《アーサー王諸国漫遊記》
『第2話:光の皇子の名の下に・IN バーハラ』
王都バーハラ。
グランベル帝国の中心地である。
聖戦の頃は闇の皇子・ユリウスによる恐怖政治の根源であったわけだが、今では反乱軍の主導者であったセリス王がこの地を治めている。
帝国をよりよい方向へ。セリス王の、そして民達の努力は続いた。
そんな彼らを明るく励まし、明日への力を惜しみなく与えている者達もいた。
セリスの妻となったグランベル王妃・ラナとセリスの妹・ユリアである。
皆が力を合わせ一つとなって、バーハラはより発展の道を進んでいるのであった。
「やあ、よく来てくれたね、アーサー、フィー。」
「本当、来てくれて嬉しいわ。」
セリスとラナ(敬称略)は笑顔で訪問客を迎えた。
「お久しぶりです、セリス様。お変わりありませんか?」
「うん、全然。そっちも元気そうだね。」
確かに、セリスはちっとも変わっていなかった。
ラナは少し髪も伸びて、少女というには幾分大人びているようには見えてきたのだが。
セリスの方はと言うと、元から童顔なこともあって、ほとんど戦争の頃と変わっていないのであった。
「こっちへは、何か用事があってきたの?」
「あ、それが・・・。」
アーサーとフィーは話し始めた。
これからしばらく世界(大陸)一周の旅に出ようと思っていること。民は了解してくれている事。その報告と許可を得るために、まずここを第一の目的地に来た事・・・。
話を聞いて、ラナは心配そうな顔になった。
「それ、大丈夫なの?ちょっと心配だわ・・・。」
「大丈夫ですよ。民は許してくれたし、大臣もしっかりしているし・・・。」
「アーサーってば時々いなくなること、ありますから。領民がしっかりせざるをえないんです。」
「まあ、そのことは話には聞いているし、アーサーだから別に不思議じゃないんだけど・・・。」
全くその事を気にした風もなく(気にしろよ、どっちかっていうと)、ラナはなおも心配顔で続けた。
「危険じゃないの?まだ時々だけれど、物騒な話を聞くわよ。旅の途中で何か遭ったら大変でしょう?」
「あ、それも大丈夫です。」
アーサーはにこやかに答えた。
「私ももしもの時のためにボルガノンの魔導書とか持ってきていますし・・・。なにしろこっちには必殺特攻ペガサスナイトがいますから。」
「・・・誰の事よ・・・。」
恋人をあてにしている辺りがなんともはやである。
「僕の立場として言わせてもらうと・・・。」
少し黙っていたセリスがようやく口を開いた。」
「やっぱり領主が民を置き去りにして旅にでてしまうのはいけないと思うんだ。何かあったりした時に、やっぱり領主不在じゃ困った事になるしね。」
「・・・はい。」
セリスのまともな意見にさすがのアーサーも少しうなだれる。
「他の領主にもしめしがつかないし。・・・まあ、皆アーサーのことを分かっているだろうから、あんまり何も言わないだろうけどね。」
セリスにここまで言われるとは・・・。ここまでくると、アーサーの性格も感嘆ものである。
「やっぱり・・・駄目ですか。そうですよね・・・。」
アーサーのあまりの落ち込みように、フィーは少し可哀そうになった。
一緒に過ごしている時が長い分、誰よりも彼の落胆が大きいのが分かってしまうのだ。
「アーサー・・・。」
思わず慰めの言葉をかけようとしたとたん。
「でも、なんだか今回の旅は特別みたいだし。」
「え?」
「本当にこれ限りだからね、そんな長旅を許すのは。・・・諸国を廻って、各地の様子を僕に報告して欲しい。面目はこれでいいよね。」
「セリス様・・・。」
アーサーの気持ちを、もちろんセリスも分かってくれているのであった。
「ありがとうございます!」
「ううん、僕も皆の様子を知りたいから。それに、二人の大切な旅行を僕が邪魔するのなんて嫌だしね。」
「・・・は?・・・あの、セリス様、なんか勘違いしてません・・・?」
さすがに2度目の繰り返しに、フィーは思わず問い返した。その言葉に、セリスどころかラナまでもが意外そうな顔をする。
「え?二人の婚約記念旅行とかそこら辺じゃなかったの?」
「ちがいますっ!!!」
即座に思いっきり否定してしまうフィー。
「あら、私もてっきりそうだとばかり・・・。だってフィーったらずっとヴェルトマーにいるし・・・。」
「一度訪ねに行ったら、アーサーの政治の仕方に思いっきり不安が残ったから、民のために残っているだけです!!」
