「監禁愛2」 第5章
名執はリーチが出ていった後、暫くして目を覚ました。
「あ……」
今までになく意識がはっきりし、霞のかかった様なぼんやりとした今までとは違い、名執は自分を完全に取り戻していた。
「私……」
名執は自分がいつの間にかパジャマを着替えていることに気が付いた。寝室の床にはミネラルウォーターのペットボトルが空になっていくつも置かれ、タオルも沢山散乱していた。なにより何故かヒーターまでもが部屋にある。
「どうして……こんなものが寝室にあるのでしょう……」
不審に思いながらも名執は身体を起こし、寝室の扉までやっと歩くとキッチンの方から人の気配がする事を知った。
宮原が……いる……
名執は急に恐怖が込み上げた。だが今なら逃げられると確信し、そっと玄関に向かった。しかし意識がはっきりとしているにも関わらず、身体は思うようには動いてはくれなかった。足取りは重く、身体は鉛のように重い。それでも名執は必死に足を動かし、ようやく玄関までたどり着いた。が、その事で気が緩んだのか、足が絡まりその場に転んだ。
その音を聞きつけたリーチがキッチンから駆けてきたが、名執にはその足音が宮原のものに聞こえ慌ててノブに手をかけた。
「おい!何をしているんだっ!」
声をかけられた名執は恐怖で叫ぶ。
「いやーっ……来ないで下さいっ!」
ノブにしがみついた名執をリーチは後ろから抱きしめたが、誰が抱きとめているかが分からない名執はその腕から必死に逃れようと抵抗した。
「いやっ!放して下さい……!放してっ!」
「俺だよユキ、リーチだ!分かるか?ユキ、リーチだよ」
ずっと聞きたいと思っていた声を聞いた名執は信じられないと言う表情で後ろをゆっくり振り返った。
「リー……チ……?」
これは夢?それとも現実?
今の名執には判断が付かなかった。
「うん。俺だよ」
そう言って微笑みかけるリーチの顔を確認して名執は蒼白になった。
「どうして……ここに……?」
「電話……くれたろ。だから来た」
悲しげな……それでいて哀れむように自分を見ているように見えた名執は、リーチに全てを知られたことを知った。
「いや……」
知られたのだ。
「ユキ?」
「見ないで下さい!私を見ないで!そんな目で……見ないでっ!」
名執が腕から逃れようとするのをリーチは必死に抱きしめ、その身体を拘束した。
「ユキ!分かったから……みんな……分かったから……もういいんだよ。逃げなくても良いんだ……」
全てを知られてしまったのだ。
今更隠したところでどうにもならない事を知った名執は暴れていた身体をぐったりとさせ、自分に巻き付いている腕に身を任せた。
「何故……どうしてこんな事になったんだ?」
リーチは優しくそう問いかけた。
「何度も……何度も言おうとしたのに……聞いてくれなかった……」
会いたかった。ずっとリーチに会いたかった。
会って全てを話したかった。
だがもう何もかも遅いのだ。
「もう遅い!今更元には戻らない!もう……遅すぎる……」
名執はそう言って俯き、泣き出した。
「ユキ……ごめん……俺が悪かった……許してくれ……」
リーチは肩を小刻みに震えながら涙をこぼす名執を包み込むように抱きしめながら何度も何度もそう言った。
私が可哀相だと同情しているのだ。
ただそれだけなのだ。
もう、リーチに何も望むことが出来ない所まで来てしまった。
名執はそれが分かっているだけに、言葉が出なかった。
「遅いのは分かってる……。だけど知りたいんだ。どうして日本に入ってきて間もないファンタジーを、お前をこんな目に遭わせた男が持っていたんだ?そいつは何者なんだ?」
リーチは名執を寝室に運びながらそう問いかけた。しかし名執は押し黙ったままリーチの問いに答えなかった。何よりどうしてと問われても名執にも分からないのだ。
虚ろな名執をリーチはベットに下ろし、毛布を掛けながら再度問いかけてきた。
「お前をこんな風にしたのは多分、今麻薬局が追ってる国際手配中の男だと思う。そんな奴とどうして知り合ったんだ?な、ユキ……何か言ってくれよ……」
そのリーチの瞳は尋問する刑事のように名執には見えた。リーチはその男を仕事上、捕まえたいのだとも思った。
それを知った名執は全てがもうどうでもよくなってしまった。
