったな、返って好都合だ…。よっしゃ、村長、飲も飲も!

『…ところで竜治、バイク(F650GS)どうすんの?』

『やっぱ売るっきゃないでしょう…。』

そこに村長が口をはさむ…。

『…ん、どうしたの?バイク乗るの、やめるの?』

『いやっ、違うんすよ…。こいつ転勤するんすよ。』

『…別にバイク持っていきゃ、良いじゃない?』

『いやっ、香港なんすよ…。』

『香港!へぇ…。いやぁ、家の店にもね、香港からのお客さんとか、来てくれるんだよぉ〜!』

『はぁ。…(このクソ親父、話題掻っ攫っていきやがった)。』

…この夜は、アルコールも手伝って、とっても楽しい夕食になった。

『…あぁ〜っ、やっぱ良いなぁ、北海道!』

『うんっ、こっちで暮らしてぇよ〜っ!』

すると村長が、

『…こっちで住みたい?じゃあ、土地売ってやろうか!近くに1,000坪ばかりあるんだけど、あんたたちだったら、特別に100坪区画・20万で譲ってやるよ。どう?』

100坪がたったの20万

竜治と顔を見合わせ、本気で買う事を考えた…。(因みに、今現在でも真剣に考えてます。)

この後も、村長生ビールをどんどん持ってきてくれて、ラーメン作ってくれて、もうホントにこれでもか!ってくらい、俺たちをもてなしてくれた…。村長、ありがとう。
でも、もうちょっと早く寝たかった…。

本日の走行距離、285q。 上士幌(ナイタイ高原)−層雲峡−旭川−美瑛(吹上温泉) 晴れ

 

17.麓郷

8月15日、木曜日。早朝未明、竜治が一人で、喉の渇きを癒しに母屋(焼肉屋)へ…。以下は、竜治奥さんの会話。

『(ガラガラ…)あっ、おはようございます。…すいません、お水を一杯頂けますか?』

『はいはい、ちょっと待ってね…。(コポコポ…)はい、どうぞ。…昨日はよく飲んだねぇ。』

『ええっ、まだちょっと頭痛いです…。村長は?』

『ま〜だ大イビキかいて寝てるわよ…。フフフッ…。で、お友達は?』

『…大イビキかいて寝てます。ハハハッ…。』

『フフッ…。でもね、よっぽど嬉しかったみたいよぉ!あんなに遅くまで飲んでたの、久しぶりよ…。』

『…そうですか。それは何よりです。』

って事で、昨日一番楽しんでたのは、やっぱ村長だったみたい…。いやっ、俺たちも存分に楽しませてもらったから、人の事言えないけどね…。
ただ午前3時までっちゅうのは、ちっくとこたえたきに…。

8時過ぎ、頭ガンガンで食欲あんま無いんだけど、ここはちょっと無理してでも、奥さんが作ってくれた朝食を頂きましょう。
…うん、美味い。しかしやっぱここは、このしっかり者の奥さんが居なきゃ駄目だね。村長みたく、毎日俺たちのような客と意気投合してたら、商売になんないよ。
しかもまだ寝てるし…。でも、そこが村長の良い所かもね。だって、こんな良い奥さん掴まえてんだからなぁ…。(ホント美女と野獣だよ…。)

さてと、行きますか…。村長奥さん、ホントにありがとうございました。生涯忘れられない、衝撃的で刺激的で感動的な一日を、明るく楽しく締めくくってくれた、とっても素敵な夜でした…。

で、俺たちが今日一番初めに向かったのは、中富良野の“ファーム富田”。残念ながらラベンダーはもう咲いてなかったけど、それでも、クレオメコスモスなど、数種類の花々が見事に咲き誇ってました。

でもなぁ、ちょっとイメージ違っちゃった…。静かに花の絨毯を観賞できるのかと思ってたんだけど、ここってすっげえ観光地!久しぶりに、『ウゼェ!』ってくらい、人間が居やがりました。あっ、吐きそう…。

