Angel Sugar

「嘘かもしんない」 最終章

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 ベッドに下ろされた大地は、急に現実に戻されたような気がした。今日は酔っていないのだ。根性もそれほど残っていない。
「あのっ!頼む!シャワーくらい浴びさせてくれよ!」
 とにかく、心の準備が出来るくらいの時間が欲しかったのだ。たぶんこうなるかなあという気はあったが、ここまで来るとやはり後込みしてしまう。
「そんなの、明日にしなさい」 
 そう言って大地の上へ博貴は乗り上がった。
「頼むよ、逃げるって言ってるんじゃないだろ。お、俺だって色々心の準備ってのがあるじゃないか!」
 時間をくれえ!と大地は叫びそうになった。
「そうだねえ、無理矢理やろうとしたら、君に蹴り上げられそうだしね。じゃあ、さっさと浴びてきなさい」
 仕方ないなあという顔で博貴は大地にバスタオルを渡した。
「わ、悪いなあ……」
 こそこそと大地はバスルームへと向かった。
 熱いシャワーを浴びながら大地は、複雑だった。
「……俺……これからやるんだなあ……あいつと……」
 酔って抱き合ったときは半分頭が麻痺していたので、どちらかというとなだれ込むようにというのが正解だった。だが、今は酔っていない。色々考えて怖いという気もするのだ。どんな顔をしていればいいのか、何を話せば良いのか分からない。
 まあ、博貴にしてみれば慣れた事なのだろうが、こちらはそうもいかないのだ。
「明日……じゃ駄目かなあ……」
 延ばせるならどんどん日を延ばしたいと思う気持ちと、抱き合って確かめたいという気持ちもあるのだ。酔って流されて抱き合った時に感じたものが、酔っていなくても感じることが出来るのか?
 博貴を好きだとはっきり言える。だが、それをはっきり認識したのは酔って抱かれた時なのだ。酔っていないときでもそう、思えるのだろうか?
 頭をぶるぶると振って今考えたことを振り払った。いや、あの想いは今でも心の中にしっかりと根付いている。博貴がマンションへ来てくれたとき、驚いたが嬉しかった。心のどこかで追いかけてきて欲しいと思っていたのだろう。そして、一番聞きたくなかった台詞をもう一度言ったのだ。いや、何度も言ったのだ。その上その言葉は嘘ではないと言ってくれた。本当の愛しているを聞かせてくれたのだ。
 大丈夫だ。俺はあいつが好きだ。怖くない。
 やっとそう思ってバスルームから出ると、脱いだ服を入れたかごは空っぽだった。
「だ、だ、大良あああーーー!」
 バスルームの戸を少し開けて大地は叫んだ。
「服!俺の服!!!」
「あんなの必要ないでしょ。一から脱がせるのめんどくさいしね」
 既に自分はパンツ一つになって肩からバスローブを羽織った格好で博貴は言った。
「ああああ、あのなああ……」
 やっと付いた根性がまたしぼんでくる。この男はどうしてこう、人の気持ちを挫くのだ。
「さっさとこっちに来なさい」
 にこやかに手招きしながら博貴は言った。
「ぱ、パンツくらい返せ!」
 既に恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。
「だからいらないよ。それともそこまで迎えに行こうか?」
「馬鹿!くんなよ!」
 戸を閉めて大地はどうしようかと思った。このままじゃ寒い。とにかくバスタオルで身体を拭いて暫く思案した。
「大ちゃああん」
 外から博貴がそう呼んでいた。
「う、うるせえ!」
 仕方なく大地はそのバスタオルを腰に巻いてそこから出た。すると既に博貴が外に立っていた。
「遅い」
「寒いぞこの野郎!なんだってこんな目……」
 そこまで大地が言って博貴は抱きしめた。
「ああ、私も寒かったよ……君がいなくて……凍えそうだった……」
「俺がいってんのは、そういう寒いじゃなくて……」
「すぐに温もるよ……」
 そう言って博貴はそっとキスをした。その心地よさに大地は目を閉じた。大地は博貴のキスが好きだった。抱き合うのとはまた違う甘さを与えてくれるからだ。
「さああって、ベッドにいくぞ大ちゃん!」
 キスに酔っているにも関わらず、急に博貴は身体を離し、大地の手を取るとベッドに向かって駆け出した。
「あっ……待てよ!」
