Angel Sugar

「悪夢のバースディ1」 (50万ヒットキリ番リクエスト)

タイトル次頁
 毎年、誕生日など互いに興味など無かったのだが、今年は違った。
 どうするよ……
 リーチには名執、トシには幾浦という恋人がいる。それないのに身体が一つしかないのだ。だから、どちらかがその権利を取ることになるのだろう。
 もちろん俺が貰うに決まってるけど……
 週を計算すると、美味い具合に誕生日の日に自分のプライベートがあたっていたのだ。だからリーチは安心していた。
 あいつとゆっくりしたいな……
 少しばかりトシに対して悪いなあという気持はあったが、やはり誕生日は特別だったのだ。

 そして、とうとう問題の日の朝がやってきた。
 その週も名執のマンションに入り浸っていたリーチは、隣でぐっすり眠っている名執の頭を撫でながら、覚えてくれていると嬉しいなあ等と考えていた。
「ん……早いですね……リーチ……おはようございます……」
 まだ目をしょぼしょぼさせて名執は言った。
「おはよう……ユキ……」
 頬に軽くキスを落とすと、名執はリーチの首に手を回してきた。
「リーチ……お誕生日おめでとうございます……」
 小さな声で名執はリーチの耳元で囁くように言った。
 覚えてくれているとは分かっていたが、リーチはその名執の言葉が嬉しかった。
「ん……あんま歳は取りたくないけどなあ……」
 名執の艶やかな背に指を這わせながらリーチは笑みを浮かべた。
「欲しいものありますか?」
 少し身体を離し、名執は薄い茶色の瞳を向けてくる。その宝石の様な瞳にリーチは吸い込まれそうになった。
「ユキちゃんがいいなあ~」
 がばっと名執を抱き込み、ベッドに押しつける。
「……朝っぱらから……何を言ってるんですか……」
 呆れながらも頬を染めた名執は、恥ずかしそうに手を口元に置いた。
「お前がしてくれることなら俺……何でもいいよ……」
 名執の胸元に頬を擦り付けてリーチは言う。そんなリーチの頭を名執は自分の手でゆるゆると撫でてくれた。
 仕事休みたい気分になるよなあ……
 気持ち良い……
「……外で食事をとりますか?」
「う~ん……多分、大丈夫だと思うけど……事件の進展でどうなるか分からないな……外での食事は約束出来そうにない」
 思い出すようにリーチが言うと名執の瞳が寂しそうな色合いを帯びた。リーチはこういう名執に弱かった。
 そして何か言いたげな瞳をしながらも、名執はリーチに無理を言うことはしない。
「ここでリーチの帰りを待ってますね……」
 名執は言って笑顔を見せた。だが、その笑顔もやはり何かを押し殺したような笑みだ。
 うう……
 ユキが何かを耐えてる姿って……
 すげ、色っぽいんだよな……
 言うと、怒られるのが分かっているために、リーチは自分が思ったことは話さなかった。
「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよ……」
 唇に触れるようなキスをしてリーチは言った。
「……でもリーチ……トシさんは何も言ってないのですか?」
「え、トシ?なにも言ってこないな……。だって今週は俺のプライベートだし、あいつは幾浦に来週にでも祝って貰えば良いじゃないか」
 多少、後ろめたさはあるが、それとこれとは違うのだ。
「……トシさんがそれでいいとおっしゃってるのなら良いのですが……。ただ、お願いですから……。以前のような事は止めて下さいね」
 困ったような表情で名執は言った。
「え?」
 リーチは名執が何を指しているのかすぐに気が付かなかった。
「……一度、リーチはトシさんと時間単位で入れ替わって幾浦さんと私の間を行ったり来たりしたでしょう?ああいうのは困ります」
 かなり本気でそう思っているようであった。
「そう言えばそんなことあったなあ……。あ、でも、もうしないって……」
 あの失敗を二度とリーチは繰り返すつもりはない。楽しい筈のデートが、身体が疲れるだけで終わってしまったからだ。しかも途中で捜査一課から連絡が入り、事件に戻ることになった。
