30万ヒット記念企画 テーマ「酔っちゃった」 第1夜
戸浪&祐馬
■ 質の悪い男
珍しくその日、戸浪は祐馬よりも先に帰宅した。いや本日は元々戸浪が早く帰る予定だったのだ。
玄関で靴を脱いでいると、一日留守番をしていたユウマが喜び勇んで廊下を走り、戸浪の足下に絡みついてくる。
「ただいま。ユウマ。良い子にしていたかい?」
戸浪がユウマの頭を撫でると、ユウマは「にゃあ」と鳴き、更に身体を擦りつけて来た。
お腹が空いているのだ。
朝出てくるときに餌の皿一杯にキャットフードを入れるのだが、何時も先に帰ってくる祐馬にしても、戸浪にしても早くて帰宅は夜の七時くらいになる。
そうなると朝一杯に入れて置いたキャットフードも空になっているのだ。だから戸浪達が帰ってくる頃にはユウマはお腹を空かせていた。
「すぐ餌を入れてあげるから……」
戸浪はスリッパを履き、ネクタイを緩めるよりも先にキッチンに向かった。するとキッチンの端に置かれているユウマの皿は見るまでもなく空になっていた。
戸棚からキャットフードの箱を取りだし、ユウマの空になった皿にたっぷりと入れてやると、じっとそれを待っていたユウマはもう待ちきれないのか、まだ餌を入れている最中であるのに、皿に顔をつっこみ餌を食べだした。
「お腹が空いてたんだなあ……済まないな……毎日……」
ガリガリと音を立て、美味しそうに餌を食べているユウマを眺めながら戸浪は呟いた。
餌を頬ばっていたユウマは暫くすると顔を上げ、同じように置かれている皿に入っている水を飲むとようやく餌置き場から離れ、戸浪の足下にまた絡んできた。
「よしよし……」
頭を再度撫でてやるのだが、ユウマは急にキョロキョロと目を動かした。どうも祐馬を捜しているような仕草であった。
「祐馬は今日遅いよ。飲み会だと」
猫がそんなことを気にするとは思えないのだが、戸浪はユウマにそう言った。すると分かったような顔で「にゃお」と一声ユウマは鳴いた。
以前から今日の晩は飲み会だと祐馬は言っていたのだ。その為、本日の帰宅は十二時を過ぎるだろうと戸浪は思った。
適当に夕飯を摂って、だらだらとするのも良いか……
戸浪はそう思いながらユウマの頭から手を離すと立ち上がった。
本も暫く読んでいないし……
五月蠅い男も居ないことだしゆっくりするか……
そんな日も良いだろう……。
戸浪はうーんと伸びを一つすると寝室にあるウオークインクロゼットに向かった。
ベットで単行本を読み終え、目を押さえながら時間を確認すると十二時を過ぎていた。
チラリと隣を見るとユウマが戸浪の真横で身体を伸ばし、ぐっすりと眠っている。
そろそろ寝るか……
祐馬はまだ帰りそうにないしなあ……
起きて待ってやれば可愛い恋人にでもなるのだろうが、そんな事など戸浪には出来ない。待ってやりたいのだが、待っていたと思われるのが気恥ずかしいのだ。
素直じゃない……
自分で自分をそう分析するのだが、本来の性格なのだから仕方ない。何より何時帰ってくるか分からない祐馬を待ちきれる自信がない。
明日も会社だし……
戸浪はヘッドボード上に付けられた白熱灯を点けると、部屋の電気を消した。
「お休み……ユウマ」
ポンポンとユウマの背を軽く叩き、さあ眠ろうと毛布に潜り込むと同時に電話が鳴った。
こんな時間に……?
戸浪は身体を起こし、ベットから降りると廊下に出た。そして廊下に置いてあるテレホンラックから電話を取った。
「もしもし……三崎ですが……」
一応ここは祐馬の家であったので、戸浪はそう受け答えすることにしていた。
「今晩の下着は何色~」
ガチャン。
いきなり妙なことを聞かれた戸浪はそのまま受話器を降ろした。
なんだ一体……
悪戯か?
