Angel Sugar

「ラブラブナイトIN新宿」 (10万ヒットキリ番リクエスト)

タイトル
 朝から……不気味だ……
 祐馬は気味が悪いほど機嫌が良い。いや、日にちが決まってから今日までずっとといった方が正確だった。
 向かい側で朝食兼昼食のパンをかじっている祐馬の顔は本日特に満開の笑みだ。
「戸浪ちゃん……なに?」
 笑顔のままそう祐馬は言った。
「え……いや……何でもない……」
「あーーっ……」
 いきなり祐馬はそう言って叫んだ。
「なんだっ……」
「もしかしてこの期に及んで逃げる気かっ!」
 ってなんだそれは……
「別に……逃げるなんて……人聞きの悪い……」
 私だって楽しみにしていたんだからな……
「そ、えへへへ。も~俺この日をどれだけ待ってたか~」
 へらへらしながら祐馬は言った。
 本日は以前戸浪が約束した「ご褒美」なのだ。ユウマと仲良くなった暁には祐馬にご褒美をやると戸浪が言ってしまったことが原因だ。今のところ仲良く迄はいかなかったが、とりあえず、今までよりは落ち着いた。その辺りで許してやろうと戸浪は思ったのだ。
 それについこの間、ユウマを事故から救ったこともあり、多少の祐馬の我が儘は聞いてやるしかないと戸浪は思った。
 というのは建前で、実は戸浪も楽しみにしていた。
 そう言う事情で、本日はユウマをペットホテルに預け、二人で都内をブラブラとデートし、夜はホテルに泊まる予定にしていた。
 ホテルの方も既に予約済みで、あとは食事を終えてからユウマをペットホテルに連れて行き万事準備オッケーとなる。
 ユウマには悪いが……
 チラリと、ユウマを見ると、自分専用に置かれた餌の皿に顔をつっこんで、黒い身体の子猫は餌を食べていた。その身体が急に伸び上がりこちらを向く。
 じ~……。
 じっとこちらを見つめるユウマの黄金の瞳は、怪訝な表情に見えた。だが戸浪は気のせいだと思うことにした。
 仕方ないんだ……
 済まない……
 一晩がまんしてくれ……
 心の中で戸浪はそうユウマに言った。
 ユウマが祐馬に敵対心らしきものを持っている所為で、祐馬と良いムードになると、この子猫はいきなり戦闘モードに切り替わり、祐馬の足や手に噛みつくか、爪を立てるかするのだ。
 祐馬は自分と戸浪の関係にユウマが嫉妬しているのだと言うのだが、戸浪自身にはその判断が付かない。ただ単にユウマに祐馬が嫌われているだけだと思うのだが、それでは説明できないことも確かにある。
 まあその判断の付かないことは、横に置き、戸浪もはっきり言って、今の状態に根を上げそうになっていたのだ。
 どうして抱き合えない?
 一度は簡単にすんなり出来たのに……。
 何故だ?
 恋人同士になると、何故とたんに出来なくなる??
 ユウマが居るからじゃない
 断じて違うぞ……
 お前の押しが足りないんだろうが……
 多少のムードの無さは許してやるから、いい加減に襲ってこいっ!
 もう戸浪、そこまで追いつめられていた。
 毎日毎日ユウマを挟んで、また清い関係で眠っている。そのベットでの図は妙な川の字だった。
 祐馬、ユウマ、戸浪……だ。
 そんな川などいらんっ!
 何故ユウマを乗り越えてこないんだっ!
 ただ祐馬が戸浪の方へ来られないのは、真ん中のユウマを乗り越えようとすると、ユウマの爪の生えた肉球が祐馬の顔面にヒットするからなのだが、そんなものに負ける祐馬が情けないのだ。
 と、この間までは怒っていた戸浪であったが、祐馬と同じく本日は機嫌が良い。
「戸浪ちゃん……そろそろ片づけようよ……」
 土曜特有の遅い朝食兼昼食を終えた祐馬は既に自分の皿を片づけていた。
「そうだな……」
 知らずに戸浪も笑顔になる。
 そうして片づけも終わり、二人とも着替えると、ユウマを籠に入れた。多少抵抗したのだが、最後は大人しく籠に入る。そのユウマの顔は寂しそうだった。
「そんな顔するんじゃない……」
 チクリと胸が痛む戸浪であったが、ここで可哀相などと同情していては、自分が今度可哀相になるのだ。
「別に今生の別れじゃないんだから……」
 祐馬はそう言うと車のキーを持って苦笑した。
 確かにそうなのだ……
「じゃあ行こうか……」
 本日はユウマのことを少し忘れ、恋人の祐馬のことを考えてやろうと戸浪は思いながら籠を持って立ち上がった。

