「ここで ちょっと まってよかぁ」
猟師(りょうし)に なった ヒツジさんは
そういって、ちょうどいい 岩(いわ)に
こしかけて 足(あし)を 組(く)んだ。
おしりの ポケットから タバコを とりだし、
クシャった 1本(ぽん)を
ていねいに のばして、
百円(ひゃくえん)ライターで
火(ひ)を つけた。
 クマさんは りょう手(て)を ひろげて
こわい オオカミの れんしゅうを している。

「なあ、クマよ」
ヒツジさんが タバコの けむりを
くゆらせながら、
おちついた声(こえ)で
話(はな)しかけてきた。
「えっ」
めったに ないこと だったので、
クマさんは おどろいて ふりかえった。
ヒツジさんは ななめむこうを むいたまま、
しずかに 話(はな)しだした。
サングラスを かけているので、
どんいう 表情(ひょうじょう)なのか
わからない。

「ふうの ヤツ、オレらに
なまえも つけて くれへんかったのう」
そうそう。二〜三日まえの 夜(よる)、
パパが ふうちゃんに
話(はな)しかけたときのこと。
パパは
「なあ、ふうちゃん、
 この クマさんと ヒツジさんに
 名前(なまえ)を つけてあげたら どう?」
と いいだした。
ふうちゃんは よく のみこめなかった ようで、
「ええ? なに?」
?(はてな)マークだらけの おへんじ。
パパは もういちど ききなおす。
「この クマさんの
 名前(なまえ)は なーに?」
「それ、クマさんやんか」
と ふうちゃんの おへんじ。
「だからな、テンちゃんは 犬(いぬ)やけど、
 テンちゃんっていう
 名前(なまえ)が あるやろ?
 犬(いぬ)は いっぱい おるけど、
 テンちゃんは テンちゃんだけやん。
 クマさんも
 おっきいのやら ちっちゃいのやら、
 おうちに いっぱい おるから、
 名前(なまえ)を
 つけて あげたら ええんや。
 この クマさんの 名前(なまえ)、
 なにに する?」
「そ・れ・はぁ、ク・マ・さ・ん!」
ふうちゃんは
話(はなし)を のみこんだ ようだったが、
それは もう きまりきったことだと
いわんばかりに、
強(つよ)い 調子(ちょうし)で いいきった。
そして そのまま、
テレビの ほうに
顔(かお)を むけて しまった。
 たぶん かんがえるのさえ、
めんどうくさかったのだろう。
パパも それっきり あきらめてしまった。

 うんうん。
あのときは ちょっと さみしかったなあ。
クマさんは ヒツジさんに うなずいて みせた。
「オレらってよォ」
ヒツジさんは、むこうを むいたまま
話(はな)しつづける。

 ちょうど そのとき、
とおくから 地(じ)ひびきが
すごい いきおいで ちかづいてきた。
地面(じめん)が グラグラ ゆれて
すさまじく 大(おお)きな 音(おと)が
なりひびいた。

 クマさんも ヒツジさんも、
音(おと)の ほうに せなかを むけて、
りょう耳(みみ)を おさえて
くびを すくめた。
すさまじい 音(おと)なのに、
それほど おどろいて いない、
なれている 身(み)の こなしだ。


地響きに身をすくめる

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