ここの電話番号が綺麗なOLの自宅とでも思って言っているのか?
馬鹿が……
ムカムカしながら、テレホンラックから離れようとするとまた電話がかかってきた。
またか?
「だから何色なんだよ~」
ガチャン!
一体……どう言うことなんだ……
腹が立っているのだが、何処か聞いた覚えのある声であった。
……
聞いた声だな……
誰だ?
またかかってきそうに思った戸浪はじっと電話を待った。するとやはり暫くしてから電話が鳴った。
「んな~下着~」
祐馬かっ!
こいつは何を考えてるんだっ!
酔ってるな!!
「さっきから、何処の変態がかけてきているのだと思ったが、お前かっ!」
怒鳴るようにそう言うと、祐馬はグニャグニャとした声で言った。だから余計に戸浪は最初誰の声か分からなかったのだ。
「う~……つめたいなああ~。んな言い方すんなよ~仮にも恋人にさあ……うははははっ……いっちゃった~」
いっちゃったと祐馬は言って何が可笑しいのか分からないのだが、受話器を持ったままひたすら笑っている。
かなり酔っぱらっているな……
何が言いたいのか分からないのだが、祐馬が酷く酔っぱらっていることだけは戸浪にも分かった。
「酔ってるな。さっさと帰ってこい」
「……う~下着……」
下着下着と五月蠅いっ!
色がどう問題なんだっ!
「自分の下着でも眺めてろっ!」
戸浪はもう二度と取るものかと電話を叩きつけるように切った。
ふう……
全く……
あの馬鹿……
帰ってきたら水風呂にでも入れてやるか……
そうすれば頭も冷えるだろう……。
腹立たしさが収まらない戸浪は、無視して寝てやろうと思うと、また電話が鳴った。だが今度はベルが聞こえない振りをして寝室に戻ると、毛布にもぐって耳を塞いだ。
それでも電話のコールは鳴りやまない。
ユウマの方は頭を上げ、不思議そうな顔でキョロキョロとしている。
りりりりりり……
全く……
あの……
馬鹿が……っ!
五月蠅くて眠れやしないっ!
眉間に怒りマークを浮き立たせた戸浪はガバッと毛布から身体を起こすと、何度目か分からない「二度と取らない」という決心をつけ、受話器をあげた。
「五月蠅いっ!変態電話をしてくるんじゃないっ!いい加減にしろ!この馬鹿者がっ!」
怒鳴りつけると向こうが息をひそめているのが分かった。ようやく祐馬も分かったようだと戸浪が思ったのだが……
「兄ちゃん……俺……俺だって……」
大地だった。
「うわっ……す、済まない……。さ、さっきから変な電話がかかってきていてな。それでまた同じ電話だと思って……怒鳴って悪かった……」
額に汗を浮かせながら戸浪は慌てて言った。
「……そ、そうなの……びっくりした……。まあ……怒鳴られた理由が分かったから良いんだけど……はは……」
電話向こうの大地は明らかに退いている。
不味い……
どんなときも冷静な兄を演じてきたはずなのだが……
「で、どうしたんだ?こんな夜中に……」
必死に平静を装った戸浪であったが、何処か無理があった。
「え、いいよ……また今度で良いことだから……じゃあ……」
ははと笑った大地は、結局用事を言わずに電話を切ってしまった。
いつでも良いなら……
こんな時間にかけるんじゃない……
はあ……と溜息をつきながら受話器を降ろすと直ぐに電話が鳴った。
こいつは……
何度くだらん電話をかけてきたら気が済むんだ……
まて……
また人違いだと困る。
「もしもし……三崎ですけど……」
「今……話し中だった。誰と話してたんだよ……こんな時間にさあ……もしかして……戸浪ちゃん……俺を置いて……浮気でもしてんの?そんなんないよう……」
今度は泣き出した。
うう……
こいつは……
酔っぱらうと、どうしようもない男になるんだな……
「ああそうだな。どうでもいいからさっさと帰ってこい。話しはそれからだっ!」
もう水風呂だっ!
