「監禁愛2」 後日談 第3章 完結
「そんなこと…させないよ……」
リーチは名執の唇に優しく触れた。
「出来ないよ……」
続いてリーチは首筋や鎖骨に舌を這わす。
過去の傷から名執は人と関わることを極度に避け、それでも誰かに自分を知ってもらいたくて、覚えていて欲しくてきっと医者になったのだとリーチは思った。
誰かの命を救う事で、一瞬交差する患者と自分の人生だけを心のよりどころにして名執は生きて来た。
以前リーチはそれを知った時、自分達と同じ人種であると感じた。
だからこそ余計に名執に執着するのかもしれなかった。
しかし、傷を嘗め合うことはしたくなかった。
愛した名執がそういう人間であったとリーチは思っていた。
自分達より色んな過去と傷を引きずっているそのこと全てを凌駕するほど愛してしまったとリーチは確信していた。
見知らぬ人間が名執と同じ過去を持っていてもきっと愛することは出来ないだろう。
ユキだから愛してしまった。
「リーチ……」
そう言って名執はリーチを求めるてくる。
抱えきれないほどの愛情を注いでやろう。
俺がどれほど愛しているかなんて、永遠にユキが気づかなくとも……
今でもユキが自分をこれからずっと愛してくれるという自信など無い……
でも
もう迷わない……
こうやって俺を求めてくれるユキを信じていこう……
「愛してるよ……ユキ……」
名執の身体を隅々愛撫し、その肌の温もりを舌から感じることのできる幸福をリーチは改めて感謝する。
その温もりをたっぷり感じたくて、リーチは執拗に舌で愛撫を繰り返した。
しかし名執はそんなリーチの行為が自分を焦らしているのだと思った。
リーチ……私を焦らしてる?
なかなか思うところに刺激が与えられないことで名執の煽られた身体が焦れる。
「リーチ……早く……」
そう言ってリーチを誘っても聞こえていないのか、リーチはひたすら名執の身体を唇で撫で上げた。
吐く息が益々粗く熱くなってくるにも関わらず、決定的な刺激は一向に与えられない。
「リーチ……あっ……!」
やっと指が一本沈められたが、しばらく中をかき廻すと早々に抜かれ、舌が次に周辺を嬲る。その動作はあくまでゆるやかであった。
リーチにしてみれば、先に達った余裕もあり、じっくりと名執を味わいたかった。しかし名執の方はそんなリーチがもどかしく、中途半端に震える身体が強い快感求めて脳にそのことを伝える。
快感を求めようとする身体と、頭の中の思考が早く欲しいと自分をせかし、その状態が限界に達したとろで名執は思わず泣きだした。
「ユキ……?」
名執が腕で自分の顔を隠して泣いているのでリーチの方が驚いたようだった。その腕を払うと名執は瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。
「どうして……焦らすの……?」
嗚咽と共に名執はそう言った。
「ええっ?」
「なんで……苛めるような……事をするの?」
「ユキ……?」
「私だって……早く欲しいのに……私は何も悪いことしていないのに……どうして……」
「ごめん……ごめんって……そんなつもりは無かったんだ……」
リーチは微笑みながらそう言った。その笑みが、まるでやっぱり分かった?というように見えた名執は腹が立った。
「こんなの……やだっ!」
そう言って名執はベットから逃げようとしたが、その腕をリーチは掴んでベットに引きずり戻した。
「途中で逃げてどうするんだよ……全く……」
呆れた声でリーチが言ったので名執は余計に腹が立って暴れだした。
「自分だけ先に達って、もう面倒臭いんでしょう?そんないいかげんになんか触れられたく無い!もういい……こんな風に焦らされるのなら……も、やめ……あっ!」
リーチは名執の身体を裏返すと腰を上げさせた。
「面倒臭かったらさっさとやって終わってるよ……何を言い出すかと思えばくだらないこと言いやがって……馬鹿!」