 ユウマをペットホテルに預けた戸浪達は、先に本日泊まるホテルにチェックインし車を預けて早速二人でぶらつくことにした。
 西口をぬけ、アルタの前に出てくると、人がいきなり溢れている。アルタの前でいつもは宗教団体がビラを配ったりしているのだが、本日は趣味でバンドをやっている若者達が熱心に音楽をならしていた。
 いつもここは活気があるな……
「俺、都庁見に行きたいなあ……ほら、あそこから見える景色って結構きれいじゃんか」
 嬉しそうに祐馬はそう言った。だが都庁に行くには逆方向だ。
「……逆だ」
「あ、そか、そっちはこっちを回ってからでもいいか……それよりさあ~手繋がない?」
 馬鹿はそう言って照れていた。
 どうも祐馬はこちらが男同士のカップルだという自覚がない。
「できるかっ!」
「ちぇ……約束違うじゃないかあ~」
 ぐずぐずと祐馬はそう言った。
 そういう問題じゃなくて……
「人がいるからな……見られないところならいい……」
 精一杯の譲歩の言葉を戸浪は言った。
「じゃあ……やっぱり向こう側に言って、地下歩道を歩こうか。で、都庁に行けば手を繋げられる~帰りはサンシャインの屋上にある水族館にいこうよ。俺、実はそこは行ったことが無いんだ」
 祐馬はどうも高いところが好きなようだ。
 まあ……馬鹿と煙は高いところになんとかだ。
「……そうだな……いいぞ」
 結局、駅を横断し、向こう側に渡ると地下歩道を歩いた。人がもう少しいるかと思ったが、オフィスが休日のこともあり、意外に人は少なかった。
「じゃあさ~手繋ごうよ~」
 言いながらも既に祐馬の手はこちらの手をしっかりと握っていた。戸浪もそれを振り払うことはせずに、内心照れながら歩道を歩いた。
 そうやって歩き、戸浪はふと思い出したことを口にした。
「なあ、祐馬……私は地下鉄の銀座線に初めて乗ったとき、本当に驚いたんだ。ほら、次の駅に向かう途中で車内の電気が消えるだろう?私は、何かあったんだと思っていきなり立ち上がってキョロキョロして恥ずかしい思いをしたことがある……」
 上野から銀座線に乗り、青山に行く途中で体験した出来事であった。
「……うわああ……田舎もんだ」
 と祐馬が言ったところで殴った。
 どうしてこう、もう少しましな反応が出来ないのだろうか?
「あいって……もう……デートなのに何で殴るんだよ~」
 頭を撫でて祐馬はそう言った。
「お前がそんな風に言うからだろう……」
「じゃあさ、俺も教えてやるよ。知ってる?都庁って幽霊出るんだぞ」
 ふふふと妙な笑い方で祐馬は言った。
「はあ?そんな話聞いたこと無いぞ」
「一番端のエレベーターらしいんだけど、女の幽霊が出るんだって。一人で乗ると出るらしいよ。自分が乗って後ろから誰か乗ってくる。チラリと視線を後ろにむけると髪の長い女性がふっと視界に入る。で、中に入って振り返るともう居ないんだって。気持ち悪いだろう~」
 それを聞いた戸浪はいきなり繋いでいた手を振り払った。
「そ、そんなところには行きたくないぞっ!」
「だからあ、一人で乗ったらだよ。俺がいるじゃん」
 お前は頼りにならない……
「嫌だ……気持ち悪い……」
「も……大丈夫だって」
 と言ってふりほどいた筈の手をもう一度重ねてきた。
「……」
 気味が悪いのだが、祐馬がそう言うので仕方なく戸浪は都庁に向かうことにした。
 ……仕方ない……
 祐馬の願いを聞いてやるのも恋人のつとめだろうし…… 
 その考えは何だかずれているような気がしたが戸浪は都庁に付き合い、サンシャインに付き合い、後池袋周辺を散々歩かされてまたアルタまで戻ってきた。
 はっきり言って足が笑っている。
 もちろん池袋のサンシャインまでの行き帰りはバスに乗ったが……
 その後は殆ど歩いて移動したぞ……!
 怠い……
 こいつはどうしてこんなに歩いて平気なんだ……
 既に繋いでいた手は離し、二人で歩いていたのだが、祐馬の方は疲れなど一切無い表情であちこちと視線を向けていた。
「何?」
 じっと見ている戸浪の視線に気が付いたのか祐馬はそう言って振り返った。
「いや……なんでもない……」
「あのさあ~新宿二丁目なんかいっちゃたりなんかしない?」
 何故か祐馬の顔はわくわくとしている。
 新宿二丁目……
 それは……
「お前は何を考えてるんだ~!!」
「だって男同士の為のグッズってあそこが一番豊富にあるんだろ?なんか良いのないのかなあって……」
 何か欲しいものがあるのか?
 なんだ?
 今晩使いたいと思ってるのか?
 だから買い物しようと祐馬は考えているのか?
「どしたの?戸浪ちゃん……顔……赤いよ」
「えっ?いや……それはやめておいた方がいいんじゃないかと……」
 いくら祐馬のことが好きでも、させてやれない事もある。
 あれやこれや使いたいと言っても……
 やはり私は……普通のプレイの方が……
 って……
 なっ、何を私は考えているんだーー!!
「……ええーー俺すっげー興味あるんだけどなあ……面白そうなビデオとか雑誌とかさ。俺一人で行くの怖いけど、戸浪ちゃんと一緒なら怖くないじゃん」
 それは……
 一緒に選ぼうと誘っているのか?
 駄目だ駄目だっ!
 え、選ぶ気など無いぞっ!
「嫌だ。使いたいなら、勝手に買ってお前一人で使うんだな……」
「はあ?何いってんの?まさか……戸浪ちゃんって……何か欲しいわけ?」
 ばきっ!
「うはあ……いてええ……」
「わっ……私じゃなくてお前だろうがっ!」
「戸浪ちゃん一人で興奮してるんじゃんか……俺はただ何が売ってるのか、興味津々だから見てみたいって言ってるだけなのに……」
 私が?
 興奮してるだと?
 ちがううううう……!!
「お前はっ……お前がっ……」
 戸浪は動揺して言葉が上手く出ない。
「ウインドーショッピングだろ~欲しくは無いよ。見たことあるけど、あんなの使いたいとも思わないよ……」
 なんだ……
 その意味ありげな言い方は……
 私は……見たことなど無いぞ。
 あ……でも……
 普通は……誰でも見たことくらいあるものなのか?
「そ、そうだな……みっ……見るだけなら……」
 見るだけだ……
 話のネタにするんだ……
 意味のない事を戸浪は考えながら、渋々、祐馬に連れられ怪しげな通りに入ることにした。だが祐馬が隣にいるにもかかわらず戸浪に声をかける男が絶えなかった為、一時間ほどで退散することになった。

