おでこの まえに 手(て)を かざして、
とおくの 声(こえ)の ほうを よーくみると、
森(もり)のなかの こみちを、
ふうちゃんが、歌(うた)いながら あるいている。
まあるい ほっぺたに、クリクリした おめめ。
ニコニコ ごきげんなのが、
とおくからでも よく わかる。
そんな ふうちゃんが、
きょうは、赤(あか)い ずきんを かぶっている。
「おーい おいおい、みたか クマ。」
ヒツジさんが いう。
ああ、たしかに。
クマさんは ためいきを ついた。
「しゃあないのう。
きょうは 赤(あか)ずきんちゃんや。
また、『あたし、あちょきんちゃんヨ』とか
いいよんねんやろのう。しゃあないのう」
ヒツジさんが いった。
ふうちゃんは、
「赤(あか)ずきんちゃん」とは いえなくて、
「あちょきんちゃん」と いってしまう。
まあ、3さいに なった ばかりだから、
しかたが ないと あきらめよう。
「ほんなら、オレが 猟師(りょうし)、
クマが オオカミで いこ」
ヒツジさんが いった。
「ええーっ、またかよゥ」
クマさんが もんくを いう。
「アホッ、ヒツジが オオカミを やって、
ハマるわけが ないやろ。
これは もう しゃあないんじゃ」
なにを 勝手(かって)な ことを。
ヤンキーの ヒツジの くせに。
クマさんは またもや、
こころのなかで つぶやいた。
「そやけど、おばあさんの やくは、
だれが やるねん?」
クマさんが たずねる。
「そうゆうたら、そうやなぁ・・・・。
こんな時間(じかん)に、
おもちゃばこに おしこまれて
ねてる ヤツら、
よびだされへん からなぁ。
あいつら、
ヌクヌクの ふとんで ねてる オレらのこと、
根(ね)に もってる からなぁ・・・・。
しゃあないから、デカウサギの ヤツ よぼう。
あいつ、しばいは ヘタクソやけど、
赤(あか)ずきんの ばあさんぐらい やったら、
なんとか なるやろ。
ちょっと ふまんやけど、
こんな 時間(じかん)に
よびだし かけれんのは、
デカウサギしか おれへんわ」
ヒツジさんは 勝手(かって)に きめて、
むねポケットから けいたいでんわを だすと、
ダイヤル しはじめた。
「ピピ、パポポパ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「よおっ、ウサちゃん、
オレオレ、ヒツジヒツジ。
ひさしぶりぃ。
こんな 時間(じかん)に ゴメンなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「うんうん、そうやん。
じつは、きょう でんわ したんはなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
たのみごとは ヒツジさんの とくいわざだ。
ここは ヒツジさんに まかせて、
クマさんは 自分(じぶん)の
役(やく)づくりを はじめた。
もってきた ショルダーバッグから、
まず キバの いれ歯(ば)を とりだす。
服(ふく)の ソデで ゴシゴシふき、
上(うわ)くちびると
歯(は)ぐきの あいだに はめこむ。
つぎに セロテープを とりだし、
手鏡(てかがみ)を みながら
こめかみの あたりに
ペタペタ はっていく。
「よしっ、うまく ツリ目(め)が できた」
と つい ニヤッと しそうに なった。
セロテープを はった ところが
ひきつって すごく いたい。
あわてて まじめな 顔(かお)に もどした。
さいごの しあげに、
草(くさ)むらの ススキを 1ぽん とり、
しっぽに はりつける。
はーい、オオカミの できあがりぃ。
「うん、すまんけど たのむわなぁ。
まってるでぇ」
ちょうど ヒツジさんの 話(はなし)も
まとまったみたい。
携帯(けいたい)を ピッと きると、
むねポケットに しまいこんだ。
「すぐに デカウサギ きよるわ」
ヒツジさんは いいながら、
手際(てぎわ)よく 準備(じゅんび)を
はじめた。
カバンから ツケヒゲを とりだして、
ハナの したに はりつける。
ライフル銃(じゅう)の モデルガンを
カチャカチャ くみたてた。
さいごに 鳥打ち帽(とりうちぼう)の
ホコリを ポンと はたいて、
グイッと ふかく かぶった。
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