クマさんが とおげの てっぺんまで くると、
くだりざかの なかほどに、
ふうちゃんの しゃがんでいる
うしろすがたが みえた。
「アッ、カマキリさんや!」
ふうちゃんが 大(おお)きな 声(こえ)で
さけんでいるのが きこえた。
「ラッキー! たすかった」
クマさんは そこから よこみちに それて、
ほそい ふみわけみちを かけおりて いった。
のばらの トゲが
クマさんの 手足(てあし)に
ひっかきキズを いっぱい つくったが、
そんな ことに かまって いられない。

 わき目(め)も ふらずに はしりつづけて、
やっと 風車(ふうしゃ)の となりの
おうちの まえに でた。
なんとか ふうちゃんより さきに、
おばあさんの おうちに
たどりつくことが できたようだ。
音(おと)を たてないように
そっと ドアを しめ、
いそいで ベッドに もぐりこむ。

「フーッ、なんとか セーフやぁ」
ちょうど そのとき、
ドアを ノックする 音(おと)が きこえた。
「トントン」
「おばーさん、こんにちわー」
ギリギリの タイミングで、
ふうちゃんが やってきた。

「あらまぁ、赤(あか)ずきんかい?
 かぎは かかってないから
 入(はい)って おいで」
クマさんは、
「オオカミが おばあさんの 声色(こわいろ)を
 つかっている」
という 声(こえ)を だした。
「これが ポイントやねんな」
と くまさんは こころの なかで
とくいに なっている。

 トコトコッと ふうちゃんが
入(はい)ってきた。
そして ベッドの よこに たって、
かけぶとんから 目(め)だけ だしている
クマさんを のぞきこんで いった。
「ねえねえ おばあさん、
 アリさんって なに たべるの?」
いきなり せりふが ちがう。
なんかいも なんかいも ビデオを みて、
ふうちゃんは カンペキに セリフを
しっているくせに、よく こういう
ムチャを やる。

 こんなことに クマさんは へこたれない。
おちついて ふうちゃんを
ひきもどそうと する。
「おばあさんの おメメは、
 こんなに 大(おお)きかったかな?」
「うん!」
とっても げんきな おへんじだ。
でも、これでは 話(はなし)が つづかない。
「そんなこと ないでしょう。
 まえは こんなに
 大(おお)きく なかったでしょう」
「イーヤ」
きっぱりと いいきられて しまった。
「いやいや、そうじゃなくてぇ、
 よーく みてごらん。
 ほらっ、えーっと・・・・・・」

そうこうしているうちに、
ふうちゃんの 表情(ひょうじょう)が
きゅうに かわってきた。
まゆ根(ね)を よせて
とても 不安(ふあん)な 顔(かお)に なり、
ついには バタバタと
あしふみを はじめてしまった。
「やっ、やばい!」
そう 思(おも)ったときには
もう まに あわない。
「オッ、オシッコォー!」
あーっ、きてしまった。

クマさんは いそいで
ベッドの はんたいがわに
スルリと ぬけだして、
うらぐちから そとに とびだした。
うらぐちの そばで スタンバイしていた
ヒツジさんと デカウサギちゃんに
「やばい!
 きょうも オシッコが きてしもた!」
と 声(こえ)を かけるなり、
3人で おもいっきり はしりだした。

「なんじゃい、またかいな。くっそー」
ヒツジさんも ぼやきながら はしる。
「ちょっと まってよぅ」
デカウサギちゃんは ながい スカートの
すそを つかんで、
ドタドタ あとから はしってくる。

 なんとか さっきの
水(みず)たまりの ところまで はしってきて、
クマさん、ヒツジさんが
あたまから とびこんだ。
おくれて デカウサギちゃんが ジャンプ、
おしりから とびこんだ。

「ジャッバーーン!」
「シュルシュルシュルシュル・・・・・・・・」
こんどは ぎゃくスライダーだ。
3にんが かさなって モミクチャに なったが、
やがて でぐちに たどりついた。

 パジャマの 海(うみ)を
かきわけ かきわけ、
ダンボールばこの うえに でる。
クローゼットを でて、
もとの おふとんに ヒョコヒョコ いそぐ。

 おふとんの なかの
ほんものの ふうちゃんは、
まゆ根(ね)を よせて
つらい 顔(かお)をして、
ねがえりを しながら
ムニャムニャ いっているが、
まだ 目(め)を つむっている。

 クマさんと ヒツジさんは、
いそいで おふとんの
もとの ところに もぐりこんで、
目(め)を つむった。
つまり、もとの プラスチックの
めだまに もどった。
いつのまにか ヒツジさんは
サングラスを はずしている。

 ほんの ワンテンポおくれて、
デカウサギちゃんが、
せいりダンスの うえに とびのった。
ビックリするくらい みごとな
身(み)の こなしだ。
さすがは ウサギさんだ。

 3にんが
もとの ばしょに おさまった そのとき、
ふうちゃんが パッチリ 目(め)を さました。
そして、大(おお)いそぎで
おふとんを はねのけると、
ドタドタ ろうかまで いき、
かいだんの したに むかって
大声(おおごえ)で さけんだ。
「ママーッ、オシッコーッ!」


水たまりにジャンプ
オシッコー!

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