「昔……祖父の家にいたとき……宮原成人という私と同じくらいの年齢の子が住んでいたんです。彼の母親は週に二度家の掃除に来てくれていた人で……祖父が私に何をしていたかを知っていた……。その上私の知らないことまで……祖父から聞いて、成人という息子に話していた……」
「お前が知らない事?」
リーチにそう聞かれ、名執は一瞬言い淀んだが暫くして話し出した。
「十日程前、病院で偶然再会した宮原はアメリカから帰ってきたと言っていました。そして私の知らない事を話し出した……」
名執は自分の唇が震えるのが分かった。
「私の……本当の父親は……祖父だった……。父の父、祖父が……母に邪な感情を抱いて力ずくで犯し出来たのが……私であったこと……。それを知った父が自分の父親を殺し……母をつれ無理心中し、亡くなったこと……を……聞きました」
リーチはそれを聞いて目を見開いていた。
そう私はそういう人間なのだ。
何も望めない人間だった。
「宮原はそれをばらされたくなければ……身体を抱かせろと私に迫りました。そんな事……たとえばらされても出来なかった。私には……リーチがいたから……裏切ることは出来ない。そう思った。だからあの日リーチに電話をしたんです。リーチなら……分かってくれる……きっと……真実を知っても抱きしめてくれると信じていたから……いいえ……信じたかった……」
何もかもがどんどん色あせていくのが名執には分かった。自分は所詮生まれてきてはいけない存在だったのだ。
たった一つの望みすらもう望めないのだ。
「リーチを待ってた……きっと来てくれって……待ってたんです。ベルが鳴ってリーチが来たんだと思って扉を開けるとそこに……宮原が立ってた。無理矢理部屋に上がり込んで私を乗馬鞭で叩いた……何度も何度も……。昔祖父が私にしたように……叩いた。それでも私はリーチを裏切りたくなかったから逃げようとした。……したのに……捕まって殴られて……最後には……薬を使われた……抵抗……で……出来なかった……」
リーチは泣き続ける名執の横になり、腕を廻して抱きしめた。
その温もりは同情の温もりだ。哀れみかもしれない。
それでも名執はその腕を振り払うことは出来なかった。
「朝、目が覚めて……何も覚えていなかった。ただ……吐き気と嫌悪感だけがあって…。そして……身体に残る無数の傷が私を責めた……。それでも……それでもリーチに話そうと……全部話そうと誓っていたんです。リーチも会ってくれるって約束してくれたから……。それなのに病院から帰る途中……駐車場でまた……宮原に捕まって……殴られて……誰もお前を愛さないと……言われた……。汚れた身体を持つ私は……誰からも本気で愛して貰えないと……言われました。やっと解放されて家に帰ると……リーチも……リーチのものも何も……何も残ってなかった。そこで分かったんです……。私はそれだけの人間だって……分かった」
名執はそう言ってくすくすと笑った。
「ユキ……?」
「私が……馬鹿だったんです。誰かを愛することの出来る人間じゃなかったのに……リーチを愛してしまったからこんな事になった。本当は誰にも寄り掛からずに一人で生きなければならない人間だったのに……誰かを愛したことがいけなかった。宮原が言った通り、私の身体は中まで汚れていたのに……。流れる血も身体も汚れきっていたのに……誰もこんな私を本気で愛してなんかくれないのに……。錯覚を起こしてたんです。リーチは私を愛してくれてるって……」
昔からそうだったはずだ。リーチだけが例外だと錯覚していただけなのかもしれない。みんな私の身体だけを求める。私自身などいらないのだ。
「ユキ……」
「宮原が言った!身体だけが目的だって!リーチだってそうだって……私が騙されてると言った!」
名執は叫ぶようにそう言った。
悲しくて辛くて胸が押しつぶされそうな重圧に、一人ではもう抱えきれないのだ。
誰もそれを一緒に背負ってくれはしないだろう。
「何言ってるんだよ!」
リーチはこちらの顔を自分の方に向けてそう怒鳴った。リーチは本気で怒っている。本当なら恐い筈なのだが、それが何故か嬉しく思えた。
だが、もうそれもこの瞬間だけの事だ。
「でも……違う……貴方を騙していたのは私の方だったんです……。知らなかったとはいえ、流れてる血まで汚れていたことを隠してた……。でもお互い様ですよね……リーチだって身体だけが欲しかったのでしょうから……」