水攻めにしてやるからな……
全く……
せっかっくの穏やかな時間を潰して……あいつは……
「……俺は……戸浪ちゃんを渡さないからな……」
意外に男らしく言ったのだが、そんな酔っぱらいに戸浪は涙が出そうになった。
「はいはい。分かった分かった。で、今何処にいるんだ?」
「戸浪ちゃんの、う~し~ろ~」
えへへへへと笑いながら祐馬は言った。
「ひいっ!」
ガバッと後ろを振り返ったが、祐馬の姿は当然の如く無かった。
な……
じょ……
「冗談も大概にしろっ!びっくりするだろうがっ!」
心臓をバクバクとさせながら戸浪は又怒鳴った。
め……
メリーさんかと思った。
「う~でも近いとこにいる~玄関の前にいる~鍵持って出るの忘れた……」
なら……
さっさと……
「インターフォンを鳴らせこの馬鹿っ!」
「あ……そだった……あははははは」
がつん!
鈍い音が鳴った。祐馬がどうも玄関の扉に身体をぶつけたようだった。
かなり酔っぱらっているのだ。
「もう切るぞ。玄関を開けるから……」
「……うん……おねがい~」
ズルズルという音と共に電話が切れた。
受話器を降ろした戸浪は、ドカドカと廊下を歩き、玄関に向かうといつの間にか足下にユウマもやってきていた。
そうだユウマ……
今日は思い切り噛みついて、ひっかいてやるといい……。
戸浪はそう思いながら玄関を開けると、祐馬はマンションの手すりに身体をもたれさせて何とか立っていた。
「この酔っぱらいめ……」
腕組みしながら仁王立ちで戸浪が言うと、祐馬は無言でこちらに覆い被さってきた。
「うわっ……!」
突然のことに戸浪は体勢を崩し、後ろに倒れそうになるのを必死に踏ん張った。
「おい……いい加減にしろ……」
「戸浪ちゃん……浮気すんなあ~」
言うに事欠いて浮気するなとはどう言うことだと、戸浪は怒りで身体が震えてきた。
「何でも良いから、さっさと入れ……近所迷惑だ」
祐馬を抱え込んだまま、戸浪は手を伸ばし、何とか玄関を閉め鍵を掛けた。その間もずっと祐馬は戸浪を抱きしめたまま動かない。
「うう……好きだア……」
祐馬はそう言って益々体重を戸浪に掛け、こちらの身体は既に後ろに弓なり状態だった。そんな中戸浪は自分の腰元に何かが当たるのを感じた。
こ……
こいつ……
勃ってる……
うわわわ……
祐馬が前を勃たせていることに気が付いた戸浪は急に力が抜け、板間の廊下に転んだ。
「あっ……いた……」
背中をしこたま打ち付けた戸浪は、痛みを感じていたが、祐馬の方はそんな戸浪のことなど見えていない。
「うわっ……まてっ……祐馬……まてっ……」
キスをしようと顔を近づけてくる祐馬を両手で押しやり、戸浪は抵抗した。こんな所で酔っぱらった勢いでやられるのは勘弁して欲しかったのだ。
何より明日は会社だ。この男は一度やると歯止めが利かないことを戸浪は知っていた。出来たら週末にしたいと本気で思っていた。
腰が痛くて会社で仕事が出来ないと言う情けない状態にはなりたくない……
くっそ……
この酔っぱらい~
どうしてこんな力があるんだ……
突っ張る両手が押し返される力で震えている。その間も、祐馬はこちらの両足に自分の足を絡めて腰元を押しつけてくるのだ。
うわ……
ものすごく張ってる……
ザラリとしたスーツのズボンから、張りつめたモノの形すら分かるほど、祐馬のモノは元気だった。
