Angel Sugar

「やばいかもしんない」 第9章

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「お前ら一体何やってるんだ!」
 扉が勢い良く開く音と、何処かで聞いた声が遠くから聞こえた。
「安佐の兄貴……これは……その……」
 安佐?安佐って……俺の知ってる安佐さん?大地は必死に思い出そうとするのだが、頭がはっきりしない。
「……!ぼん!何でこんな所にぼんが!」
 近づく靴音と身体を起こされる感覚が何となく感じられた。そうして手足が楽になるのが分かった。
「毛布!毛布もってこいお前ら!一体全体何があってこんなことになってるんだあ?この子はなあ若頭の大事な友達だって事知っていてこんな事やらかしてんのか!」
「えっ……」
 絶句したような周りの気配と、冷たく凍り付くような安佐の声が響く。こんな風に怒った声を大地は聞いたことが無かった。
 柔らかい物にくるまれて、大地はちょっとホッとした。同時に助かったんだという安堵から涙がぽろりと零れた。
「ぼん、すんません。こんな目にあわしちまって……だいじょうぶですかい?」
 ピタピタと頬を叩かれるのだが、今は誰にも身体を触って欲しくは無かった。触れられると甘い刺激が身体を走るからだ。
「いや……だ……安佐さん……俺……触ら……ないで……」
 必死に手を伸ばして安佐を押しのけるようにつっぱり、大地はそう言った。理性が何処かに飛んでいってしまいそうになるのを、今必死につなぎ止めているのだ。
「……お前ら……何か妙な薬を、ぼんに使わなかっただろうな?」
 ぎろりと棒立ちになっている男達を睨み付けると、一人が「すんません」と言って謝った。安佐は大地を抱えたまま、一人ずつ蹴り倒していった。
「こうなったら若頭に何も言わずに済ますことはできねえっ!お前ら覚悟しておくんだな。いいか、こういう低俗なことはするなと以前にきつく言われただろうがっ!お前らはその約束を守れなかったんだからな。なにより、相手が悪かったと諦めろ。俺はお前らを庇うことはしねえぞ!いや、できねえっ!」
 言いながら安佐は携帯を取り出した。
「若頭……俺です安佐です……。ちょっと若い奴らが、まずいことしてしまって……」
 藤城に電話しているのだろうと大地は思った。助かったんだとやっと思えた。
 だが、今度は身体が言うことを利かなくなってきていた。大地はそんな自分をどうして良いか分からなかった。
 あわただしく、車に乗せられ、ぼんやりと藤城の家に着いたことが分かった。そうして柔らかいベットに横にされると、大地は自分の身を守るように身体を丸めて毛布に沈んだ。身体の震えを必死に押さえようと指に力を入れて残る理性で叱咤する。ふと気が付くと、こちらを覗き込む藤城が心配そうに見ていた。
「藤城……さん……あ……俺……」
 荒い息を必死に押さえて大地は言った。
「……大良くんに……連絡したほうが良さそうだね」
 藤城にそう言われ、大地は首を左右に必死に振った。
「……いや……だっ……俺……こんなの……見られたく……無い……」
 うっと詰まって大地は言った。
「だが……」
「俺……一人にして下さい……自分で何言うか分からないし……嫌なんだ……こんなの……もう、自分が今何言ってるのか……何がなんだか分からない……」
 うわずる声で大地は必死に言った。
「……分かったよ……済まなかったね……」
 そう言って藤城は寝室から出ていった。ホッとすると一気に解けた緊張感が、今度は震える身体に支配される。誰かに触れて欲しくて仕方なかった。誰でもいいからと考えてそんな自分を怒鳴りつける。
 身体が熱く、特に下半身が熱かった。毛布にくるまれている間も自分の欲望がしなっているのを気取られたくなくて大地はずっと丸くなっていたのだ。そんな自分が恥ずかしくて、情けなくて涙が出る。
 このまま身体がおかしくなり続ければ、扉を開けて藤城を探すかもしれない。大地はそんなことしたくなかった。
 約束したのだ。博貴と約束をしたのだ。この自分の身体は博貴のものだと、他の誰にも触らせないと約束したのだ。それをどんなことがあっても守りたいと大地は思っている。
 例えどんな状況であってもだ。
 大地は、毛布にくるまったまま、はいずるようにバスルームに入るとシャワーのコックをひねった。とたんに上から冷たい水が降り注ぐ。その冷たさのお陰でようやく頭がしっかりしてきた。毛布までずぶぬれになったが、後で藤城に謝ってクリーニング代を払えばいいのだ。
 熱く火照った身体が冷たい水で冷えてくる。そう言えば今日、外食しようと博貴と約束したのだが、待っているだろうか?
