Angel Sugar

「嫉妬かもしんない」 最終章

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「俺……っ……何処が良いんだ?なあ、俺みたいな男なんか掃いて捨てるほどいるよ。それに男より女の方が良いに決まってる……なのに……何で俺なんだ?」
 抱き合うといつも思う事だった。男より女の方が良いに決まってるのだ。なのに何故、自分なのか大地には分からない。それにテクニックだってなんにもない。いつも博貴に任せっぱなしで何も出来やしない。他の誰かを抱いた方が良いような気がするのだ。
「愛するって事は、身体がいいとか顔が良いとか、セックスの上手い下手で選ぶものなのかい?」
 博貴はそう言いながらも自分の行為を止めることはしなかった。
「……そんなこと……ないと……思うけど……」
 与えられる刺激に麻痺しそうな理性を必死に押しとどめながら言った。
「けど?」
「な……俺に……そんないいとこ……ある?」
「大地といるとホッとするんだよ。確かにちっちゃくって可愛いいから、こう、腕の中で抱きしめたいと思う所もあるけどね。それより側にいてくれるだけで精神的に癒されるんだよ……」
「……それが愛してるにどう繋がるんだ?」
 癒されるというなら別につき合う必要など無いような気がした。
「愛してるってことはねえ、どことどこがいいとか言葉で言えないものだと思わないかい?君の全部ひっくるめて私のものにしておきたいというのじゃ駄目なのかなあ」
 くすくす笑いながら博貴は言った。
「俺の全部がいいの?」
「そうだよ……。じゃあ、聞くけど、大地は私の何処がいいんだい?」
「……え……俺?」
 突き詰めて考えたことは無かった。こんな風に聞かれると説明しにくいのだ。
「どうしてそんな驚いた顔をするんだい?」
「……んー何処が良いんだろう……」
「それって、嬉しくない答えだねえ……」
 博貴は大地の身体をひっくり返して背中を愛撫した。
「……あっ……」
博貴の手がやや立ち上がったモノを両手で掴んで緩やかに上下させた。
「で、セックスが上手いとか、そう言うことを言ったら……」
 といって博貴は大地のモノを掴んだままギュッと握り込んだ。とたんに、ぼんやりしていた意識がはっきりした。
「あっ……や……やめろよ……痛いっ……って」
顔を仰け反らせて大地は抗議の声を上げた。
「人に聞くくせに自分は言わないんだから……お仕置き……」
 くくっと笑って博貴は言った。
「なあ……こっち向いてくれよ……」
 そう大地が言うと博貴は手を離して仰向けになった自分の上に大地を乗せた。
「なんだい?」
 からかうような瞳で博貴は言った。そんな悪戯っぽい目が大地は好きだった。
「俺……お前の笑顔が好きだよ……。俺の作ったご飯を美味しそうに食べてくれる顔も好きだ。ぎゅって抱きしめて「大地」って言ってくれるのすごく好きだ。でもさ、お前って性格悪いし、俺のことすぐからかうし、苛めるしさ。本当なら一番嫌いなタイプなんだけど……口が上手いから言いくるめられるんだよね。そう言うところ憎めないって言うか……放っておけないっていうか……あー上手く言えない」
 そう言って大地は自分から腕を廻して博貴にキスをした。
「……嬉しくない」
 ムッとした顔で博貴は言った。
「あーだから……ほら、悪い奴ほどこう、放っておけないって言うか、好きになったら止められないって……あれ?なんかこれって褒めてねえよなあ」
 なんだか自分で言って大地は笑ってしまった。とにかく全部が良いという博貴と同じ気持ちなのだが、上手く言えないのだ。
「大地が言うのを聞いていると、私は最悪の性格をしていないかい?」
「最悪とは言ってないよ」
「言ってる……言ってるよ大地……はあ……」
