<<アーサー王諸国漫遊記>>

  『第8話:亡き主君の遺志を継ぎ・シアルフィ』


聖騎士バルドの血を継ぐ公国、シアルフィ。
現バーハラ王セリスの父親、英雄シグルドはこのバルドの血を引いていたのだ。
従って本来ならば、このシアルフィ公国は聖騎士バルドの血を濃く受け継いだセリスが治めるべき土地なのである。
しかし、セリスはグランベルの王となるという選択をとったため、この地はセリスの遠い親戚であるオイフェが治める事となった。
オイフェはシグルド・セリスと二代にわたり忠義を尽くした忠臣である。セリスも安心してオイフェにシアルフィの地を委ねる事が出来た。
遥けき英雄の生まれた地、そして未だ忠誠を尽くす騎士の地シアルフィ。
今回のアーサー達の訪問先である。

「おぉ〜〜〜〜〜…。」
上を向きながら感嘆の声を漏らすと何となく間の抜けたように聞こえる。
それでもアーサーはそうせずにはいられなかった。
つまり、目の前にはそうするだけの物があったのである。
「うわぁ…。」
フィーも、思わず声を上げた。
「この人が……この素敵な男の人が、あの英雄シグルド様なのね……。」
「そういえば、フィーって元々シグルド様に憧れて解放軍に入ったんだったなぁ。」
「そうよ。でも…思っていたよりずっとカッコいい……vv」
「……………。」
思わず少しムッとしてアーサーはフィーの方へ視線を移した。
そこには、フィーが数年前セリスを「憧れの人」と言っていたあの時のままの表情で立っていた。
しばらくそんな相棒の姿を見やった後、諦めたようにアーサーはまた視線をシグルド公に向けた。
「…まぁいいかぁ。フィーにとっては特別な人だもんなぁ……。」
そんな言葉を小声で漏らしたら、フィーが我に返ったらしく言ってきた。
「何でもいいけど、アーサー。…上見上げながら喋ると声が物凄く間抜けよ。」
更に憮然とした顔つきになって、アーサーは「それ」を指差した。
「…仕方ないだろ、コレがこんなに大きいんだから。」
指差す先には大きな大きな一枚の肖像画。そう、先程から話題になっている英雄シグルドである。
「それにしても、よくこんな馬鹿でかい絵を作ったなぁ…。」
「そうね…きっと、オイフェさんはそれだけシグルド様を愛してらっしゃったのよ。」
「ふぅん…そんなもんなのか?」
「そんなもんよ。あたしだって、シレジアに仕える騎士フュリーの娘なんだからね。」
「なるほど、気持ちは分かるってわけか。」
「何となく、だけど…。」
アーサーとフィーがそんな会話をしていると。
「やはりそれは目立ちますかな?」
後ろからすっきりとした感じの声が聞こえてきた。振り向く先には予想していた姿。
「オイフェさ…いえ、オイフェ卿。」
「お久しぶりです。」
「確かに…何年ぶりですかな。お久しぶりです、アーサー卿、フィー殿。」
慌てて頭を下げる二人に、オイフェは以前とちっとも変わらない穏やかな笑みを向けた。
アーサーやフィーのようなまだ若い者たちにとって、オイフェくらいの壮年の男性の変化というものはほとんど分からない。
今目の前に立っているのは、数年前とほとんど変わらないセリスの右腕、『オイフェさん』のままであった。
もちろん、あのダンディ(笑)な髭も健在である。
「予定よりも遅れていらっしゃったので、どうなさったのかと心配しておりましたよ。」
「……これでも急いで来たんですけどね。」
アーサーの顔が少々不満顔になった。
そう、トラキアでの出遅れが結構足を引っ張ってくれたのである。
本当はドズルとシアルフィの前にフリージに(無断で)寄ろうかとも思っていたのだが…。
さすがにこれ以上予定をずらすわけにもいかず、アーサーは不承不承フリージ寄りを諦めたのだ。
隣では事情を知っているフィーが笑いをかみ殺している。
オイフェはそんな二人を不思議そうに見回した後、
「ともかく、場所を変えましょうか。」
と、自ら扉を開けて、案内役を買って出た。

