Angel Sugar

「恋する王子様」 後日談

前頁タイトル
 身体が良くなったところを見計らい、スペンサーはルースを城へと連れ帰った。だが自分がうちに戻ったときより、帰るときの方が人数が多いことが気に病まれた。
 森の中で迷っていた城からの使者達は直ぐに回復したのだが、又迷われても困る為、狭いあばら屋に、三人プラス一匹(フェンリル)を住まわせたものだから、大変だったのだ。
 疲れた……
 本当に疲れた……
 城に戻ってからというもの、ルースの部屋の隣にある自室でスペンサーは最近時間が出来ると、ベットに身体を伸ばすことが増えた。  
 時を止める術を使うことより、そのほかの事で疲れたような気がスペンサーにはした。何より、あのフェンリルまでこの城に居座わっている。城へと帰る途中、追い返しても追い返しても、いつの間にかとなりを歩き、意気揚々と付いてきたのだからどうしようもない。
 レンドルが渋るかと思いきや、スペンサーの使い魔だと勘違いし、喜んで迎え入れたのだからスペンサーがそこで違うと反論出来なかった。
 まず違うと反論でもしようものなら、フェンリルが周囲の状況など関係無しに、くだらないことを言い出しそうでスペンサーは恐かったのだ。
 王や大臣、そして家臣達の居並ぶ前で、恋人だのライバルだの言われようものなら、どんな噂が流れるか……想像することすら恐ろしい。
 何よりあの狼がフェンリルだと知られると余計にややこしくなるため、スペンサーはレンドルには黙っていた。
 義母の王妃といえば二人からの報復が恐いのか、何も言わず、こちらと目が合うとこそこそと逃げ出した。それ以来、目の届く範囲では見かけない。
 悪巧みも少し収まりそうだ……
 ジェニファーの方は暫く落ち着くのだろうが……
 問題はフェンリルだ。
 フェンリルはあれでも性格は悪くはないのだが、ことひねくれ者であることは間違いない。
 これからトラブルメーカーのフェンリルが何かを起こすのではないかと、ひっきりなしに心配している為、髪が真っ白になりそうであった。
「誰か助けてくれ……」 
 はあ~と溜息をついて、スペンサーは呟くように言った。
「私が慰めてやろうか?」
 フェンリルが狼の姿でこちらの顔を覗き込んでいた。
「なっ……ど、どうしてお前はそういきなりなんだっ!」
 ガバッと身体を起こしてスペンサーがそう怒鳴るのだが、フェンリルはいつの間にか人のベットで手足を伸ばしてくつろいでいた。
 だが……
「なんだ……その……毛の色は……」
 フェンリルの体毛は黄金色をしていた。
 確か今朝は黒かったぞ……
 いやずっと黒かった!