 博貴はそう言って大地の腰に廻していた手を外してベットの沈み込んだ。かなりムッとしたようであった。
「博貴……」
「ってことはだね……もしすごく性格がよくて、優しくて、君を苛めるような事をしない笑顔の良い男が出てきたら君はそっちに行っちゃうんだ」
「ち、違うよ。そう言う意味で言ったんじゃなくてさあ……」 
 慌てて大地はそう言った。
「あーあー……私がこんなに大地の事を愛してるのに、大地は私を悪い奴だなんて思ってるんだからねえ……ショックだなあ」
 博貴は言うとゴロンと横になった。
「大良……あのさあ……」
「それに、何度もこういう時は博貴だって言うのに大地すぐ大良だからね……」
「……それは……」
 照れくさいからだった。気分を害したのか、博貴は毛布の中に潜り込んでしまった。このまま寝てしまおうというのだろう。こういうのが苛めていると大地は思うのだ。だが、博貴の方が一枚上手でこちらが負けるのは目に見えていた。仕方無しに大地は博貴の後ろに潜り込んで博貴の背中にピッタリと張り付いた。精一杯の自己表現だ。今日はこのまま何も無しで終わりたくなかった。
「ごめん……俺……博貴って言うのすごくさ、照れくさくて……。うん。博貴のことすごく好きだよ……。上手く言えないけど……。俺さ、素直に言いたいことも正反対の事結構言っちゃうし……でもお前はそんなの気にしないでいてくれる。今日迎えに来てくれたときも嬉しいくせに正反対のこと言ってさ、それでお前が帰っちゃったら終わりなのに……。それがすごく怖かったのに、そんなの関係無しに連れて帰ってくれた。感謝してるんだ。その、お前の強引なところとに俺すごく助けられてる。知ってるよ……何時でも俺のこと気にかけてくれて、大切に思ってくれてるの……。そんな博貴を……俺、愛してるんだ」
 そう言うと博貴の背中がちょっと動いたような気がしたが、返事は無い。
「……」
「なあ、博貴……このまま寝ちゃうのか?」
 おそるおそる大地は聞いたが博貴は無言だった。
「俺さあ、その……ええっと……」
 相手をその気にさせる方法など大地には全く分からない。一旦身を起こして大地は博貴の前に回り込んだ。
「なあって……狸寝入りするなよ」
 博貴の頬をピタピタと軽く叩くと閉じていた瞳が開いた。
「寝るんだろう?」
 不機嫌そうに博貴は言った。
「……俺さあ……その……」
 言葉が出ずに大地は顔が真っ赤になった。
「やる気、そがれちゃたんだよなあ……大地が苛めるから……」
 ニヤニヤと博貴はそう言った。この男はこちらが何を言いたいのか分かっているのだ。だから苛められているのはこっちだった。
「……苛めてるの……お前じゃんか」
「逆ギレするのかい?」
 相変わらず博貴はニヤニヤとしている。
「……」
 くっそーこの野郎と言おうとしたが、そんなことを言った日にはもっと苛められそうだったので大地は言葉を飲み込んだ。
「ねえ、大地……今ふたりっきりだよ……聞かせてくれないかい?」
 じいっと期待に満ちた瞳を博貴は返してくるが、何を言えば良いのか大地には見当が付かない。分からない大地は思いきって腕を回し、自分の足を絡めて博貴にキスをした。博貴の方は楽しんでいるように目を細めていた。
「博貴……頼むよ……」
 こちらは既に身体が熱く火照ってきているのだ。それなのに博貴の方は涼しげな顔をして口元に笑みを浮かべていた。
「元気がなくなっているところを、その気にさせてくれなきゃねえ」
 博貴に言われた大地は、どうしようかと目線を泳がせ、暫くするとそっと自分の手を博貴の下半身へと忍ばせた。そうしてまだ力無いモノを掴んで博貴の顔を見た。
「そうそう」
 やけに嬉しそうに博貴は言った。
「……どうするんだよ……これ……」
 途方に暮れたように大地は言った。