応接間から次の部屋に移る間、廊下を渡ることになる。
その廊下を歩く途中、何度目かの挨拶を返した。
「あら、オイフェ様。ご機嫌麗しゅう…vお客様ですか?」
「はい、そうです。ヴェルトマー卿の……」
「………オイフェさん、もてるのねー………。」
その何度目かの挨拶の様子を見て、フィーはそうアーサーに囁いた。
「へ、そうなのか?だって普通の社交辞令だろ??」
アーサーがきょとんと問い返すと、フィーは「分かってないわね〜〜」とため息をついた。
「あの令嬢の顔見なさいよ。オイフェさんをじ〜〜っと顔赤らめて見つめてるじゃない。」
「ふ〜〜ん……ああいう顔、もてるのか?」
「まぁね。だってカッコいいじゃない。シブい中年だし、ヒゲがナイスミドルって感じよ?」
「…………そうかな………?」
アーサーは首をかしげた。戦争中、セリスやアレスやシャナンを「カッコいい」と騒ぐ女の子たちを良く見かけたものだが、彼らはまぁ分からないではない。
しかし、もう若さを失いつつあるこの忠臣殿に、アーサーはそういう「カッコいい」魅力を見つけられないでいた。
「そうよ。まぁアーサーに、女心をくすぐるカッコよさなんて分かんないでしょうけど。」
「うん、よく分からん。…にしても、話、終わらんもんかなぁ……??」
いつの間にやら立ち話に発展してしまっているオイフェと令嬢の様子を見て、アーサーはいい加減飽きた、とばかりに一つあくびをした。
「ちょっとはしたないわよ、アーサー。」
「いいだろ、誰も見てないし…それにンな事言い出したら、客が来てるって分かってんのに領主の足止めてるあっちの方が悪い。」
「あのね〜〜…」
まぁアーサーの言い分も分からないのではないけど、とフィーもその令嬢に目をやった。
オイフェも少々困惑気味に相手をしているその令嬢はこの機会を逃すものか!とばかりに喋りたてている。
いい加減誰か止めてくれないかな、とアーサーが辺りを見回したとき、廊下をたたたた、と少女が駆けてきた。
その少女はまっすぐオイフェの所までやってくると、「失礼します、オイフェ様?」と声をかけた。
「あぁ、なんだい?」
オイフェがこれ幸いとばかりに少女へ視線を移す。令嬢は悔しそうに言葉を止めた。
「お父様がオイフェ様をお呼びするように、って。大体出来たので具合を確かめて欲しいそうです。」
「そうか、それではすぐに行くとしよう。では失礼…あ、アーサー卿、失礼を致しました。良ければご一緒に……。」
オイフェは令嬢に軽く頭を下げると、そそくさとその場を後にした。

