Angel Sugar

「エロティックナイト」 (1万ヒットキリ番リクエスト)

タイトル
「なあトシ、悪いけど、今日、俺このままスリープするわ……すげえ疲れた……」
 今週はリーチが主導権を持っているのだが、ずっと続いていた捜査が、本日犯人逮捕で終わった。その為、かなり疲れたようだった。
 何より犯人を追う、捕まえるという行動は全てリーチが担当であるので、ここのところずっと主導権を持っていたというのも疲れている理由だろう。
『良いけど、今日は久しぶりに雪久さんに会う約束してなかったっけ?』
 トシも疲れていたが、リーチの方が疲れていることを知っていたのでそう言った。
「明日休み貰った事だし、明日会いに行くわ……電話する……」
 言ってリーチは、名執に携帯をかけた。
「あ、俺……うん。今日俺すげえ疲れてさ。明日休み貰ったから、明日会いに行くよ。今日はもうこのままコーポに帰って寝るから……あしたな~」
 それだけ言って携帯を切った。
『なんかあっさりした会話だよなあ~珍しい……』
 トシはそう言って笑った。
「用事済んだから変わってよ。も~マジ眠い~」
 リーチがそう言うのでトシは主導権を交代した。
「リーチも疲れるんだ……」
 そうトシが言う頃にはもうリーチはスリープして眠っていた。
「はやっ!」
 トシは誰も聞いていないのに、一人でそう言い、家路を急いだ。
 折角、自分にプライベートが廻ってきたのだが、トシ自身ももう眠くて仕方ない。
 さっさと帰って寝よう……
 自分達の住むコーポはもうすぐだった。

「リーチの馬鹿……」
 名執は携帯を持ってそう言った。
 暫くリーチ達の都合で会えなかったのだ。確かに警視庁の刑事は何時だって幾つかの捜査を兼務している。だから忙しくて毎日の予定など立てられないのも分かってる。
 だがようやく会えるようになったにも関わらず、疲れてるから帰って寝るなどと聞かされても納得できないのだ。
 何よりリーチは明日休みだと言った。ならばこちらに来て、眠ってくれても良いのではないのか?
 名執が疲れて、今日は嫌だと言ってもリーチはお構いなしにやってきて、やることはしっかりやるくせに、自分は疲れたら家に帰って寝るのか?
 そう思うと、腹が立つのではなく、ものすごく寂しかった。
 とにかく今日はやっと会えると思って朝からずっとうきうきしていたのだ。明日会えると言われても、リーチ達のことだ、緊急で仕事が入ると、休みなど無くなってしまう。
 そうであるから会えるときに会っておかないと、このまま会えなくなるのではないかという不安が生まれる。
 何より彼らは戸籍上一人であるが、体の中に二人入っているのだ。その二人が一人の人間の予定を半分づつして生活している。
 だから普通の恋人達が会える時間の半分しか会えないのだ。
 いや、刑事だからもっとその時間は少なくなるだろう。その事で名執はリーチに文句など言ったことはないが、本音はそう思っていたのだ。
「……酷いリーチ……」
 馬鹿みたいに朝から期待して、食材も色々買い込み、久しぶりに二人でゆっくりしようと思っていた。こっちも仕事はあるが、急いで片づけて今日は早めに帰ってきたのだ。
 リーチも事件の捜査で疲れて来るだろうから、栄養のある物を作ってやろうとか、ちょっと張り込んで買ってきたワインを二人で飲もうとか、もうとにかく、朝からそんなことばっかり考えていたのだから、断られた名執は涙の一つでも落としそうな気分だった。
 それも、疲れたから帰って寝るのだ。
 これが仕事だったのならまだあきらめはついた。
 だが、リーチは自宅へ帰った。疲れたから……。
 明日会える……
 そんなの分からないじゃないですかっ!
 もうどうしようもないくらい悲しくて寂しい。
 会いたくて仕方ない。
 折角買ってきたワインを目の前に、名執は何を思ったのか、ガサガサと包装を取って、ワインを開けた。
「いいですよっ!約束を破るようなリーチには、こんな高級なワインなんか飲ませてあげるものですかっ!」
 名執は半泣き状態でワインを飲み始めた。

