Angel Sugar

「大人勝負1 (戸浪視点)」 (20万ヒットキリ番リクエスト)

タイトル次頁
 ある日のこと、戸浪が大地と電話をしているときに問題発言があった。

「三崎の兄ちゃんってガキッぽいよな……」

 ガキにガキと言われた祐馬をチラリと見ると、またもやユウマと終わらない戦いを繰り広げていた。
 馬鹿だ……
 本当にあいつはガキで馬鹿だ……
 げんなりとしながらも戸浪は精一杯の虚勢を張って言った。
「そんな事は無いぞ。祐馬はあれで、男らしいところがある。お前こそ、子供なんだから大良さんの手をどうせ煩わせて居るんだろう……。見なくても分かるがね……」
「あ、戸浪にい、言ったな。あいつは大人だから一緒にいると多少は俺見劣りするけど、俺達の方が絶対大人な付き合いしてると思うぞ。だって……三崎さんってほんと……くすくす」
 笑われた……
 あの大地に笑われた……
 あの光景が見えているのか……
 チラリともう一度祐馬の方に視線を戻すと、鍋の蓋で相変わらずユウマを牽制している。
 ああ……
 祐馬……お前は大地にガキだと言われて居るんだぞ……
「お前がそう思っているだけだ。ガキにガキと言われたらさぞかし祐馬も腹を立てるだろうな……」
 むか……
 むかむかむか……
 戸浪は本当に頭に来ていた。それは大地に対してなのか、祐馬に対してなのか判断が付かない。
「ガキって言うなっ!じゃあ兄ちゃん、勝負だっ!今度、ダブルデートしよう!どっちの彼氏がスマートにエスコートできるか勝負だぞっ!日にちはこっちで決めるから、分かった?」
 大地が鼻息荒くそう言った。
 まず……
 いや、何がまずいんだ。大地にここまで言われて引き下がることなど戸浪には出来なかった。
「分かった。どうせ勝敗は目に見えているがな……」
 言って戸浪は受話器を下ろし、溜息を付く。
 大地に負ける?
 そんな事などある訳無いだろう。
 誰が負けるって言うんだっ!
 ……
 ……はっ!
 わ、私はなんて約束をしてしまったんだ……!!
 戸浪はようやくそこで自分がとんでもない約束を大地としてしまった事に気がついた。
 負ける訳など無いと本当に思うか?
 大地の彼氏はあのホストである博貴だ。例え大地がガキっぽくあろうと、それを充分フォローできて有り余る。
 う……
 まずい……
 勢いで約束したものの、戸浪は既に後悔し始めていた。
「戸浪ちゃん、誰から電話だったの?……ぎゃーーーっ!」
 戸浪が電話を終えたことに気がついた祐馬が声をかけてきたのだが、その隙を逃すユウマではなかったようだ。
 今、祐馬はユウマによって思い切り手首に爪を立てられていた。 
「てめえっ!なにすんだよっ!痛いっての!仕方ないだろうっ!外、雨ふってんだから……お前が公園に行きたいのは分かるけどな、駄目な物は駄目なんだっ!」
 その言葉で祐馬とユウマがくだらないことで戦いを繰り広げていたという事を戸浪は知った。
 ……はあ……
 この男にどうスマートにエスコートしろと言えるんだ……
 涙が出そうだ……
「祐馬……大から提案があった」
「え、何?」