人ごみ嫌い(酔っちゃう)のは、さっさと退散。次行こっ。ただでさえ二日酔いで気分悪いのに…。
で、お次のターゲット、麓郷の森へ。ドラマ『北の国から』ワールドです。先ずは黒板五郎さんが造った【丸太小屋】。息子の君が、不注意から全焼させちゃったとこですね…。

『全焼したはずの丸太小屋が、何でここにあるんだ〜っ!?』

『…じゃあ今からアンタも一緒に、この世から消滅させてやろうか?』

『…いやっ、あって良いです。』

内部も見る事ができたんだけど、なかなかどうして、結構居心地良さそうな家ですよ。今風のロフトなんかあったりして、こりゃあGOODです!
スイッチ一つで空調OKの冷暖房完備の家よりも、自然の気候を自分の肌で感じられるこの家の方が、素朴な豊かさを持っていると感じたのはだけだろうか…。やっぱ世の中、便利になりすぎなんじゃない?えっ、ほいたらこの冬ここで住めって?う〜ん、…やだ。

お次は、丸太小屋を焼失してから造った【石の家】

ホントはも一度、木で造るはずだったんだけど、君がオイタしちゃって、材木売っ払っちゃわなきゃなんないハメになっちゃったもんで、しょうがないからその辺に捨ててある石を使ったって言う、五郎さんのとっても前向きなアイディアから出来た家。こりゃあ、なかなか立派な家でしたよ。ホント、住んでみたい。
でも、こっちは内部を見せてくんなかった…。ちぇっ。(因みに、近寄らせてもくんなかった。周辺まで保護してる。…って事は『北の国から』はまだ続く…?)
しかし、良い所だねぇ。五郎さんが孫の君と楽しく駆け回って遊んでるのが、目に浮かんでくるよ…。
ほんで、ちゃんが、『この誘拐魔!』ってかっ飛んでくる…。(注:この時点ではまだ“遺言”は放映されてませんので、ホントはこんな光景、目に浮かぶ訳がありません。すいません、創りました…。)

『♪ア〜ア〜♪アアアアア〜ア〜♪アア〜♪アアアアア〜♪ン〜ン〜…』
『…まぁだ酔っ払ってんのか?恥ずかしいんだよっ、いきなり歌いだすんじゃネェッ!』

 

18.サラブレッド

富良野の素晴らしい大自然の景色と、黒板家の幸せそうな光景を頭の中で巡らせて… 、俺たちは麓郷を後にし、237号を南下していった。
占冠
を通り、日高ホクレンで給油、“道南”の旗をゲット。うっしゃ〜っ!これで“道北”“道東”“道南”3種類全部獲得。

…いみじくも、これは俺たちの旅が終焉を迎えつつある事を意味する。
全道制覇の達成感から来る嬉しさと、この楽しい日々が終わってしまう寂しさが、交互に胸に去来する…。
今まで色んな所を旅してきたが、こんなにも旅がの人生感に訴えてくるのは初めてだ…。何でだろう…?ヴアァ〜ッ、分かんねぇ…。
まぁ良いやっ、いつかこの足りないクサレ頭でも分かる時が来るだろう。それまでずっと心に留めておきゃあ良いさ…。

沙流川沿い(猿じゃネェ!)に237号を更に南下して、太平洋を目前にした俺たちが立ち寄ったのが、“日高ケンタッキーファーム”
竜治
がどうしても馬が見てぇ、馬が見てぇって言うもんだから、しょうがなくこの様がルートに加えてやった。

乗馬、馬車は勿論、ボート、釣り堀、公園、キャンプ場の他、屋外スポーツ数種が楽しめるこの牧場は、近くに住んでれば休日毎に遊びに来たいほどの所です。俺たちは時間が無かったので、一通り見学しただけだけど…。あぁ〜っ、やっぱこっち住みてぇっ!

