「男前な俺?」 (60万ヒット)
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タイトル
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戸浪は何時も文庫本を読んでいる。それらはリビングの机に置かれていたり、テレビの上に置いてあったりと、あちこちに置いてあるのが特徴的だった。本人は読みたいときにいつでも読めるようにと、しおりを挟んであるのだが、祐馬からすると、あちこち置いて以前何処まで読んだか分からなくなるのでは?と、思うのだが本人はそんなことはないと言う。
今日は土曜で本来休みなのだが、戸浪は午前中出社で、祐馬は朝一緒に朝食を取った後、暇をもてあましていた。そうして何気なく置いある戸浪の文庫本を読んでいた。
本の内容は推理物なのだが、出てくる刑事が格好いいのだ。
こういう男が好きなのかなあ……
読み終えた後、フッと祐馬はそんなことを考えた。どうもそれはシリーズ物になっており、旅情を交えた作品になっている。電車の中で読むには最適なのかもしれない。
戸浪は本当に何でも読む男なのだ。逆に祐馬はあまり興味がない。どちらかというと外に出て遊ぶ方が好きだからかもしれない。
チラリとテレビの置かれているコーナーを見ると、戸浪が読み終わった本が籠に入れられて積まれていた。これをどうするのか祐馬は聞いたことが無かったが、捨てる姿は見たことがないため、読み終わったらここに積み上げているのだろう。
その文庫本のカバーを外すとやはり最初読んだシリーズの推理物だった。
刑事はややすれた男と、それを抑える役目のくたびれた刑事の二人組で、そりが合わない割には結構上手くやっている。だがその若い方の刑事が祐馬から見ても格好いいのだ。
いいなあ……
こんな風に言いたいことをガツンという男って格好いいよな……
俺もこんな風に言えたらいいなあ……
なあんて思いながら、戸浪が読んでいる文庫本をパラパラと読んでいた。
俺って……
気が弱い訳じゃないけどさあ……
要するにここという押しが強いからなあ……
だが小説の中の男は言うときは言う。押すときは押す。その態度が祐馬には羨ましいところであった。
こんな男性なら戸浪ちゃんも二度惚れしてくれるんだろうなあ……
ソファーに座った祐馬はそんなことを考えながらチラリと隣に丸くなっているユウマを見つめた。最近ユウマは寝ているときは大人しい。起きているときは何かとちょっかいをかけてくるのだが、最初来た頃は寝ていようが起きていようがお構いなしに爪が飛んできたのだから、この成長ぶりは大人になってきた証拠だろうと祐馬は考えた。
そう、猫でも成長するのだ。人間である自分も日々成長している筈だ。だが祐馬は相変わらずな自分を自覚していた。
だってなあ……
性格なんだから仕方ないんだよ……
だがこのままでは何時まで経っても男らしくなれないよなあ……
「ん、なあ……ユウマ……」
チラリとユウマを見ながら祐馬は言った。するとユウマは黄金色の瞳をうっすらと開けてこちらを見る。だがその目つきは面倒くさそうだった。
「俺ってやっぱ情けないかな……?」
笑いながら言うと、ユウマは口元を歪ませて馬鹿にしたような笑いを向けてきた。
うわ……
俺ってやっぱ、猫にまで馬鹿にされてる?
……
「……俺は……優しい男を演じているだけなんだぞ」
なんて、演じている訳でもないのに、祐馬は虚勢を張った。
「にゃ……にゃにゃ……」
するとユウマは馬鹿にしたように鳴いた。
「あ、お前……俺のことすっげー情けない男だと思ってるんだろう。いっつも戸浪ちゃんに殴られてるけど、あれは殴らせてやってるんだ」
ムッとしたように祐馬は言った。
「にゃ」
嘘をつくなという目つきでユウマはこちらを見ていた。
猫にまで馬鹿にされる俺って……
ああ……
俺ってそんな情けない男かよ……
「猫に聞いても分かんないよな……」
馬鹿にしたように言うとユウマは黄金色の瞳を細めた。
「にゃ……にゃにゃにゃ……ん……にゃあお」
何かユウマは更に鳴いているのだが、当然のごとく何を言っているのか祐馬には分からない。
「……も、いいけど……っあいったああああ」
思い切り腕をユウマに噛まれ、祐馬は声を上げた。