「飽きるだろ。毎日黒だと。基本は黒だが、気分によって代えてみようと思ってな」
「そんな動物は見たこと無いぞっ!ただでさえお前のその姿は、人に気味悪がられてるんだぞ。分かってるのか?余計な事をするなっ!元に戻せっ!」
 そう言うとプイと向こうを向いてベットに横になった。
「おい、ポニーほどある狼が城内を闊歩するだけでも問題なのに、色までころころ変えるんじゃないっ!」
 耳をギュウッと引っ張ってそう言うと、フェンリルは不服そうな目を向けた。
「あのおこちゃまは喜んでたぞ」
 フェンリルはルースのことを、最近はおこちゃまと呼んでいた。ガキは止めろと散々スペンサーが言ったからだ。
 おこちゃまも止めて欲しいのだが、ガキよりましかとスペンサーは諦めている。
「ルース様が?」
「ああ、だからな、折角だからおこちゃまの希望にそってだな……」
 と言っているが、意外にフェンリルは素直に感動されたり、褒められると、得意げになる。もちろん、口先だけの言葉と、心からの言葉をフェンリルは聞き分けられる為、人がただ自分を持ち上げようとして発する言葉や、下心を持った人に褒められても反応しない。
 逆にそう言う相手には嫌がらせするのだ。
 確かに術を見せ、畏怖を与えることはあっても単純に「すごい~」などと言われるような経験はスペンサーにもない。別にスペンサーはそんなことどうでもいいと思うのだが、フェンリルは見せて喜ばれると、どうも嬉しいようだ。
 それにしても自分が死ぬような目に遭わせた相手をよくまあ城に入れたものだ……
 ルースはそのことについてこれっぽっちもフェンリルを恨んだりしていないのだ。逆に母親に会えたことが嬉しかったようだ。何よりあの呪い、三角関係の末のものだと思っているのだから困ったものだった。
 ルース様は単純ですからね……
 悪意を理解できない天然な所がありますから……
 フェンリルが本当はどんな術者であろうと、その男に忌々しげにライバル宣言をされようと、ルースはすごいと思えば感動し、素直に喜ぶのだ。
 それにしても、大喧嘩になるかとおもいきや、意外にルースとフェンリルは上手くやっていた。
 不思議な現象だ……とスペンサーは思う。
 確かにスペンサーを挟んで、言い合いになることは多々あるのだが、フェンリルとルース二人だと、結構楽しくやっているようだ。とはいえ、話しかけるのはもっぱらルースの方からだ。そんなルースにフェンリルはうざったがるかと思いきや、ちゃんと話し相手になっているようであるからもう七不思議のトップに入るだろう。
 多分、スペンサー以外に気安く話せる相手がいなかったルースである。誰かと話せることが嬉しくて仕方ないのだ。もちろん、一緒につい来ているレーヴァンとも一緒に居ることが多い。
 考えると……
 一応二人とも人間だが……
 見かけは動物だ……
 これを喜んで良いのか?
 ルースはその所為か、最近城の中でも笑顔を見せることが多くなった。だが周囲から見ると鳥や狼と話す王子は異様に見えては居ないのだろうか?
 私が悪いのだな……
 しかし今更、駄目だとも言えないのだ。
「お前は昔から、考えすぎの所があるからな。禿げるぞ」
 ニヤニヤと笑いながらフェンリルはそう言った。本当に狼の姿であると、フェンリルは表情が豊かだ。これは一体どう言うことなのだろう。
 これも七不思議なのだ。
「禿げるかっ!」
 とスペンサーはそう言ってベットから降りた。
 こういうところで二人っきりは、何か起こりそうで恐いのだ。
 だが、フェンリルの顔を見ると、何故か重大な何かを忘れているような気がして仕方ない。城に戻ってきてから雑多なことが多すぎて、忘れているのだろうが、こう、フェンリルの顔を見ると、スペンサーの心に何か引っかかるのだ。
「……あ!」
「なんだ」
 首を上げてフェンリルは言った。
「お前に私は問いつめなければならないこととがあったんだ」
 ようやく思い出したスペンサーはそう言った。
「……あん?」
「王妃が言ったことだ!お前にそそのかされただの何だの言っていたな。あれはどう言う事なんだ?」
 ギロリと睨みながらスペンサーはフェンリルに言った。
