Angel Sugar

「血の桎梏―邂逅―」 第6章

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 露わになった肌にラシャの白い手が伸びてきて、脇からすくい上げるように、きつく胸を揉み上げる。身体を覆っている皮膚が強く擦り上げられ、ライは痛みと快感を感じた。
「……っ……それは……ラシャの経験なのか?」
「経験?」
 ラシャによって冷えた眼差しが落とされたまま、ライはさらに問いかけた。
「身体を隙間なく血で洗えば……何も感じなくなるって……言っただろ。それって……最初はラシャもそうだったってことなのか? ラシャも……辛い、痛いって感じたことがあったってことなのか?」
 もしそうなら希望があるような気がしたのだ。
 もともとあった感情が、様々な体験で失われたというのなら、取り戻しやすいと考えた。それに、ラシャが後天的に感情を失ったというのなら、ライ自身が少しばかり救われるような気がしたのだ。
「ないな」
 あっさりとしたラシャの答えに、ライは苛ついた。
 ライが求めているものが何かを分かっていて、ラシャはからかっているのだ。
 しかも、顔色一つ変えずに。
「……ラシャ……っく!」
 首筋に歯を立てられて、ライは声を上げた。
 けれど痛いはずなのに快感となる。
「あ……ああ……」
 ラシャの唇が首筋を這い、耳朶を甘噛みする。冷笑を浮かべる美貌からは想像ができないほど、ラシャの愛撫は優しく、何かを錯覚しそうになるのだ。
「あ……ラシャ……俺は……話しをして……っう」
 ラシャの膝がライの敏感な部分を擦り、刺激を与えてくる。
 下着の中で張りつめていく自らの雄がライの欲情を煽り、何もかもがどうでもよくなってしまう。
「や……やめろよ……」
「乳首が立ってるぞ……」
 しゃぶりついていた胸の尖りから唇を離し、ラシャは何の感情も伴わない口調でそう言った。不思議なことに、それが逆にライの欲望を刺激する。
「ラシャ……っあ!」
 ラシャの手が腹を滑り、スラックスの中へ差し込まれ、中で強張っていた雄を掴んだ。その刺激でライは身体がくの字に折れ曲がり、ラシャの胸に顔を擦りつけた。
「は……っ……あ……」
 ラシャの手は断続的にライの雄に力を込めて刺激を与えてくる。手の動きはリズミカルで、同時に双玉を撫でさすってくるのだ。
 痛いほど雄の切っ先を弄られ、下半身から力が抜けていく。
 立っていられないほどの目眩を感じるのに、両脚に挟まれたラシャの脚が、倒れることを許さなかった。
「あ……ああ……」
「気持ちいいんだろう?」
「……ラシャ……俺……」
「私の手はもうヌルヌルになっているぞ……」
「や……やめてくれよ……あっ……あ……ああ……」
 額をラシャの胸に擦りつけ、ライは下部を見下ろしていた。
 スラックスに手を突っ込んだラシャの手が、ごそごそと中で蠢いているのが分かる。同時に感じる快感もライの理性を麻痺させて、何を話したかったのか、何を問いたかったのかを忘れさせるのだ。
 ラシャのペースにのるものかといつだって踏ん張るのに、最後には快楽に堕ちる。
「いやなら……やめてもいいぞ」
 スラックスから手を引き抜くラシャに、ライは情けない顔を向けた。
 中途半端に煽られた身体が、震えている。
 ラシャの雄がどれほどライの欲望を満たすのかを、本能が知っているからだ。
 与えられないまま放り出されたら、きっと気が狂ってしまうだろう。
「……嫌だ……ラシャ……」
「……くだらない話しはもういいのか?」
 唇が重なるほど近くでラシャは囁くように呟き、頬をベロリと舐めた。その仕草にライはゾクリと背筋を震わせる。
 ラシャの手はどこにいったのだ。
 もっと身体に触れて欲しい。
 雄を強く擦り上げ、欲望を解放して欲しい。
 いや……。
 ラシャの熱い楔をライの身体の奥へ打ち込んで欲しいのだ。
 まるで習慣性のある麻薬に身体が慣らされたような欲求だった。
 喉が渇き、声が上擦り、身体の奥がジクジクとした疼きに苛まれる。
「俺……くだらない話しなんて……してない」
「話しを続けるか?それともセックスの続きをしたいのか?」
「そんなの狡いっ!」
「何が狡いんだ。同時にできないことだろう?」
「俺……」
 身体がますますライに訴えてくる。
 この疼いた身体をどうにかしろと。
 この乾いた喉を潤す愛撫を受けてくれと。
 だが、ライは必死にその欲望をねじ伏せて、絞り出すように声を発した。
「……ラシャ……人の痛みを知ろうとしてくれよ……傷を負えば痛いと……苦しいと感じる努力をしてくれよ……俺ができることなら……なんでもするから……もう……誰も殺さないでくれよ……嫌なんだ……どうしても嫌なんだ……」
 頬を伝う涙は快感を求めるものではない。
 この神に愛でられているような美貌の男に、少しでも人の心を取り戻して欲しいのだ。
「……興ざめだな」
 そう言って身体を離そうとするラシャをライは腕を掴んで引き留めた。
「ラシャ……どうしたらちゃんと俺の話しを聞いてくれるんだよ……」
「お前は私の性欲の処理のために置いている。話しをするためではない。それを受け入れたのは、お前だろう?だったら、自分のすべきことは分かっているな?」
 ラシャはライに掴まれた手を引き剥がすと、髪を掴んで引き寄せた。
「ラシャ……」
「自分が気持ち良くなりたいなら、まずは私を気持ち良くさせるんだな……」
 そう言ってラシャはもう片方の手で自らのファスナーを下ろす。
 ラシャが何を求めているのか、言われなくても分かった。
 それに逆らえないことも。
 ライは膝をつくと、ラシャの雄をスラックスから引きずり出して、自らの口内に誘った。
 柔らかい肉の感触がすぐさま硬いゴムのようなものへと変わる。
 顎が痛むほどラシャの雄を口内に入れたり、出したりを繰り返す。
 口内に苦い味覚が広がり、むっちりとした肉が口いっぱいに広がる。
「……ん……う……ううっ……」
「もっと、自分のしていることに集中しろ……まるで素人だぞ」
 喉の奥まで雄を突き挿れられて、ライはえづきそうになった。けれど、吐き出すことも許されず、喉の痙攣を必死に抑えて、口内のものを鍛えるために必死になった。
 額に浮かんだ汗が頬を伝って、口元に流れていく。苦みの他に塩っ辛い味覚を感じながらも、ライは何度も雄の出し入れを繰り返した。
「……っん……ん……ん……」
「一滴残らず飲み干すんだぞ」
 ラシャは自ら腰を振り、ライを追い詰めるように抽挿を早めた。
 息苦しくて、涙が出そうだ。
 あまりの苦しさに、ラシャの脚を掴んで身体を支えたが、喉の奥まで突き挿れられる雄に、咳き込む暇も与えてくれない。
「……っう……ぐう……う……んっ!」
 口内に迸ったラシャの蜜を全て受け止め、ライは嚥下した。
「そうやってお前は素直に私の言うことを聞いていたらいい」
 ライの身体を床に組み敷き、ラシャは婉然と笑った。
 視界が朦朧としながらも、ラシャを頭上に見て、ライはホッと安堵していた。
 ようやく与えられるだろう快感に、本能が悦びに打ち震える。
「ラシャ……早く……」
 ライはひたすら懇願するしかなかった。
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