「いってえええ……んも~何だよ……やっぱお前はそう奴なんだな。折角、お前も大人になってきたなあ~なんて感心してたって言うのに……」
腕を振りながら祐馬はぶちぶちと言った。するとユウマは身体を起こし伸びをすると、プイと顔を逸らせた。そうしてソファーから下り、リビングを出ていった。
か……
可愛くない……
はあ~と溜息をついて、またソファーに祐馬は座っていると、先程出ていった筈のユウマが何かをくわえて帰ってきた。
「……?」
ユウマはそれを床にポトリと落とすと、いきなり爪を立てた手でパンチを繰り返した。何故か「にゃ……にゃにゃにゃ」と、鳴きながらとても楽しそうだ。
一体に何にパンチをしているのか祐馬が近づいてみると、自分のパンツだった。
「うわあああっ……俺のパンツに何するんだよっ!」
「にゃーーーっ!」
祐馬がパンツを奪おうと引っ張ろうとすると、ユウマが前足でそれを阻止して甲高い声を上げた。
「なんだ……何だよ……何、怒ってるんだよ。怒るの俺だろ?」
手を引っ込めた祐馬は、言い聞かせるようにユウマに話しかけるのだが、パンツを叩く手を止めようとはしなかった。
「……俺の……パンツ……」
ううと唸って仕方無しに見ていると、更に布をビリビリに破き、使い物にならなくなったところでユウマの手が止まった。その隙を狙って祐馬はパンツを取り返した。
だが広げてみると、穴だらけになっており、捨てるしかなさそうだった。
「……おまえさあ……ストレス解消に俺のパンツになんて事するんだよ……。お前のストレス解消用のダンボールはキッチンに置いてあるだろ~。そんで遊べよなあ……。あ~あ~気に入っていたのに……」
穴に指をつっこんでユウマに見せると、また何やら言いたそうな顔でにゃんにゃんと五月蠅く鳴く。だがユウマが何を言いたいのか祐馬には皆目見当がつかない。
「にぎゃーーーっ!」
業を煮やしたユウマは毛を逆立てて、威嚇するように鳴くと、またとことことリビングを出ていった。今度は祐馬もついていくと、洗濯物を綺麗に並べてある場所にまた手を伸ばして祐馬のパンツを取ろうとしていた。
「なっ……なんだよっ!俺のパンツが気に入らないって……あ、もしかして俺のパンツが駄目だって言いたいのか?」
洗濯物に覆い被さり、ユウマの顔を見ると、「にゃ」と鳴いた。
「……それって……色気が無いって言いたいとか?」
「にゃにゃ」
「こんなんじゃちっとも戸浪ちゃんは喜ばないって言いたい?」
「にゃ~お……」
「……どして俺、猫にパンツの趣味に文句言われなきゃならないんだよ……」
むかつきながら言うと、ユウマの肉球パンチが飛んできた。もちろん爪付きだ。
「あいってえええ……」
「にぎゃーーーっ!」
「人の好意を無視するなって言いたいのかよ……」
祐馬は叩かれた鼻を撫でた。
「にゃにゃ……」
「……っていってもなあ……俺、ずっとトランクスだもん……今更ビキニとか気持ち悪いよ……」
ボロボロになったパンツを指の先に入れてクルクル回しながら祐馬は言った。
「にゃっ!にゃにゃにゃっ!」
「……分かったよ……なんか色気の出そうなの見てくるから……」
仕方ないなあ……今から行こうかな……
チラリと時計を見て、今十時なのを確認すると祐馬は机に置いていた車のキーを取って立ち上がった。すると何故かユウマも付いてくる。
「駄目だって……俺は今からデパートに行くんだから……」
「にゃっ!」
だがユウマは玄関で靴を履いている祐馬に絡みついて離れなかった。
……
最近外に出してないからな……
出かけたいんだろうけど……
デパートは確か動物厳禁な筈なのだ。とてもユウマを連れていける場所ではない。だが相変わらずユウマは足元に絡んでくる。
「にゃにゃにゃ……」
顔を上げ、ユウマはねだるように鳴く。
「お前さあ、都合良すぎないか?戸浪ちゃんの前じゃあ、すっげー愛想悪い癖に、二人きりだと何でそう愛想がいいんだよ……信じられない奴だな……」
流石猫……と思いながら言うと、ユウマは玄関に置いてある自分のトイレの砂を引っかき回し出した。
「うわっ!何するんだよっ!分かったっ!分かったから……!」
祐馬は仕方無しにユウマを一緒に連れて行くことにした。ここまで来るともう連れて行くしかないだろう。
どうやって連れて行くかが問題だが、籠に入れて行くなら大丈夫だろうと思った。店員に怒られたら、ペットショップで買ったとでも言えばいいのだ。
