Angel Sugar

第3夜 「宇都木のビジネスマスターへの道」 (殿堂入り記念)

タイトル
 問題は如月がある女性をエスコートすることが決まってから起こった。アメリカの東都と取引のある日本大手グループ企業の取締役の一人娘が観光のために日本に来ることになったのだ。もちろん如月は面識があった。あちらでホームパーティに呼ばれたりする間柄だ。
 元々如月はアメリカ支社で働いており、日本へは新しいプロジェクトを立ち上げるために東都の上層部から呼び戻された。その為、アメリカにも友人、知人が多かった。
 女性の名前は高畑美和子。一時期怪しいのではないかと宇都木は疑った事がある相手だった。
 だが美和子の方は当然のごとく宇都木の事は知らない。
 美和子は日本人形のような豊かな黒髪に、印象的な瞳を持っていた。日本人とは思えないバランスの取れた体型は、出るところが出て、締まるところは締まり、その下に伸びる細く長い足は男性の欲望を駆り立てるのに十分なものだった。
 その美和子の父親である取締役は、既に家族と共にアメリカに移住しており、今回日本を懐かしんだ美和子が一人観光にやって来るのだという。
 そのお相手に、如月に白羽の矢が立てられたのだ。まず面識がある。一番重要なことは美和子から如月を指名してきたことだ。
 嫌な予感がする……
 机で電話をしている如月の方をチラリと見た宇都木は気分が落ち込むのが分かった。
 駄目だ……
 こんな事を気にしては……
 如月に向けていた視線をパソコンに戻し、自分の仕事に専念しようと思った宇都木であったが、如月に声をかけられたことで一旦外した視線をまた如月に向けた。
「宇都木、この間言った、ほら、高畑美和子さんのことだか、明日こちらに来るらしい。十時頃成田に着くらしいんだ。予定ではもっと先だと聞いていたのが早まったそうだ。それで、悪いが、今日中に都内見物に限定して若い女性が楽しめるようなプランを立てて置いてくれ。今持っている仕事は、急ぎ以外は後回しにしてくれていい。本社からの至上命令だそうだ」
 はははと笑いながら如月は受話器を下ろした。その如月に別段特別な感情は見えなかった。
「わかりました……」
 表情は秘書の顔で如月には答えた。だが宇都木は複雑だった。
 私がプランを立てる……
 当然のことなのだが、なんだか理不尽な気持になった。それでも宇都木は明日来るという美和子の為のプランを練ることにした。
 これが秘書の努めだった。
「如月さん、そろそろ蔵原氏の会社に向かわれた方がよろしいかと……」
 宇都木はパソコンのキーを叩きながら、毎朝頭にたたき込む如月の予定を空で口にした。
「……あ、そうだな。じゃあそろそろ出るか……」
 如月は椅子から腰を上げ、スーツの上着を羽織った。
 いつ見ても如月がスーツをきっちり着こなした姿はほれぼれする。宇都木はそう思いながらチラチラと如月の方を見ていた。そんな視線になど気が付かない如月は、いつものように宇都木のテーブルの前を通り過ぎ、部屋の扉の前まで歩いた。
「宇都木……」
 扉に手をかけた如月がそう言って振り返った。
「何でしょう……」
「予約を何とか取って欲しいんだが、明日の晩、小型飛行機で新宿の夜景を楽しめるコースと取ってくれ。忘れられない、素敵な夜にしてやりたいんだよ……」
 嬉しそうに如月はそう言うと扉を開けて出ていった。