 散々歩き回った結果、戸浪の足の怠さは限界まで来ていた。祐馬は営業で日々外を歩き回っているのだろうが、戸浪の方は座ってする仕事だ。その為、歩くという事があまりない。
「……祐馬、夕食を何処で食べるつもりにしてるんだ?」
 時間はそろそろ六時になる頃だった。
 半日歩いていたぞ……
 足が……
 笑ってる……
 もう限界だ……
 戸浪は本当に足を投げ出して、床に寝ころびたい欲求に駆られていたのだ。
「え、ホテル」
 まだ遊び足りない元気な顔がそこにあった。
 お前は……
 何故足が痛くないんだ……
 私はもう、ふくらはぎが痛い~
 なんて泣き言など言うと、年寄り臭いと馬鹿にされそうであったので戸浪は「あ、そうかホテルか……」と言い、笑い顔を祐馬に向けた。
「……何?疲れたの?んじゃ、そろそろホテルに帰ろっか?」
 祐馬はこちらの足の状態に気が付いたのか、そう言ってタクシーを拾う為に通りで手を上げた。そんな祐馬に頼もしさを感じながら戸浪はホッとした。
 ああ……
 良く分かってくれたなあ……
 やっぱり恋人だ……
 祐馬の背中を見ながら戸浪はうっとりとした表情になった。
 そうして呼び止めたタクシーに二人で乗り、ホテルに着くと、今度は部屋に入ることにした。昼過ぎにチェックインはしたが、部屋にはまだ入っていなかったのだ。
 預けていた鞄を受け取り、キーを貰うと二人は仲良くエレベータに乗った。
「そういえば……最上階って言ってたな」
 戸浪がふとそう聞くと、祐馬はまたにやけた顔になった。
「うん……張り込んじゃった~」
「……なあ……まさかスイートとか言わないだろうな?ん?」
 男同士でスイートなど取るとどう思われるか幾ら馬鹿な祐馬でも分かることだろうと戸浪は思ったのだ。
「え、そうだよ。すっげー奇麗なところだよ。って言っても俺パンフ見て決めただけだから本当にそうなのか知らないけどさあ……」
 って……
 お前は……っ!
「馬鹿かっ!何処の世界に男同士でスイートを取る馬鹿カップルがいるんだっ!」
 二人しか乗っていない気安さから、戸浪はそう怒鳴るように祐馬に言った。
「え、別にいいじゃんか。向こうだって商売なんだから……」
 何を今更という祐馬の顔が、全く事の重大さに気が付いていない事を物語っていた。
「……恥ずかしいだろうがっ!男同士でスイートなんて……」
 と話している間にスイートのある階に着いた。
「ほらあ……着いたよ。行こう。一晩だけなんだから、誰も何とも思わないって。それともさあ……戸浪ちゃん又女装してくれる?」
 といった祐馬の頭を殴った。
「いってえええ……こ、こんな所でまで殴らないでよ……」
 頭を抑えて祐馬は言った。
「お前がくだらないことを言うからだっ!」
「帰るなんて言わせないからな……」
 今まで見せていた表情とはうって代わった真剣な顔がそこにあった。
「……も、勿体ないしな……キャンセルも出来ないんだろう?」
 やや視線を逸らせて戸浪は言った。
「当たり前じゃんか……俺キャンセルなんかする気無いぞ」
 言いながら祐馬は、他の部屋とは違う扉の前に立ち、持ってきたキーを使って扉を開けた。
「……おい……」
 中に入ると戸浪は持っていた鞄をぼとっと落とした。
 部屋は壁が全部ガラス張りで、夜景が奇麗に見えるようになっている。部屋は二部屋になっており、扉を挟んで向こう側が寝室になっているようだ。
 こちら側の部屋の窓際にはイタリア製らしい椅子と机がおかれ、レースのテーブルクロスがかけられており、夜景を楽しみながら食事が出来るようになっていた。
 なにより、端には小さなバーまでついており、アルコールも楽しめるように作られている。
 なんだここは……
 その上何やら謎な置物が飾られているチェストにフラワーアレンジメントが飾られていた。他には観葉植物などがちらほら見える。
 それら全てが、まるで新婚を迎え入れるような雰囲気の部屋である。
 ボー然……
「おま……お前……ここ幾らしたんだ?」
「そんなんいいよ……」
 祐馬は既に二人切りモードに入っているのか、戸浪を引き寄せ両手を腰の辺りで組むと額にキスを軽く落としてきた。
「いや……だから……ん……」
 額から口元に移った祐馬の唇は既に戸浪の口内に舌を滑り込ませていた。
 キスは普段からも良くするのだが、今日のキスは何時もと違った。何より祐馬はしつこいくらいこちらの舌を自分の舌に絡めては吸い付いてくる。そんな祐馬に戸浪も自ら手を回して互いの口内を味わった。
「……ん……」
 暫くして祐馬の口元が離されると、戸浪は閉じていた目を開けた。すると祐馬の瞳は明らかに飢えた目をしていた。
「……ああ俺……なんか飯食うまで我慢できないかも……」
 そう言って祐馬は戸浪の身体をギュッと抱きしめた。すると久しぶりの甘い痺れが身体の中を走るのが戸浪に分かった。
 ああ……
 私もだ……
 息苦しいほどの抱擁を受けて、気分が益々高揚してくる。
 もうこのままベットに雪崩れ込んでも良いぞ……なんて普段では絶対言えない言葉が、出てきそうな程だった。
「……でもさ……いきなりルームサービスです~なんてやってる最中に入ってこられるのも困るから……先に食っちゃおうよ……」
 ようやくこちらの身体を離した祐馬がそう言ってニコリと笑った。
 あ……
 いきなり普通に戻ってる。
 自分だけがまだ盛り上がっている事で戸浪は急に気恥ずかしくなった。
「……そ、そうだな……」
「んじゃ、俺、セッティングして貰うようにフロントに電話入れるよ」
 嬉しそうに祐馬は言った。
 だが、セッティングして貰う間、私はどうしたら良いんだ?
 ここにいて、ボーイに見られるのは嫌だぞ……
「ああ、じゃあ済んだら呼んでくれるか?寝室の方へ行っているから」
「え?」
 祐馬にはこちらの考えている事は分からないようであった。
「だからっ……この場所は男女が特別な日に止まる部屋だ。そんな部屋に……男同士で居るのをみたボーイがなんて思うか分かるか?」
「あ、ホモ……だろ?」
 ばきっ!
「うがああ……やめろよ~」
 首を押さえて祐馬は言った。
「お、お前はっ!いい加減に……とっ……とにかく私は準備が済むまであっちにいる!済んだら呼びに来てくれたらいい!分かったなっ!」
 そういって戸浪はずんずんと歩き、隣の部屋に入ると、扉を勢いよく締めた。
 なにが……
 あ、ホモ……だっ!
 その通りだが……
 そういう問題じゃないだろうがっ!!
 ああもう~イライラするっ!
「げ……」
 ふと気が付いた寝室の豪華さに戸浪はまた、げんなりとした。
 ああもう……
 落ち着かない……
 ばったりとベットに倒れ込んで戸浪は目を閉じた。さすがにスイートだけあって、スプリングがとても心地よい。歩きすぎてパンパンになった足もベットに伸ばした所為で随分楽だった。
 ああ……
 気持ち良い……
 戸浪はうとうととし始めた。

