ちいさな クマの ヌイグルミが、
おふとんの うえで 目(め)を さました。

 プラスチックの 目(め)の たまが、
クルッと めくれあがった。
そのしたから、
キラキラ ひかる 灰色(はいいろ)の
瞳(ひとみ)が でてきた。
クリンとした まつげも、
ちゃんと ついている。

 クマさんは からだを おこして、
おふとんの うえに すわった。
りょう手(て)で ハナを おさえた。
そして、思(おも)わず つぶやいた。
「あいててて。ハナが・・・・・・
 ハナが、すっごく いたい」
顔(かお)をしかめて、
ハナを なんども こすった。


 ねむるまえ、おひるの ことだった。
 ふうちゃんが、
この クマさんの ヌイグルミを、
「メキシコばあちゃんの おうちに
 つれていくぅ」
と いいだした。
 そのおうちには、
ベッキーと いう名前(なまえ)の
巨大(きょだい)な マルチーズが いる。
こいつが ヤンチャな 犬(いぬ)なのだ。
 ママは ふうちゃんの ことばを
きいたとき、すぐに
「だめだめ!」
と 思(おも)った。
ベッキーが クマさんを
ひどい目(め)に あわせている、
そんな ようすが ありありと
こころに うかんだのだ。
だから、クマさんを つれていくのを
やめるように いいきかせた。
でも、ふうちゃんは、いちど いいだしたら
ぜんぜん いうことを きかない。
「クマさんと ヒツジさんと、
 いっしょに いくぅ!」
そういって だきしめて、
はなそうと しなかった。
しかたなく ママは
あきらめて しまった。
すると やっぱり
メキシコばあちゃんの おうちで、
悲劇(ひげき)は おこったのだ。


 また おはなしは、
夜(よる)のことに もどる。

 おへやは、うす暗(ぐら)い。
ちいさな まめ電球(でんきゅう)だけが
ついている。
 クマさんは、
「いてえなぁ」
と もう1かい ハナを さすった。
 ハナの まわりが けばだっている。
ほつれて のびた 糸(いと)を、
ピーッと ひっぱってみる。
うらめしげに さわっていると、
「コロンコロン」
プラスチックの ハナが おちた。
「しまった!」
クマさんは あわてて ハナを ひろって、
ネジに なった さきっちょを
ポッカリ あいた あなに つっこんだ。

 クマさんのハナは、なんと
ベッキーに ひきちぎられて しまったのだ。
 あいつは ヌイグルミで
あそぶのが だいすき。
ちょっと 目(め)を はなした すきに、
くわえて ムチャクチャに ふりまわして、
ハナを ちぎったのだ。


 クマさんは、
チョチョぎれる いたみを こらえた。
目(め)じりに たまった なみだを、
ゆびの さきで ふきとった。
 いまは 夜(よ)ふけ。
クマさんの 左(ひだり)で ふうちゃんが、
右(みぎ)で ママが、
スヤスヤ ねむっている。

 ふうちゃんと ママは 毎晩(まいばん)、
ひとつの ふとんで いっしょに ねむる。
クマさんは いつも、
ふたりの あいだで ねむらされるのだった。

 ふうちゃんは クマさんと ねむるのが、
とても 気(き)に いっている。
朝(あさ) 目(め)が さめたときに
クマさんが みあたらないと、
「クマさんが、いなあああい!」
と いって、
なみだを ポロポロ
こぼして しまうくらいだ。

 どうやら、ふうちゃんも ママも、
ハナを おとした 音(おと)に
気(き)が つかなかった みたいだ。
ふたりとも よく ねむっている。
「ふぅーっ、よかったぁ」
クマさんは ホッとして ためいきを ついた。


「ファーッ、
 もう こんな 時間(じかん) かいな」
クマさんの 相棒(あいぼう)の ヒツジさんが、
クマさんの すぐとなりで
目(め)を さました。


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