Angel Sugar

「証拠物件―千本のホモビデオ―」 (1万ヒット)

タイトル
 殺人事件を追って、犯人の住まいは見つけたが、そこに居たはずの住人は既に逃走した後であった。
「うは~すげ~掃除しろよ~」
 手袋をはめた手で鼻を押さえた篠原が玄関口で顔をしかめた。
「お前ら頑張ってこい。狭そうな部屋だしな、全員入るわけにもいかんだろう。犯人は逃走したようだし、ここはお前らに頼むとするか……。まあ、もちょっとしたら鑑識も到着するが、お前達が先発隊だ。逃走先が分かるような物があるか見てこい」
 部長の成田が、篠原と利一の肩を叩いてそう言った。
「げろ~」
 と篠原は泣きそうな顔をして部屋に入った。
 この部屋は2Kの間取りであるのだが、そこかしこにゴミ袋や読んだであろう雑誌などが散乱し、一冊の上にもう一冊と折り重なるように放置されている為、足の踏み場も無い。すえたような匂いがするのは、食べかけてほったらかしにされている、カップラーメンなどの入れ物からだろう。
「……おい、隠岐、ここって人間が住んでたと思うか?」
 まるでゴミ処理場の様な部屋をみて篠原が言う。
「さあ……私はご遠慮しますが……」
 苦笑してリーチは言った。
『トシ~なあ、交替しない?』
 猫なで声でリーチはそう言ったが、トシはムッとした声で言った。
『やだよ。今週リーチの番じゃないか。なのに昨日所轄で引き上げた死体確認に行ったの僕なんだからねっ!この位我慢してよ!』
『あのな、死体の臭い身体についちゃったから、俺、昨日ユキんちいけなかったんだぞ!』
『そんなの僕の所為じゃないだろ!それに水死体が臭いのは分かってるだろ!僕なんか直に見て臭ったんだからねっ!それに較べたらこの位の部屋何ともないだろ!』
 リーチは昨日、名執の家に行くことにしていたので、水死体と聞いた段階で臭うの嫌だなあと思ったリーチは、トシに嘘を付いて交替させたのだ。
 だがこっちは臭わなかったのだが、利一の身体にはしっかりと十日間放置された水死体の臭いが付いてしまった。悪いことにこの種の臭いは独特で、シャワーを浴びたくらいではなかなか取れない。更に着ていたスーツは速攻ビニール袋に入れてクリーニングに出さなければならない程だった。
 いくら何でもそんな臭いをつけたまま、名執の家に行くことなど出来ない。
 それはいいのだが、リーチに騙され死体に対面させられたトシは、昨日からすこぶる機嫌が悪い。更に、利一の身体は人前に出せないほどの臭いをつけていたにも関わらず、「今日のプライベートはお前に譲ってやるから幾浦に会いに行けば~」とトシに言ったものだからトシの怒りは持続中だった。
 冗談の分からない奴……とリーチは思うのだが、リーチが言うと冗談にならないところが問題なのだ。だが本人はそんなことこれっぽっちも分かっていない。
『なんで~ケチっ!』
『け、ケチって……リーチそんな事僕に対して言えないだろ~!』
 きーっと怒るトシを無視して、リーチは仕方なく台所に廻る。そこは洗い物の山で、何か異様な生き物が這い出てきそうな程荒れていた。
「なんか……出てきそう……」
 同じように思ったのか、篠原が鼻を押さえてそう言った。
「お~い。なんか足取りつかめそうなものあったかあ?」
 気楽な部長は外からそう叫んでいる。
「何も無いですよ~っていうか、なんかあっても分からないですよ~」
 篠原が大声でそう言う。確かに何かあってもこれじゃあ分からないとリーチも思った。
「ヤだなあ……ふすまとかあけたら何か一杯落ちてきそうだと思わないか?」
 押入のふすまの前に立って篠原が言った。
「変なことばっかり言わないで下さいよ……」
 リーチが苦笑して、ふとふすまを開けると、篠原の言った通り、何かが一杯こちらに向かって落ちてきた。
「ぎゃーーーーーーっ!」
 篠原がそう言って叫ぶのを外で聞いていた部長が聞きつけ、慌てて駆け込んできた。
「どうしたっ!」
「……いえ、沢山ビデオが落ちてきただけです……」
 下半身をビデオで埋めたリーチが言った。
「なんだ、驚かせるな……。篠原っ!変な声で叫ぶんじゃない!こっちが驚いたぞ」
 額を拭きながら部長は言った。
「す、済みません。俺、死体かと思って……」
 はははと血色のない顔で篠原は言った。こんなところに死体が放り込んであれば、玄関入った段階で臭うに決まってるだろうとリーチは思った。
「全く……にしてもすごいビデオの数だな……」
 部長の成田がそういって、視線を巡らせた。
「俺と兄貴のラブラブ日記……って……なんじゃこりゃ~!!」
 ビデオのタイトルを見た篠原が、先程よりでかい声で叫んだ。
「だから、篠原五月蠅いぞ。タイトルと中身が違うことも考えられる。殺した相手をビデオに撮って家族に送りつけてきたような奴だ。それを隠すためのカモフラージュかもしれんだろう。な、隠岐」
 と成田が呼んだのだがリーチには聞こえなかった。
『リーチ……呼んでるよっ!嬉しそうな顔しないでよ!利一変態になっちゃうだろ!』
 ビデオのタイトルをあっちこっち読んでいるとトシが怒鳴って言った。
 あ、利一忘れるところだった……
「は、はいはい」
「とりあえずこっちは引き上げて鑑識に調べさせるか……指紋とか血痕とかあると困るからなあ」
 成田がそう言って部屋を見回した。
「まあ、ここに長居する気にはならんが……。ほら、帰るぞっ!」
 その日、結局犯人の足取りもつかめず、十時頃捜査員は一旦捜査本部に戻った。 

「ああ、隠岐、篠原。お前達に特別な仕事をやろう」
 係長の里中が、ようやく戻ってきた二人に言った。
「なんでしょう?」
「昼間、犯人の自宅へ行っただろう?そこで大量のビデオが押収されたんだが、鑑識から今返ってきたんだよ。それでそのチェックを頼みたい。他にも所轄の人間に声をかけているから、二階の打合せ室に行ってくれ。テレビ四台でチェックするらしい。その準備がそろそろ終わる頃だろうからな」
 リーチと篠原は顔を見合わせて、げんなりといった顔をした。だが篠原のげんなりは本当のげんなりだ。リーチはそう言うポーズを作って実は、
 ラッキー!