「どなみぢゃん……んががあ~」
戸浪が無理矢理押しやる所為で、祐馬の顔が変形している。
笑える……
じゃなくて……
どうにかしないと……
「ふぎゃーーーっっ!!」
と、突然ユウマの威嚇する声が響き渡り、次ぎに祐馬の叫び声が上がった。
「いでええええっ!!」
その拍子に祐馬の身体は戸浪から飛び退いた。だがユウマはそんな祐馬に更に攻撃を仕掛ける。
うううう……
低く唸りながら毛を逆立たせ、ユウマは歯をむき出しにしていた。
いいぞユウマ……
やれ……
あそこに噛みついても良いし、爪でひっかいてやっても良いぞ……
戸浪は上半身を起こしながらそう思った。だが祐馬は、壁に背をもたれさせた状態で座り込み、ユウマの方をじっと見ている。ユウマも祐馬を睨み付け、低く唸り続けていた。
「ユウマ……ユウマでもいいや……やらせろ~」
と言っていきなりユウマを捕まえようとしたのを、ユウマの方が素早く身体を後退させ戸浪の隣りに立った。
「……な……?」
「にゃ……」
戸浪とユウマは顔を見合わせ、再度祐馬に視線を戻すと、何やら怪しい目つきで相変わらずユウマを見つめていた。
「ユウマあ~させろ~」
「みぎゃーーーーっ!!」
祐馬は四つん這いで逃げるユウマを追いかけだした。流石のユウマも酔っぱらった祐馬は苦手のようだった。
あの馬鹿……
廊下を走り回るユウマと祐馬を眺めながら戸浪は無性に虚しくなった。
呆れた……
情けない……
入れられたら動物でも良いのか?
っていうか……
入らないだろうが……
溜息をつくのも馬鹿らしくなった戸浪は、既に廊下からは居なくなった一人と一匹を探しに歩き出した。
祐馬は水攻めだ。
決まりだ……
あとボコボコに殴ってやるしかない……
歩きながらも拳をギリギリと握りしめ、戸浪は祐馬を寝室で見つけた。祐馬は床に寝そべり、ベットの下に手を入れて何かを探すような仕草をしている。多分ユウマが逃げ込んでいるのだろう。
そんな祐馬の背中に戸浪は片足を乗せて言った。
「ふざけた真似をするんだな……お前は……」
ここまで来ると怒りは頂点だった。
「うがあ……おも……重いよ……」
足の下で祐馬は両手を振りまわした。
なあにが重いだ……
眉間に寄った皺は益々怒りで深くなる。
「頭を冷やしてやろう……」
グイッと後ろから祐馬の首根っこを掴んで戸浪はバスルームに歩き出した。
「とな……戸浪ちゃん……ごめえん……」
祐馬はそう言うが、酔っている男の言葉など戸浪は信じられなかった。
そうして重い祐馬の体を引きずり、戸浪はスーツ姿の祐馬をバスルームに押し入れると、シャワーヘッドを持ち冷水を祐馬の頭からぶっかけた。
「うが~冷たい~……」
ひーっと言いながらも祐馬はこちらが向けるシャワーのヘッドから逃げようとはしなかった。
やはり馬鹿だ……
「……あ~俺……なんで水なんか浴びてるんだよ……」
タイルにもたれながら祐馬はぼんやりと言った。ようやく少し意識が戻ったようだ。
余り水をかけると風邪を引くだろうと思った戸浪はコックを捻り、水流を止めた。
「お前が酔っぱらって、ユウマに欲情したからな……恥を知れ恥を……」
呆れたように戸浪はそう言ってシャワーヘッドを祐馬に投げつけた。
そうだ……
事もあろうにこいつは……
酔っぱらっていながら私ではなくユウマを追いかけ回したんだ。
一体どういう夢でも見ればあんな事が出来る?