泣き笑いの表情で名執はリーチに向かってそう言った。するとリーチは先程より表情を強ばらせた。
「俺が……俺がいつお前のことを身体だけの関係だと言ったんだ……俺の……俺のお前に対する想いをそんな風に否定するな!」
「身体だけだと言えばいい!どうせ私はそんな人間なんです!リーチだって本当はそう思っているんでしょう?きれい事なんかいらない!言えばいい私は生まれてくるべきじゃなかったって……」
「この……」
リーチの手が振り上がったが、頭上で止まったまま振り下ろされはしなかった。
「抱きたいのなら……いい……私の身体が欲しいんでしょう?抱けばいい……もうどうなってもいい……こんな身体……要らない!」
「馬鹿野郎ーっ!」
リーチはその声と同時に名執の頬に手を振り下ろした。
バシッという音が部屋に響く。
「お前が……俺を……そんな風に思っているのなら……もういいよ……。俺が必要ないならそれでも良い。俺は刑事としてお前を保護する」
真っ直ぐ見つめるリーチの瞳に名執は頬を押さえながら見つめ返した。
「だけど……まだお前が俺に助けを……リーチとして求めてくれるのなら……俺はお前を愛し続ける。今までと同じに……ずっと変わらぬ想いでお前を大切に……愛したい……」
緩やかに笑みを浮かべてリーチはそう言った。
「リーチ……」
これは嘘だ。嘘に違いない。
こんなに幸せな言葉を聞かされているなど、名執は信じられなかった。
「お前の心を愛したい。全てをひっくるめて……心も身体も血も肉も髪も腕もみんな……みんな……お前の全てを愛しているんだ」
リーチの真剣な告白を受けて名執は一瞬でも疑った自分の情けなさに俯いてしまった。
「馬鹿!まだ分かんないのかよ!」
そう叫んだリーチにまたも叩かれると思った名執は思わず身体を竦めた。しかしリーチはそんな名執を力一杯抱きしめた。
「ごめん……痛かったろ……。叩いて……ごめん……」
そう言って抱きしめるリーチの腕は震えていた。
名執はやっと分かった。リーチが自分をどれ程愛しているかを……。どれ程大切にされているかを……この十日間、どんな目にあって、誰に抱かれたのかを知っても尚、自分を愛してくれると言うことを知った。
「リー……チ……!」
リーチの体温を、忘れそうになっていたその力強い抱擁を名執は身体全体で受けとめるために、あるだけの力を振り絞って抱き付いた。
「こんな事になって……ごめんなさい……貴方を裏切って……ごめんなさ……い……」
嗚咽とともに名執は吐き出すようにそう言った。
「違う。お前の所為じゃない!俺が……本当はもっと早く俺がお前を助けてあげなければならなかったのに……。お前が苦しんでいたのに気付いてやれなかった俺が……全て悪いんだ。どんなに謝っても償えない事を俺はした……お前の悲鳴を聞いてやれなかった……。本当に助けて欲しいとお前が望んだとき俺は側にいてやれなかった……。でもユキ、もうお前を放さないからな。もう一人にしない……。お前が必要なんだ……お前が思う以上に俺はお前を求めてる。愛しているんだ……」
「リーチ……嬉しい……」
リーチのその言葉が名執の傷ついた心と体を癒す。
「夢じゃないんですね……」
「そうだよ……」
「よかった……」
名執はリーチ胸の中でじっとその温もりを感じていた。
リーチがここにいる……
やっと望むものが手には入った二人は暫く身動きもせず抱き合っていた。
すると、夢心地でいる名執に何か焦げたような匂いが鼻をかすめた。
「リーチ……何か焦げた匂いがしませんか?」
「えっ?……あー……!俺、スープを火にかけたままだったんだ!ちょっと待ってろ」
そう言ってリーチはキッチンに向かって大急ぎで走っていった。そのあまりに慌てた姿に名執は久しぶりの笑みをもらした。
「底が少し焦げただけで全滅はしなかったよ。ユキ、これ食べて」
膝の上に盆を置くとリーチは名執にスプーンを渡そうとした。しかし名執は首を振ってそのスプーンを取ろうとはしなかった。
「お前、自分がひどく痩せてること分かってないだろ……ちゃんと食べないと体力もつかないぞ」
「リーチ……食べさせて……」
「それって、甘えてないか?」
言いながらもリーチは嬉しかった。何時も通りの名執がそこにいたからだ。確かに身体は痩せて酷い状態だが、心は回復し始めているのだ。