 忘れられない素敵な夜……

 その言葉が宇都木の頭の中を何度も廻っていた。
 新宿の夜景を小型飛行機で見るのはさぞかし良い気分に違いない。ムードもあるのだろう。あのコースは恋人達に人気なのだ。成人なら夜景を見ながらアルコールも飲める。
 美和子は魅力的な女性だ。宇都木の印象では頭はそれ程賢くはなさそうなのだが、女としての色気がたっぷりある。
 邦彦さん……
 本社からただ観光につき合えと言われただけなのだろうか……
 それ以外もあるのかも?
 だがホテルを取れと言われたわけではない。これで赤坂にある某ホテルのスイートでも取れと言われた日には落ち込みもマリアナ海溝級だろう。
 駄目だ……
 私は秘書なんだから……
 たとえ、如月がホテルのスイートを取れと言うなら、宇都木はそれに従うしかないのだ。嫌だとは仕事上言えない。
 それは例え恋人であっても嫌だと言ってはならないことなのだ。
 言われなくて良かった……
 ホッとしながら、ただの観光案内だと心に言い聞かせた宇都木は、楽しめそうなプランを立てるために、インターネットに繋ぐと、各種いろんな都内の見所を探すことに努めた。
 あまりムードが盛り上がらない方がいい……
 ふとそんな気持が心を掠めた所為か、大人が遊ぶという場所とはほど遠いプランが出来上がってしまった。
 だが必死にプランを立てている宇都木には気が付いてなかった。

「宇都木……なあ……」
 打ち合わせから帰ってきた如月が、宇都木が作ったプランを見ながら言った。
「何か?」
「この予定表なんだが……冗談じゃないんだな?」
 困惑したように如月はプラン表を視線から外した。
「え?どうしてですか?」
「……東京タワーはいいとして、この……蝋人形の館はなんだ?」
「……はあ……」
 何となく不気味で楽しいかなあと……
「それと、もうひとつ……ナンジャタウンって……なんだ?」
 如月はナンジャタウンを知らなかった。
「……そのう……楽しいところだそうなんです……インターネットで調べたのですが……」
「……まあ……楽しいなら良いが……。蝋人形はおいてだ、東京タワーは駄目だ。あれは上に登ると今度は足で下りないといけないだろう。お客様にそんなことはさせられない」
 確かにあまり足を使わせるのは良くないだろう。
「分かりました。変更しますね」
 宇都木はそう言って笑った。
「で、ナンジャタウンの後のジョイポリスってなんだ?」
 如月はそこも知らなかった。
「アミューズメントパークだそうです。良くは分からないのですが……楽しいらしいんです。若い女性だそうですので、楽しめることを第一に考えたのですが……」
「……お前がそう言うなら……楽しいんだろう……」
 納得できないような顔で如月は頭をかいた。
「遊びばかりだな……。たまにはいいか……。それとな品のいい喫茶店も探して置いてくれよ。昼食はオープンカフェが良いだろう。あとディナーなんだが、食に煩い女性だから、有名どころを探して置いてくれ。ああ、出来たら、懐石がいい」
 食に煩いとはなんて贅沢な女性なのだ。お腹が一杯になれば何だっていいのだとどうして思わないのだろう……と、宇都木はややむかつきを覚えたが、もちろん顔には出さなかった。
 秘書は文句を言ってはならないのだ。
「分かりました。一流どころを探しておきます」
 宇都木は感情無くそう言った。そんな宇都木の様子を如月は当然のごとく全く気づかず、スーツの上着を脱ぐとハンガーに掛け、窓際にある自分の席に着き、留守をしていた間に届いた連絡のメモを読み、急ぎから電話をかけていた。
 その姿から視線をプラン表に戻した宇都木は、駄目だと言われた東京タワーの所に何を入れようかと思案した。
 どうしよう……
 他に都内で見られるものがあったかどうか……
 都内に限定するから面白いものが無いのだ。浦安まで行けるのなら、ディズニーランドもあるだろうし、その隣に今度出来た新しいシーディズニーがある。大抵の日本人はあそこに遊びに行くのだ。もちろんその分、もの凄い人が溢れているだろう。
 お客様を案内するには不適当だ。
 だが考えてみると、人気のあるところは人が集まって当然なのだ。それをあまり人が溢れていないいないところで楽しめるところを考えると余計に難しくなる。
 それと、ムードが盛り上がらないところで考えないと……
 宇都木はそれだけしか頭になかった。そんな自分を自覚していない。
 東京タワーが駄目なら、ピューロランドはどうだろう……
 そう思い、名前だけしかしらないアミューズメントを調べるとこちらは却下することになった。
 大きな猫がリボンをつけた着ぐるみに迎えられても如月が不機嫌になるのが分かっていたのだ。
 キティちゃんって……
 何でしょう……
 宇都木はサンリオのキティなど知らなかった。
 でもなんだか楽しそう……
 よくよく調べてみると、このキティ、若い女性に人気だそうだった。携帯を入れる入れ物からトースターまでキティの絵柄のもので溢れていたのだ。
 若い女性に人気って……
 じゃあ良いのかも……
 如月が例え嫌であっても、ゲストの女性を喜ばせるのが第一だろう。ならこのピューロランドはなかなかどうして良いのかもしれない。
 ここに決めましょうか……
 ニコニコとしながら宇都木は先程作ったプラン表の東京タワーと打ち込んだ部分を消し、ピューロランドと打ち込んだ。
 なかなか楽しい一日になるはずですね……
 ムードは置いて……
 思わず口元に笑みを浮かべていると、如月の声がした。
「なんだ……何が楽しい?」
「えっ……いえ……明日のプランを作るのが楽しいんです……」
 そう宇都木が答えると、如月は立ち上がりこちらの席にやって来た。
「東京タワーを外して何を入れたんだ?」
「ピューロランドと言うところです」
「なんだそれは?また知らない名前が出てきたぞ……」
 更に困惑を深めた如月が言った。
「若い女性に人気だそうです。ゲストの方をまず喜ばせるプランを考えるのが私の役目ですから……」
 胸を張って宇都木は言った。
「……お前がそう言うなら……」
「如月さんはゲストを楽しませることだけを考えて下されば良いんですよ……」
 宇都木はまた表情を戻してそう言った。
「そうだ宇都木……忘れていたんだが……」
「何でしょう?」
「明日の宿泊先は赤坂にあるホテルのスイートを取ってくれ」
「え?」
 宇都木が顔を上げると如月は既に席に戻っていた。
 邦彦さん……
 それって……
 貴方も一緒って事ですか?
 そこまでゲストの面倒をみなくてはならないのですか?
 喉元まで出た言葉を宇都木は飲み込んだ。
 私は秘書なのだ……
 仕事上の事で何も文句は言えない……
 宇都木はいつもそう言い聞かせている言葉を自分の心の中で繰り返し、憂鬱なままホテルへ予約を取る電話をかけた。

