Angel Sugar

「大人勝負2(大地視点)」 (40万ヒット)

前頁タイトル
 博貴は普段からいろんな雑誌を買ってくる。それは車専門誌から始まり、最新の流行ファンション誌まで様々だ。別に大地はそんなものには興味は無かったのだが、料理を作る最中、例えば小芋など煮ているときは時間がかかる為、そんな雑誌をパラパラとめくりながらキッチンで小芋の面倒を見ていたりするのだ。
 あ……遊園地だ……
 目に止まったのは遊園地特集の所であった。最新の絶叫マシーンから、お勧め幽霊屋敷まで色々載っていた。
 行きたいな……
 大地は生まれてこの方、遊園地に行ったことがなかった。小さい頃は貧乏で連れていって貰えなかったのだ。だが本当はとても行きたかった。
 就職を決めたら行くんだと考えていたのだが、博貴と出会ったり、その中で色々あり遊園地の事などすっかり忘れていたのだ。
「なあ……大良~今度、遊園地行かないか?」
 キッチンからひと続きになっているリビングの方に向かって大地はそう言った。博貴の方はリビングにあるローソファーで雑誌を見ていたのだ。
「え?遊園地かい?」
 博貴は顔をあげ、不思議そうな表情で大地を見た。
「うん。お前嫌いか?」
 ホストに遊園地が似合うとは思わないのだが、一応大地はそう聞いてみた。
「嫌いというわけじゃないんだけどねえ……ほら、人が沢山いるだろう?それが少し苦手なんだ。何より年齢的なものもあってかなり恥ずかしいね……。でも大ちゃんが行きたいなら、今度の休みに行こうか?」
 にこやかな表情で博貴はそう言ったが、本当は気が進まないと言うのが大地にはよく分かった。
「……いいよ……。誰か他の人と行くから……」
 とはいえ、遊園地に一緒に行ってくれそうな友人は見当たらなかった。高校時代の友人はいるのだが、遊園地に行こうとは何となく言えない。
 やっぱりガキ臭いかなあ……。
 そうだよな……
 小芋の煮っ転がしを菜箸でつつき、大地は料理に専念することにした。遊園地には行きたいが、気の進まない相手に無理は言えない。
 今度一人で行ってこようかなあ……
 一人で行ったところで楽しいわけなど無いのだが、一度も行ったことがない大地にはどうしても見て、何かに乗って楽しんでみたかった。
「大ちゃん……。何だったらほら、お兄さんの彼氏に頼んでみたら?三崎さんはそういうの好きそうだろう?きっとつき合ってくれるよ」
 急に間近で博樹の声がしたので大地は驚いて顔を上げた。すると博貴は大地の真横に立っていた。
「三崎の兄ちゃん?」
「そうだよ。彼、まだ社会人に成り立てだから、まだ学生気分も随分残っていると思うんだよ。だからね、三崎さんなら喜んでつき合ってくれるんじゃないか?」
 多分そうだよ……という口調で博貴は言った。
「そうかなあ……」
 菜箸を動かす手を止めて大地は考えた。
 三崎さんなら言いやすいかもしれない……
 なにより、一緒に楽しんでくれそうな気が大地にはした。
「うん。俺、戸浪にいに頼んでみる」
「じゃあ、大ちゃん。こういうのはどうかな?お兄さんの所とうちとで、ダブルデート。こういう名目なら誘いやすいだろう?」
 なかなかの案を博貴は出してくれた。
「そうするっ!俺、今から電話しようかな……あ、お前、これちょっと見ててくれる?電話かけるから……」
 大地はそう言って博貴に菜箸を渡すと、リビングの方にあるテレフォンラックに走った。
 兄ちゃんいるかなあ……
 大地はそう思ったが、電話はすぐにかかった。
「ああ、大どうしたんだい?」
 戸浪は嬉しそうにそう言った。
「えっと……あのさあ……」
 勢いで大地は電話をかけたものの、素直に遊園地の話をすることが出来なかった。
 いきなりダブルデートなんて言っても絶対戸浪にいはうんって言ってくれないよな……
 遊園地なんてもっと嫌がりそう……
 うわ……戸浪にいのことすっかり忘れていた……
 博貴が人混みが嫌だと言ったが、戸浪はそれ以上に嫌いなのだ。
「なんだ?どうしたんだ?」
 ……なんて切り出そう……
 俺、そこまで考えてなかった……
 大地は悩みながら結局出た言葉がこれだった。
「三崎の兄ちゃんってガキッぽいよな……」
 ……
 あ、俺ひっでー言い方しちゃったよ……
 ど……
 どうしよう……
「そんな事は無いぞ。祐馬はあれで、男らしいところがある。お前こそ、子供なんだから大良さんの手をどうせ煩わせて居るんだろう……。見なくても分かるがね……」
 むっ……
 その言い方も無いと思うけど……
 大地は自分が言った事はすっかり忘れてむかついていた。
「あ、戸浪にい、言ったな。あいつは大人だから一緒にいると多少は俺見劣りするけど、俺達の方が絶対大人な付き合いしてると思うぞ。だって……三崎さんってほんと……くすくす」
 俺より絶対子供っぽいと思うぞ。
 だって三崎さんは博貴に色々聞きに来たくらいなんだから、絶対ガキだっ!
 なんて、いつの間にか次元の低い言い争いに発展している事など大地は気が付いていなかった。
「お前がそう思っているだけだ。ガキにガキと言われたらさぞかし祐馬も腹を立てるだろうな……」
 俺は……
 ガキじゃないっ!
 ちゃんと仕事だって一人前にしてるし、エッチだって絶対負けてないからな!
 何処かずれた所で争っていることを大地はやはり気が付いていない。とにかく大地は戸浪の言ったガキ発言に頭に来ていたのだ。だがそれも、元はと言えば大地が言ったことに端を発しているのだが、ここまで来ると引き下がれなかった。
「ガキって言うなっ!じゃあ兄ちゃん、勝負だっ!今度、ダブルデートしよう!どっちの彼氏がスマートにエスコートできるか勝負だぞっ!日にちはこっちで決めるから、分かった?」
 大地は鼻息荒くそう言った。
「分かった。どうせ勝敗は目に見えているがな……」
 あっ……
 戸浪にい、鼻で笑った……
 むかつくーーー!
「じゃあ、来週の土曜な。場所は今度新しくできた遊園地に十時。入り口の所で待ち合わせだよ。じゃあね」
 一気に言って大地は受話器を下ろした。
「俺は……ガキじゃ無いぞっ!何だよっ!そりゃまだ二十歳になってねえけど、あんな言い方……」
 ブツブツと文句を言っていた大地であったが、最初ガキ発言をしたのは自分であった事をようやく思い出した。
 お……
 俺が先に言ったんじゃないか……
 うわ~……
「大ちゃん……なんだか穏やかな話し合いじゃなかったみたいだねえ……」
 電話の会話を聞いていたのか、博貴はそう言って苦笑した。
「俺……兄ちゃんに酷い言い方しちゃった……」
 半分べそをかいたような顔で大地は言った。
「ガキ……かい?」
 クスクスと笑って博貴はそう言った。
「……うん。俺……あんな風に言うつもりは無かったんだ……ただ……俺……」
 遊園地に行きたかっただけなのだ。それも一緒に楽しんでくれる人と行きたかった。ただそれだけであったのに、戸浪を不愉快にさせてしまったことを大地は今更ながら後悔した。
「大丈夫だよ大ちゃん。お兄さんも分かっているって」
 言いながら、博貴は大地の頭を撫でた。
「そうかな……」
 大地は俯き加減の顔を上げ、そう言った。
「そうだよ。後は楽しむだけ。それでいいじゃないか……。ダブルデートだね。私は楽しみだよ……」
 嬉しそうな顔で博貴が言ったことで、大地は少しだけ気分が良くなった。
「だよな……。うん。俺も楽しみだ……」
 もしデート当日、戸浪が怒っているようなら謝れば良いのだ。大地はそう決めると、来週遊園地に行くことで頭が一杯になった。