馬鹿の台詞と同時に、名執の身体の奥に尖ったモノが一気に突き入れられた。その力強さに名執は思わず腰を引いて、小刻みに両足を震えさせた。それは痛みからではない快感によるものであった。
「あっ……!」
名執の全身が待ち望んだ快感の到来に背をしならせ、自らも腰を突き上げる。
「お前の望みのものだ……ほら、ほらっ」
リーチはそう言って力強く何度も突き上げ、名執の敏感な奥を刺激した。
「あっ……あっ……ああ……!」
堅く尖ったモノが奥に達する度に名執は悦びの声を上げ、恍惚の表情を浮かべた。
「俺は、ただお前をじっくり愛してあげたかっただけなのに、勘違いしやがって……俺は不愉快なんだぞ!分かっているのか?」
そう言いながらリーチは腰を横に振り、名執の内を深く抉った。
「あっ……ああ……ご……めん……なさい……許して……リーチ……許して……」
快感に酔いしれながら名執は言った。
「もっと謝れよ……!」
リーチは自分のモノを一旦抜くとそう言って名執を焦らした。
「やぁっ……もっと……」
急に抜かれた名執は引いていく快感の波を惜しむように、腰を突き上げたままリーチに哀願した。
「やめないで……」
「だめ、本当に焦らしてやるからな……」
意地悪くそう言ったリーチが口の端で笑う。
「お願い……やめないで……」
蕾の襞を震わせて名執は訴えた。その柔らかく溶けた蕾にリーチは舌を這わせた。その刺激に名執はたまらない程感じていた。
「許せないな……俺がこんなにお前を愛してやってるのに……」
言いながらリーチは奥を舌でまさぐる。舌は敏感な所に侵入し、名執の火の付いた快感をさらに煽った。
「ん……あっ……や……」
痺れるような快感が下半身を支配して、名執の頭の中をかきまわし、熱っぽい身体が奥から疼く。
「何でも……するから……お願い……許して……」
悦楽の涙を流しながら名執は再度許しを請うのだが、リーチは許す気配も無く、ひたすら貪るような愛撫を繰り返した。
するとじわりと滲み出した汗が、名執の身体を覆い出した。
「嫌だね。もっと反省しろよ」
「リーチ……」
震える手で名執はリーチの腰を掴むと自分の方に誘った。
「ね、ユキ……どうして欲しいの?言ってみて……」
あくまで焦らそうとするので名執は舌を絡めながら自分の腰をリーチの腰に擦り寄せねだった。
「こんな姿……誰にも見せたくないな……」
リーチはふとそうつぶやいた。
「リーチ?」
「誰にも見せない。俺だけのものだ……!」
「貴方のものだから……リーチ……早く……お願い……!」
喘ぎながら甘い声色で名執はそう言って、今度はリーチの胴に両足を絡ませ、必死にせがんだ。
「ユキ……」
そんな名執にリーチは自分も我慢出来なくなたのか、とうとう名執の望むよう、溶けた蕾に向けて猛ったモノを突っ込んだ。
「ああっ……!」
名執の顔はその瞬間、快楽の笑みを浮かべた。
「もっと乱れてみろ……ほら……もっとだ……」
リーチはそう言って名執の口に指を挟む。その指を軽く噛み、嘗めながら名執は上気し、潤んだ瞳の顔をリーチに向けた。
「お前の、この顔が俺を狂わせるんだ……この姿が俺をどうしようもなくさせる……」
切なげにそう言われ、名執の身体は益々高ぶった。言葉だけでもイけそうな程だ。それでも現実に腰を上下させられると、もう何がなんだか分からなくなってくる。
「あっ……ああ……あああっ……!」
名執は眉根を寄せ、瞳を涙で濡らし、小さな口元から荒く息を吐き出し左右に頭を振った。その指はリーチの背をしっかり掴み、爪を立てている。
「もっと……リーチ……もっとっ……!」
リーチからこれほどの快感を与えてもらっているにもかかわらず、更なる快感を求めようとする自分にふっとよぎるような理性が羞恥するのだが、その貪欲な気持ちを押さえることなど快楽に身を任せた名執にはもう出来なかった。
それに応えるようにリーチの腰の動きが早く強くなる。
この人は……私のもの……
誰にも…誰にも……渡さない……!
