《アーサー王諸国漫遊記》
 
   『第5話:トラキアへ、愛を込めて』


マンスターの南に位置する竜騎士の国、トラキア。
北の豊かなレンスターに比べ、土地の関係からか、昔から貧しい国であった。
土地が痩せているのならば他のもので補うしかない。
よって、トラキアは強大な力を持つ竜騎士の力で戦争時に傭兵という形で手を貸し、その日の糧を得ていたのであった。
聖戦時のトラキアでの出来事はあまりにも複雑すぎて、ここに記す事は難しい。
ただ、戦後のトラキアの地は、リーフの姉であり、そして幼少時からここで育ってきたアルテナが大部分の治世を行っている事だけを述べておく。
美しくなったこの地を是非見てもらいたい――――。
アルテナの言葉を受けて、アーサーたちは南へと足を運んだ。

「…。」
二人とも、黙して語らなかった。
どう言ったものかと考えていた。
トラキアは――――彼らの見たところでは、以前どおりのトラキアだった。
確かに、戦争の影はない。少しは緑が増えた、かもしれない。
しかし。
相変わらず、赤茶けた大地がトラキアの大部分を占め、荒涼とした風が砂塵を生み出す。
見るからに収穫のあまり期待できない、痩せた土地。
戦争時との変化も認識できるのだが、この前寄ったレンスターのあまりの変わりようを目にしているだけに、アーサーとフィーにはトラキアがそれほど変化があったように思えなかった。
「…とりあえず、城に向かいましょう。」
フィーの言葉に珍しくごねることもなく、アーサーは一つ頷いた。
やっぱり、トラキアは緑で埋まる事はないのかな…?
そんな事をつい思ってしまいながら前方を眺めるフィーの目に、何かの影が飛び込んできた。
次第に姿がはっきりしてくる。数頭の竜だ。
先頭の大きな竜がこちらに向かってくる。その背に乗っているのは…。
「あれ…、アルテナ様じゃないか?」
アーサーのつぶやくとおり、アルテナが竜を駆っている。何やら身振りをしているのにフィーは気がついた。
「下に降りろ、って言っているみたい。急降下するから掴まっててね。」

「もうこちらに向かっていたのですね。ようこそ、トラキアへ。」
アルテナが親愛の笑みを浮かべて地に降り立ったアーサー達のほうへやって来た。
聞けば、二人に会うためレンスターへ向かうところだったらしい。
「わざわざ私達のために、ありがとうございます。」
アルテナとは、同年代のメンツほど親密にはなっていない。アーサーの口調はいかにもヴェルトマー公主、といったものだった。
「こちらこそ。わざわざトラキアまで足を運んでくれて嬉しく思います。」
そう言って微笑むアルテナは、戦争中の頃と変わらず美しかった。
否、変わったといえば醸し出す雰囲気だろうか。
戦争時の戦乙女を思わせる切れそうな美しさの代わりに、今のアルテナは穏やかな王女の気品を漂わせていた。
髪も束ね、大人の魅力さらにアップ!と言う感じである。
「いえ、トラキアには元から訪ねる予定でしたから。」
「そうでしたか…いかがですか、今のトラキアは?」
アルテナのその問いに、思わずフィーは言葉に詰まる。
その様子を見て、アルテナは彼女の心中を察したのだろう、苦笑を浮かべた。
「…とりあえず、ここで話し込むのもなんですね。城の方へ行きましょうか。」

