「ジャッバ〜ン!」
デカウサギちゃんの とうちゃくだ。
「あーん、もおお、なによ これ?
 ドロ水(みず)やのぉん?
 あーん、もおお、ほんまにぃ?
 イヤやわぁ、しんじられへ〜ん。
 あっ、おふたりさん、まったぁ? ごめんねえ。
 さいきん わたしぃ ちょっとぉ
 やせたんやけどぉ、
 ホンマやねんよぉ、ホラッ、わかるでしょ、
 ここんとこなんか、ほらあ、ネッ。
 そやねんけどぉ、
 トンネルの いり口(ぐち)の とこだけ、
 ホラッ、あそこは ほんまに
 ほそいほそい でしょう?
 あそこんとこ だけやねんけど、
 おしりが ひっかかってしもてぇ、
 もう ほんまに、どうしたら ええのんっていう
 感(かん)じ やってんわぁ。
 あそこだけ ほんま なんとか なれへんのって
 いっつも 思(おも)うねんわぁ。・・・・・・」

 デカウサギちゃんは
枚方(ひらかた)そだちなので、
話(はな)しかたに
ノッペリした 京都弁(きょうとべん)が
かすかに しみこんでいる。
 クマさんは アングリと 口(くち)を あけて
きいていたが、
「この子(こ)の、相手(あいて)に かまわず
ひとりで 勝手(かって)に
しゃべりまくる 性格(せいかく)は、
ずーっと なおることは ないやろ」
と 思(おも)っていた。

「わかった わかった。
 わかったから、はよう 準備(じゅんび)に
 とりかかってくれ」
ヒツジさんが デカウサギちゃんの
ひとりしゃべりを さえぎった。
ヒツジさんでさえ、デカウサギちゃんには
「お願い」している。
「わかったって、ほんま いっつも
 口(くち)ばっかりやないの。
 そしたら なに?
 あの ほそい トンネル、
 なんとか してくれるって いうの?
 そんなこと ゆうて
 あんたが わたしの ために
 なにか してくれたこと あるの?」
デカウサギちゃんが
強(つよ)い 調子(ちょうし)で、
ヒツジさんに くってかかる。

「おとりこみ中(ちゅう)、ちょっと ごめん。
 あのさあ、とにかくさあ、
 ふうちゃんの ゆめが、いまも どんどん
 進(すす)んでるんやからさあ、
 その話(はなし)は
 ちょっとだけ あとまわしにして、
 いまは とにかく しごとに
 とりかかって くれへんかなあ」
クマさんが はじめて 口(くち)を はさんだ。
「まあ そう? しょうがないわねぇ。
 それで、きょうは わたし、
 どんな レディを やれば いいの?」
デカウサギちゃんが きいた。
「それは、あの、赤(あか)ずきんの おばあさん」
クマさんが おずおずと こたえた。
「・・・・・・・・・・。
 そんな ことやろうと 思(おも)った。
 あ〜あ、また だまされて
 ノコノコ やってきて しまったワ」
そう いいながらも、デカウサギちゃんは
準備(じゅんび)を はじめた。

 じみな ちゃいろの スカーフを
あたまに まき、
ちいさな まるメガネを ずらして
ハナメガネに かけた。
もんくを いいながらも
ちゃんと 用意(ようい)してきてるところが、
デカウサギちゃんらしくて、とても いい。

 フーッ。
ためいきを ひとつ ついた クマさんが、
ふうちゃんの いる もりを みあげると、
アレッ たいへんだ。
ふうちゃんは、
もう もりの 小道(こみち)を とおりすぎて、
おばあさんの おうちに くだっていく
とおげみちを あるいてるじゃないか。

 さあ、たいへんだ。
ふうちゃんが おうちに つく まえに、
おばあさんの ベッドの なかには
オオカミが スタンバイしていなくっちゃ。
赤(あか)ずきんちゃんが
でてこない 場面(ばめん)は すっとばして、
とにかく ふうちゃんの でてくる
シーンだけは、
ちゃんと 役(やく)を やらなくっちゃ。

「さきに いってるから、
 あと、しっかり たのむよ」
いいながら、クマさんは
全速力(ぜんそくりょく)で かけだした。
「なんとしてでも、
 ふうちゃんを おいこさなくっちゃ。
 ハァ、ハァ、」


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