 そうして色々な問題がありながらも、ダブルデートが決行されることになった。



 デート当日、快晴に恵まれ大地は朝から酷く気分が良かった。前日は本当に寝られないほどわくわくしていたのだ。もちろん、ガキ発言や、大人勝負などすっかり忘れている。
 初めての遊園地……それが、本当に嬉しくて、この日が近づくにつれ気はそぞろになり、何度料理に使う調味料を間違えたか分からないほどだった。手にはここが見所という雑誌を持ち、その中で特集されている今日行く遊園地の所を何度読み直したか分からない。
 わくわく……
 ジェットコースターは全部制覇してやるんだ……
 それと……
 ウオータードライブも乗って……
 お化け屋敷はどうしようかな……
 車に乗り、博貴が運転する間も、大地はずっとそんなことを考えていた。
「大ちゃん、着いたよ」
 博貴にいきなり声をかけられ、大地はようやく現実の世界に戻ってきた。ここに来る間、ずっと遊園地で遊ぶ自分を想像していたのだ。
「あ、うん」
 大地は助手席の扉を開け外に出ると、大きな観覧車が目に入った。その回りにはジェットコースターの路線がうねるように取り囲んでいる。
 うわ……
 うわーーーーっ!
 遊園地に来たぞ!!
 もう嬉しくて仕方がない。
「早く行かないと少し遅れたみたいだから、お兄さん達きっと待ってるよ」
 博貴がそう声をかけられると大地はすぐに走り出した。
 
