Angel Sugar

「ラブラブ?デート」 (40万ヒットキリ番リクエスト)

タイトル次頁
「未来、今日は外でデートでもしようか?」
 日曜の朝、二人で仲良く朝食をとり終え、宇都木が皿を片づけていると如月が言った。
「……で……デートですか?」
 一緒に暮らしだしてからこんな風に如月に誘われたことが無かった宇都木は、一瞬如月に顔を向け、次に頬を赤らめた。
「ん?嫌か?」
 如月は読んでいた新聞を綺麗に畳み、それと一緒にあった広告の方も綺麗に畳んだ。
「いえ、嬉しいです。本当に良いんですか?」
 慌てて宇都木は如月にそう言った。
「あ、いや……。未来はどちらかというとあまり人混みが好きではないだろう?だからこう、なかなか誘う機会がなくてな……」
 如月はたばこを取り出すと、火を付け口にくわえた。
「……そ……そんなことは……ありません」
 自分の事を気にかけてくれている如月に感謝しながらも、その所為で一緒にプライベートで出かけることが無かったのだと反省した。
「いや……良いんだよ……。私も休日まで人混みにもみくちゃにされるのはかわなわないからな。でもまあ未来となら色々出かけてみたいと思う……」
 たばこの煙をくゆらせて如月は笑った。
「私と……」
 と、そこまで言って宇都木はあまりの嬉しさに言葉に詰まった。
 私となら色々出かけてみたい……
 それは……
 一緒にいたいってことですよね?
 嬉しい……
「おい、何を固まってるんだ。やっぱり気が進まないか?なら……」
 宇都木が感動に浸っていると、その姿を誤解した如月が困った表情になった。
「違うんです。嬉しくて……あまりにも嬉しかったから……」
 首を左右に振って宇都木は如月の隣の席に座る。
「……そ、そんなに感動するほどのもじゃないが……」
 照れたようにそう言い、如月はたばこを灰皿に押しつけて消した。
「何処に連れていってくれるんですか?」
 幸せな表情を浮かべ、宇都木は如月を見つめた。
「そうだなあ……私もあまり何処というのが無いんだが……。青山通りにはブックセンターもある。他に綺麗な店もあるし、ウインドーショッピングしながら、ぶらぶらするか?」
 はははと笑って如月は言った。
「ぶらぶらしますっ!」
 宇都木はまじめな顔でそう言うと、如月はまた笑った。何故笑われたのか宇都木には分からない。
「そう、気負わなくても……。まあ……そんな未来も可愛いんだが……」
 如月は笑いを堪えていた。
「何時頃から出かけますか?」
「そうだな……まだ早いから十時頃に出ようか……」
 チラリと時計を見た如月は次に宇都木の方に視線を戻してそう言った。
「はい……」
 初めてのデートが宇都木の気持を高揚させていた。嬉しくて仕方が無いのだ。随分前に二人でデートのまねごとをしたことがあったが、あの時とは違う本当のデートだから心の底から嬉しかった。
 嬉しすぎる……
 デートだなんて…… 
 それも邦彦さんと……
 わくわくした気分を必死に押さえながら、宇都木は待ちどうしい気持を何とか押さえながら残りの皿を洗った。

 そうして二人で地下鉄に乗り青山まで出てきた。辺りは自分たちと同じようにウインドーショッピングをしているカップル達や、友達同士でぶらぶらと休日を楽しむ人達が歩いている。
 自分たちはどんな風に見えるだろうか……
 隣を歩く如月の方を窺い、宇都木はそんなことを考えた。
「なんだ?何か見つけたのか?」
 こちらの視線に気が付いたのか、如月はそう言ってチラリと宇都木の方を見る。その瞳はとても青く快晴の空に負けないほどの深い色をしている。
 この瞳……
 いつ見ても私はほれぼれとしてしまう……
 ほわ~んとした目で如月を見ていると、当の本人が言った。
「私の顔に何かついているのか?」
「え、いえ……邦彦さんの瞳がとても綺麗で……思わず見とれてしまって……」
 てれてれとそう言い、視線を落とす。
「……ああ……この目か……。お前はそう言うが、このことでは結構苛められたんだ。家族の中で私だけが青いだろう……。だから、そのことで血が繋がっていない子供だと言われたよ。まあ……家族も最初ビックリして、隔世遺伝だと言うのが分かるまで、家庭内はもめたと聞いたことがある。だからこの目があまり好きじゃないんだ」
