「ユーストレス 第2部」 おまけ
乱れる宇都木♪
宇都木は如月に押されるまま、寝室に連れられて入ったが、困惑していたのは確かだった。もちろん、如月の言葉には逆らうことなどできないが、真下から頼まれた恵太郎を放って、抱き合おうとしている自分にも自己嫌悪を宇都木は感じる。邦彦さんの気持ちも分かりますが……。
私は……恵太郎さんを頼まれた身ですし……。
寝室まで入り、それでも迷っている宇都木であるのに、如月の方はその気になって背後から覆い被さってきた。
「未来……」
困り果てている様子など全く気付かない如月は、宇都木に回している手で肩を押さえ、首筋に愛撫を落としてくる。
「邦彦さん……あの……っあ……」
もう片方の手が下半身をまさぐり、その刺激で宇都木は膝が折れ曲がりそうになった。
「未来……お前のここは興奮していないな。私の方はもう、我慢できないほど辛い状態になっているのに……」
どこか不満げな口調で如月は言い、背後からグイグイと己の腰を押しつけてくる。すると固い如月の欲望が宇都木の腰に触れ、顔が一気に朱に染まった。
「く……邦彦さんっ!」
「私を満足させてくれないのか?お前に会いたくて戻ってきたのに……」
耳元で甘く囁かれ、未来は身体の芯が疼くのを感じた。如月に触れられてそのまま放置されたら、如月が次の戻ってくるまで身体が恋しがるに違いない。それは宇都木にとって拷問だった。
「邦彦さん……私……」
ギュッと如月の袖を掴んで、宇都木は自分を拘束している腕に頬を擦りつけた。如月の一言でこれ程宇都木は身体が高まってくるのだ。例え家の中に恵太郎がいたとしても、己の欲望を抑えることなどできない。それが宇都木の正直な気持ちだ。
「未来の綺麗な身体を見せてくれ……」
如月はそう言って宇都木を拘束している腕を解く。宇都木は背後にいる如月を振り返ることなく、衣服を脱いだ。上着を、シャツを、ズボンを脱ぎ、最後に下着すら躊躇せずに脱ぎ捨てる。素っ裸になったところで宇都木は如月の方を振り返り、誘うように両手を差し出した。
「未来……」
ほうっと何かに魅入られたように如月は差し伸べられた手を取り、宇都木を抱きしめた。
「邦彦さん……数秒でも貴方と離れているのは寂しいです……」
如月の厚い胸板に頬を擦りつけ、宇都木は甘えるように言った。
「私もだよ……未来。だからお前が恋しくなって無理矢理帰ってきたんだ……」
額や頬にキスを落とされ、宇都木は目を細める。すると目の前にある如月の青い瞳の奥に欲望が見え、宇都木は疼き出している身体を止めることができなかった。
「私が貴方を脱がしてあげます……」
如月の首に巻き付けていた腕を解き、宇都木はスーツの上着を脱がせ、シャツのボタンを外す。その間も、如月の唇は宇都木の額や頬に滑らされていた。
如月の唇を逃れるように、宇都木は膝を折りベルトに手をかけてズボンを下ろし、盛り上がっている如月の雄を目にすると宇都木は喉が鳴った。すかさず宇都木は如月の下着を取り除き、固くそそり立っている雄を手にとって口に含む。
「……未来……」
少し上擦った如月の声が頭上から聞こえ、宇都木は満足だった。自分のしていることに興奮されると宇都木は悦びを感じる。口いっぱいに頬ばった如月の雄は、人より小さい宇都木の口内を圧迫し、顎まで痛みを感じたが、それよりも己の行為に感じてくれている如月を知ることの方が嬉しいのだ。
舌を使い、口元を動かすたびに、如月の抑えられたような荒い息が耳に入る。ただそれだけのことであるのに、宇都木はもう触れられていない己の雄が固くなっていくのが分かった。如月を求める疼きがそのまま形となって現れているのだろう。
「私も未来を味わいたい……」
そろりと額を押され、宇都木は顔を上げ、同時に口元から如月の雄を離す。唇に滴る己の唾液と如月の雄からにじみ出た蜜を舌で舐め取ると、宇都木は立ち上がり、そのままベッドへと後退して縁に腰をかける。
