Angel Sugar

「やばいかもしんない」 第2章

前頁タイトル次頁
「見せて」
「い・や・だ」
「冷たいなあ大ちゃん」
「冷たいとか、冷たくないとか、そんな問題か?」
 顔を赤くしながら大地はそう言った。だが手首はまだ博貴に掴まれたままだ。
「思い出せるだろ?ねえ大地……」
 大地の身体を引き寄せ博貴は耳元でそう囁き、片手は大地の背に廻され、もう片方はやはりこちらの手首を掴んでいた。
「博貴……」
 おいおいおい嘘だろ……
 と大地は内心焦るのだが、博貴は楽しそうだった。その上、止めるつもりなど無いようだった。
「大地は何を思い出すんだい?私の唇かい?」
 博貴は言いながら首元を愛撫する。久しぶりの感触に大地は博貴の腕の中で身を捩った。
「や……っ……」
「それとも私が触れる指先を思い出す?こんな風に……ここに触れる指を……」
 背に廻した手が蕾に軽く触れると、大地の身体はビクリとしなった。
「ねえ……大地……この中に私が入って気持ちよくなる事も考えるのかい?」
 まだ固い蕾の襞を指先で軽く弄びながら博貴は言った。その刺激にどんどん大地の身体は熱くなり、身体の芯が疼く。吐く息も熱くなるのが分かった。
「博貴……いやだ……」
 ちくしょー恥ずかしいんだよおおっ!
 分かれよっ!
 と、心の中では怒鳴っているのだが、声には出せない。こうやって二人で抱き合っているとき、大地が悪態をついたりすると、博貴は更にこちらの身体を苛めるのだ。そういう事情で、ベットの上では逆らえない大地は言葉を飲み込むことしかできなかった。
「いや?そんなこと無いはずだよ。だって大地の身体は悦んでるじゃないか」
 つーっと頬を舌で撫でられ、その心地よさに目を閉じた。
「俺……っ……」
「じゃあ、目を閉じたままで思い出してごらん。それならあんまり恥ずかしくないだろ?」
 小さな声で言い聞かせるような博貴の声と、下半身から上がってくる痺れが恥ずかしいという気持ちを麻痺させる。
「う……ん……」
「……何を思い出す?」
「博貴の……キス……」
 そう、俺はキスを思い出すだけでも身体が熱くなるんだ……
 大地は熱に浮かされたような頭の中でそう思った。
「キスだけ?」
「……触れる……肌……」
 その心地よさは言葉で言い表せない程だ。
「それから?ここも気持ちよくしてあげるよね」
 大地の両手を持った博貴の手は、やや立ち上がった下半身のものを掴ませた。
「……うん……」
「それも思い出すだろ?」
「……俺の……博貴は……舌で……」
 絞り出すように大地はそう言った。
「口に含んで舐めてあげるよね……」
 そう言われて大地は思わず下半身に鈍い重みを感じた。博貴の言葉は身体にそれも下半身に直接響くのだ。その所為で背が丸くなり、息が上がった。
「はあっ……や……」
「大地のここ……思い出しただけで濡れてくるんだ……」
 クスッと笑いながら博貴は言った。
「や……ちが……」
「ほら、分かるだろ?」
 こちらが自分のモノを握り込んでいる手を、博貴は包むように自分の両手で覆った。
「うっ……うあ……や……」
 博貴の肩に顎を乗せて大地は言った。そんな大地の頬に博貴は軽くキスをした。
「どんどん辛くなってくるね。ほら、大地……手を動かさないと……」
「ん……う……」
「一人でイってごらん……。私が居ないときはこうやって一人でイクんだろ?」
 博貴は掴んでいた手を離してそう言った。
「ひ……博……貴」
 声がうわずっているのが自分でも分かった。どうあっても博貴は手伝ってくれそうにない。
「ん……」
 追いつめられた大地は自分で手を動かし始めた。見られながらこんな事をするなど冗談じゃないと思う気持ちと、見られることで恥ずかしいという気持ちすら自分を煽っている事実が余計に快感を高めた。
「大地……」
「あ……ああ……はあっ……はあっ……」
 博貴の膝に乗り足を広げ大地は恥ずかしさも忘れて自分の行為に没頭した。悩んでいても苦しいだけだ。見ているのは博貴だけだ。
 ならいいと大地は思った。
「大地……いい顔してるよ……」
 喘ぐ大地の口元に博貴はキスを繰り返してそう言った。
「博貴……っ……あ……っはあ……はあ……」
「……私の大地……」
 両手に大地の頬を挟んで博貴はキスをねだる。だがそれを受ける余裕など大地には無かった。
「あっ……も……うっ……」
 がくんと一気に力が抜けた大地は博貴にもたれかかるようにしてイった。両手が濡れぬるりとした感触を伝えてきた。
 吐く息は相変わらず荒い。
「大地……」
