Angel Sugar

「悪魔の住む家」 (3万ヒット)

タイトル
「ね……ここイイ?」
 キュッと敏感な部分を握られ、戸浪は小さく呻いた。
「あっ……ゆ……ま……」
 祐馬に廻した手に戸浪はギュッと力を入れて胸板厚い部分に自分の身体を押しつける。
「何?どうして欲しいの?」
 クスクスとこちらの耳元で囁く祐馬は嬉しそうだ。
 私だって嬉しい……
 ようやく一つになれるのだ……
「もう……いいから……入れてくれ……」
 恥ずかしい言葉をようやく言うと、戸浪は目を瞑った。
「……うん……じゃあ、入れてあげる……」
 だからそう、いちいち言わないでくれ~
 と、切実に思うのだが、こちらの反応が面白いのか祐馬は何時だってそうだ。
「祐馬……」
 密かに隠されている部分に肉厚なものが触れるのが分かった。
 ようやく……
 ようやく一つになれる……
 感嘆に似た吐息を戸浪は薄く吐き出した。



「戸浪ちゃん……戸浪ちゃんって……」
 夢心地の戸浪の身体がユサユサと揺すられた。
「……う……ん……」
 ああ祐馬……
 ここまで来て焦らすな……
 もう散々焦らされたんだ……
 さっさと入れろっ!
「戸浪ちゃんって……ほら……到着したよ……」
「まだ……奥まで到着してない……」
「……ねえ、何?何か夢でもみてんの?」
 クスクス笑いながら祐馬は言った。
「……だから……そこじゃなくて……」
 うーんと唸って戸浪は言った。
「あはははははっ」 
 何を笑ってるんだこんな時に……!
「五月蠅いっ!お前はどうしてそうデリカシーが無いんだっ!」
 ガバッと身体を起こして戸浪はそう怒鳴った。
「ね、なんかエッチな夢見てたんだ?」
 ハンドルに手を置いて祐馬はじいっとこちらを見た。
「あ、ああっ?」
 状況が把握できずに戸浪は周囲を見回した。車窓の外は真っ暗だ。 
 そうだ……夕方から車を出して、中軽井沢に向かっていたんだ……
 じゃあ、私は……車の中で眠ってしまったのか?
 ようやく状況を飲み込んだ戸浪は、自分がどういう夢を見ていたのかも思い出し、かあっと顔が赤く染まった。
「そんな、慌てなくてもさあ、今晩は寝かさないって~」
 そう言ってへらへら笑う祐馬に戸浪はきつい一発を見舞った。
「お前はっ、そ、そういうときは何も知らない顔をしてやるものだろうがっ!」
 ああもう、こいつはっ……こいつって男はっ……!
「……う~殴らないでよ……それよか着いたんだって。車降りようよ……」
「……え、あ、ああ……そうだな……」
 髪を掻き上げ、戸浪は照れを隠すようにそう言った。
「さって~素敵なコテージにご案内~ありゃ……」
 車を降りた祐馬はそう言って急に固まった。
「……お前……本当にここか?」
 本日泊まる予定の建物を二人で確認して、凍り付いてしまった。
 建物は元は白かったのだろうが、外装があちこち剥がれ落ち、無惨な姿を見せている。
 何が不気味かというと、周囲にある小さな水銀灯らしき明かりが、その建物をまるで幽霊屋敷さながらに周囲に浮かび上がらせていることであった。
「う、うん。地図間違ってない……ナビにも住所入れて来たし……」
 あわあわと祐馬はそう言った。
「……何処の旅行社にお前は頼んだんだっ!!」
 戸浪は腹立ちを隠せない声でそう言った。
「それが……何処も一杯だったから……姉ちゃんに紹介して貰ったんだ」
 姉?
 あの例の鈴香を送り込んできた姉かっ!
「お前はどうして姉さんにそんなことを頼むんだっ!」
 おもいっきり嫌がらせされてるじゃないかっ!
