《アーサー王諸国漫遊記》
『第6話:神の国、エッダの話はどこへやら?』
グランベル帝国内にある信仰公国、エッダ。
大司祭ブラギを崇める宗教の要素が強い国である。
それには、エッダを治めてきた者の血筋が関係している。
この国に伝わる聖武器、聖杖バルキリーを操る事の出来る者が、神父としてこの公国を治めてきたという背景があるのであった。
そのため、バーハラの戦いの後行方知れずとなったクロード神父には子供がいないとされていた時、公国内は恐慌に陥った。
しかし、実際にはどうやらいたらしく。
聖戦のあとエッダを訪れた一人の少年の体に刻まれた聖痕を目にして、人々は驚きの声を上げた。
彼の名前はコープル。
今からアーサーたちが会いに行く相手である。
いきなりだが、アーサーは機嫌が悪かった。
そりゃあもう、すこぶる悪かった。
原因は二つほどあるのだが。
「アーサー殿は体が弱いですなぁ。」
これはアーサーの機嫌を悪くした諸悪の根源の声。
そう、ハンニバルである。
ハンニバルの悪気はないとはいえ、彼の同行の申し出はアーサーの機嫌を悪化させるものであった。
せっかくフィーとの二人旅だったのに……。
ここで一つ言っておくが、この言葉には深い意味はあまりない(少しはあるが)。
ポイントとなるのはハンニバルの立場なのである。
一応トラキアの名軍将。アーサーの公主としての視点からはとりあえず偉いさん。
元々他人に気を使うのが苦手なアーサーだ。それが外交辞令をそれなりに保っておかなければならない相手と四六時中一緒。
神経の一つも擦り減る、というもんである。
コレが第一の原因。そしてもう一つは……。
「……まだ、着かないのか?」
「もうすぐです。たぶん今日中には着くと思いますがな。」
アーサーの疲れた呟きに、律儀に答えるハンニバル。
そう、馬車なんである彼ら。
元々ペガサス二人乗りは、天馬騎士の中でも才能のあったフィーの騎乗術と人並み外れて軽かったアーサーの体重があったからこそ出来たものである。
それがハンニバルが加わるとなった今、使えない手段となってしまったのだ。
それで馬車を借りるという話になったのだが、トラキアは土地柄馬車というものの存在がほとんど皆無。結局途中まで徒歩という手段をとったのだ。
その徒歩がきつかったのなんの。
特に体力のあんまりないアーサーにとっては苦行に近かった。
それから、どことなく体の調子がすぐれないのであった。
「……それならいいんですけどね。」
力なく答えると、アーサーは馬車の外へ目を向ける。相棒が空にいるのが寂しかった。
と、その相棒が大声でこちらに呼びかけるのが聞こえてくる。
「エッダが見えてきたわよ!!」
「ようこそアーサー卿、フィーさん!予定に聞いていたより遅かったんですね……あれっ!?」
「コープルウウゥゥゥっ!!!」
予想していなかった人物の出現に目を丸くしたコープルへ、ハンニバルは涙を流して飛びついた。
「父さん!?どうしてこちらへ……?」
「何、アーサー殿達がエッダへ向かうと聞いてな。一緒に来させてもらったんじゃ。」
正確にいうと向かわせた、のだが。
「そうなんだ、僕、父さんに嬉しいよ!」
コープルは昔と変わらない笑顔でニッコリ笑った。
外見は昔とかなり違っているのだが。
聖戦が終わった頃から背もグンと伸びて今はアーサーと同じか少し高いくらい。丸くて無邪気だった目は知性の色を光らせている。
全身から醸し出す雰囲気は、エッダ公主として身に付けたものか天然のものか、穏やかさの中にどこか神聖さを伺わせた。
思わずフィーが呟いたのも無理はない。
「成長期ね〜〜……。」
何か違うような気がするが。
しかし、普段ならツッコミを入れる人物からは反応はない。
「………………。」
どこを見ているのか。疲れたようにあらぬ方向をぼうっと眺めている。
「ちょっとアーサー大丈夫?マジで具合悪そうよ?」
フィーの問いかけに反応を返そうとして。
「あ、話し込んで申し訳ありませんでした。今すぐ客間へ……アーサー卿?」
ハンニバルと話していたコープルがこちらに声をかけるのが聞こえて。
でも体は反応してくれなかった。
どさっ。
力が抜けて、一気に床に倒れ伏す。
「ちょっ……アーサー!!?」
「アーサー殿!!」
「大変だ!誰か、彼を部屋へ!!」
周りの声だけは聞こえてくる。
何となく熱いと感じていた体温が一気に上がった気がして、視界もボケてくる。
「しっかり―――」
フィーの声の最中で、意識が途絶えた。
「旅の疲れが出たんですね。少し安静にしていれば大丈夫ですよ。」
「ありがと、コープル。…ったくアーサーったら旅が好きなくせに体力ないんだから…。」
とりあえず部屋に寝かせたアーサーを前にしての会話である。
「もう、本当にごめんね。いきなりこんな事になっちゃって…。」
「いえ、気にしないで下さい。アーサー卿もたぶん一気に安心したんですよ、長旅が終わって。」
そう言ってコープルは静かに微笑む。長い金髪が僅かにゆれた。
「髪、伸ばしたのね。今更だけど。」
「はい、国の人たちが僕は本当の父さんにすごく良く似てるって…だから、父さんがやっていたと聞いたのでのばしたんです。」
「お父さんに?ふぅん…コープルはそれでいいんだ?」
「はい、どちらかというと嬉しいです。…父さんが側にいるみたいで…。」
最後の言葉にフィーはふっと笑った。
「そうね。…あ、じゃあ後はあたしが看てるから。コープルは仕事してきて。」
「すみません、それでは説教のほうがありますので…。」
一つ頭を下げて、コープルは部屋を出て行った。フィーは知らないが、成る程その姿はクロードそっくりだった。
パタンとドアが閉まった後。
「……ホントに迷惑かけて。何考えてんのよ。馬鹿。非力。根性なし。……マジで心配したんだからね。」
フィーが泣きそうな顔でベッドの主へ小さく呟いた。
ふと妙な音に目が覚めた。
ベッドの上。過去を思い出してああなるほどと理解する。窓の外は真っ暗だった。
どうも真夜中に近いらしい。それにしては近くで聞こえるあの音は何だ?