おっ、かわいいおネイちゃんが乗馬の練習を終えて、今まで乗っていたお馬さんの手入れをしているよ。

彼女は観光客じゃないね、真剣に乗馬しに来てる人だ。このおネイちゃんが乗馬用の鞍を必死にはずしてる最中に、いきなり竜治が話しかけた…。

『…それ(鞍)って、結構重いの?』

『(ニコッ)はい、重たいですよ〜。』

『…(あんだけ大変そうにはずしてんだから、重いに決まってんだろ!)。』

おネイちゃんは、お馬さんの手入れで大変にも関わらず、竜治のつまんねぇ質問にも嫌な顔一つせず、かつ作業の手を止める事無く、明るく答えてくれた。
馬体を拭き、蹄鉄の泥掻きを足1本ずつ丁寧に行っている。こりゃあ、お馬さんも至れり尽せり、気持ち良さそう…。すると竜治が、

『やっぱり馬になりたいなぁ…。』

『えっ、なんで?猿払やナイタイじゃ、牛になりたいっつってたじゃん…。』

『だって、人間様からの扱いが馬の方が良さそうじゃないですか…。』

『…必ずあのおネイちゃんが世話してくれる訳じゃねぇぞ。』

『ばっ、何言ってんすか!そ、そんな事分かってますって!ただ馬の方が、扱いが良いって話で…。』

『…プフッ、何慌ててんだよ?』

『(くっそう…)そしたらInoさんは何になりたいんすか?』

『そうさなぁ…。ほいたらまぁ、世界の食卓を駆け巡る、羅臼昆布にでもなりましょうかいのう…。』

『…なれよ。』

 

19.神様の贈り物

8月15日午後4時20分、俺たちに残された時間も後僅か、そろそろ行こうか。
夜までには小樽港に戻らなければならない。ここ、太平洋に面した日高門別から、235号を苫小牧方面へ西に向かうと、鵡川町はすぐそこだった。
そう、F田君にせがまれた“本物のししゃも(柳葉魚)”が遡上してくる町だ。ここには“ししゃも”にまつわる、こんな伝説が残されている。

天の上に住むカンナカムイ(雷神)は、ひまを持て余し(ひまだったのかよ…)、沙流川と鵡川の水源地、シシリムカ カムイヌプリに降り立った。
ところが、川下のどのコタン(集落)の家々からも、煙が立ちのぼる様子は無い…。
不思議に思ったカンナカムイ(名前はネェのかよ…)は、人々の話に耳を傾ける。
「飢饉で食べるものがない。どうしよう。」途方に暮れている人々を救おうと、雷神は、天に向かって大声で助けを求めた。
天上のススランペッの畔にある、神の集落では多いに驚き、フクロウの女神が柳の枝を杖にして、魂を背負い地上に舞い降りた。
柳の枝を、どの川に流そうかと、女神は神々と話し合い、「沙流川の水は綺麗だが、男川で気が荒いから、女川の鵡川に下ろした方が良いだろう。」ということになった。そこで、魂を込めた柳の葉を、鵡川に流したところ、みるみるススハム(柳の葉の魚)になりましたとさ。めでたしめでたし…。

って事で、ししゃもは北海道の太平洋側にしか生息しない、日本固有の貴重な魚。
柳葉魚(ししゃも)の名前の由来は、神話の通り、アイヌ語の“ススハム”、又は“シュシュハム”が転じたものなんだね。
で、なんで俺たちがこんなに“本物のししゃも”にこだわってるかっつうと、現在、全国で市販されている“子持ちししゃも”の90%は、柳葉魚では無いからなのよ。
輸入物で柳葉魚の代用品として使われているカラフトシシャモ(カペリン)という魚で、学術的にも、生態的にも柳葉魚とは似て非なるヤツなの。
カラフトシシャモ(カペリン)は価格が安くて、食感が柳葉魚に似てんだけど、本物の柳葉魚の風味には到底かなわない。まぁ、チミたちも一度食べてみてごらん。
一発で目からうろこが落ちるぜ…。


柳葉魚(メス) 産卵前の子持ち。まいう〜!