 だが祐馬は鈴香がどうしてうちに来たかという本当の事を知らないのだ。
 祐馬が辛い思いをすると思った戸浪は、その事を話さなかった。
「……だってさあ、どうしてもどっかに旅行に行きたかったんだよ……」
 そう言って祐馬は小さく「初夜したかったんだもん」と言った。
 馬鹿だこいつは……
 涙が出るくらい大馬鹿ものだ……
 そんなものは何処でだって良いのだ……
「帰るぞ……」
 戸浪は冷たくそう言った。
「えーーーっ!そ、そんなんないよ~!」
「お前良くあの建物を見て見ろっ!一晩だってあんな所に泊まるのはごめんだぞっ!」
 そう言って戸浪は目の前に建つ廃墟一歩手前の建物を指さした。
 
 結局、散々宥め賺され、戸浪はとりあえず建物の中に入った。何より今から何処か泊まるところを探すには、場所も悪く、時間も遅すぎたのだ。
 中は外から見たときよりもまだましで、床が抜けることは無かった。電気もとりあえず付く。だが、埃っぽいのはどうしようも無い。
 掃除くらいして置け……
 と、戸浪は思いながら、祐馬が拭いてくれた椅子に腰を掛けた。車からの荷物はとりあえずキッチンに全部祐馬が運び込んだ。
「俺さ、ちょっと掃除してくるし……戸浪ちゃん待っててね……」
 祐馬はそう低姿勢で言うと、キッチンから出ていった。
 ……悪いのは祐馬じゃない……
 仕方ないな……
 戸浪はそう思うと立ち上がり、キッチンを掃除し始めた。幸い、ガスも付き、水もちゃんと蛇口から出るようであったので、とりあえず一晩くらいは何とかなりそうであった。
 だがこの水を飲む気にはなれなかった。
 あの姉のことであるから、何か水の中に入れているのではないかという深読みをしてしまうのだ。
 幾らなんでもそこまでするとは思わないが……
 飲まない方が良いだろう……。
 そんなことを考えながら戸浪は雑巾を絞り、キッチンテーブルを吹き終わり、今度は床を拭いていると、天井からコトコトという音が聞こえた。
「……祐馬か?……」
 床を拭く手を止めて戸浪は天井を向いた。
 だが音は先程聞こえただけで、もう聞こえなかった。
 祐馬が上を片づけているのだろうと戸浪は思い、床を又拭きだした。
 そうして取りあえずキッチンを奇麗にすると、祐馬が戻って来たらコーヒーでも入れてやろうと、戸浪はお湯を沸かした。
「戸浪ちゃん~風呂奇麗にして置いたから疲れたら入って良いよ~。俺今度、寝室奇麗にしてくる~」
「え?お前さっき上に居たんじゃないのか?」
 戸浪は祐馬に振り返ってそう言った。
「ううん。俺、今風呂掃除してたよ。なんで?」
 不思議そうな顔で祐馬は言った。
「え、いや。何でもない……」
「あ、湯もちゃんと出るみたいだし、入っても大丈夫みたいだよ」
 言って祐馬は又行ってしまった。
 ……じゃあ、さっきの音は一体何だったのだろう……。
 シュンシュンとやかんがその口から湯気を吐いて、沸いたことを知らせている。
 気のせいだったんだな……
 沸いた湯を持ってきたポットに入れ、戸浪は紙コップや皿も机に並べた。
 夕食はここに来る途中、温めるだけで済む物をホテルで色々買ってきた。一応ディナーというセットになっている。明日は自炊だが、朝食のつもりで買ってきたパンを食べたらさっさと帰ればいいのだ。
 とにかく一晩の辛抱だ……
 どうせ寝るだけなのだ……
 寝る……
 と、そこまで考えて戸浪は又一人で顔を赤らめた。もうここまで来たら焦らしも無しだ。
 照れ照れしつつ、レンジの電源を入れると、夕食の準備をしだした。
 色々あったが、まあ幸せは幸せなんだろうなあ……
 喧嘩もした。誤解も色々あった。だが今もちゃんと祐馬と一緒に居れる。それだけで戸浪は幸せなのだ。
 もう少し、二人で居るときの強引さが欲しいのだが、それは求め過ぎなのかもしれない。それ以外は驚くほど強引で、退くこともしないのだが、どうも、アレに関して祐馬は何時だって低姿勢だ。
 それが物足りないと思いながらも、そう言う祐馬が可愛いとも戸浪は思うのだ。
「ただいま~あれ、夕飯の準備してくれてたんだ……」
 満面の笑みで祐馬はそう言ってこちらの後ろから擦り寄ってきた。
「……ご苦労様……コーヒーでも飲むか?喉乾いただろう?」
「コーヒーも良いけど御茶がいいな……あ、でも俺戸浪ちゃんが食べたいなあ……」
 恥ずかしげもなく祐馬はそう言って首筋に鼻面を擦りつけてくる。だが廻してきた手を見ると、あまりにも真っ黒であったので戸浪は祐馬を引き剥がした。
「先に手を洗え……真っ黒じゃないか……」
 と言うことはそれほど上も汚れているのだろうか?寝室が?