「……別に大したことではない」
 欠伸をしながらフェンリルは言った。
「お前が自分から今回のことを計画したというなら、幾らルース様がお許しになったとしても、私は許さないからな」
「悪者にする気か?」
 ムッとした顔でフェンリルは言った。
「お前は元々見た目も悪者だろうが……」
「……おい、酷い言いようだな」
 鼻に皺を寄せて牙を剥き出しながらフェンリルは言った。
「じゃあどう言うことか説明しろ」
「私はこれでもたまには下界に降りてお前の様子を探りに来ていたんだ」
「……は?」
「可愛いだろう。恋する男は一生懸命なんだ」
「……」
「それで、庭を歩いていたらばばあと、なんだか下級な術者がこそこそと悪巧みをしているのを小耳に挟んだ」
 ばばあというのは王妃のジェニファーのことだ。
「下級?どっちだ?」
 この城で召し抱えている術者は二人居るのだ。どちらも居ない方がましと言うくらいの能力しか持ってはいなかった。
「……デブ」
「ああ、分かった。ガーランドだな」  
 年上の方の術者だ。名をガーランドといい、かなり太っている男だった。大層な力も無い癖に何故かスペンサーはその男にライバル視されていた。
「その男が、妙な本を持って、ジェニファーと眺めていた」
 ガーランドはジェニファーが自分の国から連れてきた術者だ。だから何か小狡いことを企むときはガーランドに相談しているのだ。
「妙な本?」
「この呪いが効く!と言うタイトルだ」
 それは……
「お前が大昔に暇つぶしに書いていた本だろうがーーっ!」
 スペンサーはそう怒鳴るように言った。
「本じゃなくて落書き帳だ。あれを見たときは昔の恥部を見たような気がしぞ、さすがに……。どうもどっか遺跡を掘り起こしてるときに偶然出てきたらしい。比較的新しい文字で書いてあったから、そのデブにでも一部分は読めたようだ。私も大抵古代神聖文字で、普通の術者には分からないように書くんだが、ほら、あれは大昔の恥部だからなあ……今頃責められても困る」
 確かにそうだ……
 あの本は、本として書いて一般に出したものではない。
 フェンリルが退屈しのぎに色々落書きのように書いたものだったのだ。
 そんなものが今頃出てくるなど……
「……もしかしてドノン遺跡から出たか……」
「そうだ。お前が大昔埋めたんだろうが。こっちは身一つで逃げ出すだけで必死だったんだ。埋まっているから大丈夫と思っていたものが、今出てきたからと言って責められても私の知ったことか」
 ふんっと鼻を鳴らしてフェンリルは言った。それに対しスペンサーも文句は言えなかった。
「……それで今回の事件とどう繋がる?」
 はあと溜息をついて、ようやくスペンサーは椅子に腰を掛けた。
「最初奴らは取り扱うことも出来ない術を使おうとしていた」
「なんだ?」
「ライラックの踊り」
「そんなもの使ったら辺り一帯死人が踊っていたぞ。いや、なにより使い方を間違ったらとんでもないことになる……」
 詠唱する言葉が途中で躓こうものなら、違う類のものになるのだ。何より詠唱する言葉はかなり長い。
「そうだ。それに誤字脱字ばかりであれを詠唱してどういう術が発動されたか私にも分からんよ。あれは落書き帳だったんだからな」
「……それで、取り返したんだろうな」
「ああ、いきなり横から奪って燃やしてやった。だが奴らは一つだけ簡単な呪いを覚えていた」
「それがあれか……」
 術の名前があまりにも馬鹿馬鹿しいため、スペンサーはそう言ったのだ。
「まあな。私が考えた、キーワードでゴーだ」
 言うな。その名前を……
「簡単、確実、呪い返しも無し、解除も速攻、これほど素晴らしい呪いが何処にある」
 何故かフェンリルは怒っていた。
「……それで?」
「それすら適当にしか覚えておらなかった。記憶力のない馬鹿なデブだ。そんなものを使えば、どういう術に化けるか考えると恐ろしいだろう?元々複数にかかる呪いの詠唱をちょろっと代えて、対象を一人に絞った呪いだ。間違った詠唱を唱えることで、何人、いや何十人犠牲になるかわからん。だから仕方無しに私が引き受けた。あのおこちゃまにはお前が付いていたから、適当に助けるだろうと思っていたんだよ。嫌がらせも少しあったが、多少は責任を感じたわけだ。こんな私はとても立派だとお前も思うだろうが……」