両脚を広げ、羞恥心など忘れたように恥部を露わにして如月を手招いた。
「未来……」
如月は足下に絡まっていた己のズボンと下着を脱ぎ捨て、反り返った雄を隠すことなく宇都木の側までくると、膝をつき下半身に顔を埋めた。
「……あっ……」
貪るように雄をしゃぶられた宇都木は、如月の肩に両脚をかけ、頭を抱き込むようにして前屈みになる。自分の行為とは違う激しさで勢いよく貪られ、宇都木は身悶えながらも快感を味わった。
「あっ……あ……もっと……」
唾液でトロトロにされていく己の雄が、明かりにテラテラとした輝きを反射させ、宇都木の快感を煽る。ヌルリとしている如月の舌が、宇都木の雄だけでなく、太股の付け根や茂みの中、二つあるボールすら口に含んで舐め上げてくる。
足先の痺れを感じながらも、下半身から力が抜けて夢心地に陥りそうだ。
「ああっ……あ……あ……ああっ!」
激しく揺すられるように雄を含んだ口が動かされ、宇都木は上半身を仰け反らせた。身体を走る快感は例えようもない幸福感を呼び覚まし、宇都木の身体を包んでいく。甘い痺れを身体一杯に取り込んで、このまま果ててしまってもいいとさえ宇都木は思うのだ。
「……っあーーっ!」
宇都木は如月の口内に己の欲望を吐き出し、ベッドに背を倒れ込ませたところに、如月が覆い被さってきた。
「……あ……はあ……はあ……邦彦さん……っ」
快感で滲んだ涙が瞳をいつもより潤ませて、宇都木は如月にしがみつく。肌と肌が合わさっているだけでも宇都木は安心できるのだ。
「未来の喘ぎ声は私の本能を掻き立てるが……うちにいる例の子供に聞かれたらまずいだろう?私は構わないがね」
小さく笑って如月は言う。
「……あっ……」
すっかり忘れていたが、このうちには恵太郎がいたのだ。
恵太郎に声が聞こえるだろうか?
快感が覆い始めた宇都木の思考では正常な判断が付かない。
隣にいるだろう恵太郎に聞こえるほど、壁が薄いと宇都木は思わないのだ。もちろん防音はしていないが、いくらなんでもリビングにいる恵太郎に聞こえるわけはないだろうと宇都木は霞みだす意識の中で判断した。
「だ……大丈夫だと思います……」
宇都木の蕾が更なる快感を求めて疼いているのだ。このまま放置されてしまったら、宇都木は涙ながらに懇願し、如月に早く入れてと訴えてしまいそうだった。
「そうなのか?」
如月は宇都木の余裕のなさなど全く気が付かない表情で、こちらを覗き込んでいる。肌を合わせているだけでは物足りない飢えが宇都木の喉をカラカラにさせていく。我慢できないと思った宇都木は如月の背に回していた手を解いて、いつも自分をよがらせている雄を掴んで擦りあげた。
「……っ。未来……」
眉の間に皺を寄せ、それでも苦笑した表情で如月は己の雄に絡みついている宇都木の手をやんわりと押しやった。
「邦彦さん……早く……耐えられないっ!」
じりじりとした焦燥感にも似た感覚に、宇都木は瞳を涙で曇らせた。如月の雄で激しく突き上げられた時のことを思うだけで、息が熱くなってくるのだ。想像するだけで宇都木の雄はビクビクと左右に揺れる。
「今日の未来は快感に飢えているな……」
くすくす笑いながら、如月はようやく宇都木の蕾に触れてきた。宇都木には入り口の部分より、何故か身体の奥底がじくりと疼く。指先よりももっと欲しいものがあるのだが、今のところ如月はすぐに行動する様子はなかった。そんな如月に宇都木は焦れるように両脚を如月に巻き付けてねだるように腰を押しつけた。
「あ……指よりも……もっと欲しいものがあるんです……」
上擦った声で宇都木は如月に哀願する。
「私も触れるだけでは満足できないが……。いきなり入れるとお前が辛いだろう」
困惑するわけでもなく、楽しそうな口調で如月は言った。