 想像したくはないが、汚いベットの上で抱き合うのは余り気持ちの良いものではないだろう。
 と言うより、もしそうなら、車で寝た方がましだった。
「そだね……でも、ベットとかは奇麗なものだったよ。シーツとか、布団はビニールに入れて置いてあったから、新品同然だったしさ。心配ないよ」
 言いながら祐馬は手を洗っていた。
「そうか……なら良いんだが……」
 ホッとして戸浪はそう言うと、先程入れたポットから湯を出して、即席の御茶を作った。
「なあ~今日はラブラブしようよ~」
 手を拭いた祐馬は御茶を作っている戸浪の後ろから又手を回してきた。
「……先に夕食を片づけてからだ……」
 照れくさく戸浪はそう言った。
「こっちが先……」
 祐馬は後ろから顔を向けて戸浪の頬にキスを落とした。それが恥ずかしくて顔が赤くなるのはもうどうしようもない。
「さっ、先に夕食だっ」
「そだね、せっかっく戸浪ちゃんが温めてくれたんだから、冷めるまでに食べなきゃ悪いもんな~」
 祐馬は大人しく戸浪の言うことを聞いて、こちらの身体を離すと椅子に座った。
 メニューは魚介のワイン蒸しとクーラーボックスに入れて置いた韓国風グリーンサラダ、メインは鶏肉とトマトのソテーだ。あとサフランライスが付いている。
 お酒は持ってこなかった。車の運転を交替でするつもりであったからだ。結局仕事で疲れた戸浪は寝ていたのだが……。
「じゃあ頂きます……なんだけど、その前にこれ……」
 祐馬はそう言って戸浪にリボンの付いた小さな長細い箱を渡した。
「何だ?」
「開けてみてよ~」
 嬉しそうに祐馬はそう言って、箱を開けるように促してきた。戸浪は祐馬に促されるままその包みを開けると、中から時計が出てきた。
「祐馬……?」
 プレゼントは嬉しいのだが、何故時計なのかいまいち良く分からない。
「これはね……指輪の変わり……」
 言いながら祐馬は今戸浪が開けた包みの中から時計をとりだして、こちらの腕にはまっている時計を外すと、新しい時計をその腕に付けた。
「俺にも付けてよ……」
 と言ってもう一つ同じ包みを取り出し、中身を開けると、時計を戸浪に渡した。
「祐馬……」
「指輪だったら戸浪ちゃんの性格上付けてくれないだろ?だからそろいの時計……指輪の変わりにさ……ほら、早く俺にも付けてよ~」
 祐馬はそう言って手首を出した。戸浪は感動しながら、それを悟られるのが恥ずかしくて、必死に平静を保って祐馬の手首にはめた。
「病めるときも健やかなる時も……俺と一緒に……ずーーっと居ることを誓ってよ……ね、戸浪ちゃん……」
 こちらの手を取って祐馬は真剣な表情で言った。
「ああ……」
 胸が一杯でそう言う言葉しか戸浪は出なかった。
「誓います……だろ?」
 目を細めて祐馬は言った。
「……誓う……」
 ようやくそう戸浪が言うと、祐馬はニッコリ笑って言った。
「じゃあ……誓いのキスを……」
「……祐……」
 軽くあわせた唇は、触れるようなキスだった。
「これでもう本当に俺のもんだもんね~」
 さっきの真剣さなど何処に行ったか分からないような祐馬の口調に、戸浪は笑みが零れた。
「お前は……本当に驚くことばかりしてくれるな……」
 心臓はまだバクバクといっている。
 他にもっと気の利いた言葉を言いたいのだが、何も浮かばないのが悔しい。
「そろそろ御飯食べようか?これ済んだら一緒に風呂入る?」
 と言った祐馬に戸浪は拳を飛ばした。

「はあ……」
 バスタブに浸かりながら戸浪は息を吐いた。
 最初のショックは収まったが、やはり居心地は余り良くない。
 まあ、ちゃんと風呂に入れて眠れるだけで良しとするか……
 昔は奇麗だったのだろうが、このコテージは使わなくなってかなり経っているようだ。それは外から見た方が顕著に現れていたが、中もやはりそれほど奇麗な物ではないのだ。
 風呂場のタイルも所々くすんでいる。天井は見ない方がいいというくらい、色が変わっているのだ。