名執はそう強く思った。思った分だけリーチを掴む手にも力が入る。
「ユキ……ここも良くしてあげるね……」
リーチはそう言って名執のモノを掴んで刺激を与えた。その刺激が名執の全身に行き渡る。
「は……はあ……リーチ……!」
視界が快感に酔ってぼんやりとし始めた。それでもしっかりとリーチの瞳を見つめようとする。だが限界が近づくのが、リーチの姿が霞み出したことで分かった。
「ユキ……達って……いいよ……」
「リーチ……ああ……リーチっ……!」
名執はリーチを呼びながら、真っ白い世界を垣間見た。
それは満足したときに見られる一瞬の世界であった。
二人は、お互い暫く力も入らずに身体を重ねたまま身体に残る快感に身を委ねていた。
そうして最初に言葉を発したのはリーチであった。
「ユキ……愛してる……愛してる……もっと違う言葉でそれを表現したいけど、そんな言葉しか思いつかない……」
「リーチ……」
名執はリーチの頭をゆるやかに撫でながら微笑んだ。
「もう誰にもお前を傷つけさせない……誰にもだ……誓う……」
その言葉に名執は込み上げてくる熱いものが涙となって零れ落ちるのが分かった。
「何で……泣くの?」
リーチは不思議そうにそれを見つめる。
「いつも……私の欲しい言葉を貴方が言ってくれるから……嬉しくて……つい……」
「嬉しいから泣いてるんだな」
「はい……」
「良かった……」
リーチはそう言ってまだ熱の籠もる名執の奥に指を入れた。そこにはリーチの解き放ったものが、まだ熱を帯びてそこにあり、グチュリと淫猥な音を発した。
「あっ……やっ……だめ!」
「お前のここって……何度入れてもいつもギュウギュウ俺を締め付けるんだ……」
そう言ってその部分を弄ぶように指でいじった。
「あっ……やだ……」
名執は自分の内股をぬめりを帯びたものが伝い落ちていくのが分かったとたん急に恥ずかしくなってきた。
「やめて下さい……恥ずかしい……」
「な、ユキ……何回位続けてやれるんだろう?」
「なっ……何を言ってるんですか……」
これからどうしようというのかが分かった名執はうろたえた。しかしリーチの方は真剣な目をしている。もしかして本気なのだろうか?
「一回くらいこういう挑戦してみようか……時間はたっぷりあるし……」
それは勘弁して欲しいと名執は思った。
「じょ、冗談ですよね?」
「本気」
「リーチ……私、おなか空いたんですけど……。食事を摂ってからにしませんか?」
別段それほど空いてはいなかったが、名執はそう言ってベッドから身を起こそうとした。
「嘘つき……!」
そう言ってリーチは名執を自分に引き寄せベットに押し倒した。
「ギネスに挑戦!」
訳の分からないことをリーチは言って名執に覆いかぶさる。
「リーチ……ちょっと待って……」
手で押しのけようとするが全く歯が立たず、そうしているうちにリーチは名執の唇に噛み付いた。
もう……どうにでもして下さい……
名執は心の中でため息を付くと、仕方無しに観念した。
そうしてお互いの身体が完全に離れたのは日が暮れかけようとしている頃であった。
夕方、重怠い身体をお互い引きずって何とかシャワーを浴び、居間の床に二人で転がっていたが、リーチは顔を少し上げて、自分と同じように居間の毛足の長いカーペットで横になっている名執に言った。
「ユキ……おなか空いた……」
今までどんな時でも二人でいるときは、名執に包丁を握らせることをリーチはしなかったのだが、今日ばかりは食事を作る元気は無かった。
「何か食べたい物のリクエストはありますか?」
名執はそんなリーチに笑みを浮かべながら言った。