 急に引っ張られた大地は腰のバスタオルが外れないよう必死に掴んで、引きずられるようにベッドに倒れ込んだ。そのショックでバスタオルがずれた。
「うああああっ……」
 大地は思わずバスタオルを引き上げた。 
「それも邪魔」
 博貴がこちらが掴んでいるバスタオルの端をぐいぐい引っ張った。大地は必死にそれを阻止しようとした。こっちは酔ってないのだ。わああいとかなんとかいって、バスタオルを放り投げるような事は出来なかった。
「大ちゃんねえ……」
 困ったような顔で博貴が言った。
「だ、だってさあ……なんか、こう……その……」
 裸同士の男がベッドの上で向き合っているのがどうも照れ臭くて仕方ないのだ。
「んー……君の心の準備を待っても駄目だね」
 そう言って博貴は大地を自分の下に組み敷いた。大地の方はまだ必死にバスタオルを掴んでいた。
「……大良……あのさあ……」
 唇が近づいてきたので、大地は慌てて言った。どうしても約束して欲しいことがあったからだ。
「ここで止めるといわれてももう無駄だよ」
 顔を近づけたまま、笑みを浮かべて博貴が言った。
「そ、そんなんじゃなくて……あの……俺、お前に約束して欲しいことあるんだ。お前にとったら、出来ないことかもしれないし……駄目なら……俺をうちに帰してくれよ。このまま……隣人で……友達でいよう……その方が俺……いい」
 そういうと博貴は身体を起こし、同時に大地の身体も起こした。
「なんだい?」
「……その……」
 言いにくかった大地はやや、視線を横に向けた。そんな大地を辛抱強く博貴は待っているようであった。 
「お前の……その、愛してるって言葉は俺だけにくれよ。嘘でも……例え嘘であっても他の人に言って欲しくない。それに……こういうことは俺だけだと約束して欲しいんだ。駄目か?……駄目なら、仕方ないけど……。別にホストを辞めろって言ってるんじゃないんだ。ただ、言葉だけじゃ……俺、何を信じて良いのか分からないんだ……」
 上手く言えずに大地は口ごもった。
「それで信じてくれるのかい?」
 真剣な顔で博貴が言った。
「うん……信じられる……と、思う」
「思うってねえ……君はすごいことを私に約束させようとしてるんだよ。愛してるって言葉は結構便利なんだからねえ。ただ、女性を抱くなっていうけど、なんか誤解してないかい?私はそんな節操なしじゃないよ」
 何となく嬉しそうに博貴は言った。
「……ふうん。俺にもそう思ってるんだ……そうだよな。便利な言葉だよな。それで騙せたら楽だよな」
 ムッとして大地が言った。
「大地……約束をすれば……君は私だけのものだと約束してくれるのかい」
 博貴の指は大地の頬をそっと撫でた。
「する……」
「ホントかなあ……」
 優しい瞳で博貴が言った。その瞳に大地は酔いそうであった。この男は瞳だけで相手を酔わせることが出来るのだ。それと同時に身体がだんだんと熱を帯びてくる。
「大良……」
 いつの間にかバスタオルから離れた両手が、博貴の首に廻った。
「大地の望みはなんだって叶えてあげるよ……それで私を信じてくれるならね。その代わり、その約束をそっくりそのまま大地に言うよ。君がそういう位なんだから、大地だって約束してくれるんだよね」
「絶対破らないって言える」
 はっきりと大地は言った。
「可愛い女の子が寄ってきても、自制出来るのかなあ……」
 博貴がくすくす笑いながらそう言って大地の鼻面にキスをした。
「馬鹿にすんな。お前とは違うぞ」
「この身体に……他の誰も触れられたくないんだよ……」
 そう言って博貴は大地の身体をそっと撫でた。
「大良ぁ……」
 身体がどんどん高ぶってくるのが大地には感じられた。
「ここなんか特に嫌だね」
 博貴の指はいつの間にかバスタオルの中へと入れられていた。指はそっとそこにある物をなぞった。
「……ん……」
「分かった?」
「うん……」
 そっとベッドに倒されて、博貴が肌を合わせて来た。博貴の鼓動がこちらに伝わってくる。規則的なその鼓動は大地を安心させた。
 軽くキスを繰り返しながら、博貴はバスタオルを取り上げ、自分も羽織っているバスローブを放り投げた。
「ちょ……」
 抗議しようとしたが、又唇を閉じさせられ、博貴は肌をすり寄せてきた。その動きが堪らなく気持ちいいのだ。博貴の体重でやや、圧迫感があるものの、辛くは無かった。
「先生が良いからキスが上手くなった」
