50万ヒット記念企画 テーマ「一人でできるもん」 第2夜
宇都木&如月
■ 一人で多分、できるもん
急ぎの資料を作るように如月に言われた宇都木であったが、最初予定していたよりも資料集めに手間取り、期日までに出来るかどうかが怪しくなってきた。
もちろん如月は他にも手伝って貰うと良いと言うのだが、宇都木はどうしても一人でしてこなしたかった。
誰かに手伝って貰った方がスムーズに進むのだろうが、こと如月に関する事は出来うる限り自分で全て行いたいと思っている宇都木が、人に頼むことなど考えられなかった。
頑張れば一人で出来る……
そう思いながら昼休みを潰して書庫に籠もり、仕事が終わるとまた書庫に籠もるという毎日を過ごしていた。
もちろんパソコンは持ち込みだ。いちいち席まで資料を運び、そこで打ち込むより、書庫でしたほうが早いからだった。
ただ、普通は席にいなければならない身であったので、就業時間内であれば資料を上まで運び、自分の席で資料を作ることにしていた。
「宇都木……」
「……はい」
パソコンの手を止め、顔を上げると、如月が自分の席からこちらを見ていた。
「人を使えと言ったはずだが……」
困ったような顔でそう言った。
「いえ……それほど大したことではありませんので私一人で充分です」
仕事上で使う表情で宇都木は答えた。
「……無理をすると、また倒れるぞ……」
一度、宇都木は過労で倒れたことがあり、少し仕事が忙しくなるとすぐに如月はそう言って心配するのだ。だが今は、如月のことで悩むことが無い。何より一緒に暮らしており、毎日とても満たされて精神的に安定しているために、仕事のことで倒れるようなことは起こり得ない。宇都木はそう思っていた。
「大丈夫です。ご迷惑はかけませんので……心配されません様に……」
既にパソコンの画面に視線を戻し、宇都木は止めていた手を進め、キーボードを叩きだした。
「……お前がそう言うなら……」
やや諦めたような口調で如月は言った。
「如月さん……そろそろ出かけられませんと……」
ちらと、予定表を見て、宇都木は言った。
「あ、そうだったな……そろそろ出るか……」
如月は椅子から腰を上げ、スーツを羽織ると鞄を持った。
「気を付けて……」
如月が自分の前の席を通り過ぎるのを眺めながら、宇都木はそう言った。そんな宇都木の頭を軽くポンポンと叩いて、如月は出ていった。
……
恥ずかしい……
今、叩かれた頭を撫でながら宇都木はそう思った。
会社内では秘書としての顔を崩すことを絶対にしない宇都木だ。だが、今のように少し親しげに触れられると、急に恥ずかしくなり誰もいない部屋で顔を赤らめてしまう。
こういうことはしないで下さいと言ってるのに……
会社とはいえ、この部屋では二人きりなのだ。その所為か、如月は時々ではあるが、自宅にいるような言葉を使うことがある。誰に見られているか、聞かれているか分からない場所で、それは問題だろうとは思うのだが、こちらが慌てる姿を見るのが楽しいのか、如月は決して止めようとしない。
もう……
私は何時も心配しているのに……
一緒にいるからといって疑われたりする事は無いのだが、やはり妙に親密な所は如月の為にも見られてはならないのだ。それが如月のためであり、今後の仕事にも絡んでくる。
例え真下がそれを知っていようと、ここは企業であり、職場なのだ。
自分達が同性同士でつき合っていることを気取られないように、自らが気を付けなければならないことだった。
問題はそれを如月がしっかりと理解していないことだ。
ただ、それでも頭を軽く叩かれたり、肩に触れられることを宇都木は嫌だと思ったことはない。ただ心配なだけだった。
お前は心配性だ……
如月はいつも言うのだが、元々宇都木が人より心配性なのだから仕方がない。
それらは性格的なものと常識的なものがピッタリとくっついているために、酷く神経質になるのだ。
宇都木は神経が細いと自分でも思う。そんな自分が嫌なのだが、変えようと努力しても上手くいかないのだ。もう少し大らかな気持ちで毎日過ごしたいのだが、小さな事を気にして何時までも悩むその性格はなかなか治らなかった。