戸浪は今までになく腹を立てていた。
「戸浪ちゃん……気持ち悪いよう……」
腹を立てた原因をなった濡れ鼠姿の祐が情けない声でそう言った。
「知るかっ……吐きたければそこで吐いてろっ。全く……私は寝るぞっ!」
こちらまで濡れて身体が冷えていることに気が付いた戸浪は、祐馬をバスルームに置き去りにすると、寝室に戻り濡れたパジャマを着替えた。
すると弱々しい声でユウマがベット下から這い出てきた。
「あれはな……ただの酔っぱらいだ。気にするんじゃないぞ……」
戸浪が言って毛布にようやく潜り込むと、ユウマもそろそろと小さな身体をひっつけてきた。余程先程の祐馬が恐かったようだ。
当たり前だ……
訳の分からん欲情をユウマに向けるなんて……
人間以下の行為だ……
私が居るのに……
ムカムカ……
腹立ちが収まらないまま暫く毛布にもぐっていると、ようやく祐馬がやってきたようだ。それが分かるようにベットが沈むのが分かる。
「戸浪ちゃん……んなあ……」
祐馬は先程の醜態を忘れたように戸浪の背中にまとわりついてきた。胸元で丸くなっていたユウマは慌ててまたベットの下へと逃げる。
「何だっ!この酔っぱらいがっ!」
「やろうよう~俺もう一杯一杯だよ……」
と言ってまた腰元を押しつけてきた。相変わらず張りつめたモノは、全く萎む気配など無く肉厚な感触を戸浪の太股に押しつけてくる。
「じっ……自分で何とかしてこいっ!明日も会社だっ……いい加減にしろっ!」
「俺はっ……戸浪ちゃんに入れたいんだよ……」
涙声で祐馬はそう言った。
「だから……自分でっ……ひっあ……」
祐馬は無理矢理戸浪の太股の間に自分のモノを捻り込み、そのまま腰を動かしはじめた。
「入れなくても良いからこのままイかせてよ……」
後ろから羽交い締めにされ、戸浪は全く動けなかった。それを良いことに祐馬は太股に挟んだ自分のモノを抜き差しし始めた。
「あっ……馬鹿っ……そんなところで擦るなッ……」
やる気など無かったはずが、祐馬のモノが。股下で擦られるたびに、こちらのモノに触れ、堪らない感触を身体に伝えてきた。
「ごめんっ……あっ……俺……入れないから……両足閉じて置いてよ……頼むから……」
と言うが祐馬が自分の足を戸浪の方へ絡めているために、閉じた状態でしかおれないのだ。開こうとしても、しっかり絡められた祐馬の足がそれを許さなかった。
「駄目だっ……そ……そんなところで……や……やめ……あ……」
感じるなという方が間違いだろう。
ずりずり布の擦れる音が響き、肉厚なモノが太股の間から出たり入ったりを繰り返す。その感触は確かに快感を戸浪に感じさせていた。
あ……
も……いい……
やっても……いい……
だからそんな風にやるなっ……
やるならちゃんと入れろっ!
中途半端にやるなーーー!
戸浪が心の中でそう叫んでいると、小さく呻いた祐馬は自分の欲望を果たした。
うう……
パジャマが又……
もういい……
最後までやれば良いんだ……
仕方ないと諦めながら戸浪自身も既に止められない所まで来ていたのだ。
久しぶりだし……
許してやるか……と思っていたら、後ろにいる祐馬から寝息が聞こえてきた。
はあ……?
はああああああ?
