50万ヒット記念企画 テーマ「一人でできるもん」 第7夜
戸浪&祐馬
■ 一人でするしかないもん―前編―
戸浪が帰宅すると、いつものようにユウマが走ってきたのだが、様子がおかしかった。足下に絡みつき低い声で「にゃおおおおん」と鳴くのだ。
「ユウマ?」
大抵ユウマと先を争うように走ってくる祐馬が来ないことに戸浪は気が付いた。玄関を眺めてみると祐馬の靴があり、本人が帰ってきていることだけは分かった。
どうしたんだろう……
ユウマの様子もおかしいし……
黒い頭を撫で、抱き上げようとするとユウマはキッチンに向かって走り出した。
「ユウマっ!」
もしかして……
祐馬に何かあったのだろうか?
戸浪は奇妙な行動のユウマに慌てて靴を脱ぐと、自分もキッチンに急いだ。
すると、キッチンの壁にぐったりと背をもたれさせ、何故か祐馬は手にタオルを持ち、床に座り込んでいた。
「あ~戸浪ちゃんお帰り……。ごめん俺、迎えに出られなかったよ」
のぼせた顔で祐馬は、それでもなんとか作った様な笑顔を見せた。その足下に珍しくユウマが身体を擦りつけていた。
普段仲が悪いようにみえるが、あれはただじゃれ合っているだけだと、こういうのを見ると良く分かる。
「どうしたんだ……」
思わず近寄ってそう聞くと、祐馬はぼんやりと言った。
「なあんか……風邪みたい……。今朝から寒気してたんだけど……。ほら、今日行ったら休みだし……一日くらい大丈夫~って思ってたんだけど、だんだん酷くなっちゃってさあ……帰りに病院に寄って注射はして貰ったんだけど、あんまり効いてないみたい……」
「ほら、肩を貸してやるから……。寝た方がいい」
手を伸ばすと、祐馬は逆らわずに戸浪の肩に手を伸ばした。
「う~頭がガンガンするよ……」
よろりと立ち上がった祐馬が情けない声で言った。
「馬鹿だな……。今朝からだったら、どうして言わない。クスリくらい出してやったんだ……」
触れている身体がかなり熱いのだ。かなり熱が出ているのだろう。
「ん~……俺あんまり風邪とか引かないから、気にしなかったんだよな……」
「……風邪は甘く見ると駄目なんだっ!」
毎日一緒に暮らしているはずの自分が気が付いてやれなかったという罪悪感もあり、思わず戸浪は声に力が入った。
「……おこんないでよね……」
「……そう言うつもりじゃ……ほら、横になった方が良い……」
二人で寝室にはいると祐馬をベットに座らせた。だが当の祐馬はぼわ~とした顔で、動こうとしない。
「おい、さっさと服を脱いで、パジャマに着替えるんだ。子供じゃないんだから……」
パジャマを用意し、祐馬に渡すと虚ろな目つきがこちらを見つめた。
「……ん~。分かってるんだけど……なんか身体怠くて……寒いよ……」
やばい……
熱がまだ出るぞ……
戸浪は祐馬の様子を見てそう判断すると、無理矢理衣服を脱がせ、パジャマを着せた。その間中、祐馬はぐにゃぐにゃしていた。
「医者に行ったんだったら、クスリも貰ってきたんだろう?何処にあるんだ?」
「……あ~……鞄の中に入ってると思う……」
毛布にくるまり、そう言った。その目つきもかなり怪しい。
「何か食べたか?」
「……吐きそうで、なんも食べてない……」
う~と唸って祐馬は言った。
「クスリを飲むなら少し胃に入れた方が良いからな。何でも作ってやるから、食べたい物は無いか?」