 引っかかれた手を振りながら祐馬はそう言った。
「……今度大良さんの所とダブルデートをすることになったんだ」
 眉間にしわを寄せながら戸浪は言った。
「……それは良いけど……。何その顔……すっげー嫌な顔してない?戸浪ちゃんが嫌なら俺……断っても良いけど……」
 ビクついた顔で祐馬は、苦笑いを浮かべた。その表情も何だか戸浪にはむかついた。
「嫌じゃない。ただ……問題がある」
 ふうと息を吐いて戸浪は自分の気持ちを落ち着けた。
「何……問題って……?」
「その……だな。ダブルデートでどちらが大人の付き合いをしているかを競うことになった。それでだ。問題はお前だ。ちゃんと出来るのか?」
 ジロリと祐馬を睨むと、問題の祐馬が肩を竦めた。
「……なんでそんな競い合うことになってんの?」
「……とにかくだっ、仕方ないんだっ!お前がスマートに私をエスコートしてくれたらそれで良いんだ。何をビクついて居るんだっ!お前は元々アメリカに居たんだろうがっ!そのくらい出来て当然だろう!」
 戸浪は思いきり仁王立ちでそう言った。
「……アメリカに居たから出来るって……なにそれ」
 ぶつぶつと祐馬は言って呆れた顔をこちらに向けた。その顔は戸浪の怒りに拍車をかける物でしかなかった。 
「祐馬っ!お前は腹が立たないのか?大にガキって言われたんだぞ。お前が、ガキだってな。腹が立つだろうっ!だったらしっかり私をエスコートするんだぞ!」
 湯気が出そうなほど頭に血を上らせた戸浪がそこにいた。
「……んも~腹立ててるの戸浪ちゃんじゃんか。あのさあ、そんな兄弟喧嘩すんなよ~。大地君も多分、冗談で言ったんだって。それこそまともに取らなきゃいいんだよ」
 やれやれという風に祐馬は言うと、ソファーに座った。
「デートをするのか?しないのか?どっちなんだっ!」
「……戸浪ちゃんが行きたいなら俺は別に構わないよ。でもおれがあの大良さんに適うわけないじゃん。そゆこと分かってんのかなあ……」
 うう……と、唸りながら祐馬は再度肩を竦めた。
「あの男に勝てと言ってるわけじゃない。大地にお前も大人だと分からせてやればそれで良いんだ。いいな。分かったな。当日はガキ臭いことするんじゃないぞ」
「ガキ臭い事って……なんだかなあ……俺、何時だってガキ臭くは無いと思うんだけど……」
 と、言っている祐馬の横に、再度ユウマが近寄りしおを吹いた。多分、戸浪と言い合いをしているために、誤解をしたユウマがまた祐馬に攻撃をするつもりなのだろう。
「おっ……やるかあ~今度は負けないぞ!」
 祐馬も乗り気になり、また鍋の蓋を掴むとユウマにかざしている。こういう所がガキだと何故気がつかないのか戸浪には全く理解が出来なかった。
「お前は……人の話を聞いているのか?」
「聞いてるよ。デートだろ……んでさ、何時?」
 気を抜くとユウマに爪を立てられるのが分かっている祐馬は、もう戸浪の方など向かずにそう言った。その態度が益々戸浪の怒りを沸騰させた。
 バキッ!
 がぶっ!
「いってええええええっ!二人で結託して攻撃するのは反則だっ!」
 言って騒ぐ祐馬を無視した戸浪は深い溜息を付いた。 

