Angel Sugar

50万ヒット記念企画 テーマ「一人でできるもん」 第6夜

前頁タイトル翌夜

リーチ&名執

■ 結局一人ですませたのは……

 珍しくリーチが熟睡しているところに名執は帰ってきた。
 ……珍しい……
 ここしばらく仕事で不眠不休だとは聞いていたが、今寝室で寝ているところを見ると、仕事にケリがついたのだろう。
 それが分かるように目の下にはクマがくっきりと浮かんでいた。
 利一の身体はリーチとトシ、二人で共有している為、事件で奔走することになると本当に二人とも身体を労らないのだ。もちろんお互いが、交替でスリープと言って休憩を取るために、本人達は身体を休めているつもりだった。が、休息のない身体は疲労だけが溜まっていく。
 だから良くリーチ達は微熱を出す。疲労から来る微熱な為に、身体を休めてやるのが一番の治療法なのだが、幾ら名執が言ってもリーチもトシも聞こうとしない。
 いつか大きな病気になったら……
 名執はそれが心配なのだ。
 こちらの心配など全く知らずにリーチはキングサイズのベットで、毛布にくるまりスヤスヤと眠っていた。その顔は利一の童顔を更に濃くする。
 サラサラの髪が額に掛かり、あどけない寝顔は大人には見えない。そっと手を伸ばし額に手をのせるとやはり微熱が感じられた。
 本当に……
 困った人です。
 名執はそっとベットの上を移動し、床に下りた。その床には、リーチが脱ぎ散らかしたシャツ、スーツとズボン。それとネクタイと靴下が転がっていた。
 と、いうことは現在、リーチは下着一枚だけで潜り込んで眠っているのだ。
 名執はリーチの衣服を拾い、スーツなどはハンガーに掛け、靴下などは脱衣場にある洗い籠にいれた。
 頭を冷やしてあげないと……
 次ぎにキッチンに向かうと冷蔵庫からアイスノンを引っ張り出した。それにタオルを巻つけ、また寝室に戻った。
「……う……ん……」
 熱くて寝苦しいのか、リーチは毛布をグイグイと足で蹴って自分の身体から引き離していた。そんな下着姿のリーチが名執には可愛く見える。
 くす……
 可愛い……
 名執はスプリングの音を立てないようにそっとベットに乗り上がると、四つん這いでリーチの側に近づいた。眠り込んでいるリーチは名執のその気配に気が付かないようだ。
 ……気付いていない?
 そんなことは無いと思うけど……
 リーチは人の気配に敏感なのだ。もちろん熟睡もするが、それはこのうちにいて、更に名執が側にいることを確認した後、寝入った場合だ。だから今のようにまだリーチがこちらを認識していない状態では、目を覚ますはずなのだ。
 ……
 狸寝入り?
 何となくそんな気がした名執は、四つん這いのまま近づき、眠っているリーチの顔をじいっと眺めた。暫くすると、リーチの額に汗が滲んできた。
 ……あ……
 やっぱり起きてる……
 と、気が付きながらも名執が相変わらず見つめていると、いきなりリーチが身体を起こした。
「何だよ……何だよーーー!何ジロジロ見てるんだよっ!寝てられないだろうっ!」
 ぜえぜえ言いながらリーチは叫び、額を拭っていた。
「……だってリーチが、狸寝入りしていたものですから……でもそれが本当かどうか分からなかったから見ていたんですけど……。やはり狸ですか?」
 名執は四つん這いだった身体を起こし、ベットに座り込むとそう言った。
「狸じゃねえよっ!そりゃお前がこの部屋に帰ってきたのも分かってたし、額に手を置いていたのも気が付いてたよ。でも俺、眠かったから声かけずに寝てたんだっ!それだけだよっ!狸寝入りしてたわけじゃねえっ!それなのに、ジロジロ上から覗き込まれて、ずっと視線を感じた状態でどうやって寝てられるっていうんだっ!」
 リーチはあぐらをかき、髪をせわしなく掻きあげた。
「……え、あ……そうでしたか……済みません」
 どうも寝ているときに名執が近づき、起きてこないときはリーチが何か企んでいるような気がするのだ。大抵リーチは、こちらの気配を敏感に察知し、起きて声を掛けてくれる。
