Angel Sugar

第2夜 「名執のインテリアリアマスターへの道」 (殿堂入り記念)

タイトル
 最近リーチが来ない……
 名執はカレンダーを見つめて溜息をついた。
 確かに暫く忙しくて連絡が出来ないと言っていた。今事件にかかりきりで連絡を取れないところに居るとも言っていた。その為名執は大人しくリーチからの連絡を待っていたのが、一向にかかってこないのだ。
 リーチが来ないと名執は暇で仕方がないのだ。悲しいことに趣味が無い。その上友達もいない。というより今まで人間が視界に入らなかったのだから仕方ない。病院でも他の医者と一緒に飲みに行ったり、ゴルフに行ったりも今までしたことが無かった。
 ただ単に煩わしいからだ。
 それが色々あり、今は恋人が出来た。それも不思議な恋人だ。隠岐利一は一つの身体に二つの魂が宿っている。そのうちの一人と名執はつき合うことになったのだ。
 名執はキッチンで御茶を飲みながらカレンダーをじっと見つめた、そのカレンダーはリーチの週に丸が打たれ、そのうちリーチが来た日は丸が塗りつぶされて黒丸になる。
 その黒丸が今月は一つも付いていなかった。
 ふう……
 まだつき合い出して数ヶ月だ。最初の一ヶ月はまあ頻繁に会えた。だがその後はなかなか会えなくなり、今回は全く会えない状況に陥っている。
 もしかして……
 このまま自然消滅なのだろうか……
 ふと不吉なことを考え、名執は何度目か分からない溜息をついた。
 リーチは今頃仕事で走り回っているのだ。恋人の私がこんな風に不安になっていたら申し訳ない。
 名執はそう思うことにした。
 だが暇だった。
 外科医は確かに忙しいが、刑事ほど休みが不規則なわけではない。一応決まった日にお休みをきちんと貰うことが出来、結構のんびり出来るのだ。
 今までその休みの日には何をしていたのだろう……
 名執はリーチとつき合う以前のことなどもう思い出せないのだ。
 どうやって時間を潰してきたのだろう……
 全く名執には思い浮かばなかった。
 ……ああ……
 分からない……
 キッチンテーブルに両手を伸ばし、上半身を横にする。すると冷たいテーブルの感触が頬にあたり、何となく気持ちよかった。
 明日も連絡が無かったらどうしよう……
 そんな風に思い名執は目を閉じた。

 翌日、病院に出勤した名執は看護婦の田村に本日の予定を聞いていた。その中で少し雑談が生まれ、何故か妙な話に発展した。
「え、恋人が仕事で忙しいときは何をしたらいいか……ですか?」
 田村は驚いた顔でそう言った。
「あ……ええ……別に……大したことでは無いんですけど……」
 名執は余りそう言う個人的な話しはしないのだが、この田村だけは違った。ややぽっちゃりした体型の田村は笑うととても気が休まるのだ。田村は二人の子持ちであり夫は自宅で仕事をしているという、共働きであった。
「先生も……恋人が出来たんですねえ。なんだか嬉しいですよ。そう言う浮いた話しなんか聞いたこと無かったでしょう?ちょっぴり心配だったんです。でも先生って……最近綺麗に……いえ、とても笑顔が似合う様になられて……あれ、恋人でも出来たかなとは思ってたんですよ。うふふ……でもその彼女はキャリアウーマンなんですね……」
 何か誤解しているのだが、名執は否定せずにただ笑った。
「あ、でも今の時代は、男の人がキャリアウーマンの彼女のために色々するって聞きますし……先生がもし動けるのなら、その忙しい彼女のために色々してあげると良いですよ。うちの旦那も私の為に色々してくれて……とてもありがたいと思ってるんです。男だからとか女だからじゃなくて、出来る方がなにかしらしてあげると良いんですよ」
 田村はのろけを半分織り交ぜてそう言った。
「……はあ……ですが、私は男性で……そう言うことは良く分からないのですけど……」
 名執はそう言って溜息をついた。
「仕事に疲れた人間はやっぱり安らげる所を求めるんですよ。それは男女とも言えることですけどね。だから先生が、ご自宅のマンションに彼女を呼ぶのなら、うちの中の雰囲気をこう、リラックスできるように、観葉植物を置いたり、カーペットの色を変えてみたりされたらどうですか?あ、先生も忙しい身ですから、無理なときはされずに、時間の空いたときにちょこちょこと室内を変えていけば良いんですよ。それで彼女が来られたら、きっとその雰囲気を見て、感激されると思いますわ。益々先生の株は上がりますよ」
 確かにリーチの仕事は殺伐としたものだ。安らげるうちにしてやるのが自分のつとめかもしれないと名執は思った。
 何よりそれが出来るのはリーチではなく名執の方だからだ。
 今暫く忙しそうですし……
 私が色々やってみましょう……
 名執はそう決心した日に書店に行くと、インテリアの本をごっそり買ってマンションに戻った。
 