「そろそろ僕も寝ようかなあ~」
 トシはメールのチェックをし、暫く片づけていなかった部屋を片づけ終わると伸びをした。今回は色々抱えていた事件のうち二つが、ほとんど同時期に佳境を迎えたため、本当に忙しかったのだ。その為、幾浦はかなりご機嫌斜めだ。それは入っていたメールの文章からも見受けられた。
 だが、リーチ達も会えなかったのだから幾浦にも諦めて貰うしかないだろう。自分達は刑事で、その仕事に誇りを持っている。仕事に対して手抜きなど絶対出来ない。
 まあ、明日リーチが休みを貰うはずだから、夜は譲って貰おうっと……
 と、トシはそんなことを考えながらパジャマに着替えて、さあ、布団に入ろうとしたとき、訪問者を告げるベルが鳴った。
「あれ?今頃誰だろう……」
 時間は既に一時を過ぎている。こんな時間にやってくるお客などまず居ない。
 不審に思いながらも、玄関を開けると、驚くことに名執が立っていた。だが何時もと様子が違う。
「来ちゃった~」
 名執はそう言ってトシにがばーーーっと抱きついてきた。
「ゆ、ゆ、雪久さん??」
 いきなり名執に抱きつかれたため、トシは床にすっ転んでしまった。
「リーチ~……」
 いやリーチじゃないって……
「僕っ!雪久さん僕ですっ!トシ、トシですっ!リーチは寝てるんですっ!いいいい今、起こしますか……ひゃああっ!」
 トシがリーチを起こそうとした瞬間、名執の唇が迫ってきたので、手で押しやるようにしてそれを回避した。
「リーチ……どうして嫌なんですか?」
 目を潤ませて名執がそう言った。
 あれ、もしかしてものすごく酔っぱらってる?
 名執の顔はほんのりと赤い。その上、目が潤んでいるように見える。いや虚ろだ。何よりワインの匂いが名執からする。
 ようやくトシは名執が随分飲んで、酔っぱらっていることに気が付いた。
「やだ~雪久さん~酔っぱらってるんですか?」
 ははっとトシは笑った。
 トシは名執が冗談で、からかっていると思ったのだ。だが自体はもっと深刻だった。
「……リーチ……何トシさんの真似してるんです?」
 座った目が、ジロッと睨む。
 あれ?
 真似って……何?
「えっと~雪久さん?」
「リーチ……もう私我慢できないんです……」
 って何が?
 と、トシが思った瞬間名執は上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンに手を掛けた。
「わあああああっっ!!!駄目っ駄目ったら駄目っ!脱いじゃ駄目ーーーっ!」
 ボタンにかかる手をトシは掴んで止めようとした。
「リーチッ!起きて!起きてよっ!」
 トシはあまりの事態に、リーチを起こす合い言葉を忘れていた。
 本人は言っているつもりだったのだ。
 だが、当たり前だがスリープ状態のリーチを普通に起こせる訳など出来ないのだ。トシはその事に全く気が付いていない。
「リーチ……どうして止めるんですか?」
 名執は床にぺったり座り込んでこちらを見る。
「雪久さん、僕、僕です。トシです。分かります?」
 そうトシが言うと名執はじーーーっとこっちを見てニッコリ笑った。
 分かってくれたんだ~と思ったのだが……
「そうですか、リーチは服を着たままが良いんですね」
 なに?何が良いの??
 服を着たまま良いって何が?
「ぼ、僕……意味が分から……」
 おどおどしていると又名執が上に覆い被さってきた。
「ぎゃーーーーっ!違うッ!違うんです雪久さんっ!酔ってないで僕をちゃんと見てっ!」
「でも、リーチは脱がしてあげます……」
 うふふと、もうトシが未だかつて見たこともない色気を出した名執がそう言って笑った。奇麗な女性にでも、ぽーっとなったりしないトシであったはずが、その名執の顔に思わず見とれた。
 ふと気が付くとなんだか胸元が寒い。
 目線をしたに下ろすと、もう半分以上パジャマの上着が脱がされている。
「ひゃあああっ!!止めてくださいっ!ぼ、僕っ僕っ!」
