「甘い一夜―後編―」 (120万ヒット)
「メロン……て……いいよ……」
急にメロンを持ってきたジャックはそのままベッドに腰をかけて、こちらをのぞき込んでくる。だが、恭夜は今、風邪のせいか何を言われてもジャックに絡んでしまうのだ。しかもちょっとしたことでも感傷的になったり、むっとしたりとせわしない。
こんな時は話さない方がいいのだろう。最悪、取り返しのつかないことまで言い出しそうで怖い。普段からたまっている鬱憤が、勢いだけで出てきそうだ。そこまで行くと、ジャックも呆れるに違いない。
この男は、何を言おうと自分が正当だという主張を通すのだから、恭夜のように感情だけでものを言うタイプにはとうてい立ち向かうことなど出来ない。いや、ジャックの職業を考えても、口論などしない方が賢明だ。
「あんな粥など食べても体力が付くわけがない。もう少し何か口にしないと駄目だ。ほら……顔を上げろ」
ぐいぐいと肩を引っ張られるのだが、恭夜は枕を抱きしめたまま顔を上げることをしなかった。
「嫌だ……俺は寝る。放っておいてくれって言ってるだろ」
顔を枕に押しつけたままそういうと、いきなり後頭部を捕まれて引き上げられた。こんな扱いを受けたのは初めてだった。
「ジャック……」
「いい加減にしろ。わがままばかり言うんじゃない。風邪を治したかったらさっさと食べるんだな。それとも無理矢理口に突っ込まれたいか?」
冷えた瞳で見つめられ、恭夜はうっとのどが詰まった。どうしてこんな弱っている自分にそんなひどいものの言い方が出来るのだろう。
望んでも無理なのだろうが、こういうときは優しくされたい。もちろん自分の口からは言えないが、本当にそう思うのだ。
大切にされている事を知っている。
愛されていることも同じように理解している。だが、時にはごく普通のいたわりがほしい。ジャックに求めても無理なのだろうが。
「……食うよ……食えば良いんだろう?」
なんとか身体を起こしてベッドに座る。そんな体勢すら辛い状況ではあったが、ここでジャックに逆らうのも怖い。
この男は怒ったら手に負えないから。
自分がこれだけ愛しているのだから、恭夜もそうに違いないと、本気で信じている男がジャックだ。それを否定するようなことがちらりでも見えるものなら、朝まで一睡も出来ない目に遭わされる。だが自分も嫌だといいつつ、快感に流されているのだからどっちもどっちなのだ。ただ、今はちょっと勘弁してほしい。
恭夜は仕方なしに手を伸ばし、ジャックが持っている皿を受け取ろうとしたが、すいっと脇によけられた。
「何だよ……食えって言ったのあんただろう?」
「食わせてやるから、口だけ開けてろ」
クスリとも笑わず、ジャックはそういって切ったメロンにフォークを突き刺してこちらに向けた。何となくその行動に照れくささを感じたが、甘い恋人同士の行為ではなく、多分機械的にジャックは言っているのだろう。そんな感じの態度だ。
大きめに切られたメロンは、口に入れるだけで精一杯だ。だが果汁のたっぷり滴ったメロンは、大きさに反して口の中で溶けるように崩れ、冷たい感触と甘い味覚を残してのどを通った。
おいしかった……かもしれない。
もごもごと口を動かして、ちらりとジャックを見る。やはりここはおいしかったと素直に言った方が喜ぶだろう。
「……あのさあ……」
「不味いだろう?」
まじめな顔で言われ、思わず恭夜は目が点になった。
ふ……
普通は美味いか?って聞くよな?
やっぱこいつって……
訳、わからねえ……
あわあわと、何を言って良いのか分からず、恭夜が口をぱくつかせているとジャックは続けていった。
「不味いと言え」
「ぶはっ……げほっ……」
思わず恭夜は咳き込んでしまった。
「ふふふ。不味いか……そんなに不味いんだな」
ジャックは急に嬉しそうな表情でそういった。よほど嬉しいようだ。だが恭夜は別に不味くて咳き込んでいるのではなく、むせているのだ。
「ジャック……あの……さあ……俺……別に……」
「また粥でもつくろうか。こつはつかんだぞ」
得意げにジャックは言う。
もしかして……
もしかすると……
これって……
信じられないんだけど……
「なあ……その……果物ってキャスが持ってきた奴だよな?」
恭夜が言うと目だけがじろりとこちらを向いた。さっきまでにこやかにしていた顔が今ではまた冷たいものに変わってる。
「……気に入らないのか?果物……」
これって……
ジャックがすっげえ、キャスのこと気に入らないって事だよな?