「兄ちゃん~!待った?」
 案の定、戸浪達は遊園地の入り口に設置してあるベンチに二人仲良く座っていた。心配していた戸浪の機嫌も悪くなさそうに大地には見えた。
「いや……今来たところだよ」
 言って戸浪が立ち上がると、祐馬の方も腰を上げた。その祐馬に大地は一言声をかけたかったのだがどういえば良いのか分からなかった。
 一緒に遊んで……って言えないよな……
 どう言おうかな……
 大地が悩んでいると、祐馬の方から大地に声をかけてくれた。
「大地君久しぶり~」
「あ、三崎兄ちゃん、久しぶり!」
 何となく照れ臭かった大地は、今気が付いたようにそう言った。
「俺、遊園地って本当に久しぶりで、すげえ楽しみにしてきたんだ。いい大人が楽しみって変なんだけど……。だから悪いんだけど大地君つき合ってくれよ。ほら、誰かと一緒なら恥も半分で済むからさ……」
 ニコニコと笑いながら祐馬は言った。
「え、あ、うん。そうだよね。一緒に回ってよ」
 本来なら大地がそう言いたかったのだ。それを先に言ってくれた祐馬の言葉が嬉しかった。
「俺ねえ、まずあのジェットコースターが乗りたいんだけど、早く並ばないと人で溢れちゃうんだよな……」
 祐馬は大地が真っ先に乗りたいと思っていたジェットコースターを指さした。
「あっ……俺もそれ乗りたかったんだ。あのジェットコースター絶対乗るんだって決めてきたから」
 嬉しそうに大地はそう言って祐馬に笑顔を見せた。
「良かった~戸浪ちゃん絶対つき合ってくれそうにない顔してたから、俺一人で乗らなきゃならないのかと思って寂しく思っていた所なんだ」
 その言い方から、祐馬が気を使ってくれているのが大地には分かった。
「ありがとう……三崎さん……」
「ほら、早くチケットを買って入ろうっ!」
「うん」
 そうしてチケットを買い、園内に入る。そこで大地と祐馬は遊園地の全ての乗り物を制覇するんだと決め、片っ端から乗り物に乗り、二人とも気に入ったものは何度も並び、その途中で脱落した博貴と戸浪を置いて、二人で園内をかけずり回った。
 祐馬は年齢が離れているなど全く分からないほど、大地と同じ楽しみ方をしてくれたのだ。
 優しい人なんだ……
 大地はそう祐馬のことを思った。幾ら遊園地が好きだからと言って、おのぼりさん状態の大地につき合ってくれているのだ。それも本心から楽しんでくれているのが分かる。
 お昼も適当に食べ、その間もずっと二人であれやこれやと雑誌を眺めながら次に乗るものを決め、まだ博貴や戸浪が食事を終えていないのに、二人で走り出していたのだから、見ている二人は呆れていたに違いない。
 でも大地はそんな自分につき合ってくれる祐馬がとても好きになった。気の合うお兄さんというより、同じ目線にいる友達のように思えて仕方がなかったのだ。
「あ、アイスクリーム買っていこうか……」
 結局入ったお化け屋敷から出たところで、祐馬が言った。
 赤と黄色のパラソルの下で昔ながらのアイスクリームという垂れ幕が目に入ったのだ。大地はお化け屋敷に入る前に見たこの垂れ幕がずっと気になり、食べたいなあと実は考えていたのだ。
「買うっ!俺アイスクリーム食べるっ!」
「じゃあ、二人にも買って行こうな」
 祐馬はそう言ってポケットから財布をとりだし、パラソルの下でアイスクリームを買うと、大地に手渡す。
「俺の分、出すよ……」
 大地は既に両手にアイスを持った姿でそう言ったが、祐馬は「おごりだから」といって笑うだけでお金を取ろうとはしなかった。
 博貴と戸浪は相変わらず木の下にあるベンチで何やら話しをしていた。そんなところに二人で戻ると、大地は博貴にアイスクリームを渡し、隣に座った。
「楽しいかい?」
 にこやかな顔で博貴は大地にそう言った。
「うん。楽しいっ!来て良かった。でさあ、すっげーんだぞ。水がぐあーって回りから降ってきてさあ~俺と三崎の兄ちゃんは合羽着てたんだけど、全然役に立たなかったんだ。で、ちょこっと濡れた。でも三崎の兄ちゃんは濡れてないんだ。変だろ。俺だけ濡れてさあ……」
 えへへと大地が言うと、博貴は大地の髪に触れた。
「まだ湿ってるね……」
「……あはは。ま、ほっといたら乾くよ。もう随分乾いてるし……。俺あのウオータードライブの前でどうして下着が売ってるのかようやく分かったよ。下まで濡れる人がいるんだよな……」
 くしゃくしゃと髪を撫でられ、大地は首を竦めながらそう言った。
「あ、俺達観覧車に乗ってきますね」
 急に祐馬が立ち上がってそう言った。
「じゃあ……私達も乗るかい?」
 博貴は祐馬の言葉を受けて、大地にそう聞いてきた。もちろん大地もオッケーだ。あれも乗る予定だったのだ。
 もちろん博貴とだった。
「乗るっ!乗る乗る~!俺好きな人とあれに乗るの夢だったんだ~」
 と大地が言った瞬間に、何故か戸浪の方が顔が赤くなった。
「……や……やっぱり男同士で乗るのは……」
 もごもごと戸浪が言うのだが、大地にはそれがどうしてなのか分からなかった。恋人同士の定番はやはり観覧車だと大地は思うからだ。
「んも~誰もそんな事思わないよ。いこ……」
 ぐいぐいと祐馬に腕を引っ張られた戸浪と、大地達は観覧車まで来ると、お互いのカップルは間を空けて観覧車に乗った。
  