「そりゃあ君、元気にしてくれないとね」
 元気に……元気にしろと言われても、どうするんだ?と一瞬パニックになりそうになったが、色々考えあぐねた末に大地は言った。
「お前……身体起こせよ」
 大地は身体を起こして言った。
「あ?」
 言いながらも博貴は身体を起こして大地を見た。
「その気にさせりゃいいんだろ」
 精一杯の強がりで、そう言って大地は博貴の下半身に頭を埋め、先程手に握ったモノを口に含んだ。が、初めてのことでやり方など分かるわけはない。
 大地が口に含んだところで博貴が「痛っ」と小さく言った。思わず真っ青になった大地は顔を上げた。
「ごめ……ごめん……俺……何にも出来なくて……」
 涙がいきなりこぼれた。結局何も出来ない自分が腹立たしかったのだ。そんな大地の頬を伝った涙を口元で受け止めた。
「ほら、再チャレンジ」
 ニコリと笑って博貴は言った。だが大地は気が進まない。
「俺……駄目だよ……」
「大地がいきなりだったから、こっちも驚いたんだよ。でも大地の舌が触れた所為で興奮してきた……もっとしてほしいなあ……駄目かなあ……」
 満面の笑みで博貴は言った。その笑顔に押されるように、大地は四つん這いになってもう一度、今度は出来るだけ気をつけてやや立ち上がったモノを口に含んだ。すると最初の大きさよりも太さの増したモノが狭い口内一杯に入った。
「舌で優しくね。噛みきらないでくれよ……」
 博貴はそう言って大地の背を撫でた。そんなことは分かっているが、この状態でどうして良いかまた途方に暮れそうになった。
 考えてみるとものすごいことを自分はしているのだ。これってフェラチオとかいうんだよなとふっと思いついて足の先まで赤くなりそうだった。
 だが二人っきりなのだ。他に誰もいない。博貴が望んでいるのなら、それを叶えたいと大地は思い、ゆっくりと舌を使って愛撫し始めた。
「……ああ……気持ちいいよ大地……」
 暫くすると博貴のうわずった声が頭上から聞こえた。下手は下手なりに、何とかなるんだと大地が思っていると、博貴の指が自分の蕾をまさぐりだした。その刺激で思わず口元が離れた。
「じゃ、邪魔するなよ……あっ……や……」
 そう言っている間も博貴は蕾の部分にグリグリと指を立てるのだ。
「口元がおろそかになってるよ大地」
「だって……お前邪魔するから……やっ……あっ…」
 猫が伸びをするような格好で大地は前につんのめった。
「大地……ほら、早く。こっちも気持ちよくしてくれないか?」
 下半身からの刺激に耐えながら、大地は何とか博貴のモノを再度口に運んだ。だが、博貴から刺激が加えられるたびに口元を離しそうになるのを必死に我慢して、舐め上げる。しかし、その行為も長く保たないうちに半開きになった口から空気を吐き出した。
「あっ……駄目だ……俺……も……」
 指が円をかくように内部で回されると、キュッと身が縮むような感覚が下半身から這ってくるのだ。その刺激に大地は耐えられないのだ。
「そのまま……おいで大地……」
 博貴はそう言って大地の腕を掴んで引き寄せた。快感で半分思考が麻痺している大地はその意味が良く分からなかった。
「……ひ……博……貴……」
「そのまま腰を下ろしてごらん……」
 大地は博貴に上半身を抱えられるようにされ、そのまま言われるがまま下半身を降ろした。すると蕾の部分に何か尖った先端が当たり、あっと思った瞬間には一気に博貴のモノを奥深くまで銜え込んだ。
「うっ……あーーっ」
 背骨を伝って痛みと快感が一気に駆け上がった。大地は身体を起こそうとするが、両足が麻痺したように動かなかった。
「あっ……ああっ……ひろ……き……」
 大地は助けを求めるように博貴に腕を伸ばした。博貴はその腕を自分に絡ませると、大地の首元や胸の尖りを吸い付きながら愛撫した。