 口元を離し博貴が言った。ニヤニヤとした笑いが口元に浮かんでいる。その言葉に思わず顔が真っ赤になった。
「な、なに言うんだよ……」
「まあ、元々あんまり経験がないだけに変な癖がないから、この身体は素直にこちらに反応してくれるのが嬉しいねえ」
 大地の胸の辺りで博貴は自分の頬をすりすりしながらそう言った。
「おまっ……お前そんな恥ずかしい事よく素で言えるな」
「まあ、変な癖がついていたら、私が矯正していただろうけど」
 ぺろりと舌を出して博貴が言った。変な癖とは一体何なんだと思わず叫びそうになった。
「……お前って……変だよ……」
 既に耳まで真っ赤になって大地は言った。
「そうだね。大地に恋してるからだろう……」
 言って博貴は腹や胸を円を描くように舌で愛撫していく。そのねとっとした感覚に思わず身体が仰け反った。
「あ……っ……」
 舌はへその中まで侵入し、グリグリと舌先で内部を舐め回すのだ。くすぐったいような気持ちいいような奇妙な気分であった。だが、自分が興奮しているのが大地には分かった。身体が火照り、頭の中が痺れてくる。それは今まで知らなかった感覚だった。これが快感なのだろう。
「あっ……」
 急に身体を起こされて、博貴の膝にまたいだ形で座らされた。後ろから博貴が首筋を愛撫している。しかし、前を見ると博貴の足が絡まり大地は自分の足が開かされているのに気がついて、頭から火を噴きそうなほど恥ずかしかった。何より自分の股間には立ち上がった自分の物が露わになっているのだ。その少しずれた下からは博貴の物も見えた。
 それを見た瞬間、大地は気を失いそうになった。
「ちょ、ちょっと……こんなの……嫌だよ……」
 絡まった足を外そうとするが、しっかり絡まった博貴の足は動かない。そうやってもがいていると後ろから博貴の手が回されて、大地の物を掴んだ。
「ほら、大地も私のを掴んで……」
「え、そんな……そんなの……出来ない……」
 急にそんなことを言われてもと、冷や汗がでた。触ってみたいような、触ってはいけないような妙な気分だ。
「大地……ほら……」
 そう言って博貴は大地のモノを掴んだ手をゆっくり上下させた。他人に触れられているという恥ずかしさと、自分では味わえない刺激が背中を這った。
「あ……あっ……だ、大良……」
「大良じゃないよ……こういうときは博貴だろ……。ねえ大地……気持ちいいだろ?私も良くしてくれないか?大地のその手で……私も感じさせて欲しいなあ」
「でも、俺……そんなの……下手だと思うし……あっ……ちょ、動かすな……」
 快感を感じた身体が思わずビクリと震えた。
「私の手を見て……同じようにすれば良いんだよ。私は先生だよ。君は生徒」
 言われて思わず抗議の声を上げようとしたが、キュッと握り込まれて小さな悲鳴を大地は上げた。
「早く……私のも触ってくれないか?君の手に触れて欲しがってる……」 
 大地は博貴のその言葉でそっと手を伸ばして自分の下からぬっと立ち上がっている博貴のモノを掴んだ。そのまま手は硬直したように動かない。
 これが自分の中に入るのだと思うと驚きと恐怖が涌いてくるのだ。本当にこれが入ったことがあるのだろうか?信じられなかった。自分と比べたくはないのだが、こう比較しやすいように立ち並ぶと、やはり自分のモノより博貴の方が立派であるからだ。
「これ……本当に俺の中に……入ったのか?」
 信じられなかった。
「そうだよ……君の中に入って、喜んでたよ……。ほら、手を動かして……」
 うっとりと博貴はそう言った。
「……あ、嘘だ……よ。こんなの……」
 そういうと博貴は大地のモノをゆっくりと扱き始めた。ゆっくりゆっくり手の中で弄びながら、強く、そして弱く。
「うっ……あっ……ああ……あああ」
 断続的な快感が身体中を走った。
「大地も……動かしてくれないと……ね」
 恥ずかしいのだが、何故か博貴の言いなりになった手がゆっくりと手の中のモノを扱きだした。博貴がするように、力を込めてみたり、抜いてみたりを繰り返すと、博貴も感じているのか、耳元に吐き出される息が熱く、時折、「ああ……」という感嘆の声も聞こえた。それが益々大地の身体を火照らせた。
 博貴も感じているのだ。大地が触れていることで。何故かそれが嬉しい。同じものを共有しているような一体感がそこに生まれるのだ。今までとは違い一方的ではないというのが大地には嬉しい。