 観覧車の中で最初はお互い向かい合って座った。少しずつ景色が上空に上がっていくと、大地はまた興奮してしまった。
「すっげーよ!海ッ!海見えるっ!」
 窓に貼り付いて大地はそう叫んだ。
 海の向こうは霞んでよく見えないのだが、豆粒のような船が浮かんでいるのが見える。
「大ちゃん……危ないよ……」
 苦笑したような博貴の声であったが、大地はちっとも危ないとは思わなかった。何より危ないような作りになっているわけなどないからだ。
「危ないわけねえよ……すげえな……人があんなに小さく見える……」
 今度は下を向き、遊園地に来ている人達を眺めながら大地は言った。
「三崎さんに嫉妬しちゃったなあ……」
 ぽつりと博貴はそう言った。
「……え?」
「だって、大ちゃんは私を無視して二人で楽しそうにしてるんだからねえ……」
 その言葉に大地はまた席に座ると、博貴の方を向いていった。
「三崎さん……俺に気を使ってくれたんだよ……いい人だよね……。俺一杯あの人のこと誤解してたけど、三崎さんのこと戸浪にいが好きなの分かる。ああいう優しい人だから、きっと戸浪にいも好きになったんだよ……」
 本心から大地はそう言った。
「ねえ、大ちゃん……キスしよっか?」
 いきなり博貴は大地にそう言い、自分の席を立って身体を屈めながら大地の隣に座った。
「はあ?」
「恋人達の定番だろ?観覧車でのキス……」
 と、言っていきなり博貴は大地の唇を自分の唇で塞いだ。
「……ん……」
 最初はやや抵抗して見せたのだが、博貴の舌が口内で蠢き出すと、大地は自分から腕を廻して、博貴の愛撫に酔った。
「……ん……んっ?」
 大地の太股の所に置かれた博貴の手が微妙に動いている。
 こいつ……
 まさか?
 チラリと薄目を開けて下を見ると、博貴の手は七分丈のパンツの裾から手を入れていた。
「……なっ……ん……」
 一旦口元を離したのだが、無理矢理引き戻された。
 博貴の手は太股を這いながら、大地の敏感な部分に被さった。
「やっ……な……止せよっ……」
 ガッと口元をまた離し、大地は博貴の手を掴んだが、その手の動きは止まらなかった。
「止せって……あ……も……こんなとこで……」
「ねえ……大地……。下着は濡れなかったって言ってたよねえ……」
 くすくすと笑いながら博貴は耳元で囁く。
「……ぬ……濡れてねえよっ……だから……っ……そんなの確かめなくてもっ……やっ……あ……」
 グリグリと下着の上から指で刺激され、大地は息が上がった。思わず両足を閉じようとしたが、博貴は自分の足を絡めて阻止をする。離そうとした身体は博貴のもう片方の手が大地の背中に回され、そのまま肩を掴んでいるために、未だ胸元に引き寄せられていた。
「おまっ……何考えて……あっ……やだ……っ……」
「濡れてないって?嘘だよ……湿ってるよ……」
 相変わらず笑いながら博貴はそう言い、更に手のひらを動かした。
「やっ……駄目だって……ここっ……あっ……」
 涙目でそう大地は訴えるのだが、博貴は全く聞き入れない。逆に手のひらに力を込めて、敏感になっている部分を擦り上げてくる。
「ね……大地……帰りに……何処かに寄っていこうか?」
「……っ……お前っ……どうしてそんな事ばっか……ひっ……」
 ギュッと握り込まれ、大地はうわずった声を上げた。
「辛いね……大地……。このままうちまで我慢するの辛いね……私も辛かったよ。……君たちが仲良くしているのを見せつけられていたんだからね……。本当は文句の一つでも言いたかったけど、君の事を思って何も言わなかったんだよ……。そんな私にご褒美をくれないと……」
 両足をガクガクと震わせている大地に博貴は呟くように言った。
「……ば……馬鹿っ……俺は……そう言うつもりじゃ……」
 目を潤ませ大地はそう言ったが、博貴の手は相変わらず大地のモノを下着の上から撫で回す。
「大地……もうすぐ地上に降りるよ……恥ずかしい姿を見られたくないだろう?君がうんって言ってくれないと、私は止めないからね……。どうせ見られたところで、明日会う友達でも何でもないんだから……」
 博貴は真剣にそう言っていた。
 こいつマジだ……
 こんな所……
 見られたら嫌だっ……!
「分かった……分かったから……も……離してくれよっ!」
 景色がどんどん下降しているのだ。もし観覧車を待っている人に見られたら……いや、兄たちに見られたらと考えるだけで恥ずかしくて仕方がない。
「じゃあ……ご褒美くれるんだね?」
 博貴の言葉に何度も大地は頷き、ようやく博貴は自分の席に座り直した。その表情はまるで何もなかったかのように平静に戻っている。逆に大地は妙に赤らんだ顔が戻らないでいた。
「大ちゃん。ズボンめくり上がってる……」
 ニヤニヤとした顔で博貴が言った。大地は慌てて服装を整えたが、やはり顔が戻らなかった。
「お前……最低……っ!!」
 大地は真っ赤な顔でそう言ったが、博貴はさらりとそれを返した。
「どうして?これが観覧車での恋人達の定番なんだよ。どうせ君のお兄さんだって色々とやってるに違いないんだから、別に恥ずかしいことなんかないさ……」
 そうなのか?
 兄もそうなんだろうか……
「……嘘だ……」
「大人の恋人達が観覧車で何をするかなんて、想像しなくても大抵みんな同じだよ……」
 そう言って笑った博貴の言葉に何故か大地は納得してしまった。