 自宅に如月と共に戻った宇都木であったが、昼間如月に言われたことがずっと心の中で渦巻いていた。
 邦彦さんは……
 明日……
 リビングでくつろぐ如月を眺め、宇都木は複雑な気持ちでいた。
「未来……?どうした?何故つったっているんだ……」
 如月の視線は宇都木に向けられていた。
「え、あ……いえ……ちょっとぼんやりして……」
 言って宇都木は如月の座るソファーの隣に座った。
「そうだ……明日来る美和子の事だけどな……」
 呼び捨てにしている相手の話など宇都木は聞きたくなかった。そうであるから思わず宇都木は如月の唇に自分の唇を重ねていた。
「……宇都木……?」
 如月の方が宇都木の行動に驚いていた。
「邦彦さん……」 
 宇都木は如月の膝をまたぎ、座り込むと再度唇を重ねる。そんな宇都木に如月は何も言わず両手を廻し、自分に引き寄せた。
「……ん……んん……」
 何度も口元を合わせキスを繰り返した。その間に如月は宇都木のパジャマを捲り上げ手を差し入れた。
「あっ……」
 宇都木は小さな声を上げ、如月の愛撫に酔った。
「おい……良いのか?平日だぞ……」
 含み笑いのこもった声で如月はそう言った。
「今晩は……良い……」
 薄く息を吐き出し、宇都木は如月にしなだれかかる。すると宇都木の背で動いていた如月の手が前に回り薄い胸元に這わされた。
「……あっ……」
 宇都木が胸元を仰け反らせるとぷっくりと立った二つの突起が前に突き出され、それを待っていたかのように如月の口が吸い付いた。
「……ああ……」
 如月の両肩にそれぞれ手を置き、宇都木は腰元を押しつけねだる仕草を見せた。
「未来……」
 興奮した瞳を宇都木に向けてくる如月を見返し、その青い瞳に写る自分を宇都木は眺めながら如月の頬に舌を滑らせた。
「邦彦さん……好き……愛してる……」
 呟くように宇都木はそう言って身体を隅々まで渡る快感を味わっていた。こうやって身体を如月に触れさせているときだけ、宇都木は安心できるのだ。
 如月の手は宇都木の茂みを掴み、それを指先で絡めながら弄ぶように指を回転させた。
「や……」
「嫌?お前から誘ってきたんだぞ……」
 クスクスと笑いながら如月は更に指をくるくると回転させる。すると敏感な部分がつっぱり宇都木はその小さな痛みに悶え腰を振る形になった。
「……やっ……あ……」
「色っぽいな……未来……」
 もう片方の手で、如月は下のズボンを膝まで引きずり下ろし、日に当たらない太股を露わにさせる。するとうっすらと湿った下着までも眼下に現れた。
「や……恥ずかしい……」
「今更……?」
 茂みを絡めていた指を離し、如月は湿っている下着の上を撫で上げてきた。一番敏感な部分に触れられた宇都木は太股を小刻みに震えさせた。
「……あ……」
「感じてるか?私に……?未来……私も感じてるよ……お前のその姿に……」
 宇都木の唇を咬みそのまま舌を這わせると、如月はうっとりと言った。
「あ……感じてる……貴方の膝に乗っているだけで……もう……」
 熱い息を吐き出し、宇都木は言う。
 如月の腰元が盛り上がっているのが、座り込んでいる太股にピクピクと先程から当たっているのだ。
 邦彦さんが……
 私を求めてくれている……
 ああ……
 もう……
 早く欲しい……
「邦彦さん……早く……もう……」
「せっかちな奴は後で酷い目に合うぞ……」
 含み笑いをしながら如月は宇都木の腰に手を回しそのまま後ろに廻すと割れた双丘の間に指を滑り込ませた。
「あっ……あ……」
 窄んだ部分に指先が触れ、宇都木は身体を前に倒した。その宇都木の額に如月はキスを落とす。
「ここが……好きなんだろう……」
 親指をねじ込まれ、宇都木は呻き声を上げた。
「や……あっ……」
 入り口付近を何度も抉られ、宇都木は声を上げた。だが短すぎる親指では触れて欲しい所には届かない。