 あちこち本を読みまくり、名執はとりあえず、壁の色から攻めることにした。ただの白い壁を薄い黄色にすることにしたのだ。それは自分で出来なかったため、業者に入って貰い、内装の壁をあちこち変えた。
 次にカーペットとカーテンだった。こちらは専門の業者に見て貰い、部屋によってカーペットの色とカーテンを同色にし、部屋事に色々雰囲気を変えるように業者に選んで貰って変えた。
 観葉植物も欲しいですね……
 大体内装を終えた名執は、また休みの日に大型園芸店に行くと、部屋の写真を撮った写真も一緒に持ち、それを見ながら自分の気に入った観葉植物を沢山選んだ。
 それは楽しい作業だった。
 観葉植物を入れ終わると、今度は絵が欲しくなった。
 トイレとか小さな絵があるといいですよね……
 あと……
 リビングにも温かい感じの絵が欲しい……
 キッチンテーブルのクロスも変えたい……
 ああ……
 色々変えないと……
 もう名執、楽しくて仕方がなかった。
 どれもこれもリーチの為だと思うと、楽しくて仕方ないのだ。今まで内装を考えたことなど無かった。高いマンションに住みながら、別に気にならず、適当に必要なものだけそろえて住んでいたからだ。
 リーチとつき合うようになって、ベットは大きいものに変えた。それと人が一人増えた分の食器を買うくらいで後は何もしていなかったのだ。
 田村に言われて初めて自分のマンションの中を改めて見る機会が出来たが、確かに何となく殺伐としているような気がしたのだ。
 もっと温かい感じにしたい……
 リーチがホッと息をつけるような……
 いつでもここに来たいと思うようなうちにしたい……
 名執はただそれだけの気持ちに突き動かされ、散々あちこち手を入れて内装を終えた。
 それに合わせたようにようやくリーチから連絡が入り、名執はもう嬉しくて仕方がなかった。何より内装を全てやり終えた後であったため、余計にそう思ったのだ。
 リーチは……
 何て言ってくれるだろう……
 ああもう……
 ドキドキしてきた……
 そんな気持ちで名執は朝から気分を高揚させながらリーチを待つことにした。その日は名執は休みであったため、朝から名執は夕食の献立を考えることに一日費やすことにしていたのだ。
 何が良いだろう……
 リーチは何でも食べてくれるし……
 あ、でも、包丁を余り使わない料理にしないと……
 そうなると何が作れるだろう……
 う~ん……
 名執は料理の本をあちこち見ながら悩んでいた。すると昼過ぎにリーチがやってきた。
 珍しい……
 驚きながらも名執は玄関にリーチを迎えに出た。
「今日はさ……早く終わったんだ。色々忙しくて休み貰えなかったし……」
 リーチはそう言って靴を玄関で脱いだ。
「そうですか、お疲れさま……」
 名執は疲れた顔をしているリーチにスリッパを薦め、ニッコリと笑った。その名執にリーチも笑みを浮かべたが、暫くすると視線をあちこちに向けた。
 あ……
 少し変わったことに気が付いた?
 リーチはどう言ってくれるのだろう……
 名執は聞きたい気持ちを抑え、リーチが言ってくれるのを待ったが、期待するような言葉は無かった。