「ごめん……博貴……」
 涙は流れる水と一緒にこぼれ落ちた。

「安佐……分かっているだろうな?」
 藤城はソファーに座り直してそう言った。
「すんません……」
 肩を落として安佐は言った。
「で、誰に頼まれてこんな事になったんだ?」
「ある女に頼まれたらしいです。五十万積まれて思わず引き受けたといってやした」
「その女……誰だか分かるのか?」
「それはもちろん……証拠に隠しカメラでビデオに収めてあるらしいです。それより、ぼん……大丈夫ですか?」
 安佐がそう言うと藤城は小さく溜息をついて言った。
「大丈夫なわけが無いだろう……もし、何かあった後なら、いくら私が気質の人間であっても五体満足では済まさなかったぞ」
「……俺にも責任が……本当に済みませんでした……これで俺……ボンが酷い目に合っていたら、マジで生きておれませんでしたよ……」
 真剣に安佐はそう言った。
「……この始末はお前に任せる。お前の部下なんだからな。けじめを付けさせろ」
「……はい……分かりました」
 安佐はそう言って立ち上がると、うなだれたまま藤城の家を後にした。
「ちょっと様子を見に行った方が良いな……」
 藤城は呟くように言って、大地のいる寝室へ向かった。
 ベットで大人しく寝ていると思ったのだが、大地は居なかった。だがバスルームからシャワーの音がするので、風呂に入っているのだろうと思い、暫く待った。が、なかなか出てこな大地に藤城は心配になり、そっとバスルームに入っていった。
「大君!」
 大地は虚ろな目でタイルにもたれかかるように座り込んでいた。上からは冷たい水が降り注いで、顔色が真っ青になっている。
 駆け寄ろうとすると、大地が小さな声で言った。
「……来ないで……。俺……今触られたら……きっと何言うか分からない……。もう……身体が言うこと利かない……」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう?」
 シャワーを止めて大地を捕まえようとすると、大地は後ろに下がった。
「ほんとに……俺……駄目だから……。駄目だ……も……何で……こんな……誰でもいいなんて……おも……っ……う……うう……」
 藤城は項垂れ、タイルに拳を作って震える大地の姿を痛ましい思いで眺めていたのだが、だからといってこのままここに置いて置くわけにもいかなかった。
 藤城は仕方なく大きめのバスタオルで、逃げる大地を隅に追いつめ、バスタオルでくるんだ。冷えたその身体はバスタオルの布地からも伝わってくる。大地は力無く藤城の肩を叩くが全く堪えなかった。
「風邪をひいたら大変だろう?」
 濡れた髪を拭きながら藤城が言った。
「……俺……俺……」
 大地は藤城の首に腕を巻き付けてしがみついてきた。何処までも冷たい身体が、藤城の心に大地を温めてやりたいという欲望が生まれる。だが、もし、手を出してしまったら、大地は自分自身を含め藤城をも許さないだろう。それだけは避けたかった。