 色々な問題がありながらも、ダブルデートが決行されることになった。



「……戸浪ちゃん……」
 祐馬は困ったような声でそう言った。だが困っているのは戸浪もだった。
「なんだっ……!」
「俺……今日は楽しんじゃうよ……」
 祐馬はそう言いながら約束の場所である遊園地の表玄関にあるベンチに腰を下ろした。戸浪も祐馬の隣に座り、膝に肘を置いて頬杖を付いた。
「大人風に楽しめば良いんだ」
「……大人風って……遊園地でどう大人風に振る舞うんだよ。っていうか、ここは童心に戻って楽しむところだろ?だから戸浪ちゃんももっと楽しそうな顔しろよ」
 祐馬は言って両足を伸ばした。その足を戸浪は自分の足で蹴った。
「いてっ……。でも、俺は楽しんじゃうからな。戸浪ちゃんが何言っても、あの絶叫マシーンに乗るんだ~」
 既に本日の目的を忘れた祐馬は、遊園地をぐるりと囲んでいるジェットコースターを見て、わくわくとした表情をしていた。
「……祐馬……」
 ジロリと戸浪は祐馬を睨んだのだが、祐馬は全く堪えていない様子であった。
「戸浪ちゃん。ジェットコースターには一緒に乗ろう!俺、戸浪ちゃんが「きゃ~」なんて言ってる声、聞いてみたいよ。すっげー可愛いんだろうなあ~」 
 へらへらと祐馬はそう言って笑った。
 私は……
 ああいう乗り物は嫌いなんだ……
 それにしても……
 この祐馬のはしゃいだ姿を見ていると勝敗が見えてしまった……
「ところで俺、今朝、大良さんから電話貰って……」
「電話?何を言ってきたんだ?」
 と、戸浪が問いかけたところに大地達がやってきた。
「兄ちゃん~!待った?」
 大地はカーキー色のシャツに、茶色のムラ染めした7分丈のパンツをはいていた。その姿はまるで高校生だ。
 これでどう大人なんだ……
 戸浪はそう思うのだが、その後から歩いている博貴は白のカットソーに濃いブルーのジーンズをはいていた。その上帽子を被っているのだが、それがやたらに似合っている。
 ……
 まあ……
 立っているだけで女が寄ってくる様な男だからな……
 何を着ても似合うだろう。
「いや……今来たところだよ」
 言って戸浪が立ち上がると、祐馬の方も腰を上げた。
「大地君久しぶり~」
「あ、三崎兄ちゃん、久しぶり!」
 って……
 何だか二人仲良くないか?
 じーっと戸浪が祐馬と大地を見ていると、何やら楽しそうに雑談をし始めた。この二人こんなに仲が良かっただろうか?
 不思議そうに見ていると博貴が声をかけてきた。
「お兄さん、お久しぶりです」
「あ、ああ。久しぶり……」
 とはいうものの、戸浪は博貴が苦手なのだ。
 色々知られていることもあるし……
 どういう顔をしていいのか分からないぞ……
「あっ……俺もそれ乗りたかったんだ。あのジェットコースター絶対乗るんだって決めてきたから」
 嬉しそうに大地はそう言って祐馬に笑顔を見せている。
「良かった~戸浪ちゃん絶対つき合ってくれそうにない顔してたから、俺一人で乗らなきゃならないのかと思って寂しく思っていた所なんだ」
 祐馬は合いの手を入れるようにそう言った。
 お前達……
 精神年齢が同じだ……
 がくりと肩を落としている戸浪に博貴が言った。
「じゃあ入りましょうか?二人とも盛り上がっているみたいですし」
「……あ……そうだな……」
 戸浪は苦笑いしながらそう言った。
 だがその時戸浪は既にこのまま帰りたいと思っていた。
 それからが大変だったのだ。祐馬と大地は遊園地の全ての乗り物を制覇しにきたのかと言うほど、片っ端から乗り物に乗り、気に入ったものは何度も並び、最初の段階でつき合いきれないと判断した戸浪は何故か博貴とベンチでお留守番になっていた。
「じゃあ……今度これに乗るっ!」
 大地は嬉しそうに遊園地の地図を見ながら指さしている。その横には祐馬がおり、やはり賛成の声を上げているのだ。
 ……
 これは一体なんだ?
 どうなってるんだ?
 遊園地をかけずり回っている二人をベンチから眺めながら呆然としていると博貴が言った。
「……すみませんね。大ちゃんの面倒を三崎さんに見て貰って……」
 嫌みだ……
 これは完全な嫌みだ……
 そうだ祐馬はガキだ。
 もうどうしようもないほどガキなんだ。
「……え、別に……二人が楽しんでいるなら私は構わない」
 仕方なしに戸浪は言った。
 今晩は……ぼこぼこにしてやるからな……
 あれ程大人風に振る舞えと言ったのに……それが……なんだあれはっ!
 祐馬の態度を見ていると、それこそ戸浪が散々言い聞かせたことなどこれっぽっちも頭に入っていないようだ。いや、忘れていると言った方が良い。
「……実はですねえ……。大地がここに来たがっていたんですよ。でも私はどうもこういう場所が苦手で……なにより大地が特に好きなジェットコースター類がどうも苦手で……。そういう乗り物につき合ってくれそうな人を捜していたんです。私も誰でも良いとは幾らなんでも言えなかったので、三崎さんならつき合ってくれるんじゃないかって大地に言ったんですよ。そうしたら速攻お兄さんの所に電話をかけて……はは。私も三崎さんなら安心して大地を任せられますから……」