「戸浪ちゃん……俺を殺す気なんだ……」
真剣に言われた戸浪は急に腹が立った。
「馬鹿なことを言うなっ!こっちは心配してるんだぞっ!こんな時に冗談は……」
戸浪は声を張り上げて言ったが、言葉が途中で止また。
祐馬が涙目になっているのを見たからだ。
「なんだ……どうしたんだ?」
「戸浪ちゃんってさ……俺、こんな苦しいのに……怒鳴るんだもんなあ……何か俺……すんげー悲しくなってきた……」
半分泣きそうな声で祐馬は言った。
「あ……いや……そういうつもりじゃ……。ああ、私が作るんじゃなくて……うちにないものが欲しいなら、コンビニで買ってきてやろうと……。最近は湯を入れるだけで出来るお粥もあるし……そういう希望を聞いていただけで……」
相手は熱を出した病人なのだ。こういう時は優しく接してやらなければと、戸浪は思った。なにより何時も祐馬のことに感心を示さないユウマが、ベットに上り、祐馬の様子を行ったり来たりして窺っていた。
ユウマも心配なのだろう。
「……う~やっぱりなにもいらない……ほんっきで気分悪いよ……」
言って祐馬は目を閉じた。
「とにかく……何か見てくるから……。あ、先に氷枕作らないとな……。ユウマ、祐馬を見ていてくれよ」
いつの間にか祐馬の腰の辺りで丸くなっているユウマにそう言うと、にゃと返事が返ってきた。見てくれるつもりがあるのだろう。
戸浪は早速キッチンに戻ると、床に置きっぱなしになっていた祐馬の鞄から風邪薬の袋を取りだし、テーブルに置いた。
そしてキッチンの上の扉を開け、氷枕用のゴムの枕を取りだした。中身を洗い、氷を詰めて水を入れる。その口を金具で止めるとタオルを巻いた。
先にそれを持って寝室に走り、祐馬の頭の下に置き、またキッチンまで戻ってきた。
何か……
少しで良いから胃に入れないとな……
だが作るのはやめておいた方が良いようだ……
戸浪の手料理はハッキリ言ってかなり不味いらしい。本人が味覚音痴な為に全く分からないのだが、折角作ってやったものに、毒だの死ぬだの言われたくはない。
……あ、カップスープがあったな。
戸浪は引き出しに入っているカップスープを幾つか並べ、どれにするか悩んだ。
う~ん……
食べられそうなのは卵スープだな……
戸浪は卵スープのカップを空けて、湯を注いだ。それをお盆に置き、冷蔵庫を開けてポカリスエットの缶を数本乗せる。次ぎにスプーンを引き出しから出し、クスリの袋と共にそれらも乗せた。
なんとかなりそうか……
一人で満足げに頷いて、戸浪は色々乗せたお盆を持つと寝室に再度向かった。
「祐馬……ほら、少しで良いからクスリを飲むために胃に入れた方が良い……」
辛そうな顔をしている祐馬にそう言うと、チラと目だけが動き、暫くすると身体を起こした。その動きもかなり無理をしているようだった。
「あ……うん。少し食べる……。だって戸浪ちゃんが折角用意してくれたんだし……」
祐馬は笑おうとしているのだろうが、やはり無理があるようだった。
「食べられるだけで良いからな……」
スープのカップを渡すと、祐馬はそれを取ろうとしなかった。
「……ねえ戸浪ちゃん……あのさあ……」
熱っぽい顔でなにやら祐馬はもじもじと言った。
「……なんだ、さっさと取れ」
「……食べさせてよ……」
……
はあああ?