 ……気に入らなかった?
 それとも気付かなかった?
 一応リーチは周囲を見ていたが、本当に内装が変わったことに気が付いたのか迄は名執も分からなかった。
 気付かなかったんだ……
 玄関の方はそれほど手を入れていないし……
 変わったと言えば……
 玄関の明かりくらいで……
 そんな風に思いながら名執は大幅に変わったリビングにリーチを案内した。
 ここなら……
 直ぐに分かりますよね……
 ソファーに座ったリーチに名執は「御茶を入れてきます」と言って直ぐ隣りに見えるキッチンに入った。リビングとキッチンは繋がっているのだ。
 キッチンから名執はチラチラとリーチの様子を伺った。するとリーチはあちこちキョロキョロして、何故か妙な顔をして俯いた。その妙な顔の意味が名執には分からなかった。
 き……
 気に入らない?
 もしかして……
 リーチは気に入らないのだろうか?
 何が?
 壁の色?カーテンの色?床カーペットの色?ソファーも変えたが、座り心地が悪いのか?もしかして……観葉植物嫌いだったとか?アレルギーがあるとか……
 もう名執色々考えすぎて、入れている御茶が湯飲みから零れていることに気が付いていなかった。
「ユキ……零れてる……」
 いきなりリーチに言われた名執はようやく我に帰った。
「あっ……あ、そ、そうでした……済みません……」
 急須を下ろし、名執は零れた御茶を布巾で拭いた。その間、リーチはキッチンの方キョロキョロと眺め、次に名執の方をじっと見つめてきた。そのリーチの表情は困惑したものだった。
 ……
 何か……私は……
 とてつもない間違いをしたんでしょうか?
 違うドキドキを名執はしながら、リーチに聞くに聞けず、黙り込んでしまった。
「あ……じゃあ……俺……あっちに戻るから……」
 リーチはそう言ってまたソファーのあるリビングに戻っていった。
 私……
 余計なことをしたのでしょうか?
 リーチにとって嫌な雰囲気の場所になった?
 業者の人は落ち着いた感じがして良いって言ってくれた……
 でも……
 違ったんだ……
 どうしよう……
 名執はショックで仕方がなかった。失敗したことで、どう取り繕って良いのか分からないのだ。
 何とかお盆に湯飲みを乗せ、名執はリーチの座るソファーの所まで運んだ。そうして、お盆を机に置いた。
「……お、お茶……入れましたけど……」
 言葉がいつの間にかカクカクとしている。心の動揺がこんな所に出ているのだろう。
「ありがとう……」
 リーチはニッコリ笑って差し出した湯飲みを受け取った。だがその笑みが何だか強ばっているのを名執は見逃さなかった。
 ……嘘……
 何だかやっぱりリーチ変だ……
 私……
 やってはいけないことをしてしまったのかも……
 こうなると名執はリーチの方を見ることが出来ず、視線を逸らせたまま、言葉を失った。
 暫くするとリーチが沈黙に耐えられなくなったの様であった。
「あのさ……聞いて良いか?」
「……な……何ですか?」
 ようやく名執の顔も少し上がる。
「……もし、俺じゃなくて……他に誰か出来たなら……その……いいんだ。言ってくれよ」