 人間のように脚を組んでベットに座るとフェンリルはそう言って胸を張った。
「……お前にしては随分と面倒なことをしたんだな……褒めてやるよ……」
 何処かで何かが少し間違っただけで、事態は最悪になっていたことを知ったスペンサーは、ぞおおっと背筋を凍らせながらそう言った。
「ちゃんとデブからその詠唱部分を切り取って記憶から抹殺して置いた。ああ私は何て素晴らしい人間だろうなあ……」
 ちらりとスペンサーを見てフェンリルはそう言った。
「だからなんだ?」
 又良からぬ事を考えて居るぞ……
「褒められるだけで私が納得すると思ってるのか?」
 言いながらその身を、人間の姿へ戻す。
「お前の落書き帳がそもそも原因だろうがっ!」
「何だって?お前があの辺り一帯を埋めたんだ。こっちはそんなもの始末している暇など無かった。それを考えても、元々の最大の原因はお前だろう?」
 久しぶりに無表情なフェンリルを見た。
 いやそれはおいといて……
「それは言いがかりと言うんだ」
「呪いは成就しなかった」
 フェンリルの真っ黒な瞳がこちらをじっと見つめた。
「だから?」
「恋の成就はさせろ」
 言ってこちらに飛びかかり、いきなり床にスペンサーは押し倒された。
「己は……一体いつまでこの嫌がらせを続ける気だっ!」
「恋が成就するまで……」
 フェンリルはそう言って顔を近づけてくるのを肘で押しやりながらスペンサーは言った。
「私を怒らせるなっ!」
「なに……何をしてるの?」
 と、いきなりルースの声が聞こえた為、スペンサーは驚きながらその方向を見ると、ルースはパジャマ姿で枕を持って扉の所に立っていた。
「る、るるる、ルース様……これはっ……」
「おお、おこちゃま、お前も混ざるか?私はいいぞ」
 ま、混ざるって……?
「え……楽しいこと?」
 意味が分からないルースはそう言って近寄ってきた。
「スペンサー僕、かあさまの夢見て……悲しくなって起きちゃったよ……」
 今度はそう言ってルースは、フェンリルによって床に押し倒されたスペンサーの横にぺたりと座り込むと、目を擦った。ルースは夢見心地でまだ半分意識が無いような状態である為、こちらの状況を把握していないのだろう。
「そ、そうですか……じゃあ少しお話ししましょう」
 乾いた笑いを浮かべてスペンサーは思いきりフェンリルを突き放すと、ルースの手を取った。
「おい」
 フェンリルは無視されたことが気に入らないのだろう。怒りモードに入っていた。
「この部屋に特別な結界を今度張ることにする。落ち着いてやすめやしない……」
 こう夜な夜な夜這いをかけられると、堪ったものではないのだ。暫くスペンサーも我慢していたが、本当に身の危険を最近感じるようになっていた。
 スペンサーは最後の手段に出るしかないと思い始めていたのだ。
「フェン……」
 ぼーっとした顔でルースはフェンリルに言った。
「なんだ」
「怒ってる?」
「あ?」
「抜け駆けしようと思ってるわけじゃないんだ……ごめんね……眠れないからお話にきたの……」
 と、あくまで正々堂々とこのフェンリルと張り合うつもりのルースはそう言った。
 このルース様を少しは見習えっ!
 いや、それよりもどちらであっても恋愛感情を持たれるのが困るのだが……。
 フェンリルがルースにどう言うか暫く様子を見ていると、「……そうか、いいぞ」と言い、その表情はまるで変わらないのだが口調は優しいフェンリルだった。
 珍しいものを見てしまったと、スペンサーはふと思った。
「仕方ない……日を改めるか……」
 言ってフェンリルは、次にそっと耳打ちしてきた。
「なあ……最近、私はどっちもいいなあなんて思ってるんだよ。大人の魅力も捨てがたい、だが、あのおこちゃまの子供っぽいところもなかなか可愛い。だからおこちゃまに嫌われるようなこともいえんだろう?」
「な?なんだって?」
 とんでもない台詞をサラリと言ったフェンリルは、又狼の姿に戻って部屋から出ていった。
 おい……
 おい、ちょっと待て……
 今何を言った?