「――――トラキアは、美しい国です。」
城の謁見室からつながるバルコニーへ二人を連れて行き、アルテナはそう言った。
「確かに他国に比べれば、緑の木々や花々は圧倒的に少ないでしょう。しかし、私はそんなトラキアだからこそ自然の壮大さを感じるのです。」
その言葉を受け、二人はバルコニーから広がる景色に目をやる。
平坦な所はどこまでも…地平線までずっと赤茶けた土を広げ、逆に起伏のある所はどこまでも隆起し、人の到来を拒む。許されるのは、恐らく竜を駆る者だけであろう。
確かに、自然というものの壮大さをこれでもかというほど味あわせてくれる光景だ。
しかし。
「あの、アルテナ様。失礼を承知で、一つ伺ってもよろしいでしょうか?」
アーサーは思わず問い掛けていた。
隣ではフィーが『ちょっとちょっと…!』と言ったふうな身振りをしている。
長く相棒をやっていると、分かりたくなくても分かってしまう事があって。
アーサーという奴は、本人がそうと思っていなくても結構失礼なことを平気で口にする。
思った事をそのまま口にしているからなのだが、逆に本音だけあってタチが悪いのだ。
その鈍いアーサーが失礼だと思うことなのだから、恐らく、いや絶対相当失礼な事である。
隙あらば静止しようと構えるフィーを尻目に、アルテナは微笑でもって答えた。
「何でしょう?」
「確かに、トラキアの土地は美しいと思います。でも、私にはその美しさはどこか人を寄せ付けないもののように思えるのです。
…この土地では人は豊かに暮らせるのでしょうか?」
うわ。ホントに失礼。やっぱり。
「この馬鹿っ!!なんて事言うのよ!?」
とっさにフィーが蹴りつける。深々と頭を下げた。
「すみませんアルテナ様!!本当に失礼を…!!」
「アーサー卿」
フィーの謝罪には答えず、アルテナはアーサーに呼びかけた。
「…はい。」
「豊かな事は幸せでしょうか?」
「えっ…。」
「民が幸福であるためには、豊かでなければいけませんか?それも一つの要因ではあるでしょうけれど、私は限りある豊かさの中から幸せを見つけ出す事に喜びを見出す事は大切だと思いますよ。」
「……。」
「確かに乏しさから争いが起こることもあるかもしれません。しかし、その状況下で民が助け合っていく幸せを作り出すように努める事が、上に立つものの―――私の役目だと思っています。」
アーサーもフィーも、一瞬何も言えなかった。
「―――思慮の浅い事を言ってすみませんでした!!公主失格ですね、これじゃあ…。」
心からのアーサーの謝罪に、アルテナは元の笑顔で応えた。
「いいえ。私の方こそ説教のようになってしまってごめんなさいね。」
フィーには、先程までとトラキアがまるで違ったように思えた。

アリオーンは、姿を見せなかった。自分は政治から手を引いたから、という事だった。
今のトラキアの現状にはアリオーンも深くかかわってくれているとはアルテナの言葉だったのだが…。
本人が断りを入れている事だし、アーサーたちもどういう態度で接すればよいのか分からないので、そういう事で落ち着いた。

旅立ちの日。彼が来た。
「アーサー殿おぉぉぉ!!」
アーサー達が来たと聞いて、他の城からすっ飛んできたらしい。ハンニバルがすさまじい勢いでやって来た。
しかし、仲間とはいえハンニバルはそれほどアーサー達と関わっていない。何故そんな勢いで会いに来たのだろうか?
「あ…ああ、ハンニバルさん…。」
フィーも少々たじろいだように返事をする。
「今日旅立つと聞いたのですが…本当ですかなっ!!?」
「そ、そーですけど…?」
「次はどちらへっ!!?」
お〜い、落ち着けよ爺さん。…とはさすがのアーサーも言えず。
「次…ですか?決めてませんけど…。」
計画性ゼロの台詞。いいのかな、一応国王の指令受けてんのに。
「それならば!是非エッダに足を向けてくれませんか!?」
「エッダ?…ああ、成る程!」
ようやくフィーは合点がいった。
エッダにはハンニバルの息子同然のコープルがいるのだ。伝言を頼みたいという事だろう。
「そうです、エッダです!!で、よろしければワシも連れていってもらいたいんですっ!!」
『……は?』
思わずアーサー達の声がハモった。
「いやぁ、コープルに顔を見せに行こうと前々から思っていたのですが。従者を伴っていくのはワシの性に合わないし、かと言って一人旅というのも心もとないし、何より寂しいですからなっ。無茶としりつつ尋ねているのですが…。」
とか言う割には全身から有無を言わせぬ迫力が漂っている。さすが名軍将。
「…いい、よね…?アーサー…。」
「…あ、ああ…。」
とまどいつつも頷く二人を見てハンニバルは顔を輝かせた。…いや、大して見たいものでもないが。
「そのような理由で、少々留守にします。アルテナ様、よろしいですかな?」
「……ええ、私は構いませんけど……。」
アルテナもどこか気圧されたように承諾した。
「ありがとうございます!!それでは参りましょう、アーサー殿、フィー殿!!」

こうしてちょっと+αを含んだ一行は一路エッダに向けて旅立った。
負けるなアーサー頑張れアーサー、二人旅じゃなくなっちゃったけどメゲるな!

<つづく??>



ビッグバード>渋いですね・・・アルテナ姐さん。今までとちょっと(かなり?)違う雰囲気の展開に驚きつつもかっこいいなぁと思いました〜!個人的にはハンニバル大暴走が楽しかったです。次はエッダ!とゆーことはグランベルですか・・・。いろんな人を楽しみにしてますよ〜!

レースル>アルテナかっこいいです!見事に私のツボ突いてますv彼女は歴史に残る名女領主になりそうですよね〜@ところで、ハンニバルが別人のようですが(笑)。こういうハンニバルもいいっすね!それにしても…やっぱりアーサーは二人だけの旅がいいと思ってるのですか?下心ありあり?(笑)



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