Angel Sugar

第1夜 「大地のクッキングマスターへの道」 (殿堂入り記念)

タイトル
 博貴が突然大地にこう言った。
「大ちゃん……悪いんだけど……料理を教えてくれないかい?」
 大地の後から博貴は手を伸ばし、身体をすり寄せてきた。その仕草はもう慣れたものであった為、大地は引き剥がすことはしなかった。
「ん?お前が料理するのか?」
 大地は丁度昼食にしようとエンドウ豆の卵とじを作っている所だった。本日は大地も休みで、ゆっくりと料理を作られるのだ。そういう日は元々料理好きな大地は色々こったものを作る。
「いや……それがねえ、うちの榊さんがまた妙なお題をホスト全員に出してね。それで困ってるんだよ。もちろん、多少は私も料理は出来るけど、メニューを考えたりするのは苦手でねえ……」
 苦笑しながら博貴はそう言った。その息が首元に当たり、大地は身体を捩らせた。
「変なとこ息をふきかけんなよ……くすぐったいって……」
「ふふ、大ちゃん昼間から感じてるのかい?」
 嬉しそうに博貴はそう言って、大地の頭に頬をすり寄せた。
「ああもう……暑苦しい……離せよ……」
 大地はそこで博貴をぐいと引き剥がし、コンロの火を消した。
「で、榊さん何言ってんだよ……」
 くるりと博貴の方に向き直った大地はそう言った。
 どうもあのホストクラブのオーナーである榊は、面白い事が好きなのだ。以前は指名の減った博貴の罰ゲームに怪しげなコスチュームを着せようとしたほどの人物だ。そんな榊が、今度は何を考えているのか大地には少し興味があった。
 榊さんって……
 考えること面白いもんな……
「だからねえ……新しい料理のメニューを……」
 博貴は何故か言いにくそうに苦笑しながらそう言った。
「ホストクラブなんだから、多少の金を積んでどっか有名なコックにでも頼めばいいじゃん。なんで大良がそんな事考える羽目になってるんだ?」
 大地は言って首をひねった。
「私だけじゃなくて全員にだよ。ほんと困ってるんだ……」
 ふうと溜息を付いて博貴は言った。
「適当でいいんじゃないのか?だって素人に新メニューなんて難しいって……」
 大地はそう言って、キッチンの縁にもたれた。
「適当で済めば良いんだけどねえ……その……ただの料理じゃないんだ……」
 ただの料理じゃないって……?
 じゃあ何だろう……
「どういうのを作れって榊さん言ってるんだよ……?」
「エッチなメニュー……」
 は?
 俺なんか耳おかしくなったのかな?
 エッチなメニューとか聞こえたけど……
「なに?俺良く聞こえなかったよ……」
 大地は、ははと笑ってそう言った。
「だからねえ大ちゃん。エッチっぽいメニューを考えろって言われてるんだ。そんなものを有名なコックになんか頼めないだろう?」
 博貴も、はははと笑ってそう言った。
「あはははは。榊さん冗談過ぎるよ~」
「違うよ大地。榊さんは本気。だからねえ……何でも良いから大地考えてくれないかい?私はこういうのは苦手なんだよ……スパゲッティーをゆでるくらいなら出来るけどねえ……」
 腕組みをして困ったように博貴はそう言った。
 なに……
 本気?
「……冗談じゃないのか……」
「そうだよ。しかもお客様に笑いを取って貰えるようなエッチな料理」
 博貴は今度ニヤニヤとした顔で言った。
「何で俺がそんなメニューを考えなきゃならないんだ?止めろよ……馬鹿馬鹿しい……」
 ぷいと博貴に背を向けて、大地は自分の料理作りに専念しようとした。だが又博貴が後から覆い被さってきた。今度、博貴の手はこちらの股下あたりに伸ばされている。 
「ねえ……大ちゃん頼むよ……」
「うわっ……馬鹿……何するんだよっ!」
 ジーパンの上から敏感な部分を擦り上げられた大地は慌てて博貴の手首を掴んだ。
「だからほら……頼んでるだろう……一品でも良いから考えていかないと、また私が罰ゲームをさせられるんだから……」
 言いながら博貴の手のひらは相変わらず、大地の股下から離れない。その上、何度もナニの上を擦るものだからこっちは堪ったものではなかった。
「あっ……やだって……馬鹿っ……離せよ……や……」
 刺激に腰砕けになりながら、大地は必死にそう言った。
「考えてくれる?」
 耳元で博貴は有無を言わせない声でそう囁いた。
「分かった……分かったって……あ……も……やめ……」
 両足を折った体勢で、大地はそう言った。
「良かった。大ちゃんならそう言ってくれると思ったんだ……」
 すっと身体を退かれた大地は、キッチンの床にべったりと座り込んだ状態で溜息を付いた。