 等と密かにほくそ笑んでいた。
「聞くとアダルトビデオらしいから、若い人間にチェックさせてやろうって、気を利かせてやったのに、その顔は何だ?」 
 里中はビデオの内容まで知らなかった。
「係長~あれ、多分全部ホモビデオですよ。チェック所轄でやってくれないんですか?」
 篠原が情けない声で言った。
「……そ、そうなのか?だが、こっちからもチェックする人間をださんとならんからな。まあ仕方ないと諦めろ。三係の他の巡査は東大の司法解剖に回って貰って、後はまだ聞き込みから帰ってきていない。お前らしかおらんのだ。私はこれから別の捜査本部に行くから、後は頼んだぞ」
 里中はそう言ってさかさかとを行ってしまった。
「隠岐が一旦戻ろうなんていうからこんな事になるんだよ」
 ムッとした顔で篠原が言った。
「でも仕事ですからね、篠原さん」
 いつもの笑みを浮かべてリーチは言った。
「隠岐~何言ってるんだよ。男同士でからんでても面白くなんかねえじゃねえか!お前何でそんな仕事に対して真面目なんだよ」。 
 真面目なのはトシでリーチではない。何より今のリーチは興味津々で決して仕事の責任感から見たいのではない。
「仕事ですっ!行きますよ」
 リーチは篠原の首根っこを掴んで歩き出した。
『何が仕事だよ……リーチが見たいだけだろ……もう……リーチさいってい!』
 トシがそう言った。
『でもほら、タイトルと中身が違うって事も多いしさ、中には証拠になるような現場を映してる事だってあるんだから、俺は仕事上、仕方なく見るんだぜ。だろトシ?』
 仕事に熱心なふりをしてリーチはそう言ったが、トシは信用していないようだ。
 その通りだからこの辺りは否定できない。
『……怪しい』
『とにかく、仕事仕事~』
 利一でなかったら、リーチはスキップでもして走り出しそうな雰囲気で、二階の打ち合わせ室へ篠原と向かった。

 打ち合わせ室では既にテレビとビデオの設置が済み、鑑識から返ってきたビデオの入った段ボールが運び込まれているところであった。テレビとビデオは各四台ずつ、人間は一組二人で一台担当だった。
 本庁から二人、所轄から六人、総勢八人でこれから1000本のビデオを確認することになる。
「本庁からは隠岐さんが来たんですか。うわ、災難ですね……」
 見知った所轄の刑事がそう言って、苦笑した。
「ええ、丁度聞き込みから戻ってきたところを係長に捕まってしまたんですよ」
 リーチは仕方なしに来たという態度だけはとり続けていたが、もう、早く見たくて見たくて仕方がなかった。
「俺にはそう言ってくれないの?」
 篠原がそう言うと、「だって篠原さん好きそうでしょ?」という答えが返ってきた。実は反対なのだが……。
「そりゃ、綺麗なお姉ちゃんだったらもう率先して手を挙げるけどさ、ホモビデオなんて嫌だよ。で、無修正だったら最悪だろ……」
 と、篠原が嫌そうに言うと周りが凍り付いた。段ボールをもって運んでいた警官も思わずそれを落としそうになる。
「え、ホモ……なんですか?」
「だよ。全部確認した訳じゃないけど、背表紙のタイトル、俺と兄貴がどうのとか、男の世界とかそういうのばっかりだったもんな。綺麗なお姉ちゃんじゃ無いって事だよ」
「騙された……」
 と、所轄の刑事が青くなって言った。周りにいた警官も真っ青だ。
「あー知らなかったんだ……」
 はははと篠原は笑った。同類が一杯いて本人は嬉しそうだが、周りに漂う凍った空気は既に氷河期まで遡っていた。
「まあまあ、仕事ですから皆さん気合い入れて頑張りましょう」
 一人だけ、春の日だまりのような笑みを浮かべてリーチは言った。
「ほんと、お前って仕事熱心すぎるよ……」
 篠原が用意された椅子に座って言った。
「では、ひと箱づつ担当して貰います。ビデオには全て番号がふってありますので、用紙にタイトル名と内容を見た番号通りにチェックしてください。事件性のあるものはチェックと同時に、こちらの赤い箱に入れてくださいね」
 婦人警官はそう言って、笑いを堪えた顔で全員に用紙と、段ボール箱を置いていった。
「ひと箱済みましたら、こちらにもまだ沢山ありますので、差し替えてください」
 そう言って、婦人警官は出ていった。
「いいな……代わって欲しいよ……」
 と、篠原はまだそんな事を言っていた。
「往生際が悪いですよ。さーさっさとチェックしてしまいましょう」
 リーチはそう言ってまず一本目を箱から取り出した。それに習って全員がその作業を嫌々ながらも始めた。
『なんかこれ面白そう~』
 もう、リーチはホクホクだ。逆にトシは無言である。