 あれは……
 カビなんだろう……
 空気の出入りがないと、こいういう湿った場所には、カビが生えるのだ。
 嫌だなあ……
 気持ち悪い……
 上を見ないで置こう……  
 さっさと出るとするか……
 戸浪は、身体をさっと洗い、シャワーで流すと、風呂場から出た。そうして祐馬が用意してくれたタオルで身体を拭き、パジャマを着終わったところで電気が消えた。
「え……停電?」
 と、思っていると祐馬が走ってきた。
「戸浪ちゃん大丈夫?停電みたいだけど……」
 祐馬は手にライトを携えていた。
「ああ。ブレーカーが落ちたのか?」
「たぶん……。キッチンにブレーカーがあるんだけど、先に戸浪ちゃんの所に走ってきたから、まだ見てないんだ……」
 等と祐馬は嬉しいことを言ってくれた。
 二人でキッチンに戻り、ブレーカーを見たのだが、幾ら上げてもすぐに落ちてしまうのだ。仕方なく電気の復旧は諦めた。
「朝になったら自然に回りも明るくなるだろうし……仕方ないね……。直すにしてもそう言う道具はもってきてないから……」
 済まなさそうに祐馬が言うので、戸浪は慰めるつもりで「どうせ寝るだけだから良いだろう……」と言ったのだが、逆に祐馬を煽ってしまった。
「だよな~」
「良いからお前はさっさと風呂に入ってこい。まだ暖かいから暗くても入られるはずだ」
「そうしようかな。じゃ、このライト渡しておくね。寝室に先に行って待っててよ……。あ、寝室は二階の一番奥の部屋ね。そのほかの部屋は掃除してないから入らない方がいいよ」
 祐馬はそう言うと、ライトをこちらに渡して、さっさと行ってしまった。
「一番奥ね……」
 戸浪は、そろそろとライトで床を照らしながら歩き出し、階段を上りだした。
 階段はギシギシと今にも床が抜けそうな音を回りに響かせて、戸浪を不安にさせた。
 おいおい、本当に二階は大丈夫なのか?
 ミシミシ、ギシギシいわせながら戸浪はようやく寝室に入られた。
 ライトで照らすと、ダブルベットが闇の中に浮かび上がった。そのベットに腰を掛けて戸浪はホッと安堵の溜息をついた。
 コトコトコト……
 え……
 どこからか、キッチンで聞こえた音がした。ライトをあちこちに向けて、どこから聞こえたのかを特定しようとしたのだが、あの時と同じように音はもうしなかった。
 やっぱりここはなんだか恐いぞ……
 キョロキョロしていると、祐馬が駆け込んできた。
「戸浪ちゃん良いもの見つけたよ!ろうそくだよっ!」
 言いながら、ライターで火を付け始めた。
「なあ……祐馬……車で寝た方が良いんじゃないか?」
「え?あんな狭いとこでやんの?」
 既にいくつもろうそくに火をつけ、部屋の回りに置きながら不思議そうな顔を向けた。
 部屋がようやく明るくなる。
「ばっ、馬鹿っ!違うっ!ここは……その……ちょっと気味悪い……」
「あははははっ!戸浪ちゃん何怖がってるの?お化けなんか居ないよ~」
 って、そういうのではなくて……。
 いや、そう言うことなのか?
「……だから……」
 説明のしようがなくて、戸浪はそれだけ言って沈黙した。
「それとも……まった~焦らしてんの?」
 言いながら祐馬はこちらに近づいてきた。 
「……それは……ない……」
 祐馬の手が戸浪の頬を撫でる。その緩やかな動きが心地よく感じられた。
「戸浪ちゃん……好きだよ……愛してる……」
 ベットに倒され、のし掛かってくる祐馬の重みがとても愛しく感じる。
「祐馬……私も……」
 祐馬の言葉に応えるように戸浪も手を背に回した。
 パジャマの上着が祐馬の手でどんどん脱がされていくのが分かる。その間も祐馬の唇は首筋の敏感な部分を愛撫していた。
「ああ……」
 半ば夢心地の戸浪に又小さな音が聞こえた。
 コトコトコト……
 天井から……だ……
 コトコトコト……
 又聞こえた……
 気持ち悪い……
 誰もいないはずなのだ。なのにどうして音が聞こえるのだ?