気になって寝台から降りる。多少ふらつくがかなり回復したようだ。
音の出所は隣の部屋。どうやら厨房らしい。たぶん1階の一番玄関から近かった部屋へ自分は運ばれたのだろう。
ひょいとのぞいてみると見知った姿が首をひねっている。
「……あ、ヤダ。どうして焦げちゃうのかしら。やだどうしよう、お鍋がダメになっちゃう…。」
どうやら困った事になっているようだ。ひどく『やだやだ』と焦った声が聞こえる。
「……う……どうしようどうしよう…。」
「火が強すぎるんだよ。」
オロオロとパニクる姿を見てられず、アーサーはひょいと彼女の脇から手をのばす。
鍋を見てみるとよくぞここまで、といった感じで底が真っ黒けだった。
「あ、アーサー!?起きて大丈夫なの!?」
「ん…隣でそれだけバタバタ音がすればなぁ…。これでよし、と。」
火をかなり弱める。旅好きなので火の調整なんかは得意だ。血統のせいもあるが。
鍋の中身のよく分からないものに眉をひそめながら聞いてみる。
「……で、フィーこそ何をやってるんだ、こんな所で?」
「何やってる、はないでしょ!?アンタのためにスープ作ってたのに!」
「…(これスープだったのか)…フィーが?どうしてこんな遅くに?」
フィーの料理の腕は身にしみて分かっている。アーサーもかなり適当だが、輪をかけて苦手なのだ。
「…どうせあたしがまともなの作るには時間が要るのよ。せっかく厨房借りたけど、やっぱダメね。」
それにこの惨状を人に見られたくなかったんだろうな、とアーサーは思った。
少しむくれたように、そして寂しそうにフィーは続ける。
「それでも……フュリー母さんが病気のときにも大した事出来なかったから、あたし…。」
思わず手に力がこもる。
「――――ふ…ん。………ま、とりあえず鍋、片付けようぜ。フィーはお茶淹れてくれよ。」
それを聞いて、アーサーは何事もなかったように言ってくるりと後ろを向いた。
「……そうね!」
明るい調子で頷き、涙をこらえてフィーは笑った。
こんな風にそっと気を使ってくれる彼に、少し感謝して。
「もう、大丈夫なんですか?」
「平気平気。どっちかって言うと休みすぎたくらいだって♪本当に迷惑かけたよな…ゴメンなコープル。」
「いえ、アーサーさんが良くなられて安心しました。」
アーサーの言葉にコープルは真心で答える。
この領主の下、エッダはますます栄えていくだろう。
「それじゃ、ハンニバルさんお先に失礼します!」
「はい、アーサー殿達もお気をつけて。」
もう少しエッダに逗留するハンニバルに笑顔で手を振るフィー。ペガサスが翼をはためかせて舞い上がった。
そしてここからは空での会話。
「―――それにしてもフィーにも悪い事したな、ごめん。」
「そうよ、もっと謝ってよね。」
アーサーの言葉にフィーは意地悪そうにそう言った。
「うん、悪かった。…フィーのおかげだよ、良くなったのは。」
「は?私何もしてないわよ?」
「いいや、すごい薬だった。」
フィーの不思議そうな顔にアーサーは笑顔で首を振って見せる。
「フィーの心配そうな顔とか涙とか見たら、もう寝てられないって。フィーの笑顔が俺にとっては一番の薬だよ、うん♪」
「なっ……何言ってるのよ!!誰がアンタなんかのために泣くって言うの!!?」
「ははは、とか言いつつ顔が赤いぞ?」
「こっ……飛ばすからね!!落ちても拾ってやんないから!!」
「うわっ……ちょ、おいっ!?」
アーサーの悲鳴を飲み込み、一気に加速するペガサス。
こうして続く彼らの二人旅。さて、お次はどちらの国へいくのやら?
《つづく・・・・・?》



レースル>看病ネタか…お約束な…(笑)。それにしても、コープルないがしろにしすぎだろう(苦笑)。これ、エッダの話じゃなかったっけ…?相変わらずハンニバルはええ感じです。それにしても、やはりコープルはクロード似のいい男になってるんでしょうか@嬉しいです〜v
ビッグバード>ついにエッダまできましたか〜!男前のコープルに親バカっぷりをいかんなく発揮するハンニバル!!この二人はほんといい親子だ@そしてエッダとか関係なくラブモード全開の二人に乾杯(笑) フィーは料理できなかったのか〜。あ、でもセティ様は得意そう@次は・・・どこ行くんだ!?楽しみに待ってます〜。



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