ていうか、まだこいつ誤解してるのか?
「ジャックって……」
「……ああ、気に入らないね。このメロン以外は悪いが捨てさせてもらった」
言いながら凄味を増すうす水色の瞳は本気だ。
は……
はああああ?
こいつって……こんなに嫉妬深かったか?
じーっとジャックを見ているとまたメロンについて聞いてきた。
「で、メロンはまずかったんだな?」
だからさあ……
どうでも良いんだけど……
それでも恭夜は嫌な気がしないのが不思議だった。ジャックほどの男が見舞いの果物にこだわっているのだ。普通ならこんな風にこだわらないに違いない。恭夜のことだから異常にムッとしているのだろう。
「あははははは……」
恭夜は毛布に突っ伏して笑ってしまった。なんだか自分がうじうじ考えていたことがばからしくなったのだ。
「何が可笑しい。熱で頭がやられたか?」
「違うよ……なんか、あんたがすっげえガキみたいに見えたから可笑しかったんだ」
笑ったせいか、喉がまた痛み、頭もくらくらした。風邪はまだ進行中なのだろう。そんな身体を横たえてふかふかの枕に頭を沈め恭夜は息を付いた。
「それはキョウのことだろう」
表情を和らげることなく、そう言い放つ。
「もういいけどさ……。あ、メロン食う……」
「まずかったはずだが?」
「え……だって……折角ジャックが切ってきてくれたから……」
とりあえずこうでも言っておかなければジャックはどういう行動に出るか予想が付かない。
「……そうか」
ジャックの機嫌の傾きはまだ戻らないが、それでもまたメロンを一つフォークに突き刺すとこちらの口元に運んでくれた。それを口に入れ、またもごもごと食べる。
冷えたメロンは熱のある身体に優しい。味覚が麻痺しているのだが、それでも感じる甘みが心地良いのだ。
するとまたジャックの携帯が鳴った。ジャックは皿を恭夜の枕元の隣に置き、胸ポケットから携帯を取り出して立ち上がる。
いつも仕事。
大抵仕事でうちを不在にする男。
俺がこんな状態でも、誰かが人質に取られていたらそちらを優先するのだ。
分かり切ったことなのだが、折角もてた時間がそんなものに奪われるのが恭夜には耐えられない。それでも文句が言えないのが強情のなせる技なのだろうか。
いいけどな……別に。
さっき言ったし……
放置された皿を自分で取り、メロンをまた口に入れ、無くなるとまた口に運ぶ。別にジャックに食べさせて欲しいと、何処かの甘いカップルのような希望は持たないが、今はそんな愛情表現に飢えていた。
しかし、自分でこうして欲しいとは言えない。
一人でもごもご口を動かしながらジャックを窺うと、難しい顔をしてチラリとこちらを見た。
今、電話でかかってきている事件と自分を天秤に掛けているのだ。
むかつく。
普通なら速攻に答えは出るんじゃねえのか?
なんだよ。
ネゴシェイターって言うのはそんなにシェアが狭いのか?
こいつしか駄目なのか?
クオンティコにごろごろしてんじゃねえのかよ!
いちいちジャックを呼び出すなっ!
自分たちの尻ぬぐいくらい自分でしろよ!
……
こんな時だから……
こんな奴でも側にいて欲しいんだよ。
俺だって……
気弱になるんだ……
全部メロンを食べ終え、皿を脇にどけると恭夜は毛布に潜り込んだ。どうせ放って置いてもジャックは出ていくのだろう。それを引き留める言葉は既に言った。二度も言えるほど恭夜に根性はなかった。
「キョウ……」
「俺……寝る」
「熱が出てきたな……」
そっと額に触れる手はひんやりとしていた。
「……風邪だから。寝たら治るよ……。あんたも自分の仕事をしろよ……俺、大丈夫だから……」
本音では側にいて欲しいと思いながら、負担になりたく無いという気持ちもある。だから引き留める言葉は言わなかった。
愛されているのが分かる分、それを失うことが怖い。
ジャックが何故自分のようなそこら辺にいるような男を側に置いて、更に異常に執着しているのか分からない恭夜には、ジャックの存在が無くなるかもしれない……といういつか来そうな将来が怖いのだ。
もちろん、そんなそぶりなどジャックは一切見せない。が、現実はどうなるかわからない。だからといって怯えて暮らす事も性格的に無理だ。
駄目なときは笑ってさっさと忘れたらいい。
しかし自分からその、いつかを近づけることはないだろう。だからジャックに反抗はするし、悪態もつくが、負担にだけはなりたくないと心の奥でいつも思っていた。
「……そうだな」
触れていた手が離され、先程脇にどけた皿が視界から消える。
耳だけ澄ませていると、部屋から出ていく足音が聞こえた。このままジャックは仕事に出かけてしまうのだ。
いつものことだった。
……
あーあ……
俺、なんでここにいるんだろう。
熱で頭がぼんやりしながらも、ギュッと胸が掴まれたような痛みを感じる。
なんだか理不尽だよな?