「大人しくしろよ……でないと放り出されるんだからな……」
祐馬は仕方無しに靴箱の上に置いてある猫を入れるケースを下ろし、蓋を開けた。するとユウマはいそいそとその中に入る。
余程外に出たかったのだ。
何かあると困るため、祐馬は紐も持ってマンションを後にした。
車で十五分走ったところにあるデパートは、五階建てで結構規模が大きかった。その三階に下着などを売っている場所がある。
祐馬はユウマを入れた籠をもちブラブラと三階に上がると、下着売り場に直行した。手に持っている猫のケースに関して従業員は誰も咎めることはなかった。多分、食品売り場では注意されたのかもしれないが、きちんとケースに入れて歩いているから見て見ぬ振りをしてくれているのだろう。
ユウマの方は珍しい場所に連れてこられたせいか、透明な窓から外を眺めて嬉しそうだった。普通こういう場所に連れてくると嫌がるものだろうが、ユウマは平気な顔をして、景色を楽しんでいる。
俺だったらこんな所、嫌だけどなあ……
とはいえ、ユウマも一日うちで寝ているのも退屈なのだろう。二人とも仕事があるため日中はユウマ一人で留守番をしているのだ。外に出たいと思っても出られない環境なのだから仕方ない。
たまには良いかもしれないと、祐馬も考えた。
そうしてワゴンの所に来ると、ユウマを入れた籠を床に置き、似合いそうなパンツを探していると、下からごとごとと音が聞こえてきた。どうもユウマが暴れているようだった。
「にゃーにゃーにゃー……」
「んも~…今度は何だよ……」
籠を持って透明になっている窓からユウマを覗くと、目をグリグリさせてこちらを見ていた。
「んにゃっ!」
「もしかしてお前が選ぶって言うのか?よしてくれよ~」
げんなりしたように言うと、ユウマはまた毛を逆立てて怒り出した。
わ……
我が儘な猫だ……
「……良いけどさあ……別に……」
考えるとこれで戸浪が難色を示したとしてもユウマに責任転嫁出来ると思った祐馬は籠をワゴンの縁に片手で引っかけ、こちらが掴んだパンツがユウマに見えるようにした。だがどれを掴んでも、ユウマはにぎゃにぎゃと五月蠅く鳴くばかりで、オーケーという声を発しなかった。
「んなあ……お前、我が儘すぎるぞ。履くの俺なんだからな……」
パンツを選ぶのに疲れた祐馬は呆れた顔で言った。するとユウマは更に鳴いてまた暴れ出した。
「何が気に入らないんだよ……」
「にゃにゃにゃにゃ~」
「……もしかしてワゴンのパンツは駄目って?」
「にゃおおおん」
こいつ……
意外に高い物好き?
……
仕方ないなあ……
「……分かった。分かったよ……」
祐馬は籠を持ち、今度は一品で売っている下着のコーナーの所にやってきた。すると何故かユウマがゴロゴロと喉を鳴らしている。
……
変な猫だなあ……
そうして、またユウマに見せるようにパンツを選ぶと、ジロジロとこちらの持つ布きれを品定めしていた。
すると突然、
「にゃっ!」
と鳴き、ゴロゴロと喉を鳴らしたユウマは、まさにそれを選べといわんばかりだ。
だが……
「ええ……俺、ビキニ嫌だよ……。ボクサータイプなら良いけどさあ……」
冗談で掴んだアニマル柄で革張りのビキニにユウマは酷く興奮している。だが祐馬はこのタイプは嫌いなのだ。
「にゃにゃにゃっ!」
それを棚に戻そうとすると、ユウマは抗議の声を上げた。本当に我が儘な猫だ。
「……マジこゆの俺にはけって?」
「にゃあおおお……」
「……こんなの……戸浪ちゃんが喜ぶと思うのかよ……」
もう一度ビキニを眺めて、次のユウマを見ると何やら興奮してどうしてもそれがいいと思っているような声で鳴いていた。
……
良いけどさあ……
買わないと、こいつなんか無茶苦茶機嫌悪くなりそうだし……
「なあ……そんなに欲しいんだったらお前のも買ってやるよ……」
一人で買うのもなんだか恥ずかしかった祐馬は一番サイズの小さな物を手に取った。もちろんこれをユウマに履かせようと思ったわけではない。
だが二人で買うのなら恥ずかしく無いなあと、猫相手に祐馬は思ったのだ。
「にゃにゃ……」
「なに?もう一枚買えとかいうのか?」
げんなりしながらユウマを見ると、目線は隣りに置いてあるやはりビキニのパンツをじっと見ていた。そちらの柄は日本の国旗だ。
げろ……
こんなん誰が履くんだよ……
……
俺?
