Angel Sugar

「ラブラブ?デート2」 (70万ヒット)

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 如月に連れられ宇都木はまた歩き出した。
 辺りはぽかぽかとした陽気で気持ちがよい。久しぶりに都会の喧騒を離れ、こうやって二人で歩けることに宇都木はことのほか幸せを感じた。
 空を見上げると如月と同じ瞳の色が広がり、雲一つない。溜息が出そうなほどの青さに宇都木は釘付けになる。
 幼い頃、両親と海に行った思い出をハッキリと覚えていた。まだ小さかった宇都木なのだから、本来なら記憶として残っている訳など無い。それでも宇都木の記憶にはあの時のことが鮮明に残っていた。
 泡立つ白波を追いかけ、寄せては返すその不思議な波に首を傾げ、踏みしめると軋む濡れた砂浜で一日中両親と楽しんだ。
 日は熱く照り、晒される熱風に幼い宇都木の事を心配した母親が自分の帽子を被せてくれた。それは白いレースのついた帽子だった。宇都木には大きすぎ、目元まで下がってくるつばを母親は笑いながらも後ろに引っ張り、視界を確保するように整えると、顎紐を結んでくれたのだ。
 父親が持ってきた家庭菜園用のスコップで砂浜を掘り、宇都木のために城を作ろうとしたが、うち寄せる波に砂の城はさらわれ、気が付くとただの砂地になってしまった。
 それすら宇都木は不思議で、取られた砂を求めて、仕事を終えたとばかりに引いていく波をひたすら追いかけた。そしてまた打ち返し自分に向かってくる波から逃げるように浜辺を走っていたのは遠い日のことだ。
 懐かしい……
 あの時はまだ団らんという暖かい場所があった。
 何時それらを見失ったのか分からない。
 何処で両親が道を踏み外したのか……宇都木には思い出せないでいる。
 ただ、父親に仕事が無くなり、家に入り浸るようになってから歯車が狂ってしまったのだろう。収入が無くなり、最初のうちは母親が働きに出かけていたが、それもいつの間にか辞めてしまっていた。
 気が付くと食べる物が無くなり、寒い季節に暖をとることが出来なくなったのは確かだ。宇都木は寒さのあまりに、物置にそなえつけてあった剥き出しの裸電球をつけ、手をかざしては温まろうとした。だが背が届かなくてダンボールを重ねてようやく手が届いたことを覚えている。
 寒さと飢えだけを覚えている。
 真夏の暑い盛りでも心が凍えていた。
 両親どちらとも奇妙な宗教に心酔してから己の子供を振り返ることをしなくなったからだ。暑い日差しから守るように帽子を被せてくれた母親はもういなかった。砂を掘り城を作ってくれた父親もいなかった。
 今は二人ともこの世にいない。
 代わりに今、側にいるのはずっと宇都木が望んでいた人だ。如月の持つ青い瞳が宇都木の姿を映すとき、その度に愛されていることを実感し感動する。
「未来……?」
 ぼんやり空を見上げている宇都木が気になったのか、如月はこちらを向いた。
「……え……」
「何かおもしろいものでも見えるのか?」
 宇都木の見ていた方向を同じように如月は見た。
「いえ……空が青いなあ……と思って……」
「……それほど大したことじゃないだろう……」
 如月は宇都木の言葉に笑いを漏らす。そう、如月からすると空が青いことも、こうやって二人で歩くことも別段特別なことではないのだろう。