「……お前は何を言ってるんだ……」
冷ややかな目を向けると、祐馬は肩を竦めた。だがユウマが何故か、戸浪に対し、にゃーにゃーと鳴き、それが「そのくらいしてやれよ~」と、言っているように聞こえた。
「……だってな……こういう時って優しくされたいじゃんか……」
チラチラ視線をこちらに寄越しながら祐馬は言った。その横で相変わらずユウマがにゃーにゃーと鳴いている。
……う
ユウマが祐馬の味方に付いている……
「わ……分かった。す、すれば良いんだろう……」
戸浪がそう言うと祐馬は嬉しそうな顔を向けた。
まあ……
小さい子供を扱っていると思えば……
戸浪は仕方無しにスプーンをスープのカップに入れ、少し掬うと、祐馬の口に差し込んだ。
「……ん~」
パクッとスプーンに食いついた祐馬は、満足そうだった。
嬉しそうだし……
仕方ないな……
私は恋人なんだから……
祐馬が病気の時くらい我が儘をきいてやらないと……
自分で思ったことに顔を赤らめながら、戸浪は何度もスープを掬って祐馬の口元に運んでやり、半分まで減ったところで、もう限界なのか、祐馬はまたベッドに沈んだ。
「ごちそうさま……ありがと……すっげー嬉しかった……」
氷枕に頭を乗せた祐馬は本当に嬉しそうな顔をしていた。大したことをしたわけではないが、余程戸浪に食べさせて貰ったことが嬉しかったのだろう。
「クスリ……クスリも飲まないと……」
祐馬の笑顔に、先程から顔が赤らんだままの戸浪は、その恥ずかしさを隠すようにガサガサと袋からクスリを取りだした。そして祐馬に渡そうとしたが、戸浪はクスリのシートから中身と取りだしてから、再度渡した。
な……
なんだか恋人同士って感じがするぞ……
いや……
そうなんだが……
「あ……わざわざ中身出してくれたんだ……今日は優しいなあ……なんか感動……」
ゆるゆると手を伸ばし、戸浪の手からクスリを取ると、祐馬はそのまま口に入れて呑み込んだ。
「……水は?あ、入れてくるから……」
水は持ってきていなかったのだ。
「あ、いいよ……俺……ポカリで流し込むから……」
良いながら既に祐馬はいつの間にかポカリの缶を持ち、ゴクゴクと飲んでいた。
「クスリは……水で飲むもんだが……」
とはいえ、もう既に飲み込んだ男に言っても仕方ない。
「……ん~いいよ……お腹に入ったら一緒だし……」
また目を閉じた祐馬のために、戸浪は部屋の明かりを一番小さなものだけ残して消した。
寝かせてやらないと……
祐馬を起こさないようにそうっと寝室を出ようとすると声をかけられた。
「戸浪ちゃん……あのさ……」
「なんだ?何か欲しい物があるのか?」
「……え、あ……その……」
また何か恥ずかしいことを言いたいんだな……
い……いいけどな……
「良いから……言ってみろ……」
「風邪移しちゃうから……一緒に寝ない方が良いと思うんだ……」
……
ちっとも面白くない事を言った……
なんだそれは……
もっと何か違うことを言いたかったんじゃないのか?