「篠原さん、タイトル読みますから書いてください」
「へーへー……」
 渋々ボールペンをもって篠原は用紙に向かった。
「番号は21番、タイトルは、俺を犯したあいつ……です」
 さらりとリーチがそう言うと、篠原はまたもや青くなった。周りも似たような反応だ。
「げろ~そんなの見たくないよ~」
 言いながらも手は動かしてちゃんと用紙に書き込んでいた。それを見届けてリーチはビデオデッキにそれを差し込んだ。
 ビデオが回りだして、再生し始めると、画面にいきなり大学生くらいの男と、学校の教師らしき人物と、用具室で犯っているシーンが出た。
「げえええええ!むっ、無修正……!」
 椅子から仰け反ってこけそうな篠原とは逆に、リーチは平然とした顔をしてそのビデオを見ている。
「おま、お前こんなのよく平然と見られるなっ!」
「仕事です……篠原さん」
 ちらとも篠原を見ずにリーチはそう言った。
「……俺、お前に警視総監賞やりたいよ……」
 うううっと唸って篠原はテレビ画面に必死に目線を送らせた。
『……トシ……変わって』
 リーチはおもむろにそう言った。
『やだよ。僕今から寝ようかなんて考えてるんだから……こんなの付き合えないよ。事件性があるの出たら起こして……』
 トシがそう言ってスリープしようとするのをリーチが止めた。
『それがさあ、俺駄目だ……』
『は?見たかったんだろ?今更何言ってるんだよ』
 も~とトシが言うのだがこっちはそれどころじゃない。
『俺、勃っちゃうよ』
『はああああ????』
 トシが驚いて目を見開いていた。
『利一がこんなの見て興奮したら、やばいと思うだろ?』
 リーチの口調は意外に真剣だった。
 いや、切実だった。
『嘘っ!リーチこんな気色の悪い物見て、こ、興奮すんの?』
 画面では男二人が、ひたすらピストン運動をしている。
『だってさあ、俺、昨日ユキとやってねえもん。欲求不満なところにこんなの見たら、犯されてる奴の顔がみんなユキに見えてくる……あ、もちろん相手は俺にすり替わって見えるんだけどな……たまんねえんだよ……』
 本当にそうなのだからどうしようもないのだ。
『なっ!何言ってるんだよ!』
『イヤマジ、マジなんだよ……だから、変わってくれって~!』
『……ぼ、僕もこんなの見るのやだ……吐きそうになる……』
 トシは本音を言った。
『お前なら、萎えるだろうけど、俺は勃っちまうんだよっ!どっちが利一にいいか考えて見ろよ!俺ここで勃っちまったら、利一は明日から笑いもんじゃねえかっ!お前が吐く方がよっぽどましだろ!』
 切実な声でそう言うリーチにトシは溜息を付いた。

『…………分かった……』
 トシは暫く考え、結局仕方無しにリーチと主導権を切り替えた。そのとたんに確かに勃ちそうな気配だったものがトシに変わったとたんに萎んだ。
『は~良かった。俺はこっちから見てよっと』
 急に明るくなったリーチは花畑でご満悦だ。
『うう……気持ち悪い……』
 トシは画面を見てそうごちた。
『んでも、あれ、入ってないぞ……演技だ演技、大したこと無いさ』
 その、大したことのないものを見て、勃つだの何だの言っていたのはリーチなのにとトシは思うのだが、それは言わなかった。
 狭い部屋で四台ものテレビが全部ホモビデオを再生していると、あっちからもこっちからも、あえぎ声や、悲鳴のような快感の声が聞こえて木霊する。見ている人間はどんどん顔が青ざめてくるのだが、不思議なもので、数時間経つ頃には多少慣れて機械的にその作業を行えるようになってきた。
 篠原に至っては、冗談まで飛び出す始末だ。
「なんか男同士で、いや~とか、やめて~っていうの馬鹿くさいよなあ……」
「は、はあそうですね」
 慣れは怖い……とトシは思うのだが、トシは全く慣れてくれない。逆にどんどん気持ちが悪くなるのだ。
 自分は幾浦からこんな風に見えるのだろうか?
 ビデオに映る受け側の男の表情を見てトシはふとそう思った。
 根がストイックで、理性的な生活を送るのを信条としているトシにしてみると、行為そのものが異常なものに見えてしまう。
 いや、恭眞と僕はこんなんじゃないと必死に自分に言い聞かせていたのだが……。
『なんか結構受けってのも大変だよなあ~。お前もさ、幾浦とやってるときって、あんな感じなんだろうなあ~』
 リーチが妙に感慨深げに言った。
『ちっ、違うよっ!恭眞と僕はあんなんじゃない!』
『はっ、なにぶってるんだよ。お前だって幾浦の乳首とかちゃーんと噛んだり揉んだりしてやるんだろ?うは~あいつにそんなのするの考えるだけでも気持ち悪いなあ~。トシってすごいんだなあ~』
 乳首噛むって何??