 なんだって?
 そんな話しは聞いていないぞ
「え?いや……大と私は……その、言い合いになってだな……」
 こほんと咳払いをすると、博貴は更に言った。
「いきなりお兄さんに三崎さんを貸してくれと言えなかったんでしょうね。妙に思われるのも嫌だったんでしょう。だからあんな風に喧嘩腰になったんですよ。電話を切った後、大地が気にしてましたよ。俺……酷い言い方しちゃった……ってね。全く素直に言えばいいのに……本人もいい年して遊園地に行きたいとは恥ずかしくて言えなかったんでしょうねえ……」
 くすくすと笑いながら博貴はそう言った。
 なんだ……そうだったのか……
 なら最初からそう言えばいいのにな……
 だが、戸浪に対して、博貴がつき合ってくれそうにもないから祐馬を貸してくれとは確かに大地も言えなかっただろう。
 可愛いな……大は……
 イライラとしていた気分も理由を聞いた瞬間に治った。そう言う事情なら仕方ないのだ。知らない顔をして大地の希望につき合ってやるのが大人だろうと、戸浪は思った。
 そこでも大人にこだわっている自分自身が居ることなど、戸浪は気が付いていなかった。
「そ、そうだったのか……ま……なら仕方ないな……」
 気分が変わった目でもう一度二人の姿を戸浪は見た。すると今度は、祐馬と大地が仲良く乗り物の順番を待っている姿が微笑ましく見えた。
 だがその姿を見て戸浪は思い出したことがあった。
「ああ……そうか……」
「どうしたんです?」
「いや……うちはそれほど裕福じゃなかったのと、田舎な所為で近くに遊園地が無かった。それで大は遊園地に行ったことが無いんだ。あの子がもっと小さい頃は良く遊園地に行きたいとごねていたよ。友達が行ったのを聞いて行きたかったんだろうな……。でも流石に物事が分かる年齢になると、うちの経済状況を理解して、行きたいとは言わなくなったんだ。私は元々興味が無かったから、別に行けなくても何とも思わなかったんだが……大はずっと行きたかったんだろう……」
 考えると一番行きたかった時期、大地は我慢していたのだ。その為ようやく念願が叶った今、嬉しくてはしゃいでいるのだろう。
「大地らしいですねえ……」
 目を細めて小さく笑うと博貴は言った。
「あ、もしかしてその話しを祐馬に電話してこなかったか?」
 大地達と合流する前に祐馬が何か言いかけていたことを戸浪は思い出した。
「ええ、こういう事情だから、大地をお願いしますと……。やはりまだ聞いてなかったんですね。いえ、ずっと表情が強ばってましたから、もしかして三崎さんから事情を聞かされていないんじゃないかと思って、今お話ししたんですよ……」
 苦笑しながら博貴はそう言った。
 表情が強ばって……って……
 ばれていたのか……
 うう……祐馬……
 肝心な話しをお前がしてくれていなかったから恥をかいたぞっ!
 やはりこれは一発殴らないと……と思っていると二人がアイスクリームをもって帰ってきた。
「戸浪ちゃん。はい」
 祐馬はそう言ってアイスクリームを差し出してきた。それを戸浪はムッとしながらも受け取った。
「でさあ、すっげーんだぞ。水がぐあーって回りから降ってきてさあ~俺と三崎の兄ちゃんは合羽着てたんだけど……」
 大地は興奮気味で博貴に話しているのが戸浪には聞こえた。余程楽しいらしい。それに比べ祐馬は戸浪の隣に座り、アイスクリームを嬉しそうに食べていた。
「……楽しいか?」
 チラと祐馬を見ながら戸浪が言った。
「……楽しいよ。俺……あんま遊園地に良い思い出なくてさあ……。昔爺ちゃんに連れてきて貰ったんだけど、爺ちゃんがあんなだからSPっていうのか?ああいうの回りに付いちゃって……ちっとも面白くなかった。何より危ないからってジェットコースター系の乗り物全部駄目で、俺、泣きながらメリーゴーランドばっかり乗ってたんだ。それから嫌になった。だけど、大地君とあちこち昔乗れなかったものに乗って、俺すっげー楽しかった。遊園地って楽しいところだったんだってようやく分かったのかなあ……。いい年して馬鹿だと思うけどさ……」
 既にコーンをシャクシャクと食べ、祐馬は何処か遠いところを見ながらそう言った。
 ここにもトラウマを持っている男がいたなんてな……
 これでは何も言えないだろう……
 二人とも……
 今日は楽しむと良いんだ……
 全く……
 どいつもこいつも最初から事情を説明すれば、私だって……
「で、あれだけは戸浪ちゃんと乗るって決めたんだ。いいよな……」
 祐馬は観覧車を指さしてそう言った。
「……え。まあ……あれくらいなら乗っても……」
 戸浪がそう言うと、いきなり祐馬は立ち上がり、戸浪の腕を掴んだ。
「あ、俺達観覧車に乗ってきますね」
「じゃあ……私達も乗るかい?」
 博貴は祐馬の言葉を受けて、大地にそう言った。
「乗るっ!乗る乗る~!俺好きな人とあれに乗るの夢だったんだ~」
 と大地が言った瞬間に、何故か戸浪の方が顔が赤くなった。
「……や……やっぱり男同士で乗るのは……」
「んも~誰もそんな事思わないよ。いこ……」
 ぐいぐいと祐馬に腕を引っ張られ観覧車まで来ると、お互いのカップルは間を空けて観覧車に乗った。
  