期待していた分、戸浪は急に腹を立てたが、顔に出すことはしなかった。祐馬は心配してくれているのだ。
「……そうだな。だが夜遅く、お前が酷くなったらすぐに分からないだろう。まあ多少離れてここで寝るつもりだ。気にするな」
最初からそのつもりで言ったのだが、祐馬は何故か驚いた顔をしていた。
「なんだ……嫌なのか?嫌でも何かあると困るからな……」
弟の大地が風邪を引くと必ず深夜熱が上がり、母親が寝ずの番をする事が多かった。それを見て育った戸浪にとっては別段変わったことではないのだ。
「あ、そ……そうなんだ……。じゃ、俺、移さないように寝るから……」
祐馬は申し訳なさそうな顔ではなく、どちらかというとうきうきした表情になった。
変な男だ……
戸浪の場合は、自分が風邪の時に誰かが側にいると煩わしいタイプだ。そういう意味で病気の時は一人で寝ていたいものだが、祐馬は戸浪とは違う考えの持ち主だった。
……
まあ……その……
喜んでくれているなら……
良いか……
そんなことを考えながら戸浪は寝室を出ると、扉をユウマのために少しだけ開けておいた。
戸浪は自分の食事を作り、それを食べ終わる頃、ユウマが餌を食べにキッチンに入ってきた。カリカリと自分の餌を頬ばり、水を飲む。最後に側に立てかけてある、爪を研ぐ為のダンボールをがりがりっと数度掻くと、また出ていった。
祐馬のことが心配なんだなあ……
いつもは喧嘩ばかりしているが、それも仲の良い証拠なのだ。
可愛いな……
ユウマは……
顔に笑みを浮かべながら戸浪は自分の食べた物を片づけると、風呂に入り、パジャマに着替え、暫くテレビを見てから寝室に向かった。
薄く開いた扉から中を覗くと、祐馬はぐっすりと寝込んでいた。その真横にユウマが丸くなっている。
微笑ましいな……
何時もこんな風に仲良く出来たら良いんだが……
苦笑しながら自分も毛布に入ろうと、音を立てずにベットに上ったのだが、祐馬がこちらに気がついたようであった。
「戸浪ちゃん……ごめんな……。なんか迷惑かけてるよな……」
ボソボソと祐馬はそう言った。
「こういう時はお互い様だろう?ああ、祐馬……汗を随分かいてるな……。着替えた方が良い……汗でまた身体を冷やすぞ」
言いながら戸浪は毛布から出ると、今のぼったベッドから降りた。
「あ……いいって……俺……大丈夫だから……」
慌てて祐馬が言ったが、自分の汗で冷えるのが身体にとって一番悪いのだ。
「……こういう時くらい甘えてくれて良いんだ……」
と、言った自分が顔を赤らめてしまった。
……
は……
恥ずかしい台詞がぽろっと出たぞ……
戸浪は慌てて寝室から出ると、バスルームに行き、熱い湯を入れたボウルとタオルを持った。その時鏡に映った自分の顔が、やけに赤くなっていることを知った。
な……
何を恥ずかしがってるんだ……っ!
寝室に戻り、戸浪は脇机にボウルを置き、タオルを置いた。そうして新しいパジャマを出すと、祐馬に渡した。
「怠いだろうが、着替えた方がいい……」
「……あ……うん……」
ごそごそと祐馬は毛布から出ると、一息を付いて座り込んだ。仕草がどことなく気怠いのはまだ熱っぽいのだろう。
ユウマが祐馬の動きに身体を起こし、今度は戸浪の方に擦り寄ってその場に座り込んだ。
「……う~マジで湿ってるよ……」
ボタンをゆるゆると外しながら祐馬は言った。
「ほら、そんなパジャマなど着ていると折角下がった熱がぶりかえすぞ」
「あ……まあね……」
上半身を脱ぎ、新しいパジャマを着ようとした祐馬を止めた。
「何……?寒いんだけど……」
うう……と唸って祐馬が言った。
「身体……拭いて置いた方がいい……」
別に大したことではないのに、戸浪は俯いてそう言い、持ってきたタオルを熱い湯に入れて絞った。
「……なんか……戸浪ちゃん……すっげ……優しくて気持ち悪い……」
うへえと言いながら祐馬が言ったため、戸浪は素肌の背中を叩いた。同時にユウマの爪も飛んでいる。
「いてえって……うう……なんだか幸せなのか不幸なのか分からないよ……」
情けない声を上げている祐馬の背をガシガシと戸浪は無言で拭いた。
「黙ってろ。全く……病人が五月蠅いぞ」
熱い湯で絞ったタオルで何度も背を拭き、次ぎに腕を拭く。すると祐馬が慌てて言った。
「前……俺……するし……」
「別に恥ずかしがることは無いだろう……ほら、背中は終わったから、上着を着て良い。そのまま仰向けで身体を伸ばしてくれたら前も拭いてやるから」
別に意味もなくそう言ったのだが、祐馬は妙に照れていた。
「……いいの?」
既に寝っ転がっている祐馬は窺うようにこちらを見るのを無視し、戸浪は胸元も拭いた。
その横からユウマが顔を出し、タオルの端に出ている小さな糸が左右に揺れるのを興味深げに見ていた。
そういえば……
最近ご無沙汰だな……
こんなに立派な胸板を持っているのに……
どうしてお前からの誘いは全く無いんだっ!