「邦彦さんっ……あっ……」
捻り込まれた指先が、内部の襞を擦って宇都木は嬌声を上げた。内部は既に熱く熟れていてようやく訪れた刺激に対し、悦びを表現するかのように如月の指先に食いついている。
「指先が食われそうだな……」
ゴリゴリと敏感な部分を弄られ、宇都木は荒い息を吐き出した。指先よりも欲しいものが宇都木にはある。とはいえ、まだまだ蕾は固く、如月の指をくわえているのが精一杯なのかも知れない。
「あっ……あっ……あ……もっと……っ!」
ジクジクとした刺激を身体の奥に受け、宇都木は高まる快感が心地よかった。如月に必要とされていると分かる行為はどんなささやかな行為であっても、宇都木には大切なものだったのだ。
如月の側にいるだけで良いと思っていた昔の自分が変わりつつある。側にいるだけでは満足できずに、身体が壊れてもいいほど愛されたいという欲求が日々宇都木を支配していくのだ。応えてくれる如月の存在がどれほど宇都木の生きる支えになっているだろうか。
「未来……愛しているよ……」
頬に落とされるキスは柔らかく、囁かれる言葉も優しい。こうやって抱き合っているときが一番如月を感じられる瞬間だ。必要とされ、愛されること。これ程の幸せはないだろう。だからこそ、如月を満足させたいと宇都木は日々思っていた。僅かなりとも如月に不満が残るセックスなど絶対にしたくないのだ。
「……入れて……っ!」
耐えられなくなって上げた宇都木の声に、如月は全く関係のない言葉を聞かせる。
「で、あの子供のことだが……」
如月はチュクチュクと音を立てながら宇都木の秘められた部分を弄る。
「真下さんが……見てやって欲しいと……。彼のご友人だった鳩谷駿という方の息子さんなんです。あ……邦彦さんっ……」
身体を何度も捩らせて、宇都木は自分の体の状態を如月に訴える。
「……ふうん。また真下さんからのことで未来が協力しているわけか」
気に入らないと言う口調だ。如月は真下が絡むことを非常に嫌っているのだ。それは宇都木も知っていた。とはいえ、未だ東家とは関わりのある宇都木だ。真下には言葉に尽くせないほど世話になっている。そんな真下の頼みを宇都木が断ることなどできない。
如月も分かっていることであるのに、真下の名前が出るとこんなふうに如月は不機嫌になるのだ。
「邦彦さんはどうしてすぐ……っ!」
いきなり指が奥まで突き入れられて、宇都木は声が詰まった。
「その、鳩谷駿なんて男は知らないぞ」
奥まで入った如月の指先は、ゆるゆると先が動いていて、宇都木の快感を煽っている。
「……く……邦彦さんがお知りになる前に亡くなられましたから……」
堪らない快感を感じながらも宇都木はようやく言葉を紡いだ。
「そうか。それにしても真下さんは随分とあの子供に肩入れをしているんだな。珍しいと思うんだが……。未来はその、駿という男を知っているのか?」
内部を蠢く指先とは違う方の手で、如月は宇都木の二つあるボールの裏側をコリコリと擦りあげてきた。
「……やっ……どこ……どこを触ってるんですかっ!」
奇妙な快感に宇都木は思わず抗議の声を上げた。だが、如月は止めようとしない。
「し~。未来。あまり大きな声を出すと、あの子供に聞こえるぞ。覗きに来たらどうする?」
如月のからかう声に、宇都木は半分恨みを込めたような瞳を向ける。
「……の……覗きになど……来られるわけ……っ……!」
突然、如月の雄が内部に捻り込まれ、宇都木の身体は一気に駆け上る快感に、思わず口元に笑みが浮かぶ。
「なあ……未来。駿はいい男だったのか?」
快感に浸ろうとしている宇都木に如月は問いかけてくる。今はもう、現実から離れたところで漂っていたい宇都木は、そんな如月に恨みさえ抱いてしまいそうだった。
「……あっ……や……は……話しかけないで……っ!」