 いきなり身体を倒されて大地は驚いたが、すぐに身体は動かなかった。高まった部分が一気に解放されて、力が入らないのだ。
「……」
「ああ、大地……何て可愛いんだ君は……」
 上気した顔で博貴は言った。自分の行為を見て博貴の方も興奮したようであった。それが分かると大地も折角冷めだした身体が、また熱くなってきた。
「……お前って……最低……」
「どうしてだい?君の姿を見て興奮したよ……素直で可愛い……」
 良いながら濡れた部分に手を滑らせ、そのまま蕾へと指先が動いた。
「あっ……なっ……」
「ここはまだイケなくてピクピクしてるよ……仕方ないねえ……」
 指は蕾の奥にするりと入り、敏感になっている粘膜を刺激した。
「ひ、あっ……や……」
「やじゃないだろ?ほら……大地……欲しいだろ?私は欲しいよ……大地が……。君の全部が欲しい……その熱く濡れたところに入りたい……」
 耳まで赤くなりそうな台詞を囁かれ、大地は言葉が出ずに思わず手で口元を覆った。
「あれ?大地は欲しくないの?」
 ニヤニヤと口元に笑みを浮かべて博貴は言った。だがそう言いながらも蕾に沈めた指を動かしている。
「こんなに濡れているのに……私を誘っているんだろ?違うのかい?」
 そう言って先程まで入れていた指先を抜くと大地に見えるように目の前にかざした。その指は、先程大地が放出したものがべったりとついていた。
「……あ……み、見せるなよ……」
 穴があったら入りたいとはこのことだろう。
「ふふっ……本当に大地は恥ずかしがり屋だなあ……」
 そう言うお前はスケベ野郎だと口に出して言いたかったが、先ほどの事情もあって何も言えなかった。
「大ちゃんは私のものだよ……」
 少しきつく大地の胸元に吸い付いて博貴は言った。
「……うん……」
「分かってる?私が大地にどれだけ惚れているか……」
 そう言って博貴は大地の両足を抱え上げゆっくりと溶けた蕾に自分のものを沈めた。
「んっ……」
「大地……」
 博貴はそう言ってじっと大地の瞳を見つめた。
「俺といる時はさ……カツラは止めろよ……」
「気に入らないの?」
「なんだか……博貴じゃないみたいだから……」
「どうして?」
「髪型……の所為かなあ……」
「嫌いじゃないんでしょ?」
 クスッと笑って博貴は言った。
「うん……んっ……あっ……」
 グイッと入れられた博貴の腰が、大地の身体の奥にある快感をもろに刺激した。
「大地……愛してるよ……」
「う……うん……あっつ……ああ……俺……俺も……」
 激しく突き上げられながら大地はふと朝起きられるのだろうかという不安が脳裏をよぎった。

「……ちゃん」
 身体が揺すられているのは分かるのだが、怠くて動かせそうになかった。
「……ん……」
「もう六時過ぎてるよ。いいのかい?」
「……んー……もう少し……」
 眠くて仕方がなかった。柔らかいシーツの感触が頬に心地よく感じられる。ずっとこのままこの感触を味わっていたかった。
「だーいーちゃん!!」
 グイッと布団を剥がされ大地は、寒さに目をうっすらと開けた。
「ほら、シャワー浴びて、用意しないとお兄さんに怒られるよ」
 心配そうに覗き込む博貴をぼんやり眺めながら、大地はまだ夢心地であった。その所為か頭もはっきりしない。
「うーん……ひろきい……」
 ぎゅっうっと博貴に抱きつき、大地はまた眠りに落ちそうになった。
「嬉しいけど……大ちゃん、知らないよ。ほら、起きなさい」
 むにゅっと頬を引っ張られて、大地はもう一度目を開けた。やっぱりまだ眠い。そんな大地を博貴は抱き上げると、バスルームに入り、熱いシャワーをかけた。
「ひゃっ……」
 流れる湯に目をしばたいた大地は、ようやく頭がはっきりしてきた。
「目が覚めた?」
「あーうん……ふあ……ねむ……」
 ああもうこのまま眠ってしまいたいと大地は本当に思った。
「大ちゃん離してくれなかったもんねえ」
「おまえなあ……もう良いけど……」
 拳を振り上げそうになったがそんな体力すら無いのに気が付くと、身体を洗ってくれている博貴に大地は身体を預けた。
「……あれ……あ、ああっ!!」
 ふと身体を見るとあちらこちらにキスマークが付いていた。
「おま、おまえなあ!!」
「浮気防止策」
 平然と博貴はそう言った。
「何が浮気防止策だよ……これじゃあ温泉に入れないじゃないか!!」
「他の男に君の身体を見せるって言うのかい?許せないね。それが例え兄弟でもね」
 ニコリと笑いながらではあるが、博貴の目は真剣であった。
「……何考えてるんだよ……」
 小さく溜息をついて大地はそう言った。
 この男はこんなに嫉妬深かっただろうか?