 名執を突き飛ばしてトシは外されたボタンを必死に留めた。そんなトシに名執は泣きそうな表情を浮かべる。だがこっちも半泣きだ。
「リーチっ!何やってんだよっ!さっさと起きてよっ!お願いだから起きてよっ!」
 トシは絶叫に近い声でそう言った。
 トシはとにかくパニックで、ウエイクという合い言葉が口に出ない。合い言葉以外でスリープした相手を起こすには心の中で鳴る危険を知らせるベルしかないのだが、命の危険が無い限り、ベルは鳴らない。
「……リーチ……」
 名執は何時の間にか目に一杯涙を浮かべていた。
 これって僕が泣かしたの?
「ゆ、雪久さん?」
 トシが顔を上げると、名執は立ち上がって歩き出した。どうもキッチンに行くようだ。今のうちに幾浦に助けを求めようと、トシは携帯をかけた。
「もしもし……恭眞?お願いだからうちに来てよ。僕、僕だって!リーチじゃないよっ!リーチ寝てるのっ!それでっ!」
 と、視線を名執に向けると何故か手に包丁を掴んでいた。
「うわあああっ!!なにするんですかあああっ!!」      
 携帯を投げ捨ててキッチンに走ると、トシは名執の包丁を持つ手を掴んだ。
「リーチ私のこともう嫌いなんでしょう?だったら生きてる意味がない……」
 泣き続けながら名執はそう言って、こちらが掴む手を引き離そうとした。
「好きッ!好きだから止めてっ!大好きだから止めてっ!」
 トシは必死にそう言った。これで小さな傷でも付けられたら、いや、小さかったら良いが、大きな傷ならとんでも無いことになる。
 だが小さかろうが大きかろうが、リーチにばれたときが本当に恐ろしかったのだ。
 絶対僕の責任にして、一ヶ月はプライベートをぶんどられてしまうっ!
 それも困るっ!
 でもこの状態も困るっ!
「本当に?リーチ、私の事……好き?」
 涙を拭いながら、名執はそう問いかけてくる。だがもう片方の手はまだしっかり包丁を握っている。
「好きっ!大好きだよっ!だからやめてっ!もう~止めてよ~っ!」
 トシも泣きそうだった。
「リーチ……」
 名執はその言葉を聞いて、笑顔になり、トシに抱きついてきた。拍子に包丁がゴトンと床に刺さった。
 もう少しで親指が無くなってた……
 床に落ちた包丁はトシの足の親指手前に刺さっていた。
「よ、良かった……」
 一瞬冷や汗が出たトシだったが、こちらに抱きついている名執がグイグイと押してきた。押されるまま後ろに下がっていると、いつの間にかベットに押し倒された。
 このコーポは二Kなのだ。だから扉の仕切りが無い。狭い上に玄関から部屋全体を見渡せる広さしかない。
「…………」
 トシは驚きで開いた口が塞がらず、ぱっかり開いた口に目が見開かれている。
 これって……やられちゃうの?
 違うっ!
 僕も雪久さんも同じ立場の人間でそう言うの成立しないはずだろ~
 と、思っていると、名執はまたもやこちらのパジャマを脱がせにかかった。
「ぎゃーーーーっ!止めてよ~!嫌だっ~!」
 バタバタと暴れていると、ベットの上や棚に置いてあった箱がひっくり返って中身が溢れた。名執はぶちまけられた写真を見て怒った顔で言った。
「やっぱりリーチは女性の裸の方がいいんですねっ!」
 怒りながらも泣いている。
 だが名執が掴んでいる写真は、殺された女性が裸体で写ってる姿だ。いくらリーチでも、そんなものを見て興奮する訳など無い。
 何より捜査資料の写真を入れた箱を転がしてしまったのだから、普通に見たら気持ちの悪い写真ばかりなはずだ。なのに、酔った名執にはそれが本当はどんな写真か全く判断が付いていない。
「それっ!死体だよ~死体の写真だよ~違うよ~」
「トシっ!」
 バンッと玄関が開いたと思ったら、幾浦が飛び込んできた。
「きょ、恭眞~助けて~!」
 ホッとしながらも、名執によって組み敷かれた身体をばたつかせてトシは言った。
 が、
「なんだ、リーチ……からかうのもいい加減にしろっ!」