逆に如月は仕事でもそうだが、何とかなるだろう……というタイプなのだ。もちろん努力家ではある。仕事のことばかり考えている時もある。だが失敗したとしても、寝て起きたらまあいいか……になるのだ。
羨ましい……。
私も寝たら忘れるタイプになりたい……。
何より如月は悩んだからと言って不眠にはならない。宇都木はその逆だ。何もかも逆だから余計に相手が羨ましく思えるのだろう。
仕事……。
仕事しないと…… 。
宇都木はパソコンを閉じ、小脇に抱えると、如月にかかる電話を秘書課に転送するようにして後を頼み、また書庫へと出かけることにした。
自社ビルの中には大きな書庫が地下にある。場所によると、かなり埃が積もっているところもある。ステンレス制の背の高い書棚は、ドロップファイリング方式になっており、上の部分にあるものは脚立を使って取る。もちろん、他の社員も使用するため、図書館で使うような幅広の机が置かれていた。
だが、滅多に社員はここを使用しない。
出るという噂があったからだ。
宇都木はそういう噂を信用しないタイプであったため、他の秘書や、自部署の女性などから、恐くないですか?と、よく聞かれていたが、一度もそれっぽい姿を見たことが無いのだ。
要するに噂なのだろう。
学校に七不思議があるように、会社にもそれぞれ七不思議がある。それらに本当のことなど無いのだ。
幽霊より人間の方が恐い……
宇都木はそれを良く知っていた。
脚立を上り、必要な書類をかき集め、幅広の机に並べて椅子に腰をかけた。実績の対比が出来る資料を今求められているために、過去の資料が必要となっている。
現在のものは全てデーターベース化されており、そちらはサーバーにアクセスするだけですぐに出てくるのだが、過去のものはここで探さねばならないのだ。
いずれここも全部データーベース化してくれるという話しだったのだが、未だにこのままの状態で放置されていた。
誰か整理してくれたらいいのに……
そんなことを思いながらパソコンの電源を入れると、仕事をする事に専念することにした。如月は夕方帰ってくる予定であったため、その頃には戻らなくてはならない。
宇都木は机の上に並べていた書類を一つずつ丁寧に開き、必要部分をパソコンに入力しはじめた。
……き……
?
「宇都木っ!」
「はいっ!」
声を掛けられ振り返ると如月が立っていた。
「お前……まだこんな所にいたのか?」
言いながら宇都木の隣りにある椅子に座った。
「もうすぐ出来ますから……。お戻りになるのはもう少し後だった筈ですよね?」
時計を確認して宇都木が言うと如月は笑った。
「打合せが結構早く終わってね。速攻帰ってきた」
「そうだったのですか……。道理で」
納得した声で言うと、如月が手を肩に回してきた。
「如月さん……ここは会社です」
やや怒るようにそう言ったが如月の手は離れなかった。
「誰も居ないよ……未来……」
……
この人は……
「未来ではありません。名前で呼ばないでください」
肩に置かれた手を払い、宇都木はそう言った。
「冷たいな……いいじゃないか……誰も居ないんだから……」
あっけらかんと如月はそう言い、小さく息を吐き出した。
「誰も居なくても、ここは職場ですからね……」
言って宇都木はまたパソコンを叩き出した。それが気に入らないのか、如月はもう一宇都木の肩を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「……如月さん……いい加減に……ん……」
いきなり唇に吸い付かれた宇都木は驚いて目を見開いた。
「……う~う???」
絡まる舌はここが職場なのを忘れさせそうな気分になる。だが宇都木は必死にそんな如月を押しやった。
「なっ……何を考えてるんです……」
口元を拭いながら宇都木は声を上げた。
「欲求不満だからな……」
ぶつぶつと如月は当然の如くそう言った。
「欲求って……何をおっしゃってるんですか……ここは……」
「会社だ。分かってる。同じ事を何度も言うな」
ムッとしたように如月は言った。だがムッとされる覚えはない。
「わかってらしたら、こんなことはしないで下さい……」
困惑したように宇都木は言った。