 だが宇都木には今奇跡が起こっているようなものなのだ。だから如月と共に暮らす日々に感謝している。
「そ……そうなんですけど……」
 宇都木は如月に自分の両親の話をしたことがなかった。する必要がないと考えているのもあるのだが、例え聞かれても話せないことだ。両親と違うとはいえ、家庭事情を知った如月が宇都木に対し、どんな思いを抱くのか……それを考えるだけでぞっとする。
 両親を恥じることはしたくないのだが、狂ってしまった親を持ち、子までそうだと思われたくないと言うのが実際だった。恥じる気はない。ただ恐いのだ。
 折角与えられた居場所を失うのは……それも今までで一番望んだ居場所を無くすことだけは耐えられない。
「お前……もしかして青い色が好きなのか?」
 宇都木の考えていることなど全く気付かず如月は笑った。
「とても好きです」
「考えてみると、シーツも薄い水色だし……羽布団も青が基調だからな。そうか……好きだったのか……」
 何故か如月は満足そうだ。
「一番好きな青はもちろん邦彦さんの瞳の色です……」
「……青くて良かったな……未来に気に入られたんだから……」
 機嫌良さそうに如月はプリンの箱を上下に振った。
「余り振ると、プリンが……」
 またグチャグチャになります……と言いたかったが、そこまで宇都木は言えなかった。
「プリン……ん?ああ……そうだな……」
 如月は全くプリンのことなど意に介さず、更に箱をぐるぐると回す。どうも宇都木に心配させたいようだ。
 ……
 時々子供みたい……
 宇都木はそんなことを考えながらも、これ以上振りまわされるとプリンが本当に崩れてしまうと考え、如月の手から箱を奪った。
「あ……おい~」
 楽しみを取り上げられた子供のような顔に如月はなった。
「駄目です。これ以上振りまわすと食べられなくなります」
 両手で箱を抱えるようにして持ち、宇都木は大切なもののように扱った。折角祐馬が買ってくれたのだから、丁寧に扱わないと申し訳ないのだ。
「グチャグチャにするのが美味いんだって言ってるだろう……」
 またそんな風にして食べたい様子で如月は宇都木を見た。
「……嫌です。自分の分は普通に食べます」
 一つくらいは食べておかないと、今度祐馬に会ったとき、味はどうだったかと問われて答えられないのではまずいだろう。
 だからといって如月の食べ方は少々遠慮したいのだ。
「未来~グチャグチャは美味いんだって……」
「……嫌です……」
 本当に嫌な顔をしてみせると、如月は大声で笑い出した。
「未来は面白いな……」
 ……
 いえ……
 邦彦さんの方が面白いです……
 じっと如月の顔を見ていると、如月が言った。
「じゃあ……未来。入ろうか」
「え?」
 ふと顔を上げると、ホテルの入り口に立っていた。もちろんラブホテルではなくごく普通のビジネスホテルだ。
「邦彦さん?」
「ゆっくりプリンを食べたいだろう?」
「うちに帰ってからでも良いんですが……」
「私はすぐに食べたいんだ……」
 如月はそう言ってグイグイと手を引っ張った。
「……あの……あのうう……と……泊まるんですか?」
 急に羞恥心で顔を赤らめて宇都木は必死に踏ん張った。
「いや……ご休憩と言う奴だ」
 鼻歌でも歌いそうなほど気分良く如月は宇都木を引っ張る。
「……は……はあ……そ……そうですか」
「違うぞ。ゆっくりプリンをお前に食わせてやろうという優しい気持ちからだ」
 ……
 ほ……
 本当ですか?