「戸浪ちゃん……ねえ……起きてよ……」
 ゆさゆさと身体を揺すられ、戸浪は目を覚ました。すると真横に祐馬が横になって、こちらの顔を嬉しそうに見つめていた。
「あ……寝てたみたいだな……。セット終わったのか?」
 目を擦りながら戸浪がそう言うと祐馬が頬にキスを落としてきた。
「……」
「うん。戸浪ちゃんてさ、すっげ~寝顔可愛いよな……」
 ニッコリ笑った祐馬は更に戸浪の額にかかる髪を掻きあげた。その仕草にかああ……と頬を赤くした戸浪は言葉が出なかった。 
 あ……何だか……
 は、恥ずかしいぞ……
 照れくさい……
 こういう場合は何を言ったらいいんだ?
 ああ……駄目だ……
 良い言葉が浮かばないっ!
「飯、食ってさあ~、さっさとベットでエッチしようよ~」
 ……この……
 この馬鹿者~
 照れくさい気持ちなど吹っ飛んだ戸浪はがばっと身体を起こし、祐馬を無視して寝室を出た。その後ろを祐馬が頭をかきながらついてくる。
 デリカシーが無いっ!
 無い無い無いっ!
 もういきなり頭に来ていた戸浪だったが、テーブルの上に用意された料理を見て、機嫌がなおった。
 うわ……
 すごいぞ……
 料理に目を奪われていると、祐馬はさっさと席に座り、ワインをグラスについだ。
「ほらあ……座って座って」
「あ、ああ……」
 戸浪もようやくそこで腰を下ろした。
 目の前にあるのは白桃の冷たいスープ、マグロのタルタルアスパラガスのシャルロット風味、カブのオマールエビ詰め、フォアグラの蜂蜜焼きにデザートに焼きバナナのクレープ包みが並べられていた。
 いくら味覚の分からない戸浪でも、その飾り付けだけで楽しい気分になる。
「旨そうだろ~。ま、とりあえず乾杯しようか~」
 祐馬はそう言ってワインの入ったグラスをこちらに渡してきた。
「ああ……」
 もう気分は最高だった。
 まあ……
 数々の暴言はこれで許してやろう……
 ニッコリと笑って戸浪は祐馬とグラスをあわせ、二人とも同時にワインを飲み干した。
「さてと~ねえねえ、戸浪ちゃん。スープ飲ませてよ~」
「は?」
 既にスープを飲もうとスプーンを皿につけていた戸浪に祐馬は満面の笑みでそう言った。
 飲ませて……って?
 なんだ?
「俺の口にいれて」
 あーんと口を開けられた戸浪は又殴ってやろうかと思ったが、折角祐馬が楽しみにしていた日なのだ。少しくらいのわがままは聞いてやらなければと思い、スプーンにスープを掬うとそのまま祐馬の口に運んだ。
 するとぱっくりと噛みついて、なかなかスプーンを離さない。目線だけがこちらをじっと見つめて動かなかった。
「おい、離せ」
 顔を赤らめながら戸浪がそう言うとようやく祐馬はスプーンを口から離した。
「……何だか俺幸せ~じゃあ、戸浪ちゃんにも俺から……」
 えっ……
 私もかっ?
「いや……いい……」
「ほら、あ~んって」
 スプーンをこちらに向けて祐馬がそう言った。戸浪はもう穴があったら入りたいほど恥ずかしかったのだが、速攻にスプーンを銜えてスープを飲み干すと口を離した。
「うわ……鳥みたい……。すっげー早業!」
 むかっ……
「はっ……恥ずかしいんだっ!」
 戸浪は思わずそう言っていた。
「……可愛いなあ……えへへ」
 もう祐馬これでもかと言うほど喜んでいる。
 まあ……
 今日くらい……
 い、いいか……
「ほら、お前の番だ……」
 ややぶっきらぼうに戸浪はそう言って、またスプーンを差し出した。祐馬は本当に嬉しそうだった。
 そんな調子で食事を終え、そろそろだなあ……などと戸浪は思いながら、夜景を見ていると携帯が鳴った。
 は?  
 今頃誰が?
 仕方無しに携帯を取るとペットホテルからだった。嫌な予感がすると思ったのだが、その予感は的中した。