 大地達はマントルピースの所に来ると、そこにあるローソファーに座った。そうして机の上に紙を置き、大地はボールペンを持った。
「……う~ん……でもなあ……笑えるエッチな料理っていきなり言われても……」
 博貴の方は大地の方をみてニコニコしているだけで口を挟んでこない。
「お前もさあ……何か考えろよ……俺だってこういうの初めてなんだから分からないんだぞ」
 大地はボールペンをクルクル指の間で回し、そう言った。
「エッチな食材って言ったら、やっぱりあれしかないねえ……」
 ニヤニヤと今度は口元で笑いながら博貴が言った。
「んだよ……そのエッチな食材って……」
「ほら、男のシンボルっぽい、ソーセージとか……」
 意外に博貴が真面目な顔でその言葉を言ったため、大地は吹き出した。
「はああ?ソーセージって……」
「……小さい頃、ソーセージでふざけたりしなかったのかい?」
 言われて大地は顔を左右に振った。
 普通するか?
 ソーセージでふざけるのか?
 ……
 まあ……言われてみたらそんな形してるよな……
 あっ……そっか
「フランクフルトにしたらどう?そんな大層な料理じゃなくて良いんだろ?」
「大層な料理じゃなくていいけどね……。でも大ちゃん。フランクフルトがどうエッチになるんだい?」
 不思議そうな顔で博貴が言った。 
「ただのフランクフルトじゃなくてさあ、ほら、衣を全部付けないで、先だけソーセージ出したままで揚げるんだよ。なんか、エッチっぽくないか?」
 はははと笑って、大地がそう言うと、博貴が目を見開き、固まってしまった。
「……駄目か?」
「ぶはっ……あははははははは、大ちゃんんそれいい!それ、面白いよ!あははは……最高……剥けないペニスって題にするかい?それとも先だけペニス?いやあ……やっぱり大ちゃんはすごい」
 博貴はいきなりお腹を抱えて笑い出した。
 いや、別に……
 剥けないとか、先だけとかはどうでも良いんだけどさあ……
「じゃあ……一個できたじゃないか……もう良いよな……」
「三つくらいは……ははは、作っていかないと……あははは……駄目だ……お腹が痛い……」
 お前、笑いすぎ……
 いいけど……
 大地は溜息を付きながら、がりがりとボールペンで一つ出来たメニューを書いた。
「でも俺、そのくらいしか思いつかないな……」
 ボールペンの後を頬に当ててぼんやりと大地はそう言った。
 他に何か……あったかな……
 大地が考えている間も、博貴はまだ笑っている。
 しつこいんだよ……もう……
 頭を掻きながら大地はそう思った。
「五月蠅いって……大良……俺考えてるんだからお前も考えろよ。お前が本当は考えないと駄目なことなんだろう……」
 余りにも笑っている博貴に大地はムッとしてそう言った。
「ごめんごめん……なんだかねえ……ツボに入ってね……」
 くくくと笑いながらそう博貴は言った。
「後二つ……ううん……いまいちピンと来ないよ……」
「デザート系でも良いんだよ。大ちゃん……そう難しく考えなくても……」
 って、お前が考えることだったんだろう~
 というのは置いてと……
 デザート……
 デザートね……
「……そうだ、ホットケーキを焼いて、こう人間の腰の部分っぽくカットしてさあ、小さいシューを二つと、バナナを切って添えてあそこみたいにするとか?」
 思ったことをそのまま大地は口に出した。だが言って急に恥ずかしくなり、顔が赤くなった。
 俺って……
 なに言ってるんだよ……
 博貴……呆れてるだろうな……
 と、思った大地はチラリと博貴を見ると、興味津々の顔でこちらを見て言った。
「大ちゃん、それって股の所にチョコかけてもいいと思わないかい?」
「ん?毛の事言ってるのか?」
 と大地が言うとまた博貴が爆笑した。
「わはーーーーっ……わはははははは……うは……はははははは」
 んだよ……
 俺は真面目に考えてるって言ってるんだよ……
 どうしてこういちいち笑うんだ……
「別にチョコにこだわらなくてもさあ……それっぽく見せようと思うんだったら、チョコより俺、飴のほうが良いと思うぞ。火で飴を溶かして、かけるんだけど……見た目絹糸みたいで綺麗だぞ……」
 ボールペンで紙に絵を描きながら大地はそう言った。笑っている男は放って大地は真面目に考えていたのだ。
「お、おおお、……」
 博貴が「お」を連発した。
「お……って何だよ……訳わかんねえよ……」
 呆れた顔で大地が言うと、博貴はようやく言った。
「黄金の毛になっちゃうよ大ちゃん……はは……それは……いた……いたた……お腹が……」
 馬鹿じゃん……
 何がそんなに可笑しいんだよ……
「黄金の毛って……染めてることにしとけよ……」