「大地……君の一番深いところにたどり着いてる……。ここも……熱くて……締まりがあって、動いて無くても気持ちいいよ……」
 耳元で囁きながら博貴が言った。
「は……恥ずかしい……こと言うな……」
「少し動いてみるともっといいのかな?」
 博貴は腰をゆっくり回転させると大地が悲鳴のような声を上げた。
「やっ…やめろっ……頼むっ……あっ……あっあっ…や…やだっ」
 身体の深いところから鈍痛の様な痛みがあった。博貴の切っ先は大地の最奥を叩いているのだ。ただ、痛いのだが気持ちもいい。その考えると変な感覚が大地の身体を支配していた。
 それは痛みの後で来る快感だ。
「良いんだろ……正直に言ってごらん……君はすごく気持ちいいはずだよ……」
 博貴は意地悪くそう言って、息も絶え絶えの口元を欲しがった。この男はどうしてそんな恥ずかしい台詞をポンポンと言えるのか大地には理解できなかった。ただ、いつもと違うのは博貴の目がいつもより熱っぽかった。
「……お前……変……だっ……」

 変だろうなあと博貴は思った。だが、手の内で身悶える大地を見て変にならない方がおかしい。苦痛と快感の入り交じった表情で、助けを求めるような潤んだ瞳、羞恥で身体はうっすらとピンクに色づいている。半開きの口元は熱い息を吐き出し、時折きつく結ばれる。痛みを堪えているのか快感に耐えているのかは半々だろう。
 こういうのを目の前にさらされてしまうと、煽って焦らして次に見せる表情を期待してしまうのだ。
 ようやく抱き合えたということと、それに大地が藤城に不意打ちとは言え、唇を奪われてしまったという嫉妬心が博貴の中にあった。何より、下手をすると大地はあの男に抱かれていた可能性だってあったのだ。それを回避できたことに関してはホッとしていた。だが、大地はそれを良いと思った瞬間があったのだ。それが許せないのだ。
 思い知らせてやらないと駄目だと博貴は考えた。誰が愛しているのか、誰が快感を与えているのかを……そう思うといつもより大地にきつく要求をしてしまうのだ。
「博貴……っ……」
 涙を堪えながら大地は何とかそう言った。何を求めているか、博貴には分かっていたが、そろそろ何がして欲しいか、今どう思っているか素直に口に出しても良い頃であった。
 大地はなかなかそんな言葉を言わないのだ。快感に酔いながら何処かに理性があるのか、性格的に理性を失おうと、恥ずかしい事を口に出さないのか分からないが、求める言葉を言わせる為に、こちらが言って反復させる方が多かった。そのうち慣れるだろうと思ったが、助け船を出さないと大地はなかなか聞かせてくれるのだ。
 そんな大地が可愛くもあり、物足りないのだ。ふたりっきりの空間の中で恥ずかしいことなど何もない。
「大地……」
 抱き壊してしまうような欲望に突き進むつもりはなかった。大地の身体はそんな扱いに、まだまだ慣れていないのだ。彼の精神も身体もデリケートに出来ており、真っ直ぐ育った性格にしっかりとした道徳観念を持ち合わせていた。多分それらがあるためにセックスを楽しむという所に行き着くにはかなり時間がかかるのだ。
 本来ならこんな手間のかかる相手を抱きたいとは思わない。大地だから出来るのだろう。そう考え博貴は苦笑が漏れた。本当に大地を愛しているんだなあと思うからだ。
「俺……俺……っ……ん……」
 涙をポロポロ落としながら必死に大地は耐えていた。
「自分で動いてごらん……気持ちいい所を自分で探すのも大切だよ……」
「おま……お前……何言って……」
「言葉通りだよ……大地……君は何か足りずに思っているはずだ……何が足りないんだい?良いんだよ恥ずかしくないから……。ほら、口にだしてごらん。すっとするから……」
「……あっ……でも……俺……」