 も、揉むって……
 そんな事を幾浦にしたことは無かったが、普通はするのだろうか?
 いや、されたことはあるんだけど……
『り、リーチ止めてよ。そ、そんなの僕しないよ……』
『え、しないのか?お前マジでベットの上ではなーんもしないタイプ?』
 なんも……って……
 そ、そりゃ一度は……恭眞の……ものを……ごにょごにょ……
 ちが~ううう!
『ぼ、ぼぼ僕のそういうのリーチに関係ないだろっ!』
 トシはあわあわしながらそう言った。ビデオを見ながら、バックからもこんな事を言われた日には、もう立ち直れないくらい真っ白になってしまう。
『なんで?楽しいセックスライフ、お互い情報を交換すんのが普通だろ?まあ、俺は攻めだしお前は受けでその辺は違うけどさ。逆に、俺が攻めだから、受けがどうしてくれたら無茶苦茶嬉しいのか聞けてお前は幸せだと思うけど……』
 僕、この状態幸せなの?
 トシは納得できない。
『全然幸せじゃないっ!余計なこと言わないでよ。その、ベットでの……話って……僕と恭眞の事なんだからリーチには関係ないじゃない!』
 耳を塞ぎたいのだが、悲しいことにそれが出来ない。
『お前ってベットの中じゃ無茶苦茶退屈な受けなんじゃないか?それはずっと心配してたけどさ。昔からそういう行為に対してあんまり良い感情持ってなかったし……』
『し、心配なんかしてくれなくていいよっ!』
『あのよ、俺は優しい~気持ちで言ってるわけ。そんな風に言うって事はやっぱり何もしないタイプだな。お前な、自分ばっかり前立腺刺激されて悦んでる場合じゃないっての』
 ぜ、前立腺って……な、な、なに?
 だがそれをリーチに聞けば、とんでもないことになりそうな気がしたトシは聞くのを止めた。それよりこの男をどうにか止めたいのだ。
『り、りりり、リーチ……も、もう良いから……』
『良い訳無いだろ!全くもう。これじゃあセックスしてて、飽きられるタイプだぞ』
 飽きられるの?そういうものなの?
『ほら、ビデオ見て見ろ!そりゃあれは演技かなんかしんねえけど、あっちの方がお前より上手だぞ!』
 リーチが言うままにトシがテレビ画面を見ると、可愛らしい顔をした男が裸の上にエプロンだけを着て男を誘っていた。
『な、何これ……』
 これの何処が良いのかトシには全く理解できない。
『これぞ、男の願望だよ。裸エプロン!良いじゃないか~すんげーいい!』
 リーチは嬉しそうだ。
『こ、こんなの……馬鹿みたいじゃないか……』
『こういうのが良いと分からないからお前は駄目なんだ。男って言うのはこういう姿に欲情するんだぞ。幾浦だって絶対そう思ってるはずだ』
 利一の裸にエプロンを着せた姿を想像するのだが、トシにはちっとも面白くない。それがどう欲情に繋がるのか全く理解に苦しむ。
『あんな姿で料理とかするの、寒いだけじゃない……』
 トシがそう言うとリーチが爆笑した。
『何が可笑しいんだよ』
『いや、何か、お前ってどっかずれてるなあってさ』
『ずれてなんかないよっ!』
 リーチの頭がエロく出来てるだけだとトシは思った。
『ああいうかっこしてさ、キッチンセックスとかするんだよ~いいなあ~ユキに頼んだらやってくれるかなあ……』
『き、キッチンセックスう?』
 もうトシは頭が飽和状態だった。
『あのよ、そういちいち驚くなよ。ほんとお前が相手で幾浦可哀相だな……』
 恭眞可哀相なの?
 僕退屈なの?
 エプロン着た方がいいの?
 わからない~!!
『げ……』
 画面は次に男のあそこに何かをつっこんでる。
『り、リーチ……あれ何?あんなの入れて良いの?』
『あ、あれ?俺はあんなの趣味じゃないけど、ああいうの使う奴もいるからな。知らないって事はお前は、バイブで攻められたこと無いんだ』
 ほ~と言いながらリーチが言うのだがトシには理解できない。
『なななななっ……無いよっ!』
 もうトシは半泣きだ。
『あれってほら、あそこの形に似せたゴム製とか色々あって、電動で動くんだよ』
『うご……動くって……ええええっ!』
 今度は泡を吹きそうだ。
『えええって、トシって駄目だ……』
『そ、そんなあ……』
 何が駄目なのか分からないのだが、本当に駄目なような気がしたのだ。
『仕方ない、俺が先生になって、いちいち説明してやるからちゃんと聞けよ』
 と、リーチは優しい気持ちで言ったのだが、この後トシが……と言うより利一が青くなって倒れたのは言うまでもない。



■リーチの場合■
 
 帰ってくると、リーチは既にうちに居てくつろいでいた。
「リーチ来てたのですか?」
 名執はそう言うと、リーチは満面の笑みでこちらに振り向いた。
「お帰りユキ」
「リーチ……何か良いことでもあったのですか?笑い顔が張り付いてますけど……」
 不審気にそう言うと、リーチがチラとこちらを見てごそごそ何かを取り出した。
「これ……プレゼント」
 なんだかにやけた感じに手渡してきたような気がしたのは気のせいだろうか?
