《アーサー王諸国漫遊記》

   『第7話:ドズルよ俺色に染まれ』


ユグドラル大陸の中ほどに位置する公国、ドズル。
聖斧スワンチカを継承する物が代々為政者として国を治め、精鋭斧騎士団グラオリッターを抱える何というか斧な国である。
いや、国だった、というべきか。
聖戦の後ドズル公国を継いだのは、聖武具を継承していないダナンの次男、ヨハンであったのだ。
ドズル家は「バーハラの悲劇」の頃の公主、ランゴバルト卿の謀略もきっかけとなり、スワンチカを継いでいたブリアン卿は解放軍の敵と回っていたのである。
しかし、幾ら解放軍の一員であったと言っても、この言うなれば『解放軍の敵方』の血を引いているヨハンに対する民の風当たりは最初キツかった。
それでもヨハンはその非難を退け、自らの手でこの公国の復興を成し遂げたのである。
今では民もヨハン卿を主と認め、彼のために喜んで仕える者が後をたたなくなっている。
民がヨハンに心酔する一つの要因は、イザーク王家の血縁であるラクチェとの婚姻の事もあった。
英雄シグルドの代からの戦の始まりはこの国への侵攻。もちろん二人は愛し合って結婚したのだが、これはその行為に対する贖罪とも政治的にはとられたわけである。
公主と民との絆。ヨハンなりのそれの作り方を、アーサー達は今回垣間見る事となるのであった。

「おぉ!!アーサー卿、そしてフィー。私と我が愛しのラクチェの愛の城へようこそ来てくれたっ!!」
ヨハンはそう叫んで大きく腕を横に広げた。
「あ、ああ……しばらく世話になるな………。」
アーサーがやや戸惑ったような、引きつったような表情で軽く頭を下げた。
「もちろんいいとも!君達と私たちは戦いの場で友情を培ってきた深い仲っ!!共に辛い時、苦しい時を味わってきたではないか。そんな世話など水臭い……。」
「うるさいわよヨハン!!フィー達が困ってるじゃないの!!」
放っておいたらえんえんと語り続けるヨハンを止めたのはヨハンの妻、ラクチェの鉄拳だった。
「おおラクチェ、何をするんだ!私はこの胸に湧き上がる再会の喜びを口にしているだけなのに……っ」
「喜ぶのはいいけど、一々長いのよ貴方は!!」
頭にコブをこさえながらも全く動じないヨハンに、ラクチェは腰に手をやって叱りつける。その様子を見て、フィーが懐かしさに笑顔になった。
「ホント、変わってないわね!久しぶり、ラクチェ。」
「ええ、久しぶりね。そんなに変わってないかしら?」
ラクチェはフィーに頷き返すと、少し首を傾げて自分を見やった。
公主の妻らしく、正装の長いスカートに身を包んではいるが、そのスカートも動きやすいようにスリットが入れられている。
腰には服に合うような装飾の剣を下げている辺りが何とも彼女らしい。
「でも、貴方達も変わっていないわよ。見ていたら戦争の頃に戻ったように感じてしまうわ。」
「そう…」
「かな?」
二人で顔を見合わせる。長い時間も、あまり人を変えるものではないらしい。
「そうだとも。相変わらず二人とも美しい…まぁもっとも私のラクチェには少々敵わないが。」
「ばっ、馬鹿!人前で言うなと言っているでしょう!」
ラクチェが少々赤くなって怒鳴った。なんだかんだ言って仲がいいのよね、と自分の事を棚に上げてフィーは笑った。
しかしそのフィーも、アーサーの小さな呟きで一気に赤くなるのであったが。
「そうかなぁ…俺はフィーの方が好きだけど……。」
ばっ……バカ!ストレートに何言ってるのよっ!!
「あっ、えぇと、………変わったって言えば、随分とお城の雰囲気が変わったわね!」
アーサーの呟きと自分の動揺を隠すように、フィーは大きな声で話題をそらした。
それを悟った訳でもないだろうが、アーサーも頷いてぐるりを見渡す。
城は何ともヨハンらしいものに変わっていた。
至るところにバラが咲き乱れ、カーテンや壁紙も何だかピンクがかった雰囲気のあるものへと変わっている。
ヨハンの「愛の城」発言もあながち間違いとは思えなかった。
「そうだろう?私のラクチェへの愛が為せるワザだ!!」
ヨハンが満足そうに頷きながら言った。
「恥ずかしいから止めろって言ったんだけどね………。」
照れつつも諦めたようなラクチェの溜め息。しかし、そこには嬉しさもこもっている事はフィーには分かっていた。
と、そこでヨハンはハタと手を打った。
「そうだ、君達も私たちの城での愛の語らい方を楽しんでみてくれ!」
「……へ?」
「愛の語らい方……?」
アーサー達が思わず問い返すと、ラクチェも楽しそうに笑って言った。
「ドズルではしばしば行われている事よ。面白そうね、是非参加してみて。」