 目元を軽く押さえ、如月は思い出すようにそう言った。
「誰がそんなことを言ったんです?こんなに綺麗な瞳なのに……」
 如月を苛めた相手に宇都木は腹を立てながらそう言った。
「だから……小学校の時の話だよ……はは。そう興奮するな。今は結構重宝しているんだ。珍しい目を持っている所為で、取引先の人がすぐに覚えてくれてね」
 ははと笑いながら如月は言った。
「……あ、そ、そうだったんですか……。なんだか……今でもそんな風に言われているのだと……それを思って腹を立ててしまいました……」
 勘違いした自分を恥ずかしく思いながら、宇都木は顔を赤らめた。
「未来は大人しい感じがするが……怒ると意外に恐い面があるからなあ……」
 クスクス笑いながら、如月は通りに立ち並ぶ店先のウインドーを見ていた。その硝子に映る如月が洗練された男に見える。だが隣りに映る自分はとても貧弱で似合っていない。
「……私……」
 どうして邦彦さんの隣りに立って似合わないんだろう……
 嫌になった宇都木は硝子に映った自分の姿から目を逸らせた。
「どうした?」
 如月は宇都木の考えたことなど全く気付かない顔でこちらを向いた。
「いえ……」
「御茶でも飲むか……」
 疲れたのだと誤解したのか、如月はそう言って喫茶店を探しはじめた。
 すると表通りにも椅子と机の置かれた、オープンカフェを見つけ、そこに入り二人ともアイスコーヒーを頼んだ。
 店の中は天井が高く、ガラス張りの周囲には観葉植物がおかれ、青々とした緑が気分をホッとさせる。
「……あ……なにやってるんだあいつ……」
 如月がアイスコーヒーに口を付けようとした瞬間そう言った。宇都木が如月の目線を追うと、何故か祐馬がうろうろしていた。
 あんな所で何をしてるんでしょう……
「まあ……いいか……あいつとは色々あったからな……声を掛ける気がしないよ……」
 苦笑しながら如月はアイスコーヒーを一口飲んだ。
「色々……」
 宇都木が言うと如月はチラリとこちらを見たまま何も言わなかった。
 ……あ……
 余計なことを言ってしまったかもしれない……
 視線を逸らせ、自分のアイスコーヒーを見ながら宇都木は反省した。祐馬とはまだ溝が出来たままの筈だ。そんなことを忘れて言葉がつい出てしまった自分が情けない。
「……あ……」
 また如月が顔を上げた。
 戸浪でもいたのだろうかと思ったが、如月の友人がカフェの入り口にあるテーブルについていたのを見つけた。
 あれは確か……
 大学の時の友人ですね……
 宇都木はその男を知っていた。
「悪い……ちょっと待っていてくれ。挨拶してくるよ……」
 嬉しそうな顔をして如月は立ち上がり、こちらの返事も聞かずに行ってしまった。
 気まずくなったのは……
 私達の方かも……
 祐馬さんのこと言わなかったら良かった……
 そんなことをウジウジ思っていると、急に声を掛けられ顔を上げた。
「祐馬さん……」
「こんにちは、宇都木さん。な、聞いて良い。どうして如月さんと一緒に御茶を飲んでんの?」
 祐馬にも気が付かれていたのだ。
「え……まあ……」
 だがこんな風に聞いてくると言うことは、祐馬は宇都木と如月がつき合っていることを知らないのだ。
 戸浪さんは何も言わなかったのだろうか……
 以前、戸浪とは話しをしなかったが、如月はハッキリと宇都木のことを紹介したはずだった。
 言わなかったんだ……
 ……
「……それともさあ……。俺、真下さんから聞いたんだけど……宇都木さんって如月さんの秘書なんだろ?東の家から出たって聞いた。でさあ、休みまで秘書ってつき合わなくちゃならないのか?」
 ……
 何て言えば良いんだろう……
「そ……そうなんです……」
 つき合っているという言葉が出ずに、宇都木は祐馬に言った。
「ふうん……。そいや、真下さんがすっごい残念がってたよ。宇都木さんに帰ってきて欲しいってブチブチ言ってたから……」
 はははと笑って、祐馬は言った。
「……はあ……そ、そうですか……。ところで、祐馬さんはどうしてここにいらっしゃるのですか?」
 話題を変えようと宇都木はそう聞いた。
「あ、俺……俺は……はは。プリン買いに来たんだ。ここの美味いって聞いたから……」
 照れくさそうに祐馬は頭を掻きながら言った。
「プリン……ですか?」