「ありがとうございます……でもどういうお祝いです?誕生日でもありませんし……」
 結構大きな箱にリボンがかかっており、中身は良く分からない。
「いいから~開けていいよ……」
 やっぱりにやけている。
「気持ち悪いですね……」
 中にこちらが驚くような仕掛けでもしているのだろうか?そう思うと、開けようとしていた手を止めた。
「どうした?」
「後にします」
「ええ~っ」
 この驚きようはやはり何か仕掛けをしていると思った名執はさっと立ち上がった。
「リーチ……この中身に何か仕掛けをして私を驚かそうと思っているんでしょう?もう、子供みたいな事は止めてください」
「え、違うよ。そんなんじゃないよ」
 リーチは両手を左右に振ってそう言った。
「……じゃあ何ですか?」
 じーっとリーチを見ると、なんだか悲しそうな顔をしてプレゼントの箱を持って机に置いた。
「もういいよ……」
 プイッと拗ねたようにリーチは言って背を向けた。 
「……リーチ……」
「もういいんだっ。何だよ折角買ってきたのに……貧乏な俺がだよ。こんな出費してさ。で、ユキは俺がなんか企んでると思ってるしよ!ちぇっ!面白くない奴」
 ムッとした顔でこちらを見ない。
「……分かりました。開けたらいいんですね」
 くだらない仕掛けがされていても一応驚くそぶりを見せればいいのだと、名執は自分に言い聞かせながら、リーチの隣に座り、箱を手に取った。すると急にリーチの機嫌が戻った。
 やっぱり怪しいんですけど……この笑い……
 と思うのだが、仕方なく名執はプレゼントの包装をはがした。
「……何ですかこれは?」
 そこに包まれていたものは、フリルの付いた可愛いエプロンだった。
「エプロンだよ」
 本当に嬉しそうだ。
「いえ、ですから、これをどうしたいんですか?私が着るんですか?」
「おお、さすがに鋭い!大人なお前には分かったか」
 何が大人なのか良く分からなかったが、名執はこれを着てリーチが嬉しいのなら仕方ないと思い、スーツを脱いで服を着替えるとその上にエプロンを付けた。
 何が良いんでしょうねえ……
 大の大人がフリルのエプロンなど、恥ずかしい以外何ものでもないのだが、ことリーチが望むなら仕方ないと名執は思った。
「リーチこんな感じで良いんですか?」
 と、エプロン姿でリビングに戻ったのだが、リーチは何故か不満げだ。
「なんだお前も分かってねえんだ」
「……?分かってないって?」
「だから……」
 リーチは言って側に近寄ってくる。そうして小声で言った。
「裸にエプロンだけ付けるの……」
「はあああああ?」
 思わず大きな声で名執は言った。
「なんだよその驚きは……」
 いや、驚くだろう普通……
「何を考えているんですかっ!」
「だから服をぬげって!ほら!ぬげえええ!」
「あ、リーチ止めてくださいっ!ひゃっ!りりり、リーチっ!」
 リーチは名執に覆い被さって結局全部脱がせてしまった。残るのはエプロンのみである。
「…………」
 名執はエプロンの裾を持って座り込んだまま立てない。
「あ、ユキちゃん似合うじゃないか~」
 恥ずかしくてもう堪らない名執に向かってリーチはそう言って非常に喜んでいる。
「何が似合うんですか……リーチ……何か妙なものをどこかで見てきたでしょう……」
 そう言うとリーチは「あ、ばれた?」と言いながらも嬉しそうだ。
「なあ~ユキ~そろそろご飯の準備なんかしちゃったりしない?」
 益々嬉しそうにリーチが言う。
「……こ、この格好でするんですか?」
「いよっ!色っぽいよユキ!」
 全然褒められている気がしない。
「恥ずかしいんですけど……ズボンくらいはいたら駄目ですか?」
「駄目。あのさ、俺とお前の仲だぞ。お前の裸は知らない所なんかないのに、どうして恥ずかしいんだよ。俺そっちの方が不思議なんだけどな」
 いや、ちょっとこのシチュエーションは違うと思う。等と名執は考えるのだが所詮、リーチに逆らえる名執ではない。渋々立ち上がって、そろそろと台所に向かった。その後ろからリーチはにやにやとついてくる。
 もしや、お尻は全開?
 思わず手を後ろに回すと、リーチが言った。
「おら、隠すんじゃねえよ」
 怒ってる。
「リーチ……」
 泣きそうな顔で振り返ると、リーチは当然のごとく言った。
「いいじゃん、別に見てるだけなんだからさ」
 この男それだけで済むはずなど無いのだ。
「……で、今晩は何を作るんですか?」
「ん~何でもいいよ~。でも、あんまり包丁を使うのはなしな」
 リーチは言ってキッチンテーブルに座ってニヤニヤ、にこにこを交互に浮かべながら、こちらばかりを見ている。
 何だか……ある意味不気味かもしれない……。
 名執はそう思ったが、自分が裸だと思うから恥ずかしいことに気がつき、それを無視することにした。
 開き直るのが一番ですね……
 心の中で溜息を付きつつも、現状に早くも慣れている名執であった。その上既に料理を作るという事に集中しだしてリーチのことなど気にならなくなっていた。
 結局、以前リーチが仕込んで置いてくれたハンバーグを焼き、野菜を手でちぎりそれに添えた。あと、やっぱりリーチが仕込んで置いてくれたスープを解凍して鍋に入れ火に過かける。そんな事をせかせかとしていると、ふとリーチが言った。
「お前、恥じらい無いぞ」
 呆れたように、それでもにやついた顔でリーチが言った。その目線はこちらの下の方に向けられている。
「はい?」
 気がつくと、エプロンがずれて股の間が丸見えになっていた。
「あーーーっ!」
 急に羞恥心が戻ってきた名執は思わず手で前を押さえて座り込んだ。料理を作るのに夢中になっていて自分の姿などすっかり忘れていたのだ。
「料理出来た?じゃ、食おうか?」
 出来た料理をリーチがキッチンテーブルに並べ、お茶碗を出して炊いたご飯を入れている。その間中名執は床に座り込んだまま立ち上がることが出来なかった。
「ユキちゃんご飯たべよっか~」
 えへへと笑ってリーチはそう言った。
 まだ許してくれそうにない。
 仕方なしに名執は裾をしっかり持って立ち上がると自分の席に着いた。
 リーチと向かい合わせに座るのだが、リーチはこっちを意地悪そうな目で見ていた。
「今度は何ですか?」
 半分目に涙を溜めて名執が言うと「別に?気にしすぎなんだよ」と言う。
 嘘つき……
 もう名執は逃げ出したい気分になっていた。
「じゃ、頂きます~」
 そう言ってリーチは食べ始めるので、名執も箸を取って手を合わすと、食事をし出した。
 が……
「あ、箸落としちゃった」
 等とリーチがわざとらしく箸を落として、背をかがめた。いつまで経っても身体を起こさないので名執も屈んで下を見ると、リーチと目があった。
「な……何見てるんですか?」
「え、ユキちゃんのあれ」
 リーチは下から覗いていたのだ。
「……リーチ……いい加減にして下さい」
「え~絶景だぞ」
 不服そうにそう言う。
「食べてからにして下さい!」
 あ……なんだか言ってはいけないことを言ったような……
 と、名執が思った頃には遅かった。
「食べてからねえ……」
 くすくす笑いながら、リーチは身体を起こすと、今度は真面目に食事をし出したようだった。だが、目はこちらを見てはにやついている。
 すごく嫌な予感が……
 名執はご飯が喉を通らなかった。
 
 食事が終わると、机のものはリーチが片づけた。
「お前座ってて良いから……」
 嫌な予感再来……
 だが名執はじっと椅子から動けずにリーチの動向を伺っていた。
「はい、片づけ終わり~」
 と、まだ泡のついた手をこちらに向けてにんまりと言った。
「あの……リーチ……そろそろ着替えて良いですか?」
 恐る恐るそう言うと、リーチはきっぱりと言った。
「ん?これからなのに、な~にくだんねえこと言ってるかな……」
 やっぱり……
「さて……と」
 リーチは言ってごそごそと机の下に潜り込んでしまった。こちらはテーブルクロスで、リーチの姿が見えない。
「リーチ?何やって……やっ……」
 足にリーチの舌の感触を受けて名執は身体がビクリと跳ねた。
「いつもやってることだろ?」
 言いながらも、リーチの姿が見えない。その為に次の予測が出来ずにこちらはドキドキしてしまうのだ。どうも今はこちらの足を舌で愛撫しているようだ。ようなのだが、見えないだけに何となく不安だ。
「リーチ……寝室に行き……やあっ!」
 いきなりなま暖かい感触を受けて名執はキッチンテーブルに突っ伏してしまった。その机の下ではリーチが名執のものを銜えて口内で弄んでいる。残酷なリーチの舌はピチャピチャと音を立てて、まるでクリームを舐めているように動き出す。
 それと共に身体の温度が急激に上がってきた。だが、やはり見えないリーチに名執は不安が益々積もる。
 名執はテーブルのクロスを掴んで暫く耐えていたが、もう我慢が出来なくなって涙が零れた。リーチが望むなら何だってしてあげたいと思う。だが、そのリーチが視界に見えないと本当に不安で嫌なのだ。
 がつんっ
「あいたっ」
 リーチがそう叫ぶとごそごそと又机の下から出てきた。
「何泣いてんだよっ……ったくもう、急に泣くんだからびっくりして頭うっちまっただろうが……」
 頭をさすりながらそう言うリーチに名執は手を伸ばした。するとリーチは笑みを浮かべて名執を抱きしめる。
「だって……見えないから……リーチが見えないの嫌なんです……」
「見えないのが嫌なのか?」
 そう言うリーチに名執は頷いて見せた。
「そか……うん。悪かった」
 言ってリーチは身体を離して名執が座っている椅子を、そのまま引っ張った。隠れていた下半身がテーブルクロスから出て、乱れているエプロンに気がついた名執は慌てて裾を引っ張って整えた。そんな姿にリーチは苦笑した。
「笑い事じゃ無いんですっ」
 名執は目に涙を浮かべた顔でそう言った。そんな名執の口元にぺろりとリーチの舌が這わされた。それが口元に引っ込められる前に名執は自らの舌でリーチの舌を捉えると自分の口内に誘った。
「ん……っ……」
 本格的に入ってきたリーチの舌は何度も口元の角度を変えて名執の口内を翻弄した。名執はそんなリーチの首に腕を回して、甘い感触に浸る。
「このポーズって意外にやりにくいなあ……俺こういうのは嫌かも……」
 何だか意味ありげにリーチは言うと、名執を抱え上げて、キッチンテーブルに身体を乗せた。だが両足は下に下がったままだ。
「リーチ……こんなところで本気なんですか?」
「本気」
 ニヤと笑ってリーチは名執の首元に噛みついた。
「……んっ……」
 リーチの背に回した手の片方をリーチの頭に回して、髪を撫でさする。サラサラとした黒髪が指の間を落ちていく感触が名執は好きだった。
「背中痛くない?」
 ふとリーチがそう言ってくるのを名執は喘ぎで否定した。
 嬉しそうに目を細めてリーチは両手で胸元を揉み上げながら首元の敏感な所にキスを落とす。こうなってくると、名執はもう降参するしかない。
「あ……リーチ……」
 自分より広い背に名執は爪を立てて仰け反った。胸元の突起を執拗に指で弄られているのに、違うところからも熱が上がってくる。
 もっと下……
 そんな事を考えていると、リーチの片手が股下に伸びて片足を肩にかけさせられた。既に乱れたエプロンは、もう片方の足にまだしつこくぶら下がっている。そのエプロンを名執は快感を感じ始めながらも忌々しげに足をふって床に落とした。そんな名執にリーチの笑いが漏れた。
 だが何か言おうとするリーチの頬を掴んで名執はキスをねだって、却下させた。
「あっ……」
 ようやくリーチの指は名執が望む所に触れ始めた。最初は撫でるように手の平で触れ、そして窄んだ部分に指が触れる。
 だが……
 何か冷たくぬるりとしたものが辺りに落ちた。
「やっ……な、何ですか?」
 身体を起こそうとした名執を再度机の上に押し倒したリーチは言った。
「オリーブオイル~」
 嬉しそうだった。
「……それは食材でしょう?」
 い、いつの間に……
「滑りが良くなって気持ち良いぞ。ちょっと最初冷たいかもしれないけど、中にはいっちまえば、お前の中で温もるだろうしな……」
 中に入ってって……
 名執が驚いている間にリーチはタラタラとオイルを下半身に落として、手のひらで辺りに塗り込め始めた。
 いつもと違うぬめりが気持ち悪いのだが、逆な感触も確かにある。
「で、でもリーチ……ひゃっ……」
 オイルが一杯についた指でリーチは蕾をこじ開けた。だが、油の滑りが痛みを全く感じさせない。
「ほら、簡単に入った。ん~中に入れるのは難しいから手で入れるしかないか……」
 独り言のように言ってリーチはもう一本指を入れて、狭い中を押し広げ始めた。リーチが言うようにどうもオイルを中まで入れたいのか、指は何度も入り口を出たり入ったりを繰り返して、その都度塗るぬるっとしたものが、身体の奥にも塗り込められる感触が分かった。
「あっ……やっ……やですっ……ひあっ……」
 身体を捻ろうとするのだが、リーチによってしっかり組み敷かれた身体は言うことなど効かない。
 散々オイルを塗られた蕾はヒクヒクと疼きだした。
「もうオイルは嫌みたいだなあ……違うもの欲しがってる」
 指についたオイルを舐めながらリーチは口元で笑う。
「早く……リーチ……も……入れて……」
 散々煽られた下半身は疼きと共に小刻みに震えだしているのだ。この状態はとても辛い。
「奥まで入れてやるよ……」
 と耳元で囁かれて、身体の温度が急に上がったと同時に下半身に肉厚なもの先が当たる。次に捻り込むように蕾を割り裂いて中へと入ってきた。
「あーーーっ……」
 ピリピリとした何かが突っ張るような小さな痛みが快感に変わる。
「なあ、ユキ、ここベットじゃないから、ちょっと痛いかもしれないぞ……」
 何が痛いかよく分からないが、リーチが動き出してその意味が分かった。
「ひっ……あっ……!」
 ぐっと腰が入ると、その重みは余分な力まで名執の身体にのしかかってきた。普段抱き合うベットではスプリングがある為に、ある程度重みが外へと拡散するのだ。それが堅い机の上ではリーチの体重ごと細い名執の身体にかかる。
 だが、普段ではとても届かないところにリーチの切っ先が当たって、とても口では言えない快感が身体を走った。
「きつい?」
「そこ……そこは……っ駄目っ……」
 リーチの言葉など耳に入らず、当たって欲しくない所にあるリーチの先をどうにかして欲しかった。 
「なんだ、ここイイんだ……」
 言ってリーチはにじにじと腰を押しつけて、普段は当たらない部分をチロチロと煽った。触れるか触れないかのその感触はもう堪らない。
「やっ……やああっ……そこ、いやっ……」
 身体を仰け反らせて、刺激にビクつく身体をリーチは押さえて益々腰を動かし名執のそんな姿を嬉しそうに見つめている。
「確かにベットの上より力が入りやすいなあ……っていうより俺の踏ん張りがきくのかなあ」
 等と鼻歌でも歌いそうな程の口調でリーチは言って。抜き差しを繰り返した。
「あっ……あっあっあっ……やっ……いやっ……」
 身体を揺らされ続けて、快感で気が狂いそうになった名執は必死にそう訴えるのだがリーチは何処吹く風だ。
「おい、イイって言えよ。悦んでるくせに……何が嫌だ」
 パシッと太股を軽く叩かれて、内部がぎゅっと縮んだ。
「……っ。すげえユキ……すげえ締め付け。こういうのも良いな……こっちも煽ってみたらどうなるんだろうな?」
 言って名執のモノを掴んで擦り上げられると、もう理性など吹っ飛んでしまった。
「あっ……ああっ……リーチっ……もっと……もっと……」
「ん~俺もすげえイイ……たまにはっ……こういうのも……っいいなあ」
 荒い息でそう言ってリーチは腰を揺らした。
 散々キッチンで攻められた名執は、本当によがり狂ってしまうかと思った。

 目を覚ますと、口頭一番名執はリーチに言った。
「貴方は……一体何を見てきたんですかっ!」
 半分怒ってる。
 まあ、散々いつもと違うやり方で名執を抱いたのだから向こうも不審に思うだろう。
「……事件でさあ、エロビデオ押収してそれのチェックさせられたんだよ~。それに煽られちゃってさあ」
 最後にはベットに移動したので、その上に身体を伸ばしたリーチはそう言った。
「楽しそうな仕事ですね……」
 横目でそう言われてリーチは慌てて言った。
「でもさ、別に俺、お前をいたぶった訳じゃないだろ!ビデオじゃそんなのも一杯あったんだぞ。まあ、ああいうものはユキを傷付けちゃうから俺はしなかったけどな」
「まさか、そう言うことまで、やってみたいとか思った訳じゃないでしょうね?」
 今度は本気で怒ってる。
「……思うわけ無いだろう……」
 ほんのちょっぴり思ったのだ。
 あんな風に泣かせてみたいなあ……なんて……
 だが、名執はそんなリーチを敏感に気づいたようだった。
「今度貴方が入院したときは、覚えて置くんですね」
「え?」
「貴方が嫌がる、トイレの溲瓶は可愛い~看護婦に代わる代わるやって貰うことにします。せいぜい情けない姿を人に見せるといいんですよ」
 言って名執は背を向けて向こう側に丸くなった。
 げええ怒らせた。
「それは勘弁してくれよ……」
 と言ってリーチは名執の背中に抱きついたが、怒った名執は口も聞いてくれなかった。
「なんだ、お前だって悦んでたじゃないか。俺だけが悪者か?」
「……」
「でもまあ、どうせお前、そんな風にすねても、絶対お前から謝らせるからな。そっちこそ覚えてろよ」
 ふんっと鼻を鳴らしてリーチは言った。
 まあ、嫌な入院をまたしたとしたら、トイレはトシに任せりゃいいんだよな。
 等とトシが聞いたら泣きそうな事を平気でリーチは考えていた。
 それよか今度はどういう風にしようかなあ……
 懲りないリーチであった。



■トシの場合■
 
仕事から帰ってくると、いつもなら迎えに来てくれるトシが玄関に出て来なかった。また遅くなってるのだろうかと思ったのだが、玄関にはきちんとトシの靴が並べて置かれているところを見ると、来てはいるのだろう。
「トシ!来てるんだろう?」
 幾浦は靴を脱いで、廊下を歩き、トシを探したのだがキッチンにもいない。何故か愛犬のアルも出てこない。
「……どうなってるんだ?」
 スーツの上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめ、再度トシを探そうとすると、いるとは思わなかった寝室の扉から顔だけを出してトシが言った。
「ちょっと、こっち……」
 気のせいか顔が赤かったように見えたのだが、そのトシはすぐ顔を引っ込めてしまったので、確認するまで至らなかった。
 仕方無しに寝室に入り、幾浦は凍り付いたように扉のところで固まってしまった。
 あの格好は何だ?
 トシは裸でエプロン一枚だけ付けてベットに座っていた。その表情はうつむき加減にこちらを見ている。
 その上、何故なのか分からないが、アルまでトシと同じ柄のエプロンをその首に巻いてトシの隣に座っていた。
「あの……恭眞……」
 真っ赤に照れた顔でトシに名前を呼ばれ、幾浦は魂が抜け出ていきそうだった自分を取り戻した。
「お、お前達はっ一体何をやってるんだっ!」
 すぐに寝室から出てバンッと扉を閉めると幾浦は外からそう叫んだ。
 一気に沸騰した欲望が身体を駆けめぐっているのが分かる。普段滅多に狼狽えない幾浦なのだが、予想もしなかったトシの姿をいきなり見せられて大混乱に陥っているのだ。
「きょ……恭眞……こんなの嫌?やっぱり嫌だよね……」
 丁度幾浦が立つ扉の向こうでトシがやっぱり扉の前に立ってそう言っているのが聞こえた。
「ごめん……僕……」
 暫くトシが沈黙したので幾浦が不安になって扉を開けようとすると逆に扉が開けられた。
「ごめん恭眞っ!ごめんねっ!」
 既に服を着込んだトシが泣きながら玄関に走っていく、その後をアルも走っている。
 何だ、なんなんだこの状況はっ??
「トシっ!」
「ごめんっ恭眞、僕、リーチがこういうの恭眞が絶対喜ぶっていうから……言うから嫌だったんだけど、恭眞が喜んでくれるならって……やってみたんだけど……」
 と、そこまで言ってうっと呻き、涙が更にこぼれ落ちた。
「あ、そうか、ちょとまて、違うぞっ……いや、違わないんだが……」
 くそっ、どういえば良いんだっ!
 嬉しいのだが、突然で驚いたのだ。
「ごめんね……も、帰るからっ!」
 そう言ってトシは玄関を飛び出していった。何故かアルもこちらを悲しげに見つめて、はやりトシを追って出ていってしまった。
「……あ、ああっ?」
 幾浦は裸足で玄関に暫く状況が把握できずにたたずんでいた。
 その後、リーチの番の週に幾浦の苦情が入ったのは言うまでもない。

―完―
タイトル

いかがでしたでしょうか? 何だかトシの方が一発芸的に終わってしまいましたが(苦笑)、まあいつもこんな風に彼ら4人は楽しく(?)毎日を過ごしているんです。
こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。

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