 身体を拭いて大地をベットに下ろすと、新しい毛布をかけてやる。涙で濡れた目が腫れ、青い顔色の一部分だけが赤い。
 藤城はそんな大地を見ながら携帯を取り出した。
「もしもし……藤城ですが……ああ、大良君だね……」
 そう言う藤城の声が聞こえたのか、ベットの端に腰を掛けている藤城のシャツをを掴んで言った。
「嫌だ……嫌だよ……大良に……言わないで……くれ……よ……俺……っ……」
「そんな君を一晩手出しせずに、ここに置いておけるほど私は聖人君主でもないし、残酷でも無い……ああ、今うちに大君がきているんだ。悪いが迎えに来てやってくれないか?事情は来たときにでも……」
 大地から目を逸らせて藤城は言った。電話向こうの博貴はこちらが大地に話したことが聞こえたのか、どういうことだと怒鳴っている。
「怒鳴っていたって仕方ないだろう。さっさと迎えに来てくれないと困るんだよ」
 そう言うと大地がギュウッと藤城を掴んでいる手に力を入れた。
「な……んで……っ……いや……だっ……俺……こんなの……みられたく無い……っ。藤城さん……お願いだから……」 
 こちらの理性が吹っ飛びそうな目で大地が見つめてくる。本当にこのまま抱きしめられたらこちらも楽なのにと本気で考え、そんな自分を押さえつけた。
「君は私に犯されたいのか?」
 強い口調でそう言うと、大地はパッと手を離してフルフルと頭を左右に振った。小さく溜息をついて電話に戻ろうとすると、既に博貴の方から切られていた。
「……すぐに迎えが来てくれるから……もう少し待っているんだよ。もう、シャワーは浴びないこと。良いね……」
 言い聞かせるようにそう言うと藤城は、ベットから離れると寝室から出た。

 三十分ほどで博貴は藤城の家に着いた。頭に血が昇っていた所為でかなりのスピードで車を走らせたのだが、幸い警官に止められることは無かった。呼び出し鈴も鳴らさず玄関の扉を開けると鍵は開いていた。そのまま上がろうとして藤城に呼び止められた。
「靴くらい脱いで欲しいんだが……」
 随分前に見たときと同じように、落ち着いた雰囲気で立っている。こっちが慌てている分、対照的だった。
「だっ……大ちゃんがどうしてここにいるんだっ?」
「……話しづらいことなんだが……」
 見たことのない困った顔で藤城は言った。
「なんだ?」
 博貴はまるで裁判官に判決を下されるような気分になった。
「実は、私のところの若い衆が……とんでもないことをしてね。金を積まれて頼まれたそうなんだが、大君を監禁して乱暴しようとしたらしい。その前に助け出したから……」
 と言ったところで博貴は藤城を思いっきり殴った。
「大地は何処だ……」
「……知らなかったとは言え……済まないと思ってる」
 藤城は口元を押さえて立ち上がった。
「貴様の謝罪など聞く気は無い!大地は何処だと聞いてるんだっ!」
 噛みしめた口元が切れて血が出そうな程であった。電話向こうで聞こえた微かな大地の言葉が耳に木霊する。
 見られたくないとはどういうことなんだ?
 一体何があったんだ?大地は無事なのか?