 身体だけがじれ、煽られた下半身から熱い波が上半身へと波打ってくる。それは宇都木自身をくまなく覆い尽くす。それでも足りない刺激に宇都木は涙をおとした。
「邦彦さん……もっと……もっと奥に……」
 腰を動かし、宇都木は身体を揺らし必死に如月に訴えた。
「あっ……あ……だめ……もっと……」
 ちゅくちゅくと粘着な音が聞こえるのだが、身体を貫く程の快感は音ほど身体を気持ちよくはしてくれないのだ。
「は……や……くっ……」
 涙でぼやける視線の先に如月は笑みを浮かべている。それは時に残酷に思えるほどの笑みだ。
「未来……おいで……」
 腰のラインを指が這い、腰骨付近で止まる。そこを掴み如月は宇都木の腰を落とさせた。
「……んっ……」
 いつの間に勃ちあがっていたのモノの切っ先が、溶けた宇都木の部分に当たった。その感触に宇都木は迷わず腰を落とした。
「はっ……あ……っ……」
 如月のモノを内側に取り込みながらも収縮を繰り返す自分の内部が悦びに溢れている。
「未来……っ……すごい……」
 目を細め額にうっすらと汗をかいている如月も宇都木に感じているのだ。それが酷く宇都木には嬉しかった。自分の身体すら、如月を喜ばせるものになれるのが嬉しいのだ。
 ああ……
 邦彦さんも喜んでる……
 嬉しい……
 私も……
 嬉しい……
「はあっ……あ……」
 悦びの声を上げ、突き上げられる快感を身体に取り込みながら宇都木は何度も喘いだ。
 以前はリビングでするのが嫌だった。だが今ではもうそんなことはない。一緒にいるのが如月だからだろう。それも宇都木を愛してくれている如月なのだ。
 だが……
 フッと快感に流されそうになる頭の中に明日のことが浮かんだ。
 明日は……
 こんな風に美和子さんを抱くのだろうか……
 嫌だ……
 そんなの……
 でも……
 仕事だから……
 それも仕事なのだから仕方ないのだ。
 私は秘書だからそれくらい耐えなければならない。
 恋人というのは秘書の次だ。
 きっと邦彦さんも半分は嫌なはず……
 そうですよね……
 快感の目を如月に向けながら、宇都木は心の中で問いかけた。だが如月の表情から、それらは分からなかった。
 もし……
 今晩疲れるほど繋がったら……
 明日はそんな気分にならないかもしれない……
「未来……あ……すごい……」
 何も知らない如月は宇都木の中で快感を味わい、何度も動かされる腰を撫で上げていた。
「強く……突いてっ!」
 宇都木がそう言うと、如月はその通りに腰を突き上げてきた。一番深い部分に何度も如月の雄は当たり、宇都木はその度に声を上げた。
「あっ……ああっ……はっ……あ……ああっ……」
 何度も突き上げられ、宇都木はイった。もちろん、如月の方も宇都木の中で欲望を達した。それはまだ宇都木の内部にあり、ビクビクと動いているのが分かった。
「ああ……未来……どうしたんだ?」
 如月は言って身体をずらそうとしたが、宇都木はそれを許さなかった。
「まだ……まだ駄目です」
「……未来?」
「私……」
 私は秘書ですけど……
 やっぱり嫌です……
 だから……
「どうした?満足できなかったのか?」
 苦笑しながら如月はそう言った。
「まだ……足りないんです……貴方がもっと欲しい……」
 力を失った如月のモノを内側に入れたまま、宇都木は腰を動かした。
「……ああ……そうか……いいぞ……」
 欲望に駆られている青い瞳は、宇都木に自信を持たせた。
 何度でも……
 貴方が疲れてしまうまで……
 私は貴方と繋がって良い……
 だって……
 私……
「ひっ……」
 ギュッと如月に自分のモノを捕まれて、宇都木は腰を引きかけた。だが如月の手によって引き戻される。
「お前が良いって言ったんだからな……」
 その如月の言葉に宇都木は満面の笑みで応えた。