「オイフェ卿、ご婦人方に人気があるんですね。」
令嬢の姿が見えなくなった頃、フィーはからかう様にそう言った。
オイフェは困ったような照れたような顔をして「はは…」と笑って見せた。
その代わりに、先程オイフェを呼びに来た少女が先頭からパッと振り向いてフィーに答える。
「そうなんですよ、オイフェ様は近辺のご令嬢にもの凄く人気があるんです。まぁ、お素敵ですから無理もないですけど……私も負けてられませんわ。」
「あれ、君もオイフェ卿目当てなのか?」
アーサーが聞くと、少女は恥ずかしくなる事もなく、あっさりしっかりと頷いた。
「ええ!私が年頃になったらオイフェ様に申し上げるんですっv『お慕い申しております』って!」
「……フィアラ……」
オイフェのその困ったような表情を見て、アーサーとフィーは思わず噴き出してしまった。
「あ、お客様方ひどいですよ笑うなんて!私、本気なんですよ??」
「あ、悪い。…でもそうだな、数年後同じ事いったら脈あるかもな〜〜……。」
「今の私じゃ魅力がないっていうんですか??」
「え、あ、いや、別にそういう意味じゃ……」
「冗談です。…あ、つきました。」
大真面目な顔で見事にアーサーを手玉に取る彼女、フィアラにフィーはまたくすくす笑った。
「すっかり遊ばれてるわねアーサー。」
「あぁ…全然かなわないな。」
「お父様、オイフェ様をお連れしました。」
アーサー達が話していると、フィアラがそう言って扉を開けた。
その先にはオイフェより幾分か歳を取った男性と、布のかかったキャンバス。
「オイフェ様、ご足労頂いて申し訳ありません。…うちのフィアラが失礼を致しませんでしたか?」
男性は柔和な笑みを浮かべて、オイフェに向かい深々とお辞儀した。
「いえ、逆に助かりましたよ。エラーナ嬢に話を聞かされていたもので…。」
「そうよお父様!私、オイフェ様に失礼なんか絶対しないわ!」
「それならいいんだがね…お連れの方々も、お転婆な娘で失礼しました。」
「あ、いやいいですよ、お転婆で元気なのは身近に一人いますから……。」
「………誰の事よ。」
アーサーが笑って手を振るのを、フィーがジト目で睨む。相手はあっさり答えた。
「もちろんフィーだよ。いいだろ、元気なのは良い事なんだから。」
「まぁそうなんだけど……。」
でもねぇ、と煮え切らないフィーをまぁまぁと宥めてからオイフェは「それで、用というのは?」とフィアラの父親に聞いた。
「そうそう、オイフェ様の肖像画が完成したのです。それを是非お知らせしたくて…。」
「おぉ、完成されましたか。」
「しょうぞうが!?」
「オイフェ卿、肖像画描いてもらったんですか??」
アーサーとフィーが驚きの声をあげると、オイフェは照れたように笑った。
「いや、是非にと言われましてな。」
「オイフェ様にはこれからもシアルフィを頑張って治めてもらわねば。その気持ちをこめて、描かせて下さいと頼んだのですよ。」
「いいなぁ、肖像画……俺も今度描いて貰おうかな〜〜……。」
「アーサーの肖像画だったら奥さんと間違われるんじゃない?」
「あ、何だよそれ。じゃあフィーと一緒に描いてもらうさ。」
「いいですな。題は『新ヴェルトマー公爵夫妻』ですかな?」
「なっ……!!」
「ちょっとオイフェ卿っ!何を言うんですか!!」
二人は声を揃えてオイフェにつめよる。
フィアラの父親である画家も声を出して笑った。
「そうですな…では、この絵の題は『美髭公オイフェ』ですかね?」
「美髭………いや、そうでした、是非完成品を見せて下さりませんか。」
「ええもちろんですとも、そのためにお呼びしたのですから。……では。」
画家はそう言うと、さらりと傍のキャンバスにかかった布をはずした。中の絵があらわになる。
アーサーとフィーはそろって目を丸くした。
原色の色彩、いびつな線、妙に強調された髭。
何やらかろうじて人間の絵と判別できるものがその中には描いてあった。
「……………うむ、見事ですな。」
そう言ってのけられたのはさすが人心を汲むのが得意なオイフェと言うところだろう。
「……もしかして、抽象画……??」
フィーの言葉にフィアラは自慢げに頷いた。
「そうよ、私のお父様はその筋ではちょっと有名なんだからっ!」
………って抽象画で肖像画ってどうなんだ………???
アーサーは頭の中でそう呟く。口にしなかっただけまだ偉いかもしれない。
反応に困るアーサーとフィーに、フィアラが笑顔で言った。
「そうだ、お二方もどうです?肖像画、お父様に描いてもらっては??」
「いや………。」
「ま……まだ旅の途中だし………。」
二人はそう答えて首を振るぐらいしか手がなかった。

アーサー達が旅立って数日後、応接間の英雄シグルドの隣にはオイフェの肖像画が飾られる事となる。
つくづく先に旅立っておいてよかった…と思いつつ次の地へ旅立つ二人であった。

《つづく》



ビッグバード>ついにシアルフィ!そして美髭公!!いやぁオイフェのことこう呼ぶの好きなんですよね〜(変なとこでマニアックな鳥@)
しっかし・・・話がすすむにつれて二人のラブラブ度も大幅アップですな。鳥的には激オッケイです!!(何が)
でも確かにシグルドさんの肖像画・・・飾ってそうだなぁ@
オリキャラのフィアラちゃんもかわいかったです〜。ビバ年の差カップル☆(爆) 序章のルートってことは・・・次はイチイチイバルなとこですね!サラサラパツキンの男前スナイパー、楽しみにしとります!!

レースル>いやあ、「書けないよー」という魂の叫びを聞いた時にはどうなるかと思いましたが、オイフェ滅茶苦茶ええ感じですv
そしてオリジナルキャラクター、可愛い@そのまま結婚しちゃえ!(←倫理的にまずかろう)
美髭公…(笑)。やはり??(笑)
アーサーとフィーもこの旅でどんどん親密度がアップしていっているご様子。
ヴェルトマーに帰ったら即結婚式でも…(笑)。



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