「お前さあ……絶対俺のことからかってるだろ……」
ムッとした顔で言うと、ユウマはまた毛を逆立てて怒った。
「……じゃ……じゃあ、これもお前の買ってやるからな。お揃いだぞ。いいな?俺のじゃないからな……お前が履くんだぞ」
恥ずかしいのを誤魔化すように祐馬はそう言って人に見られないうちにさっと国旗柄のビキニを二枚手に取り、合計四枚のパンツを買った。
精算中、一人顔を赤くしていた祐馬と、機嫌良くゴロゴロ喉を鳴らしているユウマに店員が怪訝な視線を送ってきたのを祐馬は気付きながら無視をした。
マンションに戻ってくると、戸浪はまだ帰っていなかった。
祐馬は籠からユウマを出し、リビングで持って帰ったパンツを袋から出した。
「にゃにゃにゃ……」
機嫌のいいのはユウマだけだった。祐馬の方と言えばビキニのパンツを眺め、肩を竦めた。
「やっぱ……こゆの恥ずかしいって……」
ぐいーんとパンツの端を持って引っ張ると、ユウマは何を今更という顔を向けてきた。
「お前が履けよ……」
なんだかピチピチって嫌なんだよなあ……
「にゃお」
ユウマは嫌な顔をしてそう鳴いた。
「んだよ~お前が選んだんだぞ……俺じゃないって」
ブチブチ言うとまたユウマの爪を立てた前足が飛んできた。
「あいたっ……ああもうう……痛いって……」
ううと唸りながら祐馬は言った。
「にゃにゃにゃ……」
ユウマは鳴くと、買ってきたビキニパンツを鼻でこちらに押しやってきた。履けと言っている様な仕草だ。
……
っていってもなあ……
アニマル柄と日本国旗……
どっちもあんまり気が進まないけど……
「にゃあにゃあ~」
どっちか履いて見せろとしつこくユウマは鳴いていた。
「……んじゃ……アニマルかな?」
乾いた笑いを顔に浮かべて祐馬はアニマル殻のビキニを手に取った。
「にゃにゃ……」
嬉しそうにユウマは足元に絡みついてきた。
……
うう……
なんで、俺ってば猫の言うこときいてんの?
俺の立場って、実はこのうちで一番下?
家主って俺じゃん……
等と思いながらも、祐馬は仕方無しにアニマル柄のパンツを履いてみることにした。
外から見られると恥ずかしいために、一応カーテンを閉め、外から見られないようにすると、祐馬はイソイソとジーパンを脱ぎ、パンツを履いてみた。
だが余り似合っているとは思えない。
……
なんだかなあ……
ちっちゃいよ……
でもって……
ぴちぴちで嫌だなあ……
チラリとユウマを見ると、口元を歪ませて笑っているような表情になっていた。
……あっ……
やっぱこいつ……
俺のことからかったんだっ!
「お前もはけーーーーー!」
グイとユウマを掴んで、祐馬はお揃いのパンツを掴んでユウマの頭に被せた。するとユウマは抗議の声と、爪を立てた手を振り回した。
「んだと~お前が買えっていったんじゃんか!今更お前だけ逃げるなって~」
ユウマの抵抗をものともせずに、祐馬は同じアニマル柄のパンツをユウマの首に通すと、そのまま身体に巻き付けた。
「にぎゃーーーーーっ!」
「何をやってるんだっ!」
はっ……
と……
戸浪ちゃんのお帰り?
顔を上げると戸浪がリビングの入り口で呆れた顔で立っていた。
……
こ……
こゆ場合、ど、どうすんの?
「よ、戸浪。お帰り」
ブイサイン付きで祐馬が精一杯男らしく言ったつもりが、戸浪の逆鱗に触れたようだった。
「呼び捨てするなあああっ!」
どかっ!ばきっ!
……うう……
やっぱ俺って……
殴られた腹を撫でていると戸浪が何故か顔を赤くしていた。
あ……
俺……
すんげー格好してた……
現在祐馬はシャツ一枚であとはパンツだけを履いた姿だったのだ。それもビキニパンツの上、アニマル柄だ。
「あ……これさあ……」
祐馬が説明しようとすると戸浪はいきなり背を向けた。
ああ……
やっぱり嫌われた~
「……お前の好みに文句はつけるつもりはないが、その……だな……はみ出てるぞ……」
戸浪はそれだけ言うと、リビングから出ていった。
「え?」
視線を下に下ろすと、情けなくも自分の毛がパンツから、もっさりとはみ出していた。
「うそおん~チョロ毛!!」
恥ずかしさのあまり、祐馬が股を押さえてしゃがみ込むと、その隣でユウマがニヤリと笑っていた。
―完―
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なんてまた訳のわからない話になったんだろうなあと。まあこういう風にユウマと楽しく暮らしているとわかってもらえたらよいのかもしれない……。完璧に遊ばれているというのが、すでに祐馬の運命かも?? いつになったら本当に男前になれるのかは謎。殴りやすいキャラってやっぱり祐馬かもしれないなあ……。 なお、読まれましたら掲示板もしくはメールにて感想などいただければありがたいです。おそまつでした。 |