「……博貴……俺に……感じてる?ね、良い?……下手だと思うけど……ちょっとくらい良い?」
 思わずそう、大地は博貴に聞いていた。
「ああ良いよ……すごく良い……君は筋が良い。ああ……興奮してきた……」
 掠れた声の博貴が、興奮しているのが、大地には分かった。俺も……興奮してる。博貴に、その掴まれた部分が……。もっと感じたい。愛されたい……大地はそう思った。
 蠢く博貴の指が、大地をどんどん追いつめる。必死に我慢するが限界なのだ。そんな状態であるから大地の方はなかなか自分の手を動かすことなど出来ない。
「あっ……俺……駄目……あっ……く……駄目だ」
 身体を精一杯逸らせて、耐えるのだが、震えが止まらない。
「いいよ……達って……良いから……」
「でも……俺だけ……そんな……あうっっ……」
 結局止められずに大地は達った。急に弛緩したように身体は動かない。身を博貴に任せたまま暫く目を閉じて呼吸を整えた。そんな大地を博貴は愛おしそうに頬にキスをする。
「ご……めん。俺だけ……」
 ようやく目を開けて大地は言った。まだ頭がじいいんとしている。
「私は大地の中で達かせてもらうから、いいんだ」
 嬉しそうに博貴は言った。そうかあ、そういうのもあるんだと思った瞬間、身体を反転させられて、博貴と向かい合わせになった。さっきからくるくる身体を廻されているような気がして、目が回りそうだと大地は思った。
 そうして自分が四つん這いになり上になると、大地は下半身が気持ち悪くなった。先程出したもので濡れ、ぬるぬるとしていたのだ。同じように博貴の方も濡れていた。大地は穴があったら入りたいほど恥ずかしい思いに駆られた。
「ご、ごめん……気持ち悪いだろ、バスタオルでふくよ……」
 急に羞恥心が戻ってきた大地はそう言って先程外されたバスタオルを引き寄せた。その手を博貴が掴んだ。
「全然……ぬるっとして、いい感じじゃないか。それに、ここを濡らすのにもこういうのが必要だから、気にしなくていいんだよ。大地のものはなんだって、私のものなんだから、君が勝手なことは出来ないんだよ」
 博貴はバスタオルから大地の手を離し、そのまま大地の背にまわして、双丘を撫でた。
「……」
 大地は言葉がでない。
「ねえ、キスしてくれないの?」
 博貴がそう言った。大地はドキドキしながら、両腕を折り、ゆっくりと唇を合わせた。初めて自分から舌を絡ませた。どうやって良いのか分からない大地は必死に自分なりに博貴の口内をまさぐった。博貴の方は手を蕾の部分まで這わせ、周りを揉みほぐしている。
 大地がキスに専念していると、博貴の指がまだ堅い蕾に侵入した。
「うっ……」
 唇を離して、その痛みに耐えると、もう片方の博貴の手が顎を掴んでもう一度、キスをねだった。だが、執拗に蕾に侵入してくる指の刺激が、身体の動きを止めるのだ。半開きになった口元から浅く息を吐いた。そんな口元を博貴は構わずに舌で愛撫するのだ。
「あ……ああ……博貴……」
 四肢が震え、指では満足できなくなった蕾が震えた。口ではとうてい言えない台詞が頭を悩ます。いつの間にこんな事を求めるような身体になったのだろう。大地は恥ずかしくて仕方なかった。だが身体は正直なのだ。蕾は震えながらもっと大きな刺激が欲しいと大地の脳に訴える。
「どうしたんだい?言ってみて?」
「……博貴……」
 涙目で大地は博貴を見つめたが、博貴はとぼけている。絶対分かっているはずなのだ。
「いわなきゃ、してやんない」
 意地悪な瞳で博貴は言った。
「……何も……別に……」
 そういうと、博貴は二本同時に指を蕾に突き立てた。先ほどまでとは違いかなりの力で奥をまさぐる。
「ひっ……あっ……や、やだ……そんな、動かすなっ……」
 身体を丸めて大地は言った。きつい刺激がさらに身体を駆けめぐるのだ。
「欲しい言葉があるからねえ……恥ずかしいの?どうして?大地と私だけなのに。別に恥ずかしくなんかないよ。だって私は君がそうやって身悶える姿がとても愛おしく、可愛い。もっとそんな姿を見せて欲しいんだ。怖くはないだろう?君は感じているんだから。快感に溺れて、私を欲して……指だけじゃあ足りない大地の快感を満たせてあげられるのは、違う物だろう?さあ、言ってみて……聞かせてくれないか?大地の気持ちを……」
 嬉しそうに博貴は言った。その顔が大地には悪魔に見える。快楽に溺れさせて俺を一体どうしたいんだ?