 翌日、ダメージが酷かったのは宇都木の方だった。当然と言えば当然なのだろうが、とにかく腰が痛い。いや、口では言えない部分がとにかく痛かったのだ。
 如月と言えば、どうしてこんなに元気なのだろうと言うほど全開だった。
 邦彦さんって……
 昨日より元気なのは何故ですか?
 訝しげに朝から元気な如月を見ると、親しげに電話向こうの人と話をしていた。
「ああ、そうか……分かった。とりあえずそっちも廻るから……いや……そんなことは気にするな……。誰も分からないだろう……」
 誰も分からないって……
 何の話なのだろう……
「宇都木、そろそろ迎えに出る。後は頼んだぞ」
 如月は電話を終え、そう言ってスーツの上着を羽織った。
「ええ……後はお任せ下さい」
 言って宇都木は本日のプランを如月に渡した。それを受け取った如月は二つに折り畳むと鞄に入れた。
「行ってらっしゃいませ……」
 宇都木が言うと、如月は足取り軽く出ていった。
 何故……
 何故あんなに元気なんですか?
 あれじゃあ……
 私が考えたことなど水の泡ですよね?
 肩を落としながら宇都木は椅子に座り直したが、また痛みを感じて飛び上がりそうになった。
 私って……
 もしかして余計なことをしたのでしょうか?
 あんなに元気にしてしまうなんて……
 何度繋がったか分からないほど、私たちは昨日の晩……
 それで……
 私はボロボロであの人は信じられないくらい元気……
 なんだか……
 悲しい……
 宇都木は自分の考えたことの浅はかさを呪った。
 私は秘書なんだから……
 どうあがいたところで仕方ないのだ。
 涙が盛り上がるのを必死に堪え、宇都木はゆるゆるとキーボードを打ち出した。