「何でも……いい……作ってくれるの?」
「ええ、いいですよ」
身体を少し起こして名執は言った。
「お前って……元気でいいな……」
少しふてくされた顔でリーチはそう言って足をばたつかせた。
「私も身体中痛いんですよ……誰かさんが馬鹿なことを考えた所為でね……」
言って名執は立ち上がる足がよれたが、何とかキッチンに向かったようだった。
んーあいつも辛そうだな……今度からはこういう挑戦はやめよう……。
リーチはちょっぴり後悔しながら、カーペットの肌触りに身体を任せて大の字になった。
暫くするとキッチンからいい匂いがしだした。
何を作ってくれるのかな……
リーチがそんなことを、うつらとした意識の中で考えていると突然、ガシャンという音が響き渡った。
「ユキ!」
リーチは慌てて跳び起きるとキッチンに走った。
そのキッチンでは床にコップが割れて破片をそこらじゅうに飛び散らせていた。
「大丈夫か?」
床に尻餅をついたような格好で名執は座り込んでいた。
「貧血……みたい……」
そう言って名執が砕けたガラスの破片を掴もうとしたのをリーチが止めた。
「俺が片付けるから、お前は座っていろ!」
リーチは名執にガムテープと掃除機の有りかを聞き、床を奇麗に掃除した。その間中名執は椅子に避難させた。名執の芸術的な指を傷付けるなんてリーチにはとんでも無いことだったからだ。
「これで一安心だな……」
片づけ終わったリーチはそう言って名執に笑みを向けた。
「ごめんなさい……」
「俺の……所為でもあるから……謝んなよ……」
しょうもないこと挑戦したからなあ……
と思いながらも、後悔まではしないのがこの男なのだ。
「あ、でも食事は出来てますから食べましょうか?」
テーブルには厚い卵焼きにくるめられたオムライスと、色とりどりのサラダ、それと暖かいスープが並べられていた。
特にリーチはオムライスが大好物だった。
「俺……オムライス好きなの知ってたっけ……」
「え、そうなんですか?私はただ、リーチが甘い卵焼きが好きだって知って、それだけでは寂しいと思ってオムライスにしたんですよ……良かった好きな物で……」
そう言って名執は喜んだ。
「それじゃ、この巻いてる卵は甘いの?」
「嫌ですか?」
「うわー嬉しいな!俺ねケチャップで炒めた甘いご飯に甘い卵を巻くのが大好きなんだ!」
子供のように喜ぶリーチの姿に名執は本当に嬉しそうにしている。だが、本当に嬉しいのはリーチ当人だった。
「早く食おうぜ!」
リーチは待ち切れず、スプーンを片手に持ったままそう言って名執をせかした。
「トシは嫌がるんだよこういうの……。だからお願いして作ってもらっても味がね、しょっぱいか、胡椒をしこたま入れてて食えたもんじゃないんだ……」
口に一杯ほおばりながらリーチはそう言った。
「リス……みたい……」
両頬を膨らませたリーチの姿に、名執はそう言っていた。
「誰がリスなんだよ……」
少しむっとしてリーチが言った。
「いえ、何でも無いんです……」
くすくす笑いながら名執がそう言うと、リーチはホッとした。色々あったが、何とか名執は立ち直るだろう。それが分かったからホッとしたのだ。
「それにしても……またこんな風にお前と食事が出来るなんて……幸せだな……」
しみじみとリーチは言った。
「私も幸せです……」
「ずーっとこうしていような……ユキ」
「はい……」
その夜はお互い肌の温もりを感じながら眠りについた。
明日からはまたどちらも激務に追われる毎日が始まる。
それを忘れさせてくれる相手を見つけた二人は、例えこの瞬間だけでも離れることのないようにしっかり抱き合った。
―完―