 なんとなく納得がいかないのだが如月の言うことに所詮逆らうことなど宇都木には出来ない。促されるままに如月について歩き、フロントで手続きを終えると次にエントランスを抜けてエレベーターに乗る。
 すると先程如月から奪ったプリンの箱が胸元でコトコトと音を立てていた。 
 プリン……
 うちに帰ってからでも良いんですけど……
 多分、そろそろ生ぬるくなっているはずだった。冷えていないプリンは買ってくれた祐馬に悪いが何となく気持ち悪い。
「邦彦さん……私、プリンはうちに帰ってから食べます……」
 その言葉に、何か勘違いした如月は慌てていった。
「ここまで来てそれは無いだろう?駄目だぞ未来……」
「……いえ……休憩は良いのですけど……プリンは……ちょっと……」
 もごもごと言いながらそれでも、如月について歩く。
「実はプリンが嫌いか?」
 チラと振り返り如月は驚いた顔を見せた。
 プリンが嫌いなのではない。グチャグチャに混ぜるプリンと、生ぬるいプリンに気が進まないだけなのだ。
「そうではありませんが……」
「はっきりしないな……。そういえば未来は食わず嫌いなところがあるからなあ……食ってみたら美味いと分かる」
 一人納得したような顔で、借りた部屋の扉を開けた。
「……食ってみたら……ですか……」
 見上げるように如月を見ると、いきなり身体を引き寄せられた。その瞬間、胸元に持っていた紙箱が嫌な音を立てた。
「ま……待って下さい……プリンの箱……」
 グイッと如月を押しのけ、宇都木が箱を確認するとひしゃげた箱が目に映った。だが中身は大丈夫のようであった。
「プリンなんか良いよ……」
「食べるんじゃないんですか?」
「嫌なんだろう?プリン……」
 言いながらも如月は唇を額にのせて滑らせてくる。
「いえ……嫌いでは……」
 箱を何とか脇によけ、宇都木は体を後ろに反らせた。その行動が拒否していると如月には感じられたのか、さらに腰元を掴まれ引き寄せられた。
「未来……昼間からは嫌か?」
 青いクリスタルで作った硝子細工のような瞳を向けられ、拒否など出来る訳など無い。その為宇都木は顔を左右に小さく振った。
「とりあえず、プリンが邪魔だな……」
 如月はプリンの箱から中身だけ出すと、部屋の端に据えられた冷蔵庫の何故か冷凍庫の方を開けて入れた。
「邦彦さん……そっちは冷凍庫ですが……」
 屈んで戸を閉めている如月に宇都木は後ろから声を掛けた。
「早く冷やしたいときは冷凍庫に入れた方が良いんだ」
 先程までプリンの入っていた箱を丸めてゴミ箱に捨てると如月はまたこちらを向いてにんまりとした笑みを浮かべた。
 ……
 その……
「邦彦さん……」
 とりあえず宇都木も笑みを浮かべたが、引きつっているような気がした。
「未来おいで……」
 如月はダブルのベッド端に腰をかけこちらに手を伸ばして「おいで、おいで」という仕草で宇都木を呼ぶ。それに引き寄せられるように宇都木は如月の胸元に飛び込んだ。
「おいおい……」
 宇都木の勢いにベッドに倒れ込んだ如月は苦笑しながら胸元にしがみついている宇都木の頭を撫で上げた。
「……邦彦さんが呼んだから……」
 厚い胸板に頬をこすりつけ、そこから伝わる温もりに目を細めながら宇都木はつぶやいた。タバコの香りのする如月の香りは慣れたものであるが、いつ鼻を掠めてもホッとする香りであった。
「……そうだったな……」
 何度も頭を撫で上げ、その手はそのまま背に回る。大きな手のひらで撫でられると心地よい酔いに宇都木は浸れるのだ。
「気持ちいい……」
 やはり目を閉じたまま宇都木は小さな声で言った。すると如月の手は更に力強く背を上下した。こんな風に強く擦りあげられるように撫でられるのが宇都木は好きだった。触れているという感触が強くこちらに伝わるほど安堵できるからだ。
「脱いで見せてくれ……」
 見つめる青い瞳に魅入られたように宇都木は身体を起こし、如月の上に乗ったまま自分のシャツのボタンを外し始めた。その一つ一つの仕草を如月の瞳は追いかけてくる。それだけで身体が疼き出すのが不思議だ。
 日はまだ高く、シャツを全部脱ぐことに躊躇いがあった。だがじっと見つめる瞳の熱さに宇都木は上半身を裸にすると、シャツをベッドに脱ぎ捨てた。そんな宇都木の露わになった肌に如月は手を伸ばし、自分のものだという風に腰や胸をなで回してくる。
 ……
 ああ……
 どうしよう……
 恥ずかしい……
 明るい光の中でみだらな行為を行おうとしている自分が恥ずかしくてたまらないのだ。だが求められている以上、宇都木は如月の言うとおりにするしかない。
「未来……下は?」  
 その声に宇都木は頬を赤らめ、手をベルトに向かわせてズボンを脱いだ。最後の一枚だけが宇都木のまだのこる羞恥心そのものだった。
「……なんだ……全部は脱いでくれないのか?」
 意地悪く笑う如月の手は相変わらず宇都木の腰元を彷徨っている。
「ずるいです……一人だけ涼しい顔をしているなんて……」
 裸になった自分が、きっちり服を着ている如月の上に乗っている姿がどれだけ恥ずかしいかこの男に分かっているのだろうか?