「その……戸浪ちゃ……いや……あいつ今日も会社出てるから……。俺……あいつの好きなプリンでも買ってきておいてやろうかなあ……って……」
 幸せそうな顔で祐馬は言った。
 以前せっぱ詰まった顔で相談してきた祐馬は何処にもない。
「きっと戸浪さんも喜ばれますよ……」
 例え今、この二人が上手くいっていたとしても、そして自分たちが穏やかな日々を暮らしていようと、戸浪が如月とつき合っていた事実は宇都木にとって重い事だった。
 この先、二度と如月が戸浪とつき合うことは無いだろう。それは分かっているのだが、現実はどんな風に転ぶか分からないのだ。
 だから祐馬がしっかりと戸浪を掴んでいて貰わないと安心できない。
「そかな……喜んでくれるかな……。ここのプリンって手作りですっげー評判がいいんだって。朝からの分はもう売れちゃったらしいんだけど、もうすぐ次のプリンが出来上がるそうだから、俺待ってるんだ。ここのプリン食べたことある?」
「さあ……食べたことありませんので……」
 宇都木はプリンなど食べたことがないのだ。
「如月さん……もっと落ち込んでるかと思ったけど……そうでも無いんだ……」
 チラリと如月の方を見ながら祐馬は言った。その如月は相変わらず、友人と話し込んでいた。
「……仕事が忙しいですし……」
 ……あ
 だからどうなんだと聞かれると困る……
「え、あ……そか。仕事をして気を紛らわしてるのかなあ……。なあんか、あれだけ色々あったから、簡単に手を引くと、俺は未だに信じられなくてさ。だって、如月さんって本当にあいつのこと好きだったみたいだし……。また何か企んでそうな気がするんだよね……」
「そんな人ではありませんっ!」
 思わず宇都木は声を張り上げて言った。
「……宇都木さん……」
「あ、す……済みません……」
「……ご……御免。そだよな。宇都木さんは今、如月さんの秘書してるんだし、悪口に聞こえたら、ごめん……謝るよ……」
 祐馬は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「いえ……あの……そう言うつもりでは……」
 思わず宇都木も視線を外した。
「俺……如月さんを見てると、なんだか自信がなくなるんだ。あの人ほんと、俺が言うのも変だけど……格好いいじゃん。だからかな……こう、俺と如月さんを並べると、やっぱ如月さんの方が見た目も良いし、仕事だってスマートだし……。元々俺は如月さんにあこがれてるところがあったから、余計に心配なんだ……」
 小さな声で祐馬は淡々とそう言った。
「でも……戸浪さんは祐馬さんを選んだのでしょう?それが答えでは無いのですか?」
 チラと祐馬を見ながらそう言うと、いきなり祐馬の表情に笑顔が戻った。
 ……た……
 単純……!
 いえ……
 元々、祐馬さんはこういう人でしたし……
「そ、そかな?あいつからしたら俺の方が良いって思ってくれてるのかな……」
 ……
 それは……
 分からないんですけど……
「だからつき合っているんでしょう?」
 にっこりと笑みを浮かべて宇都木は言った。
「うん……そう思うことにする。それにこんな事あいつに言ったら、また殴られそうだから……」
 殴る……
 そういえば彼は空手の有段者でしたね……
 でも……
 祐馬さんって普段、殴られているんでしょうか?
 想像が付かないんですけど……
「戸浪さんは貴方を殴るんですか?」
 思わず宇都木はそう聞いていた。
「え、ん~俺がくだらないことを言ったら殴るんだよな……でもあれも愛情表現の一つだと思うようにしてるけど……。でも如月さんが殴られていたとか考えられないよな……。殴られたことあったのかなあ……」
 考えるように祐馬は視線を彷徨わせた。
「さあ……」
 宇都木にも知らないことだった。
「でも如月さんはやっぱ格好いいよな……。こっちでも色々噂は絶えないんだろうなあ~」
 ぴく……
 色々噂がって……
「それはどういうことですか?」
 とりあえず表情は崩さずに宇都木は笑顔を向けた。
「え、如月さんに俺、一杯悪いことも教えて貰ったぞ。もちろん、アメリカの東都にいたころだけどね。だからさ、こっちでも色々悪い遊びをやってるのかなあって思ったんだけど……」
 ……
 色々悪い遊び……
 どういう遊びなのだろう……?