「……博貴……やめ……あっ……あああ……」
 引き抜くこともせずに、博貴はその長い指で奥を突く。本当の快感が得られるところには届かない。じれったい鈍い快感が、大地を狂わせる。
「そこ……じゃ、ない……もっと……」
 震える声で大地は言った。
「もっと?なにかなあ?」
「ああ……何で……そんなに苛めるんだ……」
「苛めてなんかないさ。正直であってほしいだけさ」
 平然と博貴は言った。
「俺……あっ……駄目だ……違う……そこじゃないんだ……」
「だから?」
「届かない……もっと……奥……奥がいいんだ……」
 身体が素直に揺れていた。そんな自分に大地は気が付かない。
「奥?んー指じゃ届かないね。じゃ、何が欲しい?ねえ、代わりに何が欲しい?」
 博貴も興奮しているのか声がうわずっている。
「分かってる……癖に……」
 涙がぽろぽろと博貴のたくましい胸へ落ちる。だが博貴は知らない振りをし続けるのだ。なんて意地悪なんだと、ぼんやりした思考で大地は思った。
「頼む……よ。博貴の……その、その……これ……入れて……」
 観念したように大地は博貴のモノを掴んでそう言った。手の中のモノは先ほどより太さを増し、堅く鋼のようになっている。
 俺はこれが欲しいんだ。身体を貫くような快感を与えてくれるこれが……
「ご希望に応えましょう」
 満面の笑みで博貴が言った。
 大地は枕に倒され、博貴は両足を抱えた。大地はごくりと喉がなった。本当にあれが入るのだろうかという不安が頭をよぎる。欲しいと思うが、入るのだろうかという不安が頭をもたげるのだ。暫くして博貴のモノの先が蕾に当たった。思わず下半身に力が入る。
「大地……もう少し力を抜いて……。そうだね深呼吸をしてごらん」
 言われるままに息を吸って吐こうとすると、博貴がぐいっと腰を入れた。
「うっ……ああああっ」
 下半身にものすごい圧迫感が走った。はち切れそうなその何かが詰まったような感じがひしひしと伝わってくる。
「大地……」
 そっと頬を舐められて、閉じた瞳を開けると、博貴が笑みを浮かべていた。
「あ……あっ……入ってる……嘘みたいだ……あっ……」
 初めて知ったような驚きが大地の顔に浮かんだ。だがそれも一瞬でかき消された。博貴が何度も腰を動かすからだ。身体がその運動の為に枕に沈む。大地は信じられないほどの快感が身体を突き抜けていく度に、頭を左右に振った。
「大地……ああ、君の中は……本当に……気持ち良い……」
 博貴が感嘆の声を上げる。良いと言われて有り難うとでも言えばいいんだろうか?こういう場合の答え方は良く分からない。
「あっ……ああ……あああ……ああっ」
 頭が何かでかき回されたような気分であった。
「大地……大地はどう?……良いかい?感じてるかい?」
 荒い息とともに博貴がそういう。自然に大地は答えた。
「うん……気持良い……なんか、初めてだ……こんなの……死にそう……」
「もっと……良くなるよ……」
 そう言って博貴は大地のモノを掴み、扱きはじめた。あまりの快感に言葉を失った大地は悲鳴のような嬌声をあげた。
「あっ……駄目だ……あああっ……こんなの……ひっ……あっ……俺……駄目だ……」
 顔には笑みとも苦痛とも取れる複雑な表情を浮かべて大地は言った。ここが何処だかも既に分からない状態だった。
「感じてるんだ。もっともっと……いくらでも感じさせてあげるよ。……いくらでも、大地が……望むだけ……ああ……良い……私も……君の中で、最高の……気分を味わってる」
 博貴も感じているんだ。何よりそれが嬉しい。
「……ああ……ああああ……駄目だっ……も……死んじゃう……博貴……博貴いーー」
 体中の感覚が麻痺し、身体が急に力を失った。遠くの方から博貴の声が聞こえた。
「愛しているよ……大地……」
  