「………で。」
アーサーがもの凄く困ったような顔をしていった。
「何でいきなり腕相撲なんだ………?」
「ふっ、決まっているではないか、アーサー卿。」
アーサーのもっともな質問に、ヨハンは当たり前のように答えた。
「君が魔道士だから剣や斧は苦手だろう。よって純粋な力の勝負となったわけだ。」
「そうじゃなくてっ!!大体、なんで魔法は駄目なんだよ!?」
「これは力を重視した勝負を行うからよ。」
ラクチェがヨハンの代わりに答える。
ドズルでは、力の必要な斧を扱う兵が多い。だから、このような腕比べの機会がしばしば設けられるのだそうだ。
一体これのどこが『愛の語らい方』なのだか。アーサーは頭を抱えたくなった。
そこへ、フィーの声が飛ぶ。
「ダメよラクチェにヨハン。知ってるでしょ、アーサーは腕力の方はからっきしないんだから。」
「そうそう。俺は頭脳労働専門なんだ。」
ちったぁ自尊心はないのかこの男は。フィーの言葉にあっさり頷くアーサー。
「もちろんその辺は考慮してある。アーサー卿は両手を使ってもらってOKだ。対戦は、このグラオリッター見習い達。どうだろう?」
「どうだろう、ってもなぁ…。」
「ん〜〜…いいじゃない、やってみたら?一応アーサーもマージナイトだったんだし。」
なおも渋るアーサーに、フィーがぽん、と背中を叩く。
アーサーは一瞬恨めしそうな顔でフィーを眺めた後、観念したように承諾した。

で、もちろん結果は言うまでもない。
剣の練習を多少したとはいえ、血統が魔道士コンプリートなアーサーと、見習いとはいえ斧使いの戦士とは勝負になるはずもなく。
両手VS片手にも関わらず、あっさり雌雄は決してしまった。

「ほら、勝てるワケないだろ〜?」
少し悔しそうに、叩きつけられた右腕を振りながら言うと、フィーが「痛むの?」と聞いてきた。
「ん、少し…。」
「あぁすまないな、アーサー卿。うちの兵は手加減があまり出来なくて…。」
「ん、いいのいいの。どっちかというとアーサーが怪我に弱いって事だから。」
「そうそう。」
アーサーも軽く笑うと、あっさりと次の言葉を言った。
「やっぱりこういうのはフィーの出番だな。後は頼むよ。」
「へ?あたし?」
フィーがきょとんとする。
「そ。フィーなら勝てるだろ。応援するから。」
「別に構わないが…。どうするのだ、フィー?」
ヨハンにも聞かれて、アーサーの期待のこもった眼差しに見つめられて。フィーは元気良く腕まくりをして勝負台に立った。
「仕方ないわねえ、やるだけやってみるわよ。」

――――で。
「よいっ………しょっっ!!」
<B>がったん!</B>
フィーは掛け声と共に相手の腕を台に押し付けた。
「勝者、フィー!」
「おぉ〜〜、さすがフィー!!」
アーサーが優勝者にぱちぱちと拍手を送る。
「見習いだけじゃなくて正規兵まで片手で制するとは……やるなぁ。」
「えへへ、すごいでしょっ!?」
フィーが自慢げに胸を反らす。
「ううむ…これでラクチェに続き、女性に2度も敗れ去った事になってしまうな…一度鍛えなおさねば。」
ヨハンが少し考え深げに腕を組むと、「では」と言葉を続けた。
「優勝者は想い人の所へ行って愛を語るといい。」
「はっ!!?」
フィーが目を丸くしてヨハンに向き直る。
「だから最初に言っただろう?これがドズルでの『愛の語らい方』だ。強い男が自分の想う女性に向かい愛を語る。これこそロマン!美しい愛の形だ!」
「イヤあたし、女だけど……。」
フィーが即ツッコミを入れる。アーサーもこくこく頷いた。
「そうそう。フィーはどっから見ても女の子だぞ。確かに並みの男より強いけど。」
「ちょっとアーサー!」
「何だ?俺は強くて頼りになるフィーが好きだけど?」
「なっ………!!」
フィーの顔が瞬時に真っ赤に染まる。
「おや、語る方向が逆になってしまったかな?」
「そうみたいね。…それにしても、実はアーサーとヨハンって似ているのかしら?」
「私が?」
アーサーとフィーのやり取りを見やりながら、ヨハンとラクチェは会話を交わす。
「自覚なくあんな恥ずかしい言葉を言えるのだもの。」
「おおラクチェ、私は思った事を言葉にしているだけだよ?」
「そこが似ているのよ。」
そう言ってラクチェは夫に笑いかけた。
「でもいいわ、そこも私は好きなのだから。」
結ばれた夫婦と結ばれるはずの夫婦。
似たような二組の夫婦は、それぞれの相手と幸せを分け合っていた。

《今回はここで続く》




ビッグバード>>熱ッ!なんちゅーかもう激ラブっすね〜。実はヴェルトマーの人々はこの二人の仲が進展するのを狙って送り出したのでは?ってくらいのいちゃっぷり(笑)
鳥は個人的にヨハラクが好きなのでとても楽しかったです。しかし・・・腕相撲とは。そうきたか@ラクチェとフィーに惨敗した斧騎士団に乾杯。
しかし多分ヨハンも負けるんじゃないかなー?(笑)
そろそろ旅も佳境っすね!ラストまでお願いしますですよ〜!

レースル>>腕相撲ね…(笑)。ラクチェいい感じですわ♪確かにドズル家においては彼女が一番強いでしょうねぇ(^^;)。私もビッグバードと同じく、ヨハンも彼女には負けると思うぞ(笑)。次回楽しみにしてま〜す@



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