 宇都木は考えてみたが、そんなプライベートまで如月について探ったことは無かった。宇都木が知っているのは、如月の兄が舞と結婚する前の調査であり、それ以後は如月の周辺を詳しく調査したことなど無いのだ。
 もちろん、戸浪とのことが出てきたときは色々奔走したが、知らないことだってある。
「祐馬さんはどういう悪い遊びを教わったのでしょうねえ……」
 じーっと祐馬の方を見ながら宇都木が聞くと、祐馬は目をまん丸くした。
「うわ……。その……別に大したことじゃないよ……。爺ちゃんにもあいつにも内緒だからな……」
「怒ってませんよ。色々何を如月さんから教えられたのか聞きたいだけで……」
 宇都木は本当に知りたかった。
「三崎さん、ご用意できましたよ~」
 喫茶店の人間が、カウンターからそう呼んでいた。
「あ、出来たみたい。じゃあ……俺、行くね」
 祐馬はここぞとばかり立ち上がり、手を振りながらカウンターの方へ走っていった。
 ……
 逃げられた……
 恨めしそうな目を祐馬に向けていると、プリンの入った箱を二つ持ってこちらにやってきた。
「えーっと……こっち宇都木さんにあげる」
 言って箱を机の上に置いた。
「口止め料ですか?」
「あはははは。それもあるけど……じゃあ……」
 祐馬は今度こそ本当に喫茶店から出ていった。そうして暫くすると如月が戻ってきた。
「おい、何を楽しそうに話していたんだ?」
「え、いえ……別に……」
 じっとプリンの入った箱を眺めながら宇都木は言った。
 邦彦さんは……
 色々何をしていたのでしょう……
 いや、正確には色々何を祐馬に教えたのか……だ。
「で、これは何だ……お、プリンか……」
 がさがさと勝手に箱を開けて如月が言った。
「祐馬さんが……下さいました」
「ふうん。そういえば戸浪はプリンが好きらしいからな……あいつも大変だ……」
 クスクスと笑いながら、如月は開けた箱を閉じた。
「邦彦さん……あの……」
「ん?」
「戸浪さんがプリンを好きなことをご存じでしたか?」
 ……違う……
 そんなことを聞きたい訳じゃあ……
「いや……知らなかったな……」
 苦笑いしながら如月は言った。
「……そうですか……」
「あいつとは長く一緒にいたはずだが……知らないことの方が多いということを祐馬と話して分かったな……。結局、あのままつき合っていたとしても長続きしなかったんだろう……」
 何処か悟ったように如月は言った。
「邦彦さん……」
「さて、そろそろ行くか?何処か座り込んでこいつを食ってもいいしな……」
 プリンの入った箱を持って如月は立ち上がった。それに合わせるように宇都木も立ち上がった。
 
 外に出ると相変わらず天気は良く、心地よい風が頬を撫でていた。
 なんて穏やかなんだろう……
 東の家にいたときにはこんな風があることなど忘れていたのだ。
 周りの景色に足を止めることなど無かった。今は、淡々と流れる時間が宇都木の気持を穏やかにさせ、自然の景色が美しいことをこの年になって知った。
 ……あ……手……
 気が付くと、隣を歩いていた如月の手が、宇都木の手を握っていた。
 ……
 は……
 恥ずかしい……
「邦彦さん……」
 人に見られたらどう思われるか……
「なんだ?」
「あの……手……」
 離して下さいとは言えない宇都木だ。
「どうして……恋人同士だろう……」
 宇都木の心配など何処吹く風で如月は言った。
 恋人同士……
 かああ……
 まだ宇都木は実感が無いのだ。いや、何時まで経ってもきっと実感など湧かないのかもしれない。
「でも……人が……」
 男同士で手を繋いでいるところを見た一般人が何を言うか分からないのだ。
「誰も見てないさ……」
 鼻歌でもしそうな如月は機嫌が酷く良かった。それとは逆に宇都木は心配で仕方ない。
 チラリと周囲を窺った宇都木だが、気にとめる人間など誰もいなかった。みなそれぞれ恋人達と休日のデートを楽しんでいるようだ。
 ……気にしすぎなのでしょうか……
「あの辺に座るか……」
 急に如月はそう言い、歩道の向こう側にある短い芝生の生えた場所を指さした。そこにはパラパラと他の人間も座り込んでおり、何をするわけでなく雑談を楽しんでいた。
 そこに二人で入り、自分たちも適当な場所を確保し、芝生の生えている場所に何も敷かずに座り込んだ。 
「プリン食うか?」
 如月はそう言ってがさがさと箱を開けてプリンを取り出した。中にはプラスティックのスプーンと、小さな紙ナプキンが付いていた。
「……はい」
 渡されたプリンを膝にのせ、宇都木はじっとプリンを眺める。先程の事がまだ引っかかっていたのだ。
「おい、プリンは嫌いか?」
 そう言った如月の方を見ると、本人は既にプリンを半分まで食べていた。
 はや……っ!
