Angel Sugar

「続・悪夢のレッスン1(祐馬視点)」 (4万ヒット)

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 一本の電話から悪夢は再び始まった。

「もしもし?あ、大良さん……」
 祐馬が仕事から帰ってくると大地の彼氏である博貴から電話が入った。
「以前私が教えて上げたことは役に立ったのかなあと思ってね。首尾はどうでした?」
 博貴のその声は楽しんでいるように聞こえた。
「あれは……その、大地君がお兄さんに全部ばらしてしまって……酷い目に合っちゃったんです。だからその……折角教えていただいたんですけど、無駄になって……」
 と、祐馬が言うと電話向こうの博貴は爆笑していた。
 ……笑うけどさあ……
 マジ、笑い事じゃなかったんだって……
 祐馬はあの後、半日トイレから出ることが出来なかったのだ。その上、ようやく戸浪が諦めたと思いきや、H禁のおふれが出されたのだから、たまったものでは無かった。
「三崎さんはどうも、その好きな相手に対する扱い方が、いまいちなんだよね」
 尚、笑いながら博貴はそう言った。
 いまいち……
 きっつ~と、思うのだが、相手は百戦錬磨のホストだ。そんな博貴から見るとこっちはただのぼんくらに見えても仕方ない。
「……そうおっしゃられても……、大良さんのように俺、女性だって上手くエスコート出来るタイプじゃないし……」
「じゃあさあ、提案なんだけどね、良かったら一日ホストを体験してみないかい?」
 博貴は意外にまじめな声でそう言った。
「ホスト?」
「そう、ホスト。それで女性のスマートな扱い方を学べば、少しは上手い台詞がさらりと出てくるようになりますよ。どう?来週あたり……。あ、オーナーの榊さんには私から話しておきますよ。その辺は心配しなくても大丈夫!」
「……俺にそんなことできるかなあ……」
「ちゃんと私がついていますから」
 と、博貴は言い、あれよと言う間に一日ホスト体験をすることになった祐馬だった。