 とにかく大地の姿を見ないと安心できないのだ。 
「案内しよう……」
 藤城はそう言って博貴を二階へと案内した。
「無事は無事なんだが……ちょっと問題があるんだよ」
 寝室の扉に手を掛けて藤城は言った。
「……言葉を濁すなっ」
「大君がかなり暴れた所為で、大人しくさせるために薬を使ったそうだ。半日は身体から抜けない……」
 それを聞いて博貴は寝室の扉を開けて駆け込んだ。
「大地……っ!」
「大君!」
 ベットの端に大地は座り込んだような格好で毛布にくるまり、手にハサミを持っている。その刃先は震えながら喉元にあった。
「……う……やだ……」
 顔色は青いのに、目だけが腫れて涙がこぼれ落ちる。そんな大地を確認して、藤城を振り返り手で来るなと合図すると、博貴はベットに近寄った。
「大地……ハサミ下ろして……ね……」
 宥めるようにそう言うのだが、虚ろな目がはっきりこっちを見ているのかどうか分からない。
「俺……も……こんなの……こんな俺……嫌だ……」
 呻くように大地はそう言った。
「大地っ……!こっち、こっちを見るんだ!」
 そろっとベットに近づいて大地に向かって博貴が言った。薬というのは麻薬のことなのだろうか?博貴にはその辺りが分からなかった。
「……はあっ……俺……」
 潤んだ目と息の荒い大地を見て、ようやく博貴はどういう薬が使われたのか分かった。握りしめた自分の拳が震えて、この場で藤城を殴り殺してやりたいという気分に駆られた。
 だがいまは大地の方をなんとかするのが先決であった。
「大地……ほら、こっちにおいで……」
 ベットに片膝をかけて手を伸ばすと、大地はビクッと身体を振るわせて、更にハサミを持つ手に力を込めた。
「俺……こんなの……こんな俺……お前に見られたく……無かったのに……うっ……」
 精一杯意識を保たせて出している、そんな言い方だった。
「ねえ、大地……覚えてる?私がほら、父のことで無茶苦茶酔っぱらったときのこと……あの時、君私を受け止めてくれただろう?大地言ったよね。逃げられたけど、私を放って置けなかったって。苦しんでた私を君は受け止めてくれただろう?じゃあ、今度は私が受け止めてあげるから……ね、お互い様だろ?私だってあんな自分を大地に見られたんだよ。思い出すとちょっと恥ずかしいけど……、他の誰に見られるより大地だからいい。大地もそう思ってくれないのかい?」
「……ひろ……き……俺……」
 持っていたハサミが少しずつ喉から外れる。
「愛してあげるから……大地……おいで……」
 そう言って手を広げると、大地は喉をごくりとならした。
「……あ……」
 大地の目には確かに飢えた様な光が見えた。
「いつもしてることだろ?いつものように君を感じさせて……気持ちよくしてあげるだけだよ。君が欲しいだけ愛してあげるから……いや、私が、愛してあげたいから……こっちに来てくれないかい?私もうずうずしてるんだから……」
 そう言って笑みを見せると、大地はハサミを落として、這いながら博貴に近づき、その腕の中に飛び込んだ。そんな大地の身体を抱きしめてやると氷のように冷たかった。
「……ろ……きっ……」
 大地はこちらの首に腕を、身体には足を巻き付けて震えていた。それは寒さだけの所為じゃないのは博貴にも分かっていた。
「ああ、大ちゃん……身体すごく冷たいよ……寒かったんじゃないのかい?」
 絡めた足をほどかせて、大地の身体に、ずり落ちた毛布を引き寄せ、それでくるんだ。だがこちらが大地の身体を隠そうとしていいるのに、本人はお構いなしに博貴にキスをねだった。
 軽くキス繰り返し、博貴は言った。
「うちに帰ったら、嫌って言うほど愛してあげるから、もう少し我慢するんだよ」
 そう言うと大地は期待に輝いた目を向け、ギュッと頬を胸に押しつけると今度は耐えるように目を閉じた。そんな大地を抱え、開け放たれた寝室の扉に立つ藤城を通り過ぎると、藤城は後ろから付いて歩きながら言った。