 他に誰か出来たなら……

 って、どういう意味なんですか?
「……え……ええ?」
 名執はリーチの言った言葉が理解できなかった。
「……つうか……まあ……俺も……その……連絡しなかったし……悪かったよ。ま……それが駄目だったんだろうけど……。なんていうか……俺も、色々考えて……俺、自分の都合でお前振り回していたから……、ユキに悪いと思ってさ。だから連絡控えてたんだ。それが……こんな事になっちまうとは思わなかったよ……。別に俺、言い訳してるわけじゃないんだ。俺がユキに寂しい思いさせてたんだから、仕方ないんだよな……」
 言ってリーチは苦笑した。
「……あの……私は……リーチが何を言っているのか分からないんですけど……」
 おどおどと名執はそうリーチに言った。
「お前もさ、新しい奴が出来たんなら、さっさと言えよな。……言ってくれてたら俺……ここには来なかったのに……」
 誰に誰が出来たとリーチは言っているのだろうか?
 名執は突然なことに全く思考が働いていなかった。
「……まあ……こういうのって……自分からなかなか言えないよな……。お前から連絡が無い時点で俺も分かったら良かったんだ。いや……何となくそんな気はしてたんだけど……、俺自分で確かめないと気が済まないタイプだからさ。まあ……ここ暫く悶々と考えてたことにケリが付けられたから……それでいいよ。あ、俺……帰るわ……。もう来ないから……」
 言ってリーチは立ち上がった。
「……り、リーチ?あの……私……貴方が言っていることが理解できないんですけど……。もう来ないって……。私のこと……嫌いになったんですか?」
 自分の何が悪かったのか名執には全く分からないのだ。もしかすると家中をリフォームされて気に入らなかったのかもしれない。いや……それが問題なのかどうかも、混乱している頭では考えられないのだ。
 たった一つ分かっていることは、リーチが二度とここに来る気は無いと言うことだった。そして、これが俗に言う「さよなら」なのだろう。
 リーチは名執に興味を失ったのだ。
 そんな……
「はあ?」
 名執の言葉にリーチが、目を丸くして驚いていた。驚いているのはこちらなのだが、リーチもなにやら酷く驚いている。
「あの……部屋の改装が気に入らなかったのなら……その……全部元に戻しますから……。あ……でも……そんな事で普通私のことが嫌になったりしませんよね……。じゃあ……ただ単に……私のことなんかもう……。だ……だから連絡も来なかったんですね……。なんだ……そう言うことだったのですか……」
 言いながら名執は涙が零れ落ちた。
 退屈な自分に飽きるのは仕方のないことなのだろう……。元々時間の問題だったのだ。それが早いか遅いかの違いで、リーチはいずれ趣味もない、話していても楽しくない名執に飽きたに違いないのだ。
「……何、言ってるんだ?」
 益々リーチの驚いた表情は深くなる。
「私のことなんかもう興味ないんですよね……あ、良いんです……私……そんな面白みのある人間じゃないですから……。リーチもこんな私を相手にするの……退屈だったでしょう……。わざわざ来てくださらなくても……良かったのに……。あの……もう……無理しなくて良いんです。帰って下さっていいですよ……」
 先程差し出した湯飲みをお盆に乗せながら名執は言った。その間も言葉とは逆に涙だけがポロポロと机に落ちていく。
 泣いたら駄目だと思うのだが、自然と零れ落ちる涙を止めることが名執には出来なかった。
「……聞いて良いか?」
 リーチがぽつりと言った。
「……はい……」
「まるで別のうちみたいになってるこの改装はどういう意味なんだ?」
 頭を掻きながらリーチは言った。
「…仕事でギスギスしたリーチの気持が……ここに来て少しでも和やかな気持になってくれたらと……そう思って……。色々してみましたが……失敗だったんですね……」
 名執は淡々と言った。
 何もしなかったら良かった……
 以前のままにしておけば……
 リーチとの関係も以前のままだったのかもしれないのだ。
 名執の後悔は止まるところを知らなかった。
「え?」
「でも……もう良いんです。済みません……その……気に入らないことしてしまっ……」
 そこまで言って名執はもう声が出なかった。変わりに涙だけが、大量に流れ落ち、言葉など出なくなったのだ。
「ユキ……う~わ……ごめん……っ!」
 リーチはそう言って慌てて名執の側に近づくと、床に膝をついて、お盆を持ったまま泣いている名執の身体を抱きしめた。
「……い……いえ……もう……良いんです……。帰って下さって……良い……」
 小刻みに震えながら名執はひたすら涙を落とした。
「ごめん……ごめんって……俺……勘違いしてしまって……。なんか部屋の様子変わってるし……、これは別に誰か出来て……そいつの趣味にあわせて模様替えしたんだと……。そういう勘違いしてさ……。だってお前に部屋の模様替えする趣味なかっただろ?だから……部屋をリフォームするのが好きな男が出来たんだって……。だってお前から連絡入らないし……俺も……その……あああもうう……ごめんっ!とにかく俺が悪かった。謝るから泣くなっ!」
 え……?
 何……?
 私に誰か出来たって……