別にあいつのことなんか俺、これっぽっちも好きじゃなかったんだ。
だって俺は……
攻めの方だったし……
それ、無理矢理方向転換させたのあいつだ。
好きでもなかったのに……
なんでもなかったのに……
あいつが突然俺を引っ張り回したんじゃないか。
……
俺は別に自分から好きになった訳じゃない。
……
俺は……
…………
いつの間にこんなに好きになってたんだろう……
最近自覚したことだった。
もちろん、好きだから一緒にいる。口では言えないが愛しているから抱き合える。
ジャックが絶倫なのはまあ、おいて。
それでも……
嫌いだと思ったことはない。
ただ……
側にいて欲しいと今だから思うだけ。
……
風邪だよ……
風邪が悪いんだな。
病人は気弱になるっていうし、いつもこの程度のことで、俺は落ち込んだり、寂しく思うことなんか無い。
ただ……
身体が辛いから。
頭が痛いから。
吐き気がして、寒気がして、どうしても一人が不安なだけ。
眠ったら良い。
眠って、朝になったら風邪も良くなっているのだろう。そのころには、今感じた痛みや不安も、笑い飛ばせるに違いない。
恭夜はそう思うことにした。考えたところでどうにもならないのだ。仕事も違う。生活習慣も違う。最大の問題は意志の疎通がうまくいかないことだ。
人種が違うからではない。ジャックが誰よりも特殊だから。
頭脳の優れた男は、凡人には及ばない考え方をする。そんな中、分かっていることはジャックが本当に自分を愛してくれていると言うことだけ。
だがそれも、いつどうなるかわからない不確定なものだ。可愛らしく甘えられない自分には、その不確定なものが怖い。
怖い。
怖いんだな……俺は。
最後にいっつもここに戻ってくる。
何度考えてもおなじところに答えが戻ってくるのも風邪の所為なのだ。
そう。
風邪の所為だ。
ギュッと目を閉じて恭夜は眠ろうと努力した。だがしっかり閉じた目からはうっすらと涙がにじんだ。
「キョウ……?」
突然声がして、驚いた恭夜は枕にうつぶせていた顔を上げた。するとジャックが寝室の扉の所に立っていた。
ジャックはシャワーでも浴びてきたのか、まだ乾ききらぬ髪をタオルで拭い、バスローブを軽く羽織った姿だ。
「し……仕事じゃねえのか?」
「ん?ここで仕事に行ったら私を捨てると、出来もしない暴言を吐いたのは誰だった?」
ニンマリした笑みをこちらに向けながら、ベッドに上がってくる。
「……別に……別に……そんなつもりじゃあ……」
ボソボソと小声で言いながら、それでも何となく嬉しい。
「ハニー……」
こちらが風邪で熱っぽいにもかかわらずジャックはそろりと恭夜を己の胸元に抱き込んで、額に唇を這わしてくる。
「……ジャック……仕事……マジ行ってもいいから……」
本音とは違う言葉しか恭夜は出ない。
「泣いている恋人を置いていける男がいたら見てみたいな……」
な……
泣いてなんか……
「泣いてなんかねえよっ!熱っぽくてちょっと目がうるうるしてるだけだっ!」
馬鹿だ俺。
自分から喧嘩売ってどうするんだよ……
「……ハニー……」
だがジャックは恭夜を腕から離すことなく、更に力を込めて抱きしめてきた。すると頬がジャックの胸元に密着し、同時にほっと安堵感が身体を覆う。
「ごめん……うん。俺……今日はいてほしいんだ……ごめん……」
絞り出すようにようやく恭夜は本音を口から吐きだした。すると不思議と気持ちが楽になった。
「素直なキョウも可愛いな……」
くすくす笑いながらジャックは更に唇を滑らせて頬や首筋を愛撫してくる。もしかしてやるつもりなのかと思ったほどだ。
「……え……ええっと……俺……」
と、言っている間にもジャックの手は恭夜の胸元に入れられていた。まさかマジでやる気かと一瞬身体を退きそうになったが、手の動きが気持ちよくて突き放すことが出来なかった。
「……ジャック……」
目眩にも似た、軽い意識の喪失感に襲われながらも自分からもジャックの背に手を回して身体を押しつけた。何故か恭夜はそうしたかったのだ。
「こんな時でも欲しいのか?ん?」
妙に弾んだ声でジャックが聞いてくる。恭夜にしてみると、身体の方は熱っぽく、しかも動作も鈍い。こんな状態でやれるとは思わないが、ジャックは乗り気だ。
「……俺は……熱あるし……」
やんわりと拒否してみる。
「熱のあるときは良いらしいな……」
やはり伝わっていない。だがそんなジャックを押しのけられるほどの根性は無い。ここで拒否してしまったら離れて行かれそうな気持ちになっていたからだろう。