 その後、名執は幾浦と水族館に行って仲良く楽しんだのを知り、どれだけむかついたか分からないほどだった。
 未だにその恨みを幾浦に対して持っている。
 とにかく、名執に関してどんな些細なことでも、リーチは自分でも信じられないくらいしつこい男になれるのだ。
「幾浦さんの予定が、本日しか駄目だと言うなら……私の方は来週に変更しても構いませんが……」
「ん、でもさ、トシはなにも言ってないから、いいんじゃないの?」
 遠い目でリーチは言った。
 今のところ、トシは自分の誕生日を忘れているようで、何も言ってこないのだ。それをわざわざこちらから思い出すようなことを言うわけなど無い。
「トシさんに謝っておいて下さいね」
「分かった」
「そろそろ起きないと駄目ですね……」
 名執はチラリと室内時計で時間を確認して残念そうに言った。
「さて、朝食を食べてお互い仕事に出るか?」
 リーチが言うと名執は満面の笑みで頷いた。

 登庁をせずに、直接リーチは捜査本部に向かい、山手線に乗ったところで、トシを起こした。
『おはようリーチ……』
 目を擦りながらトシは言った。
『おはよう。ああ、もう直接捜査本部に向かってるから……どうせ今日も地取り捜査でおわるだろうさ……』
 リーチは言い終えた後、軽く欠伸をした。 
『だろうね。あ、そうそう、リーチ……。たまってるツケを今日の分で払ってよね』
 いきなりトシが言ったため、リーチは驚いた。
『は?』
『は?って……今日は僕たちの誕生日だろ!だってリーチは事あるごとに、誕生日はお前に譲るからって言って今まで僕から何日休暇を取ったの?覚えていないなんて言わせないからね』
 ムッとした口調でトシは言った。
『そんな約束知らないぞ』
 いや、本当はよく覚えていた。
 だがここで認めるわけにはいかないのだ。
『何言ってるんだよっ!僕もう恭眞に先週約束してるから絶対譲って貰うからね。リーチってほんと、すぐそうやって、覚えていることも知らないとか言うけど、今回はマジで僕だって怒るよ』
 トシには珍しく随分と立腹しているようであった。
 ……
 まあ……確かに……
 トシの休みも結構俺、強奪してきたもんな……
 それは分かってるけど……
 今日は特別なんだし……
『やだよ。俺だってユキと約束してきたんだから……』
 リーチは言いながら山手線の列車を降りた。
『……』
『ほら、来週にずらせば良いことだろ。それで解決するじゃねえか。元々来週がお前のプライベートなんだし……』
 自分には出来ないことをリーチは言った。
『じゃあ、リーチが来週にずらせばいいじゃないか……そういう事情なら来週、僕の方は一日リーチに譲ってもいいよ……』
 ぶちぶちとトシは言った。
『やだよ』
 リーチはすぐにそう答えた。すると暫くトシは無言になり渋谷署の入り口をくぐったところでトシがまた言った。。
『僕、絶対……ぜえええったいっスリープしないからねっ!嫌がらせしてやるんだからっ!』
 半泣きでありながらも、トシは珍しく譲る気が無いようであった。
『けっ……トシが起きていたとしても俺は何の問題もねえよ……』
 だが……
 問題は昼間ではなく夜だったのだ。

 予想していたとおり、その日は淡々と行う地取り捜査に明け暮れ仕事を終え、リーチが名執のマンションに帰り着いたのは十時を少し廻ったところである。
 そうしてホールを歩き、エレベーターに乗ったところで、リーチはトシに言った。
『寝ろよ……』
『やだ。やだやだやだっ!どうしてリーチは自分勝手なんだよっ!少しくらい僕のことも考えてよっ!恭眞に連絡だってさせてもらえないなんて酷いっ!』
 今日一日リーチは主導権をトシに渡さなかったのだ。もちろん、渡して、その後トシが身体を譲らなかったとしても主導権を無理矢理奪うことはリーチにはたやすく出来るのだが、もしものことがある。
 それを見越してリーチは一度もトシに身体を渡さなかったのだ。
『けっ……勝手にしろよ……』
 エレベーターが止まったところで、リーチはそこから出ると、名執のうちの玄関に向かって歩き出した。
 いつまでこいつ起きてるつもりなんだ?