 お宅の猫が暴れて手に終えません……

 と言われたのだ。戸浪はどうしようか迷ったのだが、引き取りに来てくれと言われ、嫌だとも言えず「わかりました」とだけ言って携帯を切った。
 ああ……
 祐馬が……
 なんて言うか……
 あんなに楽しみにしていたのに……
 そう思いながらも戸浪は上着を羽織って居るところに祐馬がバスルームから出てきた。既にやる気満々の祐馬はバスローブ姿だった。
「戸浪ちゃんも入ってきたら?」
 言って絡みついてくる祐馬に戸浪は仕方無しに言った。
「済まない祐馬……今ペットホテルから電話があって……その……夕方からずっとユウマが暴れて手に終えないらしいんだ……だから……迎えに来てくれと言われて……」
 言ってチラリと祐馬の様子を伺うと、驚いた顔をして次に寂しそうな顔になった。
「……うん。仕方ないよ。迎えに行ってやるといいよ。あ、俺、もうこんな格好してるから……戸浪ちゃん一人で行ってくれるかな?で、勿体ないし、俺今晩こっちに泊まるよ。ほらワインだって飲み放題だし……うん、じゃあ……」
 戸浪の首に絡めていた腕を解いて、祐馬はバーで数本ワインを持つと、ぺたぺたと寝室に向かって歩き出した。その背中が酷く寂しげに戸浪には見え、胸が痛んだ。
 祐馬は……
 本当に楽しみにしていたのに……
 だが……
「悪いな……」
 それだけ言って戸浪は部屋を出た。
 エレベーターで駐車場まで降りる間も、祐馬の寂しげな背中が目に焼き付いていた。ずっとこんな調子で良いところで邪魔が入るのだ。
 張り込んだ筈なんだ……
 本当に楽しみにしていたんだ……
 それなのに……
 ユウマに当たるつもりはないが、戸浪にとって祐馬も大切なのだ。だがこんな事が続くと、本当に祐馬は戸浪に愛想を尽かすだろう。それほど二人の関係は恋人であるのに恋人ではない状態が続いている。
 ……
 祐馬……
 腹を立ててるだろうな……
 分かってる……
 もう私のことなど嫌になっているかもしれない……
 本当は祐馬を優先したかったのだ。
 だが暴れているユウマを放っておくことも出来なかった。何より檻の中で暴れ、どう宥めても狂ったように爪を立てていると聞けば、無視することも出来なかった。
 自分の車に乗り込み、戸浪は憂鬱な気分で車をペットホテルに向かわせた。
 このままでは……
 本当に祐馬は私を見限るだろう……
 恋人らしいこともしてあげたことはない……
 抱き合うこともほとんどない……
 これでは祐馬が戸浪を捨てる日が、近い将来にありそうな気がして仕方ないのだ。
 そんなのは……いやだ……
 こんな事で駄目になるなんて……
 そう思った戸浪は一つの決心を付けた。
 これなら大丈夫だと思ったのだ。