「大地が言ってくれないと、私も途方に暮れてしまうねえ……」
 ニコリとした笑みを博貴は大地に見せた。
「俺……」
 暫くすると大地はにじにじと腰を少し動かして、止まった。表情はどちらかというと青かった。
「……絶対お前……俺……俺のこと……嫌いになる……」
「どうして?」
「こんな……こんな恥ずかしいことして……変な奴だって思う……」
 繋がったままで、こんな話をする方が変だと博貴は思ったが、それは言わなかった。
「愛し合ってるのに、変な奴とは思わないよ。これが普通だよ」
「……ホントに……?俺、経験……そんなに無いから……分からないだけか?」
 素の目で大地にそう言われて博貴は笑い出しそうであった。そう言う問題ではないからだ。だがここで笑い出したら大地は自分が馬鹿にされたと思ってもっと萎縮してしまうだろう。それを分かっているから博貴は笑いをぐっと堪えた。
「そうかもしれないね……」
 そう言って博貴は体制を変え、一気に腰を入れた。
「うあっ……あっあああっ……」
 最初に一度達かせたほうが良いと判断して博貴は腰を何度も突き上げた。擦りあげるたびに大地の中はキュッと締まってこちらの快感を煽ってくる。酔いそうな程の快感が全身に伝わるのだ。狭いが、内壁はみっちりと張り付き、熱く粘りけがある。こんな経験は余り無い。こんな事を大地に言うと殴られるだろうが、仮に大地のこんな身体を知った男がいたとしたら、彼を手放すことなど出来ないだろうと容易に想像できるのだ。
「ひ……ろきっ……あっ……そんな……急に……追いつめないでくれよ……」
 こちらの腕を掴んで大地は訴えるように言った。吐く息が荒い。
「大地……愛してる……」
 博貴は大地のモノも擦りあげながら、更に腰を揺らした。大地は快感に耐えようとするかのよこちらの腕に爪を立てた。
「俺……俺っ……もっ……好きだよ……博貴が……っ……」
 荒い息と共に出された大地の言葉に酷く力が入っていた。
「大………大地……」
 飾り気のない大地の言葉は博貴にとってかけがえのないものであった。
「あっ……ああっ……ああああ……っ……」
「…………っ」
 二人は同時に達った。
 瞳を閉じて大地は浅く息を吐き出していた。そんな弛緩したような大地を腕に抱いたまま博貴はその胸元に軽く自分の印を刻んでいく。
「……ん……博貴……俺……喉乾いた……」
 うっすらと目を開けた大地がそう言った。博貴は先程のビールの残りを口に含むと大地に口移しで流し込んでやった。
「……うえっ……ぬる……」
 まずそうな顔でそう言うので博貴は思わず笑みが漏れた。
「……あー……折角風呂に入ったのに、又はいるの怠いなあ……」
「まだ寝かすつもりないよ」
 そう言って博貴はゆるくなっている蕾に指を入れ、くちゅくちゅという音を立てた。
「や、やめろよ……で、出ちゃうだろ……」
 顔を真っ赤にして大地はそう言った。その顔も可愛くて仕方ない。
「ここ……溶けてるよ……柔らかく……ほら、気持ちいいだろ?」
 そう言って博貴は二本の指で押し広げると簡単に自分が放出したものがトロトロと指を伝い、大地の大腿に流れ落ちた。
「やだ……」
「ほら、膝を立てて広げて……もっと気持ちよくしてあげるから……」
 そう言うと大地は照れながらも足を立て、左右に開いた。その両足の間に手を入れ博貴は指で敏感な部分を愛撫した。大地から漏れる吐息は浅く眉間にしわを寄せているが、口元には笑みが浮かんでいた。
「俺っ……変じゃないか……こんなかっこ……」
「全然……そんな言葉よりもっと違う言葉が欲しいね」
「あ……その……ん……気持ちいいよ……すごく……さ……」
 そう言って赤い顔を更に赤くした。そのゆだったような顔が愛しかった。
「大地……」