「あのねえ、大地の地元ではきっとファンが居るはずだからね。そんな奴に私の目が届かないところで、ちょっかいをかけられたくないんだよ。分かる?」
「……はいはい。全くもう……」
「分かれば良いんだよ」
 なんだか嬉しそうに博貴はそう言って大地の頭を洗っていた。だが、このまま自分だけというのもしゃくだと感じた大地は博貴に抱きついて首元に吸い付いた。
「だ、大ちゃん!こら」
 引き離そうとする博貴に必死にしがみついて大地は自分の証をつけた。
「はは、これでおあいこだ」
「……あのねえ、場所を考えて欲しかったね」
 苦笑しながら博貴は言った。
「え?」
「君ね、ここ、シャツから出るだろ?」
 そう言われて大地はかあっと顔が赤くなった。もっと下につけたつもりであったが、確かに見えそうな位置であった。
「……あ、はは……」
「まあ、人に聞かれたら、嫉妬深い恋人につけられたって言うよ」
 ニッコリ笑って博貴が言うのと反対に、大地の視線は落ちた。
「……あー……ごめん」
「謝らなくてもいいよ。私は嬉しいんだからね」
「……考えてみるとお前が最初にやったんだから、俺が謝るのおかしいよな……」
 そう言うと博貴はお腹を抱えて笑い出した。
「そんなにうけるか?」
 ムッとして大地が言った。
「いや、そう、生真面目に言われると可笑しくてね。それより、一つで良いのかい?胸元とか、もっとつけてくれても良いんだよ」
 博貴は指で自分の胸元を指さして言った。
「も、いい。一個でいい……」
 胸元を見るのが大地は恥ずかしかったのだ。
「じゃ、そろそろ上がって服を着替えた方がいいね」
「うん。そうだよな……」
 二人はバスルームから出ると、大地はローブを羽織って自分の部屋へと戻り、身支度をした。よくよく見ると身体中に付いたキスマークがそこかしこにあり、どうしようもないほど恥ずかしかった。そんな身体を隠すように服を着て悪態を付いていると下からクラクションが鳴らされた。
「え、もう来た?」
 時間を確認すると既に七時は過ぎていた。大地は鞄を掴んで玄関で靴を履いていると、何時の間にか入ってきた博貴がバスローブ姿で抱きついてきた。
「あーのーなー、時間ねえんだよ」
「お出かけのキスは?」
 そう言う博貴に、大地は背伸びをして軽くキスをした。
「……ったくもー……恥ずかしい奴だなあ……」
「気をつけてね大ちゃん。変なのにちょっかいかけられちゃ駄目だよ」
「どうしてそう心配してるんだよ。俺そんな浮気性じゃねえぞ。それに俺の友達がそんな目で見てるわけねえだろ。お前心配しすぎ」
「……そうなんだけどね……」
 苦笑した顔で博貴は言った。
「じゃ、俺行くよ。お前もあんまり身体酷使するんじゃねえぞ」
 大地がそう言うと博貴はニッコリと笑った。
 ようやく博貴から解放されて大地がコーポの一階に下りると、眉間にしわを寄せた戸浪が車から降りて立っていた。
「いい加減降りてこないなら、迎えにいこうと思ったんだがね……」
「ごめん兄ちゃん……」
 頭をかいて大地は言った。
「もう良いからさっさと車に乗る。もちろん後部座席だ」
 そんなことは分かっていたが大地は「はーい」といって車に乗り込んだ。すると運転席に座っていた祐馬がこちらを向いてニヤッと笑った。
「大地君、久しぶりっ!」
 朝からテンションの高い祐馬だった。
「今日は済みません。感謝してます」
「いいのいいの、俺も楽しみにしてたから」
 と意味ありげに言った祐馬の頭を戸浪が殴った。