 ユウマをペットホテルから引き取り、ホテルへと戻る道のり、戸浪は散々ユウマに言い聞かせた。
「大人しくしないと、またホテルに預けるからなっ!」
「私だって幸せになりたいんだっ!」
「お前も可愛いが、祐馬も可愛いんだ」
「祐馬と私は恋人同士なんだ」
 理解できないのだろうが、もう戸浪、訳の分からないことまで、人間に言い聞かせるように何度も何度も言い、車をホテルの駐車場に停車させると、ユウマを鞄に忍ばせた。
「少しだけ我慢だからな……本当は駄目なんだから……」
 そう、戸浪はユウマをスイートルームに連れて行くことにしたのだ。一人にすると何しでかすか分からないユウマをうちに置いておくことも出来ず、戸浪はユウマを連れてきた。
 いつもはうちで大人しく待っているはずなのだが、どうも夜を一人にすると嫌なようであった。ましてや、あの様な檻に入れられると何か昔を思い出すようだ。こうなるとみんなが幸せになるには一カ所に一緒に居れば良いのだと戸浪は判断した。
「祐馬……悪い……開けてくれないか?」
 スイートルームの扉を叩きそう言うと、暫くして祐馬が顔を出した。
「あれえ、どしたの?」
 驚きながらも嬉しそうな顔で祐馬は言った。
「あ、ああ。まあな……」
 さっさと部屋に入ると扉を閉め、戸浪は鞄の中からユウマを外に出した。
「なっ……と、戸浪ちゃんっ!なんで連れてきたの?駄目だろっ!」
「お前の為の日なのに一人に出来ないだろう……でもユウマも一人に出来ない。だったらみんな同じ場所におればいいんだ」
 当然のように戸浪は言った。
「まあ……そりゃ……俺は嬉しいけど……こいつどうせ邪魔するって……」
 突然見たこともない部屋に出されてユウマはキョロキョロとして落ち着きがなかった。だが戸浪や祐馬が居ることで、暴れることはなかった。
「ユウマ、ちゃんと約束したことは守るんだ。いいね。あちこちかいちゃ駄目だぞ。私達の邪魔も駄目。今日私は祐馬の為にここに居るんだからね。分かったかい?」
 戸浪がそう言い聞かせると、チラリと祐馬の方を見て、仕方ないなあ……という表情で、クッションの置かれた場所に丸くなった。
「ほら、分かってくれたぞ」
 言えば猫だって分かるんだ……
 そうだ……
「……なんか戸浪ちゃんおかしい~だってさあ、ユウマ相手に真剣になってるんだもんなあ……」
 急に笑い出した祐馬に戸浪は自分から腕を回してすり寄った。
「お前だって……私には大事な恋人なんだ……」
 そう言うと祐馬は、いきなり顔を赤くした。
「……戸浪ちゃん……今日はすげえ積極的?」
「もう良いから……さっさと寝室に連れて行ってくれ……」
 限界だったのだ。
「うん……俺……ほんと嬉しい……」
 戸浪を抱き上げた祐馬はそう言って笑った。その顔が酷く戸浪には魅力的に見えた。
「私も……嬉しいよ……祐馬……」
 祐馬に抱き上げられた状態で、ユウマを伺うと、こちらを見ずに丸くなったまま動かなかった。その様子に再度ホッとした戸浪はようやく全てを祐馬に預けた。