 多分、分かっていてこんな風に一人涼しげな顔をしているのだろう。
「涼しい顔?そうかな……」
 笑いながら如月は続けた。
「未来を抱きしめたくてたまらないんだ……」
 こちらを見つめる瞳は青い色をしているにもかかわらず、熱のある色に見えるのは錯覚なのだろうか?
 本来なら冷えたイメージがあるのだが、如月の瞳が宇都木を見つめるとき、いつもこんな風に熱がこめられていた。
 それを確認すると本当に愛されていると宇都木は実感できる。
「邦彦さん……」
 宇都木は身体を倒し、如月の胸に再度すり寄り手を如月のシャツにかける。そしてボタンを一つずつ外すのだが、当の如月は何も言わずにくすくすと笑っていた。
「どうして笑うんですか?」
「未来が積極的だからな……なんだか楽しいんだ……」
 目の端に涙をためているところをみるとよほど楽しいようだ。だが宇都木は真剣だった。
「私は真剣です」
「お前はいつも真剣だな……うん……そういう未来が好きだ……」
 口元をそっと合わされ、舌をすくい取られると、そのまま甘い感触を味わった。何度も重ね合わせながら、それでも宇都木は如月のシャツをはだけるために手を伸ばしていた。
「……なんだか器用だな」
 言いながら如月は自分からも衣服を脱ぎ、互いに裸になるとそのまま抱き合ったまま暫くまんじりと過ごす。
 部屋には空調の微かな風の音が聞こえるだけで他に音はしない。無言になった如月が眠ってしまったのだろうかと、目線をそろりと上げ確認すると細めた瞳でこちらをじっと見つめていた。
 ……
 な……
 なんだか……
「邦彦さん……ど……どうするんですか?」
 オロオロと宇都木が言うと、如月の方は不思議な表情を向けてきた。
「どうするってお前……たまにはこうやって裸で抱き合うのもいいだろう?」
 上げた頭をグイッと胸元に押しつけられ、宇都木は更に慌てた。初めての状況に戸惑っているのだ。
「……外じゃ幾らなんでもこんな風にお前を抱きしめられなかったからな……」
 うっとりとした笑みを向けながら如月は言った。
「……あの……あのうう……は……恥ずかしいです……」
「なんだ……?抱き合ってるだけだろう?」
 と、如月は言うが、ベッドの上でしかも素っ裸で何もせずに互いに抱き合っているだけの姿は想像するだけで恥ずかしいのだ。もちろん、欲望をぶつけ合ってしまえば、そのまま流され羞恥心など何処かに流されていただろう。
 だが今は違う。
 外から入ってくる日の光だけで室内は照らされ、ベッドに絡まった二人の姿がまるで鏡のように窓に反射して映っているのだ。向こうから見られたりはしないのだろうかと考えると余計に恥ずかしい。
「……し……しないんですか?」
 恐る恐るそう言うと、如月はニコリと笑った。
「お楽しみは晩にな……宿泊する用意をしていたなら泊まっていたが、これじゃあ悪いことが出来ない」
 一応色々考えた結果のようだった。
「……は……はあ……」
「……未来の肌が……汗ばんでる……」
 囁くように如月は宇都木に言い、背を撫でてくる。
「私の触れる肌に……感じてるんだな……どんどん……お前の肌が潤ってくる……」
 かあああああ……
 そ……
 そんなことを言われたらよけいに……
「く……邦彦さん……」
「未来の腰元が熱くなってきたな……」
 目を細めてニンマリと笑う如月は宇都木の状態を分かっていて手の平で太股を撫でてくる。
「や……止めてください……」
「ああ……冷やせるものがあったじゃないか……」
 いきなり身体を起こし、如月はベッドから下りると、来たときに冷凍庫に入れたプリンを取りだし戻ってきた。
「……」
「ほら未来……冷たくなってるぞ」
 ……
 裸で食べる物ですか?