「……先週出張だったから……色々出来なくて私は欲求不満なんだ」
言いながらこちらをじっと見つめてくる瞳は、何やら不穏な輝きを持っていた。エッチは週末と決めていたのだが、如月が先週末取引先とのゴルフ旅行にどうしても行かなければならなくなり、週末のエッチが一週飛んだのだ。
「駄目です……」
きっぱりと言うと、如月が急に笑い出した。
「駄目って……何もまだ言ってないだろう……」
いや……
何か邦彦さんは考えてます……
それくらい分かります。
「目が訴えてます」
宇都木が言うと如月は何故か如月は苦笑した。
「……私はこれを一人でしなければならないんです。大切な仕事ですよ。如月さんも分かっていますよね?」
ちらと如月を見ながら宇都木が言うと如月は「分かってる」と、不機嫌な顔で言った。
「……片づけます。如月さんも戻ってこられたことですし……」
「構わない。本来帰る時間はあと一時間後だ。ここで大人しく未来の仕事を手伝うよ」
「とんでもないっ!これは秘書の仕事です。貴方が手伝うことなどありませんっ!」
驚きの声と共に宇都木は言った。
「……そんなに毛嫌いされるなんてなあ……」
困ったように如月は頭をかいた。
「あ、そ、そう言うわけでは……」
慌てて宇都木は椅子に座り直した。
「じゃあ……暫く未来に触れさせてくれ……それで我慢するから……」
……
「意味が分かりません……」
そう言うと、如月は宇都木を席から立つ様に言い自分がその席に座ると、膝に座るように言った。
「……何を考えてるんです……」
困惑したように宇都木は後ろを振り返ったが、如月はにこやかな顔をしている。
「いいから座れ」
……
どうしよう……
色々考えたが結局宇都木は如月の膝に座った。すると後ろから如月の腕が回り、鼻が首筋に当たるのを感じた。
……
恥ずかしい……
誰かに見られたらどうするんです……
かあっと頬を赤らめながら、宇都木はとりあえずパソコンのキーに手を置いた。すると如月の鼻が首筋や頭に擦りつけられてきた。
「じ……じっとしてください。仕事になりません……」
赤々とした顔で宇都木はそう言ったが、如月は後ろでクスクスと笑うだけだ。
仕事……
仕事しないと……
気にしたら負けですよね……
必死に自分に言い聞かせ、宇都木は資料をくり、そしてキーを打った。だが如月は後ろでごそごそしている。
……
邦彦さんって……
もしかしたらすごくエッチな人?
何となくそんな風に今まで思ってきたが、口に出して言ったことは無かった。だが行動を見ているとそんな感じがしてならない。
「未来……」
かぷっと耳たぶをかまれ、宇都木は身体が跳ねそうになった。
「やっ……なっ……何をするんですか!じ、じっとして下さい」
半分涙目でそう言うと今度は前に回した手が宇都木のスーツの下に差し入れられた。その手はシャツの上を這い、布地の上から胸の突起を探り当て、指先で触れてきた。
「なっ……や……やめっ……」
如月の手を掴みそう言うのだが、手は胸元から離れない。
「誰も見てないだろう……?少しくらい触らせてくれ……」
サワサワと胸元で手を動かしながら如月は言った。だが条件は一緒なのだ。如月が欲求不満に感じていることは宇都木にしても同じだ。
身体が寂しく思っていたのだからこんな所で煽られるとたまったものではない。
「……や……やです……」
耳まで赤くして宇都木は言ったが、如月は許してくれそうになかった。
「愛してるよ……未来……」
チュッと耳の後ろにキスを落とされ、身体がぞくりと震えた。
「だっ……だからっ……如月さんっ……私は仕事がっ……」
「邦彦だ。二人きりの時はそう呼ぶことにしてるだろう……」
言いながら如月の手は宇都木の股間に移動してきた。
「……こういうことをしないで下さいっ!」
ギュッと如月の手首を掴むと如月が言った。
「……なあ未来……。ずっと前だが……、こういう場所だとお前は何時も私を誘ってくれたはずなのに……最近は誘ってくれないんだな……」
それは……
あの時は……
必死だったし……
今は……
その……
「……どうなんだ?誘ってくれないのか?」
ですから……
仕事中なんです……
あーもううう……
仕事が進みませんっ!