 寝室に入ると、戸浪はベットにそっと下ろされた。
 胸がどんどん高まってくるのが分かる。
「祐馬……」
 戸浪がそう呼ぶと、祐馬は触れるようなキスをしてきた。その手は既にこちらの胸元をまさぐっている。
 ああ……
 もう……
 やっと二度目……
 長かったなあ……
 そんな感慨に耽っている間に、こちらの衣服はどんどん脱がされていく。すると一度感じた甘い痺れがまた身体を覆い始める。
 祐馬の舌は何度も胸元を撫で上げ、乳首を口で転がす。そのネットリした舌の感触は気持ちよすぎて言葉に表せないほどだ。
「あ……」
 ピリピリとした刺激が胸元から這い、戸浪の欲望を刺激する。ようやく訪れた快感にどん欲になりそうな気配がした。
「戸浪ちゃんの身体って……本当に綺麗だよね……」
 感嘆の溜息を漏らしながら、祐馬の手は腹を撫でそのまま下部にある茂みに潜った。
「……や……っ……」
 敏感な部分を指先でなぞられ、戸浪は声を上げた。
「いてええっ!」
 急に祐馬の声が聞こえ、一瞬手が止まった。
「祐馬……?」
 不思議に思った戸浪は身体をやや起こし、祐馬を見ると顔をしかめていた。
「な、何でも無いよ……」
「……ほんとか?」
「ほんと……」
 ニヤと笑って祐馬はこちらのモノを手に握りしめた。
「あっ……!」
「ここ、戸浪ちゃん舐められるの好きだよな?こんな風にさあ……」
 くすくす笑いながら、祐馬は手に持ったモノを舌先で軽く触れるような愛撫をし始めた。そのジリジリとした快感は、より強い快感を求め出す自分の欲望を煽るだけのものでしかなかった。
「……祐馬……っ……そこ……もっと……」
 言いながら戸浪は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。
「こゆの好きだもんな……」
 ぱくっと口に銜えられ、戸浪はその刺激に身体を仰け反らせた。
「あっ……あああっ……いや………」
 口の中で何度も吸い上げられて戸浪は喘ぎながらそう言った。するとまた祐馬の妙な声が聞こえた
「てっ……」
 ?
「あ……なんだ……そうか……」
 なにだそうかだ?
 で、どうして良いところで口を離すんだ?
 あ、いや……それは良いんだが……
「何を……言ってるんだ……?」
「戸浪ちゃん……お願いだからさあ……いやとか駄目とか……言わないで欲しいんだけど……そのたびに……俺の足元にいる子猫ちゃんが爪を立てるんだよ……。どうも俺が戸浪ちゃんを苛めてると思ってるみたい……」
 苦笑しながら祐馬は戸浪の股の所でそういった。
 そ、そんなところで話すなっ!と、戸浪は思いながらも、身体を起こして、祐馬の足をみると、ユウマが座って祐馬の足に爪を立てている。
「ゆ、ユウマっ!?どうしてこんな所に……」とユウマを見て戸浪は言い、次に祐馬の方に視線を移し、「お、お前寝室の扉開けて置いたのか?」と言った。
 普通閉めて置くだろうがーーーー!
「だって……こっちに来たがって、扉かかれたら困るんだよ……弁償なんか請求されたら怖いだろ……仕方ないじゃんか……。それよか戸浪ちゃんが、嫌だとか言わないでくれたらあいつ何もしないだろうから……そゆ言葉、言わないでよね」
 言わないでって……
 そんな事言われても……
 自然に出るものは仕方ないんだし……
 だが言えばユウマが祐馬に爪を立てる。
 ああもう……
 そんな事気にしながらやるのか?
「と言うわけで……協力してよね」
 言って祐馬はまた自分の行為に没頭し始めた。
「あっ、ちょっと待て……あっ……あ……」
 何度も舌先ではじかれた戸浪のモノは切なげに揺れ、こちらの息を荒くさせる。
 もういい……
 何でも……
 出来たら……
 半ばやけっぱちの戸浪だ。
 だが、何度も後口を指で抉られ、戸浪の快感も一気に増した。
「あっ……イイ……祐馬っ……あっ……」
 素直な快感の声を上げ、戸浪は頭を振った。何より久しぶりのその快感が身体を支配するともう何も考えられないほど夢心地になるのだ。
「戸浪ちゃん……いい……?」
 やや荒下げた声で祐馬はそう言った。
「いい……早く……」
 と、思いながらもふと戸浪はあることを思いだした。
 そうだ……
 こいつのは……
 な、長いんだ……
 以前抱き合ったときも思ったのだが、祐馬のは長い。もう、何処まで入っていくのかと最初入れられたときはある種の恐怖があった。
 いや……
 変なところが気持ち良いのだが……
 そこまで入ると……
 何だか怖い……
 いや……誰より長いとか……
 比べてるわけじゃないんだが……
 ああっ!
 私は何を考えているんだっ!
 なんて思っている間に、祐馬のモノが戸浪の襞に押し当てられた。
 うう……来る……
 入ってしまえば……
 気にならなくなるんだが……
 ズイッと襞をかき分けて侵入してきたモノは、熱く熱を持っていた。更に奥まで入り込んでいく奇妙な感触が下半身から伝わってくる。
「あっ……あ……」
 手を振り上げ祐馬の肩を掴み、その刺激に耐える。何かが詰まった様な感触は今にも弾けてしまいそうなほど、戸浪の内側にぴったりと密着していた。
 ず……
 うそ……まだ入るのか?
 ずず……
 おい、もう……それ以上は……
 ずずず……
 う……嘘だ……
 こんなに長かったか?
「ひいっ!」
 最後にギュッと腰を入れられて、戸浪は身体が跳ねた。絶対触れることの出来ない部分を祐馬のモノが触れているのだ。
「あっ……嫌だっ……あ…………っ」
 そ、そんなところに当たるのか?
 嫌だっ……
 怖いぞっ!
 いや……
 頭が変になりそうなほど、気持ち良いんだが……
 それが怖いんだっ!
「……っ……俺……もうここまで来たら止めないから……」
 祐馬は何故か歯を食いしばってそう言い、更に腰を押しつけてきた。すると身体の深い部分から熱い刺激が戸浪の身体を這い回る。それはまるで電流を流されているような感覚だった。
「あーーーーっ……ゆ、祐馬っ……ぬ、抜いてっ……駄目だっ……そ、そこは……」
 戸浪は掴んでいる祐馬の肩に爪を立てて、そう叫ぶように言った。
「なんだっ……このっ……畜生っ!痛いじゃないかっ!でも戸浪ちゃんここがイイんだよね。イイって言ってよっ!」
 もう祐馬の言っていることなど戸浪には聞こえない。快感にどっぷり浸かり込んだ頭と身体は、無意識に出る言葉など制御できないのだ。
「ああっ……あっ……いっ……イイっ……あ、嫌だっ……あ、そんなっ……あ」
 喘ぎながら戸浪はそう言う。そのたびにユウマとそして戸浪の爪が祐馬を襲っていることなど全く気が付いていなかった。
「戸浪ちゃん~俺もイイけど……痛いよ~」
 涙声の祐馬の声など、戸浪は最後まで聞こえなかった。