 と、幾浦がいきなり怒り出した。
 嘘~っ!!
 どうして、どいつもこいつも自分達を見分けてくれないのか!とトシは頭に来た。
「なんだよっ!何で僕が分からないんだよっ!馬鹿っ!もうあっちへ行けっ!恭眞なんか大ッ嫌いだっ!酷いよっ!リーチは寝たまま起きないって言ってんのに何で分からないんだよっ!」
 言いながら、涙がボロボロ落ちた。
 もうトシもどうして良いか分からないのだ。
「……トシ?」
 幾浦は、まだ不審気に、ベットの上の二人を見ている。 
「幾浦さん。リーチが又、からかってるんですよ。済みません」
 っておい、違うだろ~!
 本当に酔ってるのかっ!
「違うーーーー!雪久さん酔ってるのっ!僕が分かってないのっ!」
 と、叫んでいるのにまだ幾浦は玄関から動かない。
 僕のこと本当に好きなの?
 わかってんの?
 僕、犯されそうなんだぞっ!
 出来るかどうか知らないけど……
「……分からん」
 困惑したように幾浦は言った。
「愛がなさすぎる~っ!僕は恭眞の為にアルと一緒にエプロン着たじゃないか~!恭眞のためにそこまでする僕の事、なんで分からないって言うんだよ~!酷いやっ」
 わーん……と泣き出したトシにようやく、幾浦が「あ!」と言って気が付いた。
 遅いんだよっ!ばかああっ!
「おい、名執、お前が酔ってるんだ。そいつはトシだぞ」
 恐る恐る酔った名執に近づくと幾浦はそう言った。
「いいえ、これはリーチです。幾浦さんには見分け付かないでしょう?でも私には分かるんです。それは御存知ですよね」
「……え……」
 もう、色気たっぷりの笑顔で名執にそう言われた幾浦は、やっぱり先程のトシと同じく、ぽーっとした顔になった。
 まあ、お酒が入ってほんのり顔を色づかせた名執に敵う女など居ないだろう、いや男もだが……。
「ひっ、酷いっ!僕が居るのに、何で雪久さんに照れるの?おかしいじゃないかあっ!違う~そんなことより、上に乗った雪久さんをどけてよ~僕、剥かれちゃうよ~」
 トシがそう怒鳴ったことで、幾浦はハッと我に戻った。
「あ、す、済まない。おい、名執。お前は酔っぱらってるんだ。いいか、今お前が下敷きにしているのはトシだ、分かるか?トシなんだ。だから、いい加減離してやってくれないか?」
 名執の肩にやんわり手を乗せて幾浦はそう言った。すると名執はドンッと幾浦を突き飛ばした。
 幾浦の方はその拍子に後ろの本棚にぶつかって、ズルズルッと床に伸びた。
「嘘っ、もしかして……気絶したの?」
「もうリーチ……新手の焦らしですか?嫌ですね……本当に……仕方ないですね……」
 言いながらも名執はもう本当に嬉しそうだった。
 じ、焦らし??
 新手の焦らし?
 と、思っていると、名執の手がトシの敏感な部分にズボンの上から触れた。
「……ひゃあっ!」
 その感触にびっくりしたトシは妙な声を上げた。
「私が大きくして上に乗ってあげますね。リーチ乗られるの好きですもの……」
 満面の笑みで名執が言うのだが、逆にトシは真っ青になった。
 いや、顔面蒼白だ。
 受け同士でもできるみたい……
 じゃなくて……
「ぎゃーーーーっ!嫌だ~っ!さっさっ触らないでよっ!馬鹿リーチ!なんで起きないんだよっ!馬鹿恭眞っ!何気絶してるんだよッ!僕、僕犯られちゃうよ~っ!助けてよっ!うわああああん」
 トシはもう泣きながら叫んでいた。
 もう駄目だと思った。
 その時、名執が、ばっさりとこちらに倒れてきた。
「……すんっ……すんっ……?」
 鼻をぐずぐず鳴らして、トシが覆い被さってきた名執を伺うと、スースーと寝息を立てて眠っていた。
 そおっとトシは身体をずらして、名執をベットに置いたままその場を離れ、気絶している幾浦を足で蹴った。それでも起きない幾浦をやっぱりその場に置いて、トシはトイレに入って鍵をかけた。
「……うう……ううううう………恐いよ~……恐いよ~」
 トシは朝までトイレの座椅子に両足を抱えて、朝まで泣いていた。