 会社から帰宅途中、戸浪は自分の携帯が鳴るのが分かった。
「もしもし……ああ、大か。なんだ?え、今から?」
 大地が会いたいというので戸浪は時間を確認すると「いいよ」と言った。
 そうして大地が指定する喫茶店に入ると、既に来ていた大地が奥から手を振っていた。
「兄ちゃんこっちこっち~」
「どうしたんだ?突然会いたいって……」
 笑みを浮かべながら戸浪は大地の前の席に腰を下ろした。するとウエイトレスが注文を取るためにやって来た。
「ホット一つ……」
「あ、駄目駄目、今から行くとこあるんだから……。んじゃ兄ちゃん行こうか?」
 言って大地は立ち上がり、こちらの手を取って引っ張った。
「おいおい、話が見えないんだが……」
 戸浪は大地に引きずられるまま、今入ったばかりの喫茶店から出た。
「大?」
 大地は表通りでタクシーを捕まえるために手を挙げていた。
「あ、ちょっとまって……タクシーに乗ったらちゃんと話すから、あ、タクシー止まった。兄ちゃんあれに乗るよ」
 そうしてタクシーに乗り込むと、大地は事の次第を話し出した。
「何だって?ホスト体験?なんだそれはっ!」
「どうせ大良が、からかってるんだろうけどな。それは良いんだ別に……でもほら、いろんな女の人が来るわけだから、大良は慣れてるから適当に追っ払うだろうけどさあ、そういうの慣れてない三崎さんがどうなるか分からないだろ?そりゃ大丈夫だと思うけど、あそこに来る女の人って結構綺麗所来るし……」
 そう大地が言うので戸浪はピクリと眉が動いた。
 綺麗所の女がなんだって?
「でさあ、一晩だけの付き合いだってホストってあるんだぜ。もしほら、綺麗な女の人にふらふらって付いていっちゃったりなんかしたら、俺の責任だろうし……」
 って、お前の彼氏はホストだぞ……
 いいのかそれで?
「お前……よくそんな所で働く男とつき合ってるな……」
 溜息をつきながら戸浪は言った。
「え、俺はほら~大良のこと信じてるし……」
 と照れ照れとそう大地は言った。
 その根拠は何処にあるんだ……
「……何でもいいが……それで、どうするんだ?いくらなんでも店に乱入するなんて、警察沙汰になるような事は出来ないぞ」
 祐馬の奴……
 今晩帰ってきたらどうしてやろう……
 と、イライラと考えながら戸浪は何とか気持を落ち着けた。
「分かってるよ。あ、運転手さんここでいいよ。あ、兄ちゃんはらっといて」
 そう言って大地がさっさと車を降りるので、戸浪は会計を済ませると自分も外へと出た。
「や~ん。大ちゃん待ってたわよ~」
 すると、綺麗な女性がそう言って大地に抱きついていた。
 だ、誰だこの女性は……
 戸浪がぼんやり見ていると大地が振り返って言った。
「あ、こっち川上真喜子さんっていうんだ。俺の友達だよ。俺が入院してたとき、時々来てただろ?兄ちゃん忘れた?」
「そ、そう言えば……」
「お久しぶりです」
 真喜子はそう言ってペコリとこちらにお辞儀をする。それにつられて戸浪も「はい」となんだか間抜けな言葉を言ってお辞儀した。
 確かに大地が入院していた時に見た女性だ……
 だが……
 あの時と印象が違うのは、綺麗に化粧され、華やかなスーツを着ているからだ。確かに美人なのだが、何処か普通の女性には見えない。
 どうみても、ホステスという名の職業に見える。
「大ちゃん時間無いし、入って入って~」
 そう言って真喜子は大地を羽交い締めしたまま、どこかの店の裏口へと向かった。裏口にはシャガールと書かれていた。
 ここは店の裏口なのか……と、戸浪がぼーっと立ちすくんで考えていると、大地が叫んだ。
「兄ちゃんっ!ほら、ちゃんと付いてきてよっ!」
「え、あ、ああ」
 そう言って戸浪は大地の後をついて中へと入った。
 すると、舞台の裏側にある化粧室のような場所へと案内された。だがそこには数人の真喜子と同じホステスが座わり、部屋の側面一杯に貼られた鏡を見ながら化粧をしていた。
 だがこちらを認めると、全員がにこやかに迎えてくれた。
 迎えて……
「マッキーの言ってた男の人ってこの二人?すっごい目の保養~!」
 と、左側の椅子に座っていた女性が言った。
「そうよ。じゃあみんな、打ち合わせ通りに綺麗にしてあげて」
 打ち合わせ通りに……綺麗にしてあげて……って?
「おい、大……」
「御免兄ちゃん。ホストクラブってね、女性しか入られないんだ。だから、さ」
 大地は既に了解済みなのか、椅子に座って、数人の女性に化粧をされ始めていた。
「だから……なんだ?」
「いやねえ~お兄さんったら。だから、女装するんじゃないの~でも二人とも肌も綺麗だし、出来上がりがすっごい楽しみだわ~」
 真喜子は言って戸浪の肩を掴んで力を入れ、椅子に座らせた。
「じょ、じょ、女装って?大、お前っ!」
「兄ちゃん。二人で監視して、変なことになったら殴りにいこうなっ!」
 大地はアイラインを引かれた顔をこちらに向け、鼻息荒くそう言った。
 いやじゃなくて……
 私は女装についてだな……
 なあんて狼狽えている間に、戸浪もどんどん顔になにやら色々塗られ始めた。
「うっ……ぷ……あの……」
 化粧の匂いが鼻につき、戸浪はくしゃみが出そうになった。
「お兄さん、ほらあ、じっとしてよ。でないと変な出来上がりになっちゃうわよ」
 真喜子が「めっ」と言ってファンデーションを頬に塗った。
「……大……」
 情けない声で大地を呼ぶと、その本人は結構喜んで化粧をされている。
 お前は何を喜んでいるんだ……
 彼氏に会えるのが楽しみなのか?
 それともお前もぐるか?
 なんてぐるぐると頭の中で考えている間に、化粧は整った。
「すっごい……大ちゃんは可愛いからわかるけど……お兄さんはもの凄い美人……」
 ほ~っと溜息をついて真喜子が言うと、周囲の女性達も頷いた。
 戸浪がチラリと鏡の方へ視線を映すと、見たこともない美人が鏡の中にいた。
 これは私か?
 ちょっと待て……
 き、気持ち悪いぞ……
 吐きそうになっていると、大地が言った。
「すげー兄ちゃん若い頃の母さんそっくりだ……」
 誉め言葉になっていないぞ大地……
「……止めよう大……こういうことは……」
 ようやく戸浪がそう言うと、大地は今まで着ていた服を脱ぎだした。
「兄ちゃんもスーツ脱いで脱いで~。ほら、服も着替えないとそれじゃあただの女装趣味の変態になっちゃうよ」
 いや、既に変態の域に入っているぞ……
 と、混乱する戸浪であったが、呆然としているうちに服を着替えさせられた。
 そうして、最終的に二人の女性が出来上がった。
「……これで一体どうするんだ?」
 胸の辺りに詰められたパットが苦しいのを堪え、ようやく戸浪はそう言った。
 ピタリと身体を包むスーツは淡い黄色だ。その丈も短く、男とは思えないすらりとした足が、肌と同じ色のパンストで包まれ、すんなりと伸びている。
「何言ってるんだよ。これから大良の店へ二人で行くんじゃないか」
 淡いピンクのワンピースを着た大地が、少女のような顔をしてそう言った。その姿と口調があまりにもかけ離れていた。
「大ちゃん~その話し方は駄目!お兄ちゃんのほうは……」
 といってこちらの膝をびしりと叩いた。
「あいった!」
「足は開いたら駄目。女性なのよ今は」
「……」
「じゃあ、お兄さま~行きましょう~」
 こっちは目が点だ……
「……大……」
「俺……いっつも大良に負けてるんだ。これで弱みを何か握ってやろうと思ってさ」
 にっこり可愛いく笑顔を向けた大地がそう言った。
 それが大地の目的なのか……
 私は……別にどうでもいいんだ……
 小さく溜息をついているうちに、タクシーに乗せられ、目的の店へと二人は向かった。