 今の場合だと寝室に入った瞬間に声を掛けられなければおかしい状態だった。
 それが無かったために、名執は不自然に思ったのだ。
 だが考えてみると、分かっていても眠っていることは何等おかしなことではない。ただ前科があるために名執が少しだけ疑っただけだ。
「ごめんなさい……。あの……アイスノン持ってきましたので……これで頭を冷やしてくださいね。微熱……またありますし……」
 さっとリーチにアイスノンを差し出し、名執が申し訳なさそうな表情を向けると、リーチは既に機嫌を直していた。
「あ、悪いな。昼にこっちに来て寝てたんだけど、なんか暑くて寝苦しかったんだ……」
 いそいそと枕を取っ払い、アイスノンを置くと、リーチはまた横になった。
「リーチ……暑いからと言って裸で寝たら駄目です。タオルケットを出しますね……」
 下着一枚で眠るリーチは何となく寒そうだと名執は感じたが、リーチは平気そうだった。それでも腹を冷やしてはならないだろうと思った名執は、タオルケットを戸棚から出した。
「迷惑かけてほんとごめんな……」
 うつらとした目でリーチは言った。表情は既に半分眠っている様な顔だ。
「良いんですよ……ゆっくりして下さい」
 薄い緑のタオルケットを手に持ち、名執はそれをリーチの身体に掛けると、うっすら開いていたリーチの瞳が閉じた。
 よっぽど眠いんですね……
 既にスースーと寝息を立てているリーチは、こんどは本格的に寝入った様だった。こうなると多少の物音では起きなくなる。
 リーチはここで安心してる……
 それが分かると名執はとても幸せになる。
 最初はこんな風に警戒心を解いた寝方はしてくれなかったのだ。それが少しずつ名執に気を許す寝方となり、今では鼻をつまんでも起きないほどぐっすりとリーチは寝る。
 すっかり気を許した表情を浮かべているリーチに寄り添い、名執は何時もリーチがしてくれるように背中を撫でた。
 こうやってみると……
 リーチってなんだか子供みたいですね。
 寝顔からは普段見せるきつい性格が全く想像が付かない。不思議なほど可愛らしいぼんぼんに見えるのだった。
 これは刑事として修羅場をくぐってきたと言われても想像が付かない顔だ。
「……リーチ……」
 そおっと自分の身体を寄せて名執も目を閉じた。すると普段より高い体温が名執に伝わってくる。何時だってリーチ達は全力なのだ。そんな彼らを名執は誇りに思う。そしてリーチに出会えた偶然を本当に感謝しているのだ。
 ほかほかしてる……
 リーチの身体……
 思わず顔に笑みを浮かべ、名執はそっと目を開け、身体を起こした。
 夕食は何か消化の良い、体力が付くようなものを考えましょうか……
 こちらの動きでリーチを起こさないように、ゆっくりとベットから降りると、夕食を作るために名執はキッチンに向かった。
 そうして冷蔵庫から鶏肉とネギ、ショウガを取りだし、名執は雑炊を作ろうと思った。これだと、消化も良く身体にも良いだろうと思ったのだ。あとリーチのお気に入りであるリンゴをすり、それにレモン汁を落とし、蜂蜜をかけたものを冷やしておけば良い。
 リーチは性格に似合わず甘党なのだ。
 時には糖尿になるかもしれないと心配するほど甘いものばかり頬ばっている時がある。見ているこちらがそれだけで満足するほど食べるのだ。
 だが考えると、エネルギー消費の高そうなリーチであるから、ブドウ糖の消費が人より多いのかもしれないと考えるようになった。
 あれだけ酷使しておきながら、普段の健康診断は全く異常が見られないのだ。その事実に名執はいつだって驚く。
 以前も人が怪我をするような状況で、ピンピンしていたのだから、運がいいのか、身体が頑健に出来ているのか分からない程だ。
「考えている場合じゃなかった……」
 鶏肉を切る手を止めていた自分に気が付いた名執は、料理に専念することにした。