「……っ……あっ……博貴俺……っ……変だ……なんか……身体……がっ……震えて……もっとして欲しいって……俺……何言って……馬鹿だ……俺……」
「もっとして欲しい?うん。もっとしてあげるよ……気持ちよくさ……」
 博貴はそう言って流れ落ちたものを大地の下半身に塗り込めるように手を動かした。なま暖かい液は大地のものと混ざりながら、ぬるぬると辺りを湿らせた。  
「……やっ……そんなこと……するなっ……」
「身体は喜んでるよ……大地……身体が感じるものに正直になるんだね」
 そう言って博貴は大地のものをゆっくりと手の中で擦った。次第に立ち上がるモノは熱を帯びていた。
「あっ……博貴……っ」
 大地は両手を博貴の方へ向けて広げた。そんな大地に身体をずらして上に乗り、博貴はキスを繰り返した。大地は自然に博貴の腰に手を回し、与えられる刺激に酔っていた。博貴は身体を上下に揺らして肌を擦りあわせ、暫くしてゆっくり自分のモノを蕾の入り口で浅く入れたり出したりを繰り返した。先程の激しさとは違うジワジワとした快感が大地にも伝わっているだろう。こちらは一度達ったことで気持ちにも余裕があった。
「博貴……ひろ……きっ」
「何だい?大地」
「ごめんな……疑って……」
「何を?」
「お前……女と寝たって……誤解して……」
 泣きそうな顔で大地が言った。
「私も……君を酷く傷つけてしまった……許してくれる?」
「……ネクタイ……」
 ぼんやりと思い出すように大地が言った。
「うん……ネクタイだよ……」
 折角のネクタイを貰いそびれてとても博貴は残念に思っていた。ここ何年も愛情と想いのこもったプレゼントを貰ったことが無かったからだ。
「……なかなか……良かったんだぞ……あれ……お前に似合うだろうって……」
「本当に……済まなかった……」
「……いいよ……渡せなかったけどさ。気持ちだけは分かってくれよな……俺……生活費つぎ込んだんだから……」
「大地にそんなに想われて私は幸せだねえ……」
 言うと大地は照れた笑いを顔に浮かべた。
「博貴……な……」
「ん?」
「もうちょっと……その……」
「ふふ……なんだい?」
「あの……もう少し奥まで……」
 と大地は言って、目線を逸らせた。そんな大地をこちらに向かせて博貴が言った。
「大地って、ホント恥ずかしがり屋だなあ……そんな風に見えないのにね」
「……あのなあ……っ……あっ……お前っ……やっ……」
 抗議の声を上げようとした大地に博貴はぐいっと腰を突き上げ、奥に熱くたぎった自分の鉄をうち立てた。
「ひっ……あっ……やっ………ああっ……あっ……」 
「ああ、もう、大地の中は……気持ちよすぎて、こっちの気もおかしくしてくれる……」
 入り口がゆるく溶けていたが、中は滑りが良くなった分だけ、気持ちがいいのだ。そんな快感を貪るように激しく腰を上下させると、大地が何度も嬌声をあげた。両手でシーツを掴み、自らも腰を揺らしていた。
 なかなか良い傾向だなと思った博貴に大地が言った。
「博貴……っ。もっと……して……」
 博貴はニッコリと笑って大地の願いを叶えてやった。



 朝、目が覚めると、既に博貴の方はバスローブを羽織ってベットに座っていた。だが、何故かムッとした顔をしていた。
「……お前……なんか怒ってるぞ……」
 そう言うと博貴は驚いたようにこちらに振り返り、先程見た顔とは全く違う笑顔で「おはよう大地」と言った。
「何でも良いけど……何怒ってたんだ?」
「……いや、さっき君ん家の戸を叩く音がしたんで、代わりに出たんだけど……宅急便でね……来たものというのは……」
 そう言って小さな箱を大地に見えるように上に持ち上げた。
「……誰からだった?」
「私が嫌いな男だよ。中身は見ていない」
 確か兄の戸浪に土産を送ってくれと言ったことがあったが、それだろうか?