 それとも誰か居るのか?
 祐馬の姉はボロボロのコテージを紹介する嫌がらせ以外にも、何か企んでいるとでも言うのだろうか?
 侮れないような気がする……。
「祐馬……」
 問いかけるようにそう言うのだが、もう行為に夢中の祐馬には、そんな戸浪の言葉など聞こえては居なかった。
 益々祐馬の愛撫が激しくなる中、戸浪は快感に流されそうになりながらも、天井から聞こえる奇妙な声に、行為に集中できなかった。そんな戸浪に祐馬が気が付いたのか、身体を起こした。
「何?なんなの?ねえ、そんなに俺とすんの嫌なの?」
 怒ってる。
「……祐馬……違うんだ……何か……上に居る……」
 戸浪はようやくそう言った。
「上?上って屋根じゃんか……」
 天井をようやく向いて祐馬は言った。
「屋根じゃなくて……天井だ。さっきからコトコト物音がするんだ……。それが気持ち悪くて……」
「……音?そんなんした?」
 上半身裸の祐馬はそう言ってベットにあぐらをかいた。
「キッチンでも聞こえたんだ……空耳だと思ったんだが……」
「……恐いの?」
 ニヤニヤ笑いながら祐馬は言った。
「そうだっ!恐いから見てきてくれっ!」
 顔を真っ赤にしながら戸浪はもう隠さずにそう言った。
 恐いんだよ!
 お前の姉が何か企んでると思うと恐いんだっ!
 だがそれは言えなかった。
「仕方ないなあ……そいやここ屋根裏があったんだ……」
 そう言って祐馬はベットから降りると、ライトを取った。
「祐馬……」
「見てくるよ。なんも無いと思うけど、そんで安心できるんだよな?」
 戸浪はそう言う祐馬にコクリと頷いた。
「なんかおっかしいの~」
 はははっと笑いながら祐馬は寝室を出ていった。
「あいつ……大丈夫か?」
 ガコッと天井裏を開ける音が遠くで聞こえた。
 が、次に聞こえたのは祐馬の叫び声だった。
「んぎゃーーーーーっ!」
「祐馬っ!」
 戸浪も慌ててベットから飛び降り、ライトを持って寝室の扉を開ける。すると廊下を走る祐馬が見えた。
「と、と、戸浪ちゃんーーーーー!」
 情けない声で祐馬がそう言う足下には……
「ひーーーっ!来るんじゃないっ!あっちに行け!!」
「そ、そんな~助けてよ~」
 言いながらもこちらに走ってくる。
 それも大量のネズミを引き連れてだ。
 その上、子猫くらいあるでかさのネズミだ。
 もう何も考えられずに、戸浪は寝室の扉を閉めた。
「とっ、とっ、戸浪ちゃん開けてよーーっ!開けてって!」
 ドンドンと扉を叩くのだが、同時にカリカリ、ガサガサと言う音が周囲に木霊した。ネズミがそこら中に居るのだろう。
「おっ、お前なら……そいつらと仲良く出来るだろうっ?」
 祐馬の姉……
 何を一体考えてるんだーーーっ!!
「でっ、出来るわけないじゃんかーーーーっ!ひゃーーーっ!いてっいってっえええ!か、噛みやがった!」
「祐馬っ……!」
 幾らなんでも、ずっと閉め出すわけにはいかないだろう……
 ようやく戸浪はそう思い、バンッと扉を開けると、速攻に祐馬の首根っこを掴んで寝室へ引きずり込んだ。
 そして又扉を固く閉じた。だが数匹のネズミが入り込んだのは仕方ないだろう。
「はあ……はあ……ひ、ひでえ……俺を……恋人を見殺しにしようとしたなんて……」
 足下に絡みつくネズミを捕まえては放り投げ、祐馬は呆れたように言った。だがネズミはこちらを睨んで、キーと鳴いた。
「この野郎っ!人間様に逆らうのかっ!」
 祐馬はネズミの態度に腹を立てて、ろうそくの火を近づけた。するとネズミが後退する。
「あっ、こいつら火が嫌いなんだ。っていうか、こういうの映画でもあったよな。動物は火を怖がるって……」
 嬉しそうだ。
 お前そんなことが嬉しいか?
 私はちっとも嬉しく無いぞっ!
 ここはネズミの館だぞっ!