今はそれで充分だった。
「甘えさせて下さい……駄目……ですか?」
「仕方ないな……」
そう言ってリーチはスプーンでスープを掬うと名執の口元に運んだ。すると名執は慌てて口を押さえた。
「熱かったのか?」
心配そうにリーチは問いかけたが名執はにっこり笑って答えた。
「美味しい……」
その表情はまるでプロのコックが腕によりをかけた料理を食べたかの様であったのでリーチの方が驚いた。そんなに美味しいのかとリーチは自分もスープを口に入れたが、別段特別に美味しいとは思わなかった。
「そんなに美味しい?」
言いながらリーチは何度もスプーンで名執の口にスープを運んでやる。その度に嬉しそうに名執は味わった食べているようであった。
多分、薬のために味覚が無くなり何を食べても味を感じられなかった名執は、ここずっと食べ物を口にはしていなかった筈だ。それは痩せた名執の身体を見ても分かる。だが薬の効力が無くなった今、味覚は正常に脳に伝わっているのだろう。
その麻痺していた感覚が突然戻ってきた名執は一口一口味を確認するかのようにスープを飲み込んでいった。
「もう……お腹一杯……」
名執はスプーンを持つリーチの手を止めた。
「本当はもう少し腹に入れた方がいいんだろうけどな……あんまり急に沢山食べても吐くだろうし……ま、最初はこんなもんだろ……」
そう言ってまだ少しスープの残っているお皿を床に置いた。
「今度は……」
名執はそう言ってじっとこちらを見つめてくる。
「ん……なんだ?」
「リーチが欲しい……」
そう言って名執はリーチの唇に自分の唇を重ねてきた。リーチは変わらない名執の柔らかな舌に自分の舌をゆるやかに絡めた。それは貪るようなキスではなく、あくまで優しくいたわるようなものであった。
名執はそれだけでは飽きたらなくなったのか、いつの間にかリーチのシャツのボタンに手をかけていた。
「ダメだよ。これはおあずけ」
リーチは名執の手をそっと掴んで制止させた。
「どうして?」
「どうしてって……あのなーっ……。身体弱ってるのに……そんなお前に出来るわけ無いだろう」
呆れた風にリーチは言った。
「いいの……」
リーチに身体を擦り寄せ名執はねだった。
「駄目だ!」
まとわりつく名執をリーチは離す。
「リーチ……」
又泣きそうな顔で名執はこちらをじっと見る。名執の泣き顔は見たくは無いのだが、それとこれとは違うのだ。
「そんな悲しそうな顔をしても出来ることと出来ないことがあるんだからな!」
「リーチ……そんなに私の身体が貴方にとって見ることも抱くことも出来ない酷い身体に思うの?」
名執はもう一度擦り寄ってきた。
「そうじゃ無いだろ。そうじゃ無くて……」
「リーチ……私を綺麗にして……。貴方の唇で……貴方の熱で……一度、綺麗にしてくれたあの時の様に……。お願い……あの男が触れたところをみんな綺麗にして下さい。でないと……私は……もう生きて行く事が出来ない……」
リーチは自分の腕の中で必死に訴える名執に困り果てた。
「今でなければ……なんの助けにもならない。今、貴方が欲しいんです。お願い……」
リーチはその言葉を聞いて逡巡した。こんな名執を抱いて大丈夫だろうか?いや駄目だ。今はとにかく身体を回復させないと……と、いう気持ちと、こんなに弱りながらも、そう言ってくる名執の気持ち、どちらも分かるのだ。
「……う~っ」
「私……もう貴方に愛される資格は無いのですか?もう……」
ギュウッと胸元を掴む名執の手に力が込められ、見上げてくる瞳が又涙で潤む。
「……分かった」
名執が望むのなら、そうして欲しいのなら、それで幾らか救われるのなら……今、与えてやらなければならないのかもしれない。
「分かった。綺麗にしてあげるよ……ユキ……」
「リーチ……」
リーチは名執の身体をそっとベットに倒すと、優しく唇で愛撫をし始めた。その唇が胸の傷に触れると名執は、手でそれを隠そうとする。その手をリーチはそっと払い、赤く筋になった傷の端から端まで舌でなぞった。
その見れば見るほど無惨に傷つけられた身体がリーチに無言の訴えをしていた。
助けて欲しかった……もっと早く救って欲しかった……と
白い肌に浮かぶ傷の数だけ名執が苦しんだことを物語っていた。
「リーチ……キスして……」