「あいったっ!」
「お前は運転だけに専念してたら良いんだ」
「……はあい」
 って、本当にこれ恋人同士なのか?と、大地は後ろから二人をみてそう思ったが口には出さなかった。こちらがつっこむと今度はこっちに拳が飛んでくるからだ。
「じゃ、そろそろ出発しよっか~」
 祐馬はそう言ってアクセルを踏んだ。
「なあ、兄ちゃん、俺寝てもいい?」
「ん?ああ、着いたら起こしてやるよ」
 理由も聞かずに戸浪はそう言った。分かっているが知らぬふりをしてくれているのだろう。大地は感謝しながらも、すぐに睡魔に襲われ、シートに沈むとそのまま深い眠りについた。 

「……なんか大ちゃんって、昨日やりまくったって感じだなあ。いいなあ~みたされちゃってさあ~俺なんかなあ~あでっ!」
「兄の前でそんなことを言うつもりか?」
 いくら大地と博貴の仲を認めているとはいえ、そういうことは聞きたくはなかった。
「だって、爆睡してるんだもんな」
 祐馬は後ろで眠っている大地をミラーで確認してそう言った。
「今日の準備に昨日の晩手間取ったのかもしれないしな」
 違うと分かっていても戸浪はそう言った。
「そうなんだろうなあ……きっとそうだよ」
 祐馬はどんどん機嫌が傾いてくる戸浪が分かったのか、そう言ってその話しを終わらせた。
「それにしても祐馬……お前が付いてくるのは構わないが、私は面倒みれないぞ」
「俺は戸浪ちゃんと一緒に晩はホテルでいちゃつくんだ!。ぜってー晩は遅くても良いから来てよ!そんでついてくんだからさっ」
「……行けるかどうか分からないと言っただろう?」
「んも~素直に、いいよ祐馬の為に行くよ~ってなんで言えないんだろうなあ」
「……」
「ぜってー、夜は拘束させて貰うもんね……来なかったら迎えに行ってやるからな」
「祐馬……」
 実はこういう風に言われるのは戸浪は嫌いではなかった。
 だが素直に嬉しいと言えないのが戸浪の辛いところだ。
「あのさ、夜這いかけられたくなかったら自分から来てよね」
「……努力するよ」
 必ず自分は祐馬の所に行くだろうと分かっていたが、やっぱり素直には言えずに小声で言った。だがその言葉で祐馬は分かってくれるだろう。
「あのさ、おまけはついてるけど、これって一応新婚旅行みたいなもんだよな」
 あまりにも祐馬が嬉しそうにそう言うので、戸浪はいつものように反論せずにただ頷いた。

 どの位眠ったのか大地には分からなかったが、遠くの方で戸浪の声が聞こえていた。まだ半分意識は眠ったままなのだが、夢心地のこの状態が大地には心地よかった。
 ぼんやりとした意識ではあったが、会話は聞き取れる。今起きたら二人の仲むつまじいところに水を差してしまうと思った大地は、眠ったふりをし続けた。
「……にしてもさ、大ちゃんの彼氏はまだプー太郎?」
「あいつの彼氏をプー太郎呼ばわりするな。大地はあれで怒ったら兄弟の中でも一番手に負えないんだ。それに大良さんは今だけちゃんとした会社員だ。理由は分からないが一ヶ月だけの社員だと聞いたよ」
「中途半端だなあ……そいや元々ホストだったよな?そんな奴が彼氏で大丈夫なのかなあ……そりゃいい人だって言うのは俺も分かってるけど…。色々世話になったし……。でもなんかこう大良さんって普通に接してても、どっかホストの営業はいってんだもんな……」
 祐馬がそう言った事に、大地は心の中で余計なお世話だと呟いた。
 お前だって兄ちゃんには全然似合ってねえよっ!
 くっそーむかつくっ!