柳葉魚(オス) 脂の乗ったコクのある美味さ。

カペリン     …なんなんだよ、こいつは?

 さぁて、F田君。方々探しまくって、美味しい本物の柳葉魚をゲットしたよ。という神様からの贈り物だ、ありがたく、心して食いたまえ。フェッフェッフェッ…。

 

20.惜別

苫小牧フェリーターミナル東港のすぐ近くにある厚真ICから、高速に乗って一気に小樽を目指しましょう。
実はこの浜厚真(苫小牧東港)からも、敦賀に向けて船が出てるんだけど、倍近く時間がかかる。んな時間、俺たちにはネェ。
ここから小樽までちょうど100q程度、のんびり走って1時間くらいだね、よっしゃ、行こっ…。

『バイク、乗ってみません?』

竜治のこの一言から、のバイクライフは始まった。当時、バイクの免許を持ってなかったは、竜治の2nd.バイクだったKSR-Tを譲り受け、その楽しさに一発で魅了された。
関西圏
を方々走り回り、翌年には大型免許を取得、行動範囲を拡大し、信州四国九州…。日本の中央から西半分はほとんど、竜治と一緒に行った。
まぁその辺のことは、の今までのツーリングレポートを読め。

『いつかは北海道に行きましょうね!』

ずっと言い続けてきた俺たちの夢、最終目標であったこの北海道ツーリングを、ついに実現させた途端に、神様は俺たちに一人ずつ別々の新たな道を用意した…。こんな事なら、最終目標は世界一周ツーリングにしときゃ良かったよ…。

ちょうど俺たちの真正面に沈み行く夕日を追いかけながら、いつものように竜治の後ろを走っていると、何だか感傷的になってきちゃった…。う〜ん、おっ、替え歌作れちゃったよ、“大阪で生まれた女”で。

♪走りつづけた北海道の大地。♪

♪これでこの旅も終わりだなぁ…と呟いて、♪

♪竜治の背中を眺めながら、♪

♪見納めかなぁ、と思ったら、泣けてきた…。♪

♪大阪で育った男やから、おおらかな大地を走りたい。♪

♪大阪で育った男やから、大自然の景色に憧れる。♪

♪走りつづけた天然の宝庫。♪

♪とっても大事なことを教わった旅。♪

ははっ、即興にしてはなかなか良い出来だよ。もう、しばらくは竜治と走る事も、この北の大地にくる事も出来ないんだなぁ…。
ははっ、あれ、何でかな、鼻水が止まんないや…。

俺たちの追走も虚しく、でっかい夕日は最後のプレゼントとばかりに、目に映るものすべてを真赤に染め上げて、『また来いよ…。』と言いながら、名残惜しそうに小樽港の向こうの海に消えていった…。
その置き土産の真赤な空と海が、少しずつ夕闇の藍色に溶けていき、辺り一面が完全に静かな闇に包まれた頃、俺たちはようやく小樽港フェリーターミナルに到着した。

俺たちの夏は、こうして終わった…。

本日の走行距離、335q。 美瑛−富良野(麓郷)−日高−鵡川−小樽 曇り時々晴れ

 

21.旅立ち

さぁて、午後11時30分、敦賀行き高速フェリー出航です。北海道に来る時は舞鶴からだったけど、帰りは敦賀
何でかって?へへっ、限られた時間を最大限に有効活用する為だよ。えっ、分かんない?…んじゃあ、新日本海フェリーのHP、自分で見て考えなっ。
そんでも分かんねぇ時は…、諦めろ。とにかく、明日は夜までバイク乗らねぇんだから、今晩はしこたま飲めるぜぃ!
えっ、昨日もしこたま飲んだだろうがって?…う〜ん、そうなんだけどね。まぁ良いじゃん…。よっしゃ、乾杯!