「邦彦さん……もうそんなに食べたのですか?」
「もうって……こんな小さなプリンだから三口くらいで食えるぞ」
 スプーンで掬い、また口に放り込むと、カップの中は既に空になっていた。
「……そ……そうですけど……」
「結構美味いぞ……」
 ペロリと親指を舐めて如月が言うと、宇都木はその仕草にドキリとした。
「じゃあ……私も……」
 ぴりぴりとビニールを開け、宇都木もプリンを一口食べてみた。すると卵の味と甘いバニラの味が口の中に広がった。
「美味いだろう……」
 嬉しそうに如月が言うので、宇都木はコクリと頷いた。
「本当は、こう、カラメルのところと混ぜてぐちゃぐちゃにするのが美味いんだが、小さい頃そうやって食べようとしたのを母親に怒られたよ。気持ち悪いってね」
 ぐちゃぐちゃにって……
 普通そんなことします?
「……気持ち悪いです……」
 想像して嫌な顔をすると、如月がいきなり宇都木のプリンを取って、スプーンで混ぜた。
「あっ……何をするんですっ!」
「こうやってどろどろにするんだよ……」
 如月は嬉しそうだったが、プリンの姿など何処にも無くなったものを返された宇都木はどうしていいのか分からなかった。
「……酷いです……私のプリンなのに……」
 無惨にもどろどろになってしまったプリンを眺めながら宇都木は何となく悲しくなってしまった。
「これが美味いんだろ……」
 これの何処が美味しそうに見えるのだろうか?
 宇都木には理解が出来ない。
 時々如月は妙なことを言うのだ。それがいつも宇都木を混乱させる。
「じゃあ……貴方が食べて下さい。私はこういうのは嫌です」
 言ってプリンの入れ物を如月に押しつけ、ムッとした顔をした。
「……まあ……多分嫌がるとは思ったんだけどなあ……」
 ぐちゃぐちゃに混ぜたプリンを、まるで飲み物を飲むようにして如月は食べた。
 変な人……
 いえ……
 変な食べ方……
 じーっと宇都木が如月を見ていると、いきなり口元を掬われた。
「ん……ん……」
 甘い……
 邦彦さんの口の中……
 甘いです……
 まだ残るプリンの味がそのまま絡められる舌から味覚として伝わる。それはほんのり甘く、そして苦みがあった。
「……ほら……美味かっただろ」
 口元を離した如月は笑いながら言った。
「……まあ……形は変わっても……プリンの味はしました……」
 形が問題だったのだろうか?
 いえ……
 食べ方に問題が……
「ぶはっ……はっ……ははははは」
 如月が急に笑い出したので宇都木は驚いた。
「どうしたんです?」
「未来は面白いな。どうしてこう、何事も真面目に考えるんだろう……もっとこう、冗談を冗談でとってくれないと……私はつっこめないぞ……」
 と言われても……
 つっこめないです。
 う~ん……
 真面目なのが駄目なんでしょうか?
「あの……真面目は駄目ですか?」
 そう宇都木が言うと更に如月は笑い出した。
「そうそう、それが真面目なんだ……いや……悪いと言っている訳じゃないんだ」
 馬鹿にされているような気がする……
「……なんだか……嬉しくないです……」
 俯き加減にそう言うと、如月は慌てていった。
「いや……だから、そういうお前が可愛いって言いたかったんだ……」
 ……
 可愛い?
 真面目なのが可愛いのだろうか?
 それは矛盾しているような気が……
「別に……良いんです。こういう性格ですし……」
 面白みのない自分の性格はよく分かっているつもりであった。それを如月に言われたとしても、本当の事であるから反論しようがない。
「おい……おいおい、未来……。急に落ち込むな……」
 宥めるように言われ、益々意固地になってしまった。
「落ち込んでなど……無いです……」
「要するに……そう言うところもひっくるめて、私はお前を愛してるんだから、別に落ち込むことなんか無いんだ……」
 言いながら如月は空になったプリンの入れ物を、箱に入れていた。だがプリンはまだ中に新しいものが入っている。
「ゆっくりプリンを食べられる所に行こうか……」
 意味ありげに如月はそう言うと、プリンの箱を持ち立ち上がった。
「え?」
「静かな……良いところにさ……デートは始まったばかりだろう?」
 更に笑みを濃くして如月はそう言った。
 そう……
 デートは始まったばかりだった。

―完―
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ああ……キリリクをいただいたのに、まさに続く状態で終わってしまいました。ごめんなさい~うう。ラブラブはこれから……という感じですね。また記念に続編を書くと言うことで許してください~。枚数が足りなかったです……。
なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね!

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