私は努力してるぞっ!
ムカムカしながら思わず戸浪はタオルを持つ手に力が入っていた。
「あいたっ!」
「あ……済まない……」
慌てて手を引っ込めると、祐馬がその手を掴んだ。
「違うよ……あの……ユウマがさあ、タオルに付いてる糸追っかけて、俺の胸をひっかくんだよ……。ユウマには悪気は無いんだろうけど……」
苦笑しながら祐馬はそう言って、戸浪の手を離した。
「ユウマ?」
チラリと胸元を見ると、血が出るほどではないが赤い筋が幾つか付いていた。
「ユウマっ!駄目じゃないか……」
戸浪が言うと、ユウマの方は今度祐馬の足元で毛布を前足で叩いていた。
「戸浪ちゃん……良いって。ユウマずっと付いてくれていたし……俺、元気になってきたみたいだから安心してるんじゃないかな……」
その笑顔は先程熱で苦しかった時に見えた無理矢理浮かべた笑顔ではなかった。
随分と楽になっているのだ。
だが、一度汗をかき、熱が下がっても、またぶり返すことを戸浪は良く知っていた。ここで油断しない方が良いのだ。
「……そうか……でもあそこで何をやってるんだ?」
ユウマは何故か毛布の中にある祐馬の足の盛り上がりを見ている。
「あ、これ、こやって足を動かすだろ?」
と言って祐馬が毛布の中で足先を左右に振ると、ユウマが飛びかかった。
「……な、何を遊んでるんだ……」
「何か動くと楽しいみたいだよ……。あ~俺……眠くなってきた……」
言いながらも祐馬は足を左右に振り、その度にユウマは動く毛布めがけて飛びかかっている。
緊張感が無いなあ……
苦笑しながら、戸浪はタオルを脇机に置こうとしたが、その手を祐馬が再度掴んだ。
何故か顔が真っ赤だ。
「お前……また熱が……」
「……ち……違うけど……さあ……」
「……なんだ?」
「……あ~その……あそこも拭いてっとか言ったら怒るかなあ……って……」
……
あそこって
何処だ?
祐馬が言っていることが戸浪には分からなかった。
「何処のことを言ってるんだ?」
きょとんとした顔を返すと、祐馬は頭をかきながら目線を逸らせている。
「……い……いいよ……俺……自分で拭くから……」
言って祐馬は戸浪の手からタオルを奪うと、ごそごそとそれをズボンの中につっこんだ。
な……
なにいいい……!!