 ぐすぐすと鼻を鳴らして名執はリーチの腕の中で動き、リーチの方を向くと、申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。
「……あの……私に誰が出来たって……」
「いや……だから……出来たって俺が勘違いしたんだ。だからその……悪かったっ!」
 言ってリーチはまた名執に回している腕に力を入れた。その為、名執の身体はリーチに密着した。
「……勘違い?」
 まだ名執は要領をえない。あまりに事に事態を把握できないのだ。
 私が悪いんじゃない?
 リーチが勘違いしていた?
 部屋を改装したから?
 普通改装をしたらそんな風に思うのだろうか?
 分からないけど……
「俺が悪かった。本当に悪かった……。だから泣かないでくれよ……」
 名執を抱きしめたまま、リーチは頭を撫でさする。その仕草が名執にはとても心地良かった。
「……普通……その……うちの中を改装すると、そんな風に考えるんですか?」
 恋愛経験のない名執には、普通どう考えるかが分からないのだ。
「……いや……その……そんな事無いと思うけど……。なんて言うか……、お前から連絡入らないし……。来たらこんな事になってるし……俺が誤解しただけで……」
 もにょもにょとリーチはそう言って言葉を濁した。
「……リーチが仕事中は連絡したら駄目だって言いましたよね?もちろん、リーチの仕事内容上、私が電話をかけてはまずいときもあると思いましたし……だからリーチの連絡を待っていたんです。それが駄目だったんですか?じゃあ……その……どうしたら良いんでしょう?」
 名執が電話をしなかったのは、つき合うときにリーチから約束させられた事を、言われた通りに守っていただけなのだ。
 何度もかけたいと思った。携帯の番号は聞いていたが、リーチ達の仕事はどんな場面にいるか分からないのだ。もしかけたとして、現場検証などしているときなどにブチ当たると、迷惑がかかる。
 それを分かっていたから名執はリーチからかかる連絡をいつも待っているのだ。
「あ~……そ、そうだったよなあ……」
 言いながらリーチは苦笑した。
 笑い事じゃないんですけど……
 だったら私はどうしたら良いんでしょう?
「会えなくても……声が聞きたいと思ったら……電話をかけて良いんですか?」
 そう名執が言うとリーチはコクコクと頷いた。
「……でもリーチが迷惑な時もあるでしょう?そんな時にかけて……ご迷惑がかかりませんか?」
 じっとリーチを見つめて名執が言うと、リーチは笑った。
「うん。まずいときもあるかもしれないけど……そう言うときは分かるような会話にするから……その……俺……お前からもたまには電話……欲しいな……」
 照れ臭そうにリーチはそう言い、今度は鼻の頭を掻いた。
 電話……
 リーチも欲しかったんだ……
 良かった……
 時々は私もかけてみよう……
 嬉しい……
 会えなくても声を聞きたいことは今までに何度もあったのだ。だからリーチのその言葉が名執にはとても嬉しかった。
「……あの……私、誰かとおつき合いをするのはリーチが初めてで……だから……どうして良いか分からないときがあるんです。もし……私に何か嫌な所とか不満に思うことがあったら……その……はっきり言ってください。直します。その代わり……私のことを嫌わないでください……」
 名執は言い終えるとリーチに自ら腕を回して抱きついた。その温かいリーチの胸元に頬を擦りつけ、ようやくホッと胸を撫で下ろした。
 嫌われたんじゃなかった…… 
 良かった……
 何もいらない……
 この温かい場所があれば私は他に何も望まない……
「……うん……。でも俺……お前に不満なんかこれっぽっちも無いよ」
「……リーチが今度来るまでに、うちの中を元通りにしておきますね……」
 名執が小さくそう言うと、リーチは慌てて言った。
「いや……いいんだ。俺……このうち今の方が好きだ。ホッとするよ……だから元通りになんかしなくて良いから……。折角ユキが頑張ってこんな風に色々俺のためにしてくれて嬉しいんだ。俺の為だって分かったことだしこのままにしておこう……。いや……このままにしておいてくれよ……」
 リーチは言って嬉しそうにこちらを見つめる。だが名執は納得できないでいた。
「……?リーチは結局何が気に入らなかったのですか?」
 名執の恋愛は始まったばかりだった。

―完―
タイトル

この二人に関してはいきなり、強固な付き合いをしているので、最初はこうだったのだというのを書きたかったんですよ。こんな時代の二人も?? あったのですねえ……あはは。つきあい始めの頃の名執ってやっぱりどこかずれている(笑)。まあうちのキャラは結構みんなどことなくずれていますけど、こんな名執も可愛いんではないかと……結構苦労したんだねリーチ……(爆笑)
 このたびは、楽園殿堂入り記念などという身に余る光栄をいただき、このように記念が行えたことを本当に感謝致します。大変遅くなりましたが、どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いしますね。

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