 料理を終え、名執はリーチの様子を見に行くことにした。雑炊は余り煮込んでしまうとドロドロになるため、ややまだ米が硬いところで火を止めた。
 雑炊を煮ている間にリンゴはすって置いたため、今はもう冷蔵庫で冷やされている。
 さてと……
 名執は手を洗い、タオルで拭くとリーチの眠る寝室に向かった。
 まだ寝てるのでしょうか?
 昼頃来たと言っていた事ですし……
 半日は寝ていたことになるんですよね。
 そっと寝室の扉を開けてリーチの様子を窺うと、大の字に寝っ転がっており、まだスヤスヤと夢の中だった。
 折角のタオルケットが何時の間にか足下に追いやられている。
 リーチって……
 寝相悪い?
 いや、暑いのだ。
 音を立てないように名執はベットに上り、リーチの側に近づいた。そうして額に手を伸ばすと、熱は下がっているようであった。
 ……熱は下がったみたい……
 でも暑そうですねえ……
 じっと名執はリーチの姿を見ながらそう思っていると、リーチは片足を折り曲げ、足先を腹に伸ばすと、カリカリと掻いた。
 ……?
 痒いんですか?
 でも……普通……手を使いません?
 器用ですね……
 違う…
 どれだけ柔らかい身体をしてるんですっ!
 驚いた名執が更にリーチを観察していると、腹を掻いた指先が今度下着の裾を掴んでいた。
 ……脱いじゃうんですか?
 呆れた風に見ていると、名執が想像したとおり、リーチは器用に下着を足の指先で掴むと、ズルズルと引っ張った。だが片足を曲げているために太股付近で下着は引っかかり下まで降りない。
 ……リーチ……
 裸が好きなんですか?
 何となく恥ずかしくなった名執が目線を逸らそうとすると、リーチは今までとは逆の足を曲げ、下着を掴んでまた下ろした。それを左右で繰り返しとうとう足首から下着はベットに落とされた。
 ……
 なんだか……
 すっぽんぽんは恥ずかしいです……
 名執はリーチが今脱いだ下着を取り、そろそろとリーチの足を通し、上まで引き上げると、きちんとはかせた。
 もう……
 リーチって……
 ドキドキしていた気持ちを落ち着け、名執は同じように足下で丸まっているタオルケットを引き寄せたが、そのタオルケットの上にまた下着がぽつんと落とされた。
 え……
 振り返ると、リーチは今度も足で器用に脱いだようだった。だが足下から見るリーチは恥ずかしい部分が丸見えで、その上、隠すこともせずに片足を立てた状態で眠っているため、凝視できない。
 ……
 も……
 もーーーーっ!
 どうして脱ぐんですかっ!
 名執はまた下着を掴むと、リーチの足を通し、上に引き上げようとした。だが膝付近で異常に気が付いたリーチの足がまた下着を掴み、引っ張り合いになった。
 なに……
 リーチ起きてるんですか?
 必死に下着を掴んで引き上げようとする名執の手と、リーチが足先で掴む力が拮抗してなかなか上に進んでくれない。
 もちろん当の本人はスヤスヤと先程と同じ表情で眠っていた。
 この……
 どうして……
 無意識でこんな事をするんですか……っ!
 うーんと唸りながら名執はようやくリーチの下着を所定の位置まで持ってくると、リーチの両足首を掴んでベットに伸ばした。
 ふう……
 落ち着いたみたい……
 タオルケットをさっさと掛けてあげないと……
 名執は額を拭い、仰向けに棒のように身体を伸ばして眠っているリーチを眺めながら小さく溜息をついた。
 だがまた足がぴくりと動いたために、名執は膝の上に乗った。
 もう……
 もーーーーっ!
 裸になったら駄目ですっ!
「起きてるでしょう……リーチ……」
 複雑な気持ちでそう小さな声で名執は言ったが、リーチは幸せそうな顔をしたまま眠っていた。この表情からはどうも狸寝入りをしているようには見えない。
 変な人……
 下着を脱ぐなんて……
 そんなことを考えているといきなりリーチの膝が振動した。
「きゃっ!」
 驚いて名執がリーチの膝から離れると、膝を少し曲げたり伸ばしたりを繰り返していたのだ。
 ……
 夢でも見てるのでしょうか?
 分からないですけど……
 どこどこと足を動かされ、呆れたように眺めていると急に足の動きが止まった。そしてまた片足が下着に向かって伸びた。
「あっ……」
 思わず名執はその足首を掴んだが、今度は大人しくベットに伸びず、ひたすら足がビクビクと動いた。
「もう……もううう……どうしたんですかっ!」
 片足を抱えるように掴んでいたのだが、リーチは名執の体重など全く意に介さず、足を動かしている。その為名執の身体はその足の動きに上下した。
 下着がそれほど脱ぎたい?