ガバッと身体を起こし、振り向くと、祐馬は満足げに眠っていた。それも素っ裸でだ。
「おま……お前は……っ……散々人を煽って置きながら、ね……寝る気か?先に……私を煽って……それは狡いんじゃ……」
胸ぐらを掴み、祐馬の頭をばかすか頭を殴っても、既に深い眠りについた祐馬は目を開けることもしない。逆に何だろうという風にベットに手を置きこちらを覗いているユウマの瞳と視線が合った。
「あ……ゆ、ユウマ……こ……これはだなあ……」
猫に何を言い訳しているのか戸浪も分からないのだが、何やら恥ずかしくなり、最後にもう一度祐馬の頭を殴ると、戸浪は汚したパジャマを脱ぐためにバスルームに向かった。
朝起きると、頭が痛かった。昨晩自分のやりたいことだけやった祐馬を後目に、戸浪はシャワーを浴び、またパジャマを着替えたのだ。それが悪かったのか分からないが、どうも風邪を引いたようだった。
「戸浪ちゃん……熱あるよ……」
そう言って覗き込む祐馬の顔面に、戸浪の拳が入った。
「んなっ!なにすんだよ!」
この調子では覚えていないのだ。
溜息だけが漏れる。その息も熱のために熱い。
「もういい……構うな……」
頭が痛くて死にそうなのだ。ほったらかしにされた身体が不調を訴えているのかもしれないが、昨日祐馬と水浴びしたのも悪かったのだろう。
「ほら……また機嫌悪いんだから……アイスノンして……ゆっくり休めば良いんだよ」
何も無かったような顔でそういう祐馬に戸浪は冷たい目を向けた。
「なんで?戸浪ちゃん変だよ……。まあ……俺が素っ裸で寝てたほうが変なのかもしれないけど……ははは」
違うだろう……
問題は裸で寝ていたことじゃない。
それをどうして思い出さないんだこの馬鹿は……
ムカムカしながら戸浪は祐馬からアイスノンを奪うと、無言で頭の下に置き、毛布を引き上げた。
「でさあ……俺……ユウマにも朝から酷い目にあってるんだけど……。俺の靴……無茶苦茶爪で引っかかれてるの。なんで?あんな事したこと無いのに……」
当然だ……
「もう話すな……頭に響く……」
目を閉じて戸浪はそう言った。
「そう言えば……お前昨日妙に下着に拘っていたが?」
それだけは聞いておきたいと戸浪は思ったのだ。
「え?あ……そう?ああ、あれかな……飲み会の席で、自分のパンツは普段何色がメインだって話しになって、俺は白だって言ったら、今時白か~なんて馬鹿にされたからさあ……絶対戸浪ちゃんにも聞こうと……あれ……俺聞いたような記憶が何となくあるような……ううう……思い出せない……。けど……聞いた?」
くだらん……
当分祐馬とは話しもしたくない……
風邪で熱を出して会社を休む事になるのだったら、昨日やっておけば良かったんだ……
やって……
ああ……全く私は一体何を考えてるんだっ!!
自分の考えに戸浪は余計熱が上がったような気がした。
「なあって……」
「五月蠅いっ……良いから二度とベロベロに酔っぱらうなよっ!」
と、言ってその自分の声に頭痛がした戸浪はまたベットに倒れ込んだ。その後から祐馬の声がまた聞こえた。
「……俺……頭がすっげー痛いんだけど……これって二日酔いかな……」
とぼけた祐馬は何処までもとぼけていた。
酔ったときのことを覚えていない男が一番質が悪い……と、思いながら戸浪は目を閉じた。
それにしても……
ただでさえチャンスが少ないのだから……
無理にでもやっておけば良かった……
踏んだり蹴ったりの戸浪には溜息しか出なかった。
―完―
第1夜を飾った戸浪達ですけど、相変わらず路線はお笑い。少しエッチい方向に行くかとおもいきや、一人で満足するような男でした~あはははは。戸浪……君には思い切り楽園記念で壊れてもらうからいいよねえ……うふふふふ。てなわけで第1夜が始まりました。あと6日間おつき合いのほどをよろしくお願いしますね! |