身体を弱らせているとこんなにも不安になるのだと恭夜は初めて気が付いた。
「……らしいね……」
目を閉じて、ジャックの胸板に何度も頬を擦りつけた。伝わる体温が本当に気持ちよかったから。
「ハニー……」
ジャックは胸を撫でていた手を、そのまま恭夜の腰元まで下ろし、今度は茂みの中に手を入れてきた。指先がまだ力のない恭夜のモノをそろりと撫で上げ、そして握り込む。
「……っん……」
軽く力を入れられて恭夜は声を上げた。いつもより敏感にジャックの指先が感じられるのもまた熱の所為なのか、それとも自分自身がこんな状態でありながらジャックを確かに求めているからなのか分からない。
ただ、触れられるだけでどうにかなりそうな刺激が身体を覆おうのが分かる。
「……あ……ジャック……」
「手が良いか?それとも舐められたいか?」
整った顔立ちのジャックが、口にする言葉としては不適当だろう。
他の誰かが言えばとても下品に聞こえるに違いない。しかし相手がジャックであることが恭夜を興奮させる。
「……俺……俺は……」
身体が熱い……
なんだか変な気分になってきた……
熱っぽい身体は相変わらずなのだが、自分が興奮しているのもあって、実際本当に熱が出ていて身体が熱いのか分からない。
「……舐めてやろうか?ん?」
言いながら、既にジャックの身体は恭夜の腰元近くまで下がっていた。暫くするとズボンが脱がされ、先程まで手で翻弄されていた部分に舌が絡まってきた。
「……っあ……あ……」
ジャックの舌からひんやりとした感触を感じ、恭夜はゾクゾクとした感覚が背を這うことに気が付いた。
「ジャック……っ……あ……」
「こっちの方が熱いな……こんな所まで熱っぽいのもめずらしい……」
何か新しい発見でもしたように、ジャックは驚きの声を上げ、また口に含む。するとヌルヌルとしたものが己のモノに絡まるのが感じられた。
「……ジャック……」
はあっと大きく息を吐き出し、それでも拒否することなく恭夜はジャックの行為を受け入れていた。もうここまできたからには最後まで行くしかないのだ。
いや、このまま放り出された方が、熱が上がるよりも辛いことを恭夜は十分知っていたから。
舐め上げる舌に強さがあり、粘着質な音をこちらに聞こえるように立てるのはいつものことだった。しかし、いつもより耳に響くのはジャックがわざとそうしているのだろう。
「……あ……あ……」
くちゅっと先端を舌で押しつぶされて、身体がビクリとしなる。僅かに痺れている下半身の震えは快感を確かに感じているからだ。
痛みはない。
ただ緩やかに行われるジャックの行為に浸りながら、いつも感じる飢えが今も燻っているのを恭夜は自覚していた。
強い刺激が欲しい。
もっと強い刺激が。
「……ジャック……ジャック……」
愛しい人を呼ぶように恭夜は、熱で霞んだ視界に向かって声を出す。もう、舐められるだけでは満足できない。いつだってジャックは強い刺激で恭夜を虜にするのだ。
例え限界が来たとしても、何処までもどん欲にそれらを求めるような身体にジャックによって変えられたのだから、どうしようもない。
「……っ……あ……」
一気に責め上げられた部分は、簡単に降参して身体の力が同時に抜ける。荒い息だけが己の耳に入ってきた。
「……はあ……はあ……あ……まだ……」
肝心な部分を放置されたままでは満足できない。淫乱だと言われようが欲しいものは別にある。
「キョウ……ここだろう?」
くすくすと笑いながらジャックは窄んだ部分に指をかけ、そのまま一気に押し込んできた。下半身から急に圧迫感が迫り上がってきて、ウッと喉が詰まる。それでもジャックは動かす指先をゆるめず、一気に中を抉り、何かを確認するように動かした。
「……ここも熱い……」
感嘆のため息でもついたような密やかな息を吐き、ジャックは更に指を動かす。内部が広げられ、狭い部分がジャックの指先に絡みついていくと、羞恥で身もだえしそうだ。
しかしながら、恭夜の理性とはかけ離れた場所で、ジャックの指を歓迎している本能があるのだ。否定することもないだろう。
それはジャックも望まないはず。
「……そこ……もっと……くっ……あ……」
入り口付近の狭まっている部分を爪で擦りあげられて、びくびくと身体が数度反応した。もう限界だ。ここで入れてもらわなければ気が狂ってしまうに違いない。
「……早く……あ……頼むよ……」
もっと可愛い言いかたが無いのだろうか?