「ゆっ……祐馬っ!」
「……だってさあ……この辺も汗かいて気持ち悪かったんだよ……。ふ……深い意味はないって……」
視線を外し、ごそごそと自分で祐馬は拭いていた。
「……なら……最初から……そ、そう言え」
祐馬の熱が移ったような顔になりながら戸浪は言って、自分もズボンに手を突っ込んだ。
「あっ……いいって……俺……自分でするからっ!だっ……駄目だって……」
「構わないと言ってるだろうっ!」
祐馬のズボンの中でタオルの取り合いをしたが、戸浪の手は肉感的なものに触れた。
「……ゆ……祐馬……」
じろっと祐馬を睨むと、本人は肩を竦めた。
「だってさ……そんなところで……タオルは擦れる、戸浪ちゃんは手を突っ込んでくる……見てるだけでどうにかなりそうだろ?」
ううと唸った祐馬は風邪で身体が悪いのか、今考えたことに罪悪感を持っているのか分からない顔色をしていた。
「病人の癖にっ!おったててる場合かっ!」
更に顔を赤くして戸浪は祐馬に怒鳴った。
「だからいいって言ったんだって……。勃てるなって言われても……生理的なものだしさあ……。最近ご無沙汰だし……。そんなん、風邪ひいたからって、勃つもんは勃つんだよっ!……仕方ないだろ……」
祐馬はまだぶつぶつと口の中で言っていたが、だんだん声が小さくなってきたことで戸浪には最後まで聞こえなかった。
「……お前が……誘ってこないから……」
こっちも負けずにぶつぶつと言ってやったが、最後にはお互い様になるために、余り強く言えないのが悲しい。
「……戸浪ちゃんってすぐ、やな顔するもんなあ……」
「やな顔ってなんだっ!私は……何時だって……その……」
戸浪は言いながらも祐馬のパジャマのボタンを上から順番に留めた。だがその手が祐馬に掴まれ引っ張られた。すると体勢を崩し、祐馬の胸元に飛び込むように体勢を崩した。
「んなあ……俺のこと好き?」
ギュッと胸に押さえつけられ戸浪は、こんな状態であるにもかかわらず、呆れるような事を言う祐馬に驚きながらも、何故か幸せだった。
「祐馬。風邪を引いている男が何を言ってるんだ……全く……」
身体を起こそうと腕を突っ張ると、又祐馬に引き寄せられた。
「俺……すっげ~したい……。だって今日の戸浪ちゃん思い切り優しいし……何かゾクゾクするんだもんな……」
って……
普段の私は一体何なんだっ!
とは思いながらも、こちらは顔が熱くて仕方がない。
「いでええっ!!」
いきなり祐馬はそう言って身体を起こした。
「……なっ……私は何もしていないぞっ!」
「いや……その……ユウマが飛びかかってきて……」
戸浪が後ろに視線を向かわせると、毛布の盛り上がりの所にユウマがしがみついて爪を立てていた。
……
そ……
そこは……
「お前がこんなところを勃てるからだろうっ!!」
祐馬は股にあるモノを先程より勃てていたのだ。それが毛布を押し上げていた。
「だから……生理現象なんだもんな……。こら……ユウマ。それ囓らないでくれよ……。戸浪ちゃんのだから……」
戸浪ちゃんのだからって……
ゆ……
ゆうまああああっっ!!
もう恥ずかしくて全身が真っ赤になりそうなことを祐馬が言ったため、戸浪は声を失っていた。
「しっ……しって……ほら……あっちにいけって」
祐馬が手を伸ばしてユウマを追い払うように振ると、ユウマは顔を上げて「ん?」という表情になったが、怒ることもなく、ベッドの下に飛び降りた。
「祐馬……お前なあ……」
「なあ……一回だけしよ……」
言葉とは違い、祐馬の表情は結構切実なものを感じた。
まあ……
それだけ勃てていたら確かに辛いだろうな……
「……い……一回だけ……なら……その……」
久しぶりだし……
汗を出した方が風邪には良いし……
ごほっとせき払いをして戸浪が言うと、祐馬が嬉しそうに言った。
「じゃあ戸浪ちゃん上に乗ってよね」
ウエニノッテヨネ……
ゆ……
ゆううまああっ!!
そ……
それは……
……
………
…………
一度やってみたかった。
はっ!
祐馬に思い切り引きずられいないか??
一瞬思ったことを振り払うのだが、想像してしまったことまで戸浪は振り払えなかった。
―続―
どうなってるんだ……こっちまで前後編だ……。きっと久しぶりに戸浪達を書いたから燃えているのかもしれない……私って……あわわわ。まあ……いいか……。仕方ないし……(意味不明)飛ばしてよいのが記念だもんねえ~。記念でしかできない彼らも困ったものだけど……う~ん……。でも、すごく長くなったから分けるしか……。 |