スプリングを軋ませながら如月は己の雄を宇都木の奥へ突き入れているのだが、何を思ったのか如月が宇都木のへそに指を突っ込んで腰の動きに併せて動かしていた。
「あっ……あ……嫌っ……そこは……嫌ですっ!」
「嫌?未来はここが好きなんだろう?素直に声に出してくれないと、私は満足出来ない」
如月は腰の動きを止め、へその中に入れた指先のみゴリゴリと動かした。その感触が、こそばゆいのか、気持ちいいのか宇都木には分からない。へそのその奥から感じる奇妙な刺激に宇都木は戸惑いを隠せなかった。
「……苛めないで……邦彦さん……」
「苛めてなどいないよ……未来。私が興奮するような声を聞かせてくれないか……」
指先の動きを止めずに、如月は相変わらず笑いを含んだ声で言う。如月はそれでいいのかもしれないが、宇都木からすると気がそがれて仕方がない。
「……あっ……愛しています……っ!邦彦さん……愛してますから……お願い……もうこれ以上焦らさないで……っ!」
内部にみっちり詰まった如月の雄は動きを止めたままなのだ。宇都木にとってこれ程の拷問はないだろう。
「未来……大きな声を出すと、気付かれるぞ……」
如月が笑いながらも囁く。
「あ……あ……邦彦さん……もっと……もっと奥を突いてっ……足りないんです。もっと……私を……滅茶苦茶にして……」
喘ぎながらも宇都木は如月に懇願した。快感をせき止めているような如月の行動に、宇都木は涙を落とす。腰の辺りで渦を巻いている快感が、出口を求めているのだ。このまま放置されたら、宇都木は暫く実生活ですら影響が出そうだった。
宇都木の訴えにようやく如月が腰を突き上げてきた。快感の虜になっている今、宇都木の思考は完全に快感で染まっていた。
「あ……あっ……あ……イイ……もっと……」
宇都木は我を忘れ、如月が与えてくれる快感に浸っていた。
「未来っ……ものすごい締め付けだな……」
如月が思わず漏らした声に、宇都木の口元には笑みが浮かぶ。自分だけではなく如月も快感を味わっているのだ。その表情一つ一つが宇都木の悦びに繋がっていく。
「邦彦……さんっ……あんっ……!」
奥を擦りあげられて宇都木は嬌声を上げた。艶やかな肌に浮かせた汗が、玉を結んでシーツに流れ落ちていく。伝う汗の流れ落ちる感触すら、全てが快感へと繋がっていくのだ。身体の奥は爛れるような熱を感じて、息まで温度を上げている。
「ここも可愛がってやらないとな……」
如月は嬉しそうに言い、宇都木の雄を掴んで手の中で弄んだ。
「ああっ……あっ……」
前と後ろを交互に攻められ、宇都木は身体が捩れそうだった。堪らず漏れ落ちる白濁した液は如月の手を濡らして滑りを良くしているのだから、感じる刺激は言葉にできないほどだった。
「……あっ……ああっ……イイっ!もっと……もっと触って……っ!もっと奥を抉ってっ!邦彦さんっ!お願いっ!」
如月の背に回した手に力を込めて、宇都木は叫んだ。頭の中が真っ白に染まっていく程、如月から与えられる快感に翻弄されて、宇都木は涙を落とした。快感で支配された身体は自分でもどうしようもないほど、甘い刺激に酔って、自らも腰を振ってしまうのだ。そうすることでより多くの快感を得られるからだろう。
宇都木は快感に翻弄され、自分自身を見失う瞬間が好きだった。現実から離れられる一瞬の幸福だ。こうやっていつまでも如月と繋がっていたいと願うほど、宇都木は如月と抱き合うことが好きだった。
「未来……愛しているよ……」
如月の心からの言葉を受けて、宇都木は感動する。何度聞いても耳に、身体に心地よく響く言葉だ。以前は求めても貰えなかった、宇都木が一番欲しかった言葉。今は、いつでも如月は惜しげもなく宇都木に与えてくれる。
「愛しています……私も……心から……貴方だけを……」