名執は何度もリーチにキスをねだった。それは無意識に自分の身体から視線を外させようといているようであった。そんな不安を取り払わせるために、ねだる度にリーチは名執にキスをして囁く。
「ユキ……愛しているよ……俺にはお前が必要なんだ……」
「リーチ……もっと言って……愛してると言って……」
子供のように名執はそう言ってリーチの言葉をねだった。
「愛してる……ずっとお前が欲しかった。夜も眠ることが出来ない位……欲しかった。お前を求めて……俺のお前を思う心はいつも彷徨ってた……」
「嬉しい……」
「愛してる……ユキ……愛してるんだ……」
そう言いながらリーチの手は名執の内股に触れる。その感触に名執の身体は一瞬震えた。
「あ……っ……だめ……」
「ダメ?触っちゃいけない?」
リーチはそう言ったがその行為を止めること無く、ゆっくり内股を撫で上げてゆく。
「ううん……触って……いい……」
名執の少し喘ぎ始めた声は甘い色香を誘う。
「ユキ……気分が悪くなったり、苦しくなったら言うんだぞ……我慢だけはするな」
それだけはきちんと言っておかないといけない。例え自分自身が止まれないところまで来たとしても、駄目だと感じたらリーチはそこで止めるつもりだったのだ。
「悪くなんかならない……それよりも……この邪魔な服を脱がせて……」
名執にそう言われたリーチは自分の服を全て脱ぎ去ると、名執のパジャマも脱がせた。そうしてあらためて身体を重ねた二人は、直に感じる互いの温もりに暫く浸った。
「あったかい……リーチの身体……暖かい……」
その温もりが名執の震えを止めた。リーチは名執の首筋から胸元へ舌を這わせ、唾液を傷に塗り込めながら愛撫する。その動きは次第に名執の下半身へと進んだ。
少しずつリーチの頭が自分の内股に沈むのを感じたのか、名執は身体を強張らせた。誰が触れているのかを解ってはいたが、宮原によって刻まれた恐怖はまだ深く心に突き刺さっているのだろう。
「こ……怖い……リーチ……」
苦しいと言えば止めるつもりであったリーチであったが、名執が恐怖を感じることで止めるつもりはなかった。それを取り払ってやるのが今の自分の役目であると思っていたからである。
「怖くない……ユキ……怖くないよ……」
両足を小刻みに震えさす名執に声をかけながらリーチはゆっくり内股に頭を埋めた。
「あ……!」
少し立ち上がっているモノを口に含むと名執は声を上げ始めた。
「あ……リーチ……」
肉厚の舌でねっとりと愛撫を施し、時に嬲られた名執のそのモノは次第に先端から蜜を滲ませリーチの口内に広がった。
重みのあるリーチの身体は名執の負担にはならなかった。身体は相手が誰かと言うことをちゃんと知っているのだ。
「あ、ああっ……」
火照る身体が心の琴線をつま弾く。それは心地よいメロディを奏で、名執の心を満たした。
「ユキ……いい?」
リーチの問いかけに、弱々しく名執は頷いた。それを確認するとリーチは少し柔らかくなった蕾に指を一本沈めた。その瞬間名執の身体は一瞬大きく震え、更なる刺激を求めて腰を動かした。
その反応に満足したのかリーチは、二本目の指を侵入させた。
「いっ……あああっ……!」
リーチの二本の指は身体の奥底で交互に蠢き、狭い内を刺激する。右に左に、時には円を描いて生き物の様に自在に動き廻った。その度に快感のうねりが名執を襲った。しかし本当に望む奥には届かず、次第に名執は焦れ始めた。
「入れて……貴方のモノを……入れて……指じゃ足りない……」
掠れた喘ぎと共に名執はそう言って、全身を羞恥で赤く染めた。
「こっちがいいの?」
リーチは意地悪く言うと名執の内股で己のモノを擦り合わせる。すると互いの欲望が擦り合わされ絡み合った。
「あ……そこじゃない……意地悪しないで……お願い……」
涙声で名執はそう哀願した。
「気分悪くなったら本当にちゃんと言うんだぞ。例えお前が本当のことを言わずに黙っていても、俺が無理だと感じたら、どんなにお前が嫌がってもやめるからな、いいな分かったか?」
何処までも自分を気遣うリーチの優しさに名執は感動した。大事にされていることが本当に嬉しいのだ。
「大丈夫だから……リーチ……来て……私の中に……」
名執はリーチの腰に手をかけ、自分の方へと誘った。それに従うようにリーチは名執の奥を目指して己のモノをじわりと沈めた。