 寝たふりをするのも結構大変な大地だった。
「色々事情があってホストをしていたんだ。悪い奴ではないよ」
 博貴に会えば、戸浪はいつも顔をしかめていたが、心の中ではそう言うつもりは無かったようだ。それが分かると大地は嬉しくなった。
 ということは大地自身も祐馬を認めてやらないと駄目なのだろうかとふと思った。
「ふうん。でさ、その一ヶ月サラリーマンってのはなんなの?」
「さあね、ただあの男はうちも仕事を貰ってるISAKAの社長の息子らしい」
「げ、すげえ大手!そこの社長の息子お?」
 祐馬は本当に驚いたような声でそう言った。
「らしいな。その父親の会社を手伝ってるらしいよ。だがお前がどうして驚くんだ。東都系列の人間のくせに……」
「それ爺ちゃんの話だろ。俺はただの孫だもん。関係ねえよ。で、一ヶ月の期限はなに?変じゃんそんなの」
「知らないが……テストみたいなものではないのか?一人息子らしいから、会社の水にあえば跡継ぎとして正式に社員にするつもりなんだろう」
「それはあるかもしれないなあ……東都もそんな感じで何人か候補作って爺ちゃん試してから色々会社を任せたりしてるからなあ……そか、テストかもしんないよな」
 納得したような声で祐馬は言った。
 そうなんだろうか?
 そう言うつもりの一ヶ月なのだろうか?
 大地はそのころになると完全に目が覚めていた。だが寝たふりを続けた。この状態で起きることなど出来ない。
「大変だな……大会社の社長の息子っていうのもさ」
「だろうな……毎日遅いらしい……」
「……でもさ、正式に社員になったら大ちゃんとの仲大丈夫なのかなあ?」
 不穏なことを祐馬は言った。
「……大丈夫だろう」
 自信なさそうな戸浪の声であった。
「だってさあ、跡継ぎだよ。男同士の恋愛なんて認めて貰えるの?そんなでっかい会社の息子だったら、会社にとって有利な結婚しなきゃいけないんじゃないのか?」
 そんなこと大地は考えたことは無かったが、そうなのだろうか?
「さあ、私はそこまで詳しく知らないからな。二人の問題だろうし……」
「……うーん。心配だよなあ……」
「あのな祐馬、これだけは言って置くが、あの男のほうが、より大地に惚れているように私には見える。だから大丈夫だろうと思っているんだ。だからお前が心配しなくてもいい」
 戸浪はちょっと困ったような口調でそう言った。が、困ってしまったのは大地のほうだ。
 もし、本当にテストで一ヶ月博貴がサラリーマンをしているというなら、本採用になればどうなるのだろう?いや、だが、博貴は父親を父親と認めていない。未だにあの男と言うからだ。
 だが、父親と和解したのならどうだろう?それは嬉しいことだが、親子の関係を取り戻したら今後、博貴がどうなるかは分からないのだ。例え愛人の息子だろうが、元々息子と父親は認めている。会社を継がせるのならやはり血の繋がった博貴に白羽の矢が立つのだろう。それに愛人とは言え、博貴の母親を一番愛していたと、あの父親は大地に話したことがあった。では最愛の女性の子供だ。今、息子と呼べる人間は博貴しかいない。
 やはり父親は、博貴を跡継ぎにしたいと考えているのではないのだろうか?
 そこまで考えて大地は心の中で否定した。
 大地と博貴がつき合っていることを父親は知っているのだ。博貴は大地を守るために命までかけたのだ。そんな博貴に会社を継ぎ、大地と別れろとは言わないだろう。
 だが……。
「もしお前が心配しているような事になれば私はあの男をを許さないね」
「……俺だって許さないさ」
 祐馬は何故か怒ったように言った。
「……もういい、この話は止めろ。これは大地達の問題だ。相談されるまで、私は何もいえない。それに、今、問題などまだ出てはいない。それなのにやきもきしても仕方ないだろう」
「そうなんだけど……」
「なんだ、まだ言い足りなさそうだな。人のこと考える暇があったら前を向いてちゃんと運転してるんだな」
「……へ~い」
 暫く二人は無言でいたが、戸浪の方から今度は祐馬に話しかけた。
「祐馬、お前がどうしてそんなことを心配するんだ?」
「え、だって戸浪ちゃんの弟のことだからさ。戸浪ちゃんが大切にしている人は俺も大切なんだ」
「……ふ……ん」
 嬉しいのだが、素直に言えない独特の返事であった。
「でも、相手が戸浪ちゃんに恋愛感情がある場合は別だぞ」
 祐馬は慌てて戸浪にそう言った。
「あのなあ……」
 言いながら戸浪の口元に笑みが浮かんでいた。
前頁タイトル次頁

↑ PAGE TOP