「なんだ?」
 怪訝な表情をしている宇都木に如月は首を傾げていた。
「邦彦さん……あの……プリンは裸で食べる物ではないと思うのですが……」
 この状況でプリンを何故食べようと思えるのか宇都木には理解できない。
「なんだ……お前は海に泳ぎに行ってかき氷や、スイカを食ったことが無いのか?」
 ……
 同じですか?
 私は……違うと思うんですが……
 言葉を失っている宇都木をよそに、如月はプリンのビニールを取り去ると嬉しそうにこちらに擦り寄ってきた。
「随分冷えてるぞ。これで火照った身体も冷えるだろう……」
「え……ええ……そ……そうですね」
 小さなスプーンでひと掬いしたプリンを宇都木の口元に近づけてくる如月の顔はにこやかだ。仕方無しに宇都木はプリンの乗ったスプーンを口に入れた。
「冷たいっ……」
 プリンは冷えるを通り越し、半分凍っていた。その為口から耳を突き抜けるような冷たい刺激が宇都木の中を走った。
「……あ……これじゃあ混ぜられないな……」
 残念そうに如月は言う。だが宇都木にはこの光景自体が異様に見えて仕方がない。どうして裸の男二人がベッドでプリンを食べているのだろう。
「……あのう……」
「ん?」
 あぐら姿の如月は己のモノを隠そうという気が無い様子でこちらを見る。
「は……恥ずかしいんです……」
 毛布を引き寄せ如月と自分の股の部分を隠しそう言った。
「見慣れてるのに?」
 そういう問題ではない。だが如月は同じように考えている。
「プリン……食べます……」
 グイと如月の持つ手からプリンを奪い取り、宇都木は速攻食べてしまおうとしたが、カチカチになっている表面にプラスティックのスプーンが刺さらない。
 ……
 どうしよう……
 チラリと如月を見るとまたニヤニヤとしている。
「カチカチだろ……」
「は……はい」
 グリグリとスプーンで表面を削ぎながら宇都木は言った。
「シャーベットみたいであんまり美味く無さそうだな……」
 邦彦さんがこんな事にしたんです!
 とは言えない。
「いえ……美味しいです……」
 しゃりしゃりになったプリンの欠片を口に入れ、宇都木は笑って見せた。
「変な奴だな……」
 ポリポリと頭をかいている如月は本気でそういっていた。だが変なのは如月の方だと思っている宇都木には納得がいかない。
「……一番変なのは……邦彦さんですよ……」
 更にプリンの表面をスプーンの先で引っ掻き、かき氷状になったプリンを口に入れた。甘いのか冷たいのかもう味覚が麻痺して良く分からない。
 祐馬さんに聞かれたら……
 とりあえず美味しかったと言えば良いんだ……
 そんなことをぼんやり考えながらも凍ったプリンを綺麗に食べ終わると、如月がこちらをじっと見ていることに気が付いた。
「なんでしょう?」
 宇都木が如月の方を向くと、いきなり毛布をめくられた。
「なっ……何するんですかっ!」
 また露わになった自分の股下を隠そうと、引っ張られた毛布を宇都木も掴む。一瞬二人で毛布の引っ張り合いになり、諦めたのか如月の方から手を離した。
「うっははははははっ!」
「何が可笑しいんですか……わ……私は恥ずかしいです……っ!」
 もう身体中を真っ赤にしながら宇都木が言うと、如月は言った。
「いやあ……なんかこう隠されていると捲りたくなるだろう?」
「……それって……痴漢みたいです」
「……ん?痴漢?」
 ジロッと目線を送られ、宇都木は下手なことを言ってしまったと肩を竦めていると、今度は毛布を頭から被せられた。
「っ!!」
「どうだ……参ったか」
 何が……
 何が参ったのか?なんですか?