 昼少し前に如月から外線が入った。
「……どちらにいらっしゃるんですか?」
「今、パチンコしてるよ」
 はははと笑う如月のバックは確かにパチンコ店独特のざわめきがあった。
「ぱ……パチンコって……ゲストの方をそんなところに連れていったのですか?」
 宇都木は信じられなかった。自分の作った予定表はどうなったのだ?
「……いや……実はな、私は囮なんだ。美和子には好きな男が日本にいてね。その人とは反対されているからなかなか会えないんだ。それで私が案内するという名目で空港まで迎えには行ったが、後は彼氏に引き渡したんだ。ああ、お前が作ってくれたプランは渡して置いたよ。喜んでいたよ。それでな、そんな事情だから、私も会社に帰られなくてね。暇つぶしにパチンコをしてるんだが……昼飯一緒に食わないか?」
 名目……
 彼氏がいる?
 一体……
 どう言うことなんですか??
 宇都木は目が点になったまま如月の声が耳に入らなかった。
「おい、聞いているのか?」
「そ、そう言う事をどうして話して下さらなかったのですか?」
「会社では不味いだろう……だからうちで話そうとしたが、ほら……お前に誘われたからな……。そのまま抱き合ったから機会を逃したというか、もう……お前の誘いに私も乗せられてしまったから……ははは。いや……お前が乗ったんだったな……はは」
 邦彦さん……テンションが……高い……
 それを先に知っていたら……
 私はあんな事……
 かああっと頬を赤らめながら、宇都木は言った。
「……わ……分かりました。何処で待ち合わせをします?」
 宇都木は誰もいないオフィスで暫く一人で顔を赤らめながら、脱力した。



 数日後、例のプランを渡したカップルの彼氏の方から連絡が如月に入った。
「童心に戻って楽しめたと言ってたが……どういう意味なんだ?」
 如月は怪訝な顔で宇都木に言った。
「分かりませんが満足して頂けたのですね」
 宇都木はそれが誇らしかった。
 有能な秘書だと思われるのが宇都木にとって日々の喜びだからだ。
「今度、俺達も回ってみるか……」
 如月は何も知らずにそう言った。もちろんよく分かっていない宇都木もにこやかに頷いた。

―完―
タイトル

自分で書いてなんだか笑えてしまったのがピューロランド。それに各種アミューズトパークですが、場所とかいまいちわかっていないので、苦情はなしでお願いします。ちゃんと行ったのはジョイポリスくらいだからなあ……ううん……がく。適当なのもここまで来たら笑ってもらえるだろう……あはは。
 このたびは、楽園殿堂入り記念などという身に余る光栄をいただき、このように記念が行えたことを本当に感謝致します。どうもありがとうございました。今後ともよろしくお願いします~!! 本当にありがとうございました!! 再度の感謝を皆様に送ります。

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