 店に着くと、ホストの殆どが何故かこちらを向いた。
 なんだ……
 なんなんだ……
 何か変なのか?
 足は閉じてるぞ…… 
「ようこそ当ホストクラブへ……」
 背の高い男がそう言って、奥の席へと案内された。
 これがホストクラブか……
 戸浪はソファーに座ると店の中をキョロキョロと見回した。照明は暗く、テーブルの上に置かれたランプのようなものが、各テーブルを浮かび上がらせている。そのソファーには年輩の女性から、若い女性まで様々おり、その女性達には一人か二人のホストが付き添っていた。
 あるものは笑いながらホストにしなだれかかり、あるものはホストと顔をつきあわせて、小声で何か楽しそうに話していた。
 馬鹿馬鹿しい商売だ……
 男を売り物にして何が楽しいんだ……
 もう、この店の雰囲気だけで戸浪は吐き気がしそうな気がした。何より自分の付けている香水だけで酔いそうなのだ。それなのに、周囲の女性達が付けている香水の匂いが当たり一面に漂い、はっきり言ってかなり辛い。
 もう既にここから出たいと思っている戸浪を大地は肘でつついた。
「え……?」
 顔を上げると、注文を取りに来た男が立っていた。
「こちら初めてのお客様ですね。どなたからか紹介で来られたのでしょうか?」
 戸浪より若い男が丁寧にそう言った。
「シャガールの真喜子さんからです」
 大地は慣れた声でそう言った。
「左様でございますか。ご注文は?」
「ウイスキーロックで……」
 と戸浪は言った。
「あ、私はスクリュードライバー……」
 未成年が何を言ってるんだという風に戸浪はギュッと大地の膝をつねった。
「っ!」
「どうされました?」
「え、いいえ~」
 大地は笑いを作った顔で言った。
「ご指名がおありでしたらお伺いしますが?」
「あの……どなたでも……」
「ああ、憲ちゃん。こちらの美人は私が……」
 と言っていつの間にか側に来ていた博貴が言った。その後ろには問題の男もへいこら立っていた。
 似合わん紫のスーツは誰が見立てたんだ?
 この男か……
 チラリと博貴の顔を見て、すぐ後ろの祐馬にもう一度視線を移すと、こちらをじっと見て頬が赤くなった。
 お前は……
 私という恋人がいながら、女に顔を赤らめるのか?
 なんだかむかつくぞ!
 イライラと戸浪が思っていると、大地の隣に博貴が座り、その隣が戸浪、戸浪の横には祐馬が座る。
 これからが騙しあいの本番だった。