「大君ね、薬の所為でかなり辛いはずなのに、必死に自分の身体に触れてくる人間を拒否していたよ。ただの移動で抱え上げることでさえ嫌がった。理性が無くなるのが怖かったのか、うちに来て真っ先にしたことは冷たいシャワーの下に自分の身体を置くことだったよ。それは大良君の為だと私には分かった。本当にいじらしくて可愛いね……大地君は……」
 だからこれほど大地の身体が冷え切っているのだ。大地の気持ちを思うと博貴は胸が痛くなった。
「何も……大地に、何もしなかっただろうな……」
「私に理性が無ければ、君に知らせることもせずに自分だけのものにしていただろうな。君がすんなり掴まらなかったら、あんな大君を放って置けずに、私が面倒見てあげる理由が出来たんだが……。一晩一人にしておくとおかしくなってしまっただろうからね。全く残念だよ」
 藤城が本音を漏らしてそう言った。
「……明日……何があったか全部話して貰う。わかったな」
 玄関でようやく振り返って博貴はそう言った。大地がこんな状態でなければ、何度殴りつけるか分からないほど、今博貴は気が立っていたのだ。
「ああ、もちろん……」
 博貴が大地を後部座席に寝かせ、自分は運転席に座ると藤城が又口を開いた。
「済まなかったと伝えてくれるかい?」
 その台詞を聞いていない振りをして博貴は車を出した。
 コーポの方より今度住むはずのマンションの方が距離的に近かったので、博貴はそちらの方に車を走らせた。大地は後ろで何度も身体を動かして、言葉にならない声で唸っている。薬の効果で身体がどうしようも無いのだろう。
「大地……もうすぐだから、少しだけ我慢するんだよ」
「……博貴……俺……も……はあ……はあ……っ……身体……も……」
 何度か宥める言葉を博貴が言い、ようやくマンションの地下駐車場へ車を乗り入れることが出来た。車を停めて後部座席にいる大地を抱えると足早にエレベータに向かい乗り込んだ。そしてオーナー専用のキーカードを取り出し、壁に付いているボタンの一番上にある差し込み口にキーをかけ、最上階までエレベータが進むようにして、博貴はちょっと安堵した。
「大地……」
 無意識に零れている涙をそっと拭ってやると、大地はぎゅっと閉じていた瞳を開けた。大地の濡れた瞳が何とも言えない色気を醸しだし、こちらの下半身に直に響く。そんな博貴に気付いたのか、大地は両手で博貴の頬を挟み込み、博貴の口内に自ら舌を滑り込ませた。
 大地のその積極的な行動が薬の所為だと、腹を立てながらも大地の欲求に応じてこちらも舌を絡ませてやった。
「ん……うん……っ……あっ……」
 抱えている手を毛布に潜り込ませて大地の下部に忍ばせると、立ち上がって途方に暮れたものに触れた。そっと掴んで揉んでやると大地は、小さく声を上げた。
 こんな所に誰か入ってくるととても困るぞ……と思いながら、大地の満足そうな笑みを受けて更に辺りを揉みほぐしてやる。
「ひろ……きっ……あ、ああ……もっと……」
 不安定な格好で大地はそう甘く囁いて、博貴の頬や首元にキスを落とす。なんだかこっちも煽られて駆り立てられるような欲望が身体を走った。
 途中で止まらずエレベータは最上階に着き、作られた庭を渡って、入り口の扉を開けた。
 こんな形で連れてくることになるとは……だがある程度の家具を入れて置いて良かったと心から博貴は思った。 
 大地を抱えながら玄関で足を振って靴を脱いでいると、もう我慢できなくなってきたのか、大地は博貴のシャツを脱がしにかかった。そんな大地が可愛くて博貴がじっとその様子を見ていると、大地の顔がふと上がってじっとこちらを見、辛い顔になった。
 時折理性が戻り、自分の行為に罪悪感を感じている。そんなところだろう。
「どうしたの?いいんだよ……もう二人っきりだし、誰に気兼ねする事もないだろ?」