「……あのな、火を怖がるのは良いが、外のあの群をどうするんだ?」
「……朝になったらどっかに行くんじゃない?」
 のほほんと祐馬はそう言った。
「行くのか?ほんとに?お前、分かってるのか?」
「人間食うわけないじゃん……」
 だが数匹のネズミは部屋の端に一塊りになってこちらをじっと見ている。
 絶対食う気だ……。
「なあ……ここから出ないか?」
 はあと溜息をついて戸浪はベットに座った。
 疲れた……。
 もう何をする気にもなれない……。
「ここまでネズミは来ないよ……」
 だが祐馬はもう既に欲望モードに突入している。
「ネズミに見られながらお前は出来るのか??私は嫌だっ!」
 今もカリカリと扉を囓っている音が聞こえるのだ。
 何時押し入ってくるか分からない。
 最中にドッと雪崩れ込んできたらどうするんだ?
「ここまで来て焦らすなっ!」
 祐馬はそう言ってこちらを無理矢理ベットに倒して、組み敷いた。
 これの何処が焦らしになるんだ?
 誰か教えてくれっ!
「嫌だっ!お前は良くそんな気分に……」
 と叫ぶ口を祐馬に塞がれた。
「……んっ……」
 激しく口内を愛撫されて、ああもういいか……という気分になりかけたとき、足に柔らかい物が触れた。
 何だ……?
 毛玉……?
 ネズミの毛っぽい……
 目線をそちらに向けると、数匹のネズミがベットに上がり込んで何故か身体を伸ばしている。
 その姿は気持ちよさそうだ。
 そうか、ベットの上は柔らかくて気持ち良いだろう……
 ちがーーーーう!
「ぎゃーーーーーっ!」
 ドカッ!
「ぐはっ!なっ、何すんだ……今の……思いっきり……鳩尾に入った……」
 腹を抱えて祐馬は唸るように言った。
「ねっ、ネズミがっ!ネズミがベットまで上がってきたぞっ!」
 それも、気持ちよさそうに眠りに付こうとしている。
「……寝てるだけじゃん。こいつらどうも飼いネズミみたいだよな……身体も汚れてねえし……慣れてるんだよ、人間にさ。どうしてここに居るのか分からないけど、ほら、ミニチュアウサギみたいなもんじゃねえの?」
 相変わらず危機感無しに祐馬が言った。
 どうせ祐馬の姉がどっからか購入してきたのだろう。
 その根性には頭が下がる。
 嫌がらせもここまで来たら褒めてやろう。
 じゃなくて……
「み、ミニチュアウサギ?こいつらそんなにお綺麗な物にお前は見えるのか?こ、こんな奴らと一緒に寝るのはごめんだっ!」
「やりだしたら忘れるって~」
「忘れないっ!一生私はこの日の晩を忘れられないぞっ!死ぬまで忘れないからなっ!」
 もう涙が出そうだった。
「……戸浪ちゃん~」
「うううううう五月蠅いっ!やりたかったらネズミでも相手にしてろっ!」
「しょんな~」
 がっくり肩を落とした祐馬を戸浪は思いっきり無視した。
 だが、最初ごねていた祐馬ではあったが、いつの間にかネズミと一緒に眠っていた。
 お前のその神経は一体何で出来てるんだ?
 と、思いながら、すやすや眠る祐馬の頭を足でげしげしと何度か蹴ったが、起きることなど無かった。逆に戸浪はというと、結局、朝まで寝室の扉を見たまま、何時大群のネズミが入ってくるかに怯え、眠る事など出来なかった。
 
 翌朝、パジャマ姿のまま、二人は扉を開けて、また追いかけてくる大量のネズミを振り切りながら車に乗り込むと、コテージを脱兎の如く後にした。

 戸浪は二度と祐馬が計画した旅行には行くものかと真剣に心に誓った。

―完―
タイトル

ああもう、せっかくエッチに雪崩れ込むつもりが、こんな結果となってしまいました。本気でエッチに突入させようとしたんです。もう本気で……。なのに、何かに呪われたかのような結果となって申し訳ありませんでした。またパターンを踏んでますね。あはは。でもらしいと言えばらしいという終わり方で、馬鹿馬鹿しく笑ってやってください。本編では必ずや!(ほんとうか?)。
なお、読まれましたら掲示板もしくはメールにて感想などいただければありがたいです。おそまつでした。

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