 宇都木は真っ暗になった視界の中で目をぱちくりとさせて考える。しかし如月の行動が全く理解できないのだ。
「面白くないな……」
 毛布を剥がされ頭が表に出ると、不服そうな如月の顔が見えた。
「……今のは何ですか?」
 心臓をバクバクとさせながら宇都木は聞いた。とにかく意味が分からないのだ。どうして如月が面白くないと言うのかも宇都木には考えても理解を超えているのだから問題の男に尋ねるしか無いだろう。
「小さい頃、こんな事をして遊ばなかったか?」
 宇都木はその問いに首を思い切り左右に振った。
「……そうか……いや……悪かった……」
「普通はこんな事をして遊ぶんですか?」
「……う~ん……兄さんと良く毛布にもぐったり、枕を投げたりしたなあ……それで、そば殻が飛び出して身体中痒くなって後でこっぴどく母親に怒られた。でも面白かったぞ」
 そんな遊びなど宇都木はしたことがない。その上、如月の兄である秀幸も一緒になっていたなど考えつかないのだ。
 秀幸は如月を冷たくしたような男だ。それは仕事上のことであるが、厳しいのは如月以上だと聞いている。
 逆にそんな秀幸がこのような遊びをしていたと知ったことが可笑しかった。
「何だようやく笑ったな……」
 嬉しそうに如月は宇都木の額にかかる髪をかき上げた。
「……え?」
「なんていうか……お前がいつも真面目な顔をしているからな……たまにはこう、腹の底から笑ってもらいたいと思ったんだ……。だが、方法が分からないだろう?私は漫才師じゃないしなあ……。だから思い出せる限り笑えるような事をしてみたんだが……」
 優しげに瞳を細めて如月は言った。
「邦彦さん……」
 如月の奇妙な行動がすべて自分のためだと知ると宇都木は胸が熱くなった。
「おい……泣いてもらうためにやったんじゃないぞ……」
 狼狽えながら如月はこちらの顔を覗き込んでくる。だがにじむ涙は止まらない。
「まあ……な……。お前はいつもこう、自分の中で思い詰めるだろう?だからかな……笑わせてみたいと思ったんだ……。楽しくて笑うのが一番人生にとって必要なことだろうからな……」
「ありがとうござます……」
 目元を擦りながら宇都木はようやくそう言った。
「時折お前が折れてしまいそうで怖いときがある。熱い日差しがあるなら日よけになってやる。寒かったら暖めてやる。だから……未来、ももっと私を頼ってくれ。私が何のために側にいるか分かっているだろう?抱き合うだけが恋人同士じゃない……」
 まるで、自分が考えていたことを見抜かれていたような如月の言葉だった。だがとてもそれは暖かく、宇都木の心をやんわりと包み込むのが分かる。
 引き寄せられて直に触れる肌は言葉と同じくらい暖かかった。
 この人を好きでいて良かった……
 ただ、ちょっぴりお互い裸なのが恥ずかしいと思った宇都木であった。

―完―
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キリリクの続編です。しかしあれだけエロを公言していたにも係わらずこんな風に終わってしまいました。いやその……ムードよく(?)終わりたかったなあと。え、全然ムードないって? うはははは。失礼しました。でもまあラブラブかなあと? エロには枚数が足りなかったです……。ごめんなさい
なお、こちらの感想も掲示板やメールでいただけるととてもありがたいです。これからもどうぞ当サイトを可愛がってやってくださいね!

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