 あっさり大地がそう言うと、博貴は床を転げ回って笑い出した。逆に余りにも博貴が笑うので、大地の方は冷めているのだ。
 ……
「だからお前が考えることだろっ!笑ってばっかじゃ先に進まないぞっ!」
 ああもう……
 腹立ってきた……
「す、すまない……もうツボどころじゃなくてねえ……」
 目に一杯涙を溜めた博貴はそう言って身体を起こした。
 ……はあ……
 笑いすぎて泣いてやがるこいつ……
「……後一つだぞ。俺これ済んだら、昼飯の支度に戻るんだから……」
 ぶつぶつ言いながら大地はそう言った。
「ねえ、大地。その毛だけど……」
「いやに毛にこだわるよな……お前……」
 ジロッと睨みながら大地は言った。
「こだわって居る訳じゃないんだけどねえ、飴の量を減らして「薄いの」ってメニューの名前もいいと思わないかい?あと、異常に飴の量を増やして逆に「濃ゆいの」とか……逆に飴をかけないで「剃られたの」って……あははははっ、色々アレンジできてそれはすごいアイデアだ!」
 そう言って一人、色々なアレンジを想像して博貴は受けていた。
「……ていうか、お前が勝手にアレンジしてるんじゃないか……何がすごいアイデアだよ……。で、その、剃られたのって訳わからねえよ……」
 呆れた風に大地が言うと、博貴はニヤリと笑った。
「恋人が外で浮気しないように、剃っちゃうんだよ……下の毛。ほら、そうしたら外で服を脱ごうなんて気にはならないよね……」
「はあ?なんだそりゃ……」
 世の中にはそんな彼氏が居るのか?
 心配だから剃るって……
 うはああ……
 俺は新たな世界を垣間見たぞ……
「大ちゃんも剃ってあげようか?」
 ばきっ!
「痛いよ大ちゃん……」
 頭を抑えて博貴はそう言った。
「ふざけんな。俺は真面目に考えてるって何度言えば分かるんだよ」
「そうだった……はは。冗談だよ。だってねえ……大地がすごいことを言うから……」
 だから俺じゃねえだろっ!
 お前がさっきから勝手にべらべらしゃべって一人で受けてるんだろうがっ!
 もう……
 さっさと終わらせないと、こいつまた良からぬ事を企みそうだ。
 急に現実に戻った大地はそう思った。
 博貴は侮れないのだ。
 どんなことでも最終的にHに繋げてしまうのが、この大良博貴という男だった。それに対して大地はいつの間にか罠にかかった虫宜しく蜘蛛の糸に絡まっている。
「あと一つだよな……」
 ああもう……
 早く終わらせたい~
 頭を両手で掻きむしりながら、大地は最後の一つを考えることに集中した。
 なんかねえかなあ……
 エッチなメニュー……
「ねえ大ちゃん。そんなに考えなくても簡単でいいんだよ」
 人ごとのように言いやがって……
 そもそもお前が……
 あ……
 後一つ!
「焼きバナナ!!やっぱりベーシックにバナナだと思わないか?」
「……大地……それって、焼くだけかい?」
 面白くなさそうに博貴は言った。
「面白くないか?う~ん……だったらほら、バナナの皮を先から切って上手く中身を取り出して、焼いたバナナを戻したら面白くないか?結構びっくりすると思うぞ」
 皮を剥いたらいきなり焼きバナナって結構俺受けると思うんだけど……
「どう思う?駄目か?」
 大地が顔色を伺うように博貴にそう言うと、博貴はまたいきなり笑い出した。
 今度はどんな想像したんだこいつ……
「おい、なんだよ……何想像したんだよ……」
 笑い転げだした博貴の腕を掴んで大地はそう言った。
「だって……だってねえ大ちゃん……む、剥いたら黒いバナナが出てくるんだよねえ……それって……あはははははははは、すごく使い古されたナニってことだよね?そうだよねえ……いやあ……参った。君は本当にすごいよ大ちゃん」
 言われて大地は顔中が真っ赤になった。
 そ、そんなつもり……
 お、俺はねえぞ……
「ちがっ……違うぞっ……そ、そんなつもりねえよっ!」
 ゴロゴロと笑い転げている博貴を捕まえた大地はそう言った。だがツボに入っている博貴はこちらの言うことなど聞いてくれない。
「そうだ……」
 笑っていた博貴がいきなり身体を起こした。
「実はやりすぎてたの……っていう名前がいいねえ~」
 くすくすと笑いながら、博貴はそう言った。
「お、お前って……」
 さっきから……
 ものすごいネーミングばっか、こいつ付けてないか?
 いいのか……俺……
 こういうことに真面目につき合って……
 実はこれも博貴の企みか?
 既に俺罠にはまってるとか言う??
「さて大ちゃん。メニューは決まったね。ところで作り方を伝授して欲しいんだけど……」
 ニッコリと笑った博貴は意外にまじめな顔でそう言った。