■    ■    ■

「私、光と申します。そちらの彼は星夜君。今晩は宜しくお願いします」
 よどみなく慣れた口調で博貴はそう言った。
 ふざけた名前をつけやがって……
 ジロリと祐馬を睨み付けると、余計に顔を赤くしてしまった。
 お前……さっきから人の顔を見て何を照れているんだ?
 こんな顔が好みなのか?
 机の下で拳をぎりぎりと握りしめながら、戸浪は何とか怒りを鎮めた。
 帰ったら殴るだけでは済まさないかな……
「失礼します……」
 先程の男が注文した酒を持ってくると、机の上に置いた。こっちは飲みたい気分であったので、ウイスキーを一気に飲み干すと、机にグラスをドンッと置いた。
「こちらの方は本日飲みたい気分のようですね。ボトルを入れましょう」
 そう言って博貴はボーイに耳打ちすると、チラリとこちらを見て更に言った。
「ところでお名前は何とお呼びしましょう?」 
「え、……あ、ト、トミ子です」
 うわあ~なんだか妙な名前になってしまった……
 と、思いながらも平静を保つ戸浪だった。
「あっ……」
 同じようにお酒を飲んでいた大地が小さくそう言い、グラスを机に置いた。なんだか顔が真っ赤になっている。
「こちらの方は何とお呼びしたらいいんでしょうねえ……」
 そう言って博貴が大地の方を向いた。
「さ、サワ子……」
 サワ子って……お前もろくなものじゃないぞ。
 トミ子もろくなものじゃないが……
 呆れながら戸浪が溜息を心の中でついた。
 ところで、こいつはどうして何も言わずに固まってるんだ……
 チラと横目で祐馬を見ると、周囲を見ながらそわそわと落ち着きがない。
 お前は他の女に目がいってるのか?
 ここに美人がいるのにだっ!
 って、あんたを見たら見たで文句を言ってただろう……と言うのは忘れた戸浪は、またむかついてきた。
「ああ、サワ子さんは随分気分が悪そうだ……少し休みますか?」
「え、その……」
「悪いでしょう?」
「……はい」
「じゃあ、サワ子さんをちょっと休ませてきますね」
 嬉々とした声で博貴がそう言った。
「……あ、おい」
 もしかしてこいつ私たちのことに気が付いているのか?
 そ、そんな顔をしているぞ……
 大地を何処へ連れて行くんだ?
 慌てていると、大地がチラリとこっちを向き、シュンと肩を落とした。
 ……ばればれか……
 まあ、つき合っている相手がいくら女装しても、愛があれば気が付くものなんだろう。
 気付かないのはこの馬鹿者だけだ。
 そんなことを思いながら祐馬を見ると情けない声を上げていた。
「ひ、光さん……」
「ごめんね星夜君、私はちょっと彼女を介抱してくるよ。悪いんだけど、そちらの方を楽しませて上げてね?」
「……は……はあ……」
 浮いた腰のまま祐馬をこちらも見て、何とか作ったというような顔で笑みを浮かべた。
 結局二人取り残され、まるで通夜のように無言で座っているところに、先程博貴が頼んだウイスキーのボトルが運ばれてきた。
 祐馬は慣れない手つきで、こちらの空になったグラスに氷を追加すると、ウイスキーをグラスに注いだ。
「あの……どうぞ……」
 差し出されたグラスを引ったくるように戸浪は取ると、また一気に飲んだ。そんな姿に祐馬は苦笑して、やはり同じようにウイスキーをついだ。
「お酒強いんですね」
 ざるで悪かったな。
「……」
「あの……俺、退屈でしょ?」
 分かってるじゃないか……
「その……実は、今日だけのアルバイトなんです。すみません」
 毎度来てると言われたらここで殴り飛ばしていたぞ。
「そうだと思ったわ……」
 戸浪は女っぽくそう言った。
 すると、祐馬の頬がまた赤くなる。
「……何か顔についています?」
 ぴりぴりとした口調で戸浪は言った。
 こいつはさっきから人の顔をみて何を照れているんだ!
「え、あの……すみません。俺のすげー好きな人に……似てるから……あっ!すげえなんて言葉使い駄目ですよね……」
 頭を掻きながら祐馬は照れくさそうに言った。
 おい、それは聞き捨てならない台詞だぞ。
「どんな方かしら……」
 何処か凄みの入った女言葉で祐馬は言った。そんなこと祐馬にはちっとも雰囲気として感じていない。
「すぐ、暴力振るうんですよ、その人。もういっつも俺殴られて、ぼこぼこにされてるんです」
 それは私のことかっ!
 持っているグラスを割りそうなほど握りしめて戸浪は言った。
「酷い人ね……」
「ちょっとしたことで機嫌は悪くなる、その上もう一度怒ったら頭の上に雨雲引き連れたみたいに雷落として来るんだから、俺いっつもびくびくしてるんですよ」