 真っ青な顔になり、愕然としているスペンサーの上着をルースは引っ張った。
「スペンサー……」
「あっ、はい。はいお話ですね……御茶でも入れましょうか?」
 まだこちらはパニック状態なのだ。それでも何とかスペンサーはそう言った。
「ううん……いいの……」
 言いながら、半眼の目をして、スペンサーのベットに倒れ込んだ。
「実は眠いんじゃないんですか?」
 その姿に思わずスペンサーは笑みが零れた。
「うん……隣から……楽しそうな声聞こえたから……寂しくなったの……」
 ルースはそう言って、緑の目を眠そうに潤ませた。
「ごめんなさい……」
「いいんですよ……」
 助かりましたから……
 それにこちらにいらっしゃる方が安心です……。
 と、口には出さずスペンサーはそう思いながら、自分もベットに上った。すると、ルースは甘えるようにこちらの膝の上に頭をのせた。
 ルースは十の時に母親のフェネスを亡くしたのだが、元々甘えたな性格にはあまりにも早い別れであったのだ。
「スペンサー……またかあさまに会える?」
 呟くようにルースは言った。
「ええ……いつか……もっともっと先に……」
「もっと早く会えないの?」
「夢なら……何時でも会えますよ……」
「……うん……」
 ルースの細く開いた目は眠りに落ちそうで落ちない。 
「スペンサー……僕のこと好きだよね?」
 膝の上で横になっていた頭がこちらを向いた。今まで眠そうであった瞳が大きく開かれていた。
「……ええ……」
 ルースの身体が元気になったにも関わらず、スペンサーはその事を否定出来なかったのだ。言えばまたこの緑の瞳が涙で曇るだろう。何かで悲しむルースはスペンサーは見たくないのだ。何よりその原因が自分でありたくはない。
 ルースがスペンサーに抱く想いは、丁度幼い子供が持つ憧れのようなものだとスペンサーは思っていた。
 いつか本当の恋愛を知るまで、このままでもいいのだ。
「スペンサー……僕も好きだよ……ずっと好きだったんだ……スペンサーも僕のこと好きでいてくれて本当に嬉しかった……」
 淡くなんと可愛い恋心なのだろう……
 そんな風にスペンサーが思っていると、そろそろとルースの手がスペンサーの覗き込む頬に触れた。
「ねえ、キスして……この間のお出かけのキスもスペンサー恥ずかしいからって言って逃げちゃったよね。今なら二人っきりだよ……」
 え?
 まあ、頬位ならいいでしょう……
「そうですね……頬にしましょうね……」
 と言って頬に唇を寄せようとしたとき、スペンサーの頬にかけられていたルースの手に力が入って、頬から唇を逸らされた。その行き着いた先はルースの小さな唇の上だった。
 は?
 触れるだけのキスではなく、こちらの口内にルースの舌が入ってきたものだからスペンサーはパニックになった。
「……んーーー!」
 る、ルーーース様っ!
「……んっ……うっ……うーーーっ!」
 一体何故こんなキスを知ってるんですか!
「うっ……ん……んーーーっ!」
 だっ誰がこんな事をルース様に教えたのだっ!
 ようやく口元を離されたスペンサーは真っ白になっていた。
「お休み……スペンサー……」
 当のルースはそう言って、目を閉じた。
「……は……あ……お休みなさいませ……」
 ルース様……
 もう、立派な大人になどならなくても良いんです……
 貴方はもうずっと子供のまま、可愛くいて下さい……
 スペンサーは……
 誰よりも貴方の時を止めて差し上げたいと……
 本当に、心から思います……
 がっくりと肩を落としてスペンサーは溜息を付いた。その膝の上では満足そうな寝顔のルースが、小さな寝息を立てて眠っていた。

 スペンサーの本当の受難はこれから始まるのだった。

―完―
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