 昼ご飯を食べてから大地は博貴に三つのメニューのレシピを作ってやり、その後キッチンで、テストメニューを作った。すると博貴は出来上がったレシピと、料理を皿に入れると、夕方アルバイト日では無かったのだが、「すぐ戻るからね」と言い、いそいそとホストクラブへと出かけていった。
「……大良の奴……俺が作ったとか、考えたとか言わないだろうな……」
 何となく嫌な予感がしていたが、大地は考えないことにした。
 そうして三時間ほど経った頃博貴が帰ってきた。
「大ちゃん~君の作品が優勝したよ~」
 ぶふっ!
 ジュースを飲んでいた大地は思わず吹き出した。
「なっ……何だよその優勝って……」
 口元を拭きつつ大地はそう言った。
「実はね、いくつかのホストクラブで対抗合戦だったんだ。エッチなメニューのね。それで、君の作品が優勝したんだ。良かったねえ。私も鼻が高かったよ」
 お前……
 は、話が違わないか?
 対抗合戦って……
 なんだよ……
 驚きで口をぱくぱくしていると更に博貴は言った。
「で、優勝者には某高級ホテルのスイートのチケットが貰えることになっていてねえ。ほ~ら貰ってきたよ」
 と言って博貴はチケットをこちらに見せた。
「おま……お前……最初からそれが目的だったんだな?」
「当たり前だろう大ちゃん。ここのホテル……今年一杯スイートが取れなくてねえ……どうしても欲しかったんだよ。大ちゃんの為に……」
 俺……
 俺の為じゃねえだろうがーーー!
 お前の為だろう!!
 そう思うのだが怒りで大地は声が出ない。
「で、大ちゃん。あの三つのメニューは店で取り扱う事になったんだよ。大ちゃんが作りましたってカードが付くんだ。嬉しいねえ大地」
 ニヤニヤとしながら博貴はそう言った。
「嘘……嘘だよな?」
 俺が作ったって……
 俺が作ったって……
 か、カードが付くって……
 なんだよそれはーーー!!
「ん?私は嘘は付かないよ。クッキングマスター大地って書いたカードが添えられるんだよねえ。ほらとっても光栄だろう大ちゃん」
 言って博貴は大地に腕を回した。
「……こ、光栄……??」
 光栄なのか?
 ホストクラブに俺のメニューが置かれることが……
 それも……
 エッチで笑えるメニューだぞ。
 し、しかも……
 俺が作ったってカードまで付くんだぞ。
 な、何が光栄で、どう鼻が高いんだ?
「まあ……お祝いをかねて、スイートに泊まりに行こうね大地」
 博貴は大地を引き寄せて、そう囁くように言った。
 また……
 はめられた……
「はは……ははははは……」
 大地は笑うしか無かった。

―完―
タイトル

ああもう大地ってまたはめられてるよ……という感じで、ラストがまだ続くっぽいですねえ。さてやはりこれは、スイートでの甘い一夜を書かねばならないんでしょうねえ……あはははは。どこか記念にまた入れるつもりです。要するに博貴はあのホテルのチケットが欲しかった。そのチケットでラブラブな一夜を過ごしたかった……それだけ(笑)。大地はまた罠にはまってしまったという……可哀想にねえ……最初から知っていたら協力なんかしなかったのに……。ふふ。
 このたびは、楽園殿堂入り記念などという身に余る光栄をいただき、このように記念が行えたことを本当に感謝致します。どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いしますね。いきなり真面目になる私……(汗)。

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