 日が眩しくて目が覚めると博貴が先に起きたのか、こちらをじっと見ているのに気がついた。だが、大地は朝に弱く、すぐに意識がはっきりする方ではないのだ。ぼんやりと何でここに日が入って来るんだろうと見上げると、最初気がつかなかったが、部屋の上の方に小さな窓がいくつかついているからだった。
 眩しくて思わず、布団に潜り込んだ。
「起きた?」
「……ん……」
 それだけ言って大地は博貴の腕の中で丸くなった。
「君って……実は朝弱いんだ」
 くすくすと笑って博貴は言った。
「……だよ……」
 話すのもめんどくさくて大地はそれだけ言って又目を閉じた。
「出勤は?」
「……夕方……」
「そりゃ、良かった」
 そう言って博貴は大地をギュウッと抱きしめた。
「……な、なにすんだよ……」
「大ちゃんって可愛い!」
 博貴は抱きしめながら顎でがしがしとこちらの頭を擦った。そのころには目が完全に覚めていた。
「いてててて、てめえ!痛い!」
 大地が抗議すると博貴は大地を抱き上げて自分の上に乗せた。
「お前なあ……」
 ムッとした顔を大地はしたが、博貴の方は本当に嬉しそうな顔をしている。何が嬉しいのか分からない。
「私の大ちゃんだ」
 またギュウッと抱きしめて博貴は言った。
「だから、一体何なんだよ。苦しいんだよ俺は……離せって」
「嬉しいんだよねえ……大ちゃんが私の恋人だと思うとね。私のものだってはっきり言えるところとか……あああ、もう嬉しすぎるよ」
 起きたてに聞くような言葉じゃなかった。
「も、良いけど……」
 抱きしめられて、左右に揺らされると、大地は博貴の好きにさせた。何を言っても聞きそうにないからだ。
「もう、突然いなくならないこと」
 妙に生真面目な顔で博貴が言った。
「分かってるよ……でもな、お前が約束破ったら、俺もう帰ってこないからな」
 そんなことにはなって欲しくは無かったが、大地は決めていた。
 もし、博貴が約束を破ったら、俺はもう二度とここに帰らないと。
「破らないよ……約束する……」
 そう言って博貴は大地に軽くキスをする。
「そうだ……今何時?」
「既にお昼……」
「お前……俺がもし日勤だったらどうするつもりだったんだよ」
 この場所は大きな窓がないために時間が良く分からないのだ。
「すごく気持ちよく君が眠っていたから、起こすに起こせなかったんだ。なんてねえ……私も久しぶりに寝込んだみたいなんだよ。丁度、君が起きる少し前に目が覚めてちょっとあわてたんだ」 
「……まあ、気持ちは分からないでもないけどね」
 自分も寝込んでいたから責めることは出来ないと大地は思った。
「お互い気持ちいい一晩を過ごしたからね」
 ニヤニヤと口元に笑みを浮かべて博貴は言った。
「……あのなあ……」
 呆れて次の言葉が出ない。
「んー、そろそろシャワーでも浴びて、ご飯でも食べたいね」
「ほんっと、お前って俺に言うのは飯飯ばっかだな……」
 小さく溜息をついてそう言った。
「確かに愛してると言う言葉よりご飯と言ってねだる方が多いか……」
 何となく納得したような顔で博貴が言ったので大地は思わず枕をぶつけた。それでも博貴は何が可笑しいのか、お腹を抱えて笑っていた。
 こいつはホストで嘘をつくのが営業であり、日常茶飯事。もしかしたら昨晩のこと、いや今だって全部嘘かもしんない…
 ふと大地はそんなことを考えたが、元々楽天的な性格である。
 そんときは手足の一本でももらうとするかあ……と密かに考えている大地のことなどつゆ知らず、やっぱり博貴は笑っていた。
 同じ頃、大地を探す二人の男が居た。

「大……何処に行ったんだ?」
 呆然と立ちすくむ戸浪と、
「名字は何て言うのだろう……」
 ぼんやりとそう呟く藤城だった。

―完―
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