「兄ちゃん?」
「大ちゃん。ふざけないで欲しいな」
「俺、ふざけてなんかねーぞ」
 そう言って、身体を起こすと大地は箱に張られた伝票を確認して驚いた。
「……なんなんだ、これは。大ちゃんはそんなにあの男に甘えたのかい?私には甘えてくれないのに……」
 博貴はかなり機嫌が悪い。
「知るかよ……かせよ。中身見てみるから」
 博貴が持っていた小包を奪うと大地はバリバリと包装を破り中を確認した。すると、藤城のうちに置いてきた服等が綺麗にプレスされて入っていた。
「……いい人だなあ……」
 そう言うと博貴が箱を奪い取った。
「奴が触ったものは捨てる!」
「お前何言ってるんだよ」
 こちらも箱に手をかけて言った。
「嫌なものは嫌だからね」
「あのなア……あ、ちょっと待てよ」
 箱の中に捨てたはずのものを見つけて大地は言った。
「……駄目だよ大地」
「……これだよ、お前にやろうと思ってたプレゼント……俺、藤城さんに捨ててくれって言って渡したんだ。きっと包装やり直して貰ったんだ……」
「……」
「で、お前は又捨てろって言うのか?」
 じーっと博貴の目を睨み付けると博貴が言った。
「……これだけ……許すよ」
 ちょっと笑みの戻った表情で博貴はそう言って、箱から綺麗に包装された小さな箱を取り出した。
「お前って……ホント……何て言うか……」
 溜息をついて大地は言った。このかたくなさは一体何だろうと思うからだ。今、博貴の方は嬉しそうに包装を解いていて中身を出して手に取っていた。
「大ちゃん……」
 驚いた顔をしたと思ったら、次に機嫌が一気に良くなった顔で博貴はこちらを振り返った。
「うん。なかなか良いだろ。俺が選んで金を払ったんだ」
 自分が金を払って買ったということをしっかり強調した。
「ありがとう……本当に嬉しいよ……」
 胸一杯の表情で博貴が言った。
「遅くなったけど……誕生日おめでと」
 そう大地がいうと博貴がいきなりこちらを抱きしめた。息が出来ない程の強さであった。そんな博貴から逃れようと身体をよじらせていると箱の中に白い封筒が目に入った。
「ちょっと待って……」
 博貴の腕から逃れて大地はその封筒を手にとって中身を出した。読んで驚いて言葉が出ない。こんな事を博貴に言ったら大変だと思ったときには遅かった。
「あの男……何を書いてるんだ?」
 又機嫌が傾いている博貴だった。
「別に……気にすることなんかないよ」
「私が気にすることが書かれてるのかい?」
「え、あ、そんなんじゃないから……」
 と、隠そうとするのをもの、すごい素早さで博貴は取り上げた。
「おい、待てよ!勝手に読むな!」
「……服はきちんと洗って返すよ、大君が買ったプレゼントは包装し直して貰っていたから一緒にいれておくね。良かったら又食事でも行こう。ある意味、これで君の彼氏と同じ土俵に乗れたと思っている。私も大君のことを大切に思っている事を忘れないで欲しい。……ってなんだいこれは」
「知らないよ……」
「知らないってね、人の恋人を大君と気安く呼ぶなんて……失礼な奴だ。それにね、どうして私が同じ土俵に乗らなければいけないんだい?」
「……向こうが勝手に言ってるだけだからさ……気にするなよ」
「あのね、私は自分が今まで一番嫌いだと思ってた人間になってるんだ」
「なんだよ」
 博貴はずいっと近づいて言った。
「誰かに嫉妬することだよ。今までそんな男も女も馬鹿だと見下げてきたんだよ。それが、これだ。大ちゃんに関しては私は本当に嫉妬深くしつこい男になれるんだ」
 じっと目を射抜かれるように見つめられて、思わず顔が火照った。
「……えーーっと……」
 と、おどおどしているうちに博貴は手紙を箱に投げ入れ蓋を閉じると、ゴミ袋にそのまま放り込んだ。次の瞬間には、袋の口をしっかり閉じていた。
 じっとその行為を眺めていると、博貴は「なんだ?文句あるのかい?」という顔を向けたのでやりたいようにさせた。もめ事は当分無しにしたかった。
「それと、大地、例の君がもらったプレゼントも全部こういう目にあわすからね。その代わりちゃんと私が弁償するから。いいね」
 大地は素直に頷いた。
 当分このことで悩まされるかも……とふと思った。

―完―
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