 観覧車の中でお互い向かい合って座ると、戸浪は急に居心地が悪くなり、無言でアイスクリームを食べだした。もっとも、早く食べないと溶けてしまうのだ。
 祐馬の方は動き出した観覧車の窓から外の景色を見つめてニコニコとしている。
「そう言えば……さっき聞いたが……大地の事情でこんな事になったそうだな。どうしてもっと早く言わないんだ……恥をかいたじゃないか……」
 戸浪が思いだしたままそう言うと、祐馬の視線がこちらを向いた。
 あ……
 何もこんな時に言わなくても良かったんだ……
 二人きりの時間を自分で壊してしまったことに戸浪は言ってしまってから後悔した。
 そんな事は後からでも良かったんだ……
 ムードぶちこわしじゃないか……
 自己嫌悪に苛まれながら戸浪はそれ以上は言わずに、またアイスクリームを食べ始めた。
「言おうと思ったんだけどさ、ほら、大地君が来てきっかけを逃しちゃったから……」
 えへへと笑いながら祐馬は言った。
「……いや……その……済まない……。大地の話しなんだから、こんな風に言うべき事じゃ無かったんだ……」
 俯いてそう言うと、祐馬が隣に移動して座った。
「別に気にしてないよ……」
 言いながら祐馬は戸浪の肩に手を回してきた。二人きりという空間が、戸浪にその手を払わせなかった。
「……そう……そう言ってくれたら……うん……」
 急にドキドキし出した戸浪は、顔が赤くなってくるのが分かった。
 狭い場所で二人きりになることは今まで無かったからだ。
「……戸浪ちゃん……」
 祐馬の顔が近づいてくるのが戸浪にも分かった。
 は……
 恥ずかしいぞ……
 こんなところで……
 確かに誰も見ていないのだが、一応人の多い遊園地の中だ。
「……祐馬……あの……ん……」
 横を向いた戸浪の顔に祐馬は待ってましたとばかり、唇を寄せてきた。ここまで来ると戸浪ももう逆らわない。
 祐馬の舌をこちらからも迎え入れ、そのままお互い舌を絡め合った。
「……ん……」
 口内に残るクリームが、甘い味覚として感じられる。だがそれ以上に甘い痺れが、戸浪の口内を這った。
 暫くお互いキスを繰り返し、祐馬は満足げに口元を離した。後に残ったのは急に襲ってきた羞恥心だった。
「……なあんか、俺達も恋人同士してるよなあ~」
 そう言った祐馬は本当に嬉しそうだった。肩に回されている手は相変わらず戸浪を祐馬に引き寄せている。
「……あ……うん……そうだな……」
 かああああっとこれでもかと言う程顔を赤らめた戸浪は、何を言って良いか分からない程だ。
「……大人だろ?俺達……」
 言って祐馬は戸浪の額に何度もキスを落としてきた。
 まあ……
 そうだな……
 ……そう言うことにしておこう……
 うっとりとした目を細めながら、戸浪は祐馬の肩に身体をもたれさせ、伝わる温もりを暫く味わった。

 先に観覧車を降りた二人だったが、大地達が降りてくると戸浪は目を見開いた。
 妙に頬を赤らめた大地はいいとして、何故か衣服が乱れているのは目の錯覚だろうか?
 戸浪は大地と博貴を交互に見ながら、開いた口が塞がらなかった。
 この二人は……
 一体何処までやったんだ??
 博貴の方は相変わらずいつもの笑みを浮かべているだけで、何があったか等、想像できない。だが大地の方はもじもじしており、その上やや乱れた服装が、戸浪達より更になにかやった事を物語っていた。
 大地……
 お前……
 兄ちゃんは……
 悲しいぞっ!
 意味もなく戸浪はそう思いながら、祐馬を見ると、二人の間にある雰囲気が読めないで言った。
「次、何に乗ろうか?」
 戸浪はその瞬間に悟った。
 大人なのは大地達の方だと……。

―完―
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もちづきさまからいただいたキリリクです。その大人勝負ですが、最初からどう考えても勝敗は明らかでしたねえ。またこちらは、近い先に大地視点のものも用意させていただく予定です。うふふ。どこかの記念に入れましょう!
なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね!

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