快感ではない、感動の涙で瞳を濡らしながら答えると、奥深い箇所を突き上げられて、宇都木は果てた。
「宇都木……おい……」
如月に身体を揺すられて宇都木はうっすらと目を開いた。このまま睡魔の虜になりそうな程、気怠い疲れが身体を覆っている。
「……邦彦さん……」
目を細めて如月の名前を呼ぶと、目の前の男は苦笑する。
「私はお前がここでそのまま眠ってしまっても良いが、お勉強の続きをするんだろう?」
既に身繕いを整えた如月が、何事もなかったような表情で言った。そんな姿を見ると、宇都木は寂しい気持ちに駆られる。
「……もう、行ってしまうんですか?」
身体にまといついていた毛布を払いのけ、宇都木はゆっくりと身体を起こす。汗で濡れた身体は温度を既に下げていた。空気に晒された裸体はヒンヤリとした温度を感じて、宇都木はなんとなく気持ちが落ち込む。
「そろそろ戻らないと……な」
腕時計で時間を確認した如月は、残念そうな表情をしていた。
「そうですね。邦彦さんはお仕事の最中ですから……」
ベッドの縁に座り、宇都木は肩を落とす。いつでも側にいたいと願うのだが、時折仕事上で如月とは離ればなれになってしまうのが宇都木には悲しい。秘書なのだからいつだって側にいてもおかしくないだろうと思いつつ、留守を守るという大事な仕事も宇都木にはあった。
如月に信頼されているのは分かる。そして、宇都木は満足している。とはいえ、やはりいつでも側にいたいというのが本音だった。
「未来もお仕事の最中だろう?」
小さく笑って、如月は宇都木の頬にキスを落とした。触れるだけの優しいキスだ。
「そうですね……」
顔を上げ、無理矢理作った笑顔を如月に宇都木は向ける。
「ところで……本当に、あの子供には聞こえなかったと思うか?」
意味ありげな言葉を如月は言った。
「……え?それは……ないと思いますが……」
宇都木は快感に喘いで漏れた声がどれほどの大きさだったのか、自分でも分からないのだ。集中しているときは何もかもがどうでも良くなるのだから仕方ないだろう。如月もそんな宇都木に満足しているはずだ。
「……私は……そうだな。聞こえたかも知れないと思うぞ。まあ。子供とはいっても、セックスくらい知っていると思うが……。なにより、私は別にあんな子供に宇都木とのことがばれたとしても、どうでもいいことだからな。気にはしないさ」
「……よく分からないんですが。恵太郎さんが覗いたわけではないでしょう?」
寝室の扉をチラリと見て、少しだけ透き間が空いていることに宇都木は狼狽えそうになったが、何とか平静を保った。もし仮に、恵太郎が宇都木の声にここまで来たというのなら、いくらなんでも気が付かないとは思えないのだ。
と言っても、セックスに集中していた宇都木には、断言ができない。
「まあ。覗くようなことはしないだろうがな。もし、あの子供が聞いてきたらどうする?」
どこか楽しそうな口調で如月が言う。
「……聞いてきたらと言うのは……」
「宇都木と私の関係だよ。適当に誤魔化しておけばいいと思うが……。いや、考え過ぎなんだろう。ただなあ、真下さんにばれるとやっかいだと思っただけだよ」
くすくすと相変わらず楽しそうに如月は言う。
「ばれるって……。大丈夫ですよ」
なんとなく嫌な予感はしたが、宇都木はそう思うことにした。気付かれていたならそれまでだろうが、宇都木は如月との関係を恥じたことはないのだ。もし仮に聞かれたとしたら、素直に話してしまうに違いない。男同士だからと言うのではなく、愛している相手を認めてもらいたいという気持ちの方が強いのだ。
例えそれが恵太郎というまだ子供であっても、宇都木は誤魔化したりするつもりはなかった。ただ、もしも、見られたのなら、少々恥ずかしいことではあった。
「さて。未来も用意しないとな……」
如月の言葉に宇都木はようやく、現実の世界に戻ってきたことを知った。
―完―