8月16日、朝8時。この一週間の疲れも溜まってるはずなのに、なんでか普通に起きれるよね…。おまけに2夜連続の深酒で、身体的にはもうそろそろ限界に達していてもおかしくないのに…。本気で楽しい時ってのは、こんなもんなのかな…。
9時58分、俺たちと行き違いに北海道へ向かうフェリーとすれ違う。お互いに汽笛でエールの交換だ。楽しんできなよ…、良い旅を…。
不思議と羨ましいとは思わない。ホントは羨ましいはずなのに…。良く分かんないけど、よっぽど素晴らしい旅をしたみたい、俺たちって…。

♪あなたが船を選んだのは♪

♪私への思いやりだったのでしょうか♪

♪別れのテープは切れるものだと何故♪

♪気付かなかったのでしょうか♪

♪港に沈む夕日がとても綺麗ですね♪

♪あなたを乗せた船が小さくなっていく♪

う〜ん、良いねぇ、イルカ…。えっ、知らない?
いやっ、海に棲んでるかわいいあのイルカじゃなくって、小っちゃくて、見た目よりも年齢食ってて、チンチクリンの…。うわっ、知らんか…。
いやっ、もう良いよ、年齢がばれそうだから、この話は無かった事にしてくれ…。

行き違うフェリーで、見も知らぬ人たちが胸いっぱいに夢を膨らませて、北の大地に旅立って行く…。で、俺たちはその北の大地がくれた、人生の糧となるたくさんのお土産を持って、厳しさを増す日常に戻って行く。
おめぇ等もいっぱい貰ってこいよ、最高の土産。俺たちなんて、この一度っきりの人生じゃ使い切れないほど貰っちまったよ。新たな旅立ちへの準備は万全だぜっ、なぁ?竜治…。

『しかし、良い旅だったなぁ…。』

『ええっ、最高に良い旅でしたね…。』

『…(世界中の皆がこんな風にずっと幸せでいれれば良いなぁ…。大自然の素晴らしさを理解して、新しい世の中を築き上げて行ければ良いなぁ…。うん、何かをしよう、俺たちが何かをしなきゃ…。)』

俺たちに出来る事、やんなきゃなんねぇ事は、まだ腐るほどあるんだよな…。考え自体はまだまだ漠然としてるけど、一歩一歩確実に、しっかりと歩いて行こう…。よっしゃ、もう後ろを向いてるひまはネェ!俺たちの未来には、輝かしい世界の夜明けが、待っちょるぜよ!  

『…? …ボォッとして、何考えてたんすか?』

『…んっ、…あぁっ、…世界平和。』

『フッ…、そうっすか。ハハッ、そらぁアンタの頭ん中は、世界中で一番、平和っすもんね…。』

『…やっぱそう?…そ〜なのか?…しょ〜なのか、初七日?』

『…そんなに死にてぇのかよ。』

あぶねぇ、もう少しでだけ違う方向へ旅立たされるところだった…。

楽しかった旅の回想は尽きもせず、気付いた時にはそろそろまたひとっ走りの時間だった…。
お土産でパンパンに膨れ上がったバッグを可能な限り押し縮め、荷造りを完了させると同時に、俺たち自身も気を引き締めなおす…。
午後8時過ぎ、いよいよ敦賀港へ到着。…入港すると同時に、偶然にも、それは見事な打ち上げ花火が、まるで俺たちを祝福するかのように、盛大に迎えてくれた…。

ヒュ〜…、ド〜ン!…パラパラパラッ…、ドド〜ン!パチパチパチ…

『おぉっ、綺麗だねぇ…。いやぁ、やっぱ俺らって運がええわ…。ほいたら、竜治、行っちゃりますか!』

『はいなっ、Inoさん!…しっかりついてきて下さいよ〜!』

『…はぁ〜い。』

本日の走行距離、175q。 鶴賀−自宅  晴れ

お終い 

※ 最後に、このツーリングレポートをお読みになった皆様へ。

通読して頂き、本当にありがとうございました。次回作でまたお会いできますように…。

 

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