いつもそう思うが、どうあっても無理な話だ。性格を急には変えられない。しかも変えるつもりはない。
「……欲しがってるな」
びくびくと内部が痙攣しているのをジャックは指先で感じ取っているのだろう。身体は正直なのだ。
「……ん……うん……」
何とかそう言い終えた瞬間に、ジャックは急に己のモノを突き入れてきた。胃の中のものがウッと上がってきそうなほどの圧迫感だ。
「……う……あっ……あーーっ……」
ぎりっと掴んだシーツが皺になり、放射状に延びる。抱えられた足が空で折り曲がっているのだけが霞んだ先に見え、次に迫ってくるジャックの容貌はしっかりとこちらを見つめていた。
「ジャック……」
シーツを掴んでいた手を離し、そのままジャックの首に巻き付けて恭夜は呻いた。病人にそれはないだろうというほど突き入れてくる振動が、身体を伝わり理性を麻痺させる。いや、既に麻痺していたのだろう。
「……ああ……あっ……あ……」
ジャックが身体を揺らすたびに、同じように身体が揺れる。もうなにも考えられない。後はただ、快感を全身で感じるだけだ。
大きく身体を動かされて、擦られる内部は熱く爛れているような感触がある。擦りあげ、抉られ、奥底までかき回される快感を恭夜は熱のある身体でしっかりと受け止めた。
「……っ……あ……ああ……あ……」
「愛してるよ……キョウ……」
そう言ったジャックの声がいつもより甘く聞こえた。
汗で濡れた身体が気持ち悪くて恭夜は目を覚ませた。すると、ジャックが濡れたタオルで身体を拭ってくれているのが見え、酷く感動してしまった。
「目が覚めたか?」
ジャックに身体を預けたまま、弛緩した身体を動かす気にもならずにまた目を閉じる。
「キョウ……」
「……なに……」
「熱のあるときは良いというが、本当だな」
くせにならないでくれよ……
今日だけなんだからな。
心の中ではそう恭夜は思ったが、口にするほどの体力がまだ戻っていなかった。
「……そう?」
「あんな気持ちの良いセックスはまあ、お互いに滅多に出来ないだろうな」
タオルをポイと床に投げ、身体を伸ばしている恭夜の上に乗り上がってくる。
「……も、俺はいい……」
一度で十分だった。
好きなものでも食べ過ぎると嫌になる。
そう言うことだ。
「熱のあるときしか感じられないだろう?」
その言葉になにやら暗雲が立ちこめているのを恭夜は感じ取り、そろりと目を開けた。するとジャックはニヤリとした笑みをこちらに向けている。
……
おい……
おいおいおいおい。
こいつ……
なに、味をしめてるんだ?
「さて。熱が下がるまでもう暫く楽しんでみるか?」
ジャックはそう言って、驚きに目を見開いている恭夜の額に一つキスを落とした。
―完―
後編が出来上がりました。もう途中、砂吐きそうなほどげろ甘でしたが、いかがでしたか? お約束どおりエロに入ってますし、ラストはもういつものとおり。あはははは。でもまあ、ニューヨーク時代の二人は結構ジャックの仕事などですれ違いを起こしています。これにも事情があるのですけどね。今とはまた違うジャックが見られたかも? いや、同じって? あはは。あわわ。 なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね! |