 どうして?
 暑いからって……
 普通脱ぎます?
 暫く片足を抱きしめたまま我慢していると、足は動きをやめ、また伸ばされた。
 そっと片足から手を離し、また眺めていると、やはり足は下着に向かう。
 ……
 仕方ないですね……
 もう……負けました。
 脱がしてあげます。
 名執はリーチの腰元で膝を付き、手を伸ばして下着を掴んだ。するとリーチの目が急に開いた。
 ……
 お互い見つめ合ったまま暫く沈黙していたが、リーチがようやく言った言葉で名執は我に返った。
「なあ……何やってるんだよ……っあちっ!」
 持っていた下着の端をいきなり離した所為で、勢いの付いたゴムはリーチの腹でパチンと音を鳴らせた。
「……いえ……あの……リーチが暑いからって……下着を……」
 慌ててそう言うとリーチは怪訝な顔を向けた。
「俺……熟睡中襲われたのか?」
「なっ……そ、そうじゃないんですっ!貴方が自分で下着を脱ごうとするから……」
 かああっと顔を赤らめて名執は必死にそう言った。
「違うだろ。お前が俺の下着脱がそうとしたんじゃないか……。やだなあ……エッチなユキちゃんって」
 ニヤニヤとリーチはそう言った。
「えっ……そうじゃありませんっ!リーチが……っ!リーチが脱ごうとしたんです。違う……リーチが何度も足で下着を脱ぐから……その度に私は……その……下着をちゃんはかせていたんですけど……それでも脱ぐから……私……仕方無しにもう脱がして置いた方がいいのかなあって……それだけなんですっ!」
 名執は一気にまくし立てるようにそう言ったが、自分でも支離滅裂に話をしていることが分かった。
「ユキって結構大胆だよなあ~。そんな下手な言い訳しなくても、俺の触りたかったって言ってくれたら幾らでも触らせてやるのにさ……」
 嬉しそうにリーチはそう言ったが、違うのだ。だが名執にどう説明して良いか分からなかった。
「あ……あの……あのうう……」
 首の下まで赤くし、名執は他の言い訳を考えたが、なかなか思いつかない。逆に話せば話すほど、本当の事であるはずが、奇妙な言い訳にしか聞こえないのが不思議だった。
「良いよ……ユキ……。ずっと俺……お前を寂しい思いさせてたもんな……やりたい気持ち分かるよ……。脱がしていいよ」
 違う……
 違う~
 だがそれを名執に言うことが出来なかった。
「ほら、脱がして良いって……。あ~それより俺、お前の行動に勃ってきちゃったよ……」
 苦笑しながらリーチは言った。
「……え?」
 視線を落とすと確かに下着が膨らんでいた。
 これって……
 私が煽ったとかいいます?
「ほら~何とかしてくれよ~俺の……」
 両足をばたつかせ、リーチは嬉しそうだった。
「……何とかって……」
 下着を私が脱がせて……
 後は私に宜しく~ですか?
 ……だって……
 私は単にリーチが脱いだ下着をはかせていただけで……
 脱がしてどうこうなんて……
「ユキ……俺も寂しかったよ……」
 茫然としている名執の口元は薄く開かれていた。その隙間にリーチが舌を滑り込ませてくる。
「……ん……」
 まとわりつく舌と同時に、名執の胸にリーチの手が這わされた。
「あ……駄目です……身体を休めて……」
 口元が離されると、名執は一番にそう言った。
「……ユキが欲求不満なんだから仕方ないだろう」
「違いますっ!私はただ……リーチが脱ぐから……はかせていたんですっ!誤解しないでくださいっ!」
 何とか名執はそう言ってリーチから離れた。
「ユキちゃん~って」
 何となく寂しげにリーチは言った。だが今はそれどころではないのだ。きちんとリーチを休ませなければならない。
 身体が大事。
 とにかくリーチは今日一杯はゆっくりして貰わないと……。
 今、名執は医者としての使命に燃えていたのだ。
「夕食作ってありますから、まずそれを食べてからですよ。リーチ」
 そういう問題でもないのだが、名執は言った。
「え~……俺のこれ……どうすんだよ……ユキがこんなにしたんだぞ~!」
 半勃ちしたものを指さしてリーチは言った。
「あ……貴方なら一人でなんとか出来るでしょうっ!」
 恥ずかしさの余り名執はそう言うと、寝室から出た。その後ろでリーチが悪態をついている声だけが聞こえていた。

―完―
前頁タイトル翌夜

お笑いを求めたわけじゃないんだけど……なんだか笑い話になってしまいました。う~ん。結局一人でできたのはリーチというところでしょうか? しかし……名執って結構がんばるタイプなのかもしれません……うは……。明日は珍しく戸浪の所がエロなので今日は笑いを~。

↑ PAGE TOP