「……邦彦さんっ!」
座っていた膝から腰を上げ、如月の方を向いた。
「……未来?」
「良いですか邦彦さん。私は本当にこの仕事をしてしまわないと、貴方が困るんです。貴方が恥をかくなんてそんな恐ろしいことを私が出来ると思っているんですか?」
ややきつめの口調で宇都木は言うのだが、如月は相変わらず笑っている。要するにこたえていないのだ。
「未来……愛してるよ……そう言う顔もそそる……」
笑いながら如月は言った。
……
このままじゃあ……
仕事にならない……
「分かりました。仕方がありません……」
言いながら宇都木は床に膝を付け、如月のジッパーを下ろした。
「……未来?」
「イかせてあげますから大人しくしてください」
宇都木の手は既に如月のモノを手に持っていた。
「あ、いや……そう言うつもりでは……っ……」
あれ程人を煽った張本人が怯えているのに宇都木は呆れたが、そのまま手に持っているモノを口に含んだ。
何度も口に含み、口内で擦り上げると如月の声が聞こえた。
「……未来……っ……ああ……」
全く……もうっ!
この人は自分の仕事の事を何だと思っているんですっ!
などと、腹立たしかったのは最初だけで、散々舌を使って如月のモノを翻弄するとこちらの身体の奥が疼きだした。
まずいと思う頃には宇都木も息が上がっていた。
「……良いぞ……乗って……」
……
だって……
乗るって言っても……
「こんな所で最後までやるつもりなんですか?」
とはいえ、宇都木の身体の疼きもかなり辛いところまで来ていた。今、口に含んでいるモノを違うところに入れたいのだ。
だがハッキリ言ってそんな時間は無い。
「……ああ……いいさ……お前のは受け止めてやるから……」
うっとりとそう言われたが、宇都木は首を左右に振った。
「そんな時間は無いんです」
もう一度如月のモノを口に含み、今度は強く吸い上げ、刺激を与えた。顎が痛くなるほど口を開き、如月のモノを銜え、唾液を塗り込めながら何度も舐め上げる。
ああ……
もう……
私も辛い……
「……っ……」
散々舌で翻弄すると、ようやく如月は宇都木の口内に自分のモノを吐き出した。それを全て呑み込み、宇都木はようやく口元を離した。
「……はあ……」
うっすらと額に汗を滲ませ、宇都木は如月に言った。
「はい、お仕事に戻ってください。私は続きをしてこちらにケリを付けてから上に戻ります」
「……未来……って……」
ぼーっとしながら如月は言った。
「何でしょう……」
「実はすごい秘書なんだな……」
「……そんなことは良いですから、早くここから出ていってください。本当に時間が無いんです」
懇願するようにそう言うと、如月はゆるゆると自分のモノを戻し、ジッパーを上げると、何も無かったような表情に戻った。
だが何となくスッキリした顔をしている。
……
邦彦さんは良いんですよ……
邦彦さんは……
自分の身体の疼きを気取られないように表情を引き締め、宇都木は更に言った。
「じゃあ……後ほど私も戻りますから……」
「ああ……分かったよ」
言って如月は宇都木の頬にキスを軽く落とすと、ようやく書庫から出ていった。
……
ああもう……
身体が熱い……
仕事に専念しようとキーボードに手を置いたのは良いのだが、自分の疼きが止まらない。
……
いいです……
私は……
ひ……
一人で出来ますから……
意味ありげにそう心の中で自分に言い聞かせると、残りの仕事を仕上げにかかった。
―完―
長いタイトル……結局得したのは如月のみ?? いいのかそれで? 本当にいいの宇都木? という感じでしたねえ……あはははは。一体宇都木はこの後どうしたんでしょう……ご想像にお任せします(脱兎)。 |