民のため、を強めに発音しながら赤くなって反論するフィーに思わず笑みをもらしつつ、
「アーサーも同じ気持ちなの?」
と聞くと、アーサーは苦笑して、
「まあ、状況なんてすぐに二転三転しますから。」
なんだか分からない言葉を漏らした。
「そうだね、じゃあ今はそういう事にしておこうか。それじゃ・・・。」
「アーサーとフィーが来ているのですって?」
セリスの声をさえぎり、突如、静かな声が聞こえてきた。
そして、声の主はしずしずとアーサー達の方へ近づいてきた。まっすぐな銀髪。静かだが、何かが奥底で光っている瞳。
セリスの妹の、ユリアである。
あのバーハラでの戦いは、彼女に心身共の成長を促したようであった。神秘的な雰囲気は変わっていないが、線の細さを感じさせない、凛としたものを身につけていた。
「ユリア様、お久しぶりです。」
「ええ、二人とも元気そうで何よりです。・・・ああ、そうそう」
ここでユリアは視線を移し、
「ラナ義姉様、お茶の支度をどうしましょうかと先程、召使が聞いてきましたわ。何か言いに行った方がいいのではありませんか?」
「あら、ユリア様が聞いてくださっても良かったのに・・・。」
「いいえ、なんて言ったって義姉様が、セリス様の奥様なんですもの。妻の務めはきっちり、果たすべきです。」
二人の顔は笑っていたが、辺りの温度は5度ほど下がったようであった。
事実、フィーは二人の間でバチバチと火花の飛び散るような音を聞いた気がした。
まさしく、嫁と姑の終わりなき戦いの一幕であった。
静かに向かい合う膠着状態を絶ちきったのはラナの方だ。
「・・・行ってきます。」
ふいっと姿を奥の方へ消す。
アーサーも少し寒気がしたらしく、主の方へ問い掛けた。
「・・・ラナ様とユリア様、仲が悪いんですか・・・?」
「う〜ん、ちょっとね。でも僕はどうしようもないし・・・。」
そう言って困ったように笑う。
「それに、城下の皆が楽しんでいるからいいんじゃないかなぁ・・・。」
「一国の主が道化やってんですか・・・?」
人の事言えないでしょうが、とはフィーのツッコミ。
でも、確かに困ったものである。
本来、民を優しく見守る役目にあるような、王妃や王の妹が、普通にゴシップ提供しているのだから。
グランベルの特色、と言ってしまえばそれまで、・・・なのだろうか?
さて、大きくタイムジャンプして(行数の関係)次の日。
アーサーとフィー(城で一泊させてもらった)は、ユリアと向かい合っていた。
「お二人は、各国を廻るのでしょう?」
「ええ、そうですけど・・・。」
「お願いが、あるんです。」
「え?」
「これを、イザークのスカサハに渡してもらいたいのです。」
と言って、ユリアが差し出した白い手には、封をした手紙。
「これは・・・。」
フィーは、思い出した。
聖戦のとき、ユリアはスカサハと恋仲であった事を。
しかし、ユリアにはシグルド公子を弔いたいという希望があり、思い半ばで二人は別れたのであった・・・。
「ラブレターっすか?・・・いてて、何だよ?」
「・・・この、鈍感男!!」
思いっきり不躾なアーサーの脇腹をつねりつつ、フィーはこっそりつぶやいた。
「・・・いいんです、事実ですから。別に、急がなくてもいいですからね。」
「いえ、どうせ近いですから。次はイザークへ向かいますよ。ねっ、アーサー。」
「ああ、はい。大丈夫、必ず届けますから。」
「・・・ありがとう・・・。」
微笑んだユリアの顔は少し、悲しそうだった。
光の皇子の国、グランベル。
嫁姑争いで町が沸く、グランベル。
そのグランベルの町並みを後にして。
二人と手紙を乗せたペガサスは、空を駆けていくのであった。
<つづく?>



ビッグバード>諸国漫遊はバーハラからスタートですか〜。ちゅーかちゃんとセリス君の了承はもらいに行くんですね。しかし・・・ものわかりよすぎだろう、グランベル王(笑)。フィーちゃんは相変わらずめちゃカワイイし。アーサー君が羨ましいですよ、ほんと。
レースル>まず第一に思ったこと。セリスが役にたたないっ!!「僕はどうしようもないし」って、あかんやん!!みんなが楽しんでるからって、やっていいことと悪いことがあるだろう…(^^;)。アーサーといい、セリスといい…こんなボケボケな君主たちでいいのか、グランベルの民よっ!!(笑)いや、でもまあ、いい感じですね、フィー。可愛いv



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