 ほお……
 そうか、今晩帰ってきたら楽しみにしているんだな……
 お前の望むように雨雲を大量に引き連れてやる。
「そんな人、別れてしまえばいいのに……」
 グイッとウイスキーを飲み干して戸浪は言った。
「えっ、そ、そんなこと出来ませんよ」
 祐馬は慌てて言った。
 報復が恐いんだな。お前はっ! 
 それだけで今まだ一緒にいるんだなっ!
 戸浪はそこまで考えて、言わなければ良かったと後悔した。
「殴られたりすると……嫌なんでしょう?」
 言いながら戸浪は視線が俯いた。
「い、嫌じゃないです。だって俺、俺が惚れてるから……」
 え……?
「その人に殴られるとなんだか愛されてるんだなあって思うんです。他の人にそんなことしたりしませんし、それって、俺に気を許してくれてるんだなあって思うと、殴られても腹が立たないんですよ。まあ俺も、デリカシーのない事ばっかり言っちゃうから、怒られても仕方ないんですけどね……」
 えへへと笑いながら祐馬は言った。
「……そ、そうなの……」
「素直じゃないのがまた可愛いくって……それにほんと俺、見るたんびに惚れちゃうんです。でも俺がそんだけ好きっていうのあんまり分かってくれないのが、物足りないんですよ」
 いや……
 分かってるよ祐馬……
 祐馬の飾らぬ気持を聞きながら、戸浪はそう思った。それをこの状態では言えないのがちょっと申し訳ない。
「大切にされているんですね……」
「俺の宝物ですっ!」
 ああもう、祐馬……
 何だってしてやるぞ~
「あ、本当は自分のこと話しちゃいけなかったんだ……」
「駄目なの?」
「ホストはお客さんのことをまず聞かないといけないんです。自分のことを話すのはタブーなんだと教えられたんですよ」
 苦笑して祐馬はそう言った。
「じゃあどうして?」
「え、一日ホストですか?その……俺、口べただから、もっとこう、スマートな言葉遣いを学びたくて、知り合いがセットしてくれたんですけど……。もう全然駄目です。俺、正直者だから、さっきからぽかばっかりやって……内緒ですけど、ほんと嫌いなタイプの女性にはいい顔一つ出来ない正直者で……はは。思いっきりお客さんに嫌な顔向けられていたんです。やっぱり無理しちゃ駄目ですよね。俺、それ分かっただけでいい勉強になりました」
 そこがお前の良いところだろう……
 変わらなくて良いんだ……
 そんなお前が好きなんだからな……
 なあんてぽわぽわと戸浪は思っていた。
「俺、当たって砕けろタイプなもので、こう、なんかスマートな上手いやり方って出来ないんです。ほんと好きな相手にもっとこう喜んで貰えるような格好いい言葉とか言いたいんですけど……」
 当たって砕けろ……か
 それはお前を如実に語っている言葉だな……
 思わず戸浪は小さく笑いが漏れた。
「その、好きな人にアタックするのも、俺、当たって砕けろだったんです。どうしてもきっかけが俺欲しくて……でも普通に話しかけても絶対相手にしてくれないって分かってたから……」
 ……
 何が言いたいんだ?
「俺、その人に痴漢行為働いちゃったんですよ。もう、あの時は俺、どっか壊れてたんだなあって思うくらい、すごいことしちゃって。もちろんそんな事をしたのは後にも先にもあれっきりなんですけどね。その事、未だにばらせないんですけど……」
 ははっと笑いながら祐馬は言った。
 お前が……
 やっぱり……
 あの時の痴漢だったのかーーーーーっ!
「黙っていたのか?」
「えっ……」
「お前が痴漢だったとはな……」
 顔を上げてじっと祐馬の顔を見る。祐馬は驚いた顔でこちらをじっと見ていた。
「まだわからんのか?」
「……も、もしかして……と、戸浪ちゃん?なんで?そ、そんな格好してるの?」
「なんでじゃないっ!貴様っ!貴様が痴漢だったとはなっ!」
 もう、自分が女性だなんて戸浪は忘れてそう怒鳴ると思いっきり祐馬の耳を掴んだ。
「あいたったたたたた」
「じっくり、話して貰うか……帰るぞ」
 そうして、戸浪はスカートをはいている足を大股に進ませながら、周囲の驚きの声などものともせず、痛がる祐馬を引きずりうちへと帰った。
 
 その晩、ぼこぼこに殴られた祐馬の悲痛な叫びがマンションで響きわたったのは言うまでもない。

―完―
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このストーリーは途中から大地視点へと分岐致します。

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