 朝、目を覚まし、目を擦りながら戸浪は身体を起こした。隣に眠る祐馬は満足そうな顔をしている。だがその肩には戸浪が昨日つけた傷が幾つも残っていた。
 うわ……
 私は……
 こんな事をしたのか……?
 恥ずかしくて、視線を反らせると、とんでもないものを足元に見つけた。
 血っ!
 血ーーーーーーっ!
 なんだこれはっ!
 思わず自分のお尻に手を伸ばして触り確認すると、その血の犯人は自分でないことが分かった。
 転々と落ちている血痕は祐馬の足に無数に付いた傷跡からであった。その足元にはユウマも黒い身体を丸めて眠っていた。
 あ……
 そう言えば……

「戸浪ちゃん……お願いだからさあ……いやとか駄目とか……言わないで欲しいんだけど……そのたびに……俺の足元にいる子猫ちゃんが爪を立てるんだよ……。どうも俺が戸浪ちゃんを苛めてると思ってるみたい……」

 と、昨晩祐馬が言っていたことを思い出した。
 と言うことは……
 この傷の数だけ私はそういう言葉をいったのだ。
 うわあああ……
 恥ずかしいぞ……
 戸浪が一人で真っ赤になっていると、祐馬が目を覚ませた。
「はよう……戸浪ちゃん……」
「あ、ああ……お、おはよう……その……昨日は済まなかった……」
 覚えているだけで、三回はやったはずなのだ。そのたびに祐馬はユウマと戸浪からの爪に耐えていたはずだった。
「……足……痛いよ……」
 苦笑しながら祐馬も身体を起こす。
「後で……その手当してやるから……」
 もう視線を合わせるのが恥ずかしく、戸浪はそう言ってうつむいた。
「なんか……シーツ汚しちゃったけどさあ……処女みたいでなんか良いよな」
 なんて祐馬が言った為、戸浪は目を点にさせた。
「別にいいじゃん。こんくらいなら文句言わないだろう。逆にさあ、あいつ処女だったんだぜ……なんて陰で言うかもしれないけど……」
 それは……
 私を指さしてみんなが陰で言うのか?
 ホテル関係者が??
 あいつ処女だったみたいだぜ~
 男のくせに……
 シーツ汚してやがったんだぞ~
 等と……
 言われてお前は楽しいのかーーーーー!
「あんまり気にしないで……がふっっ!」
 戸浪の怒りの拳が祐馬の鳩尾に入った。
「い、いってええええーーっ!昨日からので一番痛かったぞっ!」
「お前は良いかしらんが……私は……私は最悪だっ!」
 怒りで頭が爆発しそうな気分だった。
「そんなんいえんの?俺、二人分の痛み堪えたんだからなっ!もう……俺マジで血まみれになるかと思ったんだぞっ!」
 言って祐馬は両足を戸浪に見せた。
 ユウマによってひっかかれた足をまじまじと見ると本当に無惨な状態になっていた。肩の方はもう見なくても充分戸浪にはその傷跡の酷さを知っていた。
「……あ~……それは……悪かった」
 その傷の数だけ自分の欲望があったような気がした戸浪は、もう祐馬に何も言えなくなった。
 そんな中、ユウマだけが、何故か満足そうな顔で眠っていた。

―完―
タイトル

ひばりさまキリ番リクエストのラブラブナイトいかがでしたか? 文章量が2章分にもなってしまったという……ショートにあるまじき作品となりました(笑)。面白くて、調子こいて書いていたらこんなことに……すみません。その分、お楽しみいただけるとありがたいのですけど……。
なお、読まれましたら掲示板もしくはメールにてまた感想などいただけるととっても嬉しいです! お粗末でした~。

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