 大地達が降りてくると戸浪達が待っていた。だが大地とは違い、全く普通の顔をしていた。
 俺は……
 こんなに顔が赤いのに……
 見なくても自分の顔の火照りはまだ去っていないことは分かっていた。と言うことは赤い顔をしているのだ。
 だが戸浪達はちらともそんな表情は見あたらなかった。戸浪も少しは恥ずかしそうな顔をしているのだと思っていた大地にはショックだった。
「次、何に乗ろうか?」
 祐馬がそう言って、大地が知っている顔でにこやかに笑っている。
 戸浪と色々あったはずだ。だが何があったとしても、大人の二人は何事もなかったように顔の表情を一瞬で戻すのだ。
 大人って……
 大人ってみんな狡いぞ……
 どうせ俺はガキだよ……。
 大地は心の中で自分はやっぱり子供だと認めるしかなかった。

―完―
前頁タイトル

大人勝負の落ちは最後に結局お互い相手が大人だと認めているところでしょうか(笑)。まあ……何があったかはお互い知ることもできないし、まさか聞くわけにもいかないことですし……ふははは。しかし、観覧車でそんなことまで普通やるか? という博貴でしたが……まあ彼も、いくら戸浪の彼氏とはいえ、祐馬と仲良くしているのが嫌だったのでしょう。あんたが一緒に楽しんでやればよかったんだよ……という突っ込みはおいておきましょう~。
なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね!

↑ PAGE TOP