 抱えていた大地を下ろして、足を床につけて立たすと、博貴は大地をくるんでいた毛布を掴んで床に落とした。そうしてようやく大地の姿をちゃんと見、博貴は顔には出さなかったが、また怒りを覚えた。
 首元から真っ直ぐに切られたシャツがペタリと大地の身体にへばりついている。
 藤城が言っていたが、シャワーを浴びたまま着替えをさせることが出来なかったのか?いや、誰にも身体を触らせなかったのだ。冷たかろうが、気持ち悪かろうが、だ。こんな濡れた姿でいたのでは身体は温まることなど出来なかっただろう。
 だが藤城が無理矢理着替えさせてもきっと腹が立っていただろうと博貴は思った。
「大ちゃん脱がないと風邪引いちゃうね、ほら、脱いで……」
 と言ってシャツに手を掛けると大地がどんっとこちらを突き飛ばした。床に尻餅をついた形で博貴が驚いていると、その上に乗って大地がこちらの首元を愛撫し始めた。
「大地……うん。君の好きにしていいよ……」
 半乾きの大地の髪を撫でながら博貴は言って、上に乗っている大地の腰に手を回して既に緩んでいるベルトを外し、ズボンと下着を脱がせた。乾ききっていない所為か、引っかかってなかなか脱がせることが出来ない。
「博貴……俺……」
 ちょと顔を横に向けて、どの位泣いたか分からない瞳が又潤んでくる。
「大ちゃんキスしてくれないの?」 
 その大地の顎を掴んでこちらを向けると顎に青あざが出来ていた。殴られたのだろうか?
「……俺……自分でも訳が分からなくて……も……お前が欲しくて……」
 辛そうな表情をするので、こちらから舌を忍ばせてやると、今度は大地からこちらの舌に吸い付き、博貴の頭を抱えてると何度もこちらを翻弄した。
 くちゅくちゅと口元をならしながら博貴は大地を膝に乗せたまま、上半身を起こして背を壁にもたれさせて身体を支えた。
 大地の方は口元を離さずに、博貴にからみつけていた腕を解くと自分から手を伸ばして博貴のズボンに手を掛けた。そんな大地を促すように博貴も自分のズボンに手を掛けて床に脱いだ。大地は次に博貴のものを薄い布地の上から確認するように手でまさぐると既に固くなっていたものが更に固くなった。
「……ああ……俺……これ……欲しい……」
 上気した顔で大地はそう言って、博貴にねだるような目を向けた。こっちまでおかしくなりそうな、大地の表情は極上であった。
「大地……焦らさないでくれないか?もうこっちも限界だよ……大地の中に入りたくて堪らないんだ……でもまだ……君の準備が出来てないだろう?」
 そう言って博貴は途中まで下ろした大地のズボンと下着を全部脱がせ、大地の上半身をこちらにもたれさせた。そうして博貴は大地の双丘の奥にある蕾に手を伸ばした。
「あっ……」
「あれえ、大地……いつもより柔らかいよ……どうしちゃったのかな?ほら指すぐに入るよ……うん。ビクビクしてるね。これじゃあ辛いね……大地……」
 耳元で大地の快感を煽るように甘く囁いてやる。
「あっ……博貴っ……もっと……奥……」
 腰を自分で動かして大地はそう言った。こんな嬌態を見たことが無い博貴はそれだけでどうにかなってしまいそうな気分になる。
「大地……ねえ、この身体を守ろうとしたんだよね……私のために……こんなに身体は君を裏切っていたのに……誰にも触らせないように頑張ったんだ……」
 指の動きを休めずに博貴は大地のしなった胸元の尖りに歯を立て、舌で押しつぶした。
「俺……だって……約束したもん……博貴と……この身体はお前のだって……」
 荒く息を吐き出しながら大地はそう言った。
「そうだよ……私のだよ……誰のものでもない……私だけのものだ……」
 グイッと指を奥まで突き入れて博貴は言った。
「あうっ……あ……博貴……入れて……指は嫌だ……もっと強い刺激が欲しいんだ……」
 身体をよじらせて大地はそう言って、口元を引き結んだ。
「ちょっと最初痛いかもしれないけど……私ももう限界だよ……ごめんね……」
 そう言って博貴は指を抜くと大地の腰をそのまま下ろさせた。いつもより狭い入り口が博貴のものを締め付け、背筋から昇る快感が心地よかった。
「はあっ……あ……あっ……あっ……快いっ……博貴……気持ち…良いっ……」
 うっとりとした顔で大地はそう言って自分から腰を動かした。そんな大地のものを博貴は同じ動きで上下に擦ってやると、大地が何とも言えない幸せそうな表情を浮かべる。そんな大地を見ていると、愛おしくて仕方ない。
「大地……ああ……すごくイイ……私も気が狂いそうだよ……」
「博貴……ッ……あっ……お前の…が……奥に当たってる……俺、ここ……一番気持ち良い……っ!」
 ぐっと腰を下ろして大地は言った。普段の大地なら考えられない行為なのだが、薬の所為で理性が鈍っているだけで、きっとこれも大地なのだと博貴は思った。
「そう?気持ち……っ良いの?じゃあ、もっと気持ち良く……っなろうか……?」
 入れたまま大地の身体を、先程床に落とした毛布に上に寝かせて体勢を入れ替え、博貴はグイッと腰を付き入れた。するとギュッと内部が締まって食いちぎられそうな痛みと、這うような刺激が背骨を走る。
「あっあああっ……そこっ……博貴……すごいっ……イイっ……はあっ……あっ……んんああっ……」
 何度も床に腰を押しつけるように大地の奥に向かって力一杯侵入させると、大地は仰け反って叫ぶように声を上げた。
「大地っ……ああ……すごい……」
 博貴の額から汗がこぼれ落ちて大地の湿った身体に落ちる。その身体は快感で上がった体温でようやく普段の色へと変化していた。
「あっ……ああっ……博貴っ……あっ……手……手……握って!手を……」
 延ばしてきた手にこちらの指を巻き付け床に押しつけると、博貴は一気に大地を高みまで誘った。
「あっ……っ……」
 大地が短く叫んでイクと博貴は自分の欲望を最奥に吐き出した。まだ痙攣を止めないその中でじっと快感を味わいながら、大地の弛緩した身体に愛撫を施した。
「大地……」
 ようやくこちらの快感も一段落付いたところで、身体を離すと、先程まで満足した顔をしていた大地が急に怯えたようにこちらにしがみついてきた。
「何処に……行くんだよ……俺……置いて行くな……っ……」
「何処にも行かないよ……でもほら、そろそろベットにいかないかい?ここ背中痛いだろ?」
 大地を毛布ごと抱き上げて、博貴は寝室に向かった。扉を開け、キングサイズのベットに近づき大地をそっと降ろした。
「俺……まだ……」
 膝を付いている博貴の下半身ににじり寄って大地はそこにあるやや立ち上がったモノを口に含んだ。温い湿った感触が下半身から伝わり博貴の快感を煽った。必死に口元を動かし、慣れない舌使いで上下に舐め上げる。そのぎこちない仕草に博貴は益々大地が愛おしく感じられた。
 他にして貰ったことが無いとは言わない。巧さから言うと大地はそれほど上手い訳じゃない。だが大地がしてくれているということが、博貴には嬉しい。それが薬の効果だとしてもだ。
「大地……もういいよ……」
 顎を上げさせると見上げる大地が又泣いている。そんな大地の涙を舐め取りながら博貴は言った。
「どうしたんだい?なんだか大地泣いてばっかりだね……」
 大地の大きな瞳が涙でくすむ。
「……俺の……する事……嫌?な……嫌わないでくれよ……俺……」 
 どうして良いか分からないと言った表情が、必死に訴えるように博貴に迫った。
「違うよ。私は君を愛してるんだ……もう、私もどうしようもないくらいね。でもほら、大地の中を悦ばせてやらないと、一緒に気持ちよくなれないだろ?私だけ気持ちよくなったら大地嫌だろ?」
 言うと大地は小さく頷いた。
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