 気が付くとトイレの扉の隙間から太陽の日が入ってきていた。
 朝だ……。
 何時の間にか眠っていたトシは、立ち上がって、涙に濡れた顔を拭うとトイレの戸をそーっと開けた。
 隙間から見える名執はぐっすりとベットに眠っている。幾浦は昨日のままだ。
 開けたトイレの戸をもう一度閉じて、トシは再度リーチを起こしにかかった。
「リーチ……起きてよ……お願いだから起きて……あ……」
 そこでようやくトシはリーチを起こせなかった訳が分かった。
 ウエイク~って言うの忘れてたんだ~
 馬鹿だ僕……
 自分が情けなくて又涙が滲んできた。
「ウエイクして……リーチ……ウエイク~起きてよ~大変なんだよ……」
 ヒックヒックと喉をならしながらトシは言った。
『何?朝?おはよ……トシ……』
 何も知らないリーチは何時も通りだ。
 僕……どうしてウエイクって合い言葉が出てこなかったんだろう……
 馬鹿だ……本当に馬鹿だ……
「リーチ……代わって……」
『ああ、いいよ。さってと~今日は俺の休みだな~』
 嬉しそうなリーチだ。
 トシはようやくバックに代わることができ、ホッとすると又泣き出した。
『わああああああん……リーチ……!』
「なんだっ?どうした?いや、ここ、トイレ?」
 起きたてのリーチには、何がなんだか分からない。
『外……外出て……僕……恐かったよリーチ……』
 泣きながらトシはようやくそう言った。
「なんだあ~お化けでも出たってか?」
 と笑いながら外に出たのは良いが、外の光景を見てリーチは笑顔が凍り付いた。
 なんだこの状況は?
 来たはずのない名執がベットに眠っている。本棚の前には幾浦が伸びている。その上ベットの上や床に事件の検証写真など散らばっていた。
「おい、おいおい、これはどう言うことなんだよ……」
『ごめんリーチ……リーチ起こすの僕失敗しちゃって……わああああん』
 トシはそう言って又泣き出した。
 全く意味が分からない。
 ベットに近づくと、眠っている名執を抱き起こした。するとシャツの前がはだけて淫らな格好になっている。
「……っ!ユキっ!おいっ!どうしたんだっ!何でお前が居るんだ?」
 言ってリーチが揺り起こすと、名執はうっすらと目を開けた。
「……リーチ……おはようございます……っ……」
 と言って頭を押さえた。
「なんだっ!どうしたんだ?」
「頭がガンガンするんです……」
 はあっと息を吐いて名執はそう言うと、リーチの胸に擦り寄った。そんな名執を抱き寄せたまま、本棚の前に伸びている幾浦の方を振り返った。
 まさか……っ!
 幾浦がユキを?
 いや、考えられない事もない。
 名執にクスリを盛って、飛びかかった幾浦は必死に抵抗された名執に、逆に反撃されて本棚にぶつかって気を失ったのだ。
 だから、トシが謝るわ、泣くわとバックで支離滅裂になっているのだ。
 それしかないっ!
 勘違いした怒りで、リーチは頭の中を一杯にして、名執を離すと伸びている幾浦の前に立った。
「おい、おきやがれっ!貴様っ!トシというものが居ながらっ!なんだお前はっ!」
 げしげしと足で蹴ると、幾浦が目を覚ました。
 一瞬キョロキョロとして、こちらに視線を移すといきなり抱きついてきた。
 なんて恥知らずな男なんだとリーチは更に切れていた。
「トシっ!大丈夫か?」
「ちがーーーーーうっ!」
 バキッとリーチは幾浦を殴った。
「なっ!やっぱりリーチじゃないかっ!」
 幾浦がそう言って当然のごとく怒りだした。
『ぎゃーーーーっ!リーチ何やってんだよ!』
「何?何だと?こいつがユキを……ユキを~」
 がるる……と、うなりながらリーチは幾浦の胸ぐらを掴んだ。
「何だって?よくもトシのまねごとをしたなっ!」
 幾浦も負けていない。
「るせえんだよっ!」
 リーチは完全に切れていた。
『違うの~違うんだよ~わああああん』
 だがトシは説明のしようがなくて、泣くしかない。
 一番の問題の張本人と言えば……
「何騒いでるんですか?」
 と、全く呑気なものだった。
 
 完全に四人の誤解が解けるには、もう暫く時間がかかったという……。

―完―
タイトル

一夜様よりリクエストのあった作品を皆様にも納品させていただきます。またもや幾浦が一番損な役回りで終わりました。ばかげたラストに苦笑していただけるととてもありがたいです。
読まれましたら掲示板もしくはメールにて感想などいただければありがたいです。おそまつでした。

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