「ファーッ、あーー、あぁ」
ヒツジさんは、もういちど
大(おお)きな ノビを した。
 時計(とけい)は
2時20分(2じ20ぷん)を さしている。
「おまえ、ひるまは さいなん やったのォ」
ヒツジさんは、
りょう手(て)で 目(め)を こすりながら、
顔(かお)も あげずに いった。
ぜんぜん 心配(しんぱい)して くれていない。
ひとごとだと 思(おも)いやがって。

 ヒツジさんは、
スルッと ふとんから でて たちあがり、
ベストの すそを なおすと、
「ぼちぼち いこか」
と いった。

 クマさんと ヒツジさんは
毎晩(まいばん)
この時間(じかん)に おきだして、
ふうちゃんの ゆめの なかに はいっていく。
 ヒツジさんは、そのことを
「子(こ)もりに いく」と いう。
クマさんは、
「その いいかたは よくない」
と 思(おも)っていた。
「ヌイグルミに 生(う)まれた からには、
 こどもの ゆめの 世界(せかい)を
 てだすけ するのが、
 ぼくたちの 使命(しめい)なんだ」
と 思(おも)っていた。
それに、
「ぼくは、けっこう
 うでききの タレントやし、
 じつのところ
 ゆめの 監督(かんとく)でも あるんや」
と、ひそかに
じまんに 思(おも)って いたのだ。
ヒツジさんにも いったことは なかったけど。


 ヒツジさんは、ベストの むねポケットから、
レンズの まるっこい サングラスを
だして かけた。
そして、りょう手(て)を
ポケットに つっこんで、
かけぶとんの うえを
ヒョコヒョコと 歩(ある)いていった。
「おいおい、ちょっと まってくれよォ」
クマさんも、いそいで ふとんを はねのけ、
ヒョコヒョコッと こまたで
ヒツジさんを おいかけた。

 クローゼットの まえまで くると、
ヒツジさんは りょう足(あし)を ふんばって、
大(おお)きな とびらを つかんで、
ギグィーッと ひっぱった。
「ふぇーっ、おもたいなあ」
 やっと ひらくと ヒツジさんは、
暗(くら)い クローゼットの なかへ、
どんどん 入っていく。
そして、ひっこし屋(や)さんマークの
ダンボールばこの まえに でた。
「おいっ、クマッ、はよ はよ、かたぐるまっ!」
ヒツジさんが いう。
「ちぇっ、またかよォ」
クマさんは、こころのなかで ぼやきながら、
しゃがんで あたまを まえに つきだした。
そして、ヒツジさんを かたに かついで
ふんばった。

 ヒツジさんは
ダンボールばこの へりに つかまって、
もがいて はいあがり、
「ボトン」と はこの なかに おちた。
「おーい、クマ!
 とびら しめるの、わすれんなヨ」
「ハイハイハイハイ」
と、クマさんは また
こころの なかで ぼやきながら、
ギグィーッと とびらを しめた。

 まっ暗(くら)に なった
クローゼットの なかで、
クマさんは、ひとりで
いっしょうけんめい とびあがる。
「ピョコッ、ドン。ピョコッ、ドン」
なかなか、とどかない。
 7かいめで、やっと うえの へりに
手(て)が かかった。
「ウンクラショっと」
「ボトン。」
やっと クマさんも、はこの なかに おちた。

 ふうちゃんの トレーナーや
パジャマの うみを、
かきわけて かきわけて、
したへ むかって およいでいく。
 やっと 底(そこ)に たどりつく。
まっ暗(くら)な あなが あいている。
ここが、ふうちゃんの
ゆめに つづく いりぐちだ。

 クマさんは 大(おお)きく
息(いき)を すい、
むね いっぱいに 空気(くうき)を ためる。
そして、りょう足(あし)から いきおいよく、
そのあなに すべりこんだ。
「プシュルシュルシュルシュル〜」
まっ暗(くら)な ほそい トンネルが、
クネクネ つづいていて、
クマさんは、
猛(もう)スピードで すべり おちていく。
ウォータースライダーの なか みたいだ。
「ジャッバ〜ン」

 終点(しゅうてん)に ついて、
クマさんは、あたまの てっぺんまで
ズブヌレに なった。
いそいで 顔(かお)を ぬぐって、
まわりを みまわすと、
そこは、お花(はな)ばたけの なかの、
水(みず)たまりだった。
ヒツジさんは、もう ドライヤーで、
髪(かみ)の毛(け)を かわかしている。

 とおくから 風(かぜ)に のって、
ふうちゃんの ちょうしはずれの
歌(うた)が きこえてきた。
「らん・らら・らん・・・・
 らん・らら・らぁん」


ジャッバーン!

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