 嫌な予感がしたが、それを逆手にとって苛めてみるのも楽しいかもしれない等とリーチは考えてしまった。
 まあいいか……
 俺とユキのあまあま~んな状態を何処まで見続けられるのか楽しみだ……
 リーチの頭にはいつのまにかいじめっ子な悪魔が居座っていたのだ。
 玄関前で鍵を開け、中に入ると名執が走ってくる足音が聞こえた。
 ユキって……
 可愛いなあ……
「あ、お帰りなさい……」
 ようやく名執は玄関に来たのだが、その姿をみて、リーチは思わず見ほれてしまった。
 名執は薄いシルクのパジャマを着ている。それは布地が薄い所為で身体のラインが照明に照らされぼんやりと浮かび上がっているのだ。
 ……
 おい、
 おいおいおい~
 いいぞ~
 でもって……
 ユキちゃんってばパジャマの下、何もつけてないぞ~
 素っ裸~!
「……あの……に……似合いませんか?」
 かあああっと顔を赤らめて名執は言った。自分でも恥ずかしいのだろう。
「すっげ~可愛いよユキ~」
 もうどこでもやれちゃうその出で立ちは最高~
 と、考えながらリーチは名執を引き寄せて抱きしめていた。
『雪久さんって……だ……大胆なんだ……』
 うおっ!
 忘れていた……
 こいつ起きてたんだった。
『受けの鏡だろう?』
 リーチはトシにそう言い、抱きしめている名執の額に頬を擦り付けた。
「……や……やっぱり特別な日ですし……お祝い事ですから……」
 チラリと上目つかいにこちらに視線を寄越し、更に名執は顔を赤らめた。
「そうだよ。祝い事……。ユキはいつだって俺の喜ぶことを考えてくれているから感激するんだよな……。その上、実行してくれるから……俺……感謝してるよ……」
 思い切り、バックで起きているトシに聞こえるようにリーチは言った。
『……ねえリーチ……それ……嫌み?』
 むううっとした声でトシは言った。
『そんなつもりないよ。おら~さっさとスリープしろよ……。これから俺とユキはラブラブな時間を過ごすんだから……』
 いや……
 別にいいけどな……
 トシをからかうのも面白いし……
 と、リーチが考えていることなどトシは全く気が付いてない。
『嫌だっ!邪魔してやるんだ!』
 とはいえ、トシは後ろで起きているだけなのだから全くリーチの邪魔にならない。逆にからかおうとしているリーチにすれば、その方が楽しめる。
『……嫌だなあ~トシが起きてるといつもの通りにユキといちゃいちゃできないよ~』
 少しだけ困った口調を作り、リーチは言った。その言葉にトシは何故か満足していた。
 馬鹿だなあトシ……
 俺達に当てたれて悶々としても解消できないのになあ……
 し~らねえっと。
「リーチ……?」
 ふと名執に声をかけられ視線を下に移すと、怪訝な顔がそこにはあった。
「え?」
「何か考え事でもしているのですか?」
 少し不安げな表情になるのは、今の自分の姿がリーチに不快に映ったのではないかと名執は思っているからだ。
「えへへへへ。一枚ずつ脱がしていくのも結構いいなあ~って思って想像してたんだ」
 ニヤニヤとした表情を名執に返すと、不安げな表情は一気に幸せそうな顔になる。名執にはこの顔が一番よく似合うとリーチは思った。
 いつも幸せそうな顔でいて貰いたい……
 それがリーチの望みなのだ。
「夕食は食べてこられたのですね?」
 身体をようやく離した名執はそう言って、リーチにスリッパを差し出した。
「ああ。メール見てくれたんだ……。ちょっと断り切れない相手に帰り際引っ張られてさ……ごめんな……」
 リーチが申し訳なさそうな表情で言うと、名執はただ顔を左右に振った。
「お仕事……ご苦労様です。リーチが元気でここに帰ってきてくれるだけで私は本当に嬉しい」
 ユキ……
 俺、ここで押し倒したくなった……
 リーチが名執の言葉に感動しているとトシが言った。
『すごい……すごいや雪久さんっ!ねえ……すごいよリーチ……』
 何がすごいのかリーチには意味不明なのだが、トシは何故かそう言って興奮している。
 なんだか……
 子供に見られているみたいだな……
「俺はいつも元気だよ。で、風呂にも入ったんだ?」
 リーチは上着を脱いで手に持った。
「……ええ。一応……。リーチが良いとおっしゃって下さるなら、もう一度入っても良いです……」
 もちろんそれは一緒に入ろうというお誘いだ。
 このあたり、名執はとても上手いとリーチも思っていた。
『ねーねーそれってさあ、一緒にお風呂入ろうって言ってるの?雪久さんって大胆~!』
 今度は興奮している。
 ……
 こいつを起こしていて失敗か?
 今更、後悔しても遅いことにリーチはようやく気が付いた。
『うっせーな……スリープしろよ……』
『だって……だってすごいんだもん雪久さん……』
 ああもう……
 苛めるつもりが、おこちゃまのお守りになってねえか?
『普通だろ。お前がマグロだから理解出来ないだけだ。そんな風に言われると、なんだかユキが馬鹿にされているみたいでむかついたぞ……』
 リーチが言うとトシは黙り込んだ。
 このままスリープしてくれるとありがたいのだが、そう上手くはいかなかった。
『僕、雪久さんのことを見て研究するよ』
 ……
 研究って……
 ちょっとまて~!
『おい、俺とユキは恋愛攻略本じゃねえぞ。研究なんかするなよ……』
「リーチ……本当にどうしたのですか?」
 また急に無言になったリーチが心配になったのか、名執は言った。
「え、いや……何でもないよ……」
 ははははと笑ってリーチはそう言ったが、名執は今度寂しげな表情になった。
「あの……私……お風呂良いですから……遠慮します。あ、先に入ってきて下さい。私、ちょっと用意したいものがありますし……リーチが出てくる頃には、準備は整っていると思います」
 ご……
 誤解したぞ!!
 名執は繊細なのだ。だから言葉や態度一つをとっても気にしたり、落ち込んだりする。それを知っているためリーチはこれでも名執には色々気を使った話し方や態度をとっているのだ。
 ただ、今は時折トシと話すことで、妙な間が開くのだ。それが今の名執には不安に感じるのだろう。
 しかし名執に、実はトシがバックで起きているとは話せなかった。
「ユキっ……おいって!」
 パタパタと走って行った名執は後ろを振り向かずにリビングの方へ駆け込んだようであった。
『おい、お前が後ろでごちゃごちゃ言うから、ユキが誤解しただろうっ!あいつはすげえ繊細なんだ。ちょっとしたことで落ち込んだり、不安になったりするんだって。だから黙ってろよ……』
 むかむかしながらリーチが言うと、トシが反撃するように言った。
『別に大したことを言ってるわけじゃないだろっ!それにね、リーチは今日、僕にとやかく言う権利なんて無いんだからねっ!』
 ああもう……
 しかたねえなあ……
 こういう奴は自分から寝てくれるように仕向けないと駄目なんだよな。
 トシって頑固だけどウブはウブなんだから……
 リーチは頭を掻きながら、名執のいるリビングに入った。
「あ、まだ駄目です……」
 名執は手に持ったロウソクを後ろに隠しながらそう言った。
 ……え~と……
 それって遊ぶためのものじゃないだろうな?
 と、不穏な事を考えたが、机の上にケーキの箱が置かれているのが視線に入り、リーチは何となく落胆した気持になった。
「ユキ……先にお前が食べたいなあ……」
 名執の身体をぐいぐいと押して、ソファーに座らせると、そのまま上半身を倒した。
「……リーチ……ケーキが……ん……」
 音を立てながら口元に吸い付き、出来るだけトシに聞こえるようにしたが、無言でトシは二人の光景を眺めているようであった。
 ……くそ……
 これじゃあ駄目か……
 ったくよ……
 幾らなんでもセックスまで拝ますわけにはいかないんだって……
 夜はこれからが本番だった。

―完―
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松前早咲さまからいただいたキリリクです。それが……すみません。また第二弾がでます。もう最近続きのものばっかり書いているような気がする~。だってエッチまで書けなかった。ごめんなさい~。これからが面白いのに? まあアイテムも